Girls und Panzer -裏切り戦線- 作:ROGOSS
つまりは、もうすぐ終わるということです。
現在の配置としては、
硫黄島東側に連合軍の橋頭保
旧元山基地に蜂起軍
擂鉢山に知波単学園
アリサが現在蜂起軍にとらわれており、まほ・西は行方不明です。
誰しもがこれほどまで夜を短く感じたことがないだろう。
緊張の罪悪感、困惑と焦燥を浮かべ潮風の吹き荒れる夜を過ごした彼女たちには、顕著に疲労の色が浮かんでいた。
戦車道といえど、夜通し行う試合など滅多にない。
ましてやフラッグ戦が主流となっている高校戦車道においては、二日以上かけて試合を行う経験などさらに少ないだろう。
だが、そんな中でも決して下を向かない者がいた。
彼女たちは救世主となるのか? それとも世を人を地獄へと化す悪魔となるのかは誰もわからない。
ただ、なんとなく感じていた。
今日にすべてが終わると。すべての戦いが終わり、恨みの連鎖をどちらかが引き継ぐと。
なんと馬鹿馬鹿しく愚かなことか。
誰かの手のひらで躍らされ、その尻拭いのためにここまでやってきた。
愛と友情を信じ戦いを始めたはずが、気が付くと戦いのカリスマと持ち上げられ、どこで幕を引くべきが決めかねている。
くそったれな戦いを望んではいけなかったのだ。くそったれな闘争は必要なかったのだ。
最初から、どうすれば最も正しい道だったのかはわかっていたはずだった。
それでも、彼女たちは選択を誤ってしまっていた。
「誰か来るわね……」
ダージリンの言葉で完全にカチューシャは完全に覚醒する。
島の中央の方から白い旗を持った二人の少女が近づいてきていた。
一人は優花里で、もう一人はかつてプラウダにいた生徒だった。その目はどこか重く、鉛のように濁っていた。
「全員手出し無用よ。ここまで、ちゃんと通しなさい」
カチューシャの言葉に全員が頷く。
やがて二人は机を挟んでカチューシャの対面へとやってきた。
「何の用よ」
「西住殿から言伝を預かっております」
「……いいわ。教えなさい」
「では……」
優花里は紙を受け取ると、わざとらしく咳払いをした。
「一つ、蜂起軍の身の安全を保障するならば武装解除をします。一つ、捕虜は丁重に預かっておりいつでもお返しできます。一つ、上記二つが達成され、硫黄島を退去した後、すべての事実を公表すること。一つ、裏切りに参加した主要人物、並びに加担したすべての生徒は自主退学するように。一つ、上記四つのすべてが達成された場合に限り、私、西住みほは怒りを収める。以上です」
「……なによそれ」
ダージリンが思わずティーカップを落とす。
みほが何を求めてくるのかには興味があった。
事実を公表することには抵抗はない。それこそが筋であるからだ。
だがしかし、関係のない生徒、この裏切りを知らぬ間に巻き込んでしまった人たちまで罰を与えるというのは、いくらなんでも横暴ではないのだろうか?
怒りに震える手で、それでも至極冷静にカチューシャは答える。
「……私たちはいい。でも、何も知らない子まで巻き込むのはやめなさいよっ!」
「関係のない……? なんですかそれは」
「な、なによ……」
「どうみてもおかしな行動があったというのに、それを見ぬふりを聞かぬふりをして口を閉ざす。先輩が怖いから、将来が不安だから、そんな理由から事実から目を背ける。そんな人のどこに慈悲を与えなくてはいけないのですかっ! 怖かろうとも恐ろしかろうとも正面から向かい合うことはできたはずです! その選択から逃げた者全員が罪人だということが、どうしてわからないのですか?」
「そこまで言われる筋合いはないし、そんなこと言える立場なの!?」
「でしたら聞かせてください。いったい、なんのために私たちを闇へと突き落としたのですか?」
「あ……それは……」
カチューシャもダージリンも何も言うことができなかった。
先ほどから黙っているエリカも口を閉ざしたままだ。
「私も……西住殿が最初はやり過ぎではないのかと不安になりました。だけど、そんなことはなかった。言ってもわからないのならば、体に覚えさせるしかない。やはり西住殿は正しかった、西住殿は正しい! 腐った人間であるあなた達にはわからないでしょうけどもっ!」
「今のは聞き捨てなりません」
突如、カチューシャの背後からノンナが現れた。
そのさらに後ろでは、クラーラがあたふたとしている。先ほどまでノンナをなだめていたが、ついにそれが叶わなくなり、ノンナが飛び出して行ってしまったのだろう。
「あなたが誰を信用しようと勝手です。ですが、一人ではなにもしようとせずに大多数の無実の人を巻き込む、国家反乱の疑惑までかけられるようなことをする彼女のどこに正義がある。カチューシャは今、多くの人を守るために戦っている。カチューシャだけが正義なのです」
ノンナはそう言いながら、机の上に置かれた紙を破り捨てる。
それが意味することはただ一つ。
「交渉決裂ですね」
「望むところです。再起不能になるまで叩き潰しましょう。そうですね、カチューシャ」
「え、えぇ……そうね」
「……エリカさん。いいんですか? あなたの尊敬する元副隊長が苦しんでいます。それでも見捨てるんですか?」
「見捨てる? 違うわ」
エリカが初めて口を開いた。
その目は明らかに、昨日までとは違う。何がきっかけなのは、決意に固まった澄んだ目をしていた。優花里は、その潔白さに思わず気圧される。
「私はあのバカ副隊長も救うわよ。だけど、それはあなたが出してきた紙切れひとつで救えるようなものじゃない。もっと、別の方法があると思っているから。それだけよ」
「……そうですか。では、帰りましょう。1時間後……ここが戦火に包まれるでしょうね」