plus ultraを胸に抱き   作:鎌太郎EX

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episode6 試し験し

 

 

 

 

 

 道場で鍛錬をしている人間の声が木霊する。こうやって考えてみれば、この動島家で声が鳴り止むという事がなかなかない。常に道場部分に誰かしらいる。住居とは分けているものの、空き巣被害に遭う事はないだろう。

 ……もっとも、強盗だってなんだって、この家に盗みに入るなんて命知らずはいないと思うが。

 ボンヤリとそう考えていると、不意に電話が鳴り響く。

 珍しい。真昼間は父も自分も、ついでに言えば息子も出掛けている事が多い。自分や息子への個人的な連絡なら携帯端末に来るし、道場の人間が電話をかけてくるという事はあまりないので、もしかしたら緊急の用事かもしれない。

 洗い物をしていて濡れている手をエプロンで拭きながら、据え置きの電話の受話器を持ち上げる。

 

「もしもし、お待たせいたしました、動島です」

 

『――お久しぶりです、《ブレイカー》』

 

 その言葉に、一瞬だけ動揺する。

 彼の声を聞くなんて、一度ヒーローを辞めた時以来だったから。

 触合瀬壊……いや、今や動島壊となった自分がヒーローを辞め、それを彼が嘆いたあの日から、一度だってなかった。

 

「……ああ、久しぶりだね《リビングライフ》。僕が一度ヒーローを引退した時からだから、もうかなり昔になるね」

 

『ええ。驚きました、貴方が復帰しているなんて。一言言ってくれれば、自分も何かしら出来たかもしれないのに。水臭いですね』

 

「まぁ、普通の復帰ではない。今はエンデヴァーの元で働いている。パートタイマーみたいなものさ」

 

 時々、ブレイカーとしての知恵や経験、そして力量を必要とする時のみ呼び出される形。もっとも壊への罰という側面もあるので定期的に顔を出さなければいけないが、炎司も自分もお互いどういうのに特化しているか分かっているので、無闇に仕事に巻き込まれる事もない。

 昔では考えられない。

 こんなに緩やかに、心穏やかにヒーローという仕事をやっていられるなんて。

 

『……やはり腑抜けましたね、貴方は。

 昔は法に逆らった存在を、闇の中に隠れる存在を暴き容赦無く破壊していた貴方が、今ではあのエンデヴァーさんの使いっ走り。しかも、昔の信念を忘れている』

 

 怒りと寂しさの混じり合った複雑な声色に、壊は笑みを浮かべる。

 相手に見えないと分かっていても。

 

「君は昔からそうだったよね。法を犯す存在を倒せるならば法を犯しても良い……とても良い矛盾だと思うし、僕はそれを否定する気はない。

 だが、僕はもう辞めた。そういうのはもう、必要ないんだ」

 

 自分の活動後は、法整備がしっかりして、ヒーローという職業の裏で行われている不正が暴かれやすくなったし、知能犯に対する捜査権限も拡大した。

 勿論巧妙に隠れている人間はまだ沢山いるが、それは人間というある意味業が深い生き物の特徴のようなもので根絶が難しいのは分かっている事だ。

 それに、息子がこれから頑張ってくれる。彼が頑張ってくれるならば、少なくとも今以上に良い世界になってくれるだろう。親が1番にそう信じてやらなければ。

 

『まだです。

 敵も悪徳ヒーローも卑劣だ。どんな手で来るか分からないのは分かっているでしょう。相手がどんな方法でも取って来るならば此方も卑怯や卑劣を気にして戦い方を制限する必要性はない。

 まだ世界には、貴方のような人が必要だ――センシティのような人間ではなく』

 

 リビングライフの言葉の中に混じった強い怒りに、彼はまだ彼女を吹っ切れていないんだなと改めて知った。

 ……センシティと自分が共闘し始めたあの頃から、リビングライフはセンシティに反感に近いものを持っていたし、センシティはリビングライフに苦手意識を感じていた。

 理性優先と感情優先。

 敵を倒すならば多少の犠牲はやむを得ないという彼と、

 敵も犠牲者も全員を救けようとして必死に抗う彼女は。

 決定的にその信念の起点から末端まで、真逆の存在だったと言って良いだろう。

 真逆になってしまったのが、あの頃の壊のスタイルにリビングライフが影響されたからこそという所が、この件から壊を部外者だと外せない理由でもあるのだが。

 

