plus ultraを胸に抱き   作:鎌太郎EX

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なんでこんなに更新が早いのかは、筆がのっている事もありますが、もしかしたら10月から書けない時期が更新速度を維持出来ない可能性があるからです。
出来るだけ早く体育祭編を皆さんにお届けしたいので、少し焦っておりますが、ストーリーは決まっていますし、文章のクオリティを落とさない(出来るだけ上げていける)ように頑張ります。
皆様、どうかお付き合いください。
それでは、本編をどうぞ!



episode6 予想を裏切る

 

 

 

 

 

 

 1位 A組 緑谷 出久

 2位 A組 動島 振武

 3位 A組 轟 焦凍

 4位 A組 爆豪 勝己

 5位 B組 塩崎 茨

 6位 B組 骨抜 柔造

 7位 A組 飯田 天哉

 8位 B組 泡吹 崩子(あわふき ほうこ)

 9位 A組 常闇 踏影

 10位 A組 瀬呂 範太

 11位 A組 切島 鋭児郎

 12位 B組 鉄哲 徹鐡

 13位 A組 尾白 猿夫

 14位 B組 泡瀬 洋雪

 15位 A組 塚井 魔女子

 16位 A組 蛙吹 梅雨

 17位 A組 障子 目蔵

 18位 A組 麗日 お茶子

 19位 A組 八百万 百

 20位 A組 峰田実

 ……………………。

 ミッドナイトの横に備え付けられているウィンドウには、42位までの上位陣の名前が記載されている。当然、これを見ている百も、横で見ている振武も含まれている。

 強いて言えば、自分が上位陣に入っていない事。2位と3位に入った振武や轟もそうだが、魔女子もまた、百よりも上の順位に入っている。

 悔しい。

 拳に力が入る。スタートは同じだったし、第一関門までは同じくらいの場所にいた。

 それなのに、

 

(私も、もっと轟さんや…………振武さんの近くに行きたかったのに)

 

 負けた事の悔しさよりも、何故かその事への悔しさが強い。

 自分は、もっと、塚井魔女子のように、動島振武に近づきたい。何故なのか、理由が分からない漠然とした欲求が、百の心の中には蠢いていた。

 

「そう言えば、百、お前峰田に引っ付かれてただろう? 大丈夫か?」

 

 先ほどのハイライトを確認したからだろう。振武は少し心配そうな表情でこちらに訊いてくる。

 普段であれば心配してもらえて嬉しいと思ってしまうのだが、今日ばかりはどこかそれも嫌な気持ちになる。

 ――塚井さんに対してなら、彼ももっと信頼して、そんな不安そうな顔はしないのに。

 その思いを振り払って、笑みを浮かべる。

 

「え、えぇ、心配ありません。さっき一発ぶん殴っておきましたから」

 

「なら良いが……つうか、意外とパワフルだな、お前」

 

 百の言葉に一瞬驚くが、すぐに笑顔を浮かべてくれる。

 その笑顔も、今は少し眩すぎて目を逸らしたくなる。

 

「さーて、第2種目よ!!

 私はもう知ってるけど〜〜〜……何かしら!!? 言ってるそばから、」

 

 第一種目の時と同じドラムロールと共に、画面に表示されたのは、

 

「コレよ!!!!」

 

『騎馬戦』という文字。

 

「騎馬戦……これまた、普通の名前だな」

 

「えぇ、個人種目ではないようですが……」

 

 画面を見つめる振武に同意しながら、百も不思議に思う。

 最終的にトーナメントに行く前段階、言わば第1種目が予選だとしたら、この第2種目は本戦、トーナメントは文字通り最終だ。

 そのトーナメント出場者を決めるのに、団体競技。勿論例年似たような競技を行いはするが、騎馬戦でどうやって雌雄を決するのか。

 

「参加者は、2人〜4人のチームを自由に組んでもらって、騎馬を作ってもらうわ!

