「オラァ!! 気張っていけ小僧っ子ども!!」
「イエッサー!」
「声が小さいぞ!!」
「イエッサァ!!」
次の日、つまり林間合宿3日目になっても“個性”を伸ばす訓練は続いていた。
当然だ、今回の林間合宿は完全にそれだけを目的として設定されている。丸一日はこの訓練が続くのも道理。特に今回、情報機密を徹底させる為、教師は相澤とB組のブラドキング、そして外部協力者にプッシーキャッツの4人のみ。
幅が広くカバーしやすい“個性”の持ち主が揃っているとはいえ、訓練そのものは同じ内容が続く。
だから虎ーズブートキャンプで振武と出久、そしてB組に所属している増強型“個性”のメンバーも混じって体を動かしている。
動かしているが、
「教官! 何で俺だけ重り付きなんでしょうか!?」
振武の腕や足には、期末試験でも使用された超圧縮おもりがシッカリと取り付けられている。重さは試験官が付けていたのとこれまた同じ、自分の体重の約半分だ。
「貴様は余裕がありそうだったからな!!
あと、相澤から「動島は元々鍛えてるから他の奴らよりも厳し目で」と注文を受けたしな。注文通りにご提供!!」
「鬼かあんたら!!」
確かに普段の鍛錬に比べれば内容そのものはそれほどでも無かったけども、まさか自分だけ特別扱い(理不尽)を受けるとは。
想像していた以上の加重に歯を食いしばりながら体を動かす。手首や足首付近に装着されている所為か、力がそちらに向けば重さが移動し、体勢がブレるのを感じる。
姿勢を維持する為に、背筋や腹筋にも負担がかかっていた。
つまり――予想以上に辛い!
こんなものを付けて試験官をしていたプロヒーローがどれほど凄いのかを自覚させられる。
「流石にこれはちょっと無「無駄口を叩くなこのケツの穴の緩いクソひよこガァ!!」ギャァアアァアアァ何でコブラツイストー!!」
“個性”《軟体》で作り出される関節技は、普通の関節技より絡まって痛い。
「筋を柔軟にし、筋繊維をもっと酷使するのだ!!」
「せめて普通の柔軟で良かったじゃ「黙れ」アタタタ関節外れる外れるって!!」
訓練というよりも一種の拷問に近くなって来ている。
それを見て、他の生徒よりも疲れの濃い切島はゲッソリとした表情で呟く。
「にしても、どんどん動島のアレも別種になってきたな……まぁ、なんか塚井もちょっと違うけど。さっきネズミの群れで凱旋門作らされてたし」
「でも凄いよね、重り付けながら僕と同じくらい動いてるよ、あれ……」
「まぁ元々自力ある奴だしなぁ」
「相澤!……先生!! オレもあの重り付けろや!!」
「いや爆豪、お前に付けてもあまり意味がないし……おら、お前らお喋りしてないで手ェ動かせ手ェ」
振武がコブラツイストを受けている姿を見ながら話していた生徒達を、相澤が面倒臭そうに散らす。
理不尽!! 理不尽極まりない!!
そんな風に話している間に、ピクシーボブが笑顔で近づいてきた。
「ねこねこねこ!
