plus ultraを胸に抱き   作:鎌太郎EX

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体育祭 トーナメント編
episode1 友達


 

 

 

 

「いは、いはいいはいって」

 

 ……振り返ってみれば、怪我をした人間は第1種目、第2種目を通して振武だけだった。

 大した怪我はない。切り出した氷のどこかが鋭かっただけ。それを勢いよく吹き出せば、切れるのは当然だったし、痛いは痛いが我慢出来ないほどではない。

 だが、もし大きな怪我だったならば……そうチームを組んだ彼らは思ったのだろう。常闇はあれで淡々と事実を述べる人らしく「もし何かあれば、俺達は俺達を許せない」などとこれまた大仰に言い、出久と麗日は純粋に心配してくれているようだった。

 それをわざわざ断る理由もなく、振武は3人に背中を押され、1人こうしてこの会場に備え付けてある医務室にやってきた。

 あんぐりと開けられている振武の口の中を、リカバリーガールが覗き込む。

 

「男の子が簡単に痛がるんじゃないよ……というか、あんた、それ以上の怪我をしてきたじゃないかい」

 

「あ〜……っ、いや、あれは慣れてる怪我だからまだ良いけど、口の中の怪我ってのはなかなか慣れなくて」

 

「腕と肋骨バッキバキにして内臓痛めてるような怪我を「慣れている」って言っちまうのは、やっぱり異常だね……チュ〜〜〜〜〜〜〜」

 

 どこか自分の孫を心配するような目つきをしてから、頬に注射のように鋭くなった唇を付ける。

 ……リカバリーガールのような人に、個性使用の為とはいえキスの真似事をされるのは、いくら振武でも多少の抵抗はある。

 口の中にされるよりマシだが。

 痛みは一瞬で引いていく。それほど大きい怪我ではなかったようで、舌で触って見ても傷跡はないように感じる。

 

「んな心配するほどの怪我じゃないのに」

 

「痛がってた人間が言う事じゃないね。まぁむしろ感謝しておきなさい。

 筋肉は切ってないようだったけど、まぁ喋る度に痛むのは嫌だろうし、ぱっぱと治したよ」

 

「ありがとうございます、リカバリーガール」

 

 椅子から立ち上がって体をほぐす。

 騎馬戦では口の中以外に大きな怪我もせず、むしろ程よく体をほぐせたと言っても良いくらいだった。だいぶ偏った動き方ではあったものの、だ。

 ……問題は、心の方だ。

 

「……何か悩み事かい?」

 

 下がっていた目線が、リカバリーガールの言葉で上がる。

 

「バレます? やっぱり」

 

「何人の生徒を見て来て、診てきたと思ってるんだい。心のケアも私の仕事だよ

 ……話せば解決なんて事はないけど、話せば多少の整理は出来るもんさ。勿論、無理にとは言わないけどね」

 

 リカバリーガールの目は、昔と変わらず優しげで、全てを話したくなるような衝動に駆られる。

 だが、それは出来ない。他人のプライベートな部分を勝手に他人に晒して良いはずもなく、それをしたら自分で自分が許せなくなりそうだ。

 自分の心を軽くする為に、他人に全部晒す事は出来ない。

 ……勿論、核心部分に触れなければ良いだけなのだが。

 小さく溜息を吐いてから、振武はもう一度椅子に座った。

 

「……どうすれば良いか、分からなくなっちゃって」

 

 爆豪との対決は……まぁこの大会できっと出来るだろう。お互い負けなければいつか衝突するし、この大会じゃなくても出来る事だ。

 魔女子と百に関しては……どうしようもない。彼女達が話さないならば、それは彼女達の問題だ。自分に出来る事は、彼女達が自分の助けを必要とした時に助けられるように備えるだけ。

 ……焦凍にどうすれば良いか、自分には分からなかった。

 

「えぇっと、……悲しい夢を持っている奴がいるんです。自分の一部を否定して、他人を遠ざけてでもその夢を叶えようとしてる、悲しいけど、強い奴が。

 あいつがそうなったのは、しょうがない事で、でも俺は何とかしてやりたくて。

 言葉でも、態度でも、行動でも、出せるだけ出して……でも、届かなくて。

 むしろ怒らせて、悲しませて、」

 

 振武の言葉は、態度は、行動は、

 

 

 

 結局、彼を傷つけているだけなんんじゃないか。

 

 

 

「――どうすれば、救けられるんでしょうか」

 

 出来る事は全てやってきた。

 どうすれば、彼を救けられるんだろうか。

 それだけが、頭の中で渦巻く。

 ……リカバリーガールは、そこまで何も言葉を返さず静かに聞いてから、

 