 基本は普通の騎馬戦と同じルールだけど1つ違うのが……先程の結果にしたがい、各自にポイントが振り分けられること!」

 

 なるほど……百は受けていないが、入試と同じ方法らしい。

 

「ポイントを多く取った方が勝ちって訳ですわね」

 

「つまり組み合わせによって、騎馬のポイントが変わってくると!」

 

 百が呟いた言葉に、前の方で聞いていた上鳴が声を上げる。

 そうだ、そうでなければ障害物競走で順位を決めた意味があまりなくなってしまう。順位に応じて、ポイントが変化するというのは当たり前だ。

 

「あんたら私が喋ってんのにすぐ言うね!!!」

 

 自分のお株を取られたからか、苛立ったように鞭を振るうミッドナイト。だがすぐに冷静になって説明を再開した。

 

「ええそうよ!! そして与えられるポイントは下から5ポイントずつ! 42位が5ポイント、41位が10ポイント…と言った具合よ。

 そして……」

 

 ミッドナイトが鞭の持ち手をこちらに向ける。

 ……いや、微妙にズレている。その方向に目を向けると、

 

「1位に与えられるポイントは、1000万!!!!」

 

 表現し辛い、真顔を浮かべている緑谷出久だった。

 

 

 

「上位の奴ほど狙われちゃう――――――下克上サバイバルよ!!!」

 

 

 

「……あはは、そう来たか。流石だなぁ雄英。

 受難を与える事に関しちゃ、トップクラスだ」

 

「えぇ、そうですわね……」

 

 まるで獲物を見るような目で緑谷出久を見る他の人々。

 脂汗をかき、それでも拳を作って正面を向いている緑谷出久。

 そして――それをまた、別の意味で笑顔を作っている動島振武が見ていた。

 

「……振武さんは、やはり緑谷さん狙いですか?」

 

 さも当然だと思いながらも、一応話の種に訊く。

 1000万という膨大なポイントを持っている緑谷出久を狙わない理由がどこにあるだろうか。自分だって狙いに行く。それを手に入れれば、本選突破を首位で終える事が出来るのだから。

 誰だってそれを選ぶだろう。

 だが、

 

「う〜ん、どうだろうなぁ……ちょっと考えている最中、かな」

 

 振武は、どこか悩ましいと言った感じの笑みで、予想外の事を言った。

 

「……狙わないんですの?」

 

「いや、勿論最初に考えたのはそれだよ、一位を奪いに行くってのは、テッパンではあるし、取りゃ1位で通過は確実だろう。

 だけど、それはそれで他の奴のポイントを取れる絶好の機会だろう? まぁ、それ以外にも俺の戦い方にはちょっとデメリットあるからさ」

 

 考え込んでいる振武の表情は、まるでこれから楽しい戦にでも出る生粋の武人のそれだった。

 本人はそれほどではないと否定するし、普段はそんな姿は見せないのだが、こういう時にたまに振武は好戦的というか、それに近い状態になる。

 そんな時、百には少し遠い存在になっているように感じられた。

 

「制限時間は15分。振り分けられたポイントの合計が騎馬のポイントとなり、騎手はそのポイント数が表示された〝ハチマキ〟を装着! 終了までにハチマキを奪い合い、保持ポイントを競うのよ」

 

 15分。

 長いようで、短い戦いだ。

 その中で計画なしで戦えば、自滅する可能性さえある、微妙な時間。

 

「取ったハチマキは首から上に巻くこと。取りまくれば取りまくる程、管理が大変になるわよ!

 そして重要なのは、ハチマキを取られても、また騎馬が崩れても、アウトにはならないってところ!」

 

「てことは……」

 

「10組から12組の騎馬が、制限時間いっぱいまで騎馬がいるって事だよな……こりゃ面倒だ」

 

 振武の言葉は、まさにその通り。

 普通の騎馬戦ならば敵をドンドン倒していけば数は減っていき、本命にブチ当れる。だが敵を倒し、他の騎馬のポイントを根こそぎ奪ったとしても、奪われた騎馬がこちらに取り返しに来る可能性があるのだ。

 油断出来ず、ただ1組に集中するわけにも行かない。

 

「〝個性〟発動アリの残虐ファイト! でも……あくまで騎馬戦!! 悪質な崩し目的の攻撃などはレッドカード! 一発退場とします!

