キャラが多いと喋らすのも一苦労ですね!
では、本編をどうぞ。
ズルズルズルッ
麺を啜る音が響く。
時間は昼時。ランチラッシュの食堂は今日も満員御礼。大繁盛の様相を呈している。
しかしその一角だけは、昼時の長閑さとは相反する、対抗意識のぶつかり合いにより空気は張り詰めていた。
「「………………」」
傍観者として正面に座っている魔女子と百は、気まずそうにその様子を見ている。一緒に座っている出久や麗日、飯田もどこか気まずそうに、しかしそれでも箸を動かして食事を続けている。
――どうにかなりませんの? この空気?
――どうにもならないでしょうね、これは。
魔女子と百のアイコンタクトだけで為される相談は、あまり意味がなかった。2人がどれだけ考えてもこの状況を解決するに至らない。
「……ハッ」
「……フンッ」
――何せ、当事者2人が一歩も引かず、そもそも対話もままならないのだから。
初日の騒動もなりを潜め、次の日から本格的に始まった学校生活は、振武にとっては拍子抜けするようなものだった。
いくらヒーロー科であっても、専門の授業でない限り他の高校生と変わった事をするわけではない。午前中は終始必修科目に当てられ、ごく普通の勉強が続く。
教師陣は当然有名なプロヒーロー達なのだがなのだが、それを飛び越える普通さ。プレゼントマイクなど、時々気付いたようにシャウトしたり大声を上げたりしていたが、基本は普通の英語だった。
初日の唐突な個性把握テストに比べれば退屈そのもの。しかも振武や百、魔女子や焦凍にとっては通常の授業などそう難しいものではない。元々頭が悪くない面々なだけに、その退屈さは倍のようにも感じられた。
唯一のイベントと言えば席順の事だろうか。
合理的な考えが好きな相澤の指示により、席順には出席番号が適用される。
流石に記憶力の良かった振武でも席順までは中々把握しきれなかった。そもそもハッキリと映される事が1巻ではなかったからというのもあるが、ここは全く予想が立たなかった。
結局結果だけ言ってしまえば、魔女子と振武は廊下から三列目、教卓から3番目と4番目に。焦凍と百は、4列目の1番前と1番後ろに来る事になった。
多少席が離れてしまうのはしょうがない事だが、特に魔女子は残念そうにしている。
「これでは手紙のやり取りもままなりませんね……しょうがないです、動島くん。ここは仲良く2人で談笑しましょう」
「いや、普通に休憩時間にすれば良いだろ。授業中にはやるなよ?」
残念そうにしていても、相変わらずの魔女子だったが。
とにかく、ヒーロー科という名前がつく割には、平凡そのものと言っても良い、学生らしい日常風景だった。
「ご飯を食べに行きましょう、動島くん」
昼休み。最初にそう提案したのは、誰でもないその魔女子からだった。
魔女子の両脇には、すでに焦凍と百が立っている。百は普通にしているが、焦凍はおそらく一度は逃亡を図ったのだろう。それを防ぐためか、魔女子がガッシリとその腕を掴む……というより、抱え込んで逃さないようにしていた。
解せぬ。
焦凍の顔はそう書かれているように不機嫌で、もし遠目で見ていたら笑っていたかもしれない。
「良いぜ。今日は弁当じゃないから、食堂に行こう」
「それは何よりです、私も轟くんも、八百万さんもそうだったので、大変都合が良い。
もしこれで動島くんだけお弁当でしたら、寂しい思いをさせる事になっていました」
「……どっちにしろ食堂だってのは変わらなかったわけだな」
