Girls und Panzer -裏切り戦線-   作:ROGOSS

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西隊長は仲間思いの良い隊長なのでしょうね。
西ダジのカップリングをよく見ますが、なぜ西とダージリンなのでしょうか……。


巨神

「こちらニコライ! カチューシャ、応答なさい!」

『どうかされたのですか、逸見隊長?』

「元山方面に行った部隊からの連絡がないわ」

『……そういえば、この距離の通信だというのにいつもよりノイズが多いですね』

「まさか……!」

 

 エリカは空を見上げる。

 何が見えるというわけではない。

 ただ、人間の目には見えないソレがこの青空に飛び交っているのというのならば、なんと用意周到なことなのだろうか。

 ここは地獄の窯の底。

 理解はしていたが、どこまで蜂起軍が準備していたのかまでを(はか)ることは出来ない。

 常に最悪の事態を想定して動かなければ、あっという間に全滅してしまうだろう。

 まずは、同じ部隊にいる暴れ馬をどうにかしなくては……。

 思わず出たため息に、砲手が心配そうな顔をこちらに向ける。

 今は笑顔で返す気力もない。

 隊長が去った黒森峰に、王者としての風格はない。

 絶対的な存在がいることといないことではこれ程差があるものなのかと実感した。

 妬みの感情などない。

 ただ、隊長に向ける羨望はさらに強くなった。同時に、どうして私たちを置いて行ってしまったのかという恨みが湧き起こる。

 強化選手にも選ばれている「西住まほ」という人物は、否応にでも全てにおいてお手本とならねばならない。

 例え自分の気持ちに反する行動を取らなければいけないとしても、例え肉親に頼まれた願いだとしても、多くの戦車道を志す乙女たちの頂点に君臨する王でなければならない。

 

「それなのに……隊長、どうしてっ! これが間違っていることは、隊長がよくご存じのはずでは……!」

『逸見隊長』

 

 気の抜けた声が耳に入る。

 この緊迫した状況でいったい何がおかしいのか。

 その顔に浮かべている笑みを見るたびにイライラする。

 知波単学園。

 全国大会に毎度出場しておきながら、一回戦敗北が約束されているようなチーム。

 突撃しか脳がない馬鹿の集まり。

 こんな時くらい、もっと場を読んでシリアスな顔つきをすることくらい出来ないのだろうか?

 

「何よ、今は集中したいからあまり話しかけられたくないのだけど」

『ははは、それは失礼しました』

 

 その笑い声が癪に障る。

 あなた達はいいさ。

 チームメイトから蜂起軍へと去っていった者がいないのだから。

 この戦いも何かしらの妥協案を出されて嫌々出ているのだろう。

 それとも、馬鹿みたいなお人好しなだけか。

 どちらにせよ、いい加減な気持ちで参戦しているくらいならとっとと帰って欲しい。

 

『ですが、逸見隊長。焦りは禁物です』

「え……?」

『冷静な判断は確かな洞察力と確固たる根拠からのみ下せます。心の中に邪心を持ったままではそれは出来ません。今、あなたが一番したいことは何ですか?』

「……それは」

『今、あなたが一番救いたい人は誰ですか?』

「……隊長を」

『でしたら、それだけを考えるのです。どうして去ってしまった、どうして置いていったのかなどと考えているくらいでしたら、救いたい人を救って直接聞くべきです』

「あなた……」

 

 エリカは後ろを振り返る。

 チハに乗っている西は視線に気づくと笑みを浮かべた。

 

「もう、最悪。そんな笑顔が地獄(ここ)に必要なわけないじゃない」

 

 そう呟きながらもどこか安心したような温かい気持ちになる。

 そうだ、西絹代もまた一戦車道チームの隊長なのだ。

 チームメイトだろうがそうでなかろうが、人の感情を見抜き落ち着かせることなど朝飯前なのであろう。

 

「ムカつくわ」

 

 今の一言は尊敬からの言葉。

 素直になれない自分なりの感謝の言葉。

 私もあなたみたいな隊長になりたいという願いの気持ち。

 エリカは両頬を叩くと気持ちを静めた。

 ニコライ隊は間もなく、擂鉢山の(ふもと)へと出ようとしていた。

 極端に遮蔽物の減る平原がしばらく続くその場所が、自然に出来たものなのか人工的に作られたものなのかはわからない。

 ここを進むしかない、という現実がある限りエリカはもう迷わない。

 

「全車、一層警戒を強化。何か来るわ!」

 

 返事を待っていたその時だった。

 巨大な砲撃音が響き渡る。

 自走砲の砲撃音とも違うがただの戦車の砲撃音とも違う。

 もっと大きな音で、もっと重厚な何か。

 

『対ショック姿勢! 擂鉢山からの砲撃!』

「くっ……!」

『弾着!! 今!』

 

 155mm榴弾砲がエリカの近くに弾着した。

 近くにいた70t近い重量のあるティーガーⅡがひっくり返る。

 その威力に思わず冷や汗をかくも、息をつく間もなく蜂起軍は次の行動を起こしていた。

 

『敵戦車がこちらへ向かってきています! 数は7! どれも重戦車です!』

「チハ隊は後方で援護射撃! まずは、向かってきた重戦車を撃破するわ! 突撃っ!」

 

 エリカは額の汗を拭いながら考える。

 そもそも155mm榴弾を打てる車両など存在するものか。

 その答えはすぐにわかった。

 山頂にどっしりとした構えで鎮座するそれは、戦車ではない。

 そもそも自走できない砲塔を戦車道で使っていいものか。

 

「これは試合じゃない……」

 

 エリカはGPFT 155mm野砲 K 419に絶句しながら山頂へと進軍を開始した。


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