Girls und Panzer -裏切り戦線-   作:ROGOSS

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あと一週間でテスト期間も終わります……。
終わりましたら、更新頻度も上がると思います……。



夜襲

 漆黒の闇が硫黄島を覆いつくす。

 僅かな焚火と小さなライトのみが光源となっている硫黄島には、静かな夜がやってきていた。

 この場に因縁を持った者達が集まっているなど、到底信じられない。

 

「こんなことしても無意味だとしか思えないんですけど」

 

「しーっ。どこでアリサが聞いているかわからないわ。とにかく、言われた通り警備するのよ」

 

「はぁ……」

 

 幼い顔つきの少女は、健康そうな小麦色の上級生に返事をすると生あくびを噛み殺す。

 この島に来てからというもの、食事の時間以外ずっと立たされ続けていた。

 他の学校からも警備という名目で数人の歩哨が出ているようだが、正直退屈で仕方なかった。

 どうしてこの島にやってきたのか? ケイ隊長はどこへ行ってしまったのか? 

 わからないことばかりであるが誰かに聞くことは許されない。そのような空気がサンダースの中で蔓延していた。

 唯一、同じシャーマンの車長である上級生には愚痴を少し零すことは出来たが、上級生はアリサに完全に怯えきっているため、最近では一緒にいようとすらしなくなっていた。

 

「先輩は二年生ですよね?」

 

「そうだけど」

 

「だったら、アリサ隊長に言っておいてくださいよ。せめて、交代の人員は用意してほしいって」

 

「……そんなこと言えるわけないじゃない」

 

「どうしてですか?」

 

「あなたはアリサの事を知らなすぎるのよ」

 

「そんなこと言われても、私まだ……」

 

「いいから。お願いだから、しっかりやってちょうだい」

 

「……はい」

 

 何かに怯えるように上級生は早口で言うと、暗い海へと目を向けた。

 こんな暗い海に落ちたら助からないだろうな。

 そんなことを考えていると、ふと視界の隅の浜辺に人影が見えたような気がした。

 

「先輩、あそこに誰かいませんか?」

 

「え……?」

 

「どうですか?」

 

「……いないじゃない。見間違いじゃないの?」

 

「あれ……おかしいな……」

 

 再び視線を浜辺へと戻す。

 上級生の言っていた通り、人影は見えなくなっていた。

 

「本当に見間違いかな……」

 

 そう言いながら振り向いた後輩に衝撃が走った。

 つい数秒前まで言葉を交わしていた上級生の姿が跡形もなく消えていたのだ。

 何の前触れもなく人が消える。

 

「ひぃ……!」

 

 誰もいないはずの浜辺から足音が聞こえてくる。

 

「う、ウソ……!」

 

 足音は徐々に後輩へと近づいて行っているような感じすらあった。

 

「な、なにっ!?」

 

 苦しい。

 最初に感じたのはそれだった。

 口と鼻が塞がれ、甘い香りのする布を押し付けられたような気がする。

 後輩の意識はそこで途絶えた。

 

○●○●○

 

 話し上手なのは良いことだ。

 こんなところで発揮されようとは夢にも思わなかったが。

 目の前で真剣な面持ちでこちらを見ているプラウダ高校の面々を見て、オレンジペコは内心ほくそ笑んだ。

 

「それで、いったい面白い話ってなんだ? 気になるぞ」

 

「皆さんは怪談は好きですか?」

 

「好きだべよ」

 

「では、こんな長い夜ですし……一つ私がお話しさせていただきますね」

 

 オレンジペコが静かに告げるとプラウダ高校の面々は息を呑んだ。

 怯えた顔、好奇心で高揚している顔、様々な顔がオレンジペコを見つめる。

 

「この硫黄島は皆さんも知っている通り、激戦が繰り広げられた地です」

 

「確か日米合わせて5万人もの死者が出たんだよな。そいつは歴史の授業でやったぜ」

 

「んだべな。まさか、そこから当時のソ連の歴史を無理やり繋げるとは思わなかったべな」

 

「ははは、確かにあれは驚いたわ」

 

「黙りなさいよ。それで……えーと……」

 

「アンナですよ」

 

「そうそう、アンナよ。続きを頼むよ」

 

 食いついた……。

 オレンジペコは咳払いをすると続きを話し始めた。

 

「多くの兵士が水を求め彷徨っていたそうです。何せ、この島は真水がありませんから……そして……今でも彷徨っているそうですよ」

 

「……そ、それはどういう?」

 

「本当はわかっているのでしょう? 死んだ今も彷徨っているんですよ。水を求めて……生者のフリをして、静かに近づき……そしてその命で渇きを癒すために……」

 

「きゃぁぁぁぁ!」

 

 一人が甲高い悲鳴を上げひっくり返る。

 生暖かい風がまるでタイミングを待っていたかのように吹き始める。

 木の葉が揺れ、小石がパラパラと崖上から落ちてきた。

 

「本当の話らしいですよ? 昔、ここにあった海上自衛隊の隊員の多くが目撃したそうですし。それで……ノイローゼになってしまい、生涯(うな)され続ける方もいたとか何とか……」

 

「も、もういいべ! やめるべ! ちょ、ちょっと怖くなってきたべ」

 

「そ、そうだな。つ、作り話にしてはリアルすぎるぞアンナ」

 

「さて……本当に作り話ですめばいいですね」

 

 なるべく不敵な笑みを浮かべるようにオレンジペコは務める。

 その笑みを見たプラウダ高校の面々は凍り付いた。

 その時だった。

 突然エンジン音が静かな浜辺に響き渡り、砲撃音と共に近づいてきていた。

 

『敵襲っ! 全員乗車しろ!』

 

「聞いたか! すぐにKV-1のところに行くぞ! アンナ、お前もとりあえずこっちへ来い。あとで部隊に……」

 

 振り向きながら早口で言った銀髪の少女はアンナの姿が消えていることに気が付くと、体を強張らせた。

 目を離してから十秒と経っていないはずなんだぞ?

 

「私達はいったい、誰と話していたんだ」


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