幼少期、原作の10年前からスタートです。
ですが、ちょっと展開焦りすぎてるかな、と思わないでもありません。
第1章は幼少期、原作開始は第2章からなので、本格的な主人公覚醒はまだ先です。
出来ればいろんな人に読んでくださると嬉しいです
≪事の始まりは中国軽慶市で、発光する赤子が生まれたというニュースだった。
それ以降、各地で『超常』は発見され、原因も判然としないまま時は流れる。『超常』は『日常』に、『架空』は『現実』に成り代わっていき、世界人口の約8割が何らかの特異体質を持つ超人社会。それが現在の世界の実情である。
そしてそんな混乱渦巻く世の中で、誰もが1度は空想し憧れた1つの職業が、脚光を浴びている。
〝ヒーロー〟。
世は、その新たな職業を、何てことはないように受け入れている。≫
「……ありえねぇ、マジかよ」
本から顔を上げても、俺の心は全く晴れない。まるで視界を狭められているような不快感、というよりは、不安か。自分が知っているようで、まるで知らない世界に放り込まれたのだ、そうなりもする。
この世界に来て……いや、記憶が戻って1週間。5歳の子供が出来るレベルでなんとかこの世界の情報を集めた。勿論、出来るだけ両親に疑問を抱かれないように、あくまでさり気なくやる事に努めたが、それでもそれなりの情報を集められた……と思う。
そこまでして出てきた結論は、『異世界転生』。多分、これはそういうものだ。
俺だって、それなりに漫画やなんかの娯楽は嗜んでいた。もっとも、オタクって言うほどではなかったが。それでもオタクと言って差し支えない友人から勧められて読んだネット小説に、そんなジャンルがあったように思う。
少なくとも、自分のパーソナルデータや容姿が25歳だった頃の自分とはだいぶ様変わりしているのを見れば、〝転生〟という部分は間違いがないように思う。
それにこの世界の成り立ちや世相を見ていくと、覚えのある記述をいくつか見つけることが出来た。
“個性”という名の異能が当たり前で、
ヒーローが一般的に認知され、
No.1ヒーローの名前が《オールマイト》――。
「……『僕のヒーローアカデミア』、か」
友人に勧められ少し読んだことはあるが、それほどそそられずに、1巻で読むのをやめてしまった作品だ。そもそも、俺はジャンプの中では某海賊漫画の方が好きな方だったし。
そのせいで内容自体はほとんど覚えていないが、数少ない知識に照らし合わせても、ここがその作品と酷似した世界だという結論は否定しづらい。
「漫画の世界に転生って、ありなのかよ」
二次創作は殆ど読まなかったし、案外そういうものなのかもしれない。
だが唯一幸運だったのは、“個性”とそこに関わる部分に異常な所があるものの、それ以外の殆どの部分は今までいた日本と大きな違いが見受けられないという事だ。
もしこれが全く価値観の違う世界、文字さえも理解できない世界だったら生きて行くことすらままならない可能性だってあったわけだ。
「……なんて考えている時点で、俺は随分薄情者なのかもしれないけど」
現実にだって、大切なものは多くあったはずだ。
仕事……は適当に選んだ会社だったからそれほど未練はないが、どんなに毛嫌いしてても父や母は大事だったし、感謝もしていた。
友人だってそれなりにいた。親友と呼べる存在だっていた。恋人こそいなかったが、それでも孤独を甘受できるような性格じゃなかったし、俺の周りには比較的良い人間が集まってくれたように思う。
そんな現実世界を、俺は内心、案外あっさりと〝諦められている〟。その事実が、俺の中で自嘲を誘う。
勿論、ここで嘆いたところで状況が変わらないのは当然なんだが、普通だったら恋しくてしょうがないという風になった所で、責める人間はいないはずなのに。
俺は近くにあった姿見に目を向ける。