少し想像してみる。
全員が食堂で料理を注文しているのに、わざわざ席を占領してまで1人お弁当を食している姿を。
……あまり良い絵ではない。寂しさよりも、申し訳なさと居心地の悪さを感じていただろう。
「にしても、意外ですわね、動島さんがお弁当というのも。あまりイメージに合わないと言いますか……ご自分でお作りになっているんですか?」
「いや、料理は出来ないわけじゃないが、弁当毎日作れるほど主婦力は高くない。
あれはまぁ、いつも親父が作ってるんだ」
百の言葉に、振武は諦め半分面倒臭さ半分の表情で答える。
……小学校の時はまだ良かった。
皆同じく給食を食べ、弁当などは偶にだったのだから。
だが中学校は雄英と同じで給食制度ではなく、食堂で食べるか購買で買うか、はたまた弁当を持参するしかない。
そこから始まったのだ。父――動島壊の弁当作りは。
最初は可愛いものだった。朝の忙しい時間帯である事や壊が仕事をしている関係が上手く組み合わされ、凝ったものを作らなかった。
しかし段々と要領を得てきた彼は、調子に乗って行った。
桜でんぶで「しんぶ♡」と書くくらいは序の口だった。キャラ弁というものを知った壊はより面白く、より可愛く、そしてより複雑な弁当を作り始めた。
しかも面倒臭い事に、料理自体も美味いのだ。
今では一流の料理とは行かないものの、店を出しても良いのでは? と思うレベルにまでなっている。
中学校時代の最高傑作は、龍だろう。
天空に舞登る龍を模して作られたその弁当はあまりの完成度にクラスメイトどころか教師陣にまで写真を撮られ、その内の誰かがネットにあげ、話題になり、どこから特定したのか料理本を出している出版社の人間が家にやってきて、是非うちで連載をという話にまでなった。
結果父に「料理研究家」という肩書きが追加された時には、振武も呆れを通り越して笑った。
「動島くんのお父様は凝り性ですからね。私も未だに面白くて写真が残っていますよ。
もし良ければ八百万さんにもお見せします」
「そこまで凄いお弁当なのでしたら、是非拝見したいですわ」
「勘弁してくれよ、自分の父親がキャラ弁アーティストって雑誌に取り上げられているだけでも嫌なんだから」
いくら母が料理が下手だからといっても、あそこまでの力量になる為には相当な努力がいるだろう。
いったいどんな所で頑張っているのか。
「まあまあ、振武さんを喜ばせようという親心だったと思いますよ。
それより、早く行きましょう? いくらここの食堂が大きいとはいえ、早く行きませんと席が埋まってしまいますわ」
百の言葉に、そうだなと言って立ち上がる。
食堂〝LANCH RUSHのメシ処〟。Cookヒーロー・ランチラッシュの高級料理並に美味しい料理を食べられるのだ。昨日泣き縋る父を説得した甲斐があったというものだ。
……まぁ、週2で弁当なのは相変わらずなのだが。
「ど、動島くん! 僕も良ければ」
すぐ近くに座っていた出久が、緊張したような強張った声で振武を呼び止める。
「別に構わないけど、そんな緊張しなくて良いのに。皆も良いよな?」
振武そのその言葉に、魔女子と百は快く了承し、焦凍は何も言わない。
最近では話さなくても何となく考えている事くらいはわかる。ここで、俺は先に行く、と魔女子に言わないあたり、別に不快ではないのだろうと振武は判断した。
どちらにしても、魔女子に呼び止められそうだが。
「あ、ありがとう……ほらっ、昨日ご飯奢るって話ししたでしょ?