「……僕は君の信念も、覚ちゃんの信念も否定出来ない。

 どちらも正しいし、どちらも間違っている部分はある。それは人間の考えだからどうしようもない。欠点がない物なんてないんだよ」

 

『違いますブレイカー。彼女は決定的に間違っていた。

 あの信念は他人の信念を否定する、食い殺す。他人の正義を踏み躙る行いであり……あんな綺麗な姿では誰も救えない。泥を掬い沼を清流溢れる湖畔にするならば、泥に塗れなければいけなかったのに、彼女は最後までそれをしなかった』

 

 人にとって余計な物を、心を守ろう。

 そう思ってヒーローになった彼女の信念はあまりにもお綺麗過ぎる。その下に積み重ねられた悲劇や悲嘆に嘆くのでは意味がない。

 それを減らしていける効率的な救い方が、明確な規定が存在しなかったセンシティの正義は間違いであると。リビングライフの語気は荒くなる。

 

『敵に手紙を送って改心を促す? 愚かだ。敵は永遠に敵だ。今も昔も、敵は同じことを繰り返す。改心など出来ない存在だ』

 

「だから君が泥に塗れてでも社会的に屠る、と?

 それじゃあ自警員や、ヒーロー殺しと変わらない」

 

『異な事を言いますね――俺にその方法を教えたのは貴方なのに』

 

 ……そうだ。

 分壊ヒーロー《ブレイカー》は、そこを間違えていた。

 人を救う為に犠牲を伴い、社会を守る為に社会の法を破ってきた。だから自分は、リビングライフの言葉を完全否定出来ない。

 

『そして、動島覚が抱いた間違った信念を――息子さんもお持ちなようで』

 

 その言葉に、壊の皮膚が粟立つ。

 

「どういう、意味だ」

 

『雄英の資料と、自分が調査した結果ですよ。

 誰も殺さない、誰もを救う……実に愚かです。この信念の為に犠牲にされる人間を思うと胸が痛みます』

 

「僕の息子を調べて、君に何の益がある?」

 

『益はあります――報告が遅くなってすいません。

 雄英の期末試験、その演習科目の試験官になりました、俺が動島振武の担当です。もっともその試験の特性上、もう1人余計なお嬢さんまでついてきましたがね』

 

 なるほど、そういう事か。

 壊の意外と冷静な心は、そう納得の声を上げる。

 振武は近接系ではプロヒーローにだって負けてはいないし、戦い方の自由度も非常に高い。アレの弱点を類推するならば……間違いなく、リビングライフの戦い方は有効だ。

 動島振武が拳で相手を殴る、近接系に特化している時点でどうしても超えられない部分なのだから。

 

『……俺は息子さんに試練を与えます。

 嘗てのセンシティと同じように、貴方のような有望な信念を持つ人間を潰してしまう前に……綺麗事で人に無闇に希望を与える前に、

 

 

 

 ――俺が、振動ヒーロー《ヘルツアーツ》を矯正する』

 

 

 

 既に確定事項。

 彼では自分を超えられない。彼が自分のスタイルを貫き続ける限り、リビングライフにその拳が届くことも、勝利を収めることもないだろう。

 動島振武が敗北という苦渋を噛み締め、ヒーローを辞めるか、自分の信念の限界を今の段階で知って方向を変えるのか。

 どちらにしてもリビングライフの目的は果たされる。

 そうすれば、きっとブレイカーも考えを改めて、

 

 

 

「――うん、良いよ。思いっきりやってみなよ。

 ただまぁ、そう簡単にはいかないと思うけどね」

 

 

 

『……どういう事ですか? 俺では彼に勝てないと?』

 

