Girls und Panzer -裏切り戦線-   作:ROGOSS

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アリサの困惑

 あぁ、もう! どうしてっ! どうしてこうなるのよ! 私の思った通りに行ってくれないのよ!

 声にならない叫び声を上げながら、アリサは頭を掻き毟った。天パ気味の髪型がさらに跳ね回る。

 だが、アリサはそんなことなど気にしてはいない。今、アリサの心を占めているのは、なぜこのような状況になってしまったのか? という困惑だけだった。

 メガネの話に乗り、ケイのフェアプレーを重んじすぎる態度に反発し、隊長の座を奪うべく反乱とも言える騒動を引き起こした。彼女をサンダース大付属高校の戦車道チームから引きずり下ろしてしまおうと考えた。

 しかし、いざ隊長になった時初めて気が付いた事が多くあった。そしてアリサは悟ることとなった。

 自分にはケイの代わりを務めることができない、と。チームメイトの事を考え、先生の目を誤魔化し、対戦相手との関係を築き、OGからの圧力から耐える。簡単に見えていた隊長職が、いかに重労働であったかを身をもってアリサは感じていた。

 ゆえに、ケイに隊長の座を返還しようと考えていた。だが、時既に遅し。ケイはアリサと話をしようともせず、時間だけが無駄に過ぎていくこととなり、気が付いた時には、アリサの作り上げた恐怖からなる新体制はサンダースの戦車道に染みついてしまった。

 悪しき伝統を作ってしまった、と今では眠れぬ夜を過ごしていた。

 何度目かのため息ををついた時、ノックの音が部屋に響いた。不機嫌そうに返事をすると、恐る恐るといった表情で新しい副隊長が部屋へ入ってきた。

 言うことを聞くだけで、自分の考えを持つことはない。自我がない。根無し草のよう。

 新しい副隊長にアリサは、そう評価を下していた。

 

「どうしたのよ」

 

「あのぉ、予算の書類に隊長のハンコが無かったので……」

 

 

「……後でいいかしら?」

 

 特に急ぎの用事はなかった。ただ気分が乗らない、そんな幼稚な我が儘でアリサは副隊長を振り回そうとしていた。

 

「でも……今すぐに出さないと予算を通さないと生徒会長が言っていたので……」

 

「後で良いわよねっ! 私は今、そんなことをしてる場合じゃないの! 色々考えることはあるの! わかるっ?!」

 

「ひっ! わ、わかりました! 相談してきます!」

 

 思わず出てしまった怒鳴り声に、副隊長は小さく悲鳴を上げ部屋を出ていこうとした。

 それとまったく同じタイミングで艦内電話が音を立てた。

 小さく舌打ちをしながら、アリサは電話に出た。

 面倒なことを頼まれた時は、副隊長に全てを押し付けることができるように目線で部屋から出ていくなと伝える。

 

「まったく……次から次へと……はい? どうしたの?」

 

『あの……隊長』

 

「なによっ! 早く言いなさいよ!」

 

『ス、スーパーギャラクシーが離陸態勢に入っているんですけどっ! 隊長の指示ですか?』

 

 C-5Mスーパーギャラクシー。ロッキード社が製造し、現在でもアメリカ空軍で使われている軍用超大型長距離輸送機だ。主力戦車2輌分にも相当する約122トンもの貨物が輸送可能であり、その記録がギネスにも載っているほどだ。

 普段は、学園艦では近づくことができない遠方で練習試合や試合をする時戦車の輸送に使っているが……近くに試合の予定などなく、離陸の指示を出した記憶は、アリサには一切なかった。

 

「どうして私が……嘘、まさか……!」

 

 乱暴に電話を切るとアリサはダイヤルを回した。

 唐突に浮かび上がった最悪のシナリオを否定しながらも、心の中では謝罪を繰り返していた。

 

『ふぁーい、こちらB館』

 

「ケイ隊長達がいるか確認しなさい!」

 

『ケイ? 私、今部屋の前にいますけど』

 

「早くっ!」

 

『わかりましたよ』

  

 そんなに怒鳴らなくても良いじゃないか。

 見張り役の生徒の文句を聞き流しつつも、アリサはケイ達が部屋にいることを願った。

 

『うわぁ!』

 

「どうしたの!」

 

『ど、どこにもいません!』

 

「何やってるのよ……! 飛行場よ! 急いで行きなさい!」

 

『はいっ!』

 

 よほど焦っていたのか、通話中だということを忘れたかのように、見張り役の生徒は走り去っていく音が電話越しに聞こえてきた。

 アリサも電話を机の上に放り投げると走り出す。

 ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい。私が勇気を持って、もっと早くケイと話していたら!

 隊長室のある部室を飛び出し、外に出た時には既にスーパーギャラクシーは空へと飛び立って行った後であった。

 重厚なエンジン音がはるか上空から鳴り響いている。

 サンダースには他に空へ上がる方法がない。離陸されてしまえば、あとはお手上げの状況だった。

 

「ケイ……ナオミ……どこに行くっていうのよ……?」

 

 芝生の上にへたり込んだアリサの元へ整備担当の生徒が走り寄ってきた。

 

「隊長」

 

「……」

 

「隊長ってば!」

 

「聞こえているわよ」

 

 珍しくアリサから語気の無い返事が来たことを訝しりながらも、生徒はゆっくりと告げた。

 

「シャーマン4輌とファイアフライ1輌が見当たらないんですけど、どこかにレンタルしてましたっけ?」

 

「ウチの主力よ。そんな事するわ……」

 

 あまりにも現実離れした考えにアリサは首を振る。

 だが、それしか戦車が突如消えた理由が思い当たらなかった。

 

「あのスーパーギャラクシーに……?」

 

 呆けたままのアリサに生徒は声をかけ続けた。

 アリサが正気に戻ったのは、次の日の夕方頃であった。

 

 




もう、仲良くしてよ!
どうして裏切りあうの!
僕は、こんな君たちを見ていられないよ!

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