plus ultraを胸に抱き   作:鎌太郎EX

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episode7 混戦

 

 

 

 

 

「麗日さん!!」

 

「っはい!!」

 

 左側の騎馬を務める麗日が、気合の入った返事をする。

 

「――常闇くん!!」

 

「ああ…」

 

 振武の後に誘われた常闇が、冷静な声で答え、右側の騎馬を務める。

 

「……動島くん!!」

 

「おう!!」

 

 ――前騎馬にいる振武の声に、出久は頷く。

 

 

 

「よろしく!!!!」

 

 

 

 こうして、戦いの火蓋は切って落とされた。

 

 

 

 振武は、自分の評価を正確に伝えるならば、騎手でも前騎馬でも出来るタイプだ。

 騎手であれば、近接格闘のスキルと個性で戦える。

 前騎馬であれば、瞬刹と踏空で機動性を確保出来る。

 もし重量をなんとか出来る方法が無ければ後者は難しかったかもしれないが、こちらには麗日がいる。それほど問題にはならない。

 しかし、騎手の場合。振武は全力を発揮出来ない。

 まず第一に、動島流は基本的に地に足を着けている前提で拳での打撃を放つ流派だ。震撃がそうであるように、足、胴、腕、様々な箇所が連動し、小さな力を何倍にも増幅する。

 そう、足。

 動島流の弱点は、足場がしっかりしていなければ、威力が半減するという点だ。

 空中で技を放っていたのはなんだったのかって? 簡単だ。あれは踏空でちゃんと空気(・・)を足場にしていたからだ。

 ところが、騎手になると、その足場は基本的に第三者がする事になる。フィジカル的に強い人間がやるならば話は別だが、出久でギリギリ及第点。麗日と常闇では論外と言っても良いだろう。

 しかも、振武と出久では、体重がはっきりと違う。身長、筋肉量揃って振武の方が上なのだから、それは必然と言えるだろう。だが騎馬として動く上で、負担は最小限の方がいい。

 今回のチームでは、振武が騎手を務めるのは建設的ではない。

 しかし前騎馬になってしまえば両手が使えないので、武術はほとんど機能しない。他の騎馬とぶつかり合う時に活かせるフィジカルと機動性だけ。

 普段拳を使っている振武の戦い方では、これもまた、旨味を殺してしまう部分は否めない。

 メリット、デメリットは両方ある。問題はどちらを取るか。

 それを振武は、――出久に託した。

 

「……良いの? 僕が決めて」

 

「お前だから良いんだよ」

 

 真剣な出久の表情を見て、振武は笑みを浮かべる。

 自分は、はっきり言えば戦闘で頭が回る方じゃない。個人での駆け引きならばさておくとしても、このような多くの敵と一定時間戦うための作戦を立てるのは、まだ苦手だ。

 克服しなければいけないが、一朝一夕でどうにかなるならば苦労しない。

 だから、出久に託した。

 分析力と、他の人間を出し抜ける頭の良さなら、出久は魔女子にだって劣らない。そう思ったからだ。

 ――そして、答えは出た。

 

 

 

 

『3…2…1…START!!!』

 

 プレゼント・マイクのゴーサインとともに、全員が動き始める。

 大半のグループが狙うのは――当然、緑谷出久のグループ!

 

「はっはっは!!

 緑谷くん、いっただくよー!!」

 

「動島、狙わせてもらうよ!!」

 

 葉隠を騎手としたグループと、尾白を前騎馬にしたグループが、スタートの声を聞いた瞬間にこちらに向かってくる。

 葉隠のチームには、口田、砂藤のフィジカルが強いメンバーを付け、耳郎が前騎馬になっている。

 尾白のメンバーは、後ろに青山と、B組の少しふくよかな少年が騎馬に。そして騎手には、

 

「フフフ、1位の人はお誘いする前にチームを組まれてしまいましたが、1000万を奪って目立てば、私のドッ可愛いベイビー達が目立つこと請け合い!! さ、行きますよ地味目の人!!」

 

「扱い酷くないかい!?」

 

 やたらと機械を付けた、ピンク色の髪の女生徒がついていた。

 