 平静な声の壊に、リビングライフは不審な声を上げる。

 

「あぁ、いやいや違うよ。君は確かに強いし、なるほど、振武との相性も抜群。きっと戦えば負けてしまうだろうね。

 でも、君が勝っても目的は果たされない。何故なら、あの子は僕とも君とも……そして、覚ちゃんとも違うからね」

 

 《センシティ》とも、

 《ブレイカー》とも、

 そして――《リビングライフ》とも。

 彼の信念やその信念を叶える為のプロセス、そして想いの強さや立ち上がる時の強さ。

 まるで違う。もはや別次元だ。

 

「振武の信念を、心をへし折り、あるいは変えるというのが君のゴールならば、気をつけると良い……あの子は君以上に、ぶっ叩かれてから這い上がるのが得意なんだ」

 

『……試験が終わったらまた連絡します』

 

 これ以上話す事はない、そう言わんばかりに乱暴に切られた電話に、困った子だと思いながら受話器を置く。

 そもそもあの子がそう簡単に変わるのであれば自分がとっくに変えられているはずなのだ。自分が干渉したのを彼は知らなかった様子だから、知らないのはしょうがないが……だがそれ以前に、リビングライフは明確に間違っている。

 

 

 

「うちの子1人を相手にしているだけだと思っている時点で、既に負けているよ、リビングライフ」

 

 

 

 ……さて、息子が試験を終えたお祝いをしなければ、献立はどうしようか。

 そう思いながら、壊は頭の中で買い物しなければいけない品々を纏めていた。

 

 

 

 ◆

 

 

 

 筆記試験は皆無事に通過出来た。

 

「出来た、じゃねぇんだよ!! お前家おかしいんじゃないの!? 同じような問題一晩中延々とやらせやがって!」

 

「そうだよ!! しかも、あの塚井のメイドさんずっとネチネチ攻撃してくるんだよ!? 精神と頭脳ボッコボコにされて死んじゃうかと思ったよ」

 

 コスチュームを着て待機している所で、上鳴と芦戸が悲鳴にも近い絶叫を上げる。

 人のモノローグに勝手にケチつけ始める辺り、よっぽど精神的に堪えたんだろう。

 

「うるせぇなぁ、むしろ成績上がったんだから感謝されても良いくらいなのに」

 

「そうですよ、それに四ツ辻さんの事はしょうがありません。いくら当家の使用人と言っても、個人的な趣味まで制限出来ませんからね」

 

「嬉しいけど全然嬉しくない!! あれなら寺で三日三晩般若心経写経した方がまだマシだ!! それも嫌だけど!!」

 

「客人に精神攻撃を仕掛けるのが趣味って最悪でしょ!? まだ相澤先生の方が優しいと思ったくらいだよ!!」

 

 振武と魔女子の言葉に、2人は悶絶している。

 般若心経写経の方がマシってどんな問題内容だったのか後で百に確認したいし、四ツ辻と呼ばれているメイドさんの精神攻撃は確かに悪趣味だが。

 結局のところ2人の罰だったのだ、こればっかりはどうしようもない。

 

「今度似たような事やったら、今回の件が生緩いという感じの罰を差し上げます。

 塚井家完全監修&バックアップで行われますけど……どうします?」

 

「「ハイ!! もう2度としませんマム!!」」

 

 目のハイライトが消えた魔女子の勢いに押されて、ビシッとした敬礼を決める2人。流石にあれにはもう懲りたらしい。

 これで少しは悪戯心が消えてくれれば良いと思うのだが……いや、無理だな、2人とも馬鹿だし。

 

「まあ、過ぎた事はさておき……拳藤さんの話通りでしたら、この演習試験も皆さん難しくはないのでは?」

 

「そうだな。ぶっちゃけロボは体育祭で出たが、皆無理なく行けたし」

 

 隣に立っている百と焦凍の言葉に、振武も小さく同意の頷きを返す。

 仮想敵は正直言えばそう強い存在でもない。小さいものだったら振武的弱パンチでも倒せる。しかも入試試験の時や体育祭の時に既に戦い、しかも今回はコスチュームのバックアップ有りというのだから楽勝だろう。

