plus ultraを胸に抱き   作:鎌太郎EX

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episode5 一緒に

 

 

 

 

 

「俺、

 

 

 

 ――俺も、そう、だよ。

 

 

 

 今日、改めて気付かされた……百は、俺にとってもうどうしようもなく、大事なんだって」

 

 生活の中にもう彼女がいて、それが当たり前で……そして、それを無くしたら多分自分という存在が確立出来ないほど。

 それほどまでに、振武の中に八百万百という存在は大きい。

 替えが効かない存在は、振武の中にたくさんいるけど。

 でもその中でも1番、大事な存在。

 ああ、そうだ、

 

 

 

 動島振武は、八百万百に惚れている。

 

 

 

 

「……でも、同時に俺は、ヒーローになりたい。

 もしここでお前と恋人同士になったら、……どっちも中途半端にしそうで、お前に迷惑かけそうで、怖い」

 

 動島振武という人間を自分で見つめ返した時に、最初に思い浮かんだのは『不器用』だった。

 2つ同時に何か出来る人間じゃない。何か1つの為に必死に生きてきた分、どちらもちゃんとやれる自信は身に付かなかった。

 どこまでもストイックに『ヒーローになる』という目標を掲げていたから。

 八百万百という存在が大事だったとしても、そこだけは譲れないし、いつものようにそれを優先してしまったら、きっと彼女を悲しませる事になる。

 彼女自身もそうだ。彼女もまたヒーローになるという目標を持っている以上、プライベートよりもそちらを優先したいと思う部分はあるし、そういうタイミングは幾らでもあるだろう。

 そのすれ違いでお互いを嫌いになってしまう可能性があるのは……嫌だ。

 だからと言って、お互いを気にし過ぎて2人ともヒーローになれなかったら……もっと嫌だ。

 

「……だから、ちょっとだけ、待っててくれないか。

 俺が、お前がちゃんとヒーローになるまで。

 夢を叶えられるまで。

 それまで、恋人同士になるのは、待って欲しい……」

 

 なんて虫のいい話なんだろう、と思う。

 けど、振武は自分の夢を彼女の恋心の為に犠牲にしたくはなかったし、その逆も嫌だった。

 だから、少しだけ返答を待って欲しい。

 百は真剣な表情で、振武を真っ直ぐ見ている。

 こんな我儘を言っている男に幻滅しているのか、それとも真剣に考えてくれているのか。

 

「……振武さん、肝心な言葉を頂いていません」

 

「肝心の、言葉?」

 

 困惑した振武の言葉に、百は真剣な表情のまま此方の間合いをゆっくりと詰めてくる。

 

「私と気持ちが同じというのはどういう事ですの?

 私は貴方を異性として愛していると言っているんです。つまり?」

 

「え? いや、だから俺も同じって、」

 

「そういう言葉ではありません。もっとはっきりと。

 私の言葉に同意するのではなく、貴方の言葉でっ」

 

「俺の言葉で………………………………………………………………………………す、好き、」

 

「声が小さいですわっ、普段の大きなお声はどこに行きましたの?

 ちゃんとはっきりと、貴方の言葉で聞きたいんです私!」

 

 

 

「――だぁもう!! 好きだよ!! 好きなんだよ!!

 正直お前を意識してから顔まともに見れないくらい好きだよ!!」

 

 

 

 人がいないとはいえ、公共の場である海浜公園で叫んで……そのことに気付いて、頬が熱くなる。

 百は、その言葉をゆっくりと嚥下しているのか、目を閉じて少し考えてから、

 

「……っ〜〜〜〜〜〜〜〜!!」

 

 顔を真っ赤にし、しかし満面の笑みで、こちらに抱きついてきた。

 

「ちょっ、百!?」

 

「嬉しいです!! 嬉しいですわ振武さん!!