まだ5歳のその容姿は幼いものの、割とイケメンなんじゃないかな、と思う。現実世界以上の容姿を手に入れているのは確かだ。墨と漆を塗ったように艶やかな黒髪、切れ長で鳶色の瞳を持った眼、どこかクールな印象を受けるその容姿は、達観を眼に宿しているせいか、妙な大人っぽさを感じる。
もっと子供っぽい顔を作れれば、親に心配されずに済むだろうか。そう思って子供らしい笑顔を作ってみようとするが、鏡に映っている自分は、上司の飲みの誘いをどう断ろうか考えながら愛想笑いを浮かべているサラリーマンにしか見えない。
こんな顔をしては、余計に両親を心配させるだけだろう。
……両親。そう、両親だ。
この体、この子供の親。
とても良い人達だと思う。容姿端麗で頭は悪くなく、元の世界の両親とは比べるまでもない程の大らかさだ。いきなり子供になってしまって動揺する自分を見ても、気味悪そうな対応をせず、自分を心配し、抱きしめてくれた。
……彼らがもし、自分達の子供が大人の感性を持っていると知ったら。
そう思うと、正直不安だった。
親の情、という点ではまだ自分の気持ちを整理出来ていないが、しかしそれでもあの人達を悲しませたくないという思いがあるのは確かだった。
「……バレなきゃ、良いけどなぁ」
「何がだ?」
「——うわっ!?」
ボソリと呟いた言葉に予想していなかった返答が返ってきて、思わずオーバーな驚き方をしてしまった。
「なんだなんだ、酷いなぁ。お父さんに話しかけられるだけで驚くなんて」
そこにいたのは、俺の–—今の–—父親だった。
俺の容姿にとても似ているが、受ける印象は真逆だろう。良く言えば笑顔の絶えない、悪く言えばヘラヘラ笑っている印象を受ける顔に、黒髪のツンツン頭(ワックスでも付けているんだろうか)で、鳶色の眼を持っている男性。でもタレ目な分、俺よりずっと柔らかい印象を受ける。180cmという高身長だが、筋肉がそれほどついていないせいでひょろりとしている。
「急に……きゅうに、こえ、かけるから」
努めて子供っぽく話す(自分で言っていて寒気がする)と、彼は珍しく神妙な顔をする。
「この前のおでかけの時といい……本当に何にもないのか? 何かあるならすぐ言ってくれよ、僕らが出来る事は何でもするからさ」
……そういう優しさが、逆に困るんだけどなぁ。
「べつに、だいじょうぶ。どこも悪くないよ」
「そうか? それなら良いんだが……お前は“個性”が見つかるまで大分遅かったしなぁ。そういう所も関係しているのかもしれないから、何かあるならすぐに言えよ」
そう言って、彼は俺の頭を優しく撫でてくれた。
容姿からは想像も出来ないほど無骨なそれの感触が嫌いじゃないと思うあたり、俺も相当捻くれているけど。
そういえば、
「ねぇ、おとうさん」
「お、何だ、振武?」
「ぼくの“こせい”って……なに?」
俺の中での最たる疑問を、父親にぶつけてみる。
俺には残念ながら、前の世界の記憶を思い出してから、それ以前の記憶が思い出せないようになっていた。名前や、自分の両親との記憶は所々残っているが、“個性”についての記憶がなくなっていた。
良い機会だ、聞いてみよう。
「なんだ、もう忘れたのか? まぁ、最近ようやっと見つかったんだししょうがないけど。
うむ! それではお父さんが教えて進ぜよう!!」
……こういう、すぐ調子に乗るような所は、自分の親であったとしてもウザい部分だと思う。
彼の説明を要約してしまえば、俺の“個性”は【超振動】と呼ばれるものらしい。
超振動カッターとかと同じ要領だ。手にしたもの、あるいは手そのものを1秒間に4万回振動させる事によって、攻撃力を高めるのだ。
順当に訓練を行えば、刀などの刃物であれば、固まったセメントでもバターのように切断できるし、拳を使えば岩をも簡単に砕くことが出来るようになるらしい。
