plus ultraを胸に抱き   作:鎌太郎EX

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episode4 突入

 

 

 

 

 

 時間はあっさりと過ぎていった。

 様々な人員や装備の準備、警察への根回しなど、仕事は多かったからというのもあるだろう。もっとも覚の専門ではないのでほとんど関与する事はなかったが。

 

「今日、なのよねぇ」

 

 オフィスの中でコスチュームに身を包み、呑気に玄米茶を啜っている覚は小さく呟いた。

 計画通り、自分はブレイカーとそのサイドキックであるリビングライフ、そして覚の3人で敵の中継基地に襲撃をかける。

 最善の結果は、中継基地を使い物にならないようにして、大量の薬を手に入れる事。

 単純な物的証拠になるのもそうだが、大規模な成分調査などをする為には大量の薬が必要になってくる。多ければ多いほど良いのだ。

 そして最高の結果は……そこが中継基地ではなく敵の本拠地である事だ。

 黒幕か、あるいはそれに近い人間、物的証拠などを手に入れる事が出来るかもしれない。そうすればあとは簡単だ。薬をばら撒いている組織そのものを壊滅に追い込める。文字通りの一件落着。

 ……そんなに簡単にはいかないだろうな、と覚はボンヤリと思った。

 この事件に携わっている全員が思っているだろう。そう簡単にこの組織を潰せるとは思えないと。

 平和の象徴という存在が燦然と輝き、闇どころかちょっとした薄暗がりですら存在できないようになってしまったこの国の中で、地方とは言えそれなりに大きな地方都市の中でこれだけの組織を作り上げ、今現在も意気軒昂に活動し、その正体を隠し続けている。

 そんな組織が、簡単に倒せるわけが無い。

 

「……あの人に連絡した方が良いかなぁ」

 

 何とは無しに、彼の事を思い出す。

 自分を親戚の子のように可愛がってくれる彼なら、力を貸してくれるかもしれないと。しかも絶対に裏切る心配がないのだ。

 だって彼は――、

 

「センシティさん。準備が出来ました」

 

 ノックとともに扉の向こうから聞こえる声に、覚は湯呑みを置く。

 

「分かった、いつでも出れるようにしておいて。

 ブレイカーと合流次第出る」

 

「了解です……その、ちょっと今お話良いですか?」

 

「今?」

 

 こんな状況で?

 いつものウィスパーらしからぬ言動に少し疑問に思いながらも「良いわ、入って」とだけ言う。

 ウィスパーも、いつも通りの完全武装で入ってきた。だがその表情はこれからの任務に緊張しているわけではなく、どこか別の事で緊張しているように見える。

 

「要件はなに? あまり時間がないから、手早くね」

 

 お茶を飲みながらそう言うと、一瞬だけ躊躇する様子を見せてから、ウィスパーは話し始める。

 

「センシティさん。僕はもう、貴女の事務所に入って、結構時間が経ちましたよね?」

 

「そうね、私が事務所を立ち上げてから一緒にいるんだもん、そうよね。

 それで?」

 

「……ヒーロー志望の奴らは誰もが思ってます。相棒を経て、自分で事務所を作って、自由に活躍したいって 勿論、事情があってフリーでやってる奴もいますけど……僕はその、そういうのとは違います。相棒としてもう十分経験は積んだと思います、そろそろ、独立したいなって思うんです」

 

 その言葉に、覚は目を見開く。

 

「……つまり、独立したいって事?」

 

 ウィスパーは申し訳なさそうに、小さく頷いた。

 あり得ない話ではない。いつかは来ると思っていた。彼の経歴から考えても、むしろ下積みが長過ぎたぐらいだというのは、センシティも分かっている。

 でも――、

 

 

 

「――やめておいた方が良いと思う」

 

 

 

 それを否定する。

 

「――な、なんでですか!? 経験だって積んでいます、今までだって鉄火場を乗り越えてきました!! それなのに、」

 

「分かってる。別に辞めさせたくないから言っているわけじゃないの。

 ハッキリ言う……貴方は弱過ぎるわ」

 

 彼の個性である《聞き耳》はとても有用な個性だと思う。索敵などにとても便利で、斥候役にはうってつけ。決して悪くない個性。

 しかしヒーローにはどんな形であれ戦闘を行えるスキルが必要だ。最低限であっても戦わなければいけない時はある。どんな状況でも、その力が必要ではなかった事などない。

 そもそも、ヒーローの本質とはそう言うものだ。

 急激に発展した超常社会の中で、それを悪用する敵達を市民から守るのが、ヒーローの原点。それを否定してしまっては、ヒーローはヒーローではなくなると、覚は考えている。

 その考えの上で言えば――ウィスパーは、その最低限すらクリア出来ていない。確かに一般人より戦い慣れているが、それでも戦闘に特化した個性を持つ敵や、別のスキルを磨いている犯罪者には効果がない。

