plus ultraを胸に抱き   作:鎌太郎EX

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episode10 隣合う

 

 

 

 

『動島振武がリビングライフと戦闘を行なっている間に、蛙吹梅雨が屋上から出入り口目の前の道を通れる位置に降りる』

 一言で表せられるそれはそう難しくもなかった。

 まず、振武が天井に穴を開ける。一応確認してみても屋上に行ける階段はなかったし、トラップだらけの通路を移動させる訳にはいかない。

 その穴から梅雨が外に出ている間に振武は地面に穴を開ける、そのままエントランスへ。

 振武が戦っている時には、梅雨は既に建物の外壁を移動していたのだ。

 振武がリビングライフ本人に勝利しハンドカフスを付けるのが先か。

 梅雨がゲートを通り抜けるのが先か。

 あるいは両方とも看破され失敗になるか。

 その三択だったが、怒りと振武へのある意味での執着心から目が曇っているリビングライフだ。振武が目の前に立っていれば、そちらの方に目が行くし、戦闘ともなれば少なからず周囲への警戒も薄れるだろう。

 

「もっとも、アンタがいつも通りだったら……仕事している時と同じだったら、こんな作戦上手くはいかなかっただろうけど」

 

 もし、振武と同じくらい梅雨に警戒していたら。

 もし、屋上から外に出るという可能性を考慮に入れていたら。

 もし、戦っている最中も周囲に気を張れるだけの余裕が彼にあったなら。

 この作戦は完全に失敗していた可能性の方が高い。言い方は悪いが、ある意味順当で普通の計画だから。

 だが、リビングライフはダメだった。

 動島振武という存在に固執し過ぎて、蛙吹梅雨という存在に気付けなかった。

 

「……つまりお互いが囮。もし蛙吹梅雨の動きに俺が気付けたとしても、俺の妨害をお前がし続ける限り蛙吹梅雨の安全は保障される。

 そしてお前が俺に倒されたとしても、蛙吹梅雨が勝利条件をクリアする事によって、目的は達成。お互いが生き残る上での最善だったわけか」

 

「結果的に、だけどな。俺は俺で人の事は言えない。俺はどうやら、頭働かせたりなんていうのはガラじゃないみたいだ。結局、戦う事の方に比重が乗っちまう。

 だから蛙吹ちゃんが言った、俺らしくってのを実践すると、こういう作戦になっちまう」

 

 正面きって殴り合う。

 仲間を信じ、頼る。

 動島振武が出来る事は、この2つだけだ。

 

「でも出来ない事を人に任せるってのも立派な策だろう? それを否定し始めたら、チームアップなんて必要ない」

 

「……そうか。俺はお前を見誤った訳だな」

 

 リビングライフも、

 リビングライフが憧れたブレイカーも、

 リビングライフが憎んだセンシティも。

 基本的には孤独だった。周りに人はいたが「頼る」という事に悉く向かず、結局利用するか守るか、あるいは本当に補助としてしか人を見れなかった。

 根幹的な部分で、リビングライフ達は孤独であり続けた。

 だから気付かなかった。

「お互いがお互い、上手くやれるだろうと信じて行動する」なんていう事は。

 

「……あぁ、期末テストとしては俺の負けだ。

 だが、甘く見るな。俺はお前とは違う、人に頼る? 信じる? そんな甘い考えが通じるとは思えない。俺の考えを変えたいのであればもっと理論を、」

 

「変えたいだなんて、思ってないよ」

 

 諦めたようにそう話すリビングライフに、振武は言う。

 

「変えたいとも、否定したいとも思わない。

 言っただろう、アンタやブレイカーの考えは、綺麗だって。悲しいし、俺の信念とは相容れないないものなのかもしれないけど……それでも、アンタらの正義だって正義だよ」

 

 痛む胸を押さえながらも、必死に立ち上がる。

 座り込んでいてはダメだ。

 立って話をしないと何も通じない。

 

「アンタの言った部分だって正論だよ、俺はそれを拒否出来ない。

 俺はまだまだ間違いだらけで、迷ってばっかで、踏み外す事だって沢山ある。

 でも、それでも俺は胸はって言い続ける。アンタ自分の信念にプライドを持つように、俺も俺の信念にプライドがある」

 

 だから、

 

 

 

「喧嘩し合いながら、一緒に行こう。

 相容れないからって、隣に立てない訳じゃないはずだ」

 

 

 