「あれは……誰だか知ってる奴いる!?」

 

 第1種目では先頭を基本的に走っていた所為か、他のクラスの人間を見ておく余裕がなかった。振武の言葉に、麗日が慌てて答える。

 

「さ、サポート科の子だよ! なんか、色々アイテム持ってる!!」

 

「ザックリした説明あんがとよ……でもそりゃ、ちょっと相手するには面倒だな」

 

 サポート科の生徒は、ヒーロー科の生徒などと公平を期す為に、自分の製作したアイテムのみ持ち込み可となっているのは、振武も聞いている。

 つまり、何をしてくるか。何が出来るのか分からないという事だ。

 

「追われし者の宿命(さだめ)……選択しろ、緑谷!」

 

「もちろん!! 逃げの一手!!!」

 

 常闇の少し厨二病的な発言に、緑谷はハッキリと宣言する。

 ポイントを取らなければいけない他のチームと違い、こっちはひたすら逃げる事がメイン。

 逃げて逃げて――ポイントそのままで通過する事。

 それが緑谷チームの方針。

 

「動島くん、お願い!!」

 

「了解――耳塞げ!!」

 

 振武の声と同時に、常闇の黒影(ダークシャドウ)が器用に麗日と常闇の耳を塞ぎ、緑谷は自分で自分の耳を塞いだ。

 振武はそれをする必要性がない。散々練習して、耳が慣れてしまった。

 

 

 

「a――G a A a A A a A A A a A a A A a !!!!」

 

 

 

 ――絶叫が、会場中に響き渡る。

 

「ギャッ!!?」

 

「んだコレ、耳が!!」

 

 襲いに来た葉隠、発目チームだけではない。会場中に響き渡った強化された絶叫は、どのチームに対しても、しゃがみ込みたくなる程の音の攻撃が、鼓膜を突き破ろうと言わんばかりの勢いで襲ってくる。

 ――それが、隙になる。

 

「――跳ぶぞ、麗日!!」

 

「はい!!」

 

 振武の言葉とともに、麗日の無重力(ゼログラビティ)の個性が発動する。

 麗日の個性を使えば、体重は麗日一人分のみ。

 それだけなら、

 

「軽過ぎるぐらいだっての!!」

 

 まるで、空に突然移動するかのように、振武の瞬刹が発動する。

 

「耳郎ちゃん!!」

 

「させません!!」

 

 葉隠の声と発目の声と同時に、耳郎のイヤホンジャックと発目のロボットアームが、空中に浮いた出久達のハチマキを取ろうとする。

 しかし、すぐに黒い影がそれを弾き、妨害する。

「いいぞ黒影、常に俺達の死角を見張れ」

 

『アイヨ!!』

 

 常闇に付き随う黒影は、外見からは少し想像出来ないくらい明るい声で返事をし、そのまま警戒に入った。

 

「すげぇな……こりゃ良いチームだぜ、緑谷」

 

「――うんっ!!」

 

 勝てるかもしれない。このまま逃げ切れるかもしれないという実感と嬉しさが、振武の声にも、出久の声にもこもっていた。

 

 

 

 ◇

 

 

 

「っ――おいなんだ今のは!? 俺の個性みたいな技だったぞ!!――俺の子か!?」

 

「妄言たれんなアホ」

 

 実況室で状況を見ているプレゼント・マイクと相澤にも、会場で鳴り響いた絶叫は届いている。

 実況室から競技が行われている場所まで、かなり距離が離れている。それでも聞こえるほどだ、競技をしている生徒達の耳にはきついものがあるだろう。

 と言っても、プレゼント・マイクの個性ほどではない。

 衝撃波を放つ程ではなく、弱い者なら別だが、鼓膜を酷使したとしても破れる程ではない。あれは案外頑丈なものなのだ。

 そしてその正体に、相澤は心当たりがあった。

 

「ありゃ、声帯と肺を振動で強化してやってる……まぁ、ザックリ言えば、でけぇ猿叫みたいなもんだ」

 