 

 

「……ばかたれ」

 

 

 

 コツンと、近くに置いてあった杖で俯いている振武の頭を小突く。

 

「イテッ」

 

 痛いというほどの力ではないが、反射的にそう言ってしまった。

 

「一周回って馬鹿だ馬鹿だとは思っていたが……ちょっとアンタ、考え過ぎだよ」

 

「考え過ぎ、ですか?」

 

 小突かれた部分を撫でながら言えば、リカバリーガールは小さく頷く。

 

「言いたい事は2つ。

 まずあんたの言葉が届いていないなんて事はないはずさ。届いてないなら、怒るのも悲しむ事もしないさ。普通は無反応だ」

 

「まぁ、確かに……」

 

 10年近く積み重ねた努力を、無駄にしたくない。否定されたくない。

 あれはそういう反応だ。全く聞いていないのであれば、他の人間と同じように無視すれば良いだけの話なんだ。

 それでも、あいつは本気で俺に怒ってくれている。

 そういう意味では、「手応えあり」だ。

 

「まぁそこはあんたも薄々気付いていただろうから、別に良いさね。大事なのは2つ目さ。

 ――あんた、何上から目線でモノを言ってんのさ」

 

 ……頭の中で鐘が鳴ったような衝撃が走る。

 

「、別に、俺は、」

 

「なってただろう? 「何とかしてやりたくて」だって? 「救けられるんでしょうか」だって?

 そいつはもう、友情でもなんでも無い。ただのヒーローとしての救済欲求だよ。

 ――友達に向けるもんじゃないだろう?」

 

「――あ、」

 

 そうだ。

 ずっと友達だと思っていたじゃないか。

 友達だから、救けたいんじゃないか。

 頭の隅で考えていなかったか?

 あいつが「可哀想だ」。あいつを「救けてあげなきゃ」と。

 まるで自分をあいつにとっての「ヒーロー」だとでも思っていなかったか?

 

「救けたいって気持ちを煮詰め過ぎだよ。最初にどうしたかったか、思い出してご覧よ」

 

「最初に、」

 

 あいつと、初めてあった時。

 振武にはあの純粋な笑顔が眩しくて、真っ直ぐ見るのも辛いぐらいで。

 でも、憧れたんだ。

 それに、希望を見つけたんだ。

 動島振武(おれ)も「この子みたいな笑顔を浮かべたい」「純粋に誰かを救けられるヒーローになりたい」と。

 ……でも再会してみれば。

 俺の憧れは、まるで歪んでいて。

 そうなってしまった事が悲しくて。

 そうなってしまった事が悔しくて。

 ただ、動島振武(おれ)は、

 

 

 

「……笑って、欲しかったんだ」

 

 

 

 あの頃みたいに、笑顔を浮かべるあいつが見たかったんだ。

 それだけ、だった。

 

「……もう一度、友達としてどう出来るか、考えてみな」

 

 友達として出来る事なんて、決まっている。

 

 

 

「あぁ、そうですね――取り敢えず、思い出して貰わないといけないですね」

 

 

 

 絶対なんて口にするもんじゃない。

 こんなにあっさり反故に出来るんだから。

 

 

 

 

 

 

 食堂はいつも以上に賑わっている。

 学校外から来ている人間もいるんだろう。その人数は想像を絶する。

 ……席は埋まっているかな?

 

「お、動島ー! 遅かったじゃねぇか、何してたんだよ!?」

 

 少し離れた場所に座っていた鋭児郎が声をかけて来た。

 

「おー、ちょっとリカバリーガールの所にな」

 

「あぁ、口ん中切ってたもんな……あーっ悔しいぜ!! あそこでお前に勝てなかったの!!」

 

 その表情を見ると、本当に悔しそうだ。振武はその言葉に苦笑を浮かべる。

 

「お互い前騎馬だったんだから、勝ったもクソもないだろう?」

 

「いやいや、それにしたって芸達者過ぎるぜお前! どんな訓練すりゃあんな感じになるんだよ」

 

「……飯時にする話じゃねぇよ」

 

「飯時だと支障が出るような話なのか!?」

 

 軽口を叩き合いながら周囲を見渡すと、小さな違和感。

 

「なぁ、そう言えば女子連中はどうしたんだ? 見当たらないけど」

 

「ん? あぁ、なんか峰田と上鳴と話しした後どこか行っちまったなぁ……お、噂をすればだ」

 

