plus ultraを胸に抱き   作:鎌太郎EX

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いつもよりちょっと遅めですが、最新話更新です。
まさかこんな短い間にお気に入り1000人超えたり、原作ヒロアカで総合評価順検索すると2番目になるとは思っていませんでした。
読んでくださっている皆様には、感謝しかございません!
それでは、最新話をどうぞ!


episode2 再会と襲撃

 

 

 

 

(……なんで気づかなかったんだ、俺)

 

 ――時間はもう2時を大きく過ぎ、学校は放課後になっていた。教室には授業中とは違い騒がしさがあり、部活や委員会で学校に残るものは残り、何も用事のない人間は晴れやかな表情で思い思いに寄り道の計画を友人同士で立てていたり、何でもない内容を喋りながら帰路につく。

 その中で、振武はまるで曇天のような暗い表情で椅子から立ち上がり、鞄の中に教科書などを詰めていく。

 ……振武の今日1日は、授業中もずっと1つの事で頭がいっぱいになっていた。

 轟焦凍。

 3年3組。部活にも委員会にも所属していないものの、成績優秀、運動神経も抜群、なにより氷結と炎熱を同時に操れる〝半冷半熱〟は、強力な個性と言えるだろう。

 これだけでもほぼ、約束をしたあの子と同一人物と言ってもいいだろう。さらに右側が白く左側が赤い髪の毛を持っているならば、間違いないだろう。

 振武が初めてヒーローになると話せた、唯一の友達。

 勿論それに気付かなかった理由は多い。

 この学校……凝山中学校には1クラス27人で4クラス。つまり1学年108人ほどがいる。勉学を重要視しているので、部活も委員会も強制ではない。そうなると一度でもクラス替えなどで鉢合わせない限り、特定の人物を見つける事は難しい。

 ――そんな言葉は頭の中でいくらでも巡ってくる。しかし振武が彼の存在を気付けなかったのは実際その通りだし「俺って意外と冷たいのかな……」と考えてしまうのもしょうがない話だった。

 そして問題はもう1つあった。

 

「どう話しかければ良いんだよ……いや、話しかけないほうが良いのか? この場合」

 

 学校の廊下を、悩みながら歩く。

 ここまで気付かなかったんだ。3年になった今になって話しかけるのは気が引けた。

 それに……恐らく気づいていないのは、向こうも同じだった。3年になった今でも振武に話しかけてきた事は一度もない。

 振武の顔を覚えていないのか。

 約束そのものを忘れてしまったのか。

 約束した人と振武が同一人物だと思っていないのか。

 どれかは解らないが、少なくともそのどれかだろう。そうだったとしても、振武は特に責めようとも思っていない。自分も焦凍が同じ学校に通っていると気付かなかった。

 自分にとって大事な約束だったとしても、相手にとっても重要な約束だと思ってしまうのは傲慢だ。5歳の時一度しか会っていない人間の約束を覚えていられるほど、人間の頭は都合よくは出来ていない。

 

(結局覚えているのは俺だけってのは、やっぱちょっと寂しいけどな)

 

 少し心が締め付けられるような気持ちになりながら、校内を歩く。

 校内は実に賑やかだ。校庭ではサッカー部や野球部が必死に練習している。あまり部活に力を入れていないこの学校でも、熱意のある人間は多い。

 振武も一度は部活に入っても良いかもしれない……などと思ったが、実家での武術の修行や家事手伝いに忙しくてそれどころではなかった。何せ、動島家の屋敷は大きく、敷地も大きい。最初に来た時は知らなかったが、裏の山も含めて動島家の敷地だと知った時は度肝を抜かれた。

 あまりにも広すぎて業者や家政婦にお任せしている場所も多いが、基本的には門下生(といっても振武を入れても現在5人しかいない)と家族で何とかしている。

 その所為で、家事手伝いといっても掃除が大半だ。

 だから、部活に通うというのは夢のまた夢だった。

 

(というか、あれ? 俺、学生らしい学校生活送っているのか?)