今日そうしようかなって」
「あぁ、あれか。ちょっとした口約束なんだから別に良いのに」
「う、ううん、あの時は助けてもらって嬉しかったし、折角動島くんと仲良くなれたんだから」
「嬉しいこと言ってくれるな、緑谷は。んじゃ、遠慮なく奢ってもらおうかな」
緊張で引きつっているような笑みを浮かべる出久の分まで補うかのような笑顔で、出久の肩を叩く。気にしなくても良いとは言ったが、そんな小さな約束を守ってもらえるというのは、嬉しいものだ。
「デクくん、えっと、動島振武、くん? 私達も一緒に言って良いかな!?」
そこで声をかけてきたのは、茶髪の朗らかさと女性的な柔らかさを伴った少女。そのすぐ隣には振武よりも身長がある、眼鏡をかけた真面目そう……いや、真面目な雰囲気を持った少年。
麗日お茶子と、飯田天哉だ。
あぁ、昨日そう言えば友達になっていたっけか。
保健室に行った後は別れて帰ったのでその姿は見ていないが、2人と出久との距離感を見るかぎり、原作と同じく友達になったのだろう。
「あぁ、俺は別に気にしないぜ」
「私も結構ですわ。この際ですから、食事は人数の多い方が美味しいと言いますし」
「飯田くんとは何かキャラが被っているんですが……良いでしょう、女の子の友達にその2を作れるんですから」
「……俺は別に良い。とっとと行こうぜ、席が混む」
振武、百、魔女子、焦凍の順に応える。
「わぁ、ありがとう! 私は麗日お茶子!」
「ボ……俺は飯田天哉。折角クラスメイトになったのだ、共存共栄していこうではないかっ」
麗日は朗らかに、飯田はオーバーな身振り手振りと謎の言動で挨拶をする。
……まぁ、こういう奇々怪々な喋り方は、確かにキャラ被ってるな。
「何か侮辱されたように思うのですが、気の所為ですか動島くん」
「気の所為だ」
そう返して、そそくさと振武は食堂に向かった。
向かって……、
(…………何故こうなったっ!!)
心の中でそう叫ぶ。
大食堂は大きな賑わいを見せていた。それぞれ食べたい料理が出されるカウンターに長蛇の列を作っている。流石に振武もそこに文句を言うつもりはない。
だが、
『あ、僕カツ丼だから向こうだっ』
『私はとりあえず定食かな!』
『カレーライスか……ついでにオレンジジュースを飲もう、うむ』
と、出久、麗日、飯田の三人が抜け、
『私はパスタを食べたいので、あっちに並びますわね』
『じゃあ、私も……ナイスバディーの研究をしなくてはいけませんし、えぇ』
『塚井さん!?』
百と魔女子も、そう言って2人の元を離れた。
結局、蕎麦・うどんの列に、
「「………………」」
何故か振武と焦凍の2人が並んだ。
前後ろであるならばお互いの存在を気にする必要もなかったが、列は2列。両隣になってしまったので無視するのもどうかと思う。
もっとも、振武は問題ない。勿論答えてくれないという気まずさはあるものの、焦凍のことを嫌いではない。むしろ友人だと思っている。
だが焦凍の方は違う。
自分の考えを否定し、さらに長い間返事もしないというのは、焦凍にだって少しの気不味い思いがある。焦凍も良心というものがないではないのだ。
だが、それと同時にここまで来て話すのは嫌だという気持ちがあり、結果いつまでも無視が終わらない。
だから魔女子も、子供の喧嘩という認識が拭えないのだが。
「……い、いや〜、今日は過ごしやすくて良い天気だな!!」
嫌な空気が溜まっているかのような息苦しい空気に最初に根を上げたのは、振武だった。
まずは天気の話。
大昔のお見合いの掴みかのような会話は、
「………………」
顔を逸らされ、無視された。
……想定していたはずだが、それでも悲しいものは悲しかった。
「……なぁ、轟。お前が俺を無視したいって気持ちは分かってるんだぜ。