 私勢いで告白してしまって……。

 貴方が、私の事どう思ってるか分からなくて、もしかしたら、断られるかもって思ったら……。

 怖くて、心臓壊れちゃいそうなくらいドキドキしてて……。

 もう、もうっ!!」

 

 耳元で百の、歓喜の混じった涙声が聞こえる。

 ……そっか。

 振武が百の事を好きだというのを知ったのは本当に最近だが……百は、もしかしたらもっと前から振武の事を好いてくれていた。

 不安だったろうし、悲しい思いをさせた事もあるのかもしれない。いや、悩みの根本が振武にあるのであれば、迷惑をかけてしまっていたのだろう。

 

「……ごめん、不安にさせて」

 

 そっと震えている背中に手を回し、優しく抱きしめる。

 

「本当ですわ……でも良いんですの。貴方が私を好きでいてくれているという事実だけで、私なんでも出来ます。

 ……でも、待つのは嫌です!!」

 

 ガバッという効果音が付きそうな勢いで、百が体を離す。

 

「男女交際にうつつを抜かし、夢を断念してしまう! 確かにいけない事ですし、私も自分がそこまで器用な人間であるとは思っていません。あと、夢も諦める気はありませんわ!!

 ですので、恋人同士になるのはもう少し先、には大いに賛同します。お互いを気にし過ぎるのも、気にしなさ過ぎるのも嫌ですし。

 ですが! 待っているも嫌です!! どうせなら一緒に行きます!!」

 

 気合いの入った顔で言う。

 動島振武の惚れた女が言う。

 

「同じ学校、同じヒーロー科、同じクラスなんですから。

 2人で一緒にヒーローになって、同時に恋人同士になる! 一緒に歩いて、一緒に戦って、一緒に救って……一緒に、前に進みます!!

 その方が、気持ち的にも健全です!」

 

 もしかしたら。

 父も同じだったのかもしれない。

 強い女性、待っているだけではいられない、自分の足で立って歩ける女性を選んだあの人も……こう言われて、嬉しく思っていたのかもしれない。

 

「そ、そりゃあ、時間がある時にこうしてまた一緒にお出掛けしたり、その、2人で昼食をまた一緒にしたいですが……大丈夫です、それならギリセーフ! ギリギリセーフという事にしておきましょう!!

 

 

 

 大丈夫です、振武さん――貴方を1人になんか、絶対させませんわ!!」

 

 

 

 ――あぁ、やっぱり、

 

 

 

 

「お前、やっぱり良い女だわ」

 

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

「……まぁ、良かったな。無事成功どころか、大団円だぞ、魔女子」

 

 振武と百の会話を聞いていた焦凍は、隣で一緒に聞いている魔女子にそう言った。

 2人とは少し離れた場所に立っている建物(と言っても壁のない小屋のようなものだ)にいるのだが、2人が興奮して大きな声で喋ってくれているからか、内容もよく聞こえる。

 2人はお互い好き合っていた。

 男女交際はちゃんとヒーローになれる確証を得てから。

 良いじゃないか、ハッピーエンドだ。

 ……だが、隣で俯いていた魔女子は、何も言わずにその場を離れる。彼女の体躯からは想像できない程速く。

 焦凍は何も言わずに、彼女について行く。

 遠く、遠く。

 2人に気付かれず、声の届かない場所に。

 

「……もう、多少の声じゃ気付かないぞ。

 そもそもあんまり近くなかったしな……ちょっとやそっとじゃ、聞こえない」

 

 少しの間早歩きで歩いてから焦凍がそう言うと、魔女子は足を止める。

 

「……馬鹿なんですか、あの2人は。

 良いじゃないですか、お互い好きなのが分かったならとっとと付き合えば良いんです。なのに自分達の夢の為に保留って……訂正します、あの2人は馬鹿です。

 ヒーローを目指す前に普通の十代男女だという事を忘れています」

 

「……まぁ、そうだな。

 でも、良いんじゃないか。そもそも、付き合っているようなもんだっただろう、あいつら。気持ちが同じだって分かっただけでもだいぶ違う、」

 

「ダメなんです!!」

 

 生まれて初めてと言えるほど、大きな声を上げる。

 馬鹿じゃないのか、あの2人は。お互いもう少しじゃないか、もう少しでちゃんと出来るのに。

 

「良いですか焦凍さん! 関係性に名前をつけるのは大事なんです!

 人は言葉にして、初めて自覚出来るんです。お互いが思い合っている『恋人同士』だって初めてそこで自覚出来るんです!!

 なのに……それを保留し、夢を追う事を取り敢えず優先するなんてやってたら、……もし何かあって手に入らなかった時に、後悔するのは自分達なんです!!」

 

 失ってしまった時の喪失感。母を失った時の自分の心も、その感情で大きく傷ついた事があった。

 それがもし、得られないまま失ったら。

 関係性すら曖昧で、お互いの気持ちしか知らない状態で失ってしまったら? 目前で無くなってしまったら?

