病院というのは、清潔感を感じさせる為なのか、壁は白い事が多い。そうではない所も、柔らかい印象を感じる木目を模した色や、淡い色合いが多い。
どちらかと濃い色が多い街の中において、ここだけ存在感が薄いような印象を受ける。
ナースステーションを横切り(一応会釈をした)、足はエントランスではなく何となく中庭に向いていた。
そもそも真っ直ぐ帰るつもりはなかった。
考え事をしながら歩きたい気分だった。
そういうのに、街の中はあまり向いていない。公園に寄るのも良いが、真昼間に高校生がうろついていては職務質問されるかもしれない。
流石に厄介ごとはごめんだ。
その点病院の中であれば、誰かに咎められる事もないだろう。
――中庭に続く扉をくぐると、そこは思った以上に広かった。
丁寧に整備された芝生や花壇、煉瓦を敷き詰めて作られた道、いくつか生えている木はそう背は高くは無いが、青々とした葉が微風にそよぐ。
落ち着いた空間だ。
ここならば少しはのんびり出来るかもしれない。
そう思いながら、中庭に進み出る。
見渡して見ても、どこにも芝生に上がってはいけないと書かれてはいない。
書かれていないなら、一応大丈夫なのだろう。
一瞬だけ躊躇したが、すぐに芝生に入り、柔らかい草の感触を足の裏で楽しむ。
中庭は思った以上に広いようで、ちょっとした公園くらいはあった。そこは、さすが大病院と言っても良い。
何となく景色を見ながら歩いて行くと――芝生の中心に、1人の少年が座っていた。
短く切り揃えられた黒髪。
切れ長の黒い目。
服装も、全身真っ黒だ。センスがないのがバレバレである。
そんな彼は、どこか仏頂面でパックの飲み物を飲んでいる。
『トマトジュース・微炭酸入り』と書かれているパックジュース。そもそもパックで炭酸を売っても大丈夫なのかと疑いたくなるが、それ以上に彼がそれを買って飲んでいる方が変だと言っても良いだろう。
変というか、チャレンジャー過ぎる。
しかもそのチャレンジは、表情を見る限り大失敗。
だが律儀な性格が災いしてか、そのまま捨ててしまおうという発想にはならなかったらしい。仏頂面のまま飲む姿は、使命感を感じさせる。
捨てた方がいい、そんな使命感は。
「……不味いなら飲むなよ」
少し見守ってから放置しようとも最初は思っていたのだが、気が変わって、声を掛けた。
青空を見上げていた少年はこちらに顔を向けると、一瞬だけ目を見開く。
何でここにいるんだ?
そんな言葉をそのまま表情にしたような愉快な顔をしてから、またすぐに仏頂面に飲む。
「食い物飲み物を残すのは趣味じゃない。自分の金で買ったなら、尚更な」
「難儀な性格だな」
「お前にだけはそれ、絶対言われたくないわ」
「どんな味なんだ、それ」
「……トマトジュースの塩っぱさと炭酸の苦みが異種格闘技戦しているみたいな味。あと舌が擬似的に痺れる感覚が楽しめる。
飲むか?」
「生憎、喉は乾いてない」
「あぁ、そうですか」
少年との一通りのやり取り(これくらいは挨拶みたいなもんだ)を終えて、隣に腰を下ろす。
芝生はそこそこ大きいし、今中庭にいるのは自分達だけだ。だからわざわざ少年の近くに座る必要性はない。
それでも、ここが良かった。
少年も、それを止める事はしなかった。
「……昨日ぶりだな、振武」
そう言うと、少年――動島振武は笑みを浮かべて、
「あぁ、昨日ぶりだな――焦凍」
◆
雄英高校体育祭。
もう何年も行われている、過去で言えばオリンピックに相当するこの由緒正しき大会の、1年表彰式。
そこは、例年に見られない不思議な光景だった。
まず、3位に立っているのは焦凍だけだった。
飯田は準決勝前に、兄が倒れたと言う連絡を受けており、試合を終えてからすぐに病院に向かった。だからこの表彰式にはいないのだ。
勿論、それを知っているのは大会を運営している教師陣のみで、観客はおろか、表彰台に上がっている生徒たちも知らない事だった。