それより皆、今日の晩はねぇ……クラス対抗肝試しを決行するよ! しっかり訓練した後はしっかり楽しい事がある! ザ! アメとムチ!」
肝試しという言葉に、十人十色の反応を生徒達は返す。
楽しそうにしている者。
今から怖がっている者。
無駄に対抗心を燃やしている者。
その反応は様々だが、その中で振武は、
「ふぅ〜ん、そういうイベントまでやるんだなぁ」
コブラツイストから解放され、どこか感心した声を上げる。
その反応を見て、焦凍はどこか不思議そうな顔で首を傾げる。
「振武は怖いの嫌いじゃなかったか?」
「俺が苦手なのは「幽霊」であって「怖い」ものそのものじゃない。
言っただろう? 最初から偽物と分かっているなら怖くないって」
幽霊という、物理で対応出来ないナニカが怖いのだ。誰かが驚かしている、あるいは機械が驚かせていると考えれば恐怖心は半減どころか0。
最悪、ぶん殴って解決出来るのだし。
「何となく言葉の裏に脳筋な感じがしないでもありませんが、まぁ私も同感です。
本物ではないのであれば、私達が怖がる事ないですしねぇ」
「ハハッ、そんな事言って僕達に驚かされたらどうするんだ塚井魔女子!」
冷静な魔女子の言葉に、突っかかってきたのは物間寧人だった。
あの食堂の一件からもう話しかけては来ないんじゃないかなと思っていたのだが、逆に事あるごとに話しかけてきている。嬉々として喧嘩を売りにきている……と言うより、最近では「もしかして構ってもらいたいだけなのでは」とクラス内で話しているのは彼には秘密だ。
「どうもしません。まぁ驚かすというのは非常に曖昧です。恐怖心から来る物なのか、それとも吃驚するのかでもだいぶ違うでしょう。
後者であればそう難しくないんですから、そんな偉そうに言われましても、えっと、……物なんちゃらさん」
「物間だよ! 3文字くらい覚えろよ!!」
そしてそんな彼に、あいも変わらず魔女子は塩対応だった。塩対応という言葉以上にそもそも個人として認識出来ていないのだが。
「あいつも懲りないよなぁ、どんなメンタルしてんだよ」
「案外塚井の事好きなんじゃね?」
「………………」
「ちょっ、焦凍あっつい! こっちに炎が来てるあっつい!!」
仲良しなのか、それともアホなのか。
苦しい訓練の中でも、どこかマイペースだった。
◆
訓練が終われば、今日も皆で料理をしている。
料理に慣れていたり得意な人間は、現在も材料を刻んだり流し場付近で大忙し。そうでない人間は薪などを運んで竃の準備をしていた。
振武は後者。竃担当だ。
料理は出来なくもないが、普段台所は父のテリトリーで侵入を許して貰えない所為で最近は包丁どころかピーラーすら持たされていない。それならばと、力仕事や火を付ける役を買って出たのだ。
「えっと、薪こんくらいで良いんだよな、緑谷」
「あ、うん、大丈夫だと思うよ」
持って来た薪を出久の隣に置き、振武も竃の準備を始めた。
黙々と乾いた木を並べて、火がつきやすいように調整する。
「……ねぇ、動島くん。
少し相談、良いかな?」
「ん? なんだよ改まって」
出久の言葉でそちらを見ると、真剣な表情で出久も話し始める。
「えっと、洸太くんの事。あの子が、ヒーロー……ううん、“個性”ありきの超人社会そのものを嫌ってて、僕は何も、その子の為になるような事、言えなくてさ。
オールマイトならなんて返しただろう、って思ったけど、今いないから……どうすれば良いのかな、って」
出久の考えながら話す言葉に、振武も少し手を止める。
「……そっか、やっぱ緑谷も考えてたんだな」
「も、って事は、動島くんも?」
「まぁな。俺も話す機会があったから話したけど……難しいよな、やっぱ。
俺はヒーローや“個性”、超人社会に対してだって、別に否定的じゃないから。本当の意味で共感してやる事は出来ない」
もし自分が普通の子供と同じく一からこの世界で育っていれば、別の言葉をかけてあげる事が出来たかもしれないが、振武は最初から大人としての感性があった。
ある物はしょうがないから使っておこうという打算的思考があったのは否定出来ないし、それを変えるのは難しいと同時に、変える必要性は無いとすら思った。
ステインのように社会構造を否定しているならばもっと話すべき事もあるかもしれないが、構造どころかそのものの否定と来てしまえば、それを甘受している振武には何も言えない。
「でも、……っ」
やはり何か事情を聞いたのだろう。出久は言葉を続けようとするが、言って良いものか分からないのか口の中でモゴモゴと溜め込んでいる。
「……俺は、言葉ってのは〝重み〟が大事なんじゃないかなって思うんだわ」
それを敢えて深く聞かず、振武は話を続ける。
「そいつの感情がどこまで言葉に乗っているのかとか、今まで何をやって来たかってのが見えるだけでも、言葉ってのはだいぶ変わるよ。そしてそいつは目に見えないと、ないもんと同じだから、ちょっと大変だけど……なかったか? お前にもそういう時が」
振武の背中を押し、倒れそうになった時に支えてくれた人達。
振武の信念に様々な感情を向け、否定したり肯定した人達。
誰の言葉にも、そんな〝重み〟があった。
自分には想像出来ないような辛い経験と、そこから来る実感。何年も何十年も命が危ぶまれる状況で磨かれた新年や理想、自分の命も含めた全てを持ってやって来た事全てが乗った言葉だった。
受け入れるのも跳ね除けるのも、容易な気持ちで出来る〝重み〟ではなかった。受け取る時 文字通り重みを背負う位の気持ちでなければきつかったし、それは違うという言葉も、言うのに苦労する。
「………………そう、だよね。
通りすがりが何言ってんだ、って思うもんね……」
何を思い出しているのか、手元を見つめながら出久は呟く。
「……お前が洸太にどう思ってもらいたいのか知らないけど、
もしお前が納得出来ないなら、ガンガンいけ」
「うん、やっぱり無理に話すのは……ってガンガン!?」
驚いた出久の顔が面白くて、つい笑みを浮かべてしまう。
「なんだよ、無理に突っ込むなとでも言うと思ったか?
