plus ultraを胸に抱き   作:鎌太郎EX

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振武くんの話を先にする為に、かっちゃんvsデクよりも戦闘は先に行っております。
あそこ描写し始めると、長くなりますので。


それでは、本編をどうぞ。


episode8 戦闘開始

 

 

 

 

 

 

(ヴィラン)チームは先に建物に入ってセッティングを。5分後に、ヒーローチームが突入する」

 

 そう言われて、振武達はビルの中で待機する。3対3という他の者と違う形式な為、1番最初にまわされたからだ。

 振武達がヴィラン、焦凍達がヒーロー。

 その形式は、もしかしたら運が良いのかもしれない、と振武は思っている。

 百の個性は様々な状況で活躍出来る強力な個性だが、要求される判断能力と作る際のタイムラグがネックだ。待ちの姿勢で時間を稼げるヴィラン側はある意味好都合。

 一方もう1人は、

 

「………………」

 

 見ていた。

 食い入るように見ていた。

 百の胸元やら百の下半身を、こちらでも分かるぐらい凝視している。

 あれで隠しているつもりなのか、いやそもそも隠す気がないのか。変態親父も真っ青なほどだ。

 峰田実。

 俺は一言も話していない。情報も反復横跳びで凄い数を叩き出したのと、「タコってエロいよな」の一言のみ。

 ……どうしよう、まともにコミュニケーションできるか心配だ。

 

「で、振武さん。これからどうします? 私は、ここを封鎖してしまうのが得策と考えますが。私でしたら、バリケードに必要な道具一式作ることができますし」

 

 峰田の視線に全く気づいていないのか、心底真面目な顔で話しかけてくる百。

 彼女も、案外そういう面では鈍感なのかもしれない。

 

「あ、あぁ、それは賛成……なんだけど、その前に氷結対策はしておかないといけないかもな。部屋……を暖かくする機械だと準備できないから、個人の対策だけでも」

 

 振武の言葉に、百もついでに峰田も首をかしげる。

 

「えぇっと、確か轟さんの個性って、」

 

「半冷半燃。氷結と炎熱を操れるってやつ。

 まぁ事情があって炎熱は本気出してやる事はないだろうけど……氷結はヤバいからな」

 

「おいおい、つってもそんな強力じゃないだろ? 個性把握テストでもそんなに使ってなかったじゃん」

 

 峰田の呑気な言葉に、振武は小さく溜息をつく。

 

「えぇっと、峰田だっけ? まぁあいつの事を知らないからしょうがないけど。

 個性把握テストは使える競技が少なかっただけだ。出力は……正直俺も上限は分からん。だが分からんからこそ対策しておくしかないだろう?」

 

 振武が焦凍の個性を目にしたのは、中学校時代の事件と、個性把握テストで少しだけ。

 あの時は全力を見る事はなかったが……教員室丸ごと凍らせようと涼しい顔して言った位だ。最悪の状況を想定するのが悪い事だとは思えない。

 

「開幕パンチでいきなりビル凍らせてくるって考えていた方が無難かもな」

 

「ほ、本気かよ動島、そんなん出来るって、」

 

「あいつは百と同じく、推薦入学者だ。実力は本物だって思っておいた方が良いだろう?」

 

 振武だけならば考えがない訳ではないが、2人に素の能力で氷結に対抗させるのは現実的ではない。

 

「百、とりあえず2人分、凍らされても活動出来るもんを頼む」

 

「え、えぇ、分かりましたわ……で、ではすいません、ちょっとあちらを向いていていただいてよろしいでしょうか? 大きいものなのでその、服が、」

 

 百の恥ずかしそうな顔を見て、あぁと納得しながら思い出す。

 大きいものを作ろうとすると服が邪魔だったのだ。耐冷装備とバリケード用の道具を作ろうとすれば必然的に服を脱がなければいけない、と。

 

「わかった、じゃあこっちは峰田と相談してるから、お前は見えないところでやってくれ」

 

「お、終わりましたら声をかけますのでっ」

 

「あぁ、頼んだ。ほら、いくぞ峰田……おい、峰田」

 

 百との会話を終わらせ峰田に話しかけると、峰田の醸し出している雰囲気に違和感を覚える。

 不動。

 まるで巌のように動かず、百を食い入るように見つめている。

 

「……峰田、何してんだお前」

 

「そりゃあ動島、決まってんだろ。何か問題ないようにちゃんと視か……見ておかないと、ほら、なんかあったらあれだし、うん」

 

 おい今こいつ視姦って言いそうにならなかったか? なったよな?

