無数の鳥が空を飛ぶ。
撹乱、防御に創り出した鳥達から来る痛みは微細なものだ。
しかしそれも塵も積もれば山となると同じように、寄り集まれば激痛になる。その痛みを表に出さず、物間と残り2チームの手から必死で逃げる。
「っ、おい、まだか、塚井!!」
鉄哲の焦った声が聞こえる。
「――まだ、」
必要な情報は揃えた。
準備は万端。
後は、――全ての騎馬がこちらに向き、取りやすいように並べるだけ。
そうなるように、そう動いてくれるように、鳥の群れを操って誘導する。適度に攻撃を加えている所為か、こちらを狙っているチーム達は思った通りのこちらに向かっている。
「もう、ヤバい、」
泡吹の息苦しそうな声が聞こえる。
「――――まだ、」
もう数センチ。
それで形は完成する。
もう少し、もう少し
「おい、塚、井、」
荒い息の心操の声が聞こえる。
――出来た。
「――今です、心操さん」
魔女子のその言葉に、心操はまるで最後の力を振り絞るように口を開く。
「――小大唯! 角取ポニー!! 物間寧人!!!」
「――え、」
「なんで、」
「なっ!?」
反応は三者三様。
だがその反応だけで、心操には充分だ。
3人の動きが、体を震わせて静止する。
時間は一瞬、
魔女子が取るか?
――そうではない。それでは時間がかかるし、すでに魔女子自身も限界だ。取れるのは1人分くらいなものだろう。
だから、
「フフフ…了解です、動物の人!!」
物々しい駆動音とともに、マジックハンドが動き――物間の首と頭に付いていたハチマキを奪取する。
「っ――な、なんで、!!」
洗脳からいち早く解けた物間の絶叫が響く。
――なんで? 答えは実に簡単だ。
最初からあの鳥の群れの中に、1羽だけ九官鳥を紛れ込ませていただけ。
自分のハチマキが残っていて、尚且つ自分に注視しているからこそ無視している存在――この条件に当てはまった発目チームを説得し、ポイント山分けで手を打って協力させた。
発目が取りやすいように誘導し、動き、その中で騎手の名前も把握する。
知らない人間からフルネームで呼ばれるなんて動揺するだろう。特に何かに集中している時は。だから心操の個性に簡単に嵌ってくれた。
自分達に注視し、心操の洗脳で防御が出来ないところに、発目がハチマキを奪う。
そして、最終的に、
「まっ――!?」
物間はすぐに騎馬を動かそうとするが、それも出来ない事が分かる。
周囲には、無数の泡。ハチマキを取っている間に作った泡の檻。
小さな隙間しかないそれは、騎馬で抜けられるような単調なものではない。
そこまで計画していたのだ。
狙われた時点で、こうなるように考えていた――物間がお喋りだったのが、今は非常にありがたい。
もっとも、
「お礼を言う気は、さらさらありませんけどね」
魔女子はいつもの感情の薄い顔で、小さく呟いた。
最後の仕上げは、――
「やぁやぁ、動物の人! お誘いどうもです!!」
発目の騎馬が近づいて来る。
前騎馬には自分もよく知っている尾白が、小さく笑みを浮かべて会釈していた。彼が発目のチームに入っていたからこそ共闘できたと言っても良い。
むしろ魔女子はこちらに感謝したいくらいだ。
「……お手伝いありがとうございます、発目さん。貴女のお陰で抜けられました。尾白くんも、援護ありがとうございます」
「いえいえ、これで私達、揃って決勝進出ですね!!」
「いや、良いよ。動島に逃げられちゃったのはあれだけど、次で戦える可能性が出来たんだから、こっちも嬉しい」
発目は上機嫌だ。物間の稼いだポイントは数多く、2組で分け合っても充分通過可能だろう。
だから、別に魔女子もこのままで良い……良いのだが、
「――すいません、発目さん、尾白くん。あとで謝罪はしますので」
「は?」
「え?」
発目と尾白の、どこか間抜けな声をBGMに、
魔女子――正しくは、最初から発目の騎馬の後ろに隠れていたリスは、発目が取ったハチマキと発目自身のハチマキを取った
「これも戦の習いです。食事でもなんでも奢ります」
――残り時間は数少ない。ここで2組も上位に立って仕舞えば、点数的に現在4位の焦凍チームが本戦に出場出来ない可能性がある。いや、その可能性が強いだろう、と魔女子は踏んでいる。
爆豪はさておき、焦凍は振武に対して冷静ではいられない。つまり、どこかで隙を突かれ、負ける事はないにしてもハチマキを取ることは出来ないだろう。
だから一番の理想は、物間が立っていた2位に自分達〝だけ〟が収まることだ。
だから、
「……ごめん、なさい」
自分は、酷い事をする。
皆必死に頑張って、真っ直ぐに戦っている状況に水を差す。
騙し、誘導し、奪い取る。
汚い。
こんな方法は個人的に嫌いだ。好きな人間は敵なんじゃないか?