 話している間に、峰田と上鳴がどこからともなく現れる。

 2人とも……形容するとすれば「いやらしい顔」をしている。峰田に関してはいつも通りで、上鳴も見た目通りチャラいので違和感がない。

 ない方が問題なのだが、ヒーロー科生徒としては。

 

「お前ら、どこ行ってたんだよ、女子達は?」

 

「にしし、それは後のお楽しみだぜ!」

 

「峰田ナイスアイデアだったぜ」

 

「うっへぇへぇ〜、褒めんなよ〜」

 

 ……訂正しよう。いやらしいどころか、ゲスっぽい。

 

「アハハ〜何か分からんがそうかそうか〜……ところで峰田」

 

「なんだよ動島、おいら今忙し「テメェ、騎馬戦で俺がなんて言ったか忘れてんじゃねぇだろうな?」――――――へ?」

 

 峰田の髪に触らないように、器用に額だけ手のひらで掴む。

 所謂これは、アイアンクロー。

 制裁には持ってこいの技だ。

 

「イタタタタ割れる割れる!」

 

「むしろ煩悩塗れの脳味噌なんだから割れろ!!

 百のケツにしがみついておいて、無事でいられる訳ねぇだろうが!!」

 

「良いじゃんどうせ動島は触り放題「触れるかボケェ!!」アタタタタ動島なんか顔般若みたいになっている」

 

 キリキリと万力で締め付けるように、ゆっくりと峰田の頭を締め上げる。

 あれ? 峰田の行為はいつもの事だからここまで怒るつもりはなかったのだが、何故こんなに怒っているんだろう、と冷静な自分が不思議に思ったが、今は目の前の自動セクハラ装置みたいな奴を何とかしなければという使命感でそれを無視する。

 

「切島、飯、ざるうどんで頼む……俺はこいつに、ちょっとお仕置きしてくる」

 

「お、おぉ、分かった」

 

 振武の顔に、鋭児郎も動揺気味だ。

 嘗てここまで怒った動島振武を見た事がないのだから、当然だが。アイアンクローで峰田を運ぶ振武に、鋭児郎は声をかける。

 

「おい、動島! なんかスッキリしたような顔してっけど、なんかあったのか?」

 

 憑き物が落ちたよう。

 大げさかもしれないが、鋭児郎には振武の雰囲気がそう見えた。

 出口に向かっていた背中が止まり、こちらを振り返る。

 その顔には、

 

「おう、ちょっとな!」

 

 笑顔が浮かんでいた。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 観客席から離れたエンデヴァーは、どこか苛立つように通路を歩いていた。

 第2種目。動島振武にしてやられた焦凍の姿は、見苦しいを通り越して呆れるものだった。自分から受け継いだ炎熱の個性が出てきたのは喜ばしい事だが、負けているのであれば意味はない。

 自分の息子ながら、何という体たらく。

 どこかで説教出来るならしたい。そう思い、会場の中を歩いていた。

 

 

 

 だが、暗闇の中に紛れる気配に、足を止める。

 

 

 

「……俺を付け狙うとは不届きな奴だ。今日の俺はムシの居所が悪いんだ。ここで灰にされたくなければ、とっとと失せろ」

 

 体に纏っている炎がその怒りを表すようにより一層苛烈に燃え上がる。

 雄英内部に敵が入り込む……数週間前にそのような事件があったのは知っているが、今日は警備レベルもその時の比では無い。全国からヒーローが集まっている今のここに、乗り込んでこようというバカはいないだろう。

 ならばヒーロー(同業者)だ。

 それでも、エンデヴァーは本当に灰にしても良いと思える程苛立っていた。

 

 

 

「酷いな、炎司。俺を灰にしようなんて、考えないでよ」

 

 

 

 その声に、苛立ちは動揺に変わった。

 

「……戻った(・・・)のか。いつからだ?」

 

「2週間前から。ちょっと事情があってね、一時復帰さ」

 

「……何故、俺に言わない」

 

「言う必要性ないだろう、どうせ今の仕事が終わればまた休業……いや、それどころか、これが終われば今度こそ完全引退かな」

 

 ……そんな事を聞きたいわけではない。

 そんな事を話したいわけではない。

 10年。

 10年何も話もせず、顔も合わせる事もしなかった。

 

「――お前は、どこまで人を馬鹿にすれば気が済むんだ!!!」

 

 炎が、呼応するように火花を散らす。

 

「俺の手を取らず、勝手に戦い、勝手に傷つき、勝手に他の人間に救けられ、勝手にヒーローを引退すると言ったと思えばこうして復帰し!!!

