plus ultraを胸に抱き   作:鎌太郎EX

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episode4 廃墟にて

 

 

 

 

 

 東京へは電車で1時間半。

 生まれ変わってからこっち、父も忙しく、旅行などで県外へ出る事はなかった。東京なんて遥か遠くのように感じていた。

 この時代がどこまで発展しているかは謎だ。もしかしたら自分が知っている東京の姿とは違うものになっているかもしれないと思っていたのだが。

 

「……変わってないもんなんだな、意外と」

 

 新幹線を降り、電車を乗り継いでワープワーヴ・ヒーロー事務所の最寄り駅までやってきてからそう思った。

 渋谷。ここがワープワーヴの事務所がある街。

 細かい地名は変わっていたが、流石に元々あった大きな街などの変化はない。黎明期には東京はアメコミに登場する悪の街レベルにまでなってしまったようだが、こうして見ると復興は上手くいったようだ。

 建っているビル、看板など多少の変化はあっても、そこは前世で見た渋谷とそれほど大きな違いがない。

 ……学生時代は良く友人と遊びに来ていたなぁ。そう言えば彼女ともここに来て買い物をした憶えがある。勿論、前世でだが。

 

「――さて、事務所探さなきゃ」

 

 心の中に脈打つ郷愁を振り払い、地図を広げて目的の場所に向かって歩き始めた。

 

 

 

 

 

 研修場所を決めてから1週間。

 1週間で出来る準備などそう多くはないが、それでも授業は現場に立った時の心構えなど、やはり職場体験を意識した授業が組まれていた。

 それを学びながら、皆自分がどんな体験が出来るのか、どんな事件と遭遇するのか、そんなことを思い描きながら、浮き足立つ心を取り敢えず押さえ付けて授業を受けていた。

 ……いや、皆ではない。

 2人で話したあの日から飯田が気になって、不自然にならない程度に見て来た。

 表面上は普通だ。

 ……表面上は。

 表面上大丈夫というのは、それはそれで怖い。腹の中で何を溜め込んでいるのか分かったものではないからだ。周囲を気にせず泣いたりするのは、ぱっと見心配になるが、掛かったストレスの解消としては有効だし、早めに解消される。

 暗い気持ちは溜めれば溜めるだけ強く、歪んだものになっていく。

 何もなければ良い。

 心配して損したと言えるのが、1番良い。

 だが何かあったら――踏み込めなかったという、ただそれだけの理由で何も出来なかったら悔しい。

 といっても、今の状況ではどうしようもない。

 

「ここ、か」

 

 目的地に到着した事を住所と看板で確認してから顔を上げる。

 

「……意外と、デカイな」

 

 5階建てのビル。高層ビルが多い都内ではそう大きいと言えないビルだが、このビルの何階に事務所を構えているとかそういう話ではない。

 このビルが、ワープワーヴ・ヒーロー事務所なのだ。

 ヒーローの装備、備品の保管。サイドキック以外にも事務員やプロデュースを担当する社員などのオフィス、さらには訓練施設。

 それらを纏めて入れるとなると、これぐらいがちょうど良いのかもしれない。

 会社としてなら中小企業だが、ヒーローの事務所としては平均よりも大きい方だろう。

 

「そうだった。昔とはもう、違うんだもんな」

 

 今や転々寺――ワープワーヴは、今や人気ヒーローの1人なのだ。これくらい出世してる。

 メールや電話、プライベートで会う時は、基本的に普通の、気の良いお兄ちゃんといった印象しかなかったが。

 

「何をボ〜ッとビルの前に立っているんだい」

 

「いや、なんか母さんに怯えていた転々寺さんが、こんなに立派になってと感慨深くて……って、」

 

 無意識に返事をしていた事に自分で驚いて、振武は見上げていた視線を下げる。

 そこには、ツンツンとしたオレンジ色の髪。

 

「いや、あれは君のお母さんが特別酷かっただけだから。というか、誰目線で話してるの君は」

 

 ワープワーヴ……いや、今はヒーローコスチュームを着ていない、転々寺位助がそこに立っていた。

 

「ワー……転々寺さん」

 

「名前はどっちでも良いよ、現場ではワープワーヴの方が良いんだけど。

 意外と早かったね、もう少し時間がかかると思っていたよ。ほら、君は東京の地理に詳しくないから」

 

 すいません、実はそれなりに詳しいんです。

 とは大真面目に返さずに、振武は笑みを浮かべる。

  「これでも、方向感覚は良い方なんですよ?