 その時彼は、彼女は、立っていられるのだろうか。

 無事でいられるんだろうか。

 

「こんなの、絶対おかしいです……おかしいったら、おかしいんです!!」

 

 もっと言葉を積み重ねようとして、何も言葉が浮かばない。普段だったら余計なくらい出てくるのに。自分の気持ちを伝えきれない事への苛立ちで、魔女子はまるで子供のようにその場で地団駄を踏む。

 

「言いたい事は、分かる。

 あいつら、お互いをある意味で信じきってるからな。途中で目の前に相手がいなくなる可能性ってのを、考えちゃいない。

 ……魔女子は2人に傷ついて欲しくはない、後悔して欲しくはないんだよな」

 

 焦凍がゆっくりと近づいて、魔女子の手を取る。

 出来るだけ優しく、脆い宝物を扱うように、優しく、優しく。

 

「……でも、それを守れるのが、俺達じゃないのか?」

 

 焦凍の言葉に、魔女子は顔を上げる。

 その拍子に、目にいっぱい溜まっていた涙が溢れるのを見て、焦凍は苦笑いを浮かべながら、指先で涙を拭う。

 

「あいつら2人は揃って無茶やる奴だが、2人とも強い。よっぽどの事がなきゃ、相手を置いて行く何てことにはならない、と俺は思う。

 で、そのよっぽどな事が起こっている時には……多分、俺らだって黙ってられない。あいつらの背中を守りに行く。他にも、あいつらを助けようって奴は、沢山いる」

 

「……でも、絶対はありません」

 

「ああ、ないな。

 だから、あいつらも含め、皆で絶対を作ろう。危なっかしい世界だけど、それ以上に優しい世界だって、俺達が1番分かってるんだから」

 

 この世界は、自分達が思っているよりも理不尽で、悲しくて、残酷だ。

 でも同時に、自分達が思っている以上に優しくて、暖かくて、幸福だ。

 それを焦凍と魔女子に教えてくれたのは、手を差し伸べた振武と、いつもそれを温めてくれようとしていた百だ。

 あの2人がお互いに納得出来る答えを出せているのであれば、それを実現する為に頑張ってくれる連中は、焦凍と魔女子を含めて沢山いる。

 そもそも、2人だけで完結する話ではなかったのだ。

 あの2人の幸せを願っている人間は、本人達が思っている以上に多いんだから。

 

「あの2人なら大丈夫だし、なんかあったら俺らが助ける。

 ……でも、お前が2人を想って言って、泣いている事も、分かる」

 

 そう言って、焦凍はギュッと抱きしめる。

 不思議だ。

 他人を想い、他人の心配をして泣き出してしまう優しい彼女を、今はどうしても1人で抱きしめたかった。衝動が、行動を誘発した。

 こんな事は、今まで一度もなかったのに。

 

「だから、泣くのも、怒るのも良い。

 むしろ、見せてくれ……俺だけに、見せてくれ」

 

「……そういう言い方をすると、勘違いしそうになります。私は大丈夫です」

 

「『俺が』大丈夫じゃないんだ……今は、もうちょっとこうしてよう」

 

 魔女子の手が持ち上がり、焦凍の背中に回そうとして躊躇い、結局彼の服の端を掴む結果になった。

 それを気配で察して、全く妙な所で臆病だなと笑顔を浮かべてから、焦凍は優しく抱きしめ続ける。

 

 

 

 もう1つの青春。

 轟焦凍と塚井魔女子の恋物語が紡がれるのは……もう少し、後の話。

 

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

「で、振武さん? 恋人同士になるのはまだ先にする、というのは賛同しましたが、では期日をどうしましょう。

 卒業までにしてしまうとまだ長いですし、きっと2人とも慣れないプロヒーロー業、しかもサイドキックからスタートですから学生時代よりも時間が取れずに困惑すると思うんですの。付き合った瞬間からそういう事になるのは、私は良くないと提案いたしますわっ」

 

 2人の中で合意した後、浜辺を並んで歩いていると、百がそう言った。

 

「確かにそうだけど……本音は?」

 

「恋人になってちゃんと2人で過ごせる時間を確保出来る学生時代、逃す手はありませんわ!」

 

「ああ、やっぱそうなのね。まぁ、そこには同意。俺だって、百と2人で過ごせる時間はちゃんと確保したいと思っていたし」

 

