褪せた灰色の髪、鋭い相貌、同い年か少し上に見える風貌。
この社会に絶望し、野生の獣のような、人と相容れない事を主張するような気配。
餓えているのか、怒りを抱いているのか、今にも振武を食い殺さんばかりの濃厚な殺気。
初めて会う人間だ。
だがどうしてだろう。その雰囲気に、その顔に既視感を覚えた。
「……どちら様ですか?」
十分警戒しながら、それでも笑みを浮かべる。
「……おい、馬鹿なのかお前は」
最初の言葉は罵倒だった。
「俺がここまで殺気出してんのに何ヘラヘラしてんだよ。
それとも何か、お前は俺を笑いながらでも殺せるってか?」
「……殺すなんてそんな事をする気はない。
そもそも、俺は君に殺意を抱かれる理由なんかない」
初対面の人間に言外に殺すなんて宣言を受けた事は……まぁ何度かあったが。それでも、それはあくまで理念の違い。動島振武の考えと相容れないと明言している人や、振武からすればお門違いな考えを持っていた相手だ。
こんな、
憎いと思って殺そうとして来た人間はいない。
「……俺、君になんかした? 何か行き違いがあるなら、ちゃんと聞きたいんだけど。
もしかしたら、誤解が解けるかもしれない」
振武の冷静な言葉を、青年は鼻で笑い飛ばす。
「ハッ、いいや、行き違いでも誤解でもない。
俺はお前をこんな問答せずにぶち殺したいほど憎い……そしてそれをお前が理解する必要性も聞く道理もない。
お前に俺の気持ちを理解されるなんざ反吐が出る。
俺は、お前が嫌いだ、この世界が嫌いだ。
お前は、俺の敵だ、この世界が好きだ。
戦う理由、殺し合う理由なんてそれで十分だろうがバァカ」
「……うわぁ、ガッチガチに気合い入ってるなぁ」
言葉を聞き流すどころの話じゃない。自ら弾き飛ばして踏み潰している。
解らない。ここまでの恨みを、自分は買ったのだろうか。
いやそもそも、
「――お前、誰だよ」
「だから、――お前が知る必要性はない!!
黙って俺に殺されろ、動島振武!!」
青年がそう言うと粒子の荒い砂がザラザラと擦れ合う音が、墓場に響き渡る。
彼の周囲の墓石や地面の土が黒い砂になって崩れ落ち、それがまるで触手のように動き始める。
「っ、〝個性〟か!!」
物体を砂に変え、それを操る〝個性〟だと類推し、即座に構える。
触手は無数の槍の形状を作り出し、銃弾のような速度でこちらに迫ってくる。
避けようとして、辞めた。後ろには自分の家の墓がある、壊したくはない。
「っ――!!」
いつも感じる熱と、振動を腕に感じながら、飛来して来た槍を一本一本丁寧に叩き落とそうとする。
だが、それは想像以上に手応えなく崩れ、また砂になって青年の元に戻っていく。
砂だからこその手応えのなさ。しかし普通の砂にしては、あまりにも重く鋭いその一粒一粒。黒い色合い。
「……砂鉄、か」
砂状になった鉄。
だが近くの墓石や土の中にこんなに大量の鉄が含まれている訳がない。だとするなら、相手の〝個性〟は、「鉱物や土などを砂鉄に変換し、それを操る〝個性〟」だろう。
「デタラメ、って言うか都合良すぎな〝個性〟だな!!」
「チッ、バレんの早いな……だけど、それでもテメェにゃ何も出来ない!!」
振武の言葉で、自分の能力が看破された事に気付いたのだろう。
舌打ちをするが、すぐに先ほどの好戦的な笑みを取り戻し、それと同時に周囲の砂鉄が斬撃を象るように真上から落ちてくる。
流石に払い落とせない。
「くっ!」
その斬撃を避ける為、相手との間合いを詰める為に瞬刹で前に進む。
一瞬視界の端に動島家の墓が見えるが、壊されている様子はなく少し安堵する。
そのまま、相手の目と鼻の先に立った。
「なっ……!?」
「ちょっと場所を変えよう――震振撃、」
拳を振り上げるとほぼ同時に、砂鉄の盾が青年を守る。
速い。
けど、無駄だ。
「透閃!!」
拳の衝撃が、砂鉄の盾を通り抜け、青年の腹に突き刺さる。
「ぐっ――ハッ!!」
刹那の間衝撃に耐える。
