plus ultraを胸に抱き   作:鎌太郎EX

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episode3 殺すという事は

 

 

 

 

 

「オイラはMT.レディ!!」

 

 サムズアップで峰田は言った。

 

「峰田ちゃん、いやらしいことを考えているわね」

「良い加減その煩悩だらけの葡萄頭どうにかしろ」

 

「違うし!!」

 

 蛙吹と振武の手痛いツッコミに否定の言葉を上げるが、その顔では説得力に欠ける。

 

「にしても、みんな続々と決めているな……つうか、2日って無理ないか?」

 

 ヒーロー名を決定してからもう2日が経過している。

 その間に研修先をどこにするのか皆思い思いに決めたのだが、その基準もまた人それぞれだ。自分の長所を伸ばす場所に行く者もいれば、短所を改善出来るような場所に向かう者もいる。中には、そういうのとは関係ない場所に行く者も。

 出来る事もバラバラ、考えもバラバラな1年A組の面々の研修先は、並べてみれば実にバラエティに富んでいる。

 

「そういう振武さんも人のことは言えません。即決だったじゃないですか。

 ワープワーヴさんの所に行くんでしょう? 知り合いだから楽だなぁって考えだったら今からお説教ですよ?」

 

 後ろを振り返ってそう言う魔女子に、振武は「失礼な」と顔を顰める。

 

「そんなんじゃないよ。転……ワープワーヴさんは、敵捕縛もするが、基本は災害時の避難誘導や救助をメインに活動してるんだよ」

 

 転移ヒーロー《ワープワーヴ》。手からまるでカウボーイが振るうような輪っか状のロープを出し、その輪っかの部分にはいるものなら、どんなものでも自分の知っている場所に飛ばせる。貴重なワープ系個性だ。

 輪っかの大きさが直径5メートルでそれ以上大きなものは転移出来ないのと、その構造上自分自身が転移出来ない事を除けば弱点はあまりない。

 捕り物に一家言あっても基本は13号と同じ活動範囲で人を救っているそうだ。昔バリバリ戦闘系ヒーローの母さんの元にいたとは思えないほどの転身ぶりと言ってもいいだろう。

 

「災害救助ですか、またそれは……意外ですね。振武さんならば、もっと戦闘能力を活かせる職場をお選びになると思いましたわ」

 

「そう思われると思ってたよ、こっちも」

 

 百の言葉に笑顔を向ける。

 確かに、指名の大半……と言うより8割がそういう鉄火場を得意とするヒーローの事務所だった。トーナメントなどの活躍を見れば戦闘能力はある振武だ、期待されるのはしょうがない。

 ……いや、天狗じゃないよ?

 

「でも、ヒーローってそればっかじゃやってけないだろう?」

 

 敵退治、災害救助、それらの調査、テレビ出演、etc.

 ヒーローが求められる事案は多い。勿論全て出来るようになるなんて事にはならないが、それでも現場に立てばそういう事に関しての判断能力は鍛えられるはずだ。

 

「俺の個性なら、掘削とかでも役に立つ。

 それに、最近考えたエコーロケーションの技があってだな」

 

「もはや動島くんの個性が何だったか忘れそうです。一応聞きますけど、振動で合ってましたっけ?」

 

「応用範囲を広げる振武さんの向上心には、こちらも驚かされてばかりですわ」

 

 ほっとけ。

 出来る事を増やして行く。そうすればあらゆる状況に対応出来るようになるのだから、鍛錬は大事だ。

 ……趣味も兼ねているのは、確かだが。

 

「で? そういうお前らはどこに行くんだ?」

 

「私は、《ウワバミ》さんの所ですわ」

 

 ウワバミ……確か敵探索などのサポート仕事が多かった気がする。あと、副業にも積極的なんだとか。たまにCMなどで見かけることがある。

 

「指名をいただきましたし、女性ヒーローとしての活動を思う存分学んでいこうと思いますわ」

 

 やる気満々、と言わんばかりに鼻息を荒くする。

 相変わらず真面目だ。

 