――だが目的の為には、どうしても必要な事だった。
「……お前、バカって言われないか?」
鉄哲は、静かな声でそう問いかける。
彼の性格ならば自分を罵倒するだろうと思っていたのに、その声は本当に静かだ。
何かに勘付かれたのか。こういう根性のみで生きている人間は、時々聡いから。
「……たまに、ですけどね」
魔女子は小さく苦笑を浮かべて答えた。
◇
『力ってのは、流れるもんだ』。
振武はそう言った。
出久のイメージに合わせるならば、それは『電気』だった。個性とは、電子レンジで、自分の体は卵だと思っていた。
――そうじゃない。
『ワット数を下げる』。
オールマイトも言っていた。
電気というのは別に電化製品のスイッチを入れたから突然発生している訳ではない。普段からそこに存在する。電流はそれこそ普段使っている電化製品の何倍もの力があるが、変圧器などを使用して家庭に供給している。
そう、変圧器。
つまり自分は――、
「――準備は良い? 皆」
「あぁ、」
「う、うん、」
「…………」
騎馬の全員に確認をする。
常闇は真剣な表情で頷き、
麗日は不安そうに返事をし、
振武は無言で小さく頷いた。
逃げながら用意した策はそう難しいものではない。もしかしたら突破されるかもしれない。
それでも良い。これはあくまで逃げる為の作戦だ。防御されたならされたで良い。その一瞬の中を。逃げ切れば良い。
出久達の戦い方は他のチームとは違う。地位を奪うのではなく地位を守る事だ。それはおそらくデビューしてからずっとオールマイトがしてきた事だ。
それを継ぐ自分は、
ここで、絶対に引いてはいけない。
「――行くよ!!」
出久の言葉を合図に、騎馬の足が動き出す。
最初から全速力。体力温存は考えない。ここで包囲網を突破出来れば、逃げ切れる。隙を立て直すのにも時間が掛かり、他のグループもいる中に突っ込んでいけばそれほど難しい事ではない。
配置は最初と同じ。
正面右寄りに焦凍チーム。
左には爆豪チーム。
逃げ切れる。
逃げ切る。
「っ――クソデクがぁ!!!」
爆豪が怒声を上げながら、空中に舞い上がる。
その顔に、余裕も油断も存在しない。
『お前を倒す』。
ただ純粋にそれしか考えていない瞳。
少しだけ視線を焦凍チームに向ける。
個性で槍のような物を作っている百。
それを防ぐ為に動く常闇の黒影。
いつも以上の加速で、こちらも想像出来ないほど早く動く飯田。
氷結の準備をする焦凍。
――そして、それに対して一切動じない、振武の背中。
深呼吸を、一度だけする。
――力を塞きとめるのでもなく。
――制御しようとするのでもない。
――ただ絞れば良い。
――強過ぎる電圧を、自分の体に合ったソレに。
今まで出来なかったはずのそれは、まるで体に最初からあったかの様に馴染む。
まるで熱した鉄が体を通り抜ける様な、暴力的な力だったのに、今では自分を包み込む様な熱が体を支配する。
個性が全身に漲っているのが、分かる。
「行くよ、かっちゃん」
腕をふるった。
はっきり言えば、それは今まで出したどんな力よりも弱いものだった。100%の力で放つデコピンよりも尚弱い。自分に似合った、頼りない威力。
だがそれは、少なくとも、
「はっ――あ?」
空中にいて、さらにそんな攻撃を放たれると想定していなかった爆豪の姿勢を崩し、遠くへ飛ばすのには充分な威力を持っていた。