 ……楽勝過ぎる。

 

(雄英がそんな簡単な試験をやるのかな? 総合的復習って意味も兼ねているんだったら、自分がどこまでやれるか見る上で最適だけど……素直に信じられないんだよなぁ)

 

 相澤の事だ、お決まりの「合理的虚偽」とか言って試験内容を当日に変えて来てもおかしくはない。もっと悪辣でえげつないのがくるかもしれない。

 

「(まぁ何が来たって、俺には関係ない。俺の拳はどんなもんでも貫くゼ☆)」

 

「あのごめん魔女子さん、人の脳内を勝手に書き換えようとしないでくれない? なんだよ、ゼ☆って」

 

「すいません、動島くんは素直ですので、考えている事が顔に出ていましたから、つい。

 ……でも、私も正直このまま楽勝な試験だとは思えないんですよねぇ」

 

 振武のツッコミにもめげず、魔女子が小さく溜息を吐く。

 その言葉に、百もどこか嫌そうに頷いた。

 

「……それ、出来るだけ考えないようにしていましたけど、やっぱりありそうですか?」

 

「言い切れないでしょうねぇ。最悪、あの情報そのものが先生達や先輩達が流した、ブラフである可能性も捨てきれないでしょう。

 それくらい平然とやりそうですもん、この学校」

 

「でもそうなると、情報撹乱に惑わされず常に様々な状況に対応出来るようにするってのも、先生達の狙いなのかな?」

 

 会話の中に入って来た出久の言葉に魔女子は頷く。

 

「あり得ない話ではないですね、それも。でしたらば、この場合どういうものが来るでしょう」

 

「そうだね……ロボットと見せかけて、もっと凄いモノを出して来るんじゃないかな?」

 

「1人1人の力量を図るのであれば個人個人を対象に――」

 

「でもその場合人員が――、」

 

「やっぱり、――」

 

 あぁ、ダメだ、1年A組の中でも最も頭の良いメンツが会議を始めてしまった。

 下手をしたら、先生達がやって来てネタばらしをする前にネタを解読してしまう可能性があるな。

 

「ケッ、どんなんが来ようがブチ殺せば良いだけだろうが、くだらねぇっ」

 

 いつも通りイライラを隠す気も感じられない爆豪が怒鳴る。

 ……ここ最近は、いつもこんな感じだ。普段であればもう少し大人しいのだが、出久が力を付けていると知ったあの日から、まるで何かに追い立てられているかのように余裕がない、ように振武には見えた。

 爆豪勝己。

 このクラスの中でだって十分上位の人間に立っているはずなのに、どうしても1番になりたいという気持ちからか焦りのようなものを持ち続けている。

 振武に対しても、焦凍に対しても――出久に対しても。

 特に出久に対しては酷いものだ。幼少期から彼が弱い存在だと認識し続けている爆豪にとっては、いきなり同じ土俵に上がって来て苛立っているんだろう。

 ……みみっちい、と思ってしまうし、振武には理解出来ない。振武は遥か上に目指す人がいて、正直自分が上に立っている、優位に立っていると自覚した事はなんてない。

 このクラスの中でだってそうだ。上位の力を持っているが1番ではない。焦凍にだって爆豪にだって出久にだって負けてもおかしくはない。

 もっとも、優位に立っている自覚がないのと、自分の力に確信と自信がないというのは、また別の話だ。

 自分の拳を信じられなければ、振るう事すらままならなくなるのだから。

 

「おう、お前ら、ペチャクチャ喋ってねぇで並べ、そろそろ説明始めんぞ」

 

 遠くから歩いて来る相澤の声に、生徒達は皆思い思いに並び始める。

 その時に魔女子から聞こえた舌打ち……恐らく幻聴でもなんでもないだろう、3人合わされば文殊の知恵も超えそうな3人の会話だ、良いところまで行っていたのだろう。

 そして並び直した生徒達の前に、先生()が立つ。

 そう、立っていたのは担任の相澤だけではなかった。プレゼントマイクやセメントス、エクトプラズムやスナイプといった教師陣が、生徒達の顔をよく見るように立っている。

 何人か授業では会った事はない人も何人かいる。

 