 猿叫とは示現流などの剣術で使われる、打ち込みの際の気合の声のようなものだ。ハッキリと叫ぶその独特なものに賛否両論あるが、ここでは割愛する。

 動島流にはその考えはあまりなかったが、あの流派は強くなれればそれで良いという考えなので、やっている人間もいない訳ではないし、音の感じはそれだった。

 それを声帯と肺を振動させる事でより大きくしたのだろう。用途は違うが。

 

「いやいや、出来るもんかよそれ!?」

 

「普通は出来ん。一歩間違ったら喉が潰れ、肺にもダメージがいくだろうな」

 

 肺と声帯にダメージを与えない、しかし最大限声を大きく出来る振動を見極めてやっている。

 攻撃能力がないので、相手の動揺を誘い、少しの足止めをするだけなのだが……それでも、この場では十分効果があった。実際全員、数秒だけでも足が止まった。

 

「……相変わらずのクレバーさだよ、本当に」

 

 窓の向こうにいる生徒達を見ながら、相澤は珍しく小さな笑みを浮かべている。

 出久をメンバーに選んだ振武の考えもそうだが、それを受け入れた出久もなかなかだ。おまけに騎手という分かりやすい振武の使い方を捨てて、小技と機動性で勝とうとしている。

 おまけにメンバーは麗日と常闇だ。

 麗日の無重力での、機動性の補助。

 常闇の黒影による全方位防御。

 組み合わせ次第で何倍も力を発揮し、その逆もあり得るこの騎馬戦で、なかなか良いチームだ。出久(1000万)というデメリットがある存在を中心にこれだけのメンバーが集まったのは、奇跡に近いだろう。

 

「――だが、これで勝てるほど甘くはない」

 

 チームバランスは確かに良い。前騎馬の振武は確かに強く、緑谷出久は頭がいい。それは相澤も認めるところだ。

 ……しかし他のチームも、相当強い。

 会場を見ながら、そう確信していた。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 そこは、幻想的な光景が広がっていた。

 泡の包囲網。

 まるでそこだけ風が1つもないようにシャボン玉が宙を浮いていて、2、3チームがその囲いに捕まっている。パッと見れば簡単に超えられる包囲網。

 しかしその泡の威力を知っているからこそ、そのチーム達は動けなかった。

 

「――〝バブルショット・シージ〟」

 

 その泡は、魔女子の左側騎馬を務める泡吹崩子の個性によるものだった。

 個性、〝凝泡(バブル)〟。

 指や唇から特殊な泡を生み出す液体を作り、吹きかける事でシャボン玉を生み出す事が出来る。そのシャボン玉の中には、周囲の空気が凝縮されて入っており、弾ければその威力は大きい。

 シャボン玉の威力は大きさによって左右されるものの、今周囲を取り囲んでいる物ならば、触れれば確実に騎馬が吹っ飛ぶ。

 ……ルール制限されているのは、あくまで「悪質な崩し目的での攻撃は禁止」だ。つまり、牽制に使っていればそれに触れる事はない。ギリギリではあるが、反則ではない。

 彼らには、足を止めてもらう必要性があったからだ。

 

「チッ、無理矢理行くしか――って、うぉ!?」

 

 強行突破しようと進もうとした前騎馬の体の上を、褐色の何かが一瞬で駆け上がる。

 体が自由に動かない前騎馬では、その姿を捉える事が出来ず、その姿を見たのは、騎手のみ。

 

「……リス?」

 

 ニホンリス。

 日本の固有種であるリスだが、そんな細かい分類など、騎手の少女には分からない。

 そして、それを考えていられる余裕もまたなかった。

 

「えっ――」

 

 あっという間にハチマキを奪い、泡の包囲網の小さな隙間を縫うように走って行く。

 そして、

 

 

 

「お疲れ様です」

 

 

 

 騎手である魔女子に手渡した。

 

「……おい、俺がいる必要あったのか?」

 

 このメンバーじゃ、特に役に立ってないが? と不満そうに右騎馬の心操が言う。

 

「言ったでしょう。敵にしたくないから味方に入れただけで、貴方はいわば保険です。出番がない方が良いに越した事はありません」

 

「――そいつは、俺もか?」

 