 受け入れられない、認められない、信じられない。

 人間が本当の意味で胸の内に入れられる他者など少数でしかない。出会った全ての人間を認められる訳がないし、出会った全ての人間に認められる筈もない。

 しかし隣人としてなら。

 全く違う考えを持っていたとしても、同じ方向を向いて歩く事くらい出来るはずだ。

 だってヒーローとはそういうものだから。

 理念や思想、望みが違っても「平和」と「人々の幸せ」を守るために「理不尽」に向かっていける存在だから。

 

「――――――」

 

 愚か者とは、時に様々な意味を表す。

 ただただ蒙昧なだけの人間の事を指す時もあれば、一見愚かに見えてしまうほど真っ直ぐな人間もいる。

 なるほど、目の前の少年は後者だろう。

 あまりにも愚かだ。そんなものを受け入れられる筈もない。隣に立つ、馬鹿馬鹿しい。

 

「……やはり貴様は、あの女に似ている。気に入らないよ、本当に」

 

 受け入れられない。

 だが何故だろう。

 それを口に出す事は、流石のリビングライフでも憚られた。

 その言葉に、振武も否定を入れない。

 母親に似ているねなんて言われて、嬉しくないはずがない。なにせその女性は、振武にとって憧れの正義の味方なのだから。

 照れ臭そうにハハハと笑ってから、すぐに胸の痛みで顔を顰める。

 

「歩けるか?」

 

「……歩けるだろうけど、結構きつい。喋ってんのもちょっと億劫なくらいだ」

 

 呼吸をする度に痛みが走るなんて嫌なものだ、慣れてきても嫌なものは嫌だ。

 

「動島ちゃん!!」

 

 出入り口から入ってきた蛙吹が、慌てて振武の前に駆け寄る。

 どうやら一度ゲートを出てからこちらに戻ってきたようだ。別に死ぬ訳じゃないんだから、来る事なかったのに、などと思いながら、それでも彼女の優しさに癒される。

 

「蛙吹ちゃん、ナイスゴール! アタタタ」

 

「動島ちゃんの方こそ、ナイスアシストよ。

 でも、大丈夫、肩貸しましょうか?」

 

「あぁ、大丈「……そこで遠慮するのか、仲間を信じ頼ると言う言葉はどこへいったんだ貴様」夫――うぉ!?」

 

 大丈夫といって蛙吹の申し出を断ろうとした瞬間、憎らしい言葉と共に視界が上へと引っ張られる。

 リビングライフの肩に担ぎ上げられたようだ。

 

「ちょっ、俺1人で歩けます!」

 

「知っている、だが怪我人を1人で歩かせるなど、試験官としてどう文句を言われるかたまったものではない。一応体裁は整えておかねばな。

 それに……恥ずかしいだろう?」

 

「恥ずかしいし、地味に振動で痛いです」

 

 その言葉に、リビングライフは笑顔を浮かべた。

 さも、私は今絶好調に楽しいといっているような意味で。

 

「あぁ、それは好都合だ。俺はこれだけ自分に有利に進められる状況で負けたんだ、当然悔しさはある。それに俺は、お前を受け入れも認めもしていない。

 なので、移動中はその地味な恥ずかしさと痛みに悶絶すればいい。実際、自分で歩くよりも早くて良いだろう?」

 

「……アンタ性格悪い!!」

 

 負けたからってそんなのアリですか?

 

「試験官は一時的にではあるが教師と同等の権利を与えられている。俺の指示に従って貰おう」

 

「ちょまっアタタタ振動が傷に響く響くちょっと止まって」

 

「聞こえないな」

 

「やっぱアンタ性格悪いだろう!?」

 

 言い合いを続けながら移動し始めるリビングライフと振武を尻目に、蛙吹はリビングライフが投げ捨てたヘルメットを持って後を追いかける。

 

「ふふっ、ちゃんとお話出来たみたいね。仲良くなってよかったわ、ケロケロ♪」

 

 どこか微笑ましそうにしながら。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 吹き抜け構造になっているゲート付近の広間は相当広い。それこそ視覚を強化する個性を持っていないエクトプラズムでも周囲を見渡すのは容易だ。

 

(問題ハ、ドウ来ルカ……)

 

