plus ultraを胸に抱き   作:鎌太郎EX

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さて、最新話です。
毎度のことながらあまり自信がないというか、今回は擬音に頼らずに文章を作ったり、原作キャラ何人か出てきたり、実は初めて原作のシーンを使ったりで、いちいち心配な要素ばかりです。

いやぁ、改めて、二次創作って大変!
では本編をどうぞ。


episode11 上 夢の階

 

 

 

 

 

 

 ――筆記試験は終了した。

 こう聞いてしまうと唐突で何ともあっけないように感じるだろうが、動島振武と塚井魔女子にとって困難な壁ではない。

 振武には前世の知識もあり、基本的に成績だけを見れば優等生で通っている。

 魔女子はそういうものはないが、しかし素の学力や知識量が普通の人間を遥かに凌ぐため、ここも問題はならない。

 本番はこれから、実技試験からだった。

 

 

 

 

 

 

『今日は俺のライブにようこそ!!! エヴィバディセイヘイ!!!』

 

「Yoko「言わせねぇよっ」ムゴッ」

 

 隣で思わずレスポンスしようとした魔女子の口を押さえる。冷静に考えれば女子の口を勢いで塞いでしまうのも如何なものかと思うが、こんな皆緊張しているような場所で呑気にレスポンスしたら迷惑だ。

 

『こいつぁシヴィーーー!!! 受験生のリスナー!

 実技試験の概要をサクッとプレゼンするぜ!!! アーユーレディ!?』

 

『YEAHH!!』「もごー」

 

 口を塞がれながら返事をしている魔女子も豪胆だ。

 

「勘弁してくれよ塚井、ここで返事したら馬鹿としか思われねぇぞっ」

 

「――ぷはっ、ですが弟も言っていました。

「良いかい姉ちゃん、コールされたらレスポンス、基本的な礼儀だよ」と。礼儀は守らなければいけません」

 

 その場合多分使用する状況が違う。

 振武はどう思ったが、言葉にすることはなかった。というより、問題なのはあの説明している教師なのだろうが。

 壇上を見てみれば、逆立った金髪にサングラス。あのスピーカーが首に設置されているようなコスチュームは、ボイスヒーロー《プレゼント・マイク》だろう。何度かラジオを聞いて声を覚えていた。

 本当であれば受験勉強をしている最中はラジオを聞きながら作業をしようと思って彼のラジオを聞いていたのだが……煩すぎて別のチャンネルに変えたからこそ、振武の頭に残っていたのだろう。

 

「にしてもプレゼント・マイクが入試の説明係とは……流石雄英、と言ったところでしょうか」

 

「だな、あんな大物が出てくるとは、正直思っていなかったよ」

 

 騒がしい人間だが、それでも実力人気ともに揃っているヒーローだ。実際公式HPに教師として名前は載っていたので、プレゼント・マイクがいることは確認済みだ。ここで会うとは考えていなかったが。

 

『入試要項通り!

 リスナーにはこの後、10分間の「模擬市街地演習」を行ってもらうぜ!!! 持ち込みは自由! プレゼン後は各自指定の演習会場へ向かってくれよな!! OK!?』

 

 そう言われて、手元に置いてある受験番号の書かれている用紙を見る。流石に魔女子ももうレスポンスを返す気がないのか、振武と同じく持っている用紙を見ている。

 受験番号の下には自分達に分けられている試験会場の名前が記載されている。振武はD、魔女子はEとなっている。

 この流れは原作を読んで知っているとはいえ、実際に自分が振り分けられてみれば納得する。もし魔女子と同じ試験会場にいるのであれば、共闘しない理由はない。一応お互いの個性を把握している分、他の人間よりは組みやすいだろう。

 それを防ぐという意味でならば、試験会場を分けるのは当たり前だ。

 

「むぅ、残念です。試験会場が同じなら手伝っていただけるかとも思ったのですが」

 

「お前、それで受かっても嬉しくないだろう?」

 

 振武の呆れた声に、魔女子は挑戦的な笑みを浮かべる。

 

