plus ultraを胸に抱き   作:鎌太郎EX

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レポートで抑圧されていた所為かするする書けてしまった。
さてサイドストーリー。
今回は魔女子さんがメインです!
魔女子さんの家族構成なんかが解りますので、楽しんで頂ければ幸いです。

では本編をどうぞ。


SideStory:Majyoko ORIGIN

 

 

 

 

 

 私――塚井魔女子は、少し変わっているとよく言われる。

 私自身にその自覚はない。むしろ周りの方が変わっている。何故皆、ごく普通の見方しか出来ないんだろう。何故皆同じような世界の見方しか出来ないのだろう。

 つまらないと思わないのだろうか。

 皆同じ物の見方をしていたら、多種多様な人物がいる意味がない。そうは思わないんだろうか。

 実際、個性という目に見えるレベルの特異性を個人が持っている。見える世界も感性にも、影響を与えているはずだ。

 だが学校では同じ制服を着て、同じ勉強をしている。体力測定など個性抜きで行っているのだ、不合理とかそういう意味ではさておき、それでは〝面白くない〟のに。

 こんなに楽しい事がありすぎる世界で皆小さくまとまるのは、何故なんだろうか。

 世を楽しむ。

 あらゆる物を見て、学び、知り、識る。

 その上で、世界にどう関わっていくのか。自分がどういう立場に立つのか。

 私の衝動。

 私の願い。

 母が私に託したものは、つまり、そういう事だった。

 

 

 

 

 

 

 時間はもう夜に差し掛かろうとしている。

 こんなに遅く帰ってきたのは初めてです。普段部活にも参加していない、雑務と言えばクラス委員長としての仕事くらいなものですが、それもあの学校ではそう多くありません。

 皆将来の為の自分の勉強に大忙し。

 その所為で折角の中学校3年間という青春期を皆無駄にしていると、私は思います。

 ……部活に通っていない私がいうのもどうかと思いますが。

 手には、スーパーのビニール袋。

 これは一応、弟への謝罪の品です。

 弟から貰った弟の宝物。海鮮ヒーロー《タコサヴァイヴァー》。その限定キーホルダーを探している最中にあの事件です。とてもではありませんがその後探して回れる状況ではありませんでした。なので現在も無くしたまま。

 明日も探しに行くつもりですが(明日学校があれば、なのですが)それでも見つからないかもしれません。その為の保険のようなものです。打算のように聞こえるかもしれませんが、必要な措置なんですよ?

 まだ小学生の弟だ。満足してくれると良いんですけど……。

 

「上手くいかなければ、懇切丁寧に謝るしかありませんね」

 

 それ以外に拗ねてしまった弟を懐柔する方法はありません。

 自分以上に我が強い。何日か続く事も想定しなければならないようですが……あまり深く考えたくありませんね。

 

「……ただいま帰りました」

 

 自分の家の()の前で立ち止まり、普段しているように深く頭を下げます。

 私が普段している習慣のようなものです。親しき仲にも礼儀あり。慣れ親しんだ者にであれ、物にでもあれ、礼儀を省いて接して良い理由にはなりません。そう思いながら、私は門を開けます。

 ……もっとも、家と言って良いのでしょうか。

 皆の家はもう少しその、こじんまりしているように思えるんですが……。

 私は。我が家を見上げます。

 そこには、普通の感性の中では『豪邸』と区分されるであろう我が家が聳え立っていました。

 

 

 

 

 

 

「おかえりなさいませ、お嬢様」

 

「「「「「おかえりなさいませ」」」」」

 

「はい、ただいま戻りました」

 

 エントランスで、自分達の身の回りを世話をしてくれている執事である聖灰洲(せばす)と、メイド達が出迎えてくれる。誰かが帰ってきた時の恒例行事のようなそれ。

 私自身は良いと言っているんですが、『お嬢様だけに挨拶しないのは、我々も落ち着きませんので』という理由により却下され続けている。

 皆さん家族みたいなものというより、私からすれば家族そのものですので、そういう遠慮はいらないのですが……。

 

