plus ultraを胸に抱き   作:鎌太郎EX

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episode7 足りないモノ

 

 

 

 

 

 なんで、どうして。

 そう言葉を紡いでいるつもりなのに、それもまた自分の音として襲いかかって来る。

 

「なんで? どうして?

 ハハッ、貴女がそう言いますか?――俺の邪魔をし続けた、貴女が」

 

 ウィスパーの声は、暴音の中で静かに響く。

 

「同じような個性を持って戦っている貴女だったら、きっと俺がヒーローとして足りないナニカを教えてくれると思っていました。ヒーローとして戦えるようにしてくれるって。

 でも貴女は、結局何もしなかった! 俺にスケジュール管理みたいな雑用を押し付けて、戦闘任務ではお荷物扱い! 自分だけ強いような顔をして、守って――俺だってヒーローなんだ!!」

 

 ウィスパーの蹴り、跪いているセンシティの腹に当たる。

 ダメージはそれほどでもないはずなのに、衝撃が、受けた痛みが、その振動が、音になってまた覚の耳に突き刺さる。

 もう既に聞こえなくなっていてもおかしくはない、鼓膜が破れていてもおかしくはないのに、その音はいつまでもセンシティを苛み続ける。

 

「貴女と俺の何が違う!? 貴女と俺の違いなんて、ちょっとの才能を見つけてもらえたって運だけじゃないか!!

 俺だって、その機会さえあれば――ここまで強くなれる。貴女を完封するだけの力を手に入れる事が出来るんだ!! 俺にはちゃんと才能があったんだ!!」

 

 ――エヴォリミット。

 使っていたというのか? いつから?

 その疑問を口に出すと、ウィスパーはどこか勝ち誇ったような笑みを浮かべる。

 

「貴女がそれを知る必要性すらない――いや、知ろうとしなかったのは貴女じゃないか。俺を戦いの場に出してくれれば証明出来たんだ。俺が貴女より強い事を。俺が貴女より進化した事を。

 でも、貴女は俺を一度も認めてくれなかった。ちゃんと見てすらくれなかった。ただの雑用係程度にしか思っていなかったでしょう?」

 

 違う、違う。

 信頼していた。確かに戦闘面で彼を軽んじていたのは否定しない。だが、それでも彼は優秀だ。自分のようにただただ戦うしか能がない人間とは違う、多くの人を救えると。

 だから死んでほしくなかった。

 将来は自分よりも、ずっと良いヒーローになれると、

 

「詭弁だ。まやかしだ。

 貴女は心の底では、使える手駒が、自分の仕事を押し付けられる相手が欲しいからそう言っているだけだ。私が前に出るからアンタは後ろで援護でもしていなさいってか?

 ――もうオレは、アンタより強い」

 

 

 

 ◇

 

 

 

「そういう事かぁ。あぁ、やだやだ。見苦しいよ。

 自分で何にもしてこなかったくせに他人の所為にしちゃうとか、笑わせるなぁ」

 

 不意に、ウィスパーにとってはおまけのような男の声が聞こえる。

 そもそも今回は、ウィスパーが他を圧倒できるという証明をする為に置かれた場と死歌姫(ローレライ)から聞いている。

 憎むべき新進気鋭のヒーロー、センシティ。

 そしておまけに、ダーティーな手段で良い評価を受け続けるブレイカー。

 その2人を殺せるという証明を世間に知らしめよう、ここまで強くなったウィスパーを認めさせようと動いていた。

 ウィスパーからすれば、証明したいのはセンシティ1人だった。世界各国の犯罪組織も、――今自分に話しているブレイカーも、正直余計なものでしかなかった。

 だからここで話しかけられると、ウィスパーはどこか不機嫌そうに眉を顰める。

 

「――なんでアンタ、俺の話している事が分かるんだ。

 俺はセンシティさん以外には話しかけていないんだけどな?」

 

 強化された《聴き耳》は、有効範囲や無機物にまで使えるようになっただけではない。対象自身の感覚から受け取る様々な情報を「音」にして相手の耳に、音を感知する脳内部位に直接届ける個性になっていた。