「当然、全く嬉しくないです。

 私もヒーローになると決めたんですから。むしろ振武さん達に負けないという所をお見せしないといけませんしね」

 

「お、カッコ良いじゃん」

 

 お互い微笑み合う。

 仲が良いというより、お互い「落ちたら承知しないからな」という挑戦的な笑顔ではあるが、だが振武はその関係が悪くないとも思っている。

 魔女子と焦凍に出会ってからは、孤独感というものが全くない。むしろ身近に自分と同じくらい強くヒーローを目指している友人が出来て、とても賑やかになった。

 これこそ、ヒーローが、母であるセンシティが守ろうとしていたものなのだろう。

 

『演習場には〝仮想(ヴィラン)〟を3種・多数配置してあり、それぞれの「攻略難易度」に応じてポイントが設けてある!!

 各々なりの〝個性〟で〝仮想敵〟を行動不能にし、ポイントを稼ぐのが君達(リスナー)の目的だ!! 勿論、他人への攻撃等、アンチヒーローな行為はご法度だぜ』

 

 簡単な話、より多くのポイントを取れば良い……というだけではない。原作を知っているからこそ知っている事実。他にも審査の対象になっているポイント。

 救助(レスキュー)ポイント。

 原作を知っている分、そこが有利になるわけだが……。

 

「――いや、どうにも出来ないし」

 

「? どうしました動島くん、まさか不安が今更襲ってきましたか?」

 

「あぁ、いやいや、何でもないよ」

 

 思わず溢れてしまった言葉を慌ててごまかす。

 ――救助ポイントは審査制だ。つまり審査を行っている人間の裁量にポイントが一任されている。教師陣の性格や好みを熟知した所で、全員からポイントを貰うのは至難の技だ。

 人が喜ぶ……評価する所は、人によって違うからだ。

 審査制の厄介な所だ。

 

(普通に考えりゃ、0ポイントの仮想敵、だよな)

 

 あれを倒せる人間というのは一定数評価を受ける、ポイントもそれなりに稼げるだろう。

 だが、問題はそこじゃない。

 倒せるかが問題だ。

 振武はこの10ヶ月の間に格段に強くなっている。ただの鉄の塊であるならば倒すのも容易だ。だが漫画で描写されていた大きさを考えると、そもそもあのロボの顔面に拳を当てるのは難しい。

 剃モドキでジャンプ、その後月歩モドキでさらに空中で飛び上がれば届く……かもしれない。実際に見てみなければ分からない。

 

(厄介だなぁ)

 

「有難う御座います、失礼致しました!!」

 

 唐突に大きな声が耳に入ってきて思わず顔をあげると、前の方の席でキッチリと制服を着込んでいる真面目そうな受験生が頭を下げている。

 ……思わず考え事をしていて聞いていなかった。

 

「何か考え事をされていたようですが、邪魔をするギミックがあるようですよ?」

 

「あ、あぁ、悪い、そうみたいだな」

 

 どうやら自分が知らないような情報は出てきていないらしい、少し安心する。

 

「えぇ……にしても、あの生真面目なメガネさんは私とキャラが被っています、ある意味要注意人物です。

 もっとも、緑色の髪の……なんでしょう、モサモサしているというか地味目というか、そのような方に怒っていたので、どこか短気な部分もありそうです。そこで細分化出来るかもしれません」

 

 さも当然のように言っているが、振武からすればそもそも魔女子は真面目系ではない、天然ボケ系の賑やかしのように見える。

 しかし、緑谷はやっぱ怒られたか。それならこれだけ話している(勿論声は抑えているが)振武達も怒られると思っていたのだが、席がある程度離れているのが功を奏したのだろう。

 ドンマイ緑谷、とさらに手前の方に座っているらしい彼にエールを送った。

 

『俺からは以上だ!!

 最後にリスナーへ我が校の〝校訓〟をプレゼントしようっ!』

 

 プレゼント・マイクが最後に大仰に手を広げてる。

 

「かの英雄、ナポレオン=ボナパルトは言った!

