episode1 ドキドキ散歩を暗雲を
土と木の匂いは、気持ち良いものだとは思う。
けど今はどうでも良い……と言うより、香り過ぎてちょっと邪魔なくらいに思える。
「……またこういうのかよ!!!!」
振武は盛大に叫び声をあげた。
広大な森の中で、それは木霊した。
敵からの襲撃を受けてからそう日が経たず、波乱万丈だった1年生の前期がようやく終わりを迎えた。
普通の学生からすれば此処から花の夏休み、青春の限りを尽くすのだろうが……あいにく、雄英高校ヒーロー科に所属している限りそんな風に遊んでいられる時間はない。
むしろ夏休みだからこそ、時間はたっぷりある。訓練も授業も静かに行えるというものだ。
そんな中で唯一イベントらしいイベントと言えば、林間合宿だろう。
特別施設で行われる交流会のようなもの……と考えるだろうが、相澤の事だから、きっと訓練ギッチギチの合宿なのだろうな、と思っていた。
思っていた……思っていたけどさぁ。
「まさかバスを途中で降ろして監督役のヒーローの“個性”で強制参加のドキドキ(悪い意味で)のハイキングだとは思わないよなぁ……しかも、結構距離あるんだよなぁ此処から合宿所」
「そう言いながら、皆さんと違って随分平気そうですね。さっきも土の化け物が出てきて冷静でしたし」
《プッシーキャッツ》の1人、ピクシーボブが土石流でこの『魔獣の森』なんていうデンジャラスなネーミングの森に叩き落としたのは、つい1時間前。
その後すぐ、恐らくピクシーボブが作ったのだろう土で出来た化け物に、出久・爆豪・焦凍・飯田・振武の5人が速攻で片付けてしまったのも、それほど前の事でもない。
その後はひたすら森の中をハイキングだ。幸い方向や何かは百や魔女子が確認してくれているから、クラスメイト全員でなんとか進めているが、それでも夏の陽気と唐突な落下に戦闘、さっきから歩き通しという事も含めれば、皆の表情も明るいとは言えない。
魔女子の言葉に、振武は複雑な表情を浮かべる。
「あー、俺は……慣れてるから」
「いきなり森に放り込まれての戦闘に慣れているわけねぇだろ!?」
鋭児郎のツッコミに、振武は少し目を逸らした。
慣れているのだからしょうがない……振武だって慣れたくて慣れている訳ではないのだから。
『来年には振武も中学生。そろそろ体も出来上がってきて、しかも今日から夏休みだ。丁度良いから、ちょっとサバイバルして来なさい』
というあんまりな祖父の言葉と共に、小学6年に何処にあるのかも不明な無人島に置き去りにされたり(意外と日本にもあるものなのだ、無人島)。
『友人所有の洞窟に、何やら実験で使われた巨大で獰猛な蝙蝠が繁殖してしまっているそうだ。速くて小さな敵を相手するのには丁度良い、一晩篭りなさい』
という意味不明な祖父の言葉と共に謎の洞窟で一晩中、赤ん坊サイズはありそうな巨大蝙蝠の群れと一晩中、自然界ではメジャーな弱肉強食ルールでのバトルを強いられたり。
『私はこれから書類仕事を片付けなければいけないんだが、延丸が是非手合わせをと言ってきてなぁ……お前、ちょっと相手をして来なさい』
という理不尽な言葉で延々斎と問答無用ちょっと首おいてけな手合わせに1時間丸々付き合わされ、おまけに途中から獣形や他の師範代も混じって殺伐バトルロワイアル始めたり。
……最後のは少し毛色は違うものの、こういう理不尽極まりない唐突な試練は案外慣れている。
「俺だって、俺だって慣れたくなんかなかった……」
「大丈夫ですか動島くん、目から水が溢れています、汗ですか?」
「涙だよ!!」
魔女子のあんまりな言葉にこちらが叫ぶが、周りのクラスメイトはもう興味をなくしているのか皆前を向いて歩き始める。
振武の身内の話や、動島流の無茶苦茶っぷり、何より振武自身がもう自分達の価値基準の外にいる存在だと納得し始めたのか、最近はこんな感じだ。
合言葉は「まぁ動島だし」らしい。
「ちくしょう、何なんだよ皆して……俺だってちょっと変なのは分かってるけどさぁ」
「それを「ちょっと」で片付けてしまう振武さんは、ちょっとアレですけど」
隣で歩いている百の顔は、まだ体力があるから平気そうではあるものの、土などで十分汚れていた。
あの土石流の所為で、皆似たり寄ったりの姿だ。
「お互い、酷い姿だよなぁ」
「そうですわね。でも汚れを気にしていては、ヒーローは務まりません!