……何それ、どこのフタエノキワミの話をしているんだろう、という感じだが、父親にしてみればそれほど珍しい“個性”ではないらしい。そりゃあ異形型の“個性”とかが当たり前のようにある世界なのを考えれば、そう珍しい事ではないんだろうけどさ。
「お前のお爺ちゃんも刀振動させて何でもスパスパ斬るような人だからなぁ、そっちから来てんのかもなぁ。
1度、お義父さんに相談しないとなぁ」
「おじいちゃんって、……おとうさんのおとうさん?」
「ハハッ、違う違う。お前のお母さんのお父さん。俺の家系は武闘派じゃないもん。そういう意味じゃ、あの親子はなるべくしてあんな感じになったって言っても過言じゃないなぁ。お義父さん、刀に槍に徒手空拳と、古武術は一通り会得してる人だし」
……それどんな超人だよ。いや超人なんだけど。それにしても母方が武闘派過ぎると、それはそれで困るんだけど。
「それにほら、お母さんは、ああいう職業だろう? だからお父さん、喧嘩する気にもならないよぉ」
HAHAHAと陽気に笑っちゃいるが、眼がまるで笑っていないのがこちらから見ても分かる辺り、相当苦労したんだろうなぁ。
何せ母親は–—ヒーローなんだから。
武闘ヒーロー《センシティ》。
徒手空拳で戦うヒーローで、ヒーローの中での序列はNo.10。No.1ヒーローであるオールマイトのような絶対的な人気には及ばないものの、武闘派ヒーローといえば必ず名前が挙がるような有名ヒーローだ。
“個性”は【超感覚】。視覚・聴覚・嗅覚・触覚・味覚のいずれかを強化する事が出来る。そのおかげで、彼女はあらゆる不利な状況においても周囲を知覚し、常に100%のパフォーマンスを発揮できる……らしい。
自分の“個性”すら記憶できていなかったのに、何故母親の“個性”やヒーローとしての活躍を覚えているかといえば、話は簡単だ。
父親が寝物語として話すからだ。
毎晩、楽しそうに。
……正直、父親の母親への愛が重すぎる。おかげで母の半生を
母親を見る限りクール系なのに、何でこんなデレデレな男と結婚したんだろう。クーデレなのか?
「母さんといえば、19歳の時–—」
「はじめてたおしたヴィランがおおもので、それではじめてメディアにのったんでしょ。それ、何回もきいたよ」
「…………」
父よ、お願いだから、そんな寂しそうな顔をしないでくれ。
ウザいから。
そう思っていると、彼は真剣な表情をつくる。
「……なぁ、振武。お母さんの事、どう思う?」
——唐突だった。あまりにも唐突だったせいで、すぐに返事をすることが出来ないくらい。
父と母。この世界での、俺の両親。動島振武にとっての家族。
2人とも良い人だ。まだ記憶が戻って1週間だが、その中でも2人が自分の子供を大切にしている事は感じられたし、本人達も情溢れる優しい人だと思う。
だけど、
2人が親として好きかどうかは、解らなかった。
父親は、親としてというのはさておき、在宅業をしているおかげか、接している時間が長くて親近感みたいなものは抱いている。テキトーな感じとか俺に通じる所があるし。
しかし母は……未だにどう接して良いかわからない。幸い、俺の記憶が戻る前から母親とは距離があったようなので大して違和感は持たれていないが、それでも父親としては心配なんだろう。
朝早く、夜は遅い母親とは接する機会自体が少ないのもそうだけど、それだけじゃないのは、自分でも自覚していた。
ヒーロー。
かつての自分が幼少期に憧れ、諦めたもの。
自分の達観の原点に位置するもの。
まさしくそれそのものである母を、自分の中でどういう風に扱っていけば良いのか、彼女にどう接すれば良いのか。それが解らなかった。
「……わかんない」
どう返して良いか解らず、取り敢えず素直に自分の気持ちを伝えてみると、彼は渋い顔をする。
「あー、うん。まぁ、振武が物心つくかつかないかくらいに、お母さんヒーロー活動復帰しちゃったしなぁ。