次に、2位は――荒れていた。
「――――!! ――――――!!!!」
ガッチリと腕全体の動きを封じる拘束具と、一種のマスクなのではないかと思えるほど頑丈な口輪がされていた。
……勿論、彼は戦いの結果に怒っているわけではない。
自分は負けた、それで良い。どんな結果であれ自分と相手が全力を出して競い合った結果なのだからそれで良い。
問題は、自分が表彰される気が全くないという事だけだった。
1位で無ければここに立つ意味も、メダルをもらう意味もない。
だから試合が終わり医務室で目を覚ました瞬間、逃走を図ったのだが――さっさと教師陣に取り押さえられた。
厳密に言えば、隣のベッドにいた振武を説教していた相澤に片手間で捕縛されてしまった。
そして拘束具でガッチガチに逃げられないように固められ、今ここに立っている……立っているというより、縛られている。
そして1位の少年、動島振武は――生気を抜かれたような顔をしていた。
決勝前の段階でギリギリだった体力を削り、さらに最低限歩けるように治癒を施され、この表彰式の準備が終わるまでの小一時間を相澤の説教という名の恨み節で過ごしたのだ。
早く帰って休みたい。
表情が、オーラがそう言っていた。
「し、しまらねぇ……」
観客の1人が呟いた言葉が、ある意味今会場にいる全ての観客の気持ちを代弁していた。
「さて、じゃあサクサクいくわよ!!
メダルを渡してくれるのは――この人!!!!」
司会を務めているミッドナイトが、この締まらない状況でもキッチリ仕事をこなし、大きな声を上げ手を挙げる。
その瞬間人影が、ドームの上から跳躍する。
「私が!!!!」
いつもの決め台詞を叫びながら、見事に会場の中心に着地し、
「メダルを持って来「我らがヒーロー、オールマイトォ!!」」
見事に被った。
いや打ち合わせとか、もっと綿密にしておけよ。
……というツッコミを言う気力すら振武にはなかった。
「アー……コホンッ!! さぁ、私が思いっきり授与するよ!!」
気まずい雰囲気を誤魔化すように咳払いをしたオールマイトが、まずは3位である焦凍の前に歩み寄った。
「3位と言うのは、まぁ少々残念な結果に思えるだろうが……何か、答えを見つけたようだね?」
「……まだ、全部じゃありません」
オールマイトの正面からの言葉に、焦凍は言葉を選びながらゆっくりと話す。
「俺の中に蟠ってたもんが、だいぶ消えましたけど……まだ、答えは見つかってません」
「そうだろう。人の気持ちというのはそう簡単には変わらない……だが、大会前の君とは、全然顔が違う!
事情は深くは聞かない。だが、今の君ならきっと清算できる」
そう言って、オールマイトは少し下げられた焦凍の頭からメダルを掛けると、優しく抱きしめる。
「――良い友達を持ったじゃないか」
耳元で小さく囁かれた言葉に、一瞬だけ目を見開くが――焦凍の顔は、すぐに微笑みに変わる。
「――俺には、勿体無いくらいです」
ハグから解放して、その言葉にウンウンと何度も頷くと、今度は2位――爆豪の前にまで来た。
「いやぁ、爆豪少年!!――伏線回収しちゃったな、ある意味でだけど!!」
「――――――――!!!!」
声にならない絶叫を上げながら火花を散らしている爆豪の姿を見て、会場中の誰もが思った。
顔スゲェ。
もはや人間の原型すら留めていない。悪魔かそれに近い凶悪な何かの顔のようにすら見える。
「HAHAHA、ジョークだよジョーク!!……あ、でもそのままだと話せないね」
一頻り笑った後のオールマイトに口輪を外された爆豪は、荒い息をしながら声を張り上げる。
「オールマイトォ、俺はんなもんいらねぇ!! 1位じゃねぇメダルなんかいらねぇんだよくそが!!!!」
「まぁ、そう荒ぶるなよ爆豪少年」
心の中で皆と同じく「顔スゲェ」と思いながらも、オールマイトは笑みを絶やさない。
「君のその周りに流されない価値基準は素晴らしいものだし、実際君の戦いは素晴らしいものだった!!