 センシティに話しかけていたのはその応用。自分の声が発する振動、それを感じる触覚からその音だけをセンシティに理解させたに過ぎない。

 もっとも触覚の感覚を強化している今のセンシティにしか使えない物ではあるのだが。

 

「俺は、これでも、多趣味な男でねぇ。読唇術もある程度会得しているのさ」

 

 今も続いている暴音に顔を顰めながら、ブレイカーは話し続ける。

 

「それよりなぁ、――本気で思っているのか? 彼女が才能を開花させる機会に恵まれただけ(・・)でここまで来れたって」

 

「……当然だろう? 俺と彼女の何が違う?」

 

 個性は同じサポート向き。

 ヒーローとしての年月だって、そう違いはない。ほんの1年2年の差だ。

 なのにこの違い――明らかに自分に足りないのは、自分の才能を目覚めさせてくれるような人に会えなかった事だ。センシティ、いや、覚にとっての振一郎のような人がいなかったからだ。

 センシティがそれになってくれると思っていたのに、結局そうはならなかった。

 自分の力を目覚めさせてくれたのは、死歌姫(ローレライ)だった。

 

「そうかなぁ、俺はそう思わないよ。

 君こそ何も見えていない――君は彼女の手に触れた事があるかい?」

 

 唐突に無関係に思われる質問をされ、ウィスパーの眉間には更に深く皺が刻まれる。

 

「それがなんの関係がある?」

 

「大有りだよ。

 

 

 

 あの子の手――女の子の手じゃなかったよ」

 

 

 

 彼女と協力する事になった時。

 結局じゃんけんの後、ちゃんと覚と壊は握手をした。相手を納得させる為の形式的なソレ。相手に信用して貰える為のポーズ

 だが握手をして――驚いた。皮膚は厚く、骨も筋肉もゴツくて、とてもじゃないけど女の子の手じゃなかった。よく見ればマニキュアだって塗っていない。あれはきっと化粧水やらまともなケアもしていないだろう。

 信じられるか? まだ若い女の子が、手をこんなにボロボロにしているなんて。

 動島流の習得は一筋縄ではいかない。

 男の壊がある程度成長してから学んでも、あの修行は地獄だったと断言出来るのだ。何かを極める事は当然キツいものだと思っていたが、文字通り血反吐を吐くとは思っていなかった。

 あの家に生まれて、子供の頃からその修練をこなして来た彼女の苦労や苦痛はどれほどのものだったか、想像すら出来ない。

 才能があったとしても、それは結局変わらない。

 いや、才能なんていうのは究極的には幻想で、結果論。超えられる人間と超えられない人間を説明する時に簡単だから存在する概念だ。

 彼女の努力を証明するには、手を見れば十分なのだ。

 

「女の子があんなに、ボロボロになるまで努力をしているってのが、見えていない。

 君と彼女の違いは、そこだ」

 

「違う!! 俺は努力をして来た!! それを見せる場が、」

 

「おいおい冗談だろう……君の手は、人を殴る手の形してないぜ?」

 

 鍛錬などという言葉とは縁遠い手だ。

 綺麗などとは思わない。むしろそれは薄汚れた汚い手にすら見える。

 センシティの――覚の手の方が、ずっと綺麗だ。

 何かに真っ直ぐ打ち込んで来た証拠であるあの手が、醜いと思えるはずもない。

 

 

 

「甘えるなよ、ウィスパー。

 自信を得る努力もせず、前に踏み出せる鍛錬もせずに――力がありますなんて烏滸がましい」

 

 

 

 結局彼は何もして来なかった。

 ただただ才能を見出してくれる誰かが来るのを期待し、膝を抱えて座っていた臆病者だ。

 

 傷つく事も苦しむ事も許容出来ず、エヴォリミットという安易な方法に頼った未熟者だ。

 今も自分の正当性を信じて疑わず、センシティを傷つけて楽しむ文字通りの偽善者だ。

 強さを手に入れるには、相応の対価を必要とする事にすら思考が行っていない無能者だ。

 同じヒーローだという事にすら吐き気を催す。

 

「――黙れっ、黙れ黙れ黙れ!!!!

 どんなに取り繕うが、お前らが俺に勝てないのはこの状況が証明している!! 増援だってもう既にこの敷地内に入っているんだ!! 誰も生きては返さない!!