どんなに汚れようとも、行動に支障はありませんわ!」
「元気だなぁ百は」
あの告白から、ずっと百はこの調子だ。
悪い意味でではなく、良い意味でやる気があり、貪欲に知識と経験を取り込もうとしている。元々真面目であったが、それが強化されたような。
「私は別に……でも、そうですわね。
早くヒーローになりたいという気持ちが強くなったのは確かです。勿論、焦っている訳ではなく、確実に堅実に前に進みたいとは思いますが、でも早く結果を出したいですわ。
早くなれば、救える人間も増えますし……それに、あの約束もありますから」
少し目を細めてから、すぐに振武を見て恥ずかしそうに俯く。
「や、やっぱりダメでしょうか。
ご褒美があるから頑張るなんて、はしたない事、」
「いいや、俺はそうは思わないけど?」
振武は首を振って否定する。
目的や褒美があるから人は頑張れる。
金銭という報酬を得るから人は働くし、様々な目的があって、皆日々努力している。
どんなに綺麗事を言っても、人間見返りがないと前に進むのは難しい。振武だって、ヒーローになって欲しいものが、無形のものであるだけで、本質はそれほど変わらない。
日本人はなどと大きく考えてしまうと難しいが、どちらかと言えばそういうのを下品に感じる人間は多いが、正論なのは確かだ。
「そんな事言ったら、俺だって似たようなもんだ。
ヒーローとしての願いってのもそりゃあ、最初っからあるもんだけど……それでも、得られるものが明確にあるっていうのは、良いものだよ」
そう言って、隣を歩いている百の手を取る。
繋ぎはしない。ちょっと指に触れる程度。
これ以上は、仮免を取ってからのお楽しみというものだ。
「頑張ろう、お互い」
「……はい」
2人で笑顔を浮かべる、
「……ヒューッ」
「「ヒューヒューッ」」
「ブフゥ〜」
のを、魔女子と葉隠、あと芦戸が囃し立てる。
指笛を鳴らそうとしている焦凍は、失敗して吐息が漏れているだけだった。きっと魔女子に言われたのだろう。
「おい爆豪今だ! お前の個性は今この時にこそあるんだ!!」
「そうだ、おいら達の無念をお前の爆破に込めてくれ爆豪!!」
「その前にテメェら爆き殺して良いならやってやるぞクソ共」
「「すいませんでした!!!!」」
上鳴と峰田が爆豪に頭を下げていた。
物理的な爆発は失敗してくれたようだ。
「ちょっと話しただけでなんでそんな風になるかなお前ら!!」
「良いじゃねぇか、皆お前らの仲を心配してんだってこれでも。
まぁ、祝福替わりだ」
「俺はドウデモイイ」
鋭児郎の言葉に、爆豪が余計な茶々を入れる。
祝福されないよりもずっと良いのかもしれないが、これはこれで居心地が悪い。
「……っ、えー、ご歓談中皆さん申し訳ありませんが、敵登場です」
障害物がないか使い魔を放っていた魔女子の言葉に、全員に緊張が走る。
「さっきと同じ奴か?」
「そのようですが、今回は数が多いです。
この場所で囲まれたら面倒です、これはバラけて対応した方が良いかもですね。取り敢えず障害を排除してから、ここにもう一度集合、厳しい時は、終わった人からフォローに回りましょう」
「本当にこういうサプライズ好きな雄英!!」
鋭児郎の言葉と共に、各々気の合うメンバーと動き始める。
もはや勝手知ったるというか、不安の色はない。これでも一学期分ミッチリ訓練を受けてきたのだ、これくらいは皆が慣れている
「で? どうする?」
集まったいつものメンバー、振武と百、魔女子に焦凍が顔を見合わせる。
「焦凍さんと動島くんの力はある程度向こうも把握してしまっているはずです。つまり、2人が相対するよりも、その火力や“個性”を用いて詰めを担当して頂いた方が良いかもしれません」
「でしたら、陽動とメインの戦いは私と魔女子さんに任せてもらいます。
生き物ではないのですから、一部ではなく全身粉々にしてしまわなければいけませんね」
このグループのブレーンである魔女子と百の言葉に、振武と焦凍は頷く。