「塚井はどうだ?」

 

「私ですか? ……本当は弟が好きというのもあって、海鮮ヒーロー《タコサヴァイバー》のところに行きたかったんですが、あいにく指名はありませんでした。ちょっとジャンルが違いますしね。

 ですので、狩猟ヒーロー《ロビン・アロー》の所に行こうと思います」

 

 ロビン・アロー……こちらはウワバミほど有名ではないだろう。相澤と同じくメディアを嫌う傾向がある。

 狩猟ヒーローと名乗ってはいるが、本分はそこじゃない。自然公園や保護区などで自然動物を守り、管理する。密猟者相手に戦っているヒーローだ。確か普通の弓ではなくクロスボウ使いだったはずだ。

 

「私の個性であれば、動物に紛れて監視出来ますし、何より自然を大事に、動物を大事にというその姿勢は見習うべき所です」

 

「なるほど、そっちはある意味長所を伸ばすって感じか」

 

「そうも言えますが……私の個性は、私自身が強くなるという事はありません。使い魔の強さに依存します。

 だから使い魔が自由に動ける環境で、どこまでやれるのかちょっと試したくなりまして。それに、大きな森なのであれば、操作距離や探索能力が上がるかもしれません」

 

 想像していた以上に、ずっと真剣な顔で語る魔女子に、振武は頷く。

 

「良いんじゃないかな……で? いつまでも隠している焦凍くんはどこに行くのかな?」

 

 休み時間なため、近くに移動している焦凍に振武が話しかけると、少し言い辛そうだ。

 

「……言うと、皆意外というか、多分驚く」

 

「驚くような所に行くのか……いや、焦凍。それ逆効果だぞ、それ言ったら余計気になるだろうが」

 

「そうです焦凍さん、さぁ、情報を吐くのだ轟焦凍」

 

 昨日何かの映画でも見たのだろうか。やたら芝居掛かった台詞で詰め寄る魔女子に、焦凍も観念したのか、小さく溜息を吐いて、

 

 

 

「……エンデヴァー事務所」

 

 

 

 小さい声で爆弾を投下した。

 ……3人が揃って何も言わず、驚いている。

 当然だ。つい何日か前まで彼が悩まされ、必死にならざるを得なかった元凶である自分の父親 その事務所で研修するというのだ。

 今までのことを考えれば、ありえないと言っても良い。

 

「……なんか、考えがあるのか?」

 

 振武の言葉に、焦凍はハッキリと頷く。

 

「……俺は親父を否定するばっかで、今までちゃんと見てなかったと思う。

 父親としてのアイツは、今も嫌いだ、許せていない。だがちゃんとヒーローとしてのアイツも見てみれば、また何か違うのかな、と」

 

 嫌うからこそ、今まで見てこなかった。

 だが今度からは、嫌いだからこそちゃんと見据える。憎む相手が、嫌う存在がどんなものなのか。

 

「……そうですか。

 何か嫌な事がありましたら、ちゃんと連絡ください。愚痴どころか復讐もいくらでもお付き合い「塚井さ〜ん」嫌だなぁ動島くんジョークですよジョーク」

 

 何か物騒な事を言っている魔女子に忠告の意味も込めて名前を呼ぶと、慌てたようにこちらを向く。

 皆、前に進もうとしている。

 職場体験……思ったより、皆が自分を変えるきっかけになれるかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 時間と場所が変わって、すでに時は放課後。何でも無いように時はあっさり流れているが、今日も今日とてかなりハードだった。

 振武は、珍しく1人で帰り道を歩いていた。

 ここ最近は4人で行動するのが基本となっていたので、久しぶりに1人なのは少し良い。どんなに仲の良い友人でも、プライベートな時間は大事なものだ。

 百は家の用事があるとかで、早めに迎えの車に乗って行ってしまった。ギリギリまで謝罪と名残惜しさを感じていたようだが、用事に遅れるのはまずい。振武も魔女子も焦凍まで説得して、渋々帰って行った。

