plus ultraを胸に抱き   作:鎌太郎EX

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日間ランキング1位ありがとうございます!
ランキング1位になった時には正直信じられませんでしたが、嬉しいです!
勿論、これからも努力していきますが……書けば書くほど下手に思えてきますが、そこは鍛錬あるのみ!
頑張りますので、これからも応援していただけると幸いです。
では本編をどうぞ!!


episode4 共闘開始

 

 

 

「手伝ってやるって……皆はどうしたんだ!? まさか塚井1人に任せたんじゃないだろうな?」

 

「それこそまさかだ。アイツ、頭良いし察しも良いはずなのに、妙な所で抜けているからな。

 それより、縛るの手伝ってくれねぇか。凍ったままでも良いが、縛っちまった方が確実だろう?」

 

 振武の慌てたような言葉に、焦凍は冷静な口調で話しながら、自分の凍らせた者たちを持ってきたロープで縛り上げる。幸いあまりにも唐突に凍らされたせいか、彼らが小心者だったからか、皆怯えるばかりで作業自体は問題なく行えそうだ。

 渡されたロープで同じように、振武も手近にいた者を縛り上げる。

 

「で、ならなんでお前がここにいるんだ」

 

「人質になっている生徒を解放したからな。お前のおかげでこっちは最小限の動きで済んだし、他の生徒たちと一緒に校門から校外に出るくらいなら、アイツと他の奴らでも出来るだろう」

 

 焦凍の声は動揺も混乱もなく、冷静で、平坦な説明だった。

 その言葉に人は安心するのだろうが、振武にとっては心の中にある小さな苛立ちが増すばかりだった。

 

「だから、それで何でこっちに来る事になる? こっちはもう殆ど片付いてたし、お前の手伝いは、」

 

「いらないって言うのか? これから敵を全員ぶっ倒そうって考えているお前がか?」

 

 ……その言葉に、振武は何も言い返せなかった。

 図星だったからだ。自分の隠し事がバレていたという事に対する驚きもあった。

 

「……俺ってそんなに、隠し事が下手か?」

 

 振武の少し恥ずかしそうな言葉に、焦凍は少し不思議そうな顔をする。

 

「いや、隠せていると思っていたのか? あれで」

 

 今日振武は、久しぶりに「正直な言葉は時に人を傷つけるのだな」と再認識した。

 

「……ありがたいけど、お前まで巻き込む訳にはいかねぇんだ。これは俺のワガママで、お前は関係ないんだからさ」

 

 ゆっくり身体をほぐすように動かしてみる。

 10人近い人数と戦闘を行い、敵を引き寄せる為に散々動き回ったが、それほど疲れていない。毎日のように続けてきた振武の修行は、直接的な戦闘能力だけでなく、体力も高めてきたという証拠である。

 他の敵も全て自分で倒せるという自信があるわけがない。体は平気だが、初めての戦闘は自分でも気付かなくとも精神的に消耗している場合もあるし、これまでのチンピラ程度の敵と主犯が同程度とも思えない。

 1人で行けば負けるかもしれない。

 だが、だからやらないという選択はしないし、轟も巻き込んでという選択肢も振武にはなかった。

 

「おい、そりゃないだろう。ここまでチームとして動いたんだ。ここで関係ないなんて言わせねぇ。どうせだったら、最後まで付き合うぞ」

 

 焦凍の言葉に、振武は小さく苦笑を浮かべる。

 

「……お前、意外と頑固だな」

 

「意外とってなんだよ」

 

「意外とは意外とだ」

 

 冷静で感情に流されない。合理的な考えを前提に動ける。

 それほど長い時間話したわけではなかったが、焦凍の性格を振武はそう判断した。もし振武よりも先に焦凍が提案していたら、それは堅実で危険性が極めて低いものになっていただろう。

 そんな中、結局焦凍は振武と行動を共にすることを選んでいる。

 

「まぁ、俺らしくねぇのは確かだがな。それでも、お前がやるなら俺だってやるさ」

 

「……そっか、ならしゃあないな」

 

 焦凍の言葉に納得すると、振武も作業を再開する。

 ここで押し問答を続けても、あまり意味がない。自分が前面に出れば焦凍が怪我を負うこともおそらくないだろう。

 そう振武が考えている間に、2人でその場にいた敵を全員を縛り上げ、廊下の脇に押しやった。

 

「で、作戦は?」

 

 焦凍の言葉に、振武は真剣な表情で答える。

 極めて真剣に、

 