 ヒーローになりたいが故に恋人になる事を一時延期したとしても、それは出来れば早めになって欲しいというのも、また偽らざる振武の気持ちだった。

 それは転じて、「ヒーローになれる確証を得られる」日であるのだから、2つの意味で喜ばしい。

 

「でも、だとするとどこが良いだろう、どこかでヒーローになれるぜ! って確証を得られるイベントなんかあったっけな?」

 

 体育祭ではないし、そこからなる職場体験も少し違うだろう。

 ならばどこで決めるのが良いだろう。そう思い2人して頭を悩ませる。

 

「相澤先生から見込みあり、と言われるのは?」

 

「微妙だな……そもそも、あの人ダメ出しはキッチリするけど、あんま褒めないし。

 オールマイトと試合して一本取る?」

 

「現実的ではありませんし、ちょっと振武さん脳筋ですわそれ……いえ、それはそれで素敵ですけど」

 

「「……う〜ん」」

 

 いつの間にか足を止めて2人で考え始める。

 夕焼けに染まった海をバックに2人で顎に手を当てて考え込んでいる姿は、他人から見れば不思議な光景なのだろうが、本人達は極めて真剣だ。

 

「……仮免、はどうだろう?」

 

 ふと思いついた言葉を口に出すと、百は顔を上げる。

 

「仮免、というのはヒーローライセンスの、ですよね? 2年に試験を受ける予定の、」

 

「ああ。限定的公共の場の個性使用許可……あれを得られるなら、ヒーローになれる確信になるんじゃないかな、とは思う。」

 

 勿論仮免を取れたからと言って油断していては、本来の免許取得に支障が出る可能性は無きにしも非ずだが、仮免を取れたならば、心の余裕が多少生まれる。

 何より、ヒーローとしての活動を限定的であっても行えるというのは、夢の確実性を高める上での第一歩。

 

「……こう考えている時点で、「いや普通に付き合えば良いじゃん」という言葉が聞こえてきそうですけどね」

 

「他のメンツには言われそうだけどな……でも、目標を決めて頑張るってことも必要だし、褒美ぶら下げるのが悪い事ばっかじゃない。

 何より、その、」

 

 振武は恥ずかしくなって首を掻きながら、百を見つめる。

 

「ヒーローになりたい。

 そんな気持ちと同じくらい、俺は百を独り占めしたい……ヒーロー候補としちゃ、赤点な言葉かもしれないけど」

 

 今までの人生を注ぎ込んだ夢と同じくらい、彼女と一緒にいたい。

 その願望は、確かに振武の心の中に根付いている。

 我儘で、乱暴で、御都合主義を期待した、甘い考えだったとしても。

 公私ともに充実させる……完全無欠のハッピーエンドを目指すのであれば、これくらい強欲でいなければ。

 

「……でも、好きな人としては、100点満点ですわ。

 ふふっ、「見込みあり」、ですわね」

 

 頬を林檎のように赤く染めながら、それでも今にも踊りださんばかりの足並みで、百は再び歩き始めた。

 

「あ、お付き合いする時は勿論、告白の言葉を頂きますわ。

 今日以上に熱烈な言葉でないと、私頷きませんから」

 

「ゲッ、そんなんあるのかよ!?」

 

「あら、お嫌ですか?」

 

「嫌……って訳じゃないけど、なんていうか、ほら、俺そういうの苦手だしさ」

 

「普段は敵に対しても熱烈な言葉をかけるじゃありませんか。

 あれ以上の言葉を、私期待しますわ」

 

「あぁ〜そうきますか〜……あぁはいはい、努力しますよ」

 

「楽しみですわ〜」

 

 2人で並んで歩くその間には、少しの空白。

 それが埋まってしまうのに、そう時間はかからない。

 なんやかんやと言いながらもその時になってしまえば、きっと振武は笑って手を差し出すし、百も笑ってその手を握ってくれる。

 傲慢な確信とは少し違う、自信も合っていない。

 それは、2人とも頑固で自分の考えをそう簡単に変えない人で……そして、夢を叶えられる人だと信じている証拠だった。

 

 

 

 

 

 

 

 この時、振武は気付いていなかった。

 それ以外にも、その間を砕こうとする存在が、出来事がある事を。

 それは少し先の話だが……最初の波は、もう目の前まで迫っていた。

 

 

