友人に布教されハマってしまったヒロアカで、自分も二次創作を書きたいと思ってしまい、ついつい始めました。
至らぬ点あると思いますが、感想などいただければ幸いです。
episode1
基本的に俺の人生は、諦めが多かったように思う。
子供なら誰もが夢見て、現実を知って、諦める事も、或いは頑張れば現実でだって叶えられたかもしれない事も。
全部諦めてきたように思う。
言い訳をさせてもらえるならば、別にこれは俺の意思だけだったとは言い切れない。少なくとも、最初の頃は俺も夢に憧れ、それに「なりたい」と思って努力していた時もある。
それがどんなに馬鹿らしくても、努力はしていた。
……それも、父親は許さなかった。
俺の父親は、現実というものに最も適応した価値観を持った人だった。
競争社会の中でいかに安定性を保ちつつ、他の誰よりも優れた地位に就くか。それしか考えていないタイプの人間だった。現代の社会人から見れば極めて優秀だし、そうじゃない人から見れば堅苦しく感じるような人間だろう。
そんな現代社会を体現しているような人間が、子供の無垢な願いを耳にした時、「そうだね、きっとなれるよ」などという無責任ではありながらも子供の成長の芽を摘まないようにと考えられた発言を行えるわけがない。
あれは、5歳くらいの時だったろうか。俺はある特撮ヒーローに憧れた。
何てことはない、普通にテレビで放映されていたものだし、それに憧れる男の子は俺以外にも多かった。それに〝なりたい〟と思った奴だって珍しくなかったろう。
そして例に漏れず、俺は父親に言ったんだ。「僕も大きくなったらヒーローになりたい」と。
それに対して、父はそれを根本から否定した。
『あれは創作物、ただの作り物だ。実在しないし、なれるものではない。
そもそも、そんなくだらない事を考える暇があるならば、役に立つ本を読みなさい』
そう言って父は、俺にどう考えても5歳児の子供向けではない、分厚く難解な本を手渡して話を終わらせた。
……まぁ、そうだよな。確かにその通りだ。
現実にヒーローなんて存在がいるならば世界は大混乱だったろうし、それより大事なことは山ほどあるのも、否定しない。そんなのは、5歳だった俺だって分かっていた。
でも、それでも。
父親に何かを完全否定されるという事は、子供の中で割と大きな出来事だった。何のことはない、本心からでなくたって相手から「そうだね」と肯定してもらうだけで、子供の中には自信とか、生きていく上でそれなりに大事なものが育まれる、と思う。
でも俺の父親は「そもそもそれに意味なんかない」と言ったんだ。
それからの俺は、他人から見てもテキトーな男になった。
……あぁ、分かってる。そんな事くらいで何もかも投げ出すのなんて、それこそ子供の発想だろう。
だが基本的に俺に対する父親からのリアクションは〝否定〟しかなかったし、他人に認められないとやる気が起きないのは誰だって同じはずだ。どうせ俺には出来ないという価値観が頭にこびり付き、どうしても物事に対して真剣に挑むという事は出来なかった。
無理無茶無謀は避ける。
それが俺の人生における処世術だった。
……さて、何故こんな風に俺の価値観やら半生やらをざっくりと振り返ったかといえば、その現実が180度まるっきり変わってしまったからだ。
変わったっていうか、うん。
「……なんで、子供に戻っているんだろう」
もう25歳だったはずの俺が、なぜ5歳児になっているのか。
いや、それだけなら良い。全く良くはないけど、百歩譲って構わない、あぁ構わないさ。さっきまで自分の住んでいる部屋で休みを満喫するためにゲームの電源を入れたはずなのに、何故か街中で2人の大人(美形の男女、感じから見れば夫婦、かな)に手を引かれているのも、千歩譲って納得しよう。
しかし、この街中の風景は、全く理解できなかった。
――街の中は、俺の常識に照らし合わせておかしい所は何もなかった。
天を衝くようなビル群、色とりどりの車が行き
だが、その歩いている人々が問題だった。
腕が4月本ある人が、スーツをしっかり着て歩いている。
手が地味に発光している人が、コンビニでレジを打っている。
頭に悪魔のような角を生やしている人が、カフェで談笑している。相手はトカゲのような頭だ。
……etc.
奇々怪々な光景が溢れていた。
「……なんてこった」
僕は2人の大人には聞こえないように、小さく絶望の言葉を呟いた。
僕の信じていた現実が、あっさり壊れたわけだしね。