この戦いが好きな人すいません……だってこれ書くと振武くんの話までに一話消費されそうなんだもの!
という訳で、本編をどうぞ。
決勝トーナメントに進んだ人間には、個人に控え室が与えられる。このスタジオの部屋数が余っている……というのではない。一応、こちらが出て行けば次の奴が入る。
だが、個室を与えられると言うのはありがたい話だ。通路や人の多い場所で精神統一しろというのも難しい人は多いだろう。
緊張する戦いの前だ。振武も1人で居たい。
――神経を研ぎ澄ませながら体を解す。
体はほぐし過ぎるとかえって悪い事にもなるが、緊張を解す為に体を動かしているので、柔軟の意味はあまりない。
そう。緊張している。
自分の力にいくら自信があっても、状況や戦い方に因っては倒される。
何が来ても良いように。
誰と戦っても良いように。
〝ブレない〟自分というのを構築していく。
「フゥー…」
鋭く、ゆっくりと息を吐く。
……本当は、出久の試合も見たかった。だがそれ以上に、今は自分の試合の方が大事だ。出久を気にして自分の試合に負けました何て話になれば、皆に顔向け出来ない。
控え室には備え付けのテレビがありそれでも見れると話は聞いたが、それも良い。
出久の事だ。
勝っているだろう。
今は――自分の事に集中する。
「――スゥ……」
ゆっくりと息を吸い込む。
呼吸とは、力の基本と言っても過言ではない。
呼吸が自然としっかり出来ていれば、体中の流れる力をより強くする事が出来る。人間はただ立っているだけでも、重力に抗い呼吸し続ける。
それだけではない。体の中で起こっている全てに意識を集中させる。
血流。
筋肉の軋み。
骨の動き。
意識。
日々変化して行く肉体の変化と、武術の精度を合わせていく。
音楽をやっているものには、チューニングにも思えるかもしれない。その日の天気や湿度によって微妙に変わる音色を調整し完璧な状態に仕上げていくのだから。
それが楽器なのか、己の体なのかの差でしかない。
トントン――扉を叩く音が聞こえる。
「――はい、どうぞ」
集中を解いてから返事をする。
視界に入った時計を見れば、それほど時間は経っていない。
もう終わったのか、緑谷。
「人の緊張を解す為に――私が来た!!」
――はい?
いきなりの大きな声に動揺する。。
でかい。
日本人平均を軽く凌駕している身長。金髪の髪、いつも浮かべるアルカイックスマイル。
オールマイトが、そこに立っていた。
「……なんでいるんですか、オールマイト先生」
「HAHAHA!! たまたま歩いていたら君を呼び出すらしいと聞いてね!! 私が代わりに引き受けたのさ!! Surpriseさ!!」
そんなサプライズは要らない。
……大方、出久の試合を見守ってからこちらに来たのだろう。何故そんな気まぐれを起こしたのかは謎だが。
自分の生徒である、そういう面からも他の生徒の事を気に掛けてくれるオールマイトだが、彼の頭の中での重要度は他の生徒よりも出久の方が高い。当然だ、自分の個性を受け継がせた、子の様な存在なのだから。
そばに付いていてやらなくて良いんですか?