小さな拳、小さな力で巻き起こった風が、爆豪をほんの少しだけ押した。
◆
小技・大技含めて行けば、振武はかなり芸達者な部類なのは確かだった。
あらゆる状況に対応する。
その為に様々な技を作って行く。そういうのが楽しいという事以上に、必要な事だと思ったからだ。
勿論、1人の人間。1人の力。1人の個性で出来る事は高が知れている。どんなに上手い事個性を使おうが、振武の個性は発動型のそれ。
単純な増強型である出久とは違う、万能に秀でている百とも違う。
そして状況が限定されればされるほど、出来る事はドンドン減って行く。
両手と背中には仲間を背負い、相手をする
出来る事はなんて限られる。
だが出来る事はある。
「させませんわ!!!」
百の声とともに、まるで枝葉の様に別れている槍が襲ってくる。
騎馬を崩す事が出来ない以上、メインで狙っているのは出久――だが、それも叶わない。
「黒影!!!」
闇をそのまま切り取ったかの様な生き物。黒影が、素早く、音もなく百の攻撃を防ぐ。攻撃力はないものの、通常の生命体ではない黒影は突き刺された事を物ともせず、攻撃を防御する。
「――行くぞ、動島くん!!!」
飯田のエンジンとなっている足が火を噴く。
レシプロバースト。
彼が誰にも秘密にしていた、ある種の必殺技。暴力的な加速は、お互いの間合いを瞬時に詰めるのに充分な速度だ。
――しかし振武は、
一回だけ、強く麗日の手を握る。それが合図。
体の重さを感じなくなるのに、1秒。
顔を上げる。
必死な顔の焦凍が見える。
自分が1番になる。証明する。
ただそれだけを信じ前に進んできた男。
振武の友達。
それに振武は、
まるで警告のような鋭い殺気を飛ばし、
◇
世界がブレる。
焦凍は高速の動きに慣れてはいない。しかしその卓越した動体視力は、ちゃんと出久チームの動きを捉えていた。
出久は爆豪を注視している。
ハチマキを取る。
ただそれだけで、1位になり、――動島を決勝トーナメントから消せる。
いつまでも、目の前で自分を阻む邪魔な奴を、ここで完全に潰す。
それが、今の焦凍の頭の中を支配していた。
冷静な判断能力はそこにはない。
――だから
「――っ!!?」
顔の下から迫ってきたそれ。
まるで弾丸のように迫ってきたそれを焦凍は、
左側の炎熱で叩き落としていた。
完全な無意識。
強い殺気。これを防がなければ、自分は倒される。
無意識から来る恐怖で、焦凍の炎熱が勝手に反応したのだ。
「――な、」
一瞬なにが起こったか分からず、呆然と炎の中にある飛んできたそれを見る。
氷。
鋭くはない。まるで石ころのように丸い氷の塊。
どこから、何故。
疑問が頭を掠めたが、なんて事はない。
それは焦凍自身が生み出したものだった。
――逃げ回っている間に用意したのか。
――だがどうやって飛ばした。
――
――自分に攻撃する人間なんて、
「――あ、」
視線が、少しだけ下に行く。
自分たちの横をすり抜けて行く出久チームの騎馬が目に入った。頭の回転が動揺で早まっているのか、その動きはまるでスローモーションのように緩やかだ。1人1人の表情がはっきりと見える。
必死な麗日と出久。
皆を守る常闇。
そして――何故か口から血を出している、振武の姿。
「――お前が、」
お前がやったのか?