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 とある廃ビルの一室。

 家具も何もない、それどころか明らかに人為的に付けられたのであろう傷が壁や床、天井に至るまで存在し、何かがそこの部分だけ抜き取ったかのように穴だらけ。しかも所々に黒い砂のような物体が山になっているこの部屋で、動島知念はキョロキョロと視線だけで見渡した。

 何かを探しているようだったが、一通り目を向けただけで、知念は小さく溜息を吐いた。

 

「……ここにもいない、か」

 

 自分の弟子と頑なに認めようとしない少年、〝先生〟から預かっている鉄雄少年がどこにもいない。

 敵連合とは違う場所を根城にしている彼女達は、このビル丸ごと居住と鍛錬の為に使っている。故に自分の所に預けられて以降、鉄雄もここに住んでいる。

 のだが、自室にも鍛錬スペースにもいない。

 自分の許可なく出かける事を禁じたはずなのに、と知念は小さく舌打ちをする。

 ポケットからスマフォを取り出し、慣れていないのかぎこちなく画面を操作すると、今敵連合の方に付き合わせているもう1人の弟子の番号にかける。

 

『――……はい。《自動殺戮(オートマーダー)》です』

 

「おい、そっちに鉄雄はいないか? 先ほどから探してもいないので、そちらにいるかもしれないんだが」

 

 何時ものように抑揚のない言葉で、弟子は『はい。』と答える。

 

『2時間前までは。ですが何やら苛立った様子で出ていかれました。

 師匠から許可は頂いているのですかとお尋ねしたのですが『うっせぇ人形女俺の邪魔をするな』と捲し立てられました』

 

「……やっぱりか。ダメだな、これは。

 おい、今すぐこっちに戻ってこい。ついでにビーコン借りて、黒霧にいつでも出れるように準備しておけと伝えておけ。

 合流次第、鉄雄の捜索に向かう」

 

『了解。此方は命令に従います。それでは』

 

 そう言って電話を切って、ポケットの中に突っ込む。どうやら、想像した中でも最悪の部類の結果になりつつある。

 ここ数日、彼は焦っていた。

 早く動島振武と戦わせろと口を開けばそればかり。知念も〝先生〟も彼を前線に出すのは早いとして止めていたのだが、それが裏目に出た。

 きっと鉄雄は振武を殺しに行ったのだろう。

 だがあいつも馬鹿ではない。単独で雄英を攻める事も、動島本家に強襲をかける事もしないだろう。両方とも彼1人だけでは手に負えず、邪魔をされる可能性が高いから。

 確実に動島振武1人を殺せる状況にならなければ行動しないはずだ。

 何より、動島振武の情報を鉄雄はそれほど多く持っているわけではない。行動パターンが読めない以上、下手な事はしない。

 その間に見つける事が出来れば良い、と思うつつも、

 

「チッ、こうなるのであればサバイバル技術やら隠れて逃げる方法やら、教えるのはもうちょっと先にしておけば良かった。

 そういうのは妙に上手いからな……」

 

 きっと、〝先生〟に拾われるまでに培われた経験からだろうが、鉄雄を見つけ出すのは少し厄介かもしれない。

 人海戦術で行きたい所だが、ここで敵連合に貸しを作るのも嫌だ。

 何せ、動島知念の一派と敵連合……ひいては〝先生〟は、協力する関係ではあっても仲間ではないのだ。どんなに親しくしても、どんなに自分を強くする手伝いをしたとしても。

 あれと知念は明確に分かり合えない。仲間になることは永遠にあり得ない。

 

「ダメだ。

 あいつをまだ動島振武にぶつける訳にはいかない」

 

 動島知念としてはまだ殺すかどうかすら見極めていないのだ。

 その前に殺されては、知念の目的は達成出来ない。より強い動島を育んでいくのに、必要な存在かもしれないのだから。

 

「……念の為、武器庫を漁るか。

 何が起こるか分からないからな」

 

 そう言いながら、知念は鍛錬場を後にし、自分の武器を取りに階段を降り始める。

 

 

 

 

 

 

 足音は静かに、だが確実に。

 動島振武に迫っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




この答えが良いのか悪いのか、どうかこの先の展開をお楽しみに。
……こればっかしか言っていないような気がしますが、ここで話してもつまらないしね☆


次回! 耳郎と葉隠がニヨニヨするぞ! 片方見えないけどな!!



感想・評価心よりお待ちしております。

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