 彼らがもうすでにここに近づいている事も理解しているが、途中で分身達は撹乱に会い、正確な場所は分からない。

 だが狙いは自分。

 自分にハンドカフスをつけて捕縛か、背後にあるゲートを通過して逃げる。それ以外に条件がないのだから、必ず来る。

 問題は方法だ。

 もし塚井魔女子が自分の思考の硬さを制御出来なければ、彼女本人が捕縛、またはゲートを通ろうとし、常闇踏影にそれをフォローさせるだろう。

 それをやれば、分身達を使って両方を捕縛する事が可能だ。

 だがそれ以外の方法を見つけるならば、それはそれで上手い。弱点を克服したと言う事だ。

 さてどうするか、

 

 

 

 そう考えていた時、いきなりエントランスに水色のネズミの雨と波が押し寄せた

 

 

 

 エントランスを埋め尽くさんばかりのネズミが、群体でエクトプラズムに襲いかかって来る。

 文字通りの物量作戦。

 

「ナルホド、上手イ」

 

 分身一体一体でこれを相手するのは非常に困難だ。何より一匹一匹と換算せず、もはや流動的な1つの巨大な生き物と考えた方が良いだろう。

 そんな大きな敵に相対出来る個性ではない。そう判断した上での攻撃。

 

「――ダガ、甘イ」

 

 そうエクトプラズムがそう言った瞬間、地面に巨大な顔が出現する。

 エクトプラズムの顔を模した巨大なそれを、エクトプラズムは『強制収容・ジャイアントバイツ』と呼ぶ必殺技。自分の分身を全て使用した、絶対捕縛技だ。

 まるでオキアミを飲み込んでしまう鯨のように、その巨大な口は大半のネズミ達を飲み込む。

 意味はない。この技は強制的に捕縛は出来てもダメージはない。だが大量のネズミを操るために塚井魔女子は1人では動けない。

 だから、

 

「狼ヲ創リダシコチラニ攻撃ヲ仕掛ケル事ハ、読メテイル」

 

 近づいてきた狼を、エクトプラズムは器用に脚で牽制し、そのまま踏みつけるようにする。

 だが、あまりにも軽かった。

 

「?」

 

 狼の上に、塚井魔女子はいなかった。

 ではどこに、そう思い行動に出る前に、足元でガチャリと言う音がする。

 踏みつけている方の足ではない、軸にして立っている足に……ハンドカフスと、それを取り付けた黒影がいた。

 

「……常闇踏影。イツノマニ、」

 

 そこではたと思い浮かべる。

 意識をそらすだけならばこの狼でも良かったのだ。確かにネズミの群体は対処が難しいが、エクトプラズムがその程度で圧殺出来るような。

 空から降り注いだネズミと、地面を巨大な壁のようにして移動してきたネズミ。

 なるほど、

 

「視線ヲ上ニ誘導スルと同時に、壁ヲ作ッテ視界遮リ、オ前ガ移動出来ルヨウニサポートシタトイウ事カ」

 

 そしてだめ押しとばかりに、狼がこちらに攻撃を仕掛けた。

 踏影がエクトプラズムを確実に捕まえる事が出来るように。

 

「それだけではありません、先生」

 

 通路の奥から、魔女子がゆっくりとした足取りでやってくる。

 

「きっと先生は、私が常闇さんを信用せず、重要な局面を1人で行おうとするだろうという「考え」がありました。だから完全サポート。私はあくまで貴方の気を逸らす事だけに集中し、」

 

「常闇ハ、私ヲ捕マエル事ニ専念シタ」

 

 そしてこれでダメだったならば、今度は常闇踏影を牽制に使って魔女子がゲートを通れるようにまで計算に入れていたのだろう。

 

「……今回は、常闇さんの出来る事と私の出来る事を純粋に総合したらこうなってしまいました。ですが、まだ甘い」

 

 最悪本体を動かさずにある一定の距離移動出来て実体のない黒影は、足音もしなければ殆ど気配もない。故に強烈な気配の後ろで動くのは、彼が適任だ。

 ……だがもう少し上手く出来ていたように思える。

 もっと、常闇にタスクを振り分け、安定した作戦が。

 

「ソレデイイ」

 

「……はい?」

 

 エクトプラズムの言葉に、魔女子はキョトンとする。

 

「全テヲ簡単出来テシマッテハ、我々ノ存在意義ガナイ。大イニ学ベ」

 

 出来る出来ると言われていても、まだ15歳の少女だ。

 簡単に成長できる筈がない。1人では出来るはずもない。

 その為に自分達がいる。未熟な彼らを立派なヒーローにするのが、エクトプラズムも含めた全ての雄英高校教師の仕事だ。

 そして彼女は優秀だ。

 きっと最善、いや、知略においてこれからヒーローの中でも指折りの人物になるに違いない。何せまだまだ成長の余地を残していてコレなのだから。

 