俺がそういうのに寧ろ関わっていくタイプだって緑谷だって知ってるだろうが」
緑谷出久は重度のお節介だ。
自分で言うのも何だが、振武だってそう。
そんな人間が悩んだり苦しんでいる奴を見て「デリケートでプライベートな問題だから関わらないようにしよう」なんて思えるほど利口だったら、最初から悩む事などない。
不器用で利口じゃないから、緑谷出久は凄いんだ。
だからこそ、動島振武は尊敬するのだ。
「余計なお世話はヒーローの本質、だろう?
まぁ方法も何もアドバイスしてない、無責任な言い草だけど、俺も何が出来るか考えるよ」
「……うん、ありがとう。
やっぱり、動島くんは凄いね。僕なんかより全然、考えている。
言葉に、〝重み〟があるよ」
……出久の言葉で、心の中のしこりに妙な痛みが走った。
〝重み〟――。
――それは〝本物〟か?
「? どうかした?」
「え? あぁ、いや、何でもない!
めっちゃ腹減ってぼうっとしちまった!!」
「アハハ、今日も動いたもんね。動島くんは特に」
「軽く言ってくれるぜ、体重の半分って結構ヤバいんだぞ?」
薪を並べて、笑って話して。
先ほどのことを隠す。
見せてはいけないような気がして。
動島振武という存在が、基礎から崩れそうな気がして。
必死にそれを隠した。
「さて、腹もふくれた皿も洗った!
お次は、」
「「肝を試す時間だー!!」」
ピクシーボブの言葉と同時に、芦戸と上鳴を中心に歓声が上がる。
補習組は特に安堵の表情を浮かべていた。なにせ彼らは昼間の訓練が終わった後睡眠時間を削って補習授業を受けているのだ。眠気や疲れ以上に、本人達的にはストレスが溜まるのだろう。
にしても騒がしいが。
「はっはっはー怖がらせちゃうよ〜」
「悲鳴上げさせちゃうよ〜」
「何で俺に言うんだよ、B組の奴らに言えよ」
振武の周りをフラフラと踊り始めるバカコンビは、肝試しの趣旨すらちゃんと理解出来ていないらしい。
「あぁ〜、その前に大変心苦しいが、補習連中は……これから俺と補習授業だ」
「――ウソだろ!!??」
相澤の無慈悲な死刑宣告の所為で、芦戸の表情がこの世のものと思えないレベルで歪んでいる。
上鳴が笑顔で固まってその場に跪いた。
切島や砂藤、瀬呂も絶望に染まった表情を浮かべている。
「すまんな。日中の訓練が思ったより疎かになったんで、
「殺生な!」
「俺達の青春を奪わないでください先生!!」
「あの、2人とも? 抵抗するのは良いけど俺にしがみ付くのやめてくれない?」
動揺している補習組を例の捕縛武器で簀巻きにしていく相澤。その手を逃れ(いや、もう体の半分は巻かれている状態だが)芦戸と上鳴がしがみついて来る。
邪魔だという事以上に暑苦しい。おまけに相澤が引っ張っているので、何やら巻き込まれそうな勢いだ。
「動島! 動島からも言ってくれよ!!」
「救けて正義の味方《ヘルツアーツ》!!」
「お前ら都合の良い時だけ……諦めろ、慈悲はない」
「「嫌だ〜〜〜〜〜!!!!」」
振武がその掴んでくる腕を振り払うと、まるで蜘蛛の巣に連れ込まれるミノムシのように相澤に引っ張られていく。
「なんでしょう、何かあの歌を思い出します……子牛を出荷する時の、」
「『ドナドナ』でしたっけ?」
「いや、子牛は可哀想だが彼奴らは可哀想じゃない」
育てられ理不尽に殺されてしまう家畜の悲哀と、自業自得の補習授業に引っ張られるバカコンビを同列に扱ってはいけない。
「はい、というわけで、脅かす側の先攻はB組。A組は2人1組で3分置きに出発。
ルートの真ん中に名前を書いたお札があるから、それを持って帰ること!」
マンダレイの説明に、皆が静かに聞いている。