まぁ、お前のやってきた事、ある意味否定したんだから」
母の個性のみで父を超える。
何故そうなってしまったかというのは本人から聞いた。その事実はどうしょうもないし、動かしようがない。その為に積み重ねてきた焦凍の努力、より強固に考え続けた焦凍の信念。
否定された、そう思っても仕方がない事を振武は言った。あの時は感情が先走って言ってしまったが、もう少し言い方があったんじゃないか。もっとちゃんとしたタイミングがあったんじゃないか。反省する点は沢山ある。
さらに言ってしまえば、あの時の自分は
昔の自分をなかった事にするような人間の言葉が相手に響くとは思っていない。
「言い方は悪かったと思ってる。あのタイミングで言ったのも申し訳なかった。
でも、ごめん。俺は、あの言葉を撤回する気はない」
拙かった、未熟だった、考えが足りなかった。
これもまた、変えようのない事実だ。
だがだからと言って、あの言葉に込めた気持ちを変えるつもりはない。
最初の約束をした焦凍と、今の焦凍は大きく違う。目標が光り輝くようだったあの焦凍の夢は、今は少し暗いと思う。
自分の事を思い出さなくても良い。
でもあの夢だけは、思い出して欲しい。
目標に向かって、今とは違って拙く、だが強い焦凍に戻って欲しい。
どんなに考えても、この考えだけは変えられない。
「……まぁ、親父さん嫌いなのも、お母さんの仇を討つってのも止めはしないけどさあ。出来ればもう少し明るく生きてもらいてぇとは思うよ。
あ、あと出来れば喋るくらいはして欲しいかなぁ。別に罵倒とかでも全然良いからさ、爆豪みたいなのは流石に疲れそうだけど」
アハハとどこか自分自身に呆れでもしているような笑みを浮かべる振武を、焦凍は横目で見る。
……気に入らない、という気持ちはある。自分の目標を、信念を変える気もない。そもそも、振武のような人間を好ましく思わない。
しかし魔女子の言ったように、これではまるで子供だ。嫌な奴を無視している。それだけならまだ自分らしいと言えるだろう。邪魔する者を倒してトップに上がる。それは間違いではないはずだ。
だが同じ空間にいる事を拒否した事はない。
今も嫌ならこの場を離れれば良いのに、離れない。
自分自身にも分からない感情が、動島振武を拒否しきれない。
(……いや、考えるな)
焦凍は小さく、自分自身に言う。
ブレるな。鈍るな。俺はそんな事を考えている余裕はない。
確実に親父を超えなければいけない。超えなければ、いけないんだ。
そう自分に言い聞かせる。
無駄な事に興味を持っている暇も余裕もない。
「お、順番きたな」
振武の言葉に反応する訳ではなく、焦凍も前が空いたので詰める。
同時に口を開いてしまったのも偶然で、
『「蕎麦」「うどん」1つ』
……頼む内容だけは被らなかった。
『……冷たいので』
またも被る。
……振武は別に被せようとして被せているわけではない。当然だがそれは焦凍も同じ。だが何故か被る。
そして、2人の心の中は1つ。
((なんでこいつ(蕎麦)(うどん)なんて頼むんだよ!!))
――振武は蕎麦が好きではない。
なんか黒いし、コシがあり過ぎるし、味はどう形容して良いか分からない。
――焦凍はうどんが好きではない。
なんか白いし、コシがなさ過ぎるし、麺そのものに風味がない
これは振武と焦凍にとって、2つ目の、大きな対立だった。
その場では、大きな喧嘩にはならなかった。振武はさておき焦凍は振武に話しかける気がないからだ。魔女子や百、出久達が来ても状況は変わらなかった。
ただ何となく、お互いがお互いに否定し合う空気が、食事を不味くさせる状況にする。
「まったくお二人は……そんなに大事ですか? 蕎麦もうどんも、どちらも美味しいと私は思いますけど」