その言葉を飲み込む。振武が言うべき事ではないからだ。
「そりゃ、ありがとうございます。
……じゃあ、後は自分で行けるんで、オールマイト先生は戻っ「つれない事を言うなよ動島少年! 私も付き添ってあげるからさ」……ありがとうございます」
別に一緒にいるのが嫌というわけではない。素直に頷いて、前を歩き始めるオールマイトに付いて行く。
関係者用通路なのか、人影はない。オールマイトの硬い靴音と自分のスニーカーの音が、通路いっぱいに木霊しているだけだ。
(……分かんない人だな、この人も)
彼に会うまで、
当然だ。その存在そのものが犯罪の抑止力になるような人間がいるわけがない。
スケールが人間のそれじゃない。
……それに、その体から湧き上がっている闘志。ただ歩いているだけなのに、その姿勢の正しさと強さが分かる。しかも分かるというのは全貌がわかるという意味ではない。
『自分では勝てない』と内心で納得してしまう。そういう類のものだ。まるで祖父を見ている気分になってくる。
(これで弱ってるんだもんな……冗談じゃない)
完全な状態でのオールマイトはどれほど強かったんだ。
だから初めて見た時、自分の中でオールマイトは人間という1つの生き物ではなくなっていた。
……だが、実際会って話してみれば、その本質はまるで違う。
確かに個性を発揮している時の強さもオーラも段違い。本来の姿を見てはいないので正しい比較は出来ないが、その落差は大きい。
だが、それでも彼は人なのだ。
肉体や個性、立場が人間離れしようとも、その精神が人間であるという事に変わりはなかった。
なんだ、そんな事か。そう人は言うかもしれない。
そんな当たり前のことを大仰にと人は笑うかもしれない。
しかし力は人を変える。良い意味でも悪い意味でも。単純な武力だけではなく、財力や権力なども含まれる強さは、なんでも出来る自由を与えてくれると同時に、人間を魔性に引きずり込む。
動島流の昔の記録を漁ってみれば、武術を極めたからこそ、人として歪んでしまった、人をやめ修羅に落ちた人間は何人でも出てくる。修羅に落ちてしまった動島流習得者を、同じ動島流習得者が倒す。そんな話も珍しいものではなかった。
出久も、良い意味ではあるものの変わった。自信と少しの前向きさを身につけ始めている。それはオールマイトに認められた事も関係してくるが、個性を手に入れた事も要因の1つではある。
多かれ少なかれ変化をもたらし、人を人でいられなくする魔力がある。
振武だって価値基準が変わったりしている部分はある。
――オールマイトも、普通の人間とは違う考え方を持っている部分が無いわけではない。
それでも、ここまでの立場と強さを手に入れてなお、人らしい苦悩と信念を捨てていない。それだけでも、十分凄い事だ。
それもまた、精神力という強い力を持っているからこそ、なのかもしれないが。
「――緑谷少年、1回戦突破したよ」
不意にオールマイトがこちらを振り向かずに話しかけてきた。
「……そうですか」
小さな喜びはあるものの、驚きはしない。
あいつの事だ。きっと超えてくると信じていた。
……さらに正直に言えば、出久と直接対決をする可能性が出てきたんだから、むしろ緊張が増したと言っても良いだろう。
緑谷出久は、敵に回すと何をしでかしてくるか分からない。
「動島少年は、驚かないよね!」
「……まぁ、ある意味想定内ですから」
「HAHA! 結構Coolだな!!
割と危なかったんだぜ? 洗脳の個性を使ってきてさぁ。ギリギリ負けそうだったけど、なんと自分で自分の指折って洗脳解いちゃったよ!!」
まるで自分の子供の自慢でもするかのように話している。
……流石に振武だって怪我をする可能性がある時はちょっと覚悟を決めるくらいなのに。きっと出久は、そんな躊躇もしなかったんだろう。
危ないヤツだが、同時に凄いと賞賛できる。
「相変わらず、無茶しますね」
「だよねー!……まぁ、ありゃそうでもしないと解除出来なかっただろうけどさ。
――君の助言、今回はあんまり使えなかったみたいだよ」
助言した事、思いっきりバレてる。
「……すいません、変な入れ知恵しました」
「ノープロブレム!! むしろ、彼にとっては良い刺激になっただろう。
さすが動島流! 力のコントロールに関してはエキスパートだよ本当に!!」
オールマイトの言葉からは、素直な感謝と喜びしか感じない。
「……オールマイトは、母さんを知ってるんですよね?」
ずっと話したくても話せなかった事を口にすると、オールマイトは小さく、だが何度も頷いた。
「ああ、君のお母さんとは多少縁がある。もっとも、私が縁があるのはお母さん個人というより、動島流とだけどね」
「動島流と?」
それは初耳だ。
「知らなかったのかい? 私は学生時代から君のお祖父様と懇意にさせて貰っているんだよ。センシティ……いや、ここでは覚くんと言った方が良いのかな? 彼女より先にお祖父様と知り合いだったのさ。
赤ん坊の覚くんを抱っこした事だってあるんだぜ!」
「それは……めちゃくちゃ初耳です」
聞いていない。
そもそも、オールマイトが年齢不詳すぎる。享年28歳の覚の赤ん坊時代を知っているというのは、いったい何歳なんだろうか。
「まぁ、師……振一郎さんは、あまりそういう話はしないだろうな。ほら、ひけらかす人じゃないから」
オールマイトはさも楽しい昔話をしている、という感じで話しているが……彼は知らない。
振武がオールマイトの個性の特性を知っている事を。
(オールマイトが学生時代の頃から……オールマイトがいつ個性を受け継いだのかは知らないけど、雄英高校のヒーロー科出身だったんだからその段階で個性を持っていたのは確かだよな? 元々の個性がどんななのかは分からないけど……あれ? ってことは、)
――振一郎はもしかして、オールマイトの個性の正体を知っている?