 俺に勝てないという証明を置いて死ね!!」

 

 ウィスパーはそう絶叫してから、懐から銃を取り出す。

 何でもない、サポートアイテムとして申請すれば直ぐにでも調達出来るタイプの最新銃。威力はそれこそ弱いが、銃口を頭に押し付ければ確実に人を殺せる代物だ。

 その銃を見て、ブレイカーは笑う。

 

「アハッ、殴って殺す事すら出来ないのか、本当に強くなったの?」

 

「喋るな!! お前は俺に負けたんだ!!」

 

「負けた?

 

 

 

 ――冗談だろう?」

 

 

 

 ブレイカーがそう言った瞬間、広場は明るく、赤く照らされた。

 

 

 

 ◇

 

 

 

「邪魔だ、雑魚敵ども!!!!」

 

 炎が上がる。

 怒りの炎が上がる。

 周囲の敵、可燃性のものがある事も気に留めず、一気に火をつけ、爆破させ、周囲の敵を倒し続けている。

 ――そもそも計画そのものが嘘だった。

 エヴォリミットを持っている組織1つ1つを叩くのは後でも出来る。そんな細かい敵を潰していくよりも、ここを襲撃して根元から断つのが早い。

 だが敵が作戦状況を知っている可能性がある。最初からエンデヴァーをチームとして組み込むよりも、後詰めにして何かあった時に救けて貰った方が手っ取り早い。

 そうブレイカーが判断していたのだ。

 

『――……エンデヴァーさん。お願いです、もう少し火力を下げてください。

 今のところ、ブレイカーさんとセンシティさん、その部下2名は無事です。慌ててボンボン爆破しまくると、逆に危険です』

 

「知った事か!! 俺は腹に据えかねているんだ!!

 わざわざ餌と一緒に海の中で獲物を待っている釣り師が何処にいるんだ!?」

 

 センシティがこの事件の中心点であり、彼女がこれの首謀者でない事が分かった時点で、ブレイカーは彼女を囮に使うことを決めた。

 彼女をこちらに抱き込めば何か起こるはずと踏んだのだ。

 それはエンデヴァーも分かる。囮が一般市民だったらエンデヴァーも文句を言っただろうが、相手は現役ヒーロー。心配する必要はないだろう。事情を説明していない事には思う所があるが、それも相手を騙す為と考えれば強く言えない。

 しかし一緒にブレイカーも飛び込むというのが納得いかない。

 

『今日一日、貴方の話題はずっとそれしかありませんでしたね』

 

「当然だ!! こちらの予想していない隠し球を相手が持っていたらどうするつもりだ!? 実際今危険な状況なのだろう!!」

 

『否定はしませんが、そもそもこうでもしないと、相手の信用を得られなかったんですから、しょうがありません』

 

「ショウガもミョウガもあるか!!

 それなら俺でも良かっただろうが!!」

 

『貴方は柔軟に動けないでしょう?』

 

 無線で文句を言いながら、エンデヴァーは敵を倒し、どんどん広間の方に向かっている。

 ブレイカーも含めた仲間との合流。そのまま退避するというのが今回の作戦だ。

 出来ればウィスパーの捕獲まで持って行きたいところだが、敵がどこまで強くなっているか分からない以上深追い厳禁、そうブレイカーは言っていた。

 ……勿論、もう1つの仕掛けを起動する為なのだが。

 

「さぁ、とっとと回収するぞ!! お前ら、気張っていけ!!」

 

 周囲の部下達にそうがなり立てるとエンデヴァーは炎を滾らせる。

 

『いえ、貴方はそのまま増援を蹴散らしておいてください。救援任務はこちらに移りました』

 

「……どういう意味だ」

 

 無線に入って来た冷静な声に、思わず出した炎を引っ込める。

 

 

 

『貴方方も彼の個性の影響下に入るかもしれませんから……とっておきの手段を用意しました』

 

 

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

「増援はどうした!?……エンデヴァー? 何故ここにいる!? 他の組織の壊滅に動いてたんじゃ……分かった、こっちに近づけるな。それと何人かで薬の移動を開始しろ。この前みたいに奪われたら困るからな」

 