「なんか、先生多い……?」

 

「多いよねぇ、なんでこんなにいるんだろう?」

 

 不審に思ったからか、他の生徒達もどこか不安そうに声を上げ始める。もっとも頭が行ってない馬鹿2人はここまで来てまだ対ロボットだと思ってヘラヘラしているが。

 

「……嫌な予感、的中したな、振武」

 

「やめてくれよ焦凍、まだ確定していないんだから」

 

 半ば諦めながらも、振武は小声で返す。

 

「あぁ〜、諸君なら事前に情報仕入れて、何するか薄々わかってるとは思うが……」

 

「入試みてぇなロボ無双だろ!」

 

「花火! カレー! 肝試ーーーー!」

 

 相澤の言葉に被せて来るように、上鳴と芦戸の歓喜の声が上がる。

 ロボ無双ならば彼らはもう既に経験済みだし、何より出力を気にしなくて済む相手というのが嬉しいのは分かる、分かるけど、多分そうじゃない。

 振武がそう思っていると、

 

 

 

「残念! 諸事情あって、今回から内容を変更しちゃうのさ!!」

 

 

 

 ネズミなのかなんなのかよく分からない姿をしたファンシーな生き物……この雄英高校の校長が、相澤の捕縛武器の中から登場した。まるでいきなり生えて来たみたいな勢いというか、ズバッと出たはずなのにヌルリとでも表現したくなる。

 そもそも、どうやって隠れていたのか気になるほど気配が消えていたのだが……。

 

「……おい、振武、上鳴と芦戸がすげぇ面白い形で固まってんぞ」

 

「彼奴らは放っておけ」

 

 振武がそう言うと、焦凍もそれほど興味がないのか、そうか、と言うだけで再び正面を見る。

 

「で、先生? 変更というのは?」

 

 予想が半ば当たっていたせいなのか、それとも生来の癖なのか……恐らくその両方である魔女子は、動揺も悲嘆にもくれず校長の先を促す。

 

「うん! それはね……これからは対人戦闘・活動を見据えた、より実戦に近い教えを重視するのさ!

 というわけで、諸君にはこれから2人一組(チームアップ)で、ここにいる教師一人と戦闘を行ってもらう!」

 

 校長の言葉に、クラス全体が騒つく。

 教師……プロのヒーローとの全面対決という事か。

 言いたい事は分かる。分かるが、普通の高校ではやはりこういう考えには至らないだろう。雄英だからこそとも言える、無茶なやり口だ。

 

「尚、ペアの組と対戦する教師は、既に決定済み。動きの傾向や成績、親密度……諸々を踏まえて独断で組ませてもらったから、」

 

 校長の言葉を引き継ぎ、相澤の言葉に、皆キョロキョロと見渡しながら類推し始める。

 チームアップ。

 

(焦凍、魔女子や百なんかと同じチームになりゃ、それなりに連携もしやすいけどなぁ……あんまり絡んだ事がない相手はちょっときついかもなぁ)

 

 チームアップするのであれば、連携する事も大事な要素だろう。

 爆豪辺りだとその連携が崩れそうだし、あまり話した事がないメンツだと今度はお互いのタイミングやスタイルを掴みきれないところがある。

 ある程度合わせられる相手が良いと思うのだが、どうなるのだろう。振武も興味津々で相澤を見る。

 

「発表してくぞ。まず轟と、八百万がチームで――俺とだ」

 

 どこか楽しそうに、相澤は捕縛武器を持って構える。

 基準点が分からないのでどうしようもない事だが、この2人が組むという事もなかなか貴重で面白い。

 コミュニケーションが取りやすい相手が候補としていなくなるのは少し痛いが……隣でさりげなく落ち込んでいる魔女子と比べればマシだ。

 

「残念だったな、塚井」

 