 焦凍と魔女子は……魔女子に言わせればデートだが、多分焦凍は全然分かっていなかった。何故ならこちらもギリギリまで「ちょっと出かけるだけなら振武も一緒でいいじゃねぇか」と言っていたからだ。魔女子の刺さるようなアイコンタクトを受け、俺は丁寧に断った。

 馬に蹴られて死にたいと思う人間はどこにもいない。

 と言うわけで、散歩も兼ねて電車に乗らず、のんびりと歩いて家路に着いている。

 帰っても、今日も父も祖父もいないのだから。

 ……最近、2人揃って忙しそうだ。祖父に関しては元々家同士の繋がりや、警察幹部、ヒーロー関係の有力者との繋がりも多い人だった。だからたまに家を空ける事ならば良くある。

 だが、父――動島壊に関しては分からない。

 これまでこんなに長い期間家にも帰れないほど忙しいなんて事はなかったし、理由を聞いても何故かはぐらかされる。

 あの動島壊だ。息子である振武を変に溺愛し、家族を大事にする父親だ。

 よもや犯罪に関わるような事はないだろうが、

 

「……やっぱ心配だよなぁ」

 

 心配なものは心配だ。

 例えどんな事情があれ、何かあるのであれば話してほしいし、手伝える事があれば協力したい。それ以上にここまで大変そうな仕事で体調を壊していないかも心配だ。

 振武の食事に対して栄養素まで心配する父親のことだ。食事には気を使っているんだろうが、それでも心配する。

 家族をとは、そういうものなのだ、と振武は思う。

 どんな事でも、どんな些細な事でも、やっぱり心配は心配なのだ。

 

「……ん?」

 

 そう考え込んでいると、通り道の横にある少し大きな公園の中に、見知った姿を見つけて思わず立ち止まる。

 自分と同じ雄英の制服。自分以上にきっちり着ているのはその性格ゆえだろう。

 そして、うちのクラス唯一の眼鏡。公園のベンチという寛げるだろう場所でも崩さない姿勢。振武よりも大きな身長。

 間違いない、飯田天哉だ。

 

「………………」

 

 飯田が公園で何をしているかといえば……何もしていない。

 虚空を見つめるというより睨みつける飯田はいつも通りと言えばいつも通りなのだろう。

 だが短く、接点の多く無い付き合いであっても、何か考え込んでいる様子だというくらいはすぐに分かった。

 

「……ハァ」

 

 その様子を見ていた振武も、少し小さな溜息を吐いて、近くにあった自販機に財布から取り出した硬貨を入れる。買ったのは、オレンジジュースと缶コーヒー。2つとも缶コーヒーにしても良かったが、飯田ならこちらの方が良いかもしれないと思ったから。

 その2つを器用に片手で持ちながら、飯田の座っているベンチに近づいた。

 

「――ヘイ、そこの眼鏡くん。もし良ければ間違えて買ってしまったこのオレンジジュース一本を貰ってくれないかね? 甘い気分じゃないんでね」

 

 少しの嘘を吐きながら、飯田の視線があるであろう場所にオレンジジュースをチラつかせる。

 どうやら振武が近付いた事も気付かなかったらしく、驚いたように顔を上げる。

 

「っ――なんだ、動島くんか。こんな所で何を、」

 

「ここ、歩いて帰る時の俺の移動ルートなんだよ。丁度飲み物買っている時にお前が見えてな。

 つまり、俺が間違ってオレンジジュースを買ってしまったのはお前に余所見していたのが原因だ。責任持って付き合えよ」

 

 飯田に無理やり受け取らせると、隣の空いているスペースに座る。それなりに身体つきが良い2人だが、それでも多少スペースに余裕があるベンチだった。

 振武の行動が一瞬どういう意図の物か分からなかったからか、戸惑ったように缶を見つめていたが、すぐに「ありがとう」とだけ言ってプルタブを空け、中身を煽った。

 

「……どうして、俺に話しかけたんだ?」

 

 目を伏せて、缶を少し手持ち無沙汰に動かしながら、飯田は言った。

 