普段ならば騒がしい事この上ないのだが、騒がしくする人間が殆ど補習組だった事もあり、妙に神妙な空気になっている。
「ふむふむ、2人1組はクジ引きですかねぇ……当たると良いですね百さん」
「そういう魔女子さんこそ……フフッ」
魔女子の揶揄いに珍しく百が冷静に返事をしているのを横目に、マンダレイの説明は続く。
「驚かす側は直接接触禁止で、“個性”を使った脅かしネタを披露してくるよ」
「つまり!」
虎が実に楽しそうにポーズを取り、マンダレイ以外のメンバーがそれに合わせる。
「創意工夫でより多くの人数を失禁させたクラスが勝者だ」
格好つけて言った割りには、めちゃくちゃ下品だった。
だが、よく考えられていると思う。つまりは、
「なるほど! 競争させる事でアイデアを推敲させその結果“個性”更なる幅が生まれるというワケか、さすが雄英!!」
……思っていることを全部飯田に言われてしまった。
「でも、そうすると後攻というのは少し不利に感じますわね。こちらは向こうを超えなければいけない訳ですから」
「俺、あんまり役に立たないかもなぁ」
“個性”使った猿叫でビックリさせる位しかイメージ出来ない。
「いえいえ、動島くんの場合は仮装でも何でもしてB組を全力疾走で追いかければ、結構怖がると思いますよ。あの移動術を使えば一瞬で背後に移動して声をかけるのも可能ですし」
「良いですわねそれ! 私仮装創りますわ!」
「俺は冷気使って雰囲気演出する」
「じゃあ俺はちょっとストレッチしてくる」
「いやその前に脅かされる側だからねあんたら。
とっととクジ引いてね」
魔女子の言葉に気合を入れ始めた振武達に、ピクシーボブがツッコミを入れた。
すでに肝試しが始まって12分が経過していた。クジ引きを終え、皆自分のパートナーと一緒にもう森の中に入ってしまった組もいれば、当然まだ待機している人間もいる。
……ところで、クラスは全員で22人だ。
そこから補習組の5人が抜けて17人。
2人1組を作るには、当然1人余る。1人でこんなイベントに参加するというのは、普通であれば可哀想だなと思い慰める所なのだが、
「なんでおいら!!??」
振武だけでなく、誰もそう思わなかった。
見事お1人様の権利を手に入れた峰田は全く嬉しそうではないが、周りの女子達は実に安堵の溜息を吐いている。
「まだ言ってるわ……峰田ちゃんが1人でいてくれるととても安心ね」
「そうやねぇ、何かあっても困るし……ごめん峰田くん」
「酷い! それでもお前らヒーロー志望か!?」
「堂々と女湯覗こうとしたヒーロー志望が何言ってんの?」
泣きじゃくってその場に倒れこんでいる峰田だが、振武はハッキリと聞いている。
「あわよくば女子の胸とか尻とかに抱き付けたかもしれないのに」という、声色はこの世の絶望を表している割に、内容そのものは極めてアホな独り言を。
……雄英は、一般入試でも面接を採用するべきなのではないだろうかと、振武は真剣に考えていた。
2人1組という話だったが、上手い事、というより面白い事ばらけたものだ。
2番目に出ていった爆豪と焦凍は一方的に険悪に進んでいたし、残念そうにしていた百と魔女子のペアも先ほど出発した。
そして振武は、ペアになった出久と一緒に出るのを待っている。
出久と一緒に行動というのは今まで経験がない。彼がどういう反応をするのかも含めて、振武は楽しみにしていた。
「なんだったら、2人で“個性”使って一気に走り抜けるか? それはそれで向こうが驚いてくれそうだ」
「アハハ、それは流石にルール違反じゃないかな?」
そんな雑談をしながら、2人でのんびりと待つ。