「真の英雄とは、人生の不幸を乗り越えていく者」と!!」

 

 辛い経験を克服できる者、困難に打ち勝つ者。

 それがヒーロー。

 さて、君らはどうかな?

 振武達――受験生達にそう言って試すような、少しコミカルさも加わった笑みで言う。

 

 

 

『〝Plus(さらに) ultra(向こうへ)〟!!

 それでは皆、良い受難を!!』

 

 

 

 その言葉とともに、ざわざわと受験生達は移動を始める。

 

「俺らも移動しないとな。

 今度会う時はお互い受験を終えた後だ、いい結果が残せるといいな」

 

 振武がそう言いながら筆記試験用の道具だけではなく、実技試験の為の胴着や籠手が入っているリュックを背負うと、魔女子も自分の鞄を手に取る。

 

「そうですね、良い結果というのが、基本的に合格である事に変わりはありませんが、精一杯頑張りましょう。

 それでは、動島くん」

 

 すっとこちらに手をあげる魔女子

 一瞬、「なんでこっちに手を上げてきてるんだ? 挨拶か?」と考えてしまった振武だが、すぐその答えに思い至って破顔する。

 らしい、と言えばらしい。

 らしくない、と言えばらしくない。

 だが、そういうノリは、振武が好きな部類だった。

 

「「じゃあ、また後で」」

 

 お互いの掌が、空中でぶつかり合う。

 魔女子の身長は振武より20cm近く下な為ハイタッチと言って良いのか難しいが、それでも、本当に友達になったという感覚が、振武に力を分け与えてくれたように思えた。

 

 

 

 ◆

 

 

 

「……マイクの野郎、ノリが良過ぎる」

 

「まぁまぁ、良いじゃないか、あれは彼の良さだよ」

 

 ――場所は、雄英高校内にあるモニタールーム。実技演習場のあらゆる場所に設置されているカメラの全映像を観れるここには、雄英に関わる全てのヒーローが集まっていた。

 ここで、今回の実技試験審査を行う。

 多くの人間が集まっている中で、2人の男が話をしていた。

 1人は黒いタイツを着て、白く細い布を首に巻いている男。その顔は気怠げで、少し疲れたような顔をしている。

 もう一方は……男というより、オスと言った方が正しいだろう。鼠なのか、それとも犬なのか熊なのか。少なくとももう1人の男の半分も身長がないそれは、スーツを着てどこか快活に笑う。

 抹消ヒーロー《イレイザーヘッド》こと相澤消太と、雄英高校校長、根津である。

 

「……それにしても校長、宜しかったんですか?」

 

「何がだい?」

 

 柔かな笑みを浮かべる根津に、相澤は少し面倒くさそうに小さくため息を吐く。

 

「……在籍人数の件です」

 

 ――雄英のヒーロー科の元々の在籍人数は20人。うち2人は推薦入学枠の為、この入試を突破して入ってこれる人数は1クラス18人。2クラスで36人だった。

 だった、というのは今年からこの規定を変更し、推薦入学枠も含めて22人。つまり、2人増やす事になったのだ。勿論会議などで様々な議論がなされたが、結局GOサインを出したのは校長だ。

 

「良いんじゃないかな……恐らくこれから、犯罪というものは加速度的に増え始める。いや、今も軽犯罪だったら増えているかな。

 そんな状況でヒーローの卵を多く育成するというのは安易に思えるかもしれないが、我々のやれる事と言えばそれくらいしかないしね」

 

 このヒーロー飽和社会。

 一見世界は平和のように見えるが、それでも個性という超常を抑圧されている分、悪というものはゆっくりと煮詰められ、より濃くより深くなっているだろう。

 少なくとも、根津はそう判断した。

 だからこそ、今年から徐々に採用枠を広げ、より多くの可能性に満ちた若者を育てる。

 それが根津の考えだった。

 しかし、相澤はそれに懐疑的だ。

 

「……玉石混淆も良い所です。道半ばで倒れるくらいならば、最初から入れない方が相手にとってもこちらにとっても、良いと思いますが」

 