 それにしても、社長自らお出迎えとは嬉しいです」

 

「あはは、君と僕の仲じゃないか。どうしても最初に話しておきたくてね、ここから忙しくなるからゆっくり話も出来ないし。

 荷物は、それで全部?」

 

 プライベートな話を仕事中にするわけにもいかないのは分かる。転々寺に、はいと言いながら荷物を掲げる。

 1週間分の荷物と自分のコスチューム。一応コインランドリー(この時代にあるのだろうか)を使う事も想定してコンパクトに纏めた荷物を見て、転々寺さんは頷く。

 

「よしよし……まずはお礼を。僕はそれなりに有名になったとは言え、一流とは口が裂けても言えない。そういうヒーローの元に来てくれた事を感謝する。

 君だったら、戦闘系大手からだって指名されただろうに」

 

「いいえ、今の俺に必要なものを、転々寺さんから学びに来たんです、お礼なんて全然」

 

 戦闘ばかりじゃどうしようもならなくなる。出来るだけ多くに人を救うためには、出来るだけ出来る事はしないといけない。

 振武の真摯な言葉に、転々寺は少し複雑そうに頷く。

 ――複雑そうに?

 何故、

 

「うん、君だったらきっと、素晴らしいものを持って帰れると思う。

 

 

 

 だから、先に言っておく――ごめん」

 

 

 

「、え、」

 

 目の前の相手が味方で、昔からの知り合いで、そんな人から予想外のことを言われた。

 驚き、

 疑問、

 それらの要素が合わさって油断した。

 ――振武の視界はいきなり街中から、ボロボロの廃墟に変わっていた。

 

 

 

 

 

 

 築何年とかそういうのを考えるのも馬鹿らしくなるくらい、ボロボロの建物だった。

 どうやら元々は大きなマンションか何かだったようで、ここは広いエントランス。昔は綺麗な場所だったんだろうが、今は見る影もない。

 窓に侵入出来ないように打ち付けられた板は所々が剥がれ、明るさを中に招き入れているが、それでも薄暗く雰囲気が良くない。

 ……その中心で、振武と振武の荷物がポツンと何かに取り残されたように立たされていた。

 

「……――え〜」

 

 思わず脱力し間抜けに聞こえる声を上げた。そういう構造になっているのか、それは木霊を作り出し部屋全体に反響した。

 えー、なにこれー。

 少し前まで転々寺となんて事のない会話をしていたはずなのだ。それなのにいきなり謝られるし、いきなり飛ばされるし、ボロボロだし。

 意味不明だ。

 

「もう何なんだよ〜、要らないよこういうサプライズ〜」

 

 周囲を見渡すが誰もいない。転々寺は自分の個性で自分自身を転移する事は出来ないので、当然ここにはいない。

 ――驚きはしているし、何故ここにという疑問は残っているが、動揺はしていない。

 こういう嫌なタイプのサプライズには慣れている。動島流の門下生は首をヘドバン並みに縦に振ってくれる事だろうが、動島流の修行は動島振一郎の唐突で無茶な指示が常に付きまとうのだ。

 これくらいなら出来る、を超えてくるとさらに難しい事をその日のうちに言ってくる。

 必死に全力を出しきればギリギリ超えられるかもしれない位のところを。

 

「……ハァ、でも、意味が変わらないのは確かだもんなぁ」

 

