Girls und Panzer -裏切り戦線- 作:ROGOSS
今回は少々短めになりますが、お楽しみください。
「おやおや……なるほど、そういうことだったのかい」
「ミカは最初からこうなるって、わかっていたの?」
「さぁ……風に聞いた気がするよ」
「はぁ? 意味わかんないよ」
「ふふ、アキにもそのうちわかるよ。さあ、あそこにいる迷い人を助けに行こうか」
ミカはそう言うとカンテレを立てかけ、BT-42のキューポラを開けた。
外の新鮮な空気が冷気と共にドッと車内へと流れ込む。ミッコは楽しそうに笑い、アキは思わず顔を背けた。
「ミカ、一人で行くの?」
「アキも来るかい?」
「……行くしかないでしょ。ミッコ、後ろから付いてきて」
「はーい」
アキもミカに続くように、外へと飛び出した。
遠くで聞こえていた砲撃音は、今は鳴り止み、嵐の過ぎ去った後の静寂が硫黄島を包み込んでいた。本来の静けさに戻った硫黄島は、どこか喜んでいるかのように、強風を立てていた。
ミカはチューリップハットが飛んでいかぬように手で押さえながら、目の前で途方に暮れている少女たちへと声をかけた。
彼女たちは、結局最後まで、自分たちが何に巻き込まれていたのかを知らないのだろう。いや、そうであるほうがいいだろう。この場合の無知は罪ではない。自らの意志ではなく、他人からの善意で何も知らない、知らされないというのは当事者たちが信頼されている証でもあるだろう。ならば、その信頼を無下にするような行為をミカたちがする理由などないだろう。むしろここは、助けてあげるほうが、みほの思いを汲むことになるのではないか?
ミカは優し気な声で、ツインテールの少女へ話しかけた。
「ここで何をしているんだい? 君たちは、とっくに逃げることができるはずだろう?」
「おわわわ! いつの間に」
「風と共にさ……」
「ごめんね、いっつもこの調子だから」
アンチョビは驚きを隠せない様子だが、しばらくすると崖の下を指さした。
そこには忍び寄る暗黒の軍勢が、元山へと迫っていた。
全身黒の装備で統一されている部隊。
対戦車テロ部隊。日本政府が、戦車道受講者の反乱に対して独自に組織した部隊。公にはなっているものの、出動となるのは今回が初めてであろう。
国連軍に属しているWTFCとは違い、こちらは日本政府の命令書一枚でどれだけ過激なことでもこなしてしまう部隊だ。
「これって……一度ニュースで見たような……」
「あー、姐さんわかりましたよ! あれはっ!」
「そのへんでいいじゃないか。あの人たちが誰であろうとも、君たちのやるべきことは、この島から逃げることだろう? さあ、急ぐんだ」
「私は……私たちは、何に巻き込まれていたんだ?」
ようやく何かに気が付き始めたアンチョビが不安そうにミカへ疑問を投げかける。アンチョビの後ろでは、同じく不安そうにしているぺパロニとカルパッチョの姿があった。カルパッチョに関して言えば、薄っすらと何かを感じているのかもしれないが、アンチョビを思い特に口にするつもりはないようだ。
みほの気遣いを、君たち自身の手で崩してしまうなど、決してやってはいけない。私たちが抱え、生きていけばいいのだから。それが人生だろう? 優しいウソならば……時には認められてもいいはずさ。
ミカはフッと笑うとカンテレをかき鳴らそうとする。やがて、BT-42の中に置いていることに気が付くと、何事もなかったかのように手を後ろへと隠した。
「気にすることはない。いいかい、気にしてはいけないのさ。君が、君らしく生きるためにはね。水に不純物が混じり、黒く濁ることは、誰も望んじゃいないだろう?」
「うん……? 私が馬鹿なせいなのか、継続の言っていることがまるでわからんぞ」
「姐さん、お腹空いて頭回っていないんじゃないですか? パスタ食べます?」
「そういう場合じゃありません」
「ふふふ、そのままの君たちが一番さ。さあ、行くんだ。あとは……彼女が決着をつけてくれるだろうさ」