 だから覚は出来るだけウィスパーに直接的な戦闘をさせないように、サポートに徹しさせた。

 死んでほしくないから。

 

「これから独立して1人でやって行くにしたって、きっとそこが障害になるわ。申し訳ないけど、私は貴方が死ぬような状況に追い込む選択をして欲しくないの」

 

「でも、センシティさんも僕と同じような、」

 

「そうね。サポート向き個性……でも、私は前線に出れる。

 何年も何年も修行し、特訓し、鍛錬した拳で、どんな敵だって粉砕出来る。そういう自信を身に付ける為に、どんな事だってした。それが、貴方にはあるの?」

 

 個性が弱い、戦闘に向かない。

 初期の頃いつも彼が呟いていた言葉だ。

 覚からすれば――そんな事を言っている暇があるなら一回でもサンドバックを殴れという話だ。

 彼だって資格を取得しているヒーロー。弱いはずがない。なのに個性を理由に、何もしない。覚が戦闘に携わらないような配置にしても、むしろ安心する傾向すらあったくらいだ。

 ……そうしてしまったのは、自分なのかもしれないが。

 

「今の貴方では、戦闘になれば数秒で死ぬ。そういう世界なの」

 

「……貴女が、俺を前線に出させてくれないから、」

 

「当然よ――覚悟も、生きて帰れる自信もない人間に、私の背中を守ってもらいたいとは、思わない」

 

 敢えて厳しい言い方をする。

 そうでもしないと、彼は前線に出て死ぬ。その時に罪悪感に押し潰されたくはないし、ご遺族に頭を下げになんか行きたくはない。そんな事は、絶対に嫌だ。

 

「――センシティさん、ブレイカーさん達が到着しました」

 

 部屋の外で、他の相棒の声に立ち上がる。

 

「厳しい事を言ってごめん……でも、今は任務に集中して。

 話は、全部後で」

 

「っ……分かりました」

 

 まだ話がしたりない。そう言った表情のウィスパーは、それを噛み殺して先に外に出て行く。

 覚も、気が重いのをなんとか振り払って、コスチュームのヘルメットを持って部屋を出る。

 

「覚ちゃん、もう行くのぉ?」

 

 そんな覚の後ろから声をかけてきたのは、蒔良だった。

 

「ああ、うん、今ブレイカーが来たみたいだから」

 

「そう……ねぇ、覚ちゃん、ウィスパーの話聞いた?」

 

 どこか探るようにこちらを見る蒔良を見て、なぜ一瞬知っているのかと思うが、雇用条件なども彼女の範疇。私よりも先に相談しただけかもしれないと、自分の中で納得する。

 

「うん、聞いた……で、お説教しちゃった」

 

「あぁ〜、やっぱり?

 覚ちゃんならそう言いそうだなぁって思ってたけど……でも、ウィスパーくんも良い歳だしねぇ」

 

 蒔良は困ったような笑みを浮かべながら、覚の肩に気遣うように触れる。

 

「あまり気に病まなくて良いわ、覚ちゃんの言いたい事も分かるもの。ウィスパーくんは、確かにまだ1人で活動するのは危ないわ」

 

 うん、とだけ答えて、覚は苦笑いを浮かべる。

 

「ありがとう、蒔良。貴女にそう言ってもらえると、少し自信がつく」

 

 その言葉に、蒔良は優しく笑顔を浮かべた。

 

 

 

「当然でしょう?

 私は、――覚ちゃんの味方なんだから」

 

 

 

 

 

 

 ごくごく普通の乗用車。大きめではあるが、これくらいならばご家庭でもお使いの方はいらっしゃるのではないかという、普通の車。

 

「……乗る時も思ったけど、これで良いの? なんか違う気がするんだけど」

 

 青い丸印がついている最初の場所に到着してしばらく経っても、覚はどこか釈然としない顔をしている。

 ヒーローならばもっとこう、改造車両とかに乗っているものではないだろうか。実際、知り合いの乗り物を操作する個性のヒーローは、格好良い改造バイクに乗っていた。

 そんな覚を、仮面を付けたブレイカーは苦笑する(見えないが)。

 