 だが振一郎は明確に目的を説明してくれる。

 これを訓練として行わせるのは、こういう目的があってするんだという理由を説明してくれる場合が多い。こんな唐突で意味不明なのはなかった。

 だとしたら、まず振一郎の提案ではない。

 転々寺さんの性格的にこんな事をするような人ではないのは10年以上の付き合いから分かっている。面倒見がいいあの人が、後輩を無責任に放り出す事はしないだろう。

 じゃあ、

 

「いったい、誰が、」

 

 

 

『俺の提案だよ」

 

 

 

「――っ!?」

 

 いきなり現れた気配に、脊髄反射で距離を取って構える。

 先ほど振武が立っていたちょうど背後に――男が立っていた。

 不気味。

 その一言が似合う男だ。

 全身黒いその姿は比較的軽装だ。黒いパンツ、軍用ブーツのようにガッシリした靴、ノースリーブのTシャツのも見えるそれは、薄暗い中でも防御力がありそうだ。足にはしっかりとプロテクターが付いているが、手には何も付けていない。

 体格は良い。自分と同じ速度を重視してか筋肉ダルマと言う程ではないがシャープな筋肉が付いていて、身長も自分より10cmは高いだろう。

 そして何より異様なのは、その仮面だ。

 半分は笑い、半分が泣いている仮面がこの薄暗がりの中でボンヤリと浮かび上がっている。

 いつ、どこから?

 確かに何かの残骸や何かが多いが、彼のような人間が隠れられるサイズの物は一つもない。それなりに広く開けた場所、しかも反響するこの部屋で足音一つたてずに自分のすぐ背後にいた。

 そういう個性の持ち主なのだろうか。

 

『やぁ、初めまして、動島振武くん」

 

 機械を通しているのか、その声は違和感を隠しきれないほど高く、文字通り機械的だ。それが、より一層不気味さを際立たせる。

 

「……すいません、どちら様でしょうか?」

 

 構えを解かずに質問すると、仮面の男は小さく笑い声を上げる。

 

『俺の名前は分壊ヒーロー《ブレイカー》。書類上は、ワープワーヴの部下という事になっている」

 

「ワープワーヴさんの……?」

 

 つまり、彼がここにいるのも転々寺の考えの範疇なのだろう。

 

「……どういう事か説明してもらえますか?」

 

 仮面の男――ブレイカーは、その言葉に首を振る。

 

『0点だ。こんな所でそれを聞いても意味がない。もし俺が敵だったら、そんな質問にわざわざ答えると思うか?」

 

 ……道理だが、今の状況と関係はない。

 

「貴方、ヒーローなんでしょう? なら敵じゃないし、ここはそういう危険な状況だとは思えないんですけど?」

 

『確かに、本質だけを見ればね。

 だけど、この世界には悪いヒーローも山ほどいるし、今は君にとっては多少危険な状況なのは確かだろう」

 

「……何かの、訓練って事ですか?」

 

 振武の言葉に、ブレイカーは頷く。

 

『似たようなものと判断してくれて良い。点数にするなら80点くらいだ」

 

「満点じゃないって所が怖いんですけど……」

 

 警戒は解かずに、しかし構えを解きながら振武は相手を睨みつける。

 油断をするな。

 自分の本能にも似た部分が警告する。目の前の男に心を許してはいけない。多分、許した瞬間、ナニカをしてくる。

 

「……で? まず何を?」

 

『そうだな……まずはコスチュームを着なさい。君が完全に本気を出せる状況にならなければ意味はない。

 君はコスチューム無しでも強いが、コスチュームがあった方がさらに強いだろう」

 

「知ってて貰えて嬉しいですよ」

 

 どうやら、なんの準備もさせずに何かをさせる気はないようだ。

 少し安心しながら、コスチュームが入っているバッグを開けた。

 

 

 