 

 頭に浮かんだ唐突な疑問に、振武の足は止まる。

 部活も委員会も入らない。それは良い。だが友人関係も最低限だ。実家の事情で外に遊びに行くのが少ない俺は、クラスの人間からは「付き合いの悪い奴」というレッテルを貼られているのは、振武も薄々理解している。

 蛇頭も何人かの人も、そんな振武を友達と認め話してくれたり、遊びに連れ出してくれる者はいてくれるが、その人達に申し訳ないくらい振武は付き合いが悪いと自覚している。

 ……こんな自分が、ヒーローになろうとして、はたしてヒーローになれるものなのか?

 

「……あ〜ちくしょうやめやめ! こんな事考えてたら余計ブレる!

 つかなんで俺はヒーローになれるかどうかまで悩むんだよ!」

 

 イライラが最高潮に達したせいか、自分の頬を叩いて気合いを入れ直す。

 今は余計な事を考えている暇はない。雄英の受験まで1年を切った。いくら前世からの知識と、10年間鍛え続けた格闘技術があったとしても、そう簡単に突破できるものではない。出来るだけ限界まで技と知識を鍛え続ける。

 

「帰ったら先に勉強してから祖父ちゃんに頼んで鍛錬――ん?」

 

 独り言を言いながらちょうど正面玄関から逆、校舎の裏側が望める場所に立っていた時、知った髪の毛が見えて足を止める。

 学校の校舎裏はまるで原っぱのようになっていて、昼や放課後には生徒に解放されている生徒の中でも人気の場所だ。校舎の裏など、これが普通の学校だったら不良の溜まり場などになっているような場所だが、我が校は少し服装が乱れて、本当に少しヤンチャしているような連中しかない。

 そんな連中が屯しないように教師陣も考えているのか、今はその見知った姿以外に生徒がいるようには見えない。

 

「あれは……確か、同じクラスの」

 

 塚井、そう、塚井(つかい) 魔女子(まじょこ)。振武のクラスの委員長の1人をやっているクラスメイトだった。少し遠めでも分かる透明度の高い水色の髪の毛は、間違いないだろう。

 

(あんな所で何してんだ? 草木の手入れ……な訳ないよな、そういうのの管理って確か用務員の人がやってたはずだし)

 

 ならば何故あんな所にいるのだろう。彼女は自分と違ってそれなりに社交的だが、行動力はそれ程ある印象はなかった。しかし彼女はまるで子猫のように、小さな体でチマチマ移動しながら何かを探しているようだ。

 

「……ちっ、気になってしょうがねぇ」

 

 溜息を吐きながら、頭の中で立てていた今日の予定を真っさらにする。

 とりあえず、ここで見てしまったならば何か手伝わないと気が済まなかった。先ほどより少し小走りで、渡り廊下を渡り靴を変える為に下駄箱に歩いて行った。

 

 

 

 

 

「塚井さん、何してんのこんな所で」

 

「――あっ、動島さん、HRぶりです」

 

 振武が声をかけると、その小さな女の子――塚井魔女子は振り返り、小さく会釈をする。

 淡い水色のロングヘア、深い蒼色のクリっとした眼、180cmに届くか届かないかという振武の身長よりも20cmは低い。可愛いという印象を全面で出している彼女は、皆から好かれる優等生だ。

 ただその真面目さと天然さが異常なほど噛み合わさって、自他共に認める不思議ちゃんである。

 ……自分でも認めている時点で、相当変わっているのは当然だと思えるかもしれないが。

 

「ぶりって言葉をつけるほど時間が経ってるわけじゃないけどな。

 で、俺の質問には答えてもらえないの? こんな所でウロウロしていて」

 

「あぁ、そうですね、ではお答えします。

 実は、昼休みに落し物をしまして……それに授業中気付きまして。それで現在、昼休み中にいたここを鋭意捜索中なわけです」

 

 振武に話している間も周囲をキョロキョロと見渡している。

 

「失せ物探しってわけか。そんなに大事なものなの?」

 

「はい、10個下の弟から貰ったキーホルダーです。

 なんでも彼が好きなヒーロー『海鮮ヒーロー〝タコサヴァイヴァー〟』の限定物らしく、鉢巻をして顔から上がタコの全身になっているヒーローが「デビルじゃないぜヒーローだぜ!」と叫んでいるものなんですが……動島くんは見かけませんでしたか、そんなキーホルダー」

 

「いや……そんなファンキーなもん見かけてたら、多分一生忘れないと思う」

 