「じゃあ、こういうのは……」
4人の話し合いは、そう長々と続くものではなかった。
◇
暗いバーの中で、死柄木弔は考えていた。
緑谷出久と直接話をしてから、寝ても覚めても思考を止めなかった。
どうやったら雄英に、ヒーローに、オールマイトに打撃を与える事が出来るか。
そうして考え続けて得た答えは、合宿の襲撃だ。そこで爆豪勝己を誘拐し、生徒達を出来るだけ多く殺す。そうする事で雄英とヒーローへの社会的信用は落ちる、こちらは新しい手駒を出来る可能性が生まれ、しかも都合の良い事に爆豪勝己は緑谷出久の幼馴染。精神的揺さぶりは十分。
つい最近揃ってきた手駒を使って奇襲させる。個々人の戦闘能力は高いから心配する事はない。一応、補助としての脳無一体を貸し出す。それは〝先生〟の許可も貰っている。
準備は万端。
だが……。
「やはりあの者達の動きが気になりますか、死柄木弔」
バーカウンターの向こう側でコップを磨いていた黒霧の言葉に、死柄木は面倒臭そうに首肯する。
「彼奴らの助力なんて、本来は要らないんだがな……〝先生〟との契約の事を考えると、無視も出来ねぇ」
動島知念とその弟子達。
片方は昔から自分も知っている男だが、仲が良い訳でもないのでもはや味方ではないと判断している。
あの集団は、最初は死柄木の護衛として呼ばれていた。
〝先生〟と縁が深く、おまけに強い。きっと役に立つだろうと。しかし、そもそもあの戦闘狂集団だ、使い勝手は極めて悪い。唯一こちらの命令を聞くのは《自動殺戮》だが、あれはあれで人の言う事〝しか〟聞かない。
……今回の計画では、使う気のなかった駒だ。
勝手に暴れるかもしれない駒は邪魔にしかならない。強過ぎるとくれば余計に。
だが彼奴ら力の押し売りをしてきた挙句、交換条件を持ち込んできた。
ようは「こっちにも目的がある。手伝いついでにこっちも手伝え」と言う事だ。
「計画が狂う……」
「ですが、今回の作戦は見事と言っても良いでしょう。
この上、保険として彼らの助力を得られるのであれば、確実性は増します」
「そういう問題じゃねぇ……あいつらは信用出来ない」
出来ない、というより、してはいけない。
動島知念は便宜上ヴィランという事になってはいるものの、そんな名称や肩書きなどどうでも良いと思っている。
積極的に悪を為したいと思っている訳ではないし、反面善行を積もうと考えている訳でもない。
どうでも良いのだ。
善悪や、社会の中で唱えたい主義主張もない。
ただ強くあれ。
その為だけに行動するし、それ以外の事を考えるのは余分だと思っている。
だからだろう。死柄木の言葉にも、〝先生〟の考えにすら一個も共感せず、興味のないという姿勢を取り続ける。
実にくだらない、とすら思っているかもしれない。
「……ああいう奴が1番厄介だ。ただただ戦いたいとか殺したいとかより、面倒だ。分かりづらいし、どうでも良い理由で裏切る」
信用してはならない。
信頼なんて以ての外。
戦鬼と仲良くなんて、するべきではない。
「あの方には、目的があるようです。
それが済めば、こちらを害する必要性もない。そう考えれば、悪い取引ではありません」
「……そうだな」
その言葉に、死柄木は頷く。
そもそも出してきた条件は、とてもシンプルでそう難しい事ではない。勝手にやっていてくれるし、邪魔な生徒をついでに排除してくれるなら願ったり叶ったりだ。
強くなることしか考えていないとしても、必要な事は心得ている。頭が悪い訳でも、策略を練れないわけでもない。そこが厄介ではあるが、今回は大いに利用させて貰えればそれで良い。
「攫う人数が1人増えようが、労力は変わらないしな」
グラスを持ちながら、死柄木は笑みを浮かべた。
悪辣な笑みを。
◆
「ハァーイ鬼サンコチラ、手ノ鳴ル方ヘ……イエ、手ハアリマセンケド」
九官鳥がそう言葉を紡ぎながら飛行する。
その後ろから、土塊で作られた魔獣が走ってくる。