可能性はあるはずだ。学生時代からの知り合いなのだ。どういう経緯で知り合ったか知らないが、力のコントロールに主眼を置く動島流の宗家当主に知り合う理由は、オールマイトの個性の性質上理解出来なくもない。
つまるところ、個性のコントロールを学んだ?
下手をすれば、オールマイトの前のワン・フォー・オール保持者とも知り合いな可能性だって出てきた。祖父の代から、物語の中枢に絡んでいた事になる。
(……あぁ、なんでこんなタイミングで教えちゃうかな!!)
集中しなきゃいけない戦いの前にそんな話聞いたら気になっちゃうじゃないか。
せめてのんびりと考えられる時にそういう大事なことは話してほしいものだ。
「あ、ごめん! こんな話を、大事な試合前にするべきじゃなかったね!!」
「……イエ、全然気ニシテナイデス」
めちゃくちゃ気にしていますとは、口が裂けても言えなかった。
気付くの遅いです、とも言えなかった。
「まぁ、私が何を言いたかったかと言えば……特別扱いは出来ないものの、君は私にとって、親戚みたいな気持ちがないわけじゃない。
……子供の頃から知っている、あの子の息子なんだからね」
会場の光が差し込んでくる出入り口、その手前でオールマイトは立ち止まって振り返る。
いつもの笑顔……ではない。
どこか懐かしそうな、優しい笑顔。
親戚というのは会った事がないが、もし叔父などがいれば、こんな顔をしてくれたのかもしれない。そんな事を想像させるような優しい顔だ。
「こうやって正面から間近で見ると、目元とかお母さんにソックリだね!」
「……よく言われます」
「そうだろうね! ……動島少年。君は強い。結果はどうなってもそれは変わらない。
全力で戦ってきなさい」
その体からは想像出来ないほど優しく、振武の方を叩いてくれる。
……本当に、
「――はい! 行ってきます!!」
力一杯返事をすると、振武はゆっくりと会場の出入り口を抜けた。
『さぁ、続いてはこの2人の対決だ!!』
会場は先ほどとはだいぶ様変わりしていた。
先ほどまではなかったはずの立派な舞台。横にセメントス先生がいるあたり、恐らく彼が準備をしたのだろうが、短時間の中でも完成度が高い。
会場は、嘗てないほどの盛り上がりで熱くなっていた。
中央には、主審を務めるミッドナイトが立っている。競技説明の時は笑顔を浮かべていたその顔も、この状況では真剣な表情だ。
『B組から上がってきた生徒の1人!
幻想的な風景に見惚れちゃ怪我するぜ!!