でも、お母さんに直で言わないようにね。多分泣いちゃうから」
「うん……」
あんなクールビューティな顔して泣くのかな、と少し疑問だったが、ここは素直に頷いておく。
「え〜っと、じゃあそうだな……振武は、ヒーローをどう思う?」
……直球勝負ですか、パパ上。今日は突っ込んできますね。
いきなり俺の中での核心部分を的確に突いてくるあたり、もしかしたら彼も只者じゃないのかもしれない。ヒーローの旦那やれてるくらいだし。
「……凄い人、達?」
「なんで疑問形なんだよぉ」
「う〜ん、だってわかんないもん。ぼく、ヒーローじゃないし。おかあさんも、おうちじゃふつうだし」
「そうだけどさぁ〜。なんかあるだろ? 『憧れる〜』とか、『僕もいつかヒーローになりたい』とか」
無茶な父親だ。しかもさり気なく意見を誘導している節がある。
「なりたくは、ない、かな」
恐る恐る、本心を言ってみる。ここで嘘をついて誤魔化す事は出来るけど、それは何故かしたくなかった。
「どうして、そう思うんだい?」
彼は悲しそうにもしていないし、憤りも感じていない。ただまた少し寂しそうな顔をして、俺の言葉の先を促した。
「……だって、あんなゆうき、ないもん」
自分で言いながら、心の中でもう1人の俺が呆れている。
【おいおい、何が勇気だよ】
【ないのは否定しないけど、でもそれはただの後付けだ】
【本当は、ただやる前から諦めているだけだ】
【自分には出来ない】
【自分には無理だ】
【そう思い込んで、言い訳して、楽な方に逃げてるだけ】
【何せ、無理無茶無謀はしない主義、だもんな】
そんな自分を傷つけるための言葉が、心の中に汚泥みたいに溜まっていく。
何だ、転生なんて笑わせる。生まれ変わっても、別の世界にやってきても、大して変わっていない。結局どこにいても、自分は変われなかったんだ。
前の自分と同じ。
前の世界の父に言われたから、自分には無理だから。そんな体の良い言い訳をして、前に進む恐怖から出来るだけ離れている、臆病な自分。
目の前に、かつて憧れた仕事があるのに。
努力すれば、それになれるかもしれないのに。
一歩も足を踏み出せず、何も出来ない自分。
——そんな自分が、俺は嫌いだ。
「そっか–—」
父親の声はいつも通りの、優しい声色なのに、心の中で落胆させてしまったように感じて、つい首を竦めてうなだれてしまう。
だが、その下げた頭に、あの優しい手が置かれた。
「振武は、賢くて、凄いなぁ」
……何で、
「なんで、そうなるの?」
思わず、という感じでそう聞くと、彼はふふっ、と可笑しそうに、でも愛おしそうに俺を見る。
「振武はまず、ヒーローってのが、危なくて、大変な仕事だってのを理解している。まぁお母さんが大変そうなのを見ていたってのもあるだろうけど……それでも、それを理解出来るってのは、他の子よりもある意味賢い証拠だよ」
……ポジティブかっ。
思わず口からそんな台詞が零れ出そうになって、何とか理性で押し留める。
勿論、そういう意味もあるのは否定しない。いくら俺だって、そこら辺のリスクを見てからじゃなきゃ諦めないし……流石に。
でもそれを、さも当然そうなのだろうといった感じで話している彼を見ると、何だかちょっと気が抜けてしまう。
そんな俺の気持ちを全く読めていないであろう彼は、俺の頭を優しく撫でながら話を続ける。
「もう1つ。凄いってのは……それが分かっていながら、そのリスクを顧みない勇気とか、そういうモノが自分にはないって事を、恥ずかしい事だって思ってるところだよ」
「——っ」
心臓が飛び跳ねる。
呼吸が乱れる。
幸い、彼には上手く隠せているようだけど……それでも、動揺は収まらない。心を読まれているのかな。そういう“個性”なのかと疑いたくなってくる。