 先ほどから妙に百を見ていると思えばなんて事はない。行き過ぎた健全さを身につけているだけだった。爽やかな笑みで言うあたりがなお悪い。

 

「アホなこと言ってんじゃねぇ。ほら、行くぞっ。お前の個性の説明も欲しいんだよこっちは!

 反復横跳びでは凄かったが、あれがどんな個性か詳細を聞いとかねぇと作戦たたねぇだろうがっ」

 

「そんな事よりも女の裸の方が大事に決まってんだろうが!!」

 

「逆ギレかよ歪みねぇな!?

 ダメなもんはダメ! 百の裸なんざてめぇには一生拝ませる気はねぇ! こっち来て作戦会議だバカ!!」

 

「や、やめろよ動島! お前も分かるだろう!! あのヤオヨロッパイを見たいおいらの気持ちが!!」

 

 襟首を掴んでズルズルと引きづるが、小さいその体からは想像も出来ないほどの力で踏ん張る峰田に怒鳴りつける。

 

「ここで分かるって言ったら話がややこしい!! 男として否定はしないが、直接的過ぎんだろ!!」

 

「おいらは間違った事は言ってねぇ」

 

「間違ってねぇが犯罪だ!!」

 

 その巌のように不動を貫こうという峰田を、振武はなんとか引きずってその場を離れていく。

 

 

 

 一方、その後ろに立っていた百は、

 

「ひ、否定はしないって……振武さんも、興味を。

 そ、それに、私の裸は一生見せないって、では、振武さんは、」

 

 と顔を真っ赤にしながらモジモジしている姿が、あったとかなかったとか。

 

 

 

 

 

 

「で、どんな個性なんだお前のは」

 

 別室に移動してきた2人。ちょうど核兵器が置かれているものの隣に、振武と峰田はいる。

 百の裸を見ることが出来なかったのがまだ不満なのか、どこか釈然としていない峰田に振武は呆れ顔を浮かべながらも聞く。

「ちっ、もう少しで見れたかもしれねぇのに……」と不満気に呟いてから、小さく溜息をついて自分の頭のボール状の物をもいで、振武に見せる。

 

「俺の個性は、このボールだ。俺以外の物に触れれば超くっつく。体調良い日は最長で1日くっ付いたままの時もある」

 

「くっ付く……絶対に剥がれねぇのか?」

 

「まぁよっぽど強い力でひっぱりゃ取れんだろうけど……試してみるか?」

 

 ボールを近づいてくる峰田に首を振る。

 

「やめとく、時間ねぇし。で見る限り、お前にはくっ付かない訳か」

 

「あぁ、基本的においらにははねるだけ」

 

 反復横跳びでの圧倒的な結果はそれを応用したものだったのか、と振武は頷く。

 地味だが、かなり有用な個性だ。捕物であればそれこそ待ち伏せしてしまえば一発で捕縛できる。ヒーロー側だったらもいで投げる位しか出来なかっただろうが、ヴィラン側であればトラップとして使用することが出来る。ようは部屋に撒いておけば良いのだ。

 それに、最大のアドバンテージは、

 

「なぁ、峰田。それ誰かに話したか?」

 

「? いや、個性把握テストん時使ったのを見たのはいるだろうけど、誰もくっ付くって所は分かんないと思うぜ?」

 

 峰田の不思議そうな顔で告げられる答えに、振武は思案する。

 振武も百も、相手側に個性がばれている。

 勿論それで防がれるほど振武も百もヤワではないが、知られているというだけでも大きな弱点になりやすい。

 肝心要なのは、知られていない峰田の個性。これに対しては対策も何もないだろう。

 

「だとすれば、百とお前で核兵器守ってもらったほうが良いだろう。あの部屋でトラップでも仕掛けて貰えりゃ、それだけで勝てるかもしれない。

 けど……」

 