 それじゃ、これより15分。チーム決めの交渉タイムスタートよ!」

 

「15分!?」

 

 短すぎんだろ、という感じの誰かの声が響く。

 15分で交渉……確かに難しい。特に、緑谷出久は難しいだろう。何せ1番狙われる可能性がある存在だ。安牌を取るならば1番組んではいけない相手だ。

 

「さて……百、お前はどうしたい? 俺と一緒に組むか?」

 

 いきなり、振武はこちらに視線を向けた。

 どこか優しい目。

 今は真っ直ぐそれに応える事ができない。

 

「わ、私は……」

 

 正直、百はどうしようか迷っていた。

 チームを組むならば、振武は最適の相手だ。2位なので1位程ではないにしろ高ポイントを持っているし、彼の近接戦闘のスキルはこの騎馬戦に打ってつけだ。おまけに意思疎通は難しくない、入学してからずっと仲良くしているし、戦闘訓練では同じチームだった。

 何が出来て何が出来ないのか分かっている。

 ……だが、本当にそれで良いのだろうか、という思いがある。

 追いつきたいと思う人。だからこそ、ここで自分がついて行くだけでは、動島振武に頼っているだけになってしまう。

 塚井魔女子のような、対等な関係にはなれない。

 その感情そのものも、不確かな今、振武と一緒に戦って全力で動く事が出来るのだろうか?

 自分は冷静でいられるんだろうか。

 

「……なぁ、百。お前がこの2週間、なんかに悩んでるんだってのは知ってる」

 

 図星を突かれて、心臓が跳ねる。

 

「わ、わたくしは、」

 

「いやいやいや、んな衝撃的な顔すんなって、別に責めてる訳じゃないんだ。

 俺に相談出来ない理由もあるんだって……納得は、なんでか出来てないけど、理解はしているつもり。俺と一緒にいて、ちょっと気まずいってんなら、それはそれでしょうがない」

 

 百の動揺している姿を見ても、振武は揺らがない。

 優しい笑みを浮かべて話し続ける。

 

「だから、今ここで俺と組まなくても、俺は別に気にはしないよ」

 

 

 

 ――気にしてくれない、のか。

 

 

 

 なぜか小さな落胆が、百の心に棘のように刺さる。

 

「――どうする?」

 

 ――振武は、どんな時でも真っ直ぐで、思った事を言う。

 彼が言った言葉にはきっと他意はない。

 でも、他意はないからこそ、百は、

 

「……ごめん、なさい」

 

 深々と頭を下げた。

 

「……そうか、分かった。

 お互い、トーナメントに進めるように、頑張ろう」

 

 しょうがない。

 そんな言葉を表情にしたような複雑な笑みを浮かべて、振武は百から離れて行く。

 その姿が、胸を締め付ける、

 

 

 

「……私のこれは、本当に嫉妬、なんでしょうか」

 

 

 

 交渉が今も行われている雑踏の中で、百の声はあまりにも小さく、すぐに揉み消されていった。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 心操人使の個性は、〝洗脳〟である。

 自分の問いかけに答えれば自動的に洗脳スイッチが入り、その相手を意のままに操る事が出来る、発動型個性。相手が答えれば、それだけで戦いを終わらせる事が出来る個性。

 周りからは「悪い事に使えそう」「敵向きだね」なんて揶揄される、どうしても自分では好きになれない個性。

 だが、今はそれがあるからこそ、本選である第2種目まで来る事が出来た。ここで勝てれば、決勝トーナメントに上がれる。

 上がれば、自分の評価を改めてもらえる。

 そのような期待を込めて、心操はこの体育祭に挑んでいた。

 そして今は、騎馬戦で都合よく操れそうな人間を選別中だ。

 

「フィジカルあって、簡単に引っかかってくれる間抜けが良いなぁ」

 

 意のままに操れると言っても、複雑な命令は流石に心操も出来ない。普通科に通っているので戦闘経験がないのだ。現場での本格的な指揮が出来るような素養はない。

 だからこそ、単純に身体能力が高い人間を求めるしかない。

 

『……オ互イ、苦労シマスネ。身体能力ガ高クナイ者同士』

 

 だが、その思考も、人が話すにしては妙に違和感がある声に遮られる。

 

 いつの間に、と言う陳腐な言葉も出ないほど、その女は近くにいた。

 

 自分よりも小さな体躯と、水色の髪の毛。一見可愛らしいと言っても過言ではない容姿だが、その表情は能面でも被っているかのように表情が薄い。

 ……知っている。確か上位陣の中に混ざっていた、つかい、とか言うヒーロー科の女生徒だ。なぜ肩に鳥を乗せているのか分からないが、彼女の個性なのだろうと、心操は1人で納得する。

 

「……何の用だ」

 

 個性を使用しながら返事をする。

 これで、心操の個性は発動され、邪魔な女は消える。有用ならチームに加えても良かったが、自分が騎手になるしかないこの状況では、この小さな女では意味がない。

 洗脳スイッチが入ったら「どっか行け」とでも命令しよう。

 そう思って使った個性は、

 

『イエ、貴方ニ御提案ガアッテ参リマシタ』

 

 不発だった。

 

「なっ――」

 

 動揺で声が漏れる。

 自分が個性を使って不発だった事などない。それで第1種目だって突破出来たのだ。それを、この女は簡単に

 

『不思議デスヨネ? 方法ハ実ニ簡単ナンデスヨ?