だがすぐに振武の狙い通り青年は、少し離れた段々畑のように広がる墓場の中でも少し拓けている場所に吹き飛ばされ倒れこむ。
振武も、それを追うように跳躍し、着地した。
「……なぁ、やめないか?」
「ゲホッ、ふざ、けんな! 1発だけで、勝ったつもりっ、かよ!」
攻撃を受けた腹を抑えながらも、青年は立ち上がって指揮者のように手を振るう。
そうすれば、周囲の土も墓石も全てが砂鉄に変わり、青年の周囲を濃霧のように取り囲んだ。
「違う、そうじゃない……なぁ、おかしいだろう。
こんな戦いに、理由も道理もないじゃねぇか」
理由も道理も、仮に彼の中にあったとしても、聞いていなければ振武からすれば無いものと同じだ。
非情に聞こえるかもしれないけど、それが真実なんだ。
でも、聞ければ何かが分かるかもしれない。
理由も道理も聞けば、もしかしたら戦わなくても良いかもしれない。戦わなければいけない状況だったとしても、何かを変えられるかもしれない。
その何かが、何なのか、は振武には解らない。
解らないけど、変わらないよりずっと良いはずなのだ。こんなただただ傷つけ合う戦いをするよりも、ずっと。
「――理由、道理、ね。
あぁ、そうだな、テメェはそういうのを聞く奴なんだよな? 他人がそうなっちまった理由と道理を聞いて、全部が全部救けるんだっけか?」
砂鉄の濃霧の中で、青年は嗤う。
「ふざけるな――俺はお前なんかに救われない、救われたいとも思わない」
嗤う。
怒りと憎しみと殺意が全てと言わんばかりの、歪んだ顔で嗤う。
「俺はお前が嫌いだ、何が何でも、どうなろうともお前が嫌いだ。
どんな理由を聞いたとしても、
どんな道理があったとしても、
お前がヒーローだったとしても、お前になんか救われない!!
俺はヒーローとしてのお前を、人としてのお前を、動島振武を、俺は全力で否定する!!!!」
憎悪の言葉を放った瞬間、濃霧が一瞬歪む。
「――『処断、拘鉄』!!!!」
地面から、鎖の形をした砂鉄が振武の体を捕らえる。
振武は俯いたまま、何もしない。
「死ねぇ、動島振武!!――『鉄鋼圧縮』!!!!」
左右に生み出された砂鉄の壁は、振武を圧殺しようと勢いよく迫り来る。
「――ああ、そうかい」
振武が小さくそう言った瞬間。
まるで水を打つような音が墓場に響き渡った。
流体のような動きをする砂鉄の拘束を、〝全身にかけた振動〟で弾き飛ばし、両拳を両側にほぼ同時に振るう。
同時では無い。最速で動かされ、そうと見えるだけの拳を。
「震振撃・八極二奏」
両拳に蓄えられた衝撃は、壁を穿ち霧散させた。
「……俺さ、考えんの苦手なんだよ。
理知的だって勘違いする人もいるけど、どっちかって言えば、感情的なんだわ」
自分の捕縛と攻撃を砕き、あっさりと状況を覆され呆然としている青年に、振武は静かに語りかける。
「それに、俺はお前さんが言うような綺麗事ばっかの人間じゃない。本当はすごく酷い人間なんだ。
何せ……話を聞きもしねぇ奴は、まずは肉体言語で理解してもらおうって考えだからさ」
構え直す。
流水のように滑らかに。
火炎のように苛烈な眼で。
「まずは自己紹介からだ。俺は動島振武。雄英高校ヒーロー科1年A組、兼、動島流習得者。
――お前の名前と所属を教えてくれよ、俺に」
◇
「……ああ、もしもし〝先生〟かい? ああ、鉄雄は発見した。案の定動島振武と殺し合いの真っ最中だ。
情報操作と人払いをお願い出来るかな?……え? 止める? 何故? あの子もそろそろ一度くらい対峙しないとね。
発破代わりに利用する。ついでに挨拶をしておきたいからね……ああ、いつも通りで頼む。これでまた貸しが増えてしまった。今度の大規模作戦には死柄木くんに戦力をお貸しするさ」
そう言うと、遠目から振武と鉄雄の戦いを見守っていた女……動島知念は電話を切った。
動島振武に攻撃を無効化されてから、じわじわと押されている鉄雄を見て、知念は笑みを浮かべた。
「……師匠。此方は理解出来ません。