「そんな派手な事しちゃったらヒーローが来たってバレちゃうじゃん。今回の作戦では特にダメ。

 安心して。普通の車両に見えるかもしれないけど、それは見かけだけ。実際は大統領専用車も真っ青な頑丈さだから」

 

「分かってるけど……で? アンタの相棒はどこに言ったのよ。

 彼が運転席を出てから10分くらい経ってるんだけど?」

 

 リビングライフ。黒いロングコートと自分と同じヘルメットのような装備を付けた彼は、大きめのバッグを抱えて何処かに消えてしまった。

 ブレイカーが止めなかったので、何か所用でもなるのかと思うのだが……それにしたって待機の時間が長い。

 

「本当は側においておきたいんだけどねぇ。だけど彼の本来の戦い方じゃ、俺や君の邪魔になりかねない。だから、外からのサポートを頼んだんだ。

 一応風速やら何やらの問題もあるから、下見した場所とは違う場所に移動しているのかもしれないなぁ」

 

「風速? なに、狙撃でもしようっていうの?」

 

 空気の乾燥具合や風の向きで、銃の弾丸は驚くほど変化する。それを加味してスナイパーは狙撃場所を変更したりするらしい。

 現代兵器を使うヒーロー……スナイプなど、何人かのヒーローにはいるタイプだ。

 

「当たらずとも遠からず……というか当たってはいるんだけど、多分君の想像するのとはちょっと違うよ。それに、僕達は近接メインだから、どっちかって言うと銃撃つ仕事より、索敵って意味合いの仕事の方が多そうだけど。

 ――位置についたようだ。いつでもサポート出来るって」

 

「はいはい……まぁ、こういう所なら、後方支援はありがたいかもねぇ」

 

 そう言いながら、覚は目的の建物を見る。

 随分昔の閉鎖された工場の跡地。敷地面積はそれなりにあり、倉庫らしき建物から工場らしい建物、何かの化学薬品でも入れていたような巨大なタンクなどが揃っている。

 街中にこういう建物があると言うのは違和感があるだろうが、この土地は曰く付きだ。

 なんでも昔は中小企業があったらしいのだが、不況で倒産。社長一家がこの敷地内で首を括って以来、壊そうとすると作業員が怪我をしたらしい。

 呪われた工場跡。

 今では土地の持ち主すら見に来ない、街の中にポツンとある捨てられた場所だ。

 

「それなりの広さがあるけど、時間あんまりないわよ? 他の所も見るんでしょう?」

 

「そうなんだけど、ここは中継されている場所でも1番大きな場所で、しかも警備は1番厳重。

 もしかしたら、本命を狙えるかもしれない……そう考えれば、ここが1番重要なんだよ。最悪、他の場所は捨て置いても良いかも」

 

「……綿密なのか行き当たりバッタリなのか、よく分かんないわね、アンタも」

 

 覚の形容しがたい顔に、ブレイカーは声だけで笑う。

 

「アハハ、まぁ良いじゃないか、上手くいけばそれまで終わりなんだから。

 それはそうと、君の方の相棒達は?」

 

 その言葉に、覚は耳の辺りについている通信機を起動する。

 

「ウィスパー、そっちは?」

 

『……敵らしき人間が30人前後。囁きから考えると恐らく武装しています……貴方方なら、多少の武器くらい対応出来るでしょう。大型兵器などはないようですし』

 

 何処か不機嫌なウィスパーの言葉に苦笑を浮かべながら、覚はそうね、ありがとうとだけ言って通信を切る。

 ――銃弾くらいならば、この2人なら何の問題にもならない。

 

「で? アンタのプラン的には、塀でもよじ登って隠密行動? ガッツリ閉まってんだけど?」

 

 それなりに大きめの塀で囲われていて、正面には無骨だがしっかりとした門と呼ぶべき入り口がある。だが、覚もブレイカーも問題なく登れるだろう。覚の個性があれば中にいる人間の動きを確認しながら進めるし、最悪ブレイカー1人ならば誰にも気付かれず潜り込めるかもしれない。

 門から入れば直接建物と繋がっているので、1つの建物内をまず捜索するのは便利だが、隠密行動という意味ではいただけないだろう。

 その言葉にブレイカーは首を振った。

 

「それじゃあ君にここに来て貰った意味がないだろう?