 安心はできない。

 相手は強力な個性を持っている焦凍、優秀な頭脳たり得る魔女子、個性の詳細が分かっていない障子という生徒だ。

 何が来るのか、どんな連携で来るのか分からない。

 だとするならば、

 

「全員で守りに入って、一網打尽にされて詰むってのだけは避けてぇな」

 

「……おいら良く分かんねぇけど、案外真面目なんだな、動島」

 

 真剣に考え込んでいる振武に、峰田は意外そうな顔で言う。

 振武の実力は個性把握テストを見ているので重々理解しているつもりだったが、頭脳面でここまで考える人間には見えなかったのだろう。

 振武は、その言葉に苦笑しながら答える。

 

「あぁ、どうせなら全力で勝ちを拾いてぇしな。

 ここで負けて悔しい思いすんの、なんか癪だし」

 

「そういうもんかぁ……おいらには、やっぱ分かんねぇ」

 

 モテたい。

 チヤホヤされたい。

 ある意味それだけで雄英に入学した峰田にとって、振武の真面目さというのは今までの人生の中で見た事がないものだったのか、少し新鮮な印象を持っているのだろう。

 

「別に分かんなくても良いさ。ちゃんとお前の実力出して貰えりゃ良いのさ。

 だが、そうだな……うん、ちょっとこりゃ、分ける必要性があるかもな」

 

 そう思いながら、振武は耳に付けられている無線機に触れる。

 

「百、準備は出来たか?」

 

『え、えぇ、問題ありません。もう全て創り終えましたわ』

 

「了解。なら峰田をそっちに返すから、2人でバリケードとトラップの設置頼めるか?

 峰田の個性、どっちかって言えば防御(ディフェンス)向きだったから」

 

『了解しました……振武さんはどうなさいますの?』

 

 百の言葉に、振武は少し勝気な笑みを浮かべながら答える。

 

 

 

「じっとしてんのは、俺の旨味を消しちまうからな。

 俺は――攻撃(オフェンス)だ」

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

「まず、轟くん。貴方の開幕パンチは効かないと判断しましょう」

 

 時間は少し巻き戻り、振武達が作戦会議をしている最中。

 ヴィラン側がいるビルの前で、魔女子はそう焦凍に告げる。

 

「……何かまずいか?」

 

「いえ、する分には良いと思うんですけど……振武さんなら多分、それくらいは想定します。

 一応でも貴方と共闘した経験があるんです。最悪を想定するならばビル丸ごと凍結というのは、予測されていると考える方が良いでしょう」

 

 実際振武は無鉄砲な所があるが、洞察力と理解力はある。

 焦凍の個性がどれほどの出力を持っているか分からないが、それでも結構な威力を持っていることは理解できているだろう。

 もし振武がその状況を想定していないならば万々歳だが、もしこちらが知らないという前提で動いて反撃(カウンター)をくらってはまずいだろう。

 

「障子さん、外から聞いて何かわかりますか?」

 

「……1人が4階の部屋で何か創っているのは音でなんとなく。残り2人が別室で何か話している。ここからでは会話内容を拾うのは難しいな」

 

「いえ、それだけでも十分です。4階に核兵器があるのは確実のようですし。

 貴方がいてありがたいです。私が使い魔を放つと、ルール違反になる可能性があるので」

 

 ネズミを放つにしろ、鳥を飛ばして窓から観察するにしろ明らさまだ。オールマイトにここで注意を受けるのも面白くはない。それにひきかえ、障子ならば触手を耳の形に変えるだけで情報収集が出来るため、5分後に侵入というルールには触れていない。

 勿論小賢しい言い訳だが、それでも明確なルール違反より良いだろう。

 

「さて、私の考えをお話しします。

 おそらく、八百万さんは防御側に、振武さんは攻撃側につくでしょう。あの峰…何とかさんの個性は分かりませんが、あの体格で動き回るタイプには見えませんから、おそらく防御と考えて良いでしょう」

 

「すまない、俺は相手側の個性や戦闘スタイルを知らない。なぜそう言い切れるか根拠を教えてもらえないか?」

 

 事情を知らない障子の言葉に、魔女子は小さく頭をさげる。

 