そう口に出そうとして出せなかった。
動島振武がこちらに気づいて、――微笑んだから。
「――動、――島――振武!!!!」
ただ名前を叫ぶことしか出来ない。
怒りは溢れて止まらない。
――彼の妄執は、まだ終わらない。
◆
原理はそう難しいものではない。
猿叫と同じ、呼吸器を振動させ、肺活量を上げた。出し方は鋭くし、相手に息を勢いよく吹きかけるようにして口の中に入っていた氷の塊を飛ばす。
ただそれだけ。
本当は暗器を飛ばすのが本流――動島流隠密術の技だった。あれは「適性なし」と祖父に判断され、自分も好きな戦い方ではなかったので学ばなかったが、この技だけは面白くて練習した。
実戦で使う気はなかった……何せまだ隠している技と同じ「練習不足」だ。威力はあまりなく、おまけに肺は痛いし口を思いっきり切って血が出ている。
だが、抜けた。
「動島くんも、デクくんも凄い!!」
麗日の歓声が背後から聞こえる。あまり話した事ないからあれだが、出久の方への感動の方が強そうだ。
「強き者の矜持……守り抜いたな」
「お前、そういう喋り方しか出来ないのかイタタタタ」
相変わらずの常闇に言い返そうと口を開いたが、口の中の傷がしみて上手く話せない。痛みに耐性はあるが、口の中の痛みは耐性がある人間でもきついものがある。
「……動島くん、制御、出来た」
出久の言葉は短い。
まだ実感が湧いていないのだろうか、喜びよりも困惑の方が強い。
「……そっか。感覚、覚えておけよ」
振武もそれしか返さない。
出久は尊敬している。仲間でもある。
けどそれだけだ。それ以上手を貸すのは、この状況では失礼だろう。
もしかしたら、この先、
『TIME UP!!!!』
戦う事になるかもしれないのだから。
◇
1位 緑谷チーム
2位 塚井チーム
3位 爆豪チーム
4位 轟チーム
「こいつは、ちょっと予想外の結果だったなぁ」
教員用の観客席で見ていたオールマイトは小さく呟く。
オールマイトは、今回の体育祭で出久が活躍するとは思ってもいなかった。
期待していないとかそういう事ではない。単純に彼にはこのような場は向いていないと思っていただけだ。誰よりも人を守ろうと努力する彼が他者を傷つける事が出来るのか、という点がネックだっただけ。
だが実際は、自分が想像していた以上に必死に戦ってくれていて、おまけに結果は上々。
第1種目では他の実力者を出し抜いていたし、
第2種目では、あのタイミングで個性を制御してみせた。
想像以上の結果、とは比喩表現ではなくそのものズバリ。
「……動島少年がいい影響を与えたのかな?」
一緒にチームを組んだ動島振武……いや、動島流は、力のコントロールに関して言えばエキスパートと言ってもいい。
筋力などの身体能力から、個性の操作まで。
力に関する事であればどこの武術よりも上位に立った流派。しかも、個性なしでも強い(というよりそれそのものが個性であるかのように強いのだが)が、個性があればさらなる強化が認められている。
彼が何かアドバイスをしたのか。
「……縁ってのは馬鹿に出来ないよね、本当に」
……出久、自分、先先代。
動島という名字を持つ者との関係性は不思議な事に繋がっている。それは強烈な繋がりではないし、動島はあまり表に出てくる存在ではないが故、他の者には分からない繋がり。
出久も振武も知らないだろう。
「動島少年と緑谷少年の正面衝突……あり得そうなのが、また怖いよなぁ」
本当は当たって欲しくはない。
出久を信頼しているものの、振武と出久の力の差は大きい。単純な強さもそうだが、経験値だって違う。
何年もの歳月をかけて磨かれた武を持つ少年。
数ヶ月前まで無個性で、戦った事もない少年。
どちらも才能がある前途有望な若者で、この先は分からないが、今の段階での差は大きい。
「……何が、」
何が出来る。
きっとあのナンセンス界の星は、また自分で落ち込むような事を考えているはずだ。それを元気付け、背中を押すのは、師である自分の役目だろう。
「どうやって元気付けてあげれば……む!?」
ポジティブな言葉を考えている最中に、懐に入れてあったスマホが震える。そう言えば集中する為にマナーモードにしていたのを忘れていた。
懐からそれを取り出し、表示されている番号を確認して――驚く。
え、なんで、どうしてこのタイミング!?