 派手に正面から行こうじゃないか」

 

「……アンタらしくないわね、それ」

 

 疑いの目で見ると、ブレイカーおどける様に肩を竦ませる。

 

「そういう日だってある。俺はTPOを弁える男でね。今回はそういうのが必要だって話さ。

 

 

 

 それに――軽快なノックが君の得意技だろう?」

 

 

 

 仮面の奥で厭らしく笑っているのをイメージ出来た。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 工場の中、門のすぐ横で、暇な門番達がトランプに興じていた。

 外で見張るのも良いが、ここが無人であるというのを周囲に誤認させ続ける為には、人が出来るだけいない方が良いし、何より外では銃を構えたり出来ないのだ。

 かといって、ここは曰く付きの場所。そう簡単に近づく人間はいないのだが。

 

「暇だなぁ。次の搬入いつだっけ?」

 

「3日後だって話だぜ」

 

「マジか。どうせここなんて誰も来ないんだから、俺らいる意味なくね?」

 

「ローレライの指示だぞ、お前無視出来るか?」

 

「……出来ないなぁ、あんな良い女に頼まれちゃったら」

 

「お前そればっかだなぁ。まぁ気持ちは分かるがね」

 

 3人でそう言い合いながらカードの絵柄を見る。

 やっているのはババ抜きだ……雰囲気としてはポーカーでもやっていたいのだが、ルールを知らない人間に教えながらやるのも面倒だった。

 警備とは名ばかり。結局ここの場所がばれていない以上襲いに来る者はいない。他の敵組織にはバレていないし、ヒーローであれば事前情報が入って来るはずだ。

 なにせ自分達のリーダーであるローレライとその直近の部下の男は、そういう情報が簡単に手に入る立場にいるらしいのだから。

 らしい、というのも……彼らは殆どその姿を見た事がないから。

 男は電話連絡をよこして来るだけで見た事がない。ローレライの姿はたまたま薬の大きな取引などで見た事がある程度。

 普段どこにいて何をしているのかなど、分かるはずもない。

 

「良いよなぁ、ローレライ。スタイル良くてよぉ、聞いたか? あの声!

 一晩お付き合い願いたいもんだぜ」

 

「辞めとけ。ピロートークで殺されちゃ敵わない。エロいのは否定しないけど」

 

「男の夢だよなぁ……ありゃ? 話変わるけど彼奴らどうした?」

 

「ああ、薬使った奴らか。知らねぇよ、どっかその辺にいるんじゃねぇか。

 彼奴らは、何考えてっか分からないからな」

 

 彼奴らというのは、エヴォリミットを使った人間達の事である。自分達警備員の中で3分の1、つまり10人程度がそれに当たるわけだが、彼らの思考回路は薬を使った時点で既に破綻している。

 エヴォリミット。

 最初聞いた時は夢の薬だと思ったが、なんの代償もなしに得られるものではなかった。

 話している本人達も、技術的なものは何も分からないが――薬を投与された人間は、個々人が1番強く願っている欲望に起因した変化を遂げる。

 金が欲しいと願っている者はそれに執着する。食べるのも寝るのも忘れて金を数え続けている。

 食欲が強い者は延々と食べ続ける。自分の胃袋が破けようと、食べ過ぎて体を壊そうと食べ続ける。

 そして戦いたい者は……それを永遠に求め続けるのだ。

 人間は欲望の多い生き物で、また同時にそれに固執する生き物だが……それでも、あれは行き過ぎだと分かる。

 人間として、生物として間違った変化。

 だからどんなに強くても、この場にいる3人はあの薬を使いたいとは欠片も思わない。

 

「薬で脳が変化するって話だったけど……あんなんで良く売れるよな、上も」

 

「試験運用も兼ねてるって話だからなぁ……まぁ、基本的に実験台にされている奴らは個性は凄いがオツム弱くて使えねぇ連中だった。支障はないんだろうよ」

 

「へへっ、じゃあ俺らは頭が良いってか、良いね」

 

「……お前はポーカーも出来ねぇ癖によく言うよ」

 

 そう言って笑い合う。

 3人とも、何も疑っていなかった。この組織の規模、影響力、強さは絶対的なものだ。平和の象徴以降誕生した組織の中で最も強力だ。

 もしかしたら、自分達がこのつまらない国を変える事が出来るかもしれない……いや、出来る。

 そう信じて疑わなかった。

 

 

 

 門が物凄い勢いで吹き飛ばされるまでは。

 

 

 

「え?」

「ハァ?」

「なに?」

 

 3人とも、間の抜けた声を上げる。

 当然だろう。厚さ何センチだか正確な情報は分からないが、少なくとも人1人で開けるのも苦労する横開き式の門が、真っ直ぐ後ろに吹き飛んで行き、派手な音を立てて壁に衝突したのだ。