その状況に嫌気がさしたのか、大盛りミートソースを綺麗に巻き取っていたフォークを置き、小さくため息をついた。
その言葉に、振武と焦凍は同時に顔を上げる。
「いやいや待て待て一緒にすんな。よく考えてみろ? 蕎麦って何だ? そば粉という謎の食材を使った謎の食べ物だろう。あと黒い、あの色はちょっとなぁ」
「うどんってのは小麦粉の固めたもんだろう? それに蕎麦は引っ越し蕎麦然り、年越し蕎麦然り縁起ものだ。一緒にされちゃ困る」
2人の顔は真剣だ。
蕎麦とうどんで対抗しているだけとは思えないほど。
「……なんなんですの、もうっ」
「仕方がないんですよ、八百万さん」
流石に呆れて言葉も出ない百に、魔女子は口に入っていたクリームソースパスタを飲み込んで答える。
「蕎麦とうどん。どちらも昔から確立されている日本の麺類。種類は違うとはいえ、争い合うのは必須なんです。食べ物が関わると、人間は理性を失います。そう、人が皆き○この山とたけ○この里で争うようなものです」
「きの……なんですの? それ?」
「いえ、私もパッケージを見た事があるだけで食べた事はないのですが、チョコ菓子の一種です。人は皆どちらかを選び、そうではない方と争うようです。「どっちも美味しいよね」で納得できず、永遠に終わらない戦いを続ける、と友人に聞いた事があります」
「……意味不明ですわね」
「はい、私もそう思います」
忘れがちだが、2人とも生粋のお嬢様だ。
コンビニでお菓子を買って食べる前に、自分の家で最高級のお菓子が用意されるというような家で生まれ育った。き○この山とたけ○この里など買った事すらなかった。
ちなみに飯田はその会話に入らない。一応食べた事があるからだ。
「に、にしても、あれだね! 午後はヒーロー基礎学だよね! な、何するかワクワクだな〜私!!」
「そ、そうだね、何やるんだろうね!!」
嫌な空気を払いのけるためになのか、必死で麗日が話題を振り、出久がそれにのる。
――ヒーロー基礎学。
ヒーロー科にのみ学ぶことを許された、ヒーローになる為の基礎を総合的に学ぶ、その大半が実習の授業。ヒーロー科の授業の中で1番単位が多く、重要で、内容も多岐にわたる。
……振武はその言葉を聞き、神妙な顔でうどんをすする。
皆が何をするのか、何が学べるのか楽しみにしているこの時間は、振武にとっては少し憂鬱だった。振武もワクワクはしている。それを学ぶ為に雄英に入ったのだから。
問題は、その流れの話だった。
(……俺の原作知識は、多分今日で終わりだ)
結局1巻しか読んでいないのだ、どこまで細かく覚えていても意味がない。
勿論、この10年間は原作の流れなど関係がなかったし、それを気にするほどではなかった。だが、入学前から支えていてくれた杖がなくなり、今度は自分の力だけで歩いて行かなければいけない。
未知というのは怖いものだ。この世界で最初に気付いた時も、雄英の入試も、個性把握テストも。原作知識があったからこそ、そこまで恐怖せずに済んだというのはある。
それが無くなってしまうという事に、振武は確かに不安感を感じていた。
「動島くん、大丈夫? やっぱり動島くんでも不安なの?」
顔によっぽど出ていたからか、出久が心配そうな顔をする。
麗日も飯田も、魔女子も百も、振武の事を見ている。焦凍も、この時ばかりはと言わんばかりに振武を見て驚いている。
「おいおい緑谷、でもってなんだよ、俺の事どんな奴だと思ってるんだよっ。皆もなんで見るんだよ」
振武の言葉に、皆が笑顔を浮かべる。
「いや、動島くんって、余裕があるっていうか、自信溢れているっていうか、凄い人って感じがして。あんまりそういう風に不安に感じたりしないのかな〜って」
出久の言葉に、麗日も飯田もうんうんと何度も頷く。
「動島くん、入試で一位だったし、個性把握テストも凄かったもんね!