鉄雄様は一時的であれ師匠の弟子。私の弟弟子です。何故救けないのですか?」
隣で直立不動で立って、いつも通り抑揚のない喋り方をする
「ここで殺されたり挫折して再起不能になるなら、結局それまでだったという話さ。
何度も言っているだろう? 私は強い者を好む。お前も私の好みに矯正したように、あいつも良い加減私の指示に従って貰えるようにならなきゃ困るのさ。
つまり……ここで負けてくれれば、もっと強くなりたいと私を欲してくれるだろう?」
鉄雄は強い。
本来『砂鉄を操るだけの〝個性〟』だったのを、〝先生〟から与えられた『他の鉱物・土を砂鉄に変えてしまう』という面白いが役には立たない個性を融合させた。
偶然ではあるが、それでもその相性は抜群。砂鉄を持ち歩く必要性もなく、そして個性を鍛えてきた彼は砂鉄で様々な形を生み出し、自在に操る。
一般的な基準で考えれば三流ヴィランなど歯が立たない。
だが、それはあくまで〝個性〟だけだ。
戦闘技術はまだまだ鍛える余地があり、鍛錬しているとは言え実戦経験は少ない。
何せあれだけのじゃじゃ馬だ、〝先生〟も知念も押えつける事に重点を置いていたので、戦闘経験はまだまだ。
しかも、〝個性〟そのものもまだ強くなる余地が残っている。まだ甘い部分が残っている。
このままでは、動島振武を殺すどころか、勝つ事も難しいだろう。
〝先生〟もそう判断したからこそ知念に教育を任せたのだ。
「強さを高める上で必要なものは多いが、挫折なんかはその中でも最高のスパイスだ。
折れて2度と戻らないならそれまでだが、そこから這い上がってきた人間は驚異的だ。本当に化け物のように成長する。
お前も覚えがあるだろう?」
「……理解しています。此方もそうやって鍛えられました。戦闘用の個性ではなかったものをここまで育てていただきました。
ですが本音は? いくら師匠が師匠でも仮の弟子である鉄雄様の為にそこまでするとは思いません」
動島知念。
自身の強さと動島流としての強さに
寝ても覚めても、一分一秒欠かさず戦いの事を考え続ける人間の皮を被った魔物。
そんな人間がただただ純粋に他者の成長を望んでいるなんていう、普通の事をするはずがない。
「ほう……鍛錬のし過ぎでつい感情的な部分を殺してしまったけど、お前もなかなか言うじゃないか」
「申し訳ありません。過ぎた言葉でした」
「構わないよ。
そうだね、私らしくはないと考えるだろうね。
でも、お前も見てみたいだろう? 動島振武がどこまでやれるか」
「……そういう事ですか。此方は理解しました」
「ほう、では答え合わせだ。言ってみなさい」
知念の愉快だと言わんばかりの笑顔に、オートマーダーは相変わらずの無表情で答える。
「師匠はこう考えております。
鉄雄様はお強いですがそれはあくまで『普通の基準で』です。対して動島振武様は個性だけではなく武術の腕……いいえ。どちらかと言えば武術の方が強い。
殺される事がないという大前提。その上で動島振武様の強さを見定める事が出来る。という事でしょうか」
安全に、しかし確実に動島振武の強さを知る事が出来る。
鉄雄は一歩どころか三歩ほど劣るものの、本気で殺しに来ているという部分を足せば良い勝負をするだろう。
その相手にどう余裕を持って倒せるか。
しかし、
「う〜ん……70、だね。
合格点には届いているが、満点ではないと言ったところだろう」
「残念だったね」と知念は笑顔を浮かべる。
「……正解を教えて頂けますか。此方は気になります」
「そうだね……動島振武が究極的な部分で鬼になれるかどうかを見極める、かな」
その言葉に無表情で首を傾げるオートマーダーに、知念は話を続ける。
「加害者も被害者も、そして自分を救う、救おうとする。これは美しくも無茶苦茶な夢だ。
叶える事はほぼ不可能だが、彼はそれをさらに仲間や友人の力で補うと言っている。なるほど、これならばあらゆる状況に対応出来るかもしれない。
だが、1人なら? しかも、相手が絶対に折れない人間だったら?