夏とはいえ、風がそれなりにある森の中で、しかも時間は夜。都会では見れない位綺麗に輝いている星と涼しい夜風に目を細める。
見上げているだけでも、心が洗われるような気さえする。
さらに清々しい気分を味わいたい。そう思って胸一杯に清涼な空気を、
「――ん?」
吸い込んで、違和感を覚える。
木々の青々とした匂いに混じって、まるで何かが焦げ付いているような嫌な臭いがしたからだ。
「どうしたの、動島くん」
出久の言葉に、自分の勘違いかもしれないと思いながらも答える。
「いや、なんか焦げ臭いと思ってさ」
「そうなの? スンスン……本当だ、ちょっと臭うね」
嗅いでみて自分でも分かったのか、出久も顔を顰める。
「竃、ちゃんと処理したよな、俺ら」
自分達で準備をして片付けもしたので間違いないはずだ。出久もそう思っているのは確かで、言葉なく頷く。
だとしたらどこかで何か燃やしているのか……あるいは……。
予想が当たっているかもしれないという予感なのか、それとも臭いの所為なのか。心の中の小さな焦りを押さえ込んで周囲を見渡し――ピクシーボブとマンダレイが見上げている場所に、自分も目を向ける。
暗闇の中でもハッキリ確認出来る黒煙が立ち上がり、その量はどう考えても焚火でそうなったものではないと分かる程。
「――山火事、」
自分で予想しておいて、あり得ないという気持ちが言葉を押し出す。
山火事が発生する方法には2パターンある。
1つは自然発火。落雷や噴火、あるいはごく稀に乾燥した落ち葉同士が擦れ合い火が付く可能性。
しかし夜空がハッキリ見えるここで落雷はない。噴火であればもっと分かりやすいサインがあるはずだし、夏で湿気も多い今の時期の落ち葉が擦れ合ってなんて事は難しい。
ならばもう1つ。
人災。
炎やそれに関係する“個性”を持っている爆豪と焦凍が森の中にはいるが、こんなに煙が立ち込めるほど燃える前に、焦凍が氷結の“個性”で消し止めるだろう。
(だとしたら、可能性は、)
頭の中が高速で回転する。
もし、あれが爆豪や焦凍の所為なのであれば、消し止める余裕がない程危険な状況。
もし違うのであれば――誰が、
「――飼い猫ちゃんは邪魔ね」
まるで空白のようにポッカリと空いてしまった時間の中に、2つの影が滑り込んでくる。
「なっ――」
ピクシーボブの言葉と共に、土が隆起する。
予想外の場所から飛び出してきた人影。生徒なのではないかと一瞬判断しようと躊躇したその瞬間に、
「消えろ、偽物」
アーマーで固められた足と、大きな鉄棒のようなナニカが、ピクシーボブの頭を弾く。
額と口から血を流しながら、ピクシーボブは地に伏した。これだけ語ってしまえば相当簡単に見えるかもしれないが、恐ろしく早く、確実にプロヒーローを倒すその手腕は、寒気を感じるほど鮮やかで人を傷つける躊躇がない。
――1人はこんな夜中だというのにサングラスを掛けている男だった。投げた鉄柱を掴み、それでピクシーボブの頭を押さえつけている。
――もう1人は、まるでトカゲが人間になったような姿をした異形の姿をしている。腰や背中に大量に刃物を持ち、目はギラギラとこちらを睨みつけている。
確認するまでもない。
「何で、万全を期したハズじゃあ……!!」
峰田の情けない言葉で、ようやく全員がその状況を理解し、身構える。
こんな堂々とした敵意を持っている人間を、そこら辺の一般人だと思える人間はいない。
こんな連中、
「何で
ヴィラン以外にいるはずがないのだから。
次回! ネホヒャン!! お楽しみに!!
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