……だが、傷を、敗北を受け入れるというのも大事だぞ?」
「んなのとっくに受け入れてるわ!! だがなぁ、受け入れんのと甘んじんのはちげぇだろ!?
俺にとっちゃそのゴミメダル受け取っても良いこと1つもねぇんだよ!!!!」
……それは、オールマイトでも一瞬ハッとさせられる言葉だった。
受け入れるとは、現実に納得すると同時に、その現実を乗り越えていくという強靭な精神で為される事だ。
甘んじて受け取ってしまえば、負けたという事実にそのまま押し潰される。
――だが、それとこれとは話が別だ。
「じゃあ、反省の意味も込めて持っておきたまえ! いつでも自分を鑑みる鏡が出来たと思えば良い!!
うん、我ながらGOOD IDEA!!!!」
「いや受けとらねぇって言ってんだろうが!!!!」
メダルを受け取るまいと必死で首を振る爆豪に、さてどうしようと一瞬迷うオールマイトだったが、すぐに相手の口にメダルの帯を引っ掛ける。
まぁ、外しちゃった口輪代わりにもなるしね!! という意味もあるが、効果はあったようだ。
――そして、ゆっくりとした足取りで1位の、動島振武の前に立つ。
「お疲れ様、動島少年」
「……大会とは関係ないところで疲れましたけどね」
「HAHAHA、無茶した罰さ! 君、割とやりすぎ」
舞台を壊したのは、大半が振武だった。
怪我が1番多かったのも、よく良く考えてみれば彼だ。
だがその分多くの人に心配され、同時に多くの人に応援されて戦っていたのも彼だ。その姿は、まさしくヒーローらしいと言えるだろう。
無茶苦茶な事ばかりだったが、確かにこの大会はしっかりと歴史に刻まれることだろう。
「あぁ、ついでに言うとね……君のお母さん、君と同い年の時はこの表彰台に上がるどころか、トーナメントにすら残ってなかったんだよ?」
その言葉に、振武は目を見開く。
――学生時代、特に初期の動島覚は、単純な戦闘能力はあったが、反比例するように要領が悪かった。
オールマイトも大会でスカウトするプロの1人として見ていたが、結構酷かった。他の人間に足元を掬われアッサリ敗退。
当然指名もその時はつかなかった。オールマイトも、彼女が知り合いだからと言う理由で贔屓はしなかった。
勿論、その後みるみる技量を上げて行き、要領など全く関係ないくらい強くなるという大分力技で弱点を克服していったわけだが、
「胸を張れよ、動島振武――お母さんも、誇りに思うはずだ」
オールマイトの言葉に、振武は不敵な笑みを返す。
傲慢さはカケラもない、だが誇らしい笑みで。
「――そのメダルに相応しいように、精進して行きます」
疲れているだろうに、綺麗な礼をする。
その姿に、本当に自分の親類の子が優勝したような仄かな嬉しさを感じながら、オールマイトは頷いた。
「あぁ、きっと、君ならさらに上を目指せると、信じているよ」
メダルを掲げると、振武は素直に頭を垂れる。
その首に、メダルにが静かにかけられ、オールマイトはヒーローとしての笑みではなく、彼本人の笑顔を浮かべて振武を抱きしめた。
年にしてはガタイが良い……だが、まだまだ小さい体。
このどこに、数々の大技を繰り出す力があるのか不思議なほどだ。
……彼は道半ば。
そんな彼を支えていくのも、また自分が負った役目の1つなのかもしれないと、オールマイトは改めて実感した。
「さァ、今回は彼らだった!! しかし皆さん!」
ハグをやめると、会場いっぱいに座っている観客、生徒に向かって高らかに言い放つ。
「この場の誰にもここに立つ可能性はあった!! ご覧いただいた通りだ!」
壇上に立った彼らだけではない。見ている観客、テレビの向こう側に座っている人たちだけではない。
オールマイト自身の後継者である緑谷出久にも、惜しくも負けてしまった生徒達にも。
はっきりと自分の気持ちが届くように。
「競い!高め合い! さらに先へと登っていくその姿!!」
喜しさ、怒り、哀しみ、楽しみ、あらゆる感情が渦巻いた大会だった。
しかしそれは今はもう終わりを告げる。
視線を下げていた者は上げ、
心に重荷を持っていた者はそれを下ろし、
立ち止まってしまっていた者は前に進む。
そうなってくれるように、高らかに、朗々と宣言する。
「次代のヒーローは確実にその芽を伸ばしている!!」
君らは、必ず、ヒーローになれると。
「てな感じで、最後に一言!!