 貴様は何がしたいんだ!!!!」

 

「……ごめん」

 

「謝罪を聞きたいと誰が言った!! 姿を見せろ!!」

 

 声は聞こえるが、姿は見えない。

 昔から隠れる事が得意だったアイツの実力は、10年という歳月の中でも磨かれたようだ。昔ならばそれでも見つけられたのに、今は声以外にその存在を認識する事が出来ない。

 

「嫌だよ。姿を見せたら、君燃やすでしょ?」

 

「当たり前だ!!!」

 

「論外だな……本当にごめんね、炎司」

 

 やめろ。

 謝るな。

 

 

 

「――俺、また無茶する事にした」

 

 

 

「……なんだと?」

 

 さも決定事項を伝えるように、あっけらかんと伝えてくる声に、炎司は怪訝な顔をする。

 

「これは、俺の子供に必要な事なんだ。正直、やったら嫌われるんだろうけど……いや、もしそれでダメなら、俺は俺の命をかけないといけない」

 

「……何を、するつもりだ」

 

「言えない。言ったら君の事だ。俺を半死半生にしてでも止める。それは困る」

 

「……何故、それを俺に言う」

 

「……僕の子供には、守る人が必要だ。

 お義父さんに任せても良いのかもしれないけど、あの人はあの子の命よりも武人としての矜持を取ってしまう人だ。だから、こんな事は任せられない。

 ……なぁ、もし俺に何かあれば、俺の子供をお前にまかせ、」

 

「ふざけるな!!!」

 

 エンデヴァーの怒声が、通路いっぱいに響き渡る。

 

「散々俺を馬鹿にして、愚弄して、それで自分の子供を頼むだと!? ふざけるなふざけるなふざけるな!! なんの説明もなく、そんな事を頼むな!!!

 

 

 

 俺達は、俺は、お前の何だ、壊!!!!」

 

 

 

 

 

「――僕が世界で1番信頼する、友達だよ」

 

 

 

 ……声は、それだけ言って姿を消す。

 

 

 

「ふざけるな……そう思うなら、何故、」

 

 

 

 最初から、俺に頼るという考えにならないんだ。

 馬鹿が。

 ……エンデヴァーの声は、誰もいない通路に弱々しく響いていた。

 

 

 

 ◆

 

 

 

 昼が終われば、皆が会場に再び集められていた。

 間にレクリエーションを挟むものの、それを終えれば決勝トーナメントだ。当然、皆が緊張した面持ちで会場に立っていた。

 

「で? そんな中で、なんでお前らチア服着てるんだ、塚井、百」

 

「……成り行き、と言いますか、」

 

「……また峰田さんに騙されましたわ」

 

 女子メンバーは、何故かチアリーディングで使うような服を着ていた。

 用意はされていなかったし、百の落ち込みようから察するに、峰田と上鳴に騙されたのだろう。

 ……なるほど、あの態度はこれだったか、と納得する。

 

「そう言えば先ほど会場に移動する折、何故か外の林の木に某神の子っぽく磔にされていた峰田さんをお見かけしたんですが、彼はどうなったんですか?」

 

「……ノーコメントで」

 

「焦凍さんの口癖がうつっていますよ動島くん」

 

 いや、それは多分魔女子限定での口癖だと思う。

 それを言葉にせず、振武は百の姿を見る。

 本場のチアリーダーが今も踊っているのだが、それと見比べても見劣りしない。というより、プロポーションだけ見れば勝っている。

 私服は見た事がないが、性格を考えるならばこんなに露出度の高い服装をするのも初めてだろう。気落ちしながらも恥ずかしそうだ。

 ……峰田。お前は絶対に許さないしエロ大魔神だが、この事だけは許す。

 

「し、振武さん、あんまりジロジロ見ないでください!」

 

「ブッ……悪い」

 

 投げつけられたポンポンを顔から退けながら謝罪する。

 しょうがないんだ、百。

 男とは、残念ながらそういう生き物なのだ。

 

「にしても、クジは引きましたけど……どうなると思いますか、動島くん」

 

 さり気なく隣に来た魔女子を見て……いや、特に何も感じない。

 というか魔女子は、予想以上に絶「それ以上何か考えたら捻じ切ります」……。

 どこを、とは聞けなかった。

 

「どうなるも何もない。こればっかりは、運次第だからな」

 

「そうですね、動島くんは狙われているので、大変そうですが」

 

 魔女子の言葉に、周囲を見渡す。

 自分を気にしている人間は……3人。

 焦凍、爆豪、出久。

 最も、特に気にしているというだけで、振武を気にしている人間はそれなりに多い。実力を示して来たのだ、当然だが。

 

「……そういうお前も、大変そうだけどな」

 