 相澤消太は合理主義者だ。

 在籍人数を増やせば、それだけ相応しくない人間も増えていくだろう。それを乗り越えてこそヒーローなのだが、乗り越えられない人間が多すぎる。

 そんな者に時間を割いている理由はそれこそないように思えるが。

 

「相澤くんらしいね。まぁちょっとした試みというやつさ。教師が最初から諦めていたら、育つ者も育たない。

 それに――今年は、優秀な人材がかなり集まっていると、私は思っているよ」

 

 手元に置かれていた幾つかの書類を見ながら、根津は笑みを深くする。

 ……言い方は悪いが、今年は当たり年とも言えるだろう。

 何せ推薦枠を決める段階でそもそも喧々諤々の議論になったのだ。

 轟焦凍。

 No.2ヒーロー《エンデヴァー》の息子。個性も強力、頭脳明晰、身体能力も高い。少し表情が暗いのは玉に瑕だが、しかし十分推薦枠として選ばれる素質は十分ある。

 動島振武。

 10年前に亡くなったNo.10ヒーロー《センシティ》の息子。個性も頭脳も轟焦凍にも引けを取らないが、彼の1番重要な所といえばその身体能力と格闘技術だろう。何せ彼はあの〝動島〟だ。

 動島の名は度々ヒーロー界に現れる。

 ヒーロー本人の名としてでも少なからずあるが、それ以上にその流派の名だ。個性重視の現代社会で個性なしで戦おうとすれば、この動島流の教えを受ける事が最も正しい選択だと言われている。

 ……もっとも、あまりにも厳しい修練の所為で脱落者も多く、極めた人間がヒーロー界に現れるのは、一世代に数人と言っても良いだろうが。

 おまけに流派内のバリエーションの多さと個人によって技そのものが変化するこの流派は、一般社会での認知度が低いのは仕方がないのかもしれない。

 

「正直どちらにしようか迷ったんだけどね……最終的には轟くんになったが、彼もまた必ずうちにやってくる人材だと思っているよ」

 

「……まぁ動島ですからね」

 

 書類を見ながら、相澤は珍しくどこか悲しそうな目をする。

 眼にしているのは、動島振武の書類だ。

 

「……そういえば、君は一時期センシティのサイドキックを務めていたね。動島流の教えを受けた事もあるとか」

 

「あんな不合理の塊みたいな流派、殆ど何も出来ずに辞めましたがね」

 

 あの流派は個性を必要としない。

 その代わり、別の部分での才能を要求されるものだ。

 そういう意味で、相澤消太は合わなかったと言えるだろう。もっともあのレベルの修行を耐えられる人間が他に何人もいて貰っては困るのだが。

 動島振一郎や動島覚レベルの人間が当たり前のようにいたならば、個性に重きをおく今の超人社会は実現しなかっただろう。

 

「自分がお世話になったヒーローの息子さんだ、感慨深いんじゃないのかい?」

 

「……俺は合理主義者です。そんな感傷持ち合わせちゃいませんよ」

 

 その言葉は、嘘を吐かない相澤からすれば珍しいものだったと言えるだろう。感傷はない。だが興味が無いわけではない。

 サイドキックとして付き従った時もそうだが、動島覚という存在は相澤消太とは真逆の人間だった。つまり、不合理な存在だった。

 どちらかと言えば基本的に怠惰で、何事に対してもやる気が起きない。当時新婚ホヤホヤだった事もあり「壊くんの為にご飯作りたい」とか言いだし帰ろうとする。だがそのくせ、戦闘に入ってしまえば敵なしだ。

 不合理というより存在が自由すぎた。

 だがそのヒーローを相澤消太は、イレイザーヘッド(ヒーロー)としても相澤消太自身(個人)としても嫌いにはなれなかったが。

 その動島覚の息子が、雄英を受験しているのだ。

 気にならない訳がない。

 

(あれから10年、か。思いの外長い時間が経ったんだな)

 