土で作られているからか、防御力はそれほど無い。九官鳥が助走(助飛行?)を付けて突っ込めば崩れる部分もある。
だがそれではダメだと判断した魔女子は、こうして魔獣を牽制し誘導し続けている。
「向こうからあのピクシーボブさんが見ているのでしょう。そりゃあ、土の動物です。コントロールを握らなければ土塊に戻ってしまう。
しかし、同時に複数操作しているのであれば精密さに欠け、おまけに注意力も散漫になります。当然、動きは単調。だから私の使い魔でも簡単に誘導される」
魔女子は1人でそう呟きながら、走ってくる魔獣を見据える。
「そして、だからこそ簡単な罠に引っかかる……百さん!!」
「承知いたしました!!」
魔女子の声に、木の上に登っていた百が答える。
手に持っているのは、投網のようなもの。だが、ただの投網では無い。特殊繊維で強化されているこの網を、簡単に食い破る事は出来ないだろう。
百がそれを投げ付けると、投網は上手い具合で広がり、魔獣の体全体を搦めとる。
拘束できるのはそう長い時間では無い。
しかし、それで十分、
「轟さん、お願いします!」
「ああ、任された」
その言葉と同時に、冷気と氷が地面を這い、土の魔獣を足元から凍らせる。
普段拘束に使っているような生半可な冷気では無い、芯から凍らせる圧倒的な凍気で、土の魔獣の皮膚は剥がれ落ち、木で作られている爪や牙に罅が入る。
“個性”で強化されているとは言え、凍り付けにされ動けなくさせ、さらに脆くさせられた土の魔獣を、
「頼んだ、振武」
「あいよ!!」
焦凍の合図と共に飛び出した振武が、拳を振るう。
「震振撃――破鎚!!」
力と衝撃を持って放たれた鉄槌のような拳が、土の魔獣を正面から確実に粉々にする。
陶器のように割れやすく、しかしそれ以上に脆くなっている魔獣は最初に5人で倒した時と同じようにボロボロになっていた。
圧勝だ。
「なんつうか、フルボッコって感じだな。
ここまで簡単に倒せるとはな」
冷えた土をもろに被った振武がそれを払い落としていると、魔女子が歩み寄ってくる。
「作戦とは個々の労力を分担し、余力を残しておくという意味もあります。何より、相手がどんな事が出来るのか分からない以上、油断はするべきではありません。
先々何があるか分かりません。被害と疲れは最小限に、です」
「確かに……ここまで確実にやれて、個人が疲れないっていうのはありがたい」
作戦立案、“個性”での小技が得意な魔女子。
様々な物を創り、様々な状況に対応出来る百。
拘束の氷結と、文字通り強い火力を持つ焦凍。
そして、確実に相手を屠る威力が出せる振武。
この4人が揃っているから、危なげなく確実に、余力を残して勝てるのだ。力押しばかりの深部ではこうはいかない。
「それでは、取り敢えずお疲れ様です」
「ええ、皆さんのおかげで上手くいきました」
「八百万も含めてな」
「おう、こういう戦い方も良いもんだな」
各々言葉を発して、ハイタッチをする。
「他に手を貸さなきゃいけないグループっているか?」
「……いえ、皆さん戦い終えたようです。元の位置に集合してから進みましょう」
「そりゃあ良かった。とっとと合宿先まで行こう……腹減ったし」
「振武さん、子供みたいですわ……まぁ、その、私もですけど」
思い思いに話しながら合流地点に向かう。
仲間を一緒に戦えば、多少の敵も簡単に倒せてしまう。
その事実に、振武は微笑ましそうに笑顔を浮かべた。
◇
「にゃーーーー、負けたーーーーー!!」
「そりゃあ複数操作してりゃあ、そうなるでしょう」
合宿をする建物の前で叫んでいるピクシーボブに、マンダレイは呆れていた。
「いや、意外と早く攻略されたからオマケをと思ったけど……でも、イレイザー。あんたん所の生徒、結構優秀だねぇ。
バラバラに行動しているように見えるけど、ちゃんと考えて動いてるにゃん」
「っ、まぁ、そういう風に育てましたから」
近くに座っていた相澤は、口に含んでいたお茶を飲んでから言う。
「ねこねこねこ!