「本日は随分遅いおかえりでしたね。ご夕食は?」

 

「頂きます。でもその前に着替えてお母様に挨拶します。

 お父様と役丸(いくさまる)は帰ってきている?」

 

「役丸様は部屋でお勉強なさっていらっしゃいます。

 徒勝(ただまさ)様はただいま此方にお戻りになっている最中です」

 

「解りました。ではお父様と夕食を一緒にしますので、準備お願いします」

 

「かしこまりました」

 

 私はコートを聖灰洲に預けながら話します。これもいつものやり取りです。あまりこれも好きではありません。特別扱いを大変喜ぶ女性の方もいらっしゃるようですけど、私はあまり興味がありません。

 

「では、私は部屋に、」

 

「お待ちくださいお嬢様――その手に持っておられるお荷物はなんですか?」

 

 ――聖灰洲のその一言で、私の全動きが止まります。

 いえいえ、別に悪い事をしているつもりはありませんよ? 盗んできたわけではなくちゃんとお金を払って購入してきたものですし、特に何の問題もありません。

 ……強いて言うなら、聖灰洲はこう、世間一般でいうところの当たり前の行動というものに、あまり良い顔をしないタイプの執事さんですので。

 

「……レジ袋。ビニール袋と言っても良いでしょうか? ポリオレフィン製の袋で日本のスーパーやコンビニなどの商業施設で多く使われる袋です」

 

「その事を言っているのではありません」

 

「中身は大して珍しいものではありません。少なくとも、聖灰洲さんが気にするほどのものでは全く、」

 

「お嬢様。お嬢様は我々を家族とみなしてくださっているようですが、それにしても誤魔化す時敬語になるのは頂けませんな。

 で、中身は何ですか?」

 

「……『ピックアップヒーローズシール』です。ウェハースというお菓子に、ヒーローのシールがおまけで付いています。人によってはおまけの方が重要で、私にとってもそうですね」

 

『ピックアップヒーローズシール』は、今人気のあるヒーローや話題に上がっているヒーローなどをシールにしたもので、おまけ付きお菓子の中でもそれなりに人気です。

 つい最近はオールマイト特集という名目でシール全部オールマイトでしたが……あれはあれで売れていた辺り、やはりオールマイトは人気ですよね。

 そのオールマイトに興味が行かない辺り、案外弟は趣味が悪いのかもしれませんが。

 

「……私に仰っていただければ、業者に連絡を取り直接買ってまいりますのに」

 

「そうなると、今度は我が家に倉庫ができるレベルで買ってくるでしょう?

 それにこれは、役丸への謝罪の品です。私が買って来なければ意味ないのよ」

 

「何かございましたか?」

 

「あの子から貰ったキーホルダーを無くしてしまったの。

 だから私が買ってくる必要がある」

 

 私の言葉に、聖灰洲は納得したように頷く。

 その表情に、小さく胸をなでおろします。

 

「納得していただけたようね、じゃあ私は、」

 

「ですがっ――そうだとしても、わざわざ魔女子様が市井のスーパーなどに行くのが良いことであるとは、この聖灰洲全く思いません」

 

 ……始まってしまいました

 今日は説教というものに縁のある一日のようです。

 

「お嬢様。お嬢様は血筋は平安の公家から連綿と続く塚井家のご令嬢です。

 勿論、華族などの身分制度はなくなりましたが、人材派遣の最大手である塚井カンパニーのご令嬢であるお嬢様が、スーパーなどという一般庶民が行かれるお店に行かれるのは、自身のお立場を軽んじている証拠でございます」

 

 いえ全く軽んじているわけではないんですよ?

 そりゃあ私の公的立場というのが存在するのは否定できるものではありませんし、塚井の家を否定するつもりもありません。高水準の生活を維持できているのは父のおかげですし、感謝こそしても否定する必要性は欠片もないと解っています。

 でも、だからと言って何でもかんでもダメって言われると、反抗したくなりますよね?