 その海鮮ヒーローもなんでそんなデザインにしたのか、振武には意味が解らない。全面タコ推しで人気が出るとは思えなかったが、魔女子の弟がハマっているのなら、そう人気のないヒーローとは言い切れないのだろう。

 

「それで、ここを捜索しているわけね。まだ見つかってないの?」

 

「はい、残念な事に。私の個性はこのような失せ物探しに向いていると思っていたのですが、なかなか難しいものです」

 

 そう言いながら魔女子が手のひらを胸の位置にまで上げると、草むらの中から素早い動きで魔女子の体を伝い、手のひらに登ってくる小さなものがいた。

 それは小さな鼠。塚井のものと同じように、淡い水色の体毛を持ち、深い蒼色の眼を持っている変わった鼠が、利口な事にその手に収まっていた。

 

「あぁ、そう言えば塚井さんの個性って――」

 

「はい、〝使い魔(ファミリア)〟と言います。このくらいのサイズの子なら、10匹くらいは余裕で制御可能です」

 

 フンスッ、と自慢げに鼻を鳴らす彼女の顔は少し誇らしげだ。

 個性〝使い魔〟。自分の分身である動物を生み出し、それを使役する。現実に存在する人間以外の動物であれば具現化可能、視覚や聴覚を共有する事も出来ると振武も聞いている。

 これだけ聞いてしまえば、用途も豊富で強力な個性と言えるだろう。人間はどんなに体を鍛えても野生動物の感覚や力を手に出来るわけではない。動物に関係する個性を持っていれば別だが、そうでなければ彼女はだいぶ有利な個性を得ていると言っても間違いではないだろう。

 

「良い個性だよな、そうやって聞くと羨ましくなるよ」

 

「そうでもありません。私が動かせるのも限界があります。これだけ生み出せるのはこの子達が小さいからです。サイズが大きければ大きい程生み出せる個体数も限界があり、傷は大丈夫ですが痛みはフィードバックされます。

 良ければ痛みを多少感じる程度、悪ければその場で気絶してしまいますから、状況次第です」

 

 振武の言葉に謙遜の言葉を述べながら、優しく自分の生み出した鼠を撫でる魔女子。

 ……意外だった。普段は不思議発言を連発しながらもどちらかと言えば明るくお喋りな彼女がまるで母親のように優しい表情をしている。真逆、とまでは行かなくとも普段振武が見ている塚井魔女子とは印象が違った。

 

「あ〜、何だったら少し手伝っていこうか? 俺別に決まった予定とかないし、事情聞いてから帰るってのも癪だからよ」

 

「良いんですか?」

 

 振武のその言葉に、魔女子は顔を上げる。少し驚いているようにも見えるそれに、振武は心外そうに顔を顰める。

 

「なんだよ、意外だって顔してるな。俺だって別にお人好し気取るわけじゃないけど、そこまで薄情じゃないつもりだったんだが?」

 

「あ、いえ、そういうつもりではありませんでした。

 動島くんいつもお忙しそうに帰るので何か用事があるのかと……えぇ、勿論お願いしたいです。人手は多いに越したことはありません」

 

 小さく微笑みながら、手のひらに載せていた鼠を再び離し小さく頭をさげる。

 

「今日は親切な人に会う日なのでしょうか。実はつい先ほども一緒に探してくださるという方が現れたので」

 

「おぉ、そうなのか、優しい奴もいたもんだな」

 

「そうですね……このような場合でも、〝モテ期〟という言葉は適応されるんでしょうか?」

 

「いやされないと思う」

 

 こんな親切心から言った申し出が女の子を口説く為のアプローチ代わりだとしたら、振武はとんだナンパ野郎で、そんな人間にはなりたくなかった。

「そうですか、違いましたか……」と何を期待していたのか少し残念そうな顔をしている魔女子は、周囲が言う通り(そして本人が言っているように)やはり少し変わった子なのだろう。

 そう思いながら、振武も袖をまくり、雑草が生えている中を探し出す。それほど多く雑草が生えているわけではないが、その中から、サイズも高が知れているだろうキーホルダーを探すのはやはり少し手間だろう。

 

 ガサッ

 

「おい塚井、本当にここら辺で合っているのか? 一応範囲を広げて探してみたが全然見つからないぞ?」

 