「お前が来る前までは屋上行ってから教員室に行こうと思ってたんだがな……塚井や他の連中が外で助けを呼んでくれるなら、プロヒーローの到着はそう遅い訳じゃない。なら、人質の方に行った方が良いと思うんだ。

 俺がオフェンス、轟がサポートしてくれりゃ、教員室の4人も倒せるかもしれねぇ」

 

 そう言って歩き出す。

 しかし、

 

 

「待て、それじゃあ俺が来た意味がない。俺が前に出るから、動島がフォローしろ」

 

 

 焦凍の言葉が、振武の動き出した足を、すぐに止めてしまう。

 振武が怪訝な顔をして振り返ってみれば、焦凍の真面目な表情を見れば、冗談でもなんでもない、当然の発言だと思っているのだろう。

 

「あ? 多数戦闘出来る俺の方が前に出る方が効率いいだろうが。つかツッコむ所そこかよ」

「効率だけ考えるなら俺が前に出た方が良いだろう。俺の個性を使えば、犯人達を一瞬で無力化出来る」

「轟の個性は意識奪うレベルで使ったら命まで奪いかねない。中途半端にやって氷が溶けて後から援軍として来られたら面倒だろうが」

「にしたってお前が一人一人倒してたら時間もかかるし、俺の個性でまとめて凍らせられないだろう? それとも、お前巻き込んでも良いのか?」

「んな訳ねぇだろ! 誰が好き好んで冷凍保存されたいと思うんだよっ」

「なら俺が前で、動島がサポートだな」

「おいその論法おかしくないか?」

 

 いつの間にか廊下のど真ん中でにらみ合う形になる。

 ……2人とも好き好んで喧嘩をしている訳ではない。

 どちらも頑固で、一歩もひかないだけである。

 振武は自分が決めた事だからという矜持と、最初に感じた焦凍への苛立ちがそれを煽った結果。

 焦凍は自分が動いた方が効率的だという判断と、振武を手助けしたいという自分でも理由の分からない感情の結果。

 どちらもそこまで本人達の中で重要なものではなく、こんな場所でわざわざ言い合うほど感情的な性格でもない。もし相手がお互いで無かったならばもっと冷静になっているだろう。ここに魔女子がいたならばもっと話はスムーズだったかもしれない。

 しかしここには振武と焦凍の2人しかいない。

 2人の感情からくる会話を抑えられる人間は誰もいなかった。

 だからこうして、話はどんどんこじれていく。

 

「あんまり無理したってしょうがないだろう。動島はさっきまで1人で戦ってたんだ、少しくらい休んだってバチはあたらない」

「こっちは全然疲れてねぇよ。ようやく身体が温まって、それに俺が始めた事なら俺が最後まで終わらせるのが当然だ」

「……なんかムキになっていないか?」

「轟こそ、随分俺を戦わせたくないみたいだな」

「そういうわけじゃない。普通のことを言っているだけだ」

 

 2人とも表情は大して変わらないが、他の人間が見ていたらきっと居た堪れない気持ちになっているだろう睨み合いと攻防が続く。

 だが、――敵はそう簡単に待ってはくれない。

 

 

「てめぇら、何呑気にくっちゃべってるんだゴラァ!!」

 

 

 先ほど3人出てきた曲がり角から、目の部分のみ切り取られた茶色の紙袋を被った男が1人が現れ、2人に向かって手から無数の弾丸のような物を飛ばす。

 ……振武と焦凍には知るべくもないが、この男は校門を見張っていた者の1人だ。本来ならば持ち場を離れるなと厳命されていたのだが、建物内から響く戦闘の音が気になり、持ち場をもう1人に任せてやってきたのだ。

 校門は1人きり。そう考えると、振武が最上と思っていた結果を出せたという事だった。

 弾丸は澄んだ音を発しながら振武と焦凍を襲う。普通の人間だったら、撃たれてから回避は出来ない。全身を包囲するように放たれた弾丸は全てを一瞬で処理できるわけがない。

 文字どおりの蜂の巣だ。

 紙袋の男は心の中でそう確信し、傍目からは見えないが確実にやってくる勝利に笑みを浮かべていた。

 

 

 

 

 

「うるせえ」

 

 焦凍が一瞬でその弾丸を凍らせ粉々にし、

 

「今話してんのが見えねぇのかっ!」

 

 ドガンッ!