「そうですね、これは失礼を。

 まず、八百万さんの個性、〝創造〟は構造や材質を理解していればあらゆるものが創り出せるものです。応用力が高く強力ですが、創造時のタイムラグ、服が破けるなど、遭遇戦や突発的な状況変化に向きません。

 対する振武くんは、体や武器を超振動させる個性。身体能力も高く、障子くんと同じく近接戦闘を得意としていますが、その実力は失礼ですが障子くんを上回ると判断します。そう考えると、防御にまわるよりも、遊撃として動き回った方が能力を活かせます。

 峰…何とかさんは、個性の詳細は分かりませんがあの頭からもぐ黒いボール状のものを使用するのでしょう。反発性が高いように感じましたが、どちらにしろ攻撃には向かない個性だと思います」

 

 一気に言ってから、吐き出した空気を吸い込み、もう一度口を開く。

 

「つまり、普通に考えれば振武くんは私達を捕らえるための遊撃。

 八百万さんと峰何とかさんは、核兵器を守る防御役と考えるのが、妥当だと思います」

 

「……で? 塚井はそれをどう攻略しようって考えてんだ?」

 

 一通り話を聞いてから、焦凍はさらに先を促す。

 戦略や知能という点に関して、焦凍も障子も劣っているわけではない。

 だがそういうことに関して、もしかしたら魔女子はこのクラスの中で1、2を争う優秀さを持っているのではないか、と焦凍は思っている。

 冷静な判断能力、優秀な観察能力。そして物事をはっきり言ってしまえる豪胆さは、焦凍も認めるところだ。

 そして魔女子もその枠割を与えられたからこそ、思考をフル回転させる。

 ……相手はこちらと同じ3人。1人は万能性があるが瞬発力がない個性、もう1人は詳細が分かっていない。

 最後の1人は、はっきり言って凶悪だ。

 今のクラスメイトの中でも近接戦闘最強と判断して良いだろう攻撃能力。敏捷性も高く、判断能力も高い。勿論味方である焦凍も推薦入学者だけあって強力な個性と頭脳的優秀さがあるが、もし振武の得意な状況に引っ張り込まれれば、それだけで負けるだろう。

 遊撃に出ている振武を無視する事も出来るが、そうすれば背後から襲われる可能性もある。1対多が得意と言っていた振武だ、もし3人で行けば一網打尽にされる可能性も無いわけではない。

 持っている物はお互いに無線機、建物の見取り図、相手を確保した事を知らせる確保テープ。

 今自分たちがあのチームに対するアドバンテージ。

 障子という存在。

 そして、魔女子の……、

 

「……そうですね、こちらも二手に分かれるのが良いと思います。片方は動島くんを抑え、片方が2人を抑えます。上手くいけばそのまま2人を捕獲して核兵器にタッチが理想的なんですけどね」

 

 魔女子の表情が変わる。

 いつもの無表情でも笑顔でもない。

 どこか冷徹で、情もなく、相手を叩き潰そうと考えている。

 まるでそのように設定された機械のような顔。

 

 

 

「もっとも、分け方はかなり

 変則的ですけどね」

 

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 試験から5分が経過した瞬間、建物全体が凍らされ、中の気温はまるで冷凍庫に放り込まれたような、文字通り身も凍る寒さになった。

 空気中の水分を凍らせているのだろう。壁や柱の所々に氷が張り付き、空気は吸い込んだだけで氷の粉塵を吸い込んでいるかのようにキンキンに冷えている。

 極寒の世界と化したビルの中。

 しかし振武の周りだけは、周囲との温度差でその熱が揺らぎのように可視化できた。

 

「一応成功、か」

 

 この寒さの中でも凍り付いていない自分の手を見ながら、小さく頷く。

 ……なぜ振武が百のスーツ無しでも何ともないのか。

 それは彼の個性のおかげだろう。

 凍り付いてくる直前。振武は自分の体全体を振動させた。威力としてはそれほど強力なものではないが、しかしそれだけで体が凍りつくことはなかった。

 振動している物は、たとえ水であっても凍らない。

 何故なら振動している限り、熱エネルギーを帯びているからだ。当然それだけならば脚の周囲まで凍らせないようにすることは難しいが、このコスチュームの作りは特殊性だ。

 腕や足に溜まった熱を放射するために、ガントレットとグリーヴは熱を放出する機構が付いている。これにより、その表面はまともに触ればかなりの高温になるようにしてある。

 焦凍でもこれは狙って行わなければ凍らせることは難しいだろう。

 