あんまりお話しした事ないけど、いっつも冷静で凄いなって思うよ!」
「うむ、俺もそう思う。動島君は遠目から見ても、大人の余裕というのか、動じない面があるからな。そういう意味でも、確かに凄い人間だと言わざるを得ない。
俺も、そのような精神性を身につけたいものだといつも考えている」
麗日は明るく、飯田は無駄に手の動きを激しくしながら語る。
その言葉に、魔女子と百も反応する。
「そうですわね、私も昨日ぶりの再会ですが、子供の頃と変わらず、振武さんはやはり凄い方です。鍛錬に裏打ちされた自信は、素晴らしいですわ」
「同じくです。武術も出来て、まぁおバカな面は多々ありますが頭が悪いわけではないですし、動島くんのその性格はヒーロー向きだと言えるでしょう。
ね、轟くん」
「……ノーコメントだ」
……単純なように思えるが、少し嬉しさが心の中に広がる。
そう見えているという事、それが褒められるという事は嬉しいものだ。
そして1つ、気付く。それをやってきたのは、別に振武が原作知識を持っているからという訳ではなかったな、と。
振武はいつも、余裕がない。中学校のあの事件でも、奥義会得の特訓の中でも、入試の時も個性把握テストの時も、「原作を知っているから」という余裕はどこにもなかったじゃないか。
いつも全力。
いつも必死。
昔から、戦う時だって困難に立ち向かう時だって我武者羅で、原作がどうのこうのと考える自分がいながらも、それを無視してしまう自分がいた。
もし少ない原作知識を最大限に利用するならば、もっと効率の良い方法は幾らでもある。
……緑谷出久のポジションを奪い、ワン・フォー・オールをオールマイトから受け継ぐ事も、もしかしたら出来たかもしれない。
しかし振武は、それをしなかった。したくなかった。
前世の自分を否定していた時は、そもそも考えつかなかった。
前世の自分を肯定した今でも、そんな事をしたいと思わない。
自分には自分のやり方があるから。自分には自分の目指したいヒーローがあり、信念があったから。
……ハハッなんだ、そういう事だ。
こいつらが言った部分は、原作知識があるからとか関係がない。
今の俺が必死に頑張ってきたものだった。
「……まぁ、大丈夫だ。
問題、次の時間の先生が相澤先生みたいのじゃなければいいなって思っただけさ」
「うっ、確かに……また最下位除籍とかなったら嫌だなぁ」
「ぼ、僕もそこはちょっと不安だよ……」
吹っ切れた振武の笑顔で言われた言葉に、麗日と出久が困ったように肩を落とす。
2人とも別に優秀じゃない訳ではないだが、あの理不尽さは苦手のようだ。
「だ、大丈夫だ2人とも! 2人とも優秀な人間なんだ、もっと自信を持って!」
「まぁ、あのような無茶を言う先生もなかなかいらっしゃらないと思いますけど」
「どうでしょうね? ここは雄英です。相澤先生が仰ったように自由な校風ですから。
どんなフリーダムな先生がやってきても不思議ではありませんよ」
「……ズルズルズルッ」
落ち込む出久と麗日を慰める飯田、マイペースに話し続けている百と魔女子、こちらもまた何も言わず蕎麦をすする焦凍。
何も変わらない。
原作知識があってもなくても。
「……うっし! 午後からも頑張るためにもしっかり食わないとな!
俺、お代わり行ってこようかな〜」
「まだ食べるんですの? もう、あまり食べ過ぎてはダメですよ振武さん」
「食べ過ぎて動けなくなったら笑いものですからね」
生真面目に注意してくる女子2人に分かっているよと言いながら食器を持って立ち上がる。
さて、いよいよここから未知だ。
不安に感じるのはしょうがないが、
その前に楽しんでしまうのも、また振武らしく、目指すヒーロー像としては相応しいものだった。
如何だったでしょうか。
原作知識ががないというのは大変大きな事ですが、そもそもお前さん必要ないじゃないかという気付きでした。
次回から戦闘訓練回! 久しぶりに本格戦闘シーンを書けるのは嬉しさ半分、楽しみさ半分です。
次回! 振武くんが熱くなる!!(物理) クーラー効かせて待っててや!!
感想・評価、お待ち申し上げております。