皆さんご唱和下さい!! せーの、」
雄英体育祭は、オールマイトと、未来を抱く明るい生徒達と、その未来を育む為に戦う教師、プロヒーロー達の、
「ぷるすう「plus「Plus、
『おつかれさまでした!!!!』
るとら」Ultra」
少々残念な宣言と、大きなブーイングで幕を閉じた。
「……っ、……っっ!!」
「………………」
時間は
振替休日である焦凍と振武は、大きな病院の中庭の芝生に座っていた。
片方は必死に笑いを殺していて、1人は仏頂面。
どちらがどちらであるかは、言うまでもない。
「1位が、ヘロヘロ……ブフッ」
「それ以上笑ったら暫く流動食しか食えないくらいボディーブローしてやる」
「いや、馬鹿にしてるわけじゃないんだが……クククッ、で? お前こんな所で何しているんだ?」
体育祭で処置してもらった傷は、もう全快しているように焦凍には見える。
それは、振武も分かっている。何せわざわざ振替休日にまでリカバリーガールに出張してもらって治してもらったのだ。全快と言っても良い。
「昨日、祖父ちゃんにも説教されてな、ここ最近怪我が多いって。
まぁ、それは勝ちっていうでっかい功績持って帰ってきたから、お小言程度で済ませてもらえたんだが……うちの父さんが、なぁ」
『振武くん、いくら怪我はリカバリーガールに治してもらって、診察も済ませてもらったとはいえ、どこにどんな後遺症があったり、命に関わる怪我が残っているとも限らないんだよ!!
良い!? 今日ちゃんと大きな病院でしっかり検査して貰わなかったら、ここから先1ヶ月は俺の事「パパ」って呼ばすからね!?』
それは何としてでも避けたい。
何が悲しくて精神年齢35歳、そうじゃなくても高校生になった自分が「パパ」などと恥ずかしさ100%な呼び方をしなければいけない!!
正直、それを回避するならば、検査でもなんでも受け入れる。
そう思って、この病院にやってきたのだ。ここに来たのは、単純にここが多くの種類の検査を一度に行なう事が出来るからだ、と壊は言っていた。
「――おかげで午前の予定が全部潰れたよ」
大変だった。
MRIやらCT、レントゲン、様々な検査をした。あれだけで一体いくら飛んでいるんだろう、補助とか効くんだろうかと心配になってくるほど。
しかも、病歴……いや、正しく言えば傷歴なのかもしれない。とにかくそれを医者に話すと、医者は何故か信じられないという顔になり、
何故か検査が増えた。
目付きも異常を調べる普通の医者の目から、
あれはちょっと怖い。
流石に非人道的なことは何もされなかったが。
「お前、歩き回る度に面白い事が起こるな。
エンターテイメントしやがる」
「何なのその語彙力……でも、否定できない自分が辛い」
ようやく飲み終えた地獄の飲み物のパックを、片手で握りつぶし、少し遠くにあるゴミ箱に向かって投げる。
少しだけ、黙ってそれを2人して目で追い、入るのを見届ける。
「で? お前はどうしてここに?