 

 振武がその中で間合いをつめて紙袋の男を殴るまで。

 

 

 

 

 

「――はい?」

 

 だが何が起こったか、男は気絶するその瞬間まで、紙袋の男は理解出来なかった。

 弾丸より速く凍らせる事も、

 瞬きをした瞬間に殴られている事も、

 個性なんていうものが当たり前になった世界の中でも、非現実的な光景だった。

 

「……で、どうする?」

 

「……このまま言い合ってもキリがないのはわかった。しょうがないから、このまま2人で一緒に前に出るってとこでどうだ?」

 

「今ので連携が取れないわけじゃねぇってのは確認出来たしな。俺はそれで良い」

 

「あぁ、しょうがないから、俺が(・・)妥協してやるよ」

 

「……お前、そんな奴だったか? というか、イライラし過ぎじゃないか?」

 

「うるせぇ! 自分でもわかんねぇけど何かお前に腹たつんだよ!!」

 

「……別に動島を馬鹿にしたつもりはないんだがな」

 

「そういう問題でもねぇんだよこれは!!」

 

 完全に気絶している男を無視して、2人は教員室向かって歩き始める。

 縛らずにいるのは、気絶したから大丈夫だろうなどの理由ではなかった。

 2人とも、一瞬で倒してしまった男が眼中に無かっただけだった。

 ……哀れ、紙袋の男。

 

 

 

 ◆

 

 

 

「……今、さらに1人やられたね。なんか訳わかんない喧嘩してたけど、あの2人かなり強いよ。

 どうする? そろそろ撤収するかい?」

 

 振武の戦い、そして振武と焦凍の会話は、全て教員室にいる女には筒抜けだった。

 彼女の個性は〝超聴覚〟。この学校の敷地内程度であればどんな所からでも音を聞き取る事が出来るこの能力は、学校内の状況を知るには実に有益だった。

 そもそも3人の作戦も行動も彼女は把握していたのだが、他のチンピラがいくらやられようと、生徒が逃げ出そうとあまり問題では無かった。

 所詮使い捨てだ。あくまで時間が稼げればそれで良いと考えていたし、所詮私立中学になんて通っているお嬢様お坊ちゃんではこの状況を打破できないだろうと、今回の首謀者である反田響はそう思っていた。

 少なくとも、数十分前までは。

 

「そこまで強い奴がこの学校にいるとはな……ちっ、計画が台無しじゃねぇか!!」

 

 ドカッ!

 

 苛立ちを散々蹴り続けていた体育教師に向ける。もう何度も蹴られている体育教師は気絶して、ボロボロになりながら呻き声一つ上げない。捕まっている他の教師達は心配そうにそれを見るが、反田が怖い所為か、先ほどから何も出来ないで俯いているばかりだった。

 

「ヒヒッ、まぁ面白くて良いんじゃね? ほら、こんなあっさりしてちゃ、せっかくの俺らの力を試せないしさぁ」

 

「だな。おい響、もうこの際俺らがお迎えしちまっても良いか? どうせそろそろお暇するんだ、せっかくだから迷惑かけてくれたクソガキ達をボコボコにするくらい、問題ねぇだろう?」

 

 ソファーでくつろいでいた小柄な少年と、教員室に備え付けられている冷蔵庫の食べ物を食していた大柄の青年は、期待に満ちたように声を上げる。

 得た力を使ってみたいと思ってしまうのは人の性。他人の迷惑や人の死を娯楽としか認識できない彼らからすれば、その欲求は至極当然で、何よりも強いものだった。

 

「……良いだろう。

 慈郎、熱波、お前らに任せる。ただしここでやるな、どうせ戻ってくるならそいつらボロ雑巾にしてから俺の目の前に連れてこいっ」

 

「ヒヒッ、了解」

「面白くなってきやがった」

 

 敵意と殺意、そして喜びに満ちた表情を浮かべて出て行く2人の男と、反田の表情は対照的だった。

 何故こう上手くいかない。

 先生から力をもらい、計画を授けられ、自分達はそれをなぞって行けば良いだけの話だったはずだ。こんな何でもない、頭が良いだけの雑魚共が集まった学校にこんなに強い奴らが居たなんて情報は入ってきていないぞと、言い訳がましいセリフが頭の中を支配する。

 

 

「クソッ、クソクソクソッ!!