「言っただろう、お前のせいで間違えて「方便なのは分かっている」……あぁ〜、ちょっと心配になっただけ」

 

 飯田の顔。

 あの顔は、何かを思い悩んでいる顔だった。自分の存在、これからの事、――何かを失った時の喪失感。

 見覚えがあった。だいぶ昔、振武はその顔をよく鏡ごしに見ていた。

 飯田の今の顔は、雰囲気は、態度は――母が死んだ時の自分に、少し似ているような気がした。

 

「……心配かけてすまない、だが俺は」

 

「大丈夫、なんて言葉が出てきたら流石に怒るぞ。

 ――緑谷から、少しだけ聞いている」

 

 ヒーロー・インゲニウム。

 つまり飯田の兄が、ヒーロー殺しと呼ばれる(ヴィラン)・ステインに倒され、重傷を負った。細かい話は聞いていないが、触り程度だったら分かる。

 

「身内が傷ついて辛い時だってのは俺も分かるからな……無理に話さなくても良い、気分転換にちょっと付き合えって話よ」

 

「……すまない」

 

「謝んなよ」

 

 真面目か、と振武は苦笑して、そこから会話は途切れる。

 話してもどうにもならない気持ちというのはあるものだ。どんなに周りから元気を出してと言われても、元気を出せる心を失い、あるいは失いかけている人間には余計なお世話だ。

 だから振武からは何も話さない。

 話したい事があるならば、自然と話してくれるだろう。

 そう思って、振武は黙って隣に座り、買ったコーヒーを啜る。

 ……調子乗ってブラックにするのではなかったな、と軽く後悔しながら。

 

「……動島くん、とてもプライベートな事を聞くのだが。

 君は、お母さんを殺した敵を憎んだり、恨んだり……殺したい、と思った事はないか?」

 

 飯田にしては珍しく……いいや、虚飾を排する飯田だからこその言い回しで、振武の方を向こうともせずに聞く。

 振武はその言葉に少し考えるそぶりを見せ、

 

 

 

「……ない、な」

 

 

 

 そう答えた。

 

「――ないのか?」

 

「ああ、ない……はっきり言っちまえば、お前とは少し状況が違う。

 俺の母さんを殺した奴は、追い詰められて、何かしらの事情があった、何処にでもいる普通の人だった。運が向いてりゃ敵にだってならなかった。

 それに――そいつは、俺の目の前で死んだ」

 

 今でも覚えている。

 鮮烈な赤。

 噴水のように首からそれを噴き出していた男の顔は、様々な感情がごちゃ混ぜになり黒にしかならないような。そういう顔。

 本心がどうだったかは知らないが……あの男もまた、あんな結末を望んでなかったんだろう。

 

「そりゃ、何で、とは思ったけど……事情を知れば知るほど、怒れなくなっちまった。

 憐れみはないが、俺がどうこう言う事じゃない。あの頃1番恨むべくは、自分だったしな」

 

 嬉々として――あるいは何かの信念としてヒーローを殺し続けるステインとは、まるで違う。思想も何もない。あったのかもしれないが、それ以上に個人的な社会への理不尽が強かった

 あの頃1番感じていたのは、自分の無力と不甲斐なさだけだった。。

 

「……動島くんは凄いな。俺はそこまで人間が出来ていない。ステインが、ヒーロー殺しが、憎くて憎くてしょうがない。

 アイツは、僕の憧れを汚した。誰かを救ける事に生き甲斐を感じていた兄さんの、その生き甲斐を奪い、今では半死半生だ。

 許せるわけがない――恨みを抱かないわけがないっ」

 

 ギチッと感が歪む音がする。

 飯田の体に、拳に力が入っているのが分かる。

 

 

 

「――俺は、アイツを殺したい」

 

 

 

 明確な殺意。

 脳無のそれとは違い、はっきりと誰かを殺害対象として認識する、憎悪の殺意。それが飯田から漏れてくる。

 嫌な話だ。

 仲間からそんな気配を感じてしまうのも、それに少し反応して筋肉がこわばるのも。その気持ちを否定できない自分も。

 おそらくステインを目の前にすれば――彼はその衝動を抑えられないという事実も。

 