 まぁ反抗と言える程ではないですけど。

 実際父も止めませんし。

 

「……えぇっと、とにかく聖灰洲。とりあえず、着替えとお母様への挨拶を済ませたいんだけど」

 

「つい先日もお嬢様はマックドナルドなどという市井の者達がいくファーストフード店に行かれたようですがそれはそれで如何なものかと……む、そうですな。早くご挨拶しませんと徒勝様がおかえりになってしまいますね」

 

 時間も差し迫っていたのか、聖灰洲は想像以上にあっさりと引いてくれた。

 遅く帰って来たのは、僥倖と言えるかもしれません。

 私はすぐにカバンとレジ袋を持って階段を上がっていき、

 

「お嬢様への注意は、食後に致しますので」

 

 ……今日は本当に、説教に縁がある日のようです。

 

 

 

 

 

 

 着替えてから、お母様の部屋に向かいます。

 一応毎日行っていますが、時間はそう長くはありません。お父様はそれこそ、日がな一日中いる日もあるようですが、私はそれほど長居したいとは思えません。

 いても、辛くなるばかりだから。

 でも今日は少し心持ちが違うように思えます。

 命の危機……というほどではありませんでしたが、それでも危険を孕んだ出来事を体験したからでしょう。私よりきっと轟くんや動島くんの方が危険だったでしょうし、私より体を動かしていらっしゃるから、きっと疲れていらっしゃると思いますけど。

 

「――失礼します、お母様」

 

 ノックをしてから、部屋に入る。

 部屋は相変わらず、父の趣味なのかそれとも以前の母の趣味なのか、上品な可愛い内装だった。メイドさん達のおかげかチリ一つなく、部屋の窓側、ちょうど太陽が出た時に光が差し込むような位置にベットが置いてある。

 そこに、母がいた。

 薄化粧されているのは、これもメイドさん達のおかげでしょう。可愛い寝巻き、私と同じ水色の艶やかなロングヘア。絵本に出てくる眠り姫は、きっとこんな風なのだろうな、と思った。

 ――喉と腕に、チューブや点滴が取り付けられていなければ、ですが。

 

「ただいま戻りました。

 今日はお顔の色も宜しいようです。化粧のだけではないでしょう。相変わらずお母様は美人です、私もそういう所を受け継ぎたかったです」

 

 母の手を握りながら話しかける。

 いつもの習慣。返事が返ってくるわけでもなく、何か反応出来る訳でもない。植物状態の母に一方的に話しかけるだけの行動。

 意味がない、という人もいるでしょう。

 けどお医者様は毎日話しかける事が良いと言いますし、私も母にお話ししたい気持ちはあるので、他人から見れば意味がなくても、私からすれば重要です。

 

 

 

 ……お母様はこうなってしまったのは、とある事故が原因です。

 大きな事故でした。何が原因だったのか未だにわかりませんが、お母様がいた建物で大規模火災が起こりました。

 普段であれば、直ぐにヒーローが駆けつけてくれていたでしょう。ですがそうは行きません。

 いくらヒーロー飽和社会と言われ、ヒーローが一つの街に数多くいると言っても上限はあります。その日に限って、街のあちこちで諸問題が起こり、結果お母様が被害にあった事故に関しては反応が遅れてしまいました。

 結果だけいえば、お母様は命を失う事はありませんでした。

 命以外のもの、自由を奪われてしまいましたが。

 話を聞く限り、お母様は他の人を助ける為に最後まで残っていたようです。避難誘導をし、怪我をした人間を助け、酸素が薄い中で活動していたのです。最終的に、お母様は唯一の犠牲者として救出されました。

 酸欠状態による心肺停止状態から10分。これで蘇生出来た事そのものが奇跡でした。

 それが5年前。それからずっと、お母様は眠り姫になってしまいました。

 私達家族で、1番明るく、1番強かった。

 無個性だったお母様は、今も眠り続けているのです。

 