 ヒーロー気取りがぁ、ボロ雑巾になった後もボコボコにして、自分のやったこと後悔させて殺してやる!!」

 

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

「……他は誰もいないみてぇだな」

 

「大方の見張りは倒してるからな。いなくてもしょうがないがな」

 

 周囲を警戒しながら進んでいる所為かそれほど早く動けている訳ではないが、それでも2人は着実に教員室にまで近づいていた。

 学校としてはそれなりに大きい場所で死角も多い。そんな中警戒しながら歩くというのは、思った以上にストレスを感じるものだが、振武も焦凍もそれを感じさせず、物陰から歩く先を一度確認してから歩いていた。

 

「教員室まで、あともう1回階段降りなきゃな。

 それともどうする、別々の入り口から入るか?」

 

「そうだな、1つの入り口から2人で入るってのに、あの扉は向かないしな」

 

 先ほどとはうって変わり、2人とも冷静に話し合うことが出来ていた。

 周囲に警戒しながら進んでいるというのも理由の1つだが、それだけではない。

 

(……さっきのは何だったんだ。別に俺の事が忘れられてたのを怒っているわけじゃないし、怒るようなことは何もなかった。そりゃあサポートしてろってのは嫌だったが、あんなに言い合うほどじゃなかったよな)

 

 振武の中にある理由の分からない苛立ち、それに対する疑問が、まるで小さな異物感のように感じて妙に気になってしまう。

 どうして、自分はこんなに怒っている?

 何を苛立っている。

 

(強いて言うなら……多分こいつは、昔のあいつとは違うって事、なのかもしれねぇな)

 

 冷静だが、冷淡な眼。

 それは昔の彼とは、あまりにもかけ離れていた。

 ヒーローというモノに憧れを抱き、いつか自分もそんなヒーローになりたいと夢を描いていた彼とは違う。

 人は変わる。

 どんな成長し、どんな事を学んで行くかは人それぞれで、それを他人が口出しする権利は1つもない。例えどんな未来を描いていようと、否定する事はできない。

 だが、それでも気になってしまう。関わりたくなってしまう。

 

「……なぁ、轟。お前、雄英から推薦もらうって本当か?」

 

 つい出てきてしまった言葉に、先ほどとは逆に今度は焦凍の足が止まる。

 

「……まあ、まだ確定って訳じゃないが、候補には上がってるらしいな。

 それがどうした?」

 

「あ、いや、大した事じゃない。俺も雄英に入ろうって思ってるから、ちょっと気になってな。

 ほら、どんなヒーローになるってのがあるんだろうな、ってさ。同じ学校入るかもしれねぇから、何となく知りたくなって、な」

 

 あっさりと返された言葉に、何も考えていなかった振武はしどろもどろに返してしまうが、それほど焦凍は気にしていないようで、何かを思案するような顔になる。

 

「どんなヒーローに、か。

 あんま深く考えてなかった。俺の場合、ヒーローになるってのは手段であって、目的じゃなかったから」

 

「目的じゃない? まぁ、ヒーローになるって事は誰か助けたいって事だろうし、そりゃあそうだろうけど……」

 

 自分で肯定しながら、振武には違和感があった。

 まるで噛み合ってないような。同じ方向を見ているはずなのに見ているものが違うような、そんな違和感。

 ヒーローと言っても最終的にどんな事をしたいのかは変わってくる。戦闘や災害救助、様々な形で活躍するのがヒーローだ。

 しかし、焦凍の言葉にはそれ以外の、もっと別の何かを……。

 

「……俺の親父はヒーローだ。エンデヴァーって言えば、お前にも分かるよな?」

 

「あぁ、No.2ヒーロー、だよな」

 

 父や母から、1番多く聞いた名前だ。

 燃焼系ヒーロー《エンデヴァー》。事件解決数史上最多でトップヒーローの中でも抜きん出た存在だとは聞いている。母の「まぁ性格的には完全にクズだけどね、クズ」という言葉が無ければ凄いヒーローなんだなで落ち着いたのだが、結局そうはならなかった。

 一度会った事がある。母の葬式でだ。

 どこか不満げに、悲しそうな顔は一切見せなかったが、死んでいった母の遺影を見て「勝手に死ぬか、未熟者が」と毒を吐く彼を見て、振武はどうも嫌いにはなれなかった。

 

「あぁ、永遠の2番手だ。いつまでたってもオールマイト(No.1)を超えられない。

 あいつはな、動島。自分が超えられないと分かると、今度は息子に期待したんだ」

 

「……お前にか?」

 

 

 

「正しくは、生まれてくる子供に、だな。

 あいつは、自分の能力を高める為に、母さんをその権力で無理やり自分のものにして、子供を産ませた」

 

 

 

 焦凍の言葉に、振武は動揺しながらも1つの言葉が頭の中に浮かぶ。

 個性婚。

 個性を強化させる為に行われる、人権と自由を無視した結婚。第二世代、第三世代には行われていた事を、エンデヴァーは行ったのだ。

 