ヒーロー科! 泡吹崩子!!!!』
「……はぃ」
プレゼントマイクの紹介と熱い歓声に答える……にしては少々やる気のなさそうに、目の前の少女は返事をしながら手をあげる。
泡吹崩子。青い髪のショートボブの彼女は、紹介にもあったようにB組で上がってきた数少ない生徒の1人。魔女子とチームを組んでいた生徒。
威力のあるシャボン玉を使った個性だという事以外は何も分かっていない。バリエーションも多かった。振武に対して、どう来るのかは解らない。
何せ、考えが顔に出ない。一種のポーカーフェイスとも言えるその表情はどうにも苦手な部類だ。
『
A組ヒーロー科! 動島振武!!!』
「説明雑かよ……」
思わず突っ込みを入れながら構える。
目の前の彼女は、構えらしい構えはとっていない。右手の親指と人差し指を繋げて輪っかを作っている程度。
個性メインの戦い方。
第2種目でチラッと見た程度では、身体能力は平均以上でもそれをメインで使えるほどではない。こちらが近づけば倒せる。
そしてそれは、向こうも分かっているはずだ。
どちらが先に攻撃出来るかで、大きく違いが出て来るだろう。
『両者ともなかなかの実力者、結果はどう出るか――――――START!!!』
「瞬――「――バブルショット・ウォール」――なっ!?」
包囲網が敷ける程度には密度の高い攻撃が出来る。
その評価は――過小評価だった。
泡。
泡。
泡泡泡泡泡。
大量の泡が、まるで舞台を遮る壁のようになっていた。
◇
壁の元になっている泡1つ1つは、強い威力ではない。
そもそも攻撃の為ではなく防御の技。精々、プロボクサーのストレート1発分の威力だろう。それでも密集した泡の中を進んでくれれば蛸殴りの状態だ。攻撃としては強い部類に入るのだが、動島振武は倒せない。
そう泡吹崩子は考えている。
近接戦闘の技術、タフさ。
それを念頭におけば、その程度の威力では蚊に刺されたくらいにしか感じないだろう。
だが、動島振武の強さはそこだけではない。
「――貴方は、速い。
騎馬戦で、それは分かった」
泡の向こうで歪んで見える動島振武に話しかける。
声は小さい。聞こえなくてもいい、何となく話しかけたくなっただけだ。
「私じゃ、それに、ついていけない。体力、あんまりないから。
――だから、動けなくする」
瞬刹と踏空。
それを基本にした高速戦闘が振武の売り。振武のメインでの戦い方といっても過言ではない。
なら、それを封じられたなら、彼は脆い。
タフではあるが、防御力に振り分けられた力はそう大きいものではない。壁にさえぎられたこの状況では自由に動くことも、自分に攻撃してくることも出来ない。
そう、壁はあくまで行動制限と時間稼ぎ。
倒す気はない――倒すのは、これからだ。
「そして……これで、崩す」
そう言うと、息を大きく吸い込んで、指の輪っかに吹きかける。
泡は膨張していく。
泡吹の頭くらいの大きさ……まだ膨らむ。
上半身くらいの大きさ……まだ膨らむ。
全身を包み込める程度……まだ膨らむ。
まだ、まだ、まだ、
最終的には、舞台の半分を埋め尽くすほどの巨大な泡が生まれた。
バブルショット・ナパーム。
相手を殺さないようにかなり抑え目だが、威力は個人に向ける用のものではない。
確実にこの一撃で、チェックメイトにする。
それだけを念頭に置いた攻撃。
相手は壁でこちらに近寄れない。この大きさの攻撃は制限された内部では回避不可能。
これで、終わ――、
「――え、」
何が起こったか解らなかった。
腹部に伝わった衝撃。
その拍子にはじけるバブルショット・ナパーム。
後ろに勢いよく流れていく景色が、自分が
何故、どうして。
壁を通り抜ける事は出来ない。
出来るだけ高く泡の層を重ね、彼お得意の跳躍が出来ないようにもした。
攻撃は、不可能だったはずだ。
「――あ、」
声が漏れる。
自分の正面。
ちょうど自分の腹部の位置に当たる泡の壁に、小さな穴を見つける。
男性の腕が一本、通るか通らないかという、小さな穴。
「――まさか、」
答えは出ていた。
ただ、もう抗う事は出来ない。
この攻撃を食らった時点では想定もしていなかった所為で踏ん張る事も出来ず、しかもはじけてしまったバブルショット・ナパームの威力がそこに上乗せされている。
この攻撃の勢いを途中から殺せるような身体能力はない。
チェックメイトされたのは、
自分自身だった。
◆
震振撃・崩月。
『月を崩す』。そう名付けられているこれは、簡単に言ってしまえば実に簡単だ。
衝撃を、遠距離に当てる。
遠距離と言っても、100メートル先の敵を攻撃できる訳じゃない。
だが馬鹿みたいに広い訳ではないこのフィールド内であれば……十分届く。
「――っぶねぇ」
焦りから思わず声が漏れる。
もしこの技を使わなかったから、自分で壁を抜けていくしかない。そう力がなかったとしても怯む。その隙を突かれ近づく前に倒されていた可能性だってある。
特にあの大きな泡。
拳大の小ささでそれなりの威力を出せる泡だ、それがあんな大きさで上空から飛んで来たら。
回避するためには場外に出なければ行けない。
受け止め切れる自信は正直なかった、受け止められても満身創痍。そのまま倒されていた。
「流石、塚井が選んだチームメンバーの一人……そりゃ強いよな」
あの大きな泡がはじけた所為で舞った埃を体から払い落としながら、
「でも、悪いな――ここで止まれねぇんだよ、俺」
大きく崩れた泡の壁の向こうから見える――場外に倒れた泡吹に、振武はそう呟いた。
「泡吹さん、場外!!