 

 

「お母様。今日はとても大変だったんです。学校が占拠されるという、どこかの厨二病疾患者の妄想のような事が現実になったのです。

 個性というものが当たり前になってしまったこの世界でも、中々ない経験ですね。私、生まれて初めて戦ったんです」

 

 お母様の手を握り、出来るだけ優しく摩りながら話します。

 こうする事で、もしかしたら何か反応を返したり眼を覚ますかもしれないとお医者様は仰いますが、正直私にはそれもまた奇跡的な事で、滅多に起こらないものなんだと知っていましたので、あまり期待はしていません。

 お母様に話しかけるのは、個人的に、家族としてお母様が好きだからしているのです。

 目覚める目覚めないは私の中では、あまり関係ないような気がします。

 

「私の個性がここまで役立つ事は中々ないです。しかも、今日は轟くんと動島くんという2人の友人との共同作業でした。

 轟くんは前からお話ししていましたよね? 動島くんは、今の私のクラスメイトで、武道を学んでいるとても強い人なんです。今日も、殆どの敵を2人が倒していらっしゃいました。

 ……最後の最後で良いところを持って行ってしまったのは、流石にまずかったでしょうか?」

 

 話しながら、今日一日を振り返ってみます。

 ビッグイベント続きだったと言っても良いでしょう。初めて尽くしとも言い換えれます。

 男の子とあんなに長時間話した事も、

 戦いに個性を使用した事も、

 敵と対峙した事も、

 初めての出来事で、普通の人では体験できない事でしょう。

 ……ヒーローからお説教を受けた、などのマイナスな出来事はあまり思い出したくありません。お説教は聖灰洲のだけで十分です、はい。

 危険で、無茶で、無謀な出来事でした。

 動島くんが筆頭ではありましたが、それに自ずと突っ込んでいってしまう轟くんも、なんだかんだ言って最後まで付き合ってしまった私も、考えてみれば馬鹿丸出しです。

 

「お母様が好きなロボも、今日初めて大活躍しました。やはり狼は俊敏で力強い。他の子達もいつか活躍してくれる事を期待しましょう。

 ……ねぇ、お母様。お母様も、こんな気分だったのですか?」

 

 事件の最中は、怖くてしょうがありませんでした。膝と手は震えて隠すのはとても大変で、普段通りの表情と言葉遣いが出来ていたかも、その時は解りませんでした。轟くんと動島くんには何も言われなかったので大丈夫だったのでしょう。

 ですが戦いが終わった後の安心感。戦闘からくる高揚感。そして、誰も死なせず事件を解決できたという達成感。

 何もかもが初めての体験で、大変だったが、でも悪い気持ちではなかった。

 お母さんもこういう感覚だったんでしょうか。

 無茶だという事を恥じる事もなく「面白い事はたくさん世の中に溢れているわ」といって人生を謳歌していたお母様。

 大事な事を見逃さず、正しいと思える事をしてきたお母様。

 その所為で、自由に歩く事どころか、自由の中で得られる喜びを全て手放せざるを得なかったお母様。

 ――子供の頃は、お母様がただただ愚かに思えていた。

 何故自分を犠牲にしてまで他者を助けたのか。何故自分が逃げようと考えなかったのか。

 何故私達を、家族の事を考えてくれなかったのか。

 家族が悲しむ事を考えてくれなかったのか。

 でも、今日少しそれが解りました。動島くんの――動島振武くんが言っていた言葉が、恐らくその本質なのでしょう。

『誰かが自分の近くで傷つくのが見たくねぇ、それだけでこの事件に首突っ込んだだけだ。』

 きっとヒーローや、誰かの為に無茶をしてしまう人間の典型的な考えだったんでしょうね。

 だとすれば、私は。

 それを理解するために、

 

 コンコンッ

 

「魔女子、いるかい? 僕もお母さんにただいまを言いたいんだけど、今いいかな?」

 