「……それで、半冷半熱なわけか」

 

 それなら、焦凍の個性にも納得できる。

 強力すぎる個性が偶発的に生まれたというよりも、そちらの方が振武には納得出来た。

 もっとも、だからエンデヴァーのやった事が許されるはずがない。

 

「あぁ、それで母さんは精神を病んじまった。

 「俺の左側が憎い」。そう言って母さんは俺に煮湯を浴びせて……まぁ、結果は見たとおりだ」

 

 そう言いながら、焦凍は自分の顔にある火傷に触れる。

 悲しい表情。今まで振武が見た中で、1番はっきりと表された〝感情〟だった。

 だが、その表情はすぐに消える。

 氷に閉ざされ、全てを凍てつかせるものに変わる。

 

 

 

「だから、俺は親父を許さねぇ。左側の力(親父の個性)に頼らず、右側の力(母さんの個性)で親父を超える。

 それが俺がヒーローになる理由だ」

 

 

 

 その眼には、否定も反論も許されない力強さと父親への憎悪が混じって、混沌としたものになっていた。

 復讐にも似た未来。

 それはあまりにも、振武にとって、

 

(――あぁ、分かった。そうか、だからか)

 

 心の中の異物感が氷解する。

 そうだ、何故振武が轟焦凍に苛立ちを覚えていたのか。

 何故許せないと無意識に考えていたのか。

 理屈なんていうものは存在しない。これが焦凍に向けて良い感情なのか、焦凍の為になるか。そんなものを二の次にして、振武の感覚がそう判断したんだ。

 動島振武は、轟焦凍に――、

 

 

 

 

 ドガァン!!

 

 

 

 

 しかしその思考は、すぐ傍で爆発した轟音にかき消された。

 

 

 

 

 

 

 

「「――っ!?」」

 

 回避はそう難しいものではない。

 近くでの爆発はまるで振武と焦凍を気付かせる為だけに放たれたかのように小規模で、威力に乏しかった。

 

「ハハッ、ようやっと気付きやがった!

 折角こっちがお出迎えしてやろうと思ってたのに、チンタラしてるからこっちから迎えに来ちまったぜ!」

 

「ヒヒッ、注意力散漫だっ!」

 

 目の前には、大柄の青年と小柄な少年がいた。

 爆炎を放ったのは、大柄の青年の方だろう。手から炎を生み出し、額から垂れている汗が火花を出しながらも手に握られている炎に合流するように混ざり合っている。

 対して、小柄な少年はまるでこちらを嘲笑っている。皮膚の表面はまるで甲羅のようになっていて、近くで盛大に燃えている炎を全く気にしていない様子だった。

 

「……教員室にいた奴らか」

 

「なんかこっちの事情分かってるくさいな……まぁ、それで俺らの動きを止めなかったってのは、なんかわかる気がするけどな」

 

 お互い戦闘体制に入りながら、振武はどこか釈然としない顔をする。

 教員室から出てわざわざ自分達を待ち受けていたという事はこちらの動きも、手下達との戦いも全て情報として入ってきているという事だ。

 それはつまり、相手が仲間を見捨てた事になる。

 いや、仲間として認めていたかどうかも怪しい。それだけでも、振武が不快感を感じる理由になり得る。

 

「御託は良いだろう! 慈郎、お前どっちとやりたい!?」

 

「ヒヒッ、俺はあのスカした顔のツートンカラーみてぇな髪色の奴がいいなっ。

 俺はスカしたイケメンが大っ嫌いなんだよ!」

 

「そりゃあ良い、なら俺はあの素手で戦う奴にしよう。

 熱い男みたいだからな!!」

 

 勝手に話を進めだす2人。

 向こうの個性は分からないが、それは向こうも同じ事だ。

 無茶も、無謀も、元々の戦いだ。

 

「……どうする?」

 

 振武がファイティングスタイルを取りながら小声で聞くと、焦凍は一瞬だけ考える素振りを見せてから答える。

 

「取り敢えず乗っておこう。どちらにしろ情報を揃えなきゃ、相性もクソもないだろう。

 相性が悪くないなら、そのまま倒す」

 

「それもそうだ。出来れば時間がかからない方が嬉しいが……どうだかな」

 

「なら――」

 

「ああ――」

 

 

 

 

 

「「全力で、ぶっ倒す!!」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 2人の初めての共闘が、始まった。

 

 

 

 

 

 

 




う〜ん、もっとテンポ良く書けないだろうか。
にしても紙袋の男、哀れ……そもそも戦闘認定すらされないとはw

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