 葬式で、自分を罰し続ける暗い顔をしていた動島振武。

 どのような事があってそれを克服し、あるいは納得してここまで来たのか分からない、どれ程の強さを身に付けているか分からない。

 この場では自分は中立だ。どこまでも第三者目線で公平に見定めなければいけない。

 しかし出来れば、

 

(出来れば、入ってきてもらいたいもんだ。俺がセンシティさんの息子を育てるってのは、皮肉な話だがな)

 

 らしくない事を考えている自分自身に自嘲の笑みを浮かべながら、画面を見た。

 さて、いよいよ試験が始まる。

 彼以外にも見なければいけない生徒が山ほどいるのだ。

 教師としての責務を全うしなければいけない。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 ――時間は少し先になる。

 すでに実技試験が開始されて4分以上の時間が経過した試験会場Dは、皆自分の個性でロボットを打ち払い、行動不能にしていた。

 皆よく動き、戦い、打ち倒し続けている。流石、雄英を受験しようとした全国の優等生達だ。その動きは多くが鮮やかで、あっさりとロボを倒す。

 ――だがその中で、一際派手に戦い続ける者がいた。

 動島振武だ。

 

「――っ!!」

 

 ロボットの体を、籠手が装備された拳が〝貫通する〟。

 それほど強い力が込められているように見えない拳がロボットを〝爆散〟させる。

 周囲の音や声が、まるで遠くにあるような感覚。

 戦っている事に集中する、周囲に影響され過ぎるようでは実戦では役に立たない。集中しすぎてもダメなのは、学校占拠事件で学んだ部分ではあるから、こうして耳には入っているのだが。

 

「……というか、思った以上に弱い(・・)

 

 言ってしまえば、たかだか機械だ。人間よりも単純な鉄の塊。

 それにやられる程、振武も弱いわけではなかった。だが原作を見た限りでは自分よりでかいし、動きも速い――と思っていたのだが、

 

「――ふんっ!!」

 

 拳で貫いて動きを止めた仮想敵の頭部のような部分に、ヘッドバットの要領で頭突きをかます。

 頭を振動させると酔いそうだったので個性は使っていないが、震撃理論使用のそのヘッドバットはあっさりと仮想敵の頭部を吹き飛ばす。

 ――振一郎より、弱い。

 当然だろう。あの人外とこの仮想敵は比べる事も出来ないほどだ。

 だが振武は自覚していない。それだけ自分自身が(・・・・・)強くなっている事に。

 ……何度も言うようだが、10ヶ月の間に振武は劇的な成長をしている。

 勿論、仮想敵が弱過ぎるという訳ではない。実際多少の梃子摺らせる行動をする時がある。

 だがそれでも、苦難という程ではない。

 これが10ヶ月前の振武であったならばもっと苦戦していたはずだが、今の振武であれば乗り越えられないものではなかった。

 問題は、

 

「仮想敵全体の総数、だよなぁ」

 

 次から次へと湧いて出てくるものでは無い。最初から絶対値が決められている仮想敵は、振武のみならず他の受験者達も倒している。そうなれば必然的に数は減っていき、後半になればなるほど、取れるポイント数も減っていく。

 今の所、振武が取っているポイント数は38ポイント。ポイント数としてはそう多くは無いが、これからやってくる0ポイント仮想敵がどれほどの存在か分からない以上、多少の余力を残しておく必要性があった。今この試験会場で自分と同じくらい取っている人間は、

 

「ドリャァアァアアァアア!!」

 

 振武から少し離れている所で戦っている赤いツンツン頭の少年だけだろう。

 硬化の個性を持っているのか、鉄の塊である仮想敵を殴りつけても痛がりもせず、攻撃を受けていそうだ。

 

「……なんか、どっかで見たことあるような気がするな

 ――って、ヤバい」

 

 彼の顔に既視感を感じていると、すぐに振武の表情に焦りが出る。観察していた彼の後ろに、2ポイント仮想敵が迫っていた。気付いた様子はない……というより、あれは目の前の敵に集中し過ぎて気付いていないのだろう。