「塚井ノ知恵ヲ生カシ、ヨリ知略ヲ伸バス手助ケヲ、我ラガシヨウ。

 焦ルナ」

 

「……はい、ありがとうございます、先生」

 

 片言のような奇妙な喋り方で、どこかおどろおどろしい仮面をつけて怖い先生だが、素晴らしい先生だ。

 そう思って、魔女子は顔を綻ばせた。

 

「塚井、お前で無ければこう簡単には行かなかっただろう。礼を言う」

 

「アリガトウナ!」

 

 常闇と黒影の感謝の言葉に、魔女子は首を振る。

 

「いいえ、私1人では接近してハンドカフスを掛ける事が出来ませんでした。

 これは、貴方が……いえ、この場合、貴方方がいてくださったからこその勝利です」

 

 そう言って、手を差し出す。

 一瞬なんのことだが分からなかった常闇だったが、すぐに勘付いてその手を取る。黒影も嬉しそうに、その上に手を重ねた。

 勝利の握手。

 そうしてみると、意外に悪くはない。そう思う中で、

 

『塚井・常闇チーム、条件達成だよ』

 

 リカバリーガールの勝利宣言が響いた。

 

 

 

 ◆

 

 

 

「……さて、で?

 お前さんはまぁた怪我をして帰ってきたんだね」

 

「あはは、面目無い」

 

 どこか申し訳なさそうに、しかし誤魔化すように笑う。

 リカバリーガールの保健室出張所。そこで会場全体の管理とやって来た生徒の治癒をするのが彼女の役割だ。

 そんな中で胸を怪我している振武と、憮然として立っているリビングライフがいた。

 蛙吹は怪我もなかったので、先に戻って貰った。最初は心配して治るまで一緒にいると言っていたのだが、この出張所はそれほど広くはない。人が沢山いてもややこしいだろうと、リカバリーガールが帰してくれたのだ。

 その流れでリビングライフも帰ろうとしたのだが、「アンタは残りな」というリカバリーガールの鶴の一声で、渋々ここに残っている。

 

「まぁ今回はあんたの所為じゃないけどね……どっかの馬鹿が我を忘れただけさ」

 

「……我を忘れた事は文句も言えないが、馬鹿は酷くないか?」

 

 リビングライフの不満そうな声に、リカバリーガールはフンッと鼻を鳴らす。

 

「馬鹿だろうが、アンタ普段の戦い方をしてりゃ、もうちょっと試験らしくなっただろうに……なんでこんな子に育ったんだろうねぇ、この子は」

 

「アンタに育てられた覚えはないよ、婆さん」

 

「相変わらず失礼な子だね!! せめて伯母さん、もしくはお姉さんと呼びな!!」

 

「もうそんな年齢でもないだろう、歳を考えろ」

 

 まるで慣れ親しんだ者同士の喧嘩に、違和感を覚えて振武は手をあげる。

 

「えぇっと……リカバリーガール、彼とはお知り合いで?」

 

「あぁ、言ってなかったね。

 

 

 

 こいつは私の妹の子供……まぁざっくり言えば、甥っ子だよ」

 

 

 

 ………………。

 

「……甥っ子!? アタタタタ」

 

 驚きで叫んだ拍子に、傷が痛む。

 あの優しくも厳しいリカバリーガールと、この容赦の無い男が、血縁者。

 まるで想像出来ない。

 

「まぁ、実感湧かないだろうねぇ。私もなぁんでこんな捻くれた子になったか分からないよ」

 

「少なくとも、アンタに影響を受けたと言うことはないだろう。アンタに影響を受けたら、お菓子ばかり配り歩くヒーローとしてはちょっと微妙な存在になってしまう。

 生憎俺は、年中ハロウィン気分ではいられないのでね」

 

「相変わらず口が悪いね!! もういい、絞め殺されたくなかったら、とっとと出ておいき! 説教は後でするからね!!」

 

「自分で引き止めたくせに、全く女性とは理不尽なものだ。

 ……おい、動島振武」

 

 ヘルメットを小脇に抱えながら、リビングライフは立ち上がる。

 

「俺は、お前を認められない。お前はいつか、大きな問題に直面する。

 その時壊れるか、化け物になるのか……その時は、俺が引導を渡す。その時は胸に撃ち込まれた弾丸が本物になるという事を、よく覚えておけ」

 