 ――貴方ニ答エテイルノハ、厳密ニハ私デハアリマセン。肩ニ乗ッテイル九官鳥デス』

 

「――っ」

 

 そうだ、失念していた。

 この個性は、本人が口頭で答えなければ意味がない。目の前の女は九官鳥に代わりに喋らせて、自分の個性を意味のないものに変えた。

 いや、それ以上に――この女は、自分の個性の詳細を知っている。

 

「……なんで俺の個性が分かった」

 

『アハハ、アンナニ第1種目で連発シテイタノニ、気付クナトハ無茶ナ話デスネ』

 

 ――普通、あの皆ゴールを目指している場所で、そんな風に観察している奴はいないんだがな。

 そこはかとなく相手に嫌な感じを覚える。

 

「……で、どうするんだ? 個性を知ったからってどうにもならない。

 さっきの質問を繰り返すぞ。何の用だ」

 

 心操の容赦のない言葉に、魔女子の表情に一瞬だけ面倒臭そうな色が伺えた。

 面倒なのはこっちなのに。

 

『デスカラ、御提案ヲ。

 ――モシ良ケレバ、私トちーむヲ組ンデイタダケマセンカ?』

 

「……あんたと?」

 

 怪訝な顔を、さらに歪ませる。

 何故そんな事を言い出すのか、分からないからだ。

 そんな心操の様子を見て、魔女子は話を続ける。

 

『貴方ノ個性ハ強力デス。勿論、貴方ニ断ラレテモ大丈夫ナヨウニ考エテハイマスガ、貴方ヲ敵ニマワスノハ後々ニ禍根ヲ残シマス。ソレニ、最後ノ駄目押シニモ、有効デスカラ』

 

「……俺は保険扱いか」

 

『ソレデモ、有用デアル事ヲ認メ、脅威トシテ認メテイマス。搦メ手相手ニ労力ハカケタクアリマセン』

 

 只デサエ、正攻法デ行クト無理ガアル人達ヲ相手ニシナケレバイケナインデスカラ。

 九官鳥の言葉とともに小さく溜息を吐く魔女子は、どこか疲れた印象を受けた。

 ……まぁ、そこに関しては分からないではない。トップ集団を見ていれば、誰でもそうなるだろう。

 

「あんたも大変だな……あんな個性に恵まれている連中が相手じゃ」

 

『イエ……1人ハ、個性ガ関係ナイ所デ強インデス。ダカラ、厄介ナンデスケドネ』

 

 魔女子の言葉の意味がいまいち分からず考えている間に、九官鳥はさらに話す。

 

『ソレハ、ドウデモ良イデス。デハ、返答ヲ』

 

「………………分かった、あんたのチームに入る」

 

 少し考えてから、小さく頷く。

 そもそも個性の詳細を知られてしまった時点で、心操は魔女子に対して個性を使えない。相手は常に身構えているのだから。他のメンバーがどんな人間か知らないが、自分の個性の対応は徹底されるだろう。

 もしそれと正面からぶち当たれば、鈍重な自分では勝てない。

 だったら懐に入っておけば、逆に自分の個性の使い所を、下手をしたら自分以上に上手く使ってくれるかもしれない。

 相手はあの競争の中で、他の情報収集に徹した用心深く、思慮深い相手なのだ。

 それに、今ここで自分自身が騎手として1位を目指す必要性はない。

 『貴方ハ、決勝とーなめんとニ進メレバ、ソレデ充分デスモノネ』……。

 

「……お前こそ、俺の心でも読んでるんじゃないか?」

 

『ソンナ個性ハ持ッテイマセンヨ。チョット考エレバ解ル事デスカラ』

 

 そう言いながら、魔女子は身を翻した。

 