 コスチュームはUSJで襲撃を受けた時にボロボロになったが、出久のように着られない程ではなかったので、修理に時間はかからなかった。

 だが久しぶりに袖を通すその感覚に、高揚感が増す。

 これを着るだけで、自分の中で何かのスイッチが入る。

 荷物は一応隅の方に置いておいた。着替えさせていきなり何かされても大丈夫なようにだ。

 

「で? 着替えましたけど、何をするんですか?」

 

 そう言った振武に、仮面の男は、

 

『0点」

 

 とだけ答えた。

 

「……あの、良い加減にして欲しいんですけど。さっきから人の言葉に勝手に点数つけて、」

 

『ここでは私が教官のようなものだ。

 良いかい、敵に目的を聞いたところで答えてくれるわけが無い。そんな親切な人間はいないだろう?

 ……だがまぁ、そうだな。一応触りくらいは説明しておいた方が良いのか?」

 

 振武に話しかけるのではなく、どこか自分に問いかけるような言葉に眉を顰める。

 多分、ブレイカーは教える事に関しては素人だ。立っている時の姿勢の良さから考えると何かしらの武道をやっている事は間違いない。多分、実戦経験なども換算すれば、振武より強い。

 それでも、人に教える事はして来なかったのだろう。

 

『――動島くん。君は人を殺すという事をどう定義付けている?」

 

「……いきなり哲学ですか?」

 

 振武の言葉に、ブレイカーは答えない。

 俺に聞いてないでさっさと答えろと言われているようで、妙に苛つく。

 

「……〝自ら相手を理不尽に終わらせる事〟、ですかね」

 

 病気や老いは如何あっても回避出来ない。

 そもそも死というのは回避出来ない。この世界で生きている限り、皆理由や方法は違くても全員死ぬ。

 だがある程度の部分には裁量権を与えられている。

 様々な方法で死を遅らせる事は出来るし、逆に早める事も。

 正直言えば振武にはそこは興味がないし他意はないが、振武がそういう考えなだけで周りはそうではない。

 長生きしたい者もいれば、早死にしたい者もいるはずだ。

 だが、他殺――殺人は、その権利を自分勝手な理由で奪う。まだ生きていたい人間という者の先の未来を強引に叩き潰す。

 振武は少なくとも、そう定義していた。

 

『……死に方は、選べるもの、か」

 

「ある程度、です。勿論出来ない事だってあるけど、軽い重いに関わらず、人生の選択肢なんてそんなもんじゃないかなって」

 

 振武の言葉にブレイカーは納得するように頷く。

 

『なるほどなるほど……うん、90点をあげよう。よく考えられている」

 

 これでもまだ100点じゃないのかよ。

 

「残り10点は?」

 

 その言葉と共に、真っ直ぐにこちらを見た。

 目が見えないように出来ているマスクのはずなのに、こちらを真っ直ぐと見つめている事が分かるほど、強い眼光。

 

 

 

『理不尽かどうかは、自分の理由次第だ。

 自分勝手な理由で人を殺すのは確かに悪だ――なら、自分を守る為ならばどうだ?」

 

 

 

「……はぁ?」

 

 振武の素っ頓狂な声に、ブレイカーは気にせず続ける。

 

『ヒーローという危険な仕事をしていれば当然、そういう問題にぶち当たる。他者を殺して自分を守る事は悪いことか?

 それは、悪に相当するのか?」

 

「そんなの、」

 

 答えられない。

 考えた事もないから。

 ヒーロー情報学などで学ぶ事だが、ヒーローの活動は基本的に敵を捕縛する前提だ。もし故意に人を殺せば罰せられる。

 だが危機的状況での他意無き殺しであったならば?

 

「……ヒーローが私刑しちゃまずいんじゃないですか?」

 

『危機的状況でそんな理性的な判断が出来るかな?