 前騎馬になっていた男――鉄哲が口を開く。その男もまた、釈然としないといった表情を浮かべていた。

 

「貴方は正面からのぶつかり合いをする際の要です。私が騎手では、まともな戦いになりません。貴方がカギです」

 

「んなことを自信満々に……俺と泡吹はなァ! テメェが勝てるっつうからここにいるんだぞ!?」

 

『私と組んでくだされば、決勝に残るように尽力します。貴方はA組に何かしら不満があるようですが……それを脇において戦うのも、ヒーロー候補として必要なのでは?』

 そういった魔女子の口車にのって鉄哲はここにいた。

 その根拠は、今左側の騎馬を務めている泡吹が真っ先にのったからだ。

 泡吹はぼうっとしているように見えるが、頭は悪くはない。頭に血が上りやすい鉄哲よりも冷静に状況を把握し、決断出来るタイプだ。

 それが信用できると思って組んだのであれば、信用しない訳にはいかなかった。

 

「分かっています、大丈夫ですよ。今は安全圏までポイントを確保しておきたいんです。貴方方も、1番は決勝に残ることでしょう? なら、無駄な戦いは避けるべきです」

 

 大きくポイントをとって決勝へ行く。

 点数としては大きい意味があるし、何より1位を取りたいという気持ちは否定しない。その向上心が試されているのも分かる。だがそれと同じくらい、それを冷静に見極めて、必要なものの為にそれを捨てることも試されているのではないか、と魔女子は思っている。

 それ以上に、上位陣は手強い。出久と振武のチームも焦凍のチームも、安定して高出力だ。気持ちとしては、焦凍と戦いたいが今はその時ではないと思う。

 爆豪のチームも厄介だ。先ほど見たら、爆豪が跳び回って他のチームのポイントを奪い取り、地面に着く前に瀬呂がそのテープで回収している。相変わらず戦闘センスは高い。

 

「勿論、ポイントが集中してくれば正面戦闘は避けられないですし、私自身辞さない覚悟ですが……あれらと当たるのは、まだ先でいいです」

 

 どうせ後半になってくれば、ポイントを取れる人間の数も少なくなってくる。

 その時に奪っても、遅くはない。

 

「泡吹さん、貴女の泡は放っておいたらどれくらい保つものなんですか?」

 

「ん……風や天気にもよるけど……今日なら、5分くらいかな」

 

 幸い、風は吹いてはいない。何かよっぽど大きな変化がない限り、あの包囲網は崩れないだろう。

 

「全時間の三分の一も身動きを止めていられるならば僥倖です。勿論、途中で崩される事も考慮しておきますが……では、他のポイントを取りに行きましょう。

 皆さん――抜かりなく」

 

 戦場をかける魔女の頭脳は、今も冴え渡っていた。

 

 

 

 ◆

 

 

 

 実際に動いてみるまで分からないものだと思う。振武は正直ここまでチームがスムーズに動くとは思っていなかったし、ここまで上手くお互いの出来る事が噛み合うとは思っていなかった。

 出久の頭が良いのは理解していて、作戦を任せるならば彼だとは思っていたが――。

 

「やっぱすげぇな、緑谷は」

 

 聞こえないように小声で呟きながら、踏空で空をさらに舞い上がる。

『振武くんには、前騎馬をやってもらう』。

 出久の言葉は予想通りだった。最初に予定していたのが飯田なのだ、それを補って余りある振武の機動力を、今回は必要としていた。

 しかし、それだけではない。

『動島くんは、……多分だけど、両手が塞がっても出来る事、結構あるよね?』

 その言葉には驚いた。いくつか隠している技能は、確かにあった。

 振武は基本的に拳で正面から戦うのが得意だし、一種のポリシーとして持っている。しかし状況によってそれを変えるのは、USJで脳無と戦ったのを見て知っているのだろう。それでも、すぐにそっちに意識が行くとは。

 自信ないのもいくつかあるぜ? 良いのか?