 背後から聞こえた物音と声に、思わず顔を上げる。

 そこにいたのは、同じ学校の制服を着ている少年だった。

 白と赤のが、髪の毛をちょうど半分ずつ彩っている。目の色も、暗い灰色と翠色で少し違うようだ。身長は振武と大して変わらないが、目測が正しければ少し小さいように感じる。

 自分が成長していたように、彼も成長していた。

 ただ、その表情は、

 

(……人間って数年で、こんなに大人びた顔するもんか)

 

 

 冷静と平坦さを併せ持った、全くもって感情を見せない無表情さだった。

 

 

 

 

 動島振武と轟焦凍は、ここで初めての再会を果たしたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あぁ、轟くんすいません。えぇ、確かに無くしたのはここだと思っているのですが……もしかしたら、昼休みが終わって移動している間に校舎の中で無くしたのかもしれません」

 

「そうか、だとしたらここでは見つからないかもしれないな。もうしばらく探したら、校舎も探してみよう。

 教員室には確認に行ったか?」

 

「はい、それは最初に確認済みです。先生曰く「そんな珍妙なキーホルダー見つけたら絶対忘れないわ。というか塚井、お前海鮮ヒーローとは随分マニアックな所が好きなんだな、意外だ」と」

 

「後半の情報はまるで必要ないが。なら取り敢えず、ここをまた探してみよう、見落としがあったのかも」

 

「お手数お掛けします」

 

「気にすんな、勝手にやってる事だ」

 

 振武がフリーズしている間に、2人はそれなりのフレンドリーさで会話を続けていく。

 その一方振武の頭の中では、

 

(――待て待て待て、なんでこのタイミングでお前が出てくるんだよっ! いや会いに行こうとは思ってたけど! こんな所で、こんな覚悟の決まってないタイミングで来んなこの野郎! と、取り敢えず挨拶だ。向こうが気付いたら昔話して気づかないなら初対面の顔するしかねぇ!!)

 

 大混乱だった。

 そして微妙にヘタレだった。

 急な展開だったからかそれとも今の状況にただ動揺しているだけだったのか、もしくはその両方だったのか分からないが、振武のとった選択は『取り敢えず受け身で』という消極的なものになってしまった。

 

「で、塚井。そこにいる奴は?」

 

「あぁ、これは失礼を。彼は動島振武くん。私のクラスメイトで、通りがかった所を私の失せ物探しに協力すると名乗り出てくれた勇者です。

 対してこちらは轟焦凍くん。私の2年の時のクラスメイトです。今も顔を合わせれば挨拶を交わし談笑するほどの仲です。彼も動島くんと同じ勇者です」

 

「いや勇者って程じゃないけど……動島振武だ、お前は確か、轟焦凍、だよな。お噂はかねがねってやつだ」

 

 少し動揺しながらも、塚井の不思議発言のおかげか思ったよりずっとスムーズに言葉を発する事が出来た。そんな振武を見ても焦凍は特に不審に思うわけでもなく、振武の名前を噛み砕くように間をおくと小さく会釈をする。

 

「――あぁ、俺も噂は聞いてるよ動島。登校中にパルクールしながら来るやつは滅多にいないしな、名前は今日初めて知ったが。あと俺も勇者って程じゃない、元クラスメイトが困ってたから手伝ってるだけだ」

 

 その態度と言葉に、振武は小さな落胆と小さな疑問が涌き上がりながらも、それを無視して自分も会釈する。

 にしても、どこまで自分の噂というのは広まっているのだろうと少し心配になる。振武としては別にパルクールではなく、ただ軽い運動代わりに走り回っていただけなのだが。

 もっともそれは振武の中だけの話で、焦凍と比べても知名度は劣らない。

 勉強ができ、運動は先ほど言った通りトップクラス。容姿も整っている。そしてその素っ気なさとストイックさは、焦凍と同じく女性生徒には人気だ。

 ……ただ、振武も焦凍もその事に関してはまるで興味がないので、自然とそんな情報は入ってこないわけだが。

 

「パルクールしている訳ではないんだがな……で、話はまとまったか? ここら辺をもう一回探すって話で良いんだよな?」

 

「……あぁ、それで良い。見つからなかったら、校舎も見て回ろう」

 

「では、先に2、3匹鼠達を校舎に走らせておきます」

 