そりゃあかなり無茶やったけど、こんな大きな病院に来るほどじゃないだろう?」
振武の言葉に、焦凍は少し躊躇ってから……笑みを浮かべる。
「会いに来たんだ――母さんに」
風の吹く音が、嫌にはっきり聞こえる。
「……ここに、入院してたのか」
精神を病んだというのは、中学校の頃に聞いた。
顔を合わせるとか一緒に住んでいるとか、そんな様子はなかったから、別居しているか入院しているかなのかと勝手に思っていた。
まさか、ここだったとは思わなかった。
「ああ、奇遇だな」
「……なんか、微妙な奇遇だけどな」
焦凍が何でもない風に言うので、振武も大きな反応は見せない。
昨日の今日でもう会いに行ったのか、とは驚いている。
だが、焦凍ならそうするかもしれない、とも思った。
復讐に取り憑かれていない焦凍は、戦闘的な実力だけではなく、精神的にも十分強いし、思い切りが良い。思い立ったが吉日と思ったのだろう。
「……謝られた。ごめんって」
「……そっか」
「俺も、母さんに謝った。俺も多分、母さんを追い込んだ人間の、1人だから」
「…………」
「2人とも、年甲斐もなく泣いちまった」
「……そういうもんだろ」
「泣いて、泣いて……最後は一緒に、飲み物飲んだんだ。
沢山、沢山、話をしたんだ」
「……ああ」
「知らないことも、知ってることも、沢山あった。
俺の事も、沢山話した」
「……時間、かかったもんな」
「10年、だからな」
「重荷、1つ減ったか?」
「……あぁ、ちょっとは。
まだ俺はクソ親父を許せないけど……でも、それでももう拘りたくない。
母さんを、泣かせたくないから」
「……良いんじゃね?
あんなクソ親父、ちょっと塩対応に接した方がちょうど良い」
「……なんか、親父の事知ってる口ぶりだが?
あと、塩対応ってなんだ」
「ここで茶々入れんなよ、後で話すよ、言葉の意味も含めて」
「そっか……」
「おう……」
顔も合わせず、お互い空を見上げながら話し続ける。
焦凍の声は、昨日よりもさらに晴れやかなものだった。
良かった。
振武の心の中にあった気掛かりも、解消された。
まるで自分の事のように嬉しい。涙が出そうだったが、眼球を見開いて必死に耐える。
耐え切れなかったら、「太陽が眩しかったから」と言い訳しようと心に決めながら。
「……すまない」
唐突な謝罪の言葉に、思わず涙が引っ込んだ。
「はあ? 何いきなり謝ってんだ?」
「いや、俺……お前の事忘れてた。お前とした約束も、忘れてた。
忘れて、――酷い事、言ったから」
その言葉に、振武はすぐには答えない。
焦凍は、構わず話し続ける。
「お前との約束は、大事だったはずなのに。俺が、本当の意味でヒーローになろうと決めた、大事な事だったはずなのに。
母さんに煮え湯を浴びせられて、親父を憎んで……すっかり忘れていた。
「2人が誰かを救けられるヒーローになったら、また会って、一緒に戦おう」……あの時は、本当に叶うって、思ってた」
「……今は、叶わねえみたいな言い方すんな」
空から地面に視点が移ってしまった焦凍に、振武は呟くように言う。
「ちょっと道が見えなかっただけだ。
……あと、再会が早過ぎたな。俺たちは、まだヒーローにすらなれてない」
「ああ、そうだな……こんなに近くにいるなんて知らなかったし」
「お互い様。まぁ5歳児が1人で行動できる範囲なんて多寡が知れてるとは思ってたけど……近過ぎなんだよ、バーカ」
「俺が悪いわけじゃないだろ」
「まあな」
まるで猫のじゃれ合いのような言葉の応酬。
一頻りそれに笑うと、焦凍は言う。
「――なぁ、もう一回約束しなおさないか?」
「……3つ目?」
振武の悪戯っぽい顔に、焦凍は苦笑する。
「いや、1つ目を更新するだけだ。
そもそも、2つ目はお前が勝手にしただけだし、普通に成就しただろ」
「覚えてやんの、――じゃあ、そうだな。こういうのはどうだ?」
振武は立ち上がり、焦凍を見下ろす。
「『一緒に競って、一緒に頑張って……お互い、笑顔で誰かを護れるヒーローになろう』、とか。
今度はバイバイじゃない。どうせ同じクラスなんだ、一緒に頑張っていきましょうで良いじゃねぇか」
「……良いな、それ。凄く良い。
どうする? 子供の頃みたいに指切りでもするか?」
同じように立ち上がった焦凍に、振武は肩をすくめる。
「冗談。俺らもう高校生だぜ?
