Girls und Panzer -裏切り戦線-   作:ROGOSS

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黒幕

 文部科学省学園艦教育局、その局長室には異様な面々が揃っていた。普段はライバル校として争っている3人、そして文部科学省学園艦教育局長、辻廉太。通称メガネ。

 

「みなさん、今回は良く働いてくれました」

 

 メガネは目の前にいる3人の少女を労う。

 少女達の顔は浮かない。

 目の前に釣られたエサに食いついてしまった自分たちが何をしてしまったのかを、ようやく自覚していた。

 だが、もう遅い。

 メガネは静かに笑みを浮かべた。

 

●○●○●○

 

 それは大洗女子学園と大学選抜チームとの戦いの数日前の出来事だった。

 その日も3人の少女とメガネが文部科学省学園艦教育局長室にいた。

 

「それで、いったい私たちにどういうご用件なのかしら?」

 

「せっかく来てあげたんだから、早く話しなさいよ!」

 

 抗議の声に笑みを返すと、メガネは語り始めた。

 

「みなさんにお話ししたい話というのは至極簡単です。大洗女子学園への肩入れはやめていただきたい」

 

「それは……」

 

 押し黙る3人は同じ疑問を浮かべる。

 どうしてこの男は知っているのだ?

 メガネは苦笑すると、その疑問に答えた。

 

「貴女方の結束は固い。きっと、大洗女子学園に味方しようと考えるはずだ。違いますか?」

 

「どうかしらね? 私の知ったところではないわ」

 

 紅茶を片手にした少女が挑発的な目をメガネに向ける。

 しかし、メガネは確信していた。必ず、彼女たちを落とすことができると。

 

「この前のエキシビションを拝見しましたよ。クルセイダー巡航戦車を導入したようですね。大会ではクロムウェル巡航戦車まで」

 

「それが何か?」

 

 紅茶を啜りながら少女が訝しげな眼差しを向ける。

 

「資金に余裕がない筈ですのに、よく導入されましたね」

 

「……それはどういう意味かしら?」

 

「聖グロリアーナ女学院の次期理事長ですが、何やら金食い虫の戦車道には否定的なようでして……伝統を改革するのには意欲満々のようですね」

 

「そんな話は聞いたこと……」

 

「ありませんよね? ありませんですとも。私が直接推薦したのですから。これが何を意味するか、優秀な聖グロリアーナ女学院の戦車道チーム隊長ならおわかりですよね?」

 

 メガネが顔を覗き込む。

 ダージリンは自分で頬がひきつっていると自覚した。それでも、笑みを作る気持ちにはなれない。

 

 

「あなたがもし、大洗女子学園を裏切るというのなら話は別です。推薦を取りやめましょう」

 

「裏切る……?」

 

 ダージリンの手が震える。ティーカップがカタカタと音を立てた。

 新たな戦車を導入したのは、来年の大会で結果を残すためだった。自分はもう卒業するが、後輩たちに新たな戦力を残してやりたかった。だが、もし目の前にいる男の話が本当ならば、それらの判断が裏目に出ることは明白だった……。

 私が導入を決定したばかりに、聖グロリアーナの戦車道が無くなる……?

 メガネは満足そうな笑みを浮かべると、標的を変える。

 

「貴女方もです、プラウダ高校の隊長にサンダース大学付属高校の副隊長」

 

 カチューシャとアリサがビクリと体を震わせる。

 この男は何かを知っている……。

 押し殺していた、心の奥底で秘めている感情を暴かれるかもしれないという恐怖に2人は怯えた。

 

「アリサさん。あなたは隊長になることが夢なんでしょう?」

 

「えぇと……」

 

「しかし、今のサンダース内ではこんな声が上がっている。盗聴しか能がない副隊長」

 

「……!」

 

「人望がないわけではありませんが、そのような声があがっている者を次期隊長に指名する人はいるのでしょうか? もっとも、ケイさんも何やら裏では言っているようですが」

 

「そ、そんな!」

 

 隊長になれれば「タカシ」に振り向いてもらえるかもしれない。

 本気でそう信じ頑張ってきた。油まみれになろうとも、鉄臭くなろうとも地道にコツコツと努力を積み重ねてきた。

 しかし、ケイの登場によってその夢は散ることとなった。彼女の持ち前のリーダーシップとはつらつとした姿に隊員は、自然と付いていった。

 彼女のテンションに合わせるのは大変だが、むしろ、ケイのような隊長になりたいと思った。

 だが、最近のケイの大洗女子学園に異様なまでに肩入れする姿には、納得できなかった。そもそも、勝とうとする意欲が見えない。気が付くと、ケイに向けていた憧れの眼差しが冷たいものとなっていた。