動島くん、二回戦進出!!!!」
シンと静まり返っていた会場に――歓声が爆発した。
『IYAHA!! これは瞬殺!! 予想を裏切るの大得意か動島振武!?
それにしても女の腹殴るって男としてどうなんだ!!?』
『この試合の中で男も女もないだろう……泡吹の敗因は、動島に遠い敵を攻撃する手段がないと決めてかかったところだな。
競技での動島の立ち居振る舞いを見ているだけじゃ、あの戦術は必ずしも間違ってなかった訳だが……まぁ、動島の方が一枚上手だったってだけの話だな』
『……なぁイレイザー、思ったんだけどお前ちょっと動島推してない? 推しメン? 推しメンなの??』
『何の話だ、俺は事実を述べているだけだが?
そもそもこの状況は、自分の奥の手を隠しきった動島に軍配が上がった。それがなけりゃ、勝ったのは多分泡吹の方だろうな。
制圧の手際の良さもそうだが、最後の一発も当ててりゃ一撃で倒せていただろうさ』
『え~でも~『黙れ山田』放送にのる状況で本名呼ばないでくれない!?』
騒がしい実況と解説の声をバックに、振武はスタスタと泡吹の元まで歩く。
一応怪我をしないようにしてはいたが、不安はあった。しかし見たところ、大きな怪我は負っていないようだ。
「……手助け無用」
気絶したと踏んでいたのだが、どうやら起きていたようだ。先ほどと同じく、どこか気怠そうな半眼でこちらを睨みつけてくる。
「おう、そっか……お前、凄いな」
皮肉でも何でもない率直な感想だ。
あれだけ大量の泡を一瞬で創り出したのは、凄いとしか言えない。
振武の言葉に、泡吹は微妙な顔をする。
「……勝った相手に言われても、あんまり嬉しくない」
「……そうだよな、すまん」
「謝られても嬉しくない」
どうしろと言うんだ。
振武が困惑しているのをまるで無視して、泡吹は起き上がり、埃を払う。
「貴方が勝ったんだから。称賛も、謝罪もいらない。
――胸を張って。私に勝ったんだから、誇って二回戦行って、それで負けてくれたらなお良し」
……泡吹に苦手意識を感じていた理由が分かった。
この真顔で放たれる、理解不能ながらも人の心を抉る発言。彼女ほどではないにしろ冷静な判断力。青系統の髪。
(――塚井、お前飯田よりこいつとキャラ被ってんぞ)
全体は似ていないが、パーツが被ってる。
「あぁ~残念ながら負ける気はねぇけど……とりあえず、握手ぐらいは良いよな?」
そう言いながら手を差し出した振武の顔を、泡吹はまじまじと凝視してくる。
「……なんだよ、顔になんかついてるか?」
「ううん……面倒な人って思っただけ」
「さっきから言葉が辛辣過ぎないかお前!」
振武の言葉に、苦笑を浮かべながら、泡吹は手を握り返す。
――動島振武、二回戦進出。
「青くさっ」
そんな二人を見て、青春フェチのミッドナイトが楽しそうに笑っていたというのは、また別の話である。
瞬殺……というよりは、ある意味情報戦の様相でしたよね。
基本的のこの世界での戦いって、個性で出来る手札をどれだけ相手に知られないかという部分もあるんじゃないかなと思って書きました。
次回! 象が浮いてるよ! いちいちFantasyだな!!
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