「普通はねぇ、そこを悪い事だって思う事ないんだよ? だって普通は、どんな人だってヒーローに憧れながらも、ヒーローになる自信も覚悟も、勇気も、ないもんなんだから」
「……ない、の?」
衝撃の事実に、思わず聞き返してしまう。
いやだって、皆普通に『大きくなったらヒーローになる』とか言っているし、ヒーローを目指すというのは極めて普通の進路希望だ。俺の通っている保育園で皆に将来の夢を聞けば、9割がヒーローと答えるレベル。
子供だけじゃない。大人だってヒーローを立派な職業だと思っているし、なれるのであればなりたいと思っている者達は数多いはずだ。5歳児の行動範囲と聴力は割と広いし、割と良いのだ。
実際ヒーローとして活躍している人達は、皆勇気を持って、自信も覚悟もあるような人達ばかり、だと思っていた。
「ふふっ、どんなに賢くても、やっぱりまだ5歳なんだねぇ。
う〜ん、何て説明したら良いかな。今のヒーロー達って、良くも悪くも〝職業〟って感じが強くてねぇ。一部のトップクラスヒーローは別格だけど、それ以外って案外そういう、正義の心が〜とか、勇気を持って〜とか、誰かを助けて〜とか、そういう情熱ってなかなか無いんだよねぇ」
苦笑を交えつつ発せられた彼の言葉で、欠けたピースがきっちりハマって、絵が完成するような、妙な納得感が心の中に生まれた。
そりゃそうだ、ここまでヒーローが認知されているならば、中にはそういう人だっているはずだ。玉石混淆……は、実情をちゃんと知らない俺が言うのも悪い気もするが、全員が全員、物語に登場する〝ヒーロー〟ではないというのは、納得できる話だ。
「しかもねぇ、それを見ているだけの人達どころか、本人達も無自覚というか、そういう側面があってねぇ。まぁ、そういう性格悪い人って、人気も仕事も上手くいかない場合が多いから、大概生き残らないんだけどねぇ。トップになるなら、やっぱり精神的なものが大事みたいだし」
おいぶっちゃけ過ぎだ父親、子供に何て話してるんだ。
まぁ俺じゃなきゃ理解できなかっただろうけど。
「まぁ、とにかく! そういう所がちゃんと解っていて、それでなれそうもないって考えちゃう振武は、凄いよ。皆が見ていないところにも、眼が届いてる。
う〜ん、でもなぁ〜」
「?」
彼が言葉を濁らせたのが不思議で、思わず顔を上げる。
そこには――
「振武は、そういう意味じゃヒーローになれるんじゃないかな。
誰も目を向けない所に目を向けられるって事は、誰も助けられない人達を助けられるかもしれないって事なんだから」
——ずるいなぁ、この人。
的確に、俺が言ってほしかった、ずっと言ってほしいと願っていた言葉を、あっさり言うんだ。
ずるすぎるぜ。
「あれ? 振武ちゃん泣いてる? え! なんで!? 僕泣かせるような事言った!?」
「な、泣いてないし」
「いや、でも泣いてるじゃん! お父さん何か悪い事言った!? ごめん、謝るから! 謝るからお母さんにだけは内緒にして!!」
「急にみみっちい事言わないでよ!!」
台無しだよ、色々!
ガチャ!
「ただいま〜、壊〜、振武〜」
そんな風にじゃれあっていると、玄関からドアの開く音と、母の少し疲れたような声。時計を見れば、まだ午後4時。彼女にしては、かなり早いお帰りだ。
「っと、今日は早いなぁ! 振武、涙拭いて涙拭いて!」
「ちょ、だから涙じゃないってば」
出るか出ないかギリギリまで潤んだ目を裾で強引に拭って、俺は父親と一緒に玄関へ急ぐ。
そう簡単に、この状況を、この両親を受け入れる事は難しいけど。
……でも、少し、頑張ってみようと思えた。
この世界で、頑張ってみようって。
読んでいただいてありがとうございました!
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と、豆腐メンタルなので、お手柔らかにお願いします!