「……俺はその気持ちを否定することは出来ない。思うことは自由だ。お前には恨む権利も憎む権利もあるさ。

 だが、それを実行に移すとなると話は別だ。お前にも分かってるだろう」

 

 飯田は何も答えない。

 振武はそれでも話し続ける。

 飯田の耳に、頭に、心に。その言葉が届いている事を願って。

 

「どんなに相手が悪かろうが、お前に正当性があろうが、それが免罪符になっちゃいけねぇんだ。

 相手を守りたくて言ってる訳じゃない。人を殺すと、自分が死ぬからだ」

 

『人を殺せば、自分を殺す。理性と言う名の、善性の部分を取り返しの付かない状態に追い込む。それは人として終わりだ。殺人者という外道が残るだけだ』

 祖父からの受け売りだが、自分もそう思った。

 人を殺せば殺すだけ、自分の中の大事な何かが欠ける。

 飯田天哉には、そんな存在になってほしくはない。

 

「……ジュースをありがとう。今度何かお礼をさせてもらう」

 

 最後まで目を合わせず、飯田は立ち上がる。

 ……ここまでだ。

 自分はここまでしか踏み込めない。

 飯田天哉の事情に踏み込めるだけの関係性は自分にはない。出来る人間がいるとすれば、それは本当の意味で友達な出久や麗日だけだ。

 

 

 

「よく考えろ、飯田天哉。

 お前が自分を殺す結果になった時、何が起こって誰が悲しむか、何を失って何が出来なくなるのか……よく考えて、選べよっ」

 

 

 

 飯田の背中に、虚しく振武の言葉が響いた。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 ワープワーヴ事務所。

 東京都にあるそこの自分の部屋で、ワープワーヴはじっと一枚の書類を見ていた。雄英から届けられた書類だが、そこには動島振武が6000近くある指名の中から自分の事務所を選んだ証明だった。

 嬉しいが、出来れば来て欲しくなかった。

 ブレイカーは振武がワープワーヴの事務所を選ぶと予想して計画を立てていたが、ワープワーヴは正直どうなるか分からなかった。彼は人の予想を裏切るのが上手い子だから、もしかしたらブレイカーの予想も裏切ってくれるかもしれないと期待した。

 それも徒労だったわけだが。

 

「ブレイカーさんに指示されて、加担しちゃってるからなぁ……ハァ、何やらかすつもりだ、あの人」

 

 詳細は聞いていない。

 振武をより強く、より生き残るようにすると聞いている。だが、あの(・・)ブレイカーが何かを酷い事をしでかすのは間違いないだろう。

 だが、こちらが下手に止めれば彼は暴走するに違いない。取り返しの付かない方法を取るに違いない。

 だから自分が制御出来るように、舵を取れるように協力したのだが……それは今の所まるで上手くいっていない。

 不安はある。

 だが、もしかしたら彼なら大丈夫かもしれない、とも思う。

 

「……振武くん、成長したなぁ」

 

 動島振武。

 最初仲良くしていた頃は、大人っぽい頭のいい子だった。だからこそ考え過ぎて、自分で自分の迷路に入り込む節があるちょっと心配な子だった。

 だが、母の死を乗り越え、ヒーローになると決めてからの彼は素晴らしい。殆ど会う機会はなかったが、会うたびに強くなっていっているのが見ていて分かった。

 この前の体育祭を見る限り、正面から戦ったら自分は間違いなく負けるレベルだ。実戦経験という意味ではまだ薄いが、何でもありになれば苦戦させられるんだろうなぁ、と今更ながら自分の戦闘能力のなさに溜息が出る。

 そこは母親の血なのか分からないが、やはり彼にはヒーローとなる才能があった。

 体だけではない。心が強くなった。会話は遠くてほとんど聞けなかったが、きっと彼の事だ。誰かの為に頑張っていたのだろう。その後どうなったかは分からないが、きっと目的のモノを手に入れたに違いない。