『他ノめんばート合流シマショウ、作戦ハ合流シテカラ擦リ合ワセマス。時間ハ有限デスノデ「その前に、1つだけ良いか?」……ナンデショウ。時間ハソウアリマセンヨ?』

 

「大丈夫、本当にたった1つだ。

 ……なぁ、なんで俺なんだ? 確かに自分で言うのもなんだが、対応が面倒な個性だと思うが……それでも、あんたはそれの対応策もあるじゃないか」

 

 答えない。

 それだけで、自分の個性は完封される。

 オマケに、自分の支配下に置いている奴らだって、ただ動くだけの奴らだ。対処しようとすればいくらでも出来る。

 それに、いや、それ以上に、

 

「……なんであんた、自分と同じクラスのメンバーとチーム組まないんだよ」

 

 わざわざ自分の知らない人間とチームを組もうと考える奴は少ない。

 実際周りを見渡せば、そこには同じクラスでチームを組んでいる人間ばかりだ。

 当然だ。騎手になるなら、その下の人間にそれなりの信用を置いて騎馬に乗らなければ行けない。騎馬は騎馬で、基本的に騎手の指示に従うのが自然な流れ。ならば、気心知れた相手の方が良いに決まっている。

 知らない人間に指示に納得させるのは面倒だし、知らない人間の指示に従うのに納得するのは時間がかかる。

 目の前の得体の知れない少女は、そのセオリーを無視した行動をとっている。

 

『……ナンダ、ソンナ事デスカ。マァ、隠ス事デモナイデスシ、ハッキリ言イマス』

 

 振り返った魔女子の表情は、

 

 

 

『――オ互イ、遠慮セズニ〝利用〟出来ルデショウ?

 其レ程仲ノ良イ相手デ無ケレバ、罪悪感ハ湧キマセンカラネ、オ互イ』

 

 

 

 驚くほど爽やかな笑みだった。

 

「……あんた、〝魔女〟みたいだって、よく言われない?」

 

 ふと、何の気なしに、ただ頭の中に浮かんだ言葉を、そのまま口に出す。

 するとどうだろう、意外にも彼女の笑顔が驚きの表情になり、そのまま、憂いを帯びた笑みを浮かべた。

 

『……タマニ、デスケドネ』

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 既にいくつかのグループが出来上がっていた。

 すでに焦凍は、チームを組んでいる。

 爆豪は、多くの人から人気がある。

 対して、出久は、

 

(どうするどうするどうする!?)

 

 必死で頭を回転させていた。隣には、心配そうにこちらを見ている麗日。

 先ほどまで飯田を説得していたが、彼は出久に挑戦すると言って焦凍の元に行った。

 周りは敵だらけ、こちらを(というか出久を)ハッキリと避けている状態だ。麗日が来ただけでも奇跡に近い。

 ポイント数はこの際関係ない。

 問題は自分が現在構築出来る最高のチームメンバーを選ぶ事。あとは自分の説得で相手を納得させる事。

 

(飯田くんの機動性はアテに出来ない。他に機動力がある人間は……ダメだ、そういう人ならば僕の誘いに乗らなくても他の人とチームを組む。だとするならば、麗日さんの個性を利用出来るチームメンバー、考えろ考えろ考えろ!……くっそ、うっかりしていた! 飯田くんに拒否される事を想定していなかったなんて!!)

 

 普段口に漏れる言葉を、麗日を不安にさせない為に必死で押し留め、頭の中で考え続ける。

 失念していた。

 この場では、全員が敵だ。

 誰もが緑谷出久(1000万)を狙っている。

 最初に分かっていたはずなのに、本当の意味で解っていなかった。

 オールマイトという存在(平和の象徴)を継ぐならば、こうなる事も想定出来るようにならなければ。

 ――だが、どうする?

 今の状況で誰が自分の話に乗ってくれる?