 振武がそう言えば、

『うん、取り敢えず、時間が許す限り教えて欲しい。この状況で使えるものがあるかもしれない』、そう返された。

 ……その真っ直ぐな視線に負けて、結局結構な所まで話してしまった。

 一応、何かあった時用に隠している事まで。

 

「黙ってるつもりだったけど……まぁ、いっか」

 

 ここで勝てなければそれも意味はないのだから。

 

「うっし、麗日、任せた!」

 

「うん、着地するよ!」

 

 振武の合図とともに、麗日が丁度良いタイミングで個性を解除し、地面に降り立つ。多少の衝撃を感じるが、それほど苦には感じない。麗日の個性を解除するタイミングが抜群なのだ。

 残り時間いっぱいまで瞬刹と踏空で上空に逃げていれば楽ではあるが、15分間ずっと踏空を使っていたらこの後足が使い物にならなくなる。怪我や云々ではなく、疲労でだ。

 リカバリーガールがいるとしても、流石に疲労では治せない……し、この前のように説教されたらたまったものではない。それに、決勝トーナメントにも支障が出る。

 

「とりあえず、このままポイント保持で逃げまくる。それで良いな?」

 

「うん、僕達は逃げ続けてポイントを保持する。」

 

 聞こえてくる凛とした声に、自然と振武の顔に笑顔が浮かぶ。

 さっきまでは「何故?」と顔にはっきり書いてあるくらい不安そうだったのに、今では完全に振武を信用し、その背中に重さを預けてくる。

 

『何で、僕なの?』

 

 そう言った出久に、笑顔で答えた。

 

『お前と組んだ方が、1番面白くて、勝てそうだったからだ』

 

 クラスメイトも含めた参加者全員が自分達の敵……こんな経験はそう出来ないだけじゃない。自分が今までちゃんと関わってこなかった人間とも競い合う事が出来る。

 そして出久はこの状況で、こういう危険な状況でこそ勝ちを確実に広いに行けるタイプだと踏んだ。

 原作主人公だから?

 オールマイトの後継者だから?

 違う違う。

 

 

 

 土壇場での根性が違うからだ。

 

 

 

 焦凍も爆豪も、そして振武もそこは負けていない。

 自分達が根性がないわけじゃない。

 緑谷出久の根性が凄いだけなんだ。

 卑下でも何でもない、事実だ。

 だから、アドバイスをしたくなった。

 

「なぁ、緑谷、お前まだ個性の調整出来てなかったよな?」

 

「え? あ、うん、そうだけど、」

 

 足を止めず、常闇と麗日を引っ張りすぎない速度を維持しながら、後ろに話しかける。

 のちのち敵になるかもしれない人間に塩を送ろうなんて、馬鹿な話だけど……これはこれで、悪くない。

 

「お前の個性は単純な増強型だ……緑谷、力ってのは流れるもんだ。堰き止めたりするもんじゃない。力を出し過ぎないように、何て考えてりゃむしろ出ないか出過ぎるかの2択になる」

 

「動島くん、何を、」

 

「お前のは発動型だしピンと来ないかもしれないけど、力ってのは出してなきゃ0になるもんじゃない。常に体の中で流れ続ける。出口が無くて体の中で循環しているだけ。止まるなんてことはありえない。

 ようは、それを無理に制御しなきゃなんて思うから暴れられる」

 

 川の流れを無理に止めようとすれば、川から水が溢れる。溢れた水は無為に消え去り、むしろ川の周りを傷つける時だってある。

 出久の出力は鉄砲水のようなものだ。川を無理やり削り取りながら流れる力の奔流に傷つけられている。

 

「だから緑谷、個性使う時、一度深呼吸しろ。一度だけで良い。

 それだけでも、随分違うはずだ」

 

 力は制御するもんじゃない、出口に自然と導いてやれ。

 

「動島くん……」

 

「悪い、競技中に喋り過ぎた、今は勝つ事に集中だ!」

 

「――うん!!」

 

 今はお互いの顔が見えない。

 見えていたら困る。こんな上から目線の助言なんて面と向かって出来るはずもない。

 今この瞬間、お互い顔を見なくたって戦える仲間だから、出来る事だった。

 ブニッ。

 そうそうブニッと……ん?