 なんの根拠もないが、そう思えるほど彼は真っ直ぐで、必死だった。

 心身共に、強い若者に成長している。

 だから、今度も。

 ブレイカーが何を目的とし、何をするにしても。

 動島振武なら乗り越えてくれるかもしれない。そういう期待感に、不謹慎ながら胸が踊る。

 

「……なんか問題があったら、ライセンス剥奪だなぁ。

 折角独り立ちして上手く行ってたのになぁ、転職って今の年齢から大丈夫なのかなぁ?」

 

 いや、クビだけで済むか? 下手をすれば自分も逮捕されそうだな。

 ……分壊ヒーロー《ブレイカー》。

 自分の世代であればそれなりに有名だ。あの頃のヒーローの中で1番グレーゾーンを歩んだ人だし、あれほど他のヒーローに蛇蝎の如く嫌われた人間も少ないだろう。

 彼は彼の信念の元動いた事であっても、手に入れた成果が仲間に嫌われる理由になり、あらゆる手段を講じて戦ったその姿は自身への憎しみを増すばかり。

 不器用な方法しか出来ない、優しいヒーロー。

 どうしてヒーローを辞めたかなど、ワープワーヴは詳しい事情を何も聞かされていない。本人が話したがらないのを、無理に聞く気もない。

 でも、彼が傷ついている事も間違いない。

 そしてそれは自分が救けられる訳ではないのも。

 救けられるとすれば、

 

「……何を考えているんだろうな、僕は。

 まだヒーローにもなってない子供には、荷が重すぎる」

 

 苦笑を浮かべて一息ついてから、机に向かう。

 ワープワーヴ、転々寺位助はそう呟きながら、出来る事を精一杯やる。

 誰かが悲しまないように、誰も悲しまないように。

 自分が出来る事を精一杯。

 そう心に決めてから、彼は取り敢えず書類を片付ける為にペンを握った。

 

 

 

 

 

 




名前:転々寺 位助(てんてんじ いすけ)
所属:ワープワーヴ・ヒーロー事務所
Birthday:12月3日
年齢:33歳
身長:190cm
血液型:A型
出身地:横浜
好きなもの:野球観戦・西部劇映画
戦闘スタイル:サポート
個性:転位
手首から輪っかが付いたロープ状の物を出し、その輪っかから自分の知っている場所に転移させられる。距離の制限はない。
基本的にロープを切り離すことは出来ない(自分の体の一部)な為、自分自身を転移する事が出来ない。最大5メートルまで輪っかを広げる事が出来るので、大人数の移動も可能!

性格
真面目で常識がある、良くも悪くも普通の男。
特徴が薄いので人気はそれほどでもないが、サイドキックなどからは信頼される、兄貴肌で面倒見のいい一面もある。だがそれが裏目に出て、先輩方から厄介事を引き受ける事もあるようだ。
実は、婚約者がいる(一般人)。
虫系全般が死ぬほど嫌い。
服装は楽という理由でワイシャツジーパン(淡い色合いを好む)が多いのだが、いつも「個性が足りない」と知り合いに言われて凹んでいるとか。


パワー➡︎➡︎➡︎C
スピード➡︎➡︎➡︎➡︎B
テクニック➡︎➡︎➡︎➡︎➡︎A
知力➡︎➡︎➡︎➡︎B
協調性➡︎➡︎➡︎➡︎➡︎A


裏話☆メモ


特になし!!!!

いや、このキャラほど最初から考えていた通りに動いてくれるキャラはいないです。
キャラが個性的で勝手に動き始める事も多い自分のキャラとしては珍しく、狙った通りのことを言ってくれる人物。
正直1番いてくれてありがたいキャラかもしれません。



次回から、本格的に職場体験の始まりです!!
楽しんで頂ければ幸いです。


次回!! 位助が苦笑いするぞ!! ドリンクバー飲んで待て!!


感想・評価心よりお待ちしております。

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