Girls und Panzer -裏切り戦線-   作:ROGOSS

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遠い夕日を見て

「これで最後ですね」

 

「私も用意終わったよ」

 

「西住殿はどちらへ?」

 

「先に降りて行った」

 

 沈黙。

 誰もその先の会話をどう続ければいいかわからなかった。一番落ち込んでいるのは、いや……一番変わってしまった人が近くにいる彼女たちの仲はギクシャクしてしまっていた。

 

「そろそろ降りようか」

 

「そうでありますね」

 

 これが最後か……。

 港へと続くタラップを降りながら考える。

 正式に解体が決まった学園艦に忘れ物がないかを確認する、そういう名目で彼女たちは来ていた。

 思い返せば、激動の半年間だった。

 2年生になり、戦車道が復活し、大会に優勝しなければ廃校になると言われ、その危機を回避し……そして裏切りに遭い廃校になる。

 

「どうしてこうなっちゃったんだろう……」

 

「沙織さん……」

 

 涙目で沙織がつぶやく。

 どうしてこうなっちゃったんだろう。なんで私たちが……。

 不平も不満も山ほどあった。しかし、それを吐き出せる場所も人もいない。結局は、自分たちの中で溜め込むしかなかった。

 

「ほかの生徒はもう、帰ったのでありますね」

 

「そうですね。私たちが本当に最後のようです」

 

「彼氏と別れるより辛いよ……」

 

「沙織に彼氏いたことあるなんて、初耳だぞ」

 

 沙織の渾身の冗談(?)も乾いた笑いが起きただけだった。心の底から笑う気には、到底なれなかった。

 タラップを降りると一人の少女の姿が目に入った。

 以前までの笑顔はそこにはない。目の下には濃いくまがあり、髪はボサボサ。何かの呪いのように同じ内容を唱え続けている。

 

「みほさん」

 

「……あぁ、華さん。終わりましたか?」

 

「えぇ……」

 

「西住さんは行かなくてよかったのか?」

 

「私は、この学園艦に乗る資格なんてありませんから」

 

 みほが笑いを浮かべる。

 だが、そこに笑顔はない。思わず背筋が凍るような感覚に襲われる。

 

「それじゃあ、帰りましょうか。そうは言っても、すぐに離れ離れになりますけどね……」

 

 大洗女子学園の廃校はさらに早まった。

 2学期までに全校生徒の次の学校が決まる手はずだった。そのため、夏休みと家でもゆっくりと休む期間は無い。彼女たちは、最後の思い出作りをすることも許されなかった。

 

「待ってください」

 

「みぽりん?」

 

 みほが深呼吸をする。

 

「みんなは、歩いて帰ってください」

 

「歩いて帰るって言われまして、ここから山の上の廃校まで結構距離ありますよ?」

 

「ごめんね、優花里さん。だけど……この戦車は私と一緒に行かなくちゃいけないの」

 

「それって、つまり……」

 

 麻子が珍しく言葉を切った。

 みほが何を言おうとしているかを本当は全員理解していた。理解していても、認めたくはなかった。認めてしまえば、以前までのみほがいなくなってしまう気がしたからだ。

 目の前で冷たい笑みを浮かべるみほを見る。たとえ誰が止めたとしても、説得したとしても遅すぎた。

 

「西住殿。不肖秋山も一緒に行かせてください」

 

「優花里さん……」

 

「私も一緒に行かせてください。最後の最後にのけ者にするなんて、ひどいじゃないですか」

 

「華さん……」

 

「そうだよみぽりん! 一人じゃ戦車動かせないよ!」

 

「沙織さん……」

 

「……どうせ早起きするくらいなら」

 

「麻子さん……」

 

 従ってはいけない。同意してはいけない。今すぐ止めなくてはいけない。今ならまだ間に合う。わかってる、わかっている。だけど、それでも……目の前で悲しんでいる友達を見捨てていいのだろうか……? このまま見捨てて、本当に独りにしてしまっていいのだろうか?

 葛藤はあった。だが、彼女たちは自分でも驚くほどスラリと答えを返せていた。

 みほはしばらく呆然としたままだった。

 

「帰れなくなるかもしれないんですよ?」

 

「私たちの学校は、母校は大洗女子だよ!」

 

「そだね。朝起きるのは辛かったけど、嫌いじゃなかったよ」

 

 沙織と麻子が戦車に乗り込む。

 その後を追うように、華と優花里が歩き始める。

 

「私も覚悟を決めました」

 

「西住殿のためなら、地の果てでも地獄の果てでも行きますよ!」

 

 華と優花里が戦車に乗るのを確認すると、みほは海へ目を向けた。

 きれいな夕日が西の水平線に落ちようとしていた。

 彼女たちが行方不明となって騒がれたのは、それから数日後のことだった。

 彼女たちの足取りを知るものはいない。だが、何をしようとしているのかを僅かながらでも感じ取っている人はいた。

 

 


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