「火傷しないようにってのとついでに、熱で追加ダメージって考えが、こんな所で役立ってくれるのはありがたいな」

 

 全身の振動では心許なかったが、発注が功をそうしたと言えるだろう。ビルの中を歩く足取りは軽い。

 振武はすでに2人と別れ、今は2階のちょうど中央にいる。移動している最中にビル全体がいきなり冷えてきたのは少し驚いたが、想定内だ。

 一瞬だけ百や峰田の意見を聞かず、押し通す形で計画を作ったのは早計だったかもしれないと思うが、今更それを言ってももう遅い。

 ここから、挽回していけば良い。

 そう考えていると、少し前の方から人の気配がする。

 ……人数は、1人。

 

「……おいおい、出来過ぎだぜ、この状況」

 

 物陰から姿を現したのは、轟焦凍だった。

 白いコスチューム。まるで父親に似てしまった左側(炎熱)を封印するように、氷の意匠で覆われたその姿は少し不気味に見えるかもしれない。

 敵。本当にそれを睨みつけるかのように、振武へ向けた目は鋭かった。

 ――罠。

 振武の頭の中に浮かんだのはそのワードだった。

 魔女子ならば振武達がそれぞれどこにいるのか把握することはそう難しい事ではないだろう。流石に振武も鼠の気配を見つけることは簡単ではないのだ、今だってどこかから覗いていたとしても不思議ではない。

 そして振武がいない事を分かっているのであれば、全員で急いで核兵器の部屋を強襲した方が良い。勿論そうすれば背後から振武に襲われる可能性があるので、それをとらなかった可能性もあるが、それでもわざわざ焦凍1人で来る必要性がない。

 振武の得意分野を外し、それでいて動きを封じる。

 そういう意味ではあり得ない話ではない。だがそれは振武は焦凍を無視して核兵器の元へ戻らないことが前提になっている。これで振武が焦凍を無視していけば、焦凍という決め手なく2人が倒される可能性だってある。

 

(……いや、塚井はそこまで考えてくれているのかもな)

 

 2人きりで戦えた方が良いでしょう?

 そう言っているようにも思える。だからこそ、振武には無視できない状況だった。そこまで考えているのであれば、これを考えたのは魔女子しかあり得ず、魔女子は自分が考えているよりもずっと性格が悪い。

 

「……よぉ、轟。お前が俺の相手か?」

 

 ――気楽に話しかけた瞬間、氷の槍が振武の眼の前から生える。

 一瞬だ。

 ノーモーションで作り出されたそれは常人では避けきれず、常人が受ければ間違いなく死ぬ。

 だがそれを、

 

「――っぶねぇなぁ、俺じゃなきゃこれ死んでんぞっ!!」

 

 バキンッという砕ける音とともに、振武の拳がその槍を破壊する。

 

「……っ」

 

 焦凍の顔が歪む。

 この攻撃で倒せるほどヤワではないとは思っていたが、体勢くらいも崩せもしない。

 焦凍はそのまま足からの凍らせる、瞬時に振武と取り囲むように氷壁を形成しようとする。

 しかし、

 

「あっまいんだよぉ!!」

 

 振武が足を上げ、そのまま地面に叩き落とす。

 その瞬間、床か震え、その振動で作りかけだった氷壁は根元から崩された。

 

「っ!?」

 

 何が起こったか分からなかった。焦凍からはただ足を振り落としたようにしか見えないからだ。

 

「不思議だろう? 踏鳴の応用だ。

 振動で強化した足を振り下ろしただけ……って訳じゃないんだが、とにかく強力なんだわご覧の通り」

 

 踏鳴――中国武術では震脚と呼ばれるそれは、そもそも踏みつけ(スタンプ)のようなものだが、力のコントロールも兼ね合わせればこのように周囲に振動を伝播させる事も出来る。

 完全に出来た氷壁を崩すのはおそらく難しかっただろうが、先に出せて良かった。

 