大人の男の約束の仕方って言えば、これだろっ」
振武が拳を突き出す。
傷を持ち、それ故に信念を湛える拳を。
焦凍は少し不思議そうな顔をしながら――何故かパーを出した。
「……俺の勝ちだ」
ダメだこいつ全然分かってない。
「誰がじゃんけんするて言ったよ! 拳と拳をぶつけ合うの!!」
「?……本気でやり合ったら、俺の拳潰れるぞ」
お前強い自覚あるのか、と間抜け面を見せてくる。
いやいやいや、どんだけ天然!?
あとどんだけ世間知らず!?
いや、俺も説明しなかったしこれ別に約束の作法じゃないけどさ!!
「軽くだ軽く、んな痛い約束の仕方俺だって嫌だわ。
ほら、拳出せ拳!!」
無理やり拳を作らせ、自分の拳に当てる。
――本当に、最後の最後まで締まらない。
それでも、
「ま、これからもよろしくな、焦凍!」
「――あぁ、よろしく、振武」
再び、約束は成された。
友とは本当に貴重なものだ。
血縁でも、婚姻でも、金銭でもない、連帯感や仲間意識とも少し違う。
小さな信頼をより集めて作られるそれは、作ろうと思って作れるものではなく、なろうと思ってなれるものではない。
親友などというものは、尚更だ。
しかし今日、動島振武と轟焦凍は、揃って生涯競い合い、喧嘩をし合い、時に手を取り合い、笑い、泣き、怒るような親友に巡り会えた。
――後に、この2人がヒーローとなり、本当に一緒に戦う日が来るのだが、
それは、まだまだ未来の話だった。
ようやく、雄英体育祭編は本当の本当に終わりです!!
雄英体育祭全体で考えると、全部で24話も掛かりました。当初はもう少し少ない予定だったのですが……いやぁ、予想は覆るもんですね!!
次回からステイン編だぁ!! こちらもまた伏線出まくり回収しまくりですので、どうかお楽しみに。
さて、ここで1つ提案なのですが。
原作者様は裏表紙からページの合間、様々な場所を埋めるように努力されておられます。
自分も、そろそろそういうのやりたいな〜っと思います。
「否そんなことしなくても良いよ」と思われるかもしれませんが、そういうのをやるのか、やらないかも含めてご意見いただきたいと思います。
https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=128847&uid=109094
下記の活動報告で募集しますので、皆さん賛否、または賛成ならばリクエストなどを書いていただければ。
オリキャラのプロフ、裏話など、答えられるもの、書けるものだったら書いていきたいと思います。
ただ、申し訳有りませんが全部は答えきれない可能性も無きにしも非ず(そんなにいっぱい来たらの話ですが)なので、どうかご容赦を。
次回!! オールマイトが疲れた顔をするぞ!! 大丈夫!?
感想・評価心よりお待ち申し上げております。