 私が隊長だったのなら、全国大会で勝っていたかもしれないのに……。

 嘗て抱いていた野望が、再び芽を出し始めていた。

 

「手土産はカール自走臼砲でどうでしょうか? なに……教育局長となった私にしてみれば、生徒の1人や2人蹴落とすなど簡単なこと。ケイさんにナオミさん、彼女達がいなくなればサンダースは貴女のものだ」

 

「私のもの……」

 

「なりたいんでしょ? 隊長に」

 

「なりたい……けど……」

 

 メガネは再び満足げな顔で笑う。

 

「プラウダ高校カチューシャさん」

 

 カチューシャは体を固くする。

 何をされるのか、どのようなことを言われるのか。予想がついていないと言えば嘘となった。

 

 

「あんなポッと出の学校にやられた気分はどうですか?」

 

「どうって……」

 

「あなたの学校の隊員もさぞ、あなたにガッカリしたのでしょうね」

 

「う……」

 

 カチューシャは思い出した。

 更衣室の陰で、シャワー室の陰で誰かに聞こえぬようカチューシャを非難していた隊員の言葉を。

 

「あんな名前も知らない学校に負けるなんてね」

 

「カチューシャ隊長は威張ってばっかりだしね」

 

「所詮、あんなもんなんでしょ。やめちゃえばいいのに」

 

「やめればいいのにね」

 

「やめちゃえよ」

 

「やめろ、やめろ、やめろ、やめろ、やめろ、やめろ、やめろ……」

 

 リピートするのは恐れ続けた一言。無能、やめろ、失格。

 カチューシャは無能なんかじゃない……! 大洗女子さえいなければ……。

 

「プラウダ高校にはぜひ、前年優勝校としての誇りを取り戻していただきたい。まずは……そう、一回戦シード権の獲得などどうでしょうか? 王者としての余裕、と世間は捉えるでしょう」

 

「王者としての余裕……」

 

 ダージリン、アリサ、カチューシャの3人が同時にメガネを見る。

 その目には、あれだけ固く結ばれた筈のみほとの絆はどこにもなかった。あるのは学校を守るために、己が欲望を満たすために、私利私欲のために、裏切りを決意した負の感情だけだった。

 さて、これで十分でしょう。存外に、簡単に話が進みました。

 

「では、続きを話し合いましょうか」

 

 メガネはゆっくりと笑みを浮かべた。

 

●○●○●○

 

「さて、大洗女子学園の正式な廃校も決まったところで、今一度集まっていただいた理由は一つ」

 

「……」

 

 誰も返事を返そうとしない。否、返すことができなかった。

 この部屋にいるだけで、あの日の記憶が蘇った。

 どうして、あんなことを約束してしまったのか。悔やんでも悔やみきれない過去。

 

「貴女方の望みは叶えましょう。ですが、私が裏にいることは他言無用です」

 

「それでは、もし裏切りに正式な形で捜査が入ったら……」

 

 裏切り、という単語を震えた声で発しながらもダージリンは問いを投げかける。

 

「あやまちを犯す人間は、たいてい責任を人になすりつけるものだ。責任を私に転嫁するのはやめていただきたい」

 

「何よそれ……あなたが提案したんじゃない!」

 

「証拠は?」

 

「カチューシャ達がしっかり聞いたわ!」

 

「聞いた、ね」

 

 メガネは面倒くさそうにため息をついた。

 ゆっくりと顔をあげ、恐怖に歪んでいる少女たちを見ると言い放つ。

 

「口約束は約束ではありません。違いますか?」

 そして少女達は悟る。

 もう逃げ場はないのだと。ここまで来たら、やるところまでやらなければいけないのだと。メガネの手のひらで、まんまと踊らされていたのだと。

 

「もう、遅い」

 

 メガネは止めを刺すように低く呟いた。

 

 




この作品は、今期やってる「はいふり」見て思いつきました。
大洗女子に負けたのことに、カチューシャは多少なりとも心の傷を持ったのでは? と勝手な思いから……
聖グロについて、すごい矛盾点をご指定いただきましたが……変更できるのならしますが、今のところ作者がいいアイデアを思い浮かべられないので、このままいきます。
(公式ガイドブック読み直します……)

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