 今の自分は爆弾のようなものだ。確実に狙われる存在を抱え込みたいとは思わないし、保持し続けるより終盤に奪う方が、戦法として理に適っている。

 麗日のように理論を超えてしまった理由があるのならば別だが、出久に対してそんな理由を持っているような人間自体、そうはいない……どころか麗日が来ただけでも奇跡に近い。飯田の方が、ある意味の状況では理性的で、当然の選択のように思える。

 なら、どうすれば、

 

「よぉ、緑谷。チームは決ま……ってないようだな、案の定」

 

「っ――動島くん!?」

 

 迷っていた出久の前に、予想外の人物が出て来た。

 動島振武。

 真っ先にチームメンバーとして思い浮かんで――そして諦めたクラスメイトだ。

 確かに最強メンバーを揃えるならば振武は外せない。騎手にしても騎馬にしても、彼は出来る事が多い。フィジカルは言うに及ばずだ。

 最大の欠点があるとすれば……彼が2位だからだ。

 引く手数多だろう彼が、自分に話してくる理由はない。

 

「なんで、」

 

「理由は簡単だ。俺は友達が少ない」

 

(いきなりライトノベルのタイトルみたいな告白!!?)

 

 動揺したが口には出さなかった。

 

「え、そうなん!? ぼっちに全然見えへんのに!?」

 

 麗日は相変わらずあからさまだった。

 

「アハハ、明け透けだなぁ。まぁ、実際俺はそんなに交友関係が広くない。よく話す連中はクラスの中でも一部だしな。

 だが、頼れそうなメンツは皆他のチームに入っててな……口説き落とせなかったわ」

 

 百は最初に断った後、焦凍にスカウトされてチームに入っていた。焦凍が百を誘った事にも、振武は意外だったが、さらに意外なのはそれを百が受けた事だ。自分に頼るのはダメでも、焦凍とチームを組むのは大丈夫なのか……と落ち込んだ。少しだけ。

 かと言って焦凍のチームに入れてもらう訳にもいかなかった。2週間前からピリピリしている焦凍が、勝つ為とは言え、いや、勝とうと思うからこそ、振武を一時でも仲間として受け入れるとは思えなかった。

 魔女子にも当然声をかけたが、すでに彼女を騎手としてメンバーを揃えていた。そもそも魔女子は最初からこの競技で自分と同じクラスや親しい人間で組む気は無かったらしい。らしいと言えばらしかった。

 切島や尾白も誘ったのだが、どちらも断られた。彼らは彼らでもうチームを作っていた事もあるが、それだけではない。

 

『俺は動島にも挑戦してみてえからな! 試験からこっち、お前には圧倒されてばっかだしよ!!』

 

『俺はUSJで見た時から、動島とは手合わせしたいと思ってたんだ……だからごめん』

 

 2人とも自分の戦い方を見ているからこそ出た言葉だ。それ自体は嬉しいし、おう望むところだという感覚なのだが。

 

「それはまた……えっと、大変だったね?」

 

「そんな優しい言葉はいらない……。まぁ、半分冗談だ。実際他から誘いは受けたんだが、意思疎通の問題や、狙っている人間とは違ったし、それに――最初に百に断られた時点で腹は決まってた。チームメンバーを探してたのは確かだけど、」

 

 笑顔が浮かんでいた。

 どこかで見た事がある、オールマイトとも、他のヒーロー達の笑顔とも違う。

 それはそう――出久の幼馴染、爆豪勝己が見せる笑みのような、獰猛な、『何が何でも勝つ』という気持ちを前面に押し出したような笑み。それに近い。

 そんな笑顔を浮かべて、振武は拳をゆっくりと前に突き出し、出久の胸――心臓の上に、軽くぶつけた。

 

 

 

 

 

 

「そいつは、お前と組む為だよ、緑谷出久」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




今回のコンセプトは、取り敢えず原作とは違う組み合わせ、違う展開への予感なんかを作って行こうって感じです。雰囲気出せていたでしょうか。
勿論、原作と似ている展開もありますが、出来るだけ「ここでしか見れない体育祭編」を書いていきたいと思いますので、楽しんで頂けると幸いです。

そして、お気に入りユーザーして頂けている方はご存知と思いますが(お声掛けはしておりませんが、とても嬉しく思っています)、思いつきで一本だけ短編を書いてしまいました。
まぁ序章だけ、しかも設定はそんなに組んでいない妄想垂れ流し雰囲気だけ短編ですが、もしご興味ありましたら見て頂けると幸いです。かまたんのページからならすぐに見れますので。
ちなみにヒロアカとは毛ほども関係ありません。
一応違反ではないと思いますが、宣伝でした。ダメだったら言ってね☆


次回! 鉄哲が駆ける! 季節の変わり目だ!! 作者みたいに風邪引くんじゃねぇぞ!!


感想・評価、お待ち申し上げております。


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