もうそれをどうにかするには、方法は1つしかないだろう?」
拳を振るい、言葉を使い。
それでも懐柔どころか理解しない、認めない、只管自分を憎悪し続ける相手に遭遇したら?
何度倒しても何度捕まえても襲いかかってくる。もしかしたら、家族や友人、一緒に協力してくれる仲間すら目的の為なら殺せるような見境のない人間だったら?
それが自分1人で相対し、仲間の手助けも受けられない状況だったら?
普通だったら……というか、知念だったら答えはこうだ。
何も出来ないように、そいつを殺す。
守るという事に興味のない知念だが、それでも普通に考えればそうだろうなという答え。
どんな事をしても襲ってくる、自分と他者に危険を及ぼす存在であるならば、早々にこの現実という舞台から退場してもらうのが良い。
手取り早いとかそういう話ではなく、それしかないのだ。
もっともヒーローであれば拘置所や刑務所に死ぬまで閉じ込めておくという手段があるが、それも絶対ではない。絶対逃げ出さないと確約出来る訳がない。
その時殺されるのは自分か、周囲か。
どちらにしろそれを完全に防ぐのであれば殺すしかない。
確実で、安全だ。
「そして、それをある意味ヒーローは認められている。
原則確保ではあるものの、それが難しい状況だった場合は対象を殺せる……そしてそれは、動島流的に見ても悪ではない」
ヒーローという存在が社会の平和を守る存在だからこそ、犯罪者は絶対に捕まえないといけない。何が起こるか分からない戦場だ。
動島流から見れば、むしろそれは是非もない。
戦場という場所に立った時点で、相手も自分も殺されて然るべき。どちらかが死んだところで、非がある訳でもない。
武人とは、武術という道具を使って人を殺す存在を指すのだから。
「ヒーローとしての動島振武、いや、《ヘルツアーツ》に私は興味はない。
動島流の使い手として、動島家の次期当主である動島振武を見たい……そういう意味でも、この戦いは重要だ」
「……つまり。師匠は鉄雄様に
オートマーダーの言葉に、知念は顔を向ける。
先ほどからずっと張り付いている。
理知的で、堂々としていて、凛としている笑顔。
その奥には、狂気と闘争本能しか存在しない事を、オートマーダーはよく知っていた。
「天秤にかけるとしたら、当然、動島振武を選ぶね。
彼はもしかしたら、私の望む〝動島〟になれるかもしれないんだから」
◆
砂が擦れ合う音の中に金属音のようなものが混じっている。
素手で戦っているせいか、拳はボロボロだ。自分の事ながら、よく毎度毎度ここまで拳をボロボロに出来るなと思う。
痛みはある。
でも不思議とそれはどこか遠くにあるように思える。
「チッ、なんなんだテメェ!! 何でそんなにボロボロになってんのに倒れねぇんだよ!!」
トラバサミのように地面から突き出た砂鉄は、大量の棘と共に此方を砕こうとする。
だが、いくら束ねて強くしたところで、〝砂〟鉄。
つまり、砂だ。
それを殴り砕く事は、振武にとってそう難しい事ではなかった。
「俺には分かるぞ動島振武――テメェ、手加減なんざしてどういうつもりだ!!」
両手で払いのけるように砂鉄のトラバサミを抜け、鉄雄の側頭部に届くような蹴りを放つ。
だが、それも簡単に砂鉄の壁で防がれてしまう。
当然だろう。この攻撃は当てる気はない。殺すような一撃は、殺してしまうかもしれない一撃は出来るだけ避けたい。
幸いにも戦っていて分かった事は……目の前の青年は、自分を本当の意味で殺せるほど強い訳ではないという事だ。
天狗なわけでもなく、単純な事実だった。
「……言っただろう、名前と所属だ。まぁ所属は言い辛いだろうから、名前だけでも良い。