 そう言いながら魔女子がサッと手を振ると、小さな影が数匹ほど素早く校舎の中に入っていく。

 原則個性禁止の学校内で堂々と探索して良いものなのだろうかと一瞬だけ考えるが、今の時間帯は生徒も教師も疎らだ。あの小ささなら見つかる事はないだろう、と振武は自分の中で納得させる。

 問題は、

 

(焦凍と何を話せば良いか、だよな……)

 

 草むらの中を探しながら、横目でチラリと焦凍の姿を盗み見る。

 ……実際に会えば、なるほどと思える。振武と同じく10年の歳月は等しく彼にも成長という名の変化を与え、その容姿はだいぶ大人びているように感じる。だが面影がない訳ではない。髪などの特徴だけではなく、顔つきも何処と無く昔あった少年と同じだった。

 唯一の違いと言えばそれは――顔の左にある大きな火傷の痕だった。

 それほど醜いものではない、ちょっと皮膚の色が他の部分よりも黒く見えるだけしかし端正な顔立ちな分、それはより目立って見えた。

 

(10年間で色々経験してきたのは、俺だけじゃなかったって事か)

 

 自分の拳を少し見る。

 子供の頃、母親が死んだ日に傷を負った右手の甲。体が大きくなり少し小さくなってはいるが、傷痕はそう簡単には消えず、小さな星のようにあった。

 自分の覚悟の証、自分が一度ヘマをした証。何の根拠もないが、振武のその傷痕と焦凍の火傷痕は、どこか同種のようなものを感じた。

 だが同時に、焦凍に対して違和感が拭えない。

 別に忘れていたことを怒る気はない。自分も人のことを言えない。

 態度が雑なのを怒る気はない。これも自分だって人のことを言えない。

 なのに何故、

 

(俺、こいつ見てこんな苛立ってんだ……?)

 

 自分でも理解できない、妙な苛立ちのようなものが胸の中で自己主張していた。

 何もない、他意はないはずなのに存在するそれに、振武は戸惑いを感じていた。こんな理由なき感情を抱くという事は滅多に経験した事がなかったし、それを焦凍に抱く理由も、振武には思い浮かばなかった。

 ……いやいや、そんな事より、今は探し物に集中しよう。そう頭の中で囁いた冷静な自分に同意し、草を軽く掻き分けて探す。

 何か理由があるとすれば、あとでかんがえて――、

 

「「――っ」」

 

 振武と焦凍は同時に顔を上げ、校舎の方を見上げる。

 明確に何かがあった訳ではない。校舎そのものは大した変化はない。

 しかし、どこか……校舎や校庭から聞こえてくる喧騒が、先ほどまで聞こえていたものと〝別種〟のように感じただけ。

 そこまで耳が良くない振武は、少なくともその程度に感じた。

 だがその程度の変化は、どこか危険なものをはらんでいるような印象だ。

 

「……おい、轟、妙だと思わないか?」

 

「あぁ、分かっている。

 さっきまでの騒がしさとちょっと違うのもそうだが……声、どんどん減っているぞ(・・・・・・・・・・・・)

 

 まるでボリュームを絞っていくように、賑やかだったはずの校舎や校庭がどんどん静けさを増していく。

 何が起こっているのか。一瞬では察せない。もしかしたら、教師が何か急用があって部活を行っている生徒を早く帰らせているだけかもしれない。

 

「……判断が難しいな、取り越し苦労だったら困る」

 

「でも何かあった後じゃ、取り返しつかないのも事実だしな」

 

 お互いを見合いながらどうしようか考えてしまう振武と焦凍。しかし、その悩みも一瞬だった。

 

「取り越し苦労には、ならないと思います」

 

 後ろで先ほどから何も言わなかった塚井が、唐突に声を上げる。

 目を固く閉じ、とても困ったような顔をしている。

 

「校舎の中にいる子たちと視界を共有して確認していますが、

 

 

 

 ……どうやら学校は、何者かによって占拠されているようです。生徒は皆体育館に、教師の方々は教員室に閉じ込められています」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 こうして、動島振武は本当の意味でヒーローになる為の最初の事件に遭遇した。

 

 

 

 

 

 

 

 




少し文字数減った会話文増えましたが、おそらく三人称の自信のなさの表れ……。
感想でも様々なアドバイスを頂きましたが、まだまだ未熟ですので、もっと努力していきます。
これからも、この作品をよろしくお願いします!

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