「……まぁ、こればっかりはどうしようもありませんしね」

 

 振武の言葉にしょうがないといった感じで頷く魔女子。その反応を気にせず、相澤は先を続ける。

 

「そして、緑谷と爆豪がチーム」

 

「デ……!?」

「かっ……!?」

 

 相澤の宣言に、出久と爆豪が同時に声を上げる。

 ……これは、

 

「ある意味順当、という所ですね」

 

「……まぁ、な」

 

 2人の異常な仲の悪さ……というより爆豪の一方的な嫌いっぷりと、出久の一方的な苦手意識は皆知っている所だ。

 そう考えてみれば、ふたりを組み合わせることによって多少の解消を図るためか……あるいは、苦手な相手、嫌いな相手でも共同戦線を張って動けるかどうかと見るのが狙いなのか。

 どちらにしろ、対戦相手にも大きく寄ってしまう。

 

「で、対戦相手は、」

 

「――私が、する!!」

 

 相澤の言葉と同時に、出久と爆豪の前に進み出たのは、平和の象徴。

 出久の師にして最高のヒーロー。

 オールマイト。

 

「協力して勝ちに来いよ、お二人さん!!」

 

 オールマイトのいつもの笑顔とは対照的に、爆豪と出久の顔はこちらからでもハッキリ分かるくらいに引きつっている。

 あれに勝てというのは中々難しい。というより、普通に真正面から喧嘩を売っては勝つのは無理だと言えるだろう。

 全盛期がどれ程だったのか振武は知る由もないが、今の状態のオールマイトと戦えと言われたら振武だって断りたいし逃げたい。

 作戦などでどうそれを補えるか……なるほど、それで嫌い合っている2人なのか、と振武の中で小さな納得が生まれる。

 そして納得が生まれると同時に、雄英の意地の悪さをなんとなく実感するのだった。

 

「さて……次に、動島と――蛙吹だ」

 

 想像していた人間とは違う、しかし比較的やりやすそうな相手の名前が上がる。

 少し離れた所で、蛙吹は宜しくねと言わんばかりに、笑顔で手を振ってくれる。顔を緩ませ、振武も軽く手を振り返した。

 蛙吹梅雨……よく考えればクラスで話す事はあっても組んだ事は一度もないし、プライベートで話す事はあまりない。仲が良いが特別というほどではない。

 だが授業を見る限り、彼女はとても優秀だ。

 振武と違って戦闘能力だけという訳ではない。個性『蛙』という、蛙の能力を全て持ち合わせている彼女は、様々な場面で活躍し、しかも常に冷静で居てくれる。

 正直、組む相手で言えば、最高の人間だろう。

 

「で、対戦相手なんだが、こっちも教師全員がこの試験に関われる訳じゃねぇ。他の試験もある訳だしな。

 だから、外部協力者を呼んでおいた」

 

「ケロ、外部の、ですか?」

 

「――私だ」

 

 相澤の後ろから、教師と混じって居た1人の人物が出てくる。

 黒いヘルメットのような物を付け顔が分からず、これもまた真っ黒なロングコートを着ている。一見すればまるでSFアクションにでも登場しそうな姿。体格や身長から見ても、男性だろうが、その姿から想像出来るものよりも声が高かった。

 

「《リビングライフ》。まぁ君達のような若い世代にはあまり知られていない、紹介してくれた相澤先生と同じく、アングラ系ヒーローとでも思ってくれ」

 

 リビングライフ。

 その言葉に、思わず目を見開く。

 母の書いた本に出てきた、狙撃をメインにして戦っていたヒーロー。

 元は、父の相棒(サイドキック)

 それが、今自分の目の前に試練として立ちはだかった。

 

 

 

 ヘルメットから漏れる強い敵意を持った眼光に、

 動島振武は気付かない。

 

 

 

 

 

 




ようやく期末テスト演習試験、開始です!!
ここから戦闘シーンやらなんやらシリアスな展開が続きます。どうかお楽しみに。


次回! リビングライフの声が耳元から聞こえるぞ!! 耳をすませて……


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