それを聞いて、話聞くまで、俺は何時間だろうと何日だろうと戦ってやる」
倒す事だけが振武の勝利ではない。
相手を屈服するだけで終わりたくはない。
そんなものでは意味がない。
救う為には、全然足りない。
「それでぶっ殺されようってのかテメェ……」
「殺されねぇよ。だから強くなったんだ。強くなっていくんだ」
相手の話を聞く為には。全部を救う為にはどうすれば良いか。
考えに考え抜いた結果は……やっぱり強くなるしかない、という事だった。
相手が自分を、他人を、そして相手自身を殺せないほど強くなるしかない。その為だったら血反吐を吐いても何でも強くなる。
それしか振武は思いつかなかった。
それ以外にない、と思えるほど。
「……ああ、お前の、そういう所が、ムカつく!!!!」
砂鉄の嵐が荒れ狂う。
青年の憎悪と怒りに呼応して暴れ回る。
命を刈り取る風のように。
「テメェの正義面、テメェ
それでなにが救える!? どうせ目に見えたもんしか救ってこなかったんだろう!?
テメェらがヘラヘラ笑っている影で他の連中が、……俺が!! どんなに苦しんでいるかも知らずに!!
認めねぇ……俺を認めなかった、俺を知らなかったお前を俺は認めねぇ!! 分かるか、動島振武!!
テメェなんか嫌いだ!!」
「だから、そういうのをもっと聞かせろって言ってんだよバカ!!」
暴風の中心点から避け、迫り来る砂鉄の鞭を弾きながら叫ぶ。
「話さなきゃ解らないだろうが!!」
「お前は絶対に解らねぇ!!
解るわけがないんだ!!!!」
「なっ――」
その言葉と同時に、不思議なものが見えた気がした。
かつての残像。かつて振武が見た姿。
自分が初めて立ち向かって、母を殺して、自分も死んだ。
あの男の絶望しきった目に、声に、姿に。
目の前の青年が、あの時の男と重なる。
「――お前、
刹那の茫然自失。
どんなに力量差があろうとも、それだけで窮鼠は猫の腑を食い破る。
攻撃をしようとしていた右腕に、砂鉄の杭が突き刺さる。一瞬の出来事で対応出来なかった振武は、そのまま石で作られた壁に縫い止められた。
「ぐ……あ、」
激痛と、血が抜けていく感覚に声にならない悲鳴を上げる。
「……本当は名乗りたくなかった。気付かれたくなかった。
お前に同情の目を向けられながら殺したくはなかった……お前になんか、同情されたくなかった」
青年の手に、砂鉄で生み出された剣が握られる。
高速で動き続けているそれは、2回目の攻撃で放った斬撃と同じ威力。きっとあっさりと振武の首を刎ね落とす。
だが、それよりも、
自分が死ぬ事よりも大事な事がある。
「なぁ、答えろよ! 誰なんだお前は」
知りたい。
いや、知りたくない。
理解したい。
いや、理解したくない。
怖い。
恐い。
矛盾した感情の鬩ぎ合いと恐怖を胸の内に抱いているはずなのに、口から出る言葉は答えを求めるものばかり。
知らなければいけないけど、知りたくはない。
ここで知ったら、自分はこの青年に拳を向ける事を止めてしまうかもしれない。
そんな確信めいた気持ちがあったから。
振武のその言葉に、青年は目を細める。
会ってから初めて見る、怒りでも憎悪でも無い色がその眼に映る。
それは――悲嘆と絶望。
「――――――――――――――――――――――――――――――――
……はい、そうです、区切りの良い所が見つからず、予告回収できなかったです!
次回は回収しますんで!!
ここで名前を出すかどうか、というのは結構悩みました。
読者様の大半がご推察の通りでしたし、皆さんを驚かせるという意味で「隠す」意味はないなぁと思いつつ……って感じです。
次回! 百が今度こそもじもじするぞ! 今度こそ!!
感想・評価心よりお待ちしております。