 ノックの音と声で、思考が止まって一気に現実に引き戻される。

 

「はい、大丈夫です。どうぞ」

 

 私がそう促すと、ドアが小さな軋み音を出しながら開く。

 そこに立っていたのは、私の父。塚井徒勝。

 髪の色は茶色と私の色とは違うものだが、私の髪質は父譲りのようでしっかりとした直毛だ。目元も二重でクリッとしている所が私に遺伝したようだ。むぅ、とても40代前半の男性とは思えない。可愛い系の顔のおっさんというのも、身内ながら気持ち悪いと思います。

 

「ただいま、随分遅かったようだね、魔女子」

 

「はい――ちょっと、その、用事がありましたので」

 

 優しい笑顔で近づいているお父様に、私は小さく嘘を――あ、いえ、嘘なんか言ってません。強いて言うならほら、嘘は言ってないですが本当のことも言っていないだけで、

 

「ふふっ、そうじゃないだろう魔女子?

 ……無茶をしたんだってね。いけない子だ」

 

 ……父にはバレバレだったようです。

 幼少の頃からそうでしたが、父には私の嘘が通用しないようです。心をよむ個性でも持っているのかとその時は思っていましたが、そうではないのは知っているので、これこそ大会社を率いている人の資質のようなものでしょう。

 あるいは警察上層部にいらっしゃる方ともお知り合いが多いので、世話焼きな方々が父に連絡を入れてしまったのかもしれません。余計な事をと思いますが、私はまだ中学三年生。そのような連絡が親に届いてしまうのはしょうがないでしょう。

 

「……申し訳ありません。ご心配をおかけしました」

 

「うん。まぁ、もうヒーローの方や警察の皆さんにお説教はされているようだから、敢えて僕が言うつもりはないけど……でもこれからは気を付けるんだよ」

 

 私の頭をポンポンと軽く撫でていくと、お父様はお母様の元に座る。

 お母様に接する時のお父様は、昔から変わらない。まるで恋をしている中学生男子のような恍惚な笑みを浮かべている。今も愛おしそうに、母の少しだけ風で乱れたのであろう前髪を整えている。

 

「ただいま、和乃(かずの)さん。今日も綺麗だよ」

 

「毎日毎日飽きませんねお父様。世が世ならプレイボーイとして名を馳せたでしょう、正直歯が浮きすぎて娘としては気持ち悪いです」

 

「魔女子は正直だなぁ。でも大丈夫だよ、僕が愛している女性は、お母さんと魔女子だけだから」

 

「それはそれで願い下げです」

 

 正直そういうのは間に合って……いえ、そういう事ではありませんでした。

 お父様から怒られない、という第一条件はクリアしましたし、ここで話した方がいいかもしれません。

 

「お父様、大事なお話があります。今よろしいでしょうか?」

 

「……お母さんの前で良いのかい? なんだったら食事をしながらとか、食後に僕の書斎で話す事も出来るんだよ?」

 

 母に触れる手を止め私の方に顔を向けたお父様の顔は、いつになく真剣な表情でした。

 お父様は普段はニコニコしている方ですが、こういう時の空気を読む力は尋常ではありません。高性能エアーリーダーを搭載しているのでしょうかと思うレベルです。

 その言葉に、私は答える。

 

「いえ、ここで結構です……いえ、正しくはここの方が良いと言った方が正しいでしょうか。

 お母様にも聞いてもらいたいのです――私の、決意を」

 

 その言葉に、お父様は小さく溜息をついて、近くに備え付けてあるソファーに腰を落とす。

 その表情は悲しいような、誇らしいような、複雑な表情。

 あぁ、もう察してくださっている。話が早くてこちらとしてはありがたいですが、やはり自分で言わねばいけません。

 

「進路の、話だろう?」

 

「はい、そうです。

 

 

 

 お父様、私はヒーローになります」

 

 

 