 突然の爆発音と入った部下からの通信に、ウィスパーは動揺したまま指示を飛ばす。

 

「……驚いた。最初から裏切り者がいるってのは織り込み済みだったわけか」

 

「そういう、事だね。

 だって妙な話じゃないか――薬に関わっている組織が次から次へと、センシティの手で潰されているなんてさ」

 

 1つや2つ、ついでに3つまでなら偶然で片付けることが出来るかもしれない。だがここ最近のセンシティの活動は、異常だ。

 しかも調査や生き残りの話を聞く限り、彼らは他にも共通点があった。

 欲をかいたのだ。

『もっと薬が欲しい』『レシピが欲しい』『薬の元締めを倒して自分たちが成り代わろう』など、似たり寄ったりだが、全ての組織がエヴォリミットに関する事で死歌姫と敵対関係を取ろうとした、あるいは裏でそのように動いていた組織ばかりだ。

 まるで組織に邪魔な連中を退場させるようにだ。

 最初はセンシティが裏でそういう稼業を営んでいるのかと思えばそうではなかった。彼女はいたってクリーンであると同時に、そのような事を出来る頭脳派ではなかった。

 もっと裏に何かがいる。

 そう判断して今回の作戦を立てたのだ。

 

「ハッ、だが死歌姫を引っ張り出す事は出来なかった訳だ――お前はここで消えるんだ」

 

「どうかなぁ? 俺の作戦はまだまだこれからなんだ――よ!!」

 

 ウィスパーの言葉を合図に、それは起こった。

 ガクッ、とウィスパーの視界がブレ、体を不自然な重力が引っ張る。

 慌てて下を見る。

 穴。

 先ほどまで自分が踏みしめていた地面に、膝まで埋めるような大きな縦穴が空いていた。

 

「足元がお留守だよ、ウィスパー」

 

 そう言った瞬間、ウィスパーの耳は、弾丸がこちらに飛来してくる事を〝聞いた〟。

 無理矢理穴から足を引きずり出し、その弾丸を回避する。

 

「なるほど、個性などのエネルギーそのもの感知出来ない、けど弾丸の感知は可能。薬で、とは言え、厄介な個性になったものだ」

 

 ブレイカーはそう言いながら、蹲っているセンシティを抱き上げ、傷付いている彼女の部下の下まで引く。既に頭の中で響く音は消えて、クリアになった思考で話を続ける。

 

「しかも個性の扱いに慣れていない様子だね。ちょっと不意を突かれるだけで解除され、おまけにもう一回やるには時間がかかるんじゃないかな? 特に、俺ら全員に個性をかけるのは」

 

「……だからなんだ? 偉そうにペラペラ講釈垂れてくれているようだが、重傷者2名と無気力な女1人を抱えてどうやってこの場から逃げる気だ」

 

 負傷者の1人は足を失っていて、とてもではないが1人で逃げることも敵わない。センシティは受けたショックが多すぎたからなのか、それとも彼の個性の攻撃に耐え切れなかったのか、いつの間にか気絶している。

 

「そうだね、走って逃げるのは無理だ。

 だから逃走手段はバッチリ用意させてもらった。君にはもう聞こえると思うけど?」

 

 そんな馬鹿な――そう言おうとして、彼の表情が変わる。

 風を切る音とエンジン音。連続して続くそれに聞き覚えがある。

 

「――ヘリか!!」

 

 ウィスパーが顔を上げると、ちょうど建物の陰から出現したヘリに動揺する。

 大したヘリではない。一応大人数の移動も想定して用意した大型ヘリに武装は付いていない。だが下手な機関銃よりも強力な存在がそこにはいた。

 

 

 

『――……ブレイカーさん、お待たせしました。

 これより、援護を開始します」

 

 

 

 無線から聞こえる音と実際に耳朶を打つ声が重なる。

 リビングライフのライフルが、ボルトアクション特有の装填の音と発砲音を断続的に奏で始める。ボルトアクションとは思えないほど素早い連続発砲に、ウィスパーはその弾丸に誘導されるように下がるしかなかった。

 

「さっすがリビングライフ、仕事が早くて確実だ。

 さぁ、とっとと乗り込んで、ほら、急いで急いで!」

 

「は、はい!!」

 

 盾になるようにウィスパーとブレイカー達の間に割って入るヘリに、ブレイカーの手を借りてセンシティの部下2人、そしてセンシティ自身を乗り込ませ、ブレイカーも乗り込む。

 

「エンデヴァー、こっちは全員乗った。援護ご苦労!!」

 

『――……ヘリがあるなんて聞いてないぞ!!