 自分が殺されそうになっていても?」

 

 USJの時を思い出す。

 あの時は必死で、自分よりもずっと強い敵相手に遠慮している余裕がなかった。脳無なんかは再生能力が強く、多少の怪我は回復してしまう。

 だから、最後の方は完全に致命傷狙いだった。

 脳無という特殊存在だからこそ出来た事だ。

 そうじゃない相手に、必要だからと割り切って刃を振るえるはずもない。

 

『ヒーローの弱点の一つ。人を殺せない。法の下動いている以上どうしようもない事かもな

 だがこれは実はかなり致命的だ。それで多くのヒーローが死んだ。相手に温情を、殺しに抵抗を感じて躊躇し、そしてアッサリ殺された。

 これはいけない。非常にいけない事だと俺は思う。

 ヒーローはまず第一に自分の生命を優先しなければいけない。ミイラ取りがミイラになってしまっては話にならない。

 そもそも、殺す気でかからなければ勝てない相手も中にはいるかもしれないじゃないか」

 

「……じゃあ、どうしろって言うんですか?」

 

 嫌な予感がして、思わず聞いてしまった。

 答えは予想出来たはずなのに。

 

 

 

『簡単な話だ――殺せば良い』

 

 

 

 音もなく、

 まるで瞬間移動でもしたかのように、ブレイカーは目の前にいた。

 

「――なっ!?」

 

 見えなかった、気付かなかった。

 振武の知覚以上の速さ。

 瞬刹で高速の動きに目が慣れている振武でも何も気付かなかった。

 腕が振り上げられる。

 拳ではなく、まるで摑みかかるように指を開いている。

 ――不味い。

 本能が告げる。

 これに触れてはいけない。

 

「――!!!!」

 

 技名を叫ぶ余裕すらなく、振武は瞬刹を使って横に跳んだ。

 流石にブレイカーはこれの反応する術を持っていないようだ。振武が本来いた場所をブレイカーの手は通り抜け、近くの――元はどこかから落ちてきたであろう――大きな瓦礫に触れた。

 ゴリッ。

 石と石を擦り合わせるような鈍い音と同時に、瓦礫は弾けた。

 

「はぁ!?」

 

 思わず声を上げる。

 ブレイカーの動きは早かったが、あの腕にそれほどの力がこもっていた様には見えなかった。

 しかも、あり得るか?

 

 

 

 まるで亀裂に沿うように綺麗に破壊される事なんて。

 

 

 。

 まるで丁寧に解体作業でもしたように、いやそれでも出来ないであろう。瓦礫がブロック状(・・・・・)にバラバラになる。だがもうそれが修復出来る事はないだろう。

 分壊。

 文字通りの。

 確か、錬金術師がメインで登場する漫画で似たような事をしている犯罪者がいた。

 あれと同じ要領。

 

「マジですか……」

 

 触れれば、詰む。

 

『俺の個性は〝分壊〟。

 人も、物も、何もないように見える空間の空気にも、それぞれ物体の繋がりがある。

 そこの繋がりの弱い部分から、僕の手から発せられる特殊なエネルギーでソレを解体する(・・・・)

 

 手についた埃を払いながら言う。

 

『触れて発動しなければ意味はないし、結合がしっかりしたモノであればこんなに綺麗に分壊することは出来ない。強弱もあるしね。

 ほら、なんだっけ……死柄木弔くんだっけ? 雄英を襲った犯人。あれと同種類の個性だと思えば良い」

 

 丁寧に説明されるが、余裕はない。

 今、そんな危なっかしい個性を、躊躇なく振武に使ったのだ。

 

「どういう事ですか? 当たったら普通に死ぬじゃないですか」

 

 人体に使った場合どのように分壊されるのか分からないが、今のを見ている限り命に関わるレベルの攻撃だって余裕で出せるだろう。

 つまり目の前の男は、

 

『アハハ、まぁ手加減だって出来る。そうだな、ちょっと派手な裂傷、くらいに威力を抑える事だって出来る。

 

 

 

 でもそうだねぇ――今のは間違いなく、殺そうとした」

 

 

 