 ……沈黙がこの場を支配する。

 私は言いたい事をはっきり言った事によりお父様の発言を待っているが故ではあるが、お父様は複雑な顔をして、言葉を選んでいるようだった。

 

「……なぁ、魔女子。君がもしかしてお母さんの事を気にしているのなら、間違いだよ? あれはおかあさんの選択で、お前は関係なかった。

 もし何も出来なかった罪悪感でその選択をするなら、僕は許可できない」

 

 ――あぁ、良かった。

 お父様は優秀です。人の考えを予測し、あらゆる意味で頭が良いと言えるでしょう。

 でも優しすぎます。基本思考が性善説のお人です。

 私はそんな優しい理由でヒーローになる訳ではありません。

 

「それもないとは言えませんが、そこは本分ではありません。

 ……お父様。お母様は随分前に言いました。『世界を識って、世界を理解して、その上で魔女子がどうしたいか決めなさい』と。それを私は一度も忘れた事はありません」

 

 お母様もお父様も、何も私に強要する事はありませんでした。

 良家の長女だからと無理に英才教育する事もありませんでした。そういう意味でも、私の両親は理想的な両親だと言えるでしょう。

 そんなお母様が、唯一私に求めた事はそれだけでした。

 一見自由にしなさいという意味にも聞こえるでしょうが、私の受け取り方は違いました。

 それは私の義務です。

 知識を集め、推察し、検討し、答えを導き出す。

 お母様が、何も見えず、何も聞けず、何も触れれず、何も味わえず、何も答えを導き出せなくなった今となっては、その分を私が引き受けるんです。

 

「私はその理念のもと行動しています。

 今回事件に巻き込まれて解りました。私は多くの人を助け、接したい。そうする事で、私がこの世界にどのような答えを出して、どのように接する事が出来ると思います」

 

 ヒーローという存在。

 この世界で善として定義されるその存在になる事で、私が人間の本質を見る事が出来るかもしれない。

 それが、私がヒーローになる理由です。

 人によっては不純な動機に思えるかもしれませんね。動島くんと轟くんに言ったら、「お前変わってんな」と言われて笑われてしまうかもしれません。

 あの方々は、良くも悪くもヒーローに対して純粋ですから。

 

「……それで、良いんだね?」

 

「言葉の選び方を間違えています、お父様。

 それ()良いんです」

 

「……そういう所は、和乃に似たんだね。

 好奇心旺盛で、意志が強い。周りを気にしてしまう僕とは違う。そういう所は羨ましいよ」

 

「そんな事はありません、お父様。お父様も素晴らしい人格者です」

 

「フフッ、ありがとう、そう言ってくれて嬉しいよ」

 

 お父様は立ち上がって、もう一度お母様の手に触れてから、扉の方に体を向ける。

 

「さて、話が終わったなら夕食にしよう。今日は大変だったから、お腹が空いているだろう?」

 

「……はい、背中とお腹がくっ付きそうなほどです」

 

 歩き出したお父様に私もついていく。

 ……もう一つ、言っていない事があった。

 父に言ってしまえば恐らく発狂するレベルで怒り出すだろう理由。

 ――お父様。

 私には、憧れる殿方が出来たんですよ? しかも2人も。

 恋や愛などではありません……少なくともまだ。そもそも、そういうものとは少し違いますし。私もあの方々に〝追いつきたい〟と思っているんですから。

 自分よりもスタートはずっと早かったのだろう。

 でも必ず追いついて見せる。

 その為にはこれから努力して行かなければいけない。

 

 

 

 さぁ、始めましょう。

 ここが私の原点(オリジン)です。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




如何だったでしょうか、魔女子オリジンでした。
ここで言ってしまえば、最初はただのクラスメイトのキャラクターだったのですが、自分でも予期せぬ部分で注目していただき、しかも勝手にキャラが動き出したので、見事レギュラーを勝ち取りました。

本当にあるんですね、こういう事。

さて、次回からは振武くんの修行パート。
彼が何を新たに得ていくのか、どうかお楽しみに。

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