特にさっきの戦いで、面白い4人組がいたよ! さっき軽く倒してたから油断してくれてるかと思ってたけど、しっかり作戦立てて動いてた4人組が!」
「……あー、それは言われなくても分かります」
振武、百、魔女子、焦凍の4人組だろう。
期末テスト以降、良い意味で変化している生徒は多かった。4人もその中に含まれている。
塚井魔女子は、柔軟に見えて作戦に偏りがあったが、それが無くなり、安全に確実な勝利を得る為ならばどんな手段でも考案できるようになった。
八百万百は固定概念を捨て、より様々な事が出来るようになっている。魔女子に影響されているのか、巧妙な作戦と即応性も上がった。
轟焦凍は段々炎熱の扱いも上手くなり、何よりコミュニケーションと作戦をすぐに納得出来る頭の回転速度も上がっている。
そして動島振武は、どちらかと言えば力押しだったのが落ち着くようになり、小技や他人の力を借りる事により躊躇しない下地が出来てきている。
おまけに、普段4人で行動する事が多い分、お互いどんな事が出来るのか、どんな事が好きでどんな事が嫌いなのか把握出来ていて、コミュニケーションも抜群。
もしチーム戦をやらせるならば、このメンバーはある意味理想的になってきている。
個人戦で強かった人間達が連携出来るようになっているのも、また成長だ。
(もっとも、まだ伸ばしがいがあるわけだが)
個性も個人戦も、チーム戦も強くなってきた生徒達だが、成長率が高いメンバーも含めてまだまだな部分がある。
今現在で強いとしても居直ってはいけない。強いならば、より強くする事こそ教師の役目だ。
……特に、仮免許を得るのであれば、足りない要素が多い。
今回はその一つ、“個性”の強化に重点を置く。コスチュームの補助機能なしで上限を上げる。1年以上かけて行うそれを、今回の林間合宿で凝縮して行うのだ。
ここからが辛いだろう。
(……特に、緑谷と動島は考えてやらねぇとな)
木椰区ショッピングモールでヴィランに遭遇した緑谷出久。
霊園でヴィランから襲撃を受けて何とか生き残った動島振武。
どちらも一体何の因果か、ヴィランに付け狙われる部分があるのは間違いない。優遇措置でもないし、そんなものはしたくもないが、本当に目をつけられているのだからどうしようもない。
自分達の目の届く範囲であれば守る事も可能だが、それ以外となると……それも含めた様々な問題が発生したからこそ、仮免を取得させ自衛手段を取って貰わなければ困る。
しかし、
(動島を襲撃した連中……あれの情報が殆どこっちに上がってこないってのは、どういう事なんだ)
捜査をしているはずの警察からは当たり障りのない返答しかない。勿論、彼らも敵の正体を知らないのかもしれないが……何より、壊から言われた言葉が気にかかる。
林間合宿が始まる前、振武が襲撃された事もあって壊に電話したが、
『心配ないよ相澤くん――
(あの言い回し、恐らく敵の正体を知っている……壊さんがわざわざ『僕ら』と言ったという事は、協力者もいる……しかも、『処理する』なんて言い方をされたら)
気にするな、という方が無茶な話だ。
何かが進んでいる。
自分の知らない所で動いている闇がもう一つ。
イレイザー・ヘッドとしても、相澤消太としても踏み込めそうにもない問題が、確かにある。
「っ……厄介な事にならなければ良いがな」
もう一度、ペットボトルのお茶を煽ってから、珍しく不安を口にした。
新年を迎え、ようやく新章突入。
頑張っていきたいと思います。
次回! 峰田君……慈悲はない!! お楽しみに!
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