Girls und Panzer -裏切り戦線- 作:ROGOSS
一日目はお手伝いで行きました。
さすがの熱気です。
「カチューシャ、これをご覧ください」
「何よこれ。こんな物あるなんて聞いてないわよ」
「おそらく、私達が来る直前に掘ったのね」
アリサは大きく舌打ちをする。
先ほどまで蜂起軍が砲撃を行っていた地点には、確かに何の姿もない。
その代わり、窪みに隠れるような形で巨大なトンネルが掘られていた。
ご丁寧なことに、少し入ると崩落させてあり連合軍の追跡は不可能となっていた。
「旧日本陸軍の負の遺産を使った戦法ですか。こざかしい真似を」
「それで、どうするのかしら? こちらは主力の重戦車をやられてしまったわよ。もちろん、あなたのところも私のところも戦える車両はありますけれども、圧倒的な戦力差というアドバンテージは無くなったわね」
「いちいち言わなくてもわかってるわよ! なんでもかんでも口にしないでちょうだい、ダージリン!」
「はいはい。わかったわよ」
「一回戻るわよ」
「はぁ!? ここまで来たのにどうしてそんなことを言ってるのよ!」
抗議の声を上げたのはやはりアリサだった。
ノンナを筆頭とするカチューシャ親衛隊がアリサを睨み付ける。
一瞬怯んだアリサだったが、抗議の声を止めることはなかった。
ダージリンなどは溜息をつくと、さっさと自車両へ戻って行ってしまった。
「橋頭保まで戻れば替えの戦車はあるわ」
「このまま行けばいいじゃない! シャーマンが12両、ISが2両、T-34-85・76が4両! 聖グロなんて、一両チャーチルがやられただけじゃない! 冗談じゃないわ! こんな戦いさっさと終わらせたいに決まってるじゃない!」
「だったら、あなた達だけで行きなさい」
「くっ……通信手! 援軍を要請しなさい! 腰抜け総大将なんかについて行くつもりはないわ!」
「りょ、了解しました!」
「カチューシャの言うことを聞いたほうがいい」
「うるさいわね! あんたみたいにカチューシャカチューシャって、何も考えずに言っているような人にはわからないのよ! 私は……! この戦いで、ケイに頼る自分とは決別するの! 何としても勝たなくちゃいけないの!」
ノンナが更に言おうとするも、カチューシャはそれを止めた。
アリサは最後に鼻で笑うとシャーマンの中隊を引き連れて去っていく。
「良かったのですか、カチューシャ様」
「良いわよ。どうせ、西側なんてあんなものよ。使えないったらありゃしないわ」
「では、我々は」
「ダージリン! 一度戻るわよ。異論はないわね」
『わかりましたわ。全車反転』
聖グロの車両が反転していくのを確認すると、カチューシャは安堵のため息をつく。
正直な話、ここでダージリンにまで反抗的態度を取られてしまっては、今後の作戦に大きな支障が出ることを理解していた。
そんな危険を犯してまで橋頭保へと戻ることを決めた理由が一つだけあった。
「それにしても……重戦車を一両で屠る車両が蜂起軍には何両いるのかしら」
「あの砲撃数から推測するに、ここに持っている最大戦力を配備したのでしょうか」
「そんな愚策をミホーシャがやるわけないわ。彼女達……どこかで戦力を増強したのかしら?」
○●○●○
暗い鍾乳洞の中を数量の車両が疾走していた。
足が自慢のクルセイダーは、今は大人しく前を走る鈍足の後に続いている。
「それにしても、よくも直せたものですわね」
『継続高校の皆さんが頑張ったようです』
「なるほどですわ。さすがは継続高校と言うべきなのでしょうね」
ローズヒップは感嘆の声をあげながらキューポラから顔を出した。
頭に血を上らせた連合軍がクルセイダーの後を追いかけ、デッドゾーンへと入るのは予測できていた。
しかしながら、おびき出すことに成功したとしてもそれを叩く力がなければ作戦はまったく意味を成さないものとなってしまう。
その戦力として選ばれたのが、2両のティーガー戦車と3両のT-29だった。
T-29に乗っているサンダース生はもちろん、普段はこのような重戦車になど乗っていない。
それでも同じアメリカ製ならば勝手がわかるはず、という理由で搭乗していた。
T-29の入手など容易なことだ。
上陸してきた鎮圧部隊を拘束。
その際、持っている全戦力を鹵獲。
砲弾から車両、食料と何もかも奪い去ってしまったのだった。
「蜂起軍はあと10年戦えますわね」
『10年も戦っていたくないですけどね』
オレンジペコの突っ込みに苦笑いを浮かべながら、ローズヒップは車内へと戻っていた。
戦いはまだまだ始まったばかり。
半日も経っていない今、どこまで連合軍の戦力を削げるかが今後の戦いへの勝ち筋となっている。