 ――そこからの振武の動きは迅速だった。

 

 

 

「――剃モドキ!」

 

 

 

 視界にあった景色が、一瞬で後ろにブレる。

 剃モドキでの加速は、少しの間だけ自分が流星にでもなったような気分になる。

 そのまま加速を保って一気に硬化の少年の背後に立ち、

 

 

 

「震振撃・四王天――乱打!」

 

 

 

 4万回の振動を纏ったその拳が、まるでマシンガンのような素早さで放たれ、仮想敵は蜂の巣になった。素早くシンプルなその攻撃は、仮想敵の装甲を持ってしても防ぎ切れなかった。

 

「――って、うぉ!? 急に後ろに立つなよ、びっくりすんじゃねぇか!!」

 

「そりゃ悪かったな。でもお前、俺が急に立たなきゃ、危なかったみたいだぜ?」

 

 ようやく周囲の仮想敵を倒して振武の存在に気付き驚く少年に、振武は失敬なと言わんばかりの不機嫌顔で自分が倒した仮想敵を指差しながら答える。少年は少しポカンとしていたが直ぐに状況を察してか、笑顔が浮かぶ。

 

「お、おぉ! 助けてくれたのか、サンキューな!

 俺は切島ってんだ! よろしく!!」

 

「あ、あぁ、俺は動島振武。

 まぁ別に、切島は硬くなんのが個性みたいだから、ちょっとお節介だったかな」

 

 いきなり差し出された手を、振武は思わずといった感じで握り返す。

 まさかこんな場所で握手を求められるとは思わなかった。案外フレンドリーな人間なのかもしれない。

 振武の遠慮がちな言葉に、切島と名乗った少年は快活に笑う。

 

「それでも有り難いぜ! にしてもすげぇな、どうやったんだ? 仮想敵ボコボコじゃねぇか」

 

 先ほど振武が鉄の塊にしたそれを見て、不思議そうな顔をした。

 当然だろう、鋼鉄の装甲を持っている仮想敵を一瞬でボロボロにしたのだから。

 震振撃・四王天。4万回の振動で繰り出されるそれは威力が弱いが、その分扱いやすく連発が利く。実戦での使用は初めてだったが、上手く行って良かった、と心の中で安堵しながら答える。

 

「日頃の鍛錬の賜物さ――それより、ちょっとマズいかも」

 

「あぁ? 何がだ? もうここらの仮想敵はほとんど倒されてるぜ?」

 

「そういう意味じゃないよ」

 

 少年の言葉に、振武は小さく首を振る。

 母のように個性でのブーストはないが、鍛錬によりそれなりに感覚が鋭くなっている。個性のおかげか、振動というものには特に敏感だ。

 

 

 

「地面が揺れてる――メインディッシュのお出ましみたいだ」

 

 

 

 そう振武が言った瞬間、

 2人が立っている近くのビルが、いきなり上から崩れた。

 

 

 

「なっ」

 

 少年は息を飲み、振武もそれを見上げて動揺する。

 あの近くのビルは、見たところ10階建て。

 それにまるで気軽に手をついたような仕草だけで破壊する。

 

 

 

 0ポイント仮想敵が、現れた。

 

 

 

 

「で、デカ過ぎだろ!」

 

「……悔しいけど同意見」

 

 

 

 

 

 その姿に、2人は唖然とするばかりだった。

 想像していたのよりも、ずっと巨大なそれ。自分1人では届きそうもない。

 

 

 

 

(さて……どうしようかな)

 

 

 

 

 

 

 

 それでも、振武の中でこれを倒さないという選択肢はなかった。

 

 

 

 

 

 

 




如何だったでしょうか。
魔女子さんと振武くんを入学させつつ原作キャラを削らない理由をこねくり回したらこうなったり、イヤイヤなんで切島くんと同じ会場に!? とか突っ込みどころは多々ありますが、お気になさらず(え

にしても自分で書いていてなんですが、動島家はどんどん地位が上がっていますのな。


次回! 切島くんが踏み台にされるぞ!! 期待せずに待て!


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