「……こんな時でも喋らないんだな、お前」

 

 頑なに喋らない焦凍を、振武もまた睨みつける。

 殺気はこもっておらず、戦闘中とは思えないほど純粋な感情の強さがその目には現れている。

 

「まぁ、お前の意地だもんなぁ。別に気にしない。

 ただ……」

 

 ゆっくりと構える。

 

 

 

「その意地ぃ、いつまでこの状況で続くか、なっ!!」

 

 

 

 勝気な笑みを浮かべ、振武は焦凍に襲いかかった。

 

 

 

 

 

 

 

「さて、動き始めましたね」

 

 障子に抱えられながら、魔女子は小さく呟く。

 3階にいる魔女子は、現在障子に背負われている状態だ。

 普通の状態であればこんな事をされなくても自分の足で歩けるが、今回は作っている使い魔が多すぎる。そこに意識を集中させる為には、意識を割く部分は最低限でいい。

 

「……良いのか、塚井」

 

「良いも何も、私が決めたことです」

 

 心配そうに触手で生み出した口で話しかけてくる障子に、魔女子は少し笑顔を浮かべて答える。その姿に、障子は未だ困惑気味だ。

 

「だが、今の状況ではお前に負担がかかり過ぎている。俺1人で核兵器の回収に向かっても良いんだぞ?」

 

「それはいけません。あちらがどういう準備をしているか分からないのです。こちらには私がいないとまずいでしょう」

 

 百の個性は確かに瞬発力はないが、それでもこのような待ちの姿勢ならば強い。何せ彼女の豊富な知識の中から罠や迎撃用の武器を作れば良いのだ。拠点防衛では大きな利点だろう。

 その中に障子1人を進ませる訳にはいかない。

 

「それに、あそこでは轟くん1人だからこそ上手く行くんです。もし私がいれば、私自身が轟くんの動きを邪魔してしまいますし、もっと大きな裏があると警戒される可能性もあるでしょう。この形で良いんです」

 

 焦凍が振武を抑え、魔女子と障子が核兵器奪取に向かう。

 内容から見ればシンプルだが、その中には何重にも保険と計略を張り巡らせている。そのどれかでも振武が引っ掛かれば良い。最悪自分たちが核兵器を手に入れるまでの時間稼ぎだ。

 

「それに、障子くんも役割があります。

 そのフィジカルを活かした活躍を期待いたします」

 

「……あぁ、勿論だ」

 

 少しずり落ち始めた魔女子をもう一度抱え直し、障子は先へと住む。

 その背中で、魔女子も目を閉じ、現在放っている使い魔と視覚を共有した。目の前に広がるのは、振武と焦凍の戦闘。

 空気の層が見えるほど熱を放っている振武の動きに、焦凍が翻弄されているのが見える。焦凍も身体能力に関しては非常に良いが、それでも振武に追いつくことが出来ていない。

 幸い個性のおかげでなんとか凌げているが、狭い空間でどこまで戦っていられるか。

 だが、それも想定内だ。

 一対一で、近接戦闘が禁止されていない状態での振武に、狭い空間では生み出せる氷塊の量も限界があるだろう。ビルを破壊するレベルの攻撃でも出来るのだろうが、そうすれば反則行為で強制終了もあり得ない話ではない。

 だがそれで十分。

 自分の知っている振武であれば、焦凍と同じくどこかで限界が来るはずだ。それを待つだけでも良いし、奥の手はすでに用意している。

 

「すいません、動島くん。本当ならお二人で戦っていただいて、さっさと蟠りを解いて欲しいところなんですが、」

 

 魔女子は少し申し訳なさそうにしながら、しかしその目の色だけは相も変わらず冷たい色を残し、

 

 

 

「今日はお二人の蟠り、利用させていただきます」

 

 

 

 障子に聞こえないように、小さな声で呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




み、峰田くんって意外と難しいね!

さて、振武くんと焦凍くんついに激突……なのかな?
魔女子さんは何やら色々策を巡らせているようですので、ぜひ次回もお楽しみに。


次回! 振武くんが長い物に巻かれちゃうぞ!! うどんかな!? ちょっと待ってて!!


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