 チラリと横を見れば、尾白が気まずげにこちらを見ている。

 振武ではない。隣に立っている魔女子だ。

 ハイライトとして流されていた動画には音声がなかったが、あの映像だけでも分かる。共闘したが、途中で魔女子がひっくり返した。

 それに関して口が軽い人間が酷い事を言っているのも、聞いている。クラスメイトの中でも……クラスメイトだからこそ、どこか納得がいかない部分があるという感じで話していた鋭児郎も、上鳴も、振武は特に否定しなかった。

 

「……酷いとお思いでしょう?」

 

「あぁ、思う。けど、それはお前も思ってるんだろう?」

 

 そうでなければ、そんな言葉は出てこない。

 

「……まぁ酷いやり口だとは思うけど、卑劣とか、卑怯とか思ってねぇよ。

 戦いの中では、そういうのが必要だって分かってる」

 

 他人を利用する、騙す。

 言い方は悪いがそれが必要になる場面は必ず存在する。夢物語に登場するヒーローとは違う。そういう冷血な部分を持ち合わせていないと、業界で生き残っていく事は出来ない。

 問題は、

 

「それより、お前が大丈夫かどうか、そこが心配だよ」

 

 塚井魔女子は、自分が辛くても平気な顔をする女だ。

 この状況で、それをしていない訳がない。少なくとも「酷い事をしている」と自覚している上でそれに罪悪感を抱かないほど、彼女の内心は達観してはいないのだから。

 

「……大丈夫です。

 私が大丈夫じゃない時は、私が目的を達成出来なかった時です」

 

「……俺が邪魔になるんじゃねぇか、それ」

 

「なります。だけどまぁそれも組み合わせ次第です。もし当たったら全力で貴方を潰します」

 

「ハッキリ言うよなぁ……つうかフラグみたいだから嫌だな」

 

「ですね。正直に言えばぶつからないのが、私の個人的な希望です」

 

 塚井魔女子にとっても、動島振武にとっても、お互いが難敵であるのは十分承知している。集団戦闘ならばさておき1対1の状況は魔女子に喜ばしいとは言えないし、魔女子の何をするか分からないクレバーさは振武にとっても脅威。

 

 

 

「さぁ、上位16名、組み合わせは――こうなりました!」

 

 

 

 電光掲示板に表示されたそれは、

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

「……こうなったか」

 

「これまた、」

 

「凄いメンバーですわね、こうして見ると」

 

 羞恥心と落ち込みから帰って来たのか、百も隣に立って見ている。

 ……振武の最初の対戦相手は、泡吹崩子。先ほど魔女子とチームを組んでいたB組の女生徒だ。

 

「なぁ、塚井、何か情ほ「却下です」……だよな」

 

 いくら魔女子でも、一時的にチームを組んだ人間の情報は出さないだろうと思っていたので、特に落ち込む事はない。

 もう一度表示されているトーナメント表を見る。

 ……一回戦を抜ければ、当たるのは多分出久だ。一回戦で敗北すれば違うだろうが、今の彼は負ける事はないだろう。

 そして、それを倒せば……どうなるのか。出久が上がってきてから先が見えない組み合わせだ。もしかしたら、出久に負ける可能性だってある。

 負ける気は、さらさら無いが。

 

「……動島くん、」

 

 不意に魔女子が声をかける。

 

 

 

「轟くんを救けるのは、私です」

 

 

 

「……やっぱ、それを狙ってんのか、お前は」

 

「ここまで来たら隠しても意味がないですし、貴方は私を止められる位置ではありません。

 お株を奪って申し訳ありませんが、ね」

 

「そこに関しては、全然申し訳なく思ってないだろ、お前」

 

「――ええ、当然です。貴方ばかりが、轟くんの事を考えていると思わないでください」

 

 お互い言葉は辛辣にも感じるが、表情と声色にネガティヴな感情は載っていない。

 求めるモノは同じ。ただ自分がそうしたい事をしているだけ。相手を害する気持ちも何もないのだから、当然だ。

 

 

 

 ただそれを、百はどこか羨望の眼差しで見つめていることに、2人は気付かないだけだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




画像は知識のない自分が作ったものです、多少がたがたですが、流石に文字でこれを表現するのは無理だと思い描きました。
Aブロックはかなりオリジナル要素な感じに仕上がりましたが、Bブロックはちょろちょろ改変って感じです。
どうかこれからの動きを楽しんでいただければ、幸いです。


次回! 泡吹さんが冷静に話すよ! (本当に)少し待て!!


感想・評価心よりお祈り申し上げます。

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