 足に奇妙な違和感を覚えてピタリと止まる。

 下を見れば……見慣れた黒い球体。足を多少引っ張っただけでは取れそうにもない、嫌な接着力。

 

「こいつは、」

 

「峰田くんの個性!?」

 

 いったい、いつ、どこから放ったんだ。

 

「ふははは、こっちだよ緑谷ぁ、動島ぁ」

 

 声がした方を向くとそこには、――障子がいた。

 彼の複製椀がまるでテントのように自身の背中を覆っている。

 

「障子1人……じゃ、ねぇ!?」

 

 その隙間から覗いているのは、いつも以上に殺伐とした眼をしている峰田の姿だった。

 

「なっ、それアリィ!?」

 

「アリよ!!」

 

 理不尽だと言わんばかりの麗日の声に、代わりにミッドナイトが答える。

 主審がアリというのであればアリ……なんて自由極まりない騎馬戦。

 

「そう言えば、2人でも良いっつってたもんな――っ、緑谷、避けろ!!」

 

「っ!!?」

 

 呆れ顔を浮かべていた振武の叫びに、刹那のタイミングで緑谷が身を低くする。それが良かった。もし横に避けるなんて事をしていれば、ハチマキを取られていた。

 ――障子の腕の陰から出てきた、長い舌に。

 

「ケロケロ、やるわね、動島ちゃん、緑谷ちゃん」

 

「蛙吹さんもか!! 凄いな障子くん!!」

 

 小さい峰田と女性である蛙吹とは言え、2人を抱えて騎馬として機能しているのは、流石のフィジカルだ。身体能力だけならば振武よりも上だろう。

 

「さぁ動島ぁどうする? これで嬲り殺しだぜぇ」

 

「峰田、爆豪の敵っぽさうつってないか?」

 

 敵というよりこれから女性を襲う性犯罪者の目をしている……いや、それはいつもの事だ。

 

「生憎だな、このまま嬲り殺しにはなんねぇ――よ!!!」

 

 峰田の個性である球体に捕まっている足に、一気に振動と力を流し込む。

 瞬刹の時とは違う。むしろ踏鳴に近い力と衝撃を、そのまま――峰田の球体に集中させる。掛かる力は大きい。本来であればそれだけでコンクリートの地面を砕ける威力が一点に集中すれば、

 いくら峰田の個性でも――風船のように弾け飛んだ。

 

「なっ、――割れるの!?」

 

 流石に峰田も破られた経験はないのか、衝撃を受けている。

 

「麗日、跳ぶ!!」

 

「っ、はい!!」

 

 麗日の声とともに、自分の体が軽くなったのを確認し、空に一気に跳躍した。

 

「峰田、お前は取り敢えず後でぶっ倒すから覚えとけ!!」

 

「ちょ、おいらだけ名指し!?」

 

「当たり前だ!! てめぇ百のケツにしがみ付いてゴールしたの知ってんだからな!!」

 

 空中に浮かびながらそう言って、振武は先ほど峰田の個性のついた靴を見る。割れて効果を失っているのか簡単に離れられた……勿論、あの球体一点に力を込めて放てる人間はそうそういないので、弱点ともカウントされないものだが。

 

 

 

「――調子乗ってんじゃねぇぞ、クソが」

 

 

 

 襲来したその声は、普段よりずっと静かな――しかし、ずっと獰猛な声だった。

 手で生じさせた爆発で飛来し、獲物を見るかのような血走った目。

 

 

 

「――勝負だ、クソ吊り目、デク!!!!」

 

 

 

 爆豪勝己だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




峰田くんの個性の解釈は完全な独自設定です。
彼の個性の攻略法って「触らない」以外に方法がなかったものですから、ツッコミは控えてくださると幸いです。
さて騎馬戦本格的に始まりました。正直に言えばこの競技関係って描写するの大変ですね! 一対一とかの戦闘描写の方がまだやりやすいんだと気付きました!
さて、これ一応3話で終わらせたいと思っているんですが……無理かな? 無理そうかな??


次回! 物間くんが逆鱗に触れるぞ!! 誰のかな!?


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