心の中でもう1人のオールマイトが叫んでいる……が、待たせていてはいけない。そう思い、タップして通話を繋げる。
「……お待たせいたしました、オールマイトです」
『やぁ俊典くん。2週間ほど前に電話を頂いたきりだったね』
スピーカーの向こう側から老齢な、だがしっかりとした声が聞こえる。
電話越しでも姿勢が正されるような、そんな声だ。2週間前に電話をした時も思ったのだが、昔よりもずっと柔らかげな声だ。
昔はもっと……いや、やめよう。思い出しただけでトラウマが蘇る。
「ご無沙汰しています。どうされました、師匠から連絡を頂くとは思ってもいませんでした」
『だから私は君の師匠ではないんだがな……まぁ良い。
いや、大会をテレビで観させて貰っていてね、それで電話したんだ。忙しい時に済まないな』
電話越しでも柔和な笑顔が浮かぶほど静かな声。
だが怖い。
むしろ怖い。
「ほ、ほう、それでお電話頂けたんですか。お孫さんはだいぶ頑張っていますよ」
『あぁ、そうだな。よく頑張っている。だがここまでは私だって考えていた。別に特別意識するほどではない事だよ』
――動島流宗家の人間は基本的に求める要求度が高すぎる。
それが動島流を強く保たせている要因ではあると同時に、動島流がこの超人社会で目立たない原因だ。ある程度の結果は、「出して当たり前」なのだから。
自身を高める上では良いが、それに付き合うと常人は保たない。
特に――この動島振一郎は顕著だろう。
「で、ではどのようなご用件で……」
恐る恐るオールマイトが聞くと、ふむ、と振一郎は一拍置き、
『振武と組んでいた、緑谷出久くん、――あれは、君の弟子だね』
あっさりと聞いてきた。
「……やはり気付かれましたか」
『別に戦い方や個性で見極めたわけではないがね……あの目は若い頃の君にソックリだ』
折れそうなほど真っ直ぐに、誰かを助ける。
その気持ちだけで前に進んでいた十代の頃のオールマイトを知っている振一郎には、あの姿は重なって見えた。
『……そんなに、傷は深いのかい?』
振一郎の言葉は、珍しく慎重だ。
オールマイトは苦笑を浮かべる。
「1年、保たないかもしれません」
『……すまない。私がもう少し手助け出来ていれば、』
「師は悪くありません、私の不徳の致すところです」
自分が強ければこんな状況にはなっていなかっただろう。
他の誰も悪くはない。
それは確かな事だった。
『君は……全く、そんなになっても相変わらずか』
「すいません」
『謝るな阿呆。良くやったよ、君は』
――昔は、それほど褒められることはなかった。むしろ電話の向こうにいる師匠からは怒られてばかりだった。
1人はどちらかと言えば励ましを大事にする人だったし。
もう1人は問答無用で殴ってくるような人だった。
オールマイトに本気で説教というものをしてきたのは、後にも先にもこの人だけだったように思える。
『……弟子の育て方に困った時は相談してきなさい。いつか、私にも会わせてくれよ』
「えぇ、それはもう。緑谷少年には、貴方のような人にも会って貰いたい」
超人社会の中にあって武の極致に到達している人間の言葉は、一言一言が重い。きっと出久にも役立つ事があるはずだ。
オールマイトの言葉に、あぁ、とだけ、だが嬉しそうな声を出す。
『あぁ、そうだ。私が電話をしたのはね、これだけではないんだよ』
「はい? 他に何かありましたか?」
『いや大した事ではないんだがね……グラントリノが『9代目は俺が鍛えるからヨロシク』だとさ。全く、あいつも自分で電話すれば良いものを、私に散々文句を言って伝言を頼みおった』
――全身の血が逆流する感覚がした。
「え、グラントリノ、なんで、」
『あいつも中継を見ていたようでね。何故俺に連絡してこないんだあのバカ俊典はと酷い剣幕だった。恐らく、何かの機会にぶっ飛ばされるから、覚悟しておくように』
「ちょ、師匠!?」
『私は君の師匠ではない……じゃあ、今度は本当にお茶を飲みに来なさい。ではな』
無情にも、ツー、ツーという電話が切れた後の音が、オールマイトを追い込む。
「……おーまい、ごっど」
はい、騎馬戦終了です。
加速感って結構難しいですね……文章力が欲しい。
さて、これで次回から決勝トーナメントです。どうかお楽しみに。
次回! 峰田くんが怖そう! 大丈夫かな!?
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