 

「……普通に入れる程度の穴を期待したんだけどなぁ」

 

「あら、正面突破なんでしょう? ならこれくらい派手にやらないと」

 

 濛々と土煙が烟る中、正面から人が入って来る。

 1人は半分笑い、半分泣いている奇妙で不気味な仮面を付けている男。

 1人はヘルメットのようなモノを付けて顔を隠している女。

 3人とも、2人のその姿をよく知っていた。

 

「――ブレイカーにセンシティだ!!」

 

 1人の言葉に、即座に側にいた1人が銃を構えて引き金を引く。

 どんな道具の使い方も瞬時に理解し使用出来る彼の個性のお陰か、流れるようなその姿はそこら辺のチンピラというよりも、まるで軍人のそれだった。

 拳銃から放たれた3つの弾丸が、ブレイカーの腹に全弾命中、

 

「はい、残念でした」

 

 しない。

 小蝿でも払いのけるように手を振るうと、弾丸は先ほど舞っていた土煙と同じような砂に変わっていく。衝撃すらも失い、力の象徴であったはずの銃弾はいとも簡単に消失した。

 

「なっ――」

 

 3人が絶句した。

 ヤバい。

 この男の個性はヤバい。

 触れられたら死ぬ。

 そう強く直感する。

 そんな男達の気持ちも考えず、ブレイカーは言った。

 

「嫌だなぁちょっと俺を見過ぎだよ。

 

 

 

 ――他も見てないと」

 

 

 

 その瞬間、

 

 

 

 空から3人の場所に、戦乙女が着地した。

 

 

 

「連弾――九分咲き」

 

 都合9発の、銃弾より弱いはずの拳が、3人に平等に降り注いだ。

 鉄パイプで殴られる方が、先ほど男の1人が放った銃弾の方がまだマシだろう。何せ彼女の拳こそ、先ほど門を吹き飛ばした武器そのものなのだから。

 そして腹にそれを食らってしまった3人が、声も上げられず、そのまま重力に引き寄せられるように倒れてしまうのも――また自明の理だった。

 

「……警備、厳重って言ってなかった?」

 

 歯応えのないと言わんばかりに不満そうなセンシティに、ブレイカーは笑う。

 

「ここはスタート地点だよ、まだまだ先は長いんだから。

 それに、基準がおかしい。誰だって君みたいなゴリラみたいな腕力の女性ヒーローが突っ込んで来るとは思ってないんだから」

 

「ちょっと、何ゴリラって、レディに対して失礼ね。一発いっとく?」

 

「そんな栄養ドリンクみたいに気軽に殴られちゃ敵わないな

 ……ふむ、この建物あんまり使われてないねぇ。やっぱりもっと奥が本命かな?」

 

「あっそ、じゃあとっとと行きましょう。こんな所にいても意味ないじゃない……この3人はどうする? 縛っとく?」

 

「いや、気が付いても多分起き上がれないと思うよ?……死んでないよね、この3人」

 

「何言ってるの? 呼吸をしていて脈があれば「生きている」の範疇でしょう」

 

「君の特殊な死生観は今度じっくり聞かせてもらうよ」

 

 3人を雑魚としか認識していなかった2人は、そのまま無事中に入る事に成功した。

 

 

 

 ◇

 

 

 

「貴方の仰る通り、侵入されました。センシティとブレイカーでしょう。どうします?」

『構わない。お前らは迎撃をしていろ。丁度いい実験になるから、薬使った奴も含めた全員でだ。

 在庫は別働隊と俺が確保し、安全な場所に運ぶから安心しろ』

「御自分でなさるんですか? ローレライはなんと?」

『「リスクを承知ならば俺の裁量に任せる」と仰せだ。お前は黙って俺の指示に従っていろ』

「……了解しました。では我々は迎撃に出ます」

 

 通信が切れる。

 文字を打てば機械音声を作ってくれるプログラムは思いの外使い勝手が良い。

 自分の声を聞かせたくない相手には、特に。

 

 

 

「さて、どうするかな――センシティ」

 

 

 

 男の言葉は、夜の闇に溶けて行った。

 

 

 

 

 

 




こういう、「不穏な空気が流れながらもストーリー的には前に進むしかない状況」って割と好きなんですけど、性格悪いんだろうか……。
次回もお楽しみに。


次回! リビングライフ良くそんなの持てるな!? お楽しみに!


感想・評価心よりお待ちしております。
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