 なら俺がここにいる必要性ないだろうが!!』

 

 耳元で聞こえる怒声に苦笑する。

 こんなオッサンのダミ声に安心してしまう自分がちょっと嫌だ。

 

「ヘリが必要か分からなかったからね、用心の為と用意した甲斐があった。

 プランとしては君に助けてもらおうと思ったんだけど、増援の方に回ってもらった」

 

『それならそれで最初から言え、阿呆!!』

 

 もっともな意見だ。

 エンデヴァーを信じていないわけではない。だが念には念を入れ、情報をできるだけ秘匿するのは、ブレイカーのやり方というよりも既に癖のようなものだ。

 どんなに仲間や相手を信用していたとしても、そこは変わらない。

 それをわざわざ言って怒られる必要性はない。そう思って、ブレイカーは笑い声で誤魔化した。

 

「あはは〜、ごめんごめん、今度ご飯奢るよ」

 

『謝り方が軽い!! お前はいつもそうやって、』

 

「あ〜、俺これから次の餌用意しなきゃいけないから、通信切るよ、じゃ〜ね〜」

 

『あ、まだ話は、』

 

 そこで壊は無線を外し、今度は携帯を取り出し、ここ数日で入った新しい番号に電話する。

 一応連絡ようにと教えてもらったものだ。

 

「あ、もしもし、お疲れ様です。はい、ブレイカーです。

 任務の方は終了しました……というより、終了せざるを得なかったという言葉の方が正しいでしょうか。幸い、貴女のお友達は無事ですけど、貴女の会社の社員から、裏切り者が出ましたよ?」

 

 電話の向こうの女性が驚く声に、ブレイカーは頷く。

 

「詳しい話は後で、病院に直行しますので、そこでセンシティから直接話を聞いてください。それでは、」

 

 そういうと、ブレイカーは強引に電話を切った。

 与える情報は最小限で良い。

 

「リビングライフ、指定した病室は空けておいてくれたかな?」

 

「――はい、勿論です」

 

 鞄にライフルなどの武器を解体して仕舞いながら、リビングライフは答える。

 

「今現在患者が少ない病棟の個室を1つ。これで敵が彼女を狙って襲いかかって来ても対処が可能です。病院にも根回しは済ませてありますが……かかりますか?」

 

 用意周到な計画、行き過ぎとも思える根回し、情報収集の手際の良さ。

 これまでブレイカーやリビングライフが逮捕して来た犯罪者や悪徳ヒーローよりもよっぽど優秀な敵だ。一度使われた餌にもう一度喰いつくとは思えない。

 その言葉に、ブレイカーは頷く。

 

「そうだねぇ、俺も普通だったら掛からないと思うんだけど……どうやら死歌姫って名乗っている敵さんにとって、センシティってのは重要な要素らしい。

 あそこでウィスパーに殺されないってのは、事前に考えていたんじゃないかな?」

 

 ウィスパーの個性は確かに強かった。問答無用で相手を攻撃出来るし、個性そのものがセンシティの天敵のようなものだ。

 倒すのは容易だっただろう。

 だが、もしそうなのであれば可笑しな点は――自分達の介入を許した事。

 センシティ1人を殺すのを狙っているならば邪魔だし、自分達のサポートが無ければ最初の3人はともかく、ウィスパーから生きて帰る事が出来なかっただろう。

 個性が平気だったとしても、センシティが裏切った相棒を容赦なく倒せるタイプとは思えない。

 ……ならば、最初っから自分達に干渉させないようにするのが理想だろう。

 

「それをしなかった……もしかしたら、俺達が想像しているよりもずっと、敵の目的は複雑なのかもしれないな」

 

 街の明かりを見下ろしながら、ブレイカーは思案顔でそう言った。

 

 

 

 

 

 





次回! 覚さんが泣くぞ! 涙ながらに待て!!


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