 背筋を冷たい何かが駆け上がる。

 言葉に嘘はないと、放たれる殺気が語る。

 USJで襲ってきた犯人達からも感じた、本物の敵意。今から俺はお前を殺す、そう言外に宣言されている。

 喉元にナイフの切っ先を当てられているような緊張感と絶望感が、鼓動と呼吸を早くする。

 

『今日から1週間、俺は君を全力で殺しに行く。本気でだ。そして君は俺より弱い。いくら君が優秀でも俺には一歩及ばない。

 つまりそこから救かり勝つ為には――俺を殺す勢いで倒しにくるしかないんだよ、動島振武。いや《ヘルツアーツ》

 君に、今までになかった新しい選択肢を授けよう」

 

「む、無茶苦茶だろ!!

 訓練じゃなくてただの殺し合いやれってのか!?」

 

 振武の怒号は虚しく響く。

 その言葉に答える気がないのか、男は一方的に攻撃を加えてきた。

 

『そうだ。プロのヒーローの世界を体感しろ――そして、生き残れ」

 

 その言葉と共に、またもブレイカーは一瞬で目の前に現れた。

 ――3回、いや、2回も見ればなんとなくその瞬間移動のような技にも慣れてくる。

 この動きは早く動いているわけではない。集中している意識の狭間に滑り込むように入ってきているだけ、つまり技術だ。

 それならば、

 

「対応、出来る!!」

 

 瞬刹ですぐに距離を取る。

 この相手に近接戦闘は愚策だ。ならば、

 

「震振撃――崩月!!!」

 

 瞬時に振るわれた攻撃が、拳を離れブレイカーに向かう。

 威力はそう高くはないが、防御力の低そうな相手に当てるのであれば、どちらにしろ一瞬の隙が出来るはずだ。

 その隙に、攻撃を、

 

『無駄だ』

 

 右手を鷹揚に振るうような動きをして、その衝撃を弾き飛ばした。

 

「え!?」

 

 衝撃をそのまま払いのけたのではない。

 衝撃がブレイカーの手に触れた瞬間霧散(・・)している。

 手が弾かれているのを見るに、衝撃全てを殺せるわけではないが、殆どダメージになっていないのだとすれば、その攻撃に意味はない。

 

『衝撃とは、なんの形もない力じゃない、空気という分子の纏まりがベクトルを伴って移動してくるだけ。

 つまり、俺の分壊の範疇だ」

 

「……俺よりチートじゃねぇか!!」

 

 衝撃まで殺すとか万能個性だ。

 転生者の自分なんかよりずっと優れている個性。

 自分よりもずっと経験を積み重ねてきたであろう実力の重み。

 悔しいが、目の前の男が――分壊ヒーロー《ブレイカー》の言った通り。

 ――殺しに行かなければ、殺される。

 

 

 

『サァ、たった1週間の特訓合宿……楽しもうじゃないか《ヘルツアーツ》」

 

 

 

 

 

 

 

 

 




おまけコーナー「印象調査!?」その1

Q 動島振武はあなたにとってどんな人間ですか?

百「えぇっと、優しくて格好が良く、人当たりも良くて、私に対しても真摯に接してくださいます。ヒーローの卵として優れた方ですし、頭だって良いんです。無茶をよくしますが、それでもそれは誰かを救う為なんだと分かっています。私にとっては――さ、最愛の殿方ですわ」

A ただの惚気だった。




えぇっと、今回の話は独自設定がそれなりに多い話です。
東京の地名とか、ヒーロー事務所の規模の基準とか。ヒーローに関わる法律の事とか
ですがそれ以上にぶっ飛んでいるのが、ブレイカーの個性でしょうね。
我ながらチートです。そして理論がまるで出来ていません。
文系畑がかなりふんわりを考えているだけなので、そこら辺の甘さは突っ込まないでいただけると幸いです。
まぁ超能力だし!!


次回!! 緑谷少年がオドオド説明するぞ!! 何をかな!?



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