Girls und Panzer -裏切り戦線-   作:ROGOSS

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ガルパン最終章の制作が決定しましたね。
だいぶ前のイベントで水島監督がおっしゃていたことは事実だったようですね。
いやはや、最終章と聞き嬉しいような悲しいような。
今度はどこが主人公の学校になるのでしょうか。
楽しみですね。
ガルパンはいいぞ。


新世界より

 クラシックの旋律が、かつての自衛隊施設、現蜂起軍総指令室に響き渡る。

 力強いトランペットの音が疾走していくその音楽は、新世界を夢見るみほの心を激しくかき乱し、歓喜とも狂気とも取れる何かを心の底で芽生えさせていた。

 ドヴォルザーク 交響曲第9番「新世界より」第4楽章。誰もが一度は聞いたことであろうその音楽が終わりを迎えようとしていた。

 

「新世界より……私たちは新世界より来た。旧世界の秩序を壊すために」

「みぽりん」

「沙織さん、どうかしましたか?」

「全部予定通り進んでいるよ」

「わかりました。ありがとうございます」

「西住殿っ!」

 

 部屋に飛び込んできたのは、忠犬優花里だ。

 息が激しく乱れているところを見ると、どうやら持ち場の高台から急いでやってきたのだろう。

 その姿にみほは思わず笑みを浮かべる。決して嘲笑ではない。自分にここまで信頼をおいている仲間に対する慈愛の笑みだ。

 

「まほ隊長は野戦砲の放棄を決定。現在、プラウダ・知波単連合と交戦中。聖グロリアーナとプラウダはそれぞれ重戦車を撃破されたため橋頭保まで後退。ですが、サンダースが予定通り進撃を継続しています」

「万事順調。何もかもが当初の予定通り。では、サンダースには己の業の深さを身をもって味わってもらいましょうか」

「わかりました。ケイ隊長は現在後退中なのでプラウダ生徒に声をかけておきます。彼女たちも、アメリカ製の製品の扱いには長けていますから」

「わかりました。では、そのように」

 

 優花理は再び走り出していく。

 沙織は隣で無線機を片手に、状況の把握に努め続けていた。麻子も華もそれぞれ大切な役割を持ち、この場を離れていた。

 

「始まるよ。私たちの反撃が」

 

○●○●○

 

「あのティーガー……隊長……! 前進よ! 隊長を説得するわ」

「ダメです、E-100の進行方向とぶつかってしまいます!」

 

 操縦手が悲痛な叫びをあげる。

 このまままっすぐ直進すれば、150mmの餌食になることは免れないだろう。だが、あれほど恋い焦がれ後悔をしてまで追いかけてきた彼女はすぐ目の前にいるのだ。

 色が違うティーガーに乗っていようとも、1年にも満たない副隊長経験しかなかろうとも、ずっと西住まほ(かのじょ)を見続けていた私にならばわかる。

 

『逸見隊長! E-100は我々知波単にお任せください!』

「ちょ、待ちなさい! どうする気なの!」

『相手が超重戦車だろうとも……その腹を我々が突けばひっくり返るでしょう! 日本の超重戦車の力を……侮らせはしない……吶喊!』

「やめなさい!」

 

 最大速度25km/h、150tの巨体がE-100へと吶喊を敢行する。E-100の操縦手も途中で気が付いたようだが、下り坂を下りきったあとの速度のままの無理な進路変更は横転へと繋がりかねない。

 砲塔を旋回し、狙いもつけずにE-100が発砲する。しかし、同じく200mmの装甲を持つオイ車の前では、その砲撃すら脅威となりえなかった。

 

『すべてがより良い方向へ。我々が新たに生まれかわり、そして人を救うことの出来る尊い存在となるために』

「西隊長っ!」

『逸見隊長。あなたのその志を信じ、行動してください!』

 

 ガキンという金属同士がぶつかりあう音が小さな硫黄島全体に響く。無防備なE-100の横っ腹へ突撃していったオイ車は、E-100の砲塔を真っ二つに折り、そのまましばらく力比べをするも崖の下へと落ちていった。

 爆発音こそしないものの、この下へ落ちればただではすまないだろう。

 西絹代という絶対的な隊長をなくし、残されたチハ隊はただ茫然とその場に立ちすくんでいた。

 

「これは……」

 

 涙が出ている。私は泣いているのだ。だけど……ここで止まるわけにはいかない。このチャンスを作ってくれた、あの吶喊バカに報いるためにも……!

 

「戦車前進!」

 

 山を下り、エリカたちのティーガーⅡに睨みを聞かせていた黒い車両に今度こそ攻撃を仕掛ける。

 初撃はお互いに外すも、黒いティーガーの放った一撃のほうがより近くに弾着していた。

 

「それでも……次弾装填! 履帯を狙いなさい」

 

 エリカはキューポラから顔を出す。

 砲撃の中であろうとも、狭い車内の窓からではなく隊長自らが身を乗り出して外の様子を確認する。それが西住流の教えであろう。

 ゆえに、エリカが身を出すと同時にまほもキューポラから姿を現していた。

 しばらくの無言の時間が続く。

 

「隊長! 戻ってきてください!」

「お前は何もわかっていない! この胸の痛みを……私の我儘だとエリカ、君は怒るだろう。それで構わない、そのまま怒りで私を忘れてくれ」

「そんなことできるわけがっ! 間違っていることを隊長は知りながら、それを肯定して満足するのですか! 不正をただ見過ごすだけでいいんですか」

「……私は」

「そんなのあなたらしくないじゃないですか!」

 

 ティーガーⅡの砲弾がティーガーⅠの正面装甲にぶつかる。僅かに、車両がよろけるも、どこも異常などない。

 

「車長! 中に戻ってください!」

 

 砲手が叫ぶ声が聞こえた。

 しかし、ここで中に戻るわけにはいかない。出来ることならば、尊敬している西住まほその人と戦いたくなどない。回避できるのならば、回避したい。

 それでも……もし、このまま攻撃が続くのなら……。

 

「隊長っ!」

「……私はもう、お前たちの隊長じゃない。不正から目を逸らせぬと言うならば、私はみほに降りかかった不正を正すために立ち続ける」

「それで……本当にいいんですか!」

「構わないさ。これが、私の選んだ道だ」

「この……わからずやがっ!」

 

 エリカは操縦手の肩を蹴り上げる。

 操縦手もどこか覚悟を決めたようだ。先ほどまで狼狽えていた砲手を、無言で作業を続ける装填手も通信手もみな、エリカにすべてを託していた。

 

「前進!」

 

 エリカとまほの言葉が重なる。

 先に発砲したのは、まほのティーガーだった。

 砲塔を狙った確実な撃破コース。

 

「旋回!」

 

 砲弾が発射されるコンマ数秒前、エリカは叫んだ。

 自動旋回装置がうなりをあげ、砲塔を旋回させる。砲弾は、防御の薄い側面80mmではなく、厚い正面180mmにぶつかると弾痕を残すもどこかへ弾かれていった。

 驚いた顔のまほを尻目に、エリカは次なる指示を下す。

 

「発射!」

 

 装填されていた榴弾は、零距離で炸裂するとティーガーⅠの履帯を木っ端微塵に粉砕していた。

 ティーガーⅡはそのまま、ティーガーⅠの後方へと回ると砲塔をエンジン部分へ向け停車する。

 

「隊長、あなたは間違っている。こんな手段を取るしかないと自分を追い詰めているあなたは間違っている」

「エリカ……」

「隊長らしくないですよ。ですから……どうか、お願いします」

「私は……」


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