 自分の言いたい事をはっきりと言って、リビングライフはそのまま出張所を後にした。

 

「……すまないね。

 私やあの子の親としては、可愛がったつもりなんだけどね……どうしてああいう子になっちまっったんだか」

 

 申し訳なさそうにしながら、リカバリーガールの唇が注射のように細くなり、振武の体につく。そうするといつも通り、みるみる内に傷が治り、その代償として体に疲労が重くのしかかった。

 それを気にせず、振武は首を振る。

 

「いえ、良いんです……あの人はあの人で、凄い人だし」

 

 傷が治る、生き返る。

 それが分かっていたとしても、自分からそういう状況に飛び込んでいくというのは生半可な精神力では為せない。そしてそれだけの精神力を身に付ける為に、必死に努力したのだろう。

 だから、あの人は凄い。

 傷を受けても、死ぬような状況に追い込まれても、自分の信念を貫ける。

 それは、まるで、

 

「……あの人、ちょっと緑谷に似てますよね」

 

 一緒に肩を並べて切磋琢磨している友人を思い浮かべた。

 

「そうかい?……うん、まぁ、そうだね。

 あの子みたいに危なっかしいのは、確かだねぇ」

 

 家族として、大切に思っているのは確からしい。リカバリーガールの顔に、誇らしさと不安が入り混じっている。

 その顔を少し微笑ましい気持ちになってから見ていると、視界の端に入っていた画面の変化に気付く。

 

「……緑谷、勝ったんだ」

 

 気絶している爆豪を背負って、ゲートを抜ける緑谷の姿。

 振武以上に、2人ともボロボロだ。相手がオールマイトという事もあるが、2人ともきっと無茶をしたのだろう。

 喧嘩し合い、どつき合いながらクリアした姿が、眼に浮かぶようだ。

 

「おっと、そうだった――『緑谷・爆豪チーム、条件達成したよ!!』」

 

 据え置きのマイクを使い、リカバリーガールが宣言した。

 今の所、何組かクリアしているようだ。

 画面をいくつか見渡していると……1つの画面に視線が吸い寄せられる。

 

「……百?」

 

 相澤の捕縛装備で拘束されている百。

 どこか悲しそうで、焦ったような顔。

 ……また、聞けなかったんだよな、そう言えば。

 

「……あの子、相当焦っているようだよ。聞いてあげなくてどうするんだい?」

 

 リカバリーガールにそう言われて、振武は首を振る。

 

「あいつが話さないなら、俺は、踏み込んじゃいけないような気がして」

 

 話さないという事は、「話すような事ではない」か「自分で解決したい」か……「振武には踏み込んで欲しくはない」か。

 それに自分が首を突っ込んでしまうのは……、

 

「いつものお人好しでガツガツしたアンタも、女相手だとそうなるかい?」

 

「……そんな色っぽい話じゃないですよ」

 

「何言ってんだい。男と女の間の話は、どんなんでも十分色っぽい話だよ。

 ……何を遠慮してるのか、何を怖がっているのか知らんが、聞かない間に取り返しの付かない事になったら事だよ。気をつけな」

 

 そう言って、リカバリーガールは再び画面を注視する。

 ……怖がっている、か。そうかもしれない。

 自分は誰に対してだって物が言える方になったと思っているし、実際そうしているつもりだが……どうしてか百には遠慮してしまう所がある。

 遠慮というか、一歩引いているというか。

 それはきっと――嫌われるのが、怖いんだ。

 嬉々として首を突っ込んで、嫌われてしまうのが怖い。他の誰にだって、焦凍や魔女子にだってそんな風には思わないのに、百にだけは、嫌われる可能性を考慮する。

 信頼していないんだろうか。

 そういう訳ではないはずだ。

 だけど、

 

「……これが終わったら、話してみるか」

 

 考えるのは得意ではない。さっきそう断言したばかりだ。

 下手に考え思い悩むくらいだったら、百にちゃんと話をしてみよう。

 悩んでいるなら力になる。苦しいなら側にいると。

 

 

 

 何より、八百万百のそんな辛そうな顔を、動島振武は見たくはないのだ。

 

 

 

 

 

 




次回は百さんのターン!
皆さんお楽しみに!!


次回! 百さんがモゾモゾモゾモゾするぞ! モゾモゾして待て!!



感想・評価心よりお待ちしております。

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