plus ultraを胸に抱き   作:鎌太郎EX

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episode8 旧姓:触合瀬の一人語り

 

 

 

 

 

 僕の旧姓は、触合瀬(ふれあわせ)

 つまり覚ちゃんと結婚する前は、触合瀬 壊だったわけ。

 僕の両親は、僕が5歳。弟が2歳の時に死んだ。

 それだけ聞けば、人はあぁなんて悲劇的なんだろう、何て言うのかもしれないね。

 でも、自分で言うのも何だけど大してドラマチックなものでもなかった。

 普通の事故死。

 しかも父の居眠り運転によるものだった。僕達子供を養う為だったとは言え、無理を押して仕事をしていたのが原因だった。その日は久しぶりの休みだったからね。知り合いの家に僕達兄弟を預けて、夫婦水入らずで出かけた帰りだった。

 ……そういう意味では、うん、仲の良い両親だった。その日は母を労う為にそうしていたけど、僕達の事だって大事にしてくれていたんだよ?

 

 

 

 そこからは……まぁはっきり言えば、お決まりのパターンさ。親戚の家を転々として、どこの家にも居辛い状況だった。

 当時の僕って奴は人に笑顔を振りまける性格ではなかったし、何よりこの個性だ。口では皆優しいことを言っても、裏で厄介者扱いされているのは知っていた。

 触れれば全部傷つけてしまう。

 個性も、態度もそんな感じだった。

 対して、弟は違った。

 弟の――修治の個性は〝修復〟。

 僕は人も物も、どんなものでも〝分壊〟してしまう個性だったけど、修治のそれは、人も物なおせる個性でね。僕が個性を暴走させて壊してしまったものを、あっという間になおせる子だった。

 そんな個性があったからなのか、それともそういう子だから、そんな個性が宿ったのか。

 あの子は本当に良い子だったんだ。

 誰にでも優しく、人の痛みを理解し、一緒に泣いてあげられる、感受性の高い子でね。本当に、僕の弟なのかな、と思えるくらい良い子だったんだ。

 まぁ強いて欠点を言うなら……重度のブラコンでねぇ。僕について離れなかった。

 両親が死んでからは特に顕著だった。あの子1人なら、1つの家に留まる事も出来たんだ。良い個性だったし、そんな性格だから。可愛がられたし、養子の話だって出てたんだよ?

 なのにあの子は、俺と離されると分かった瞬間、僕の服を掴んで離さなくなるんだ。

 寝ても覚めても決して離さない。服を脱いだと分かると目を覚まして今度は抱きしめてくる。

 ……結局巡り巡って、2人一緒に孤児院さ。

 良い所だったよ。貧しかったけど、良い保母さんがいて、子供たちは幸せに暮らしていた。

 

 

 

 その時には僕は7歳。小学校二年生だった。

 地元の学校に転入して……ソッコーでイジメられたなぁ。

 個性の事を先生達が話し合っていて、それをたまたまクラスメイトが聞いていたらしいんだ。

 

『触合瀬の個性は、人を殺せる』。

 

『今まで沢山人を傷つけてきたから、この学校に転入してきた』。

 

『両親も実は触合瀬が殺した』。

 

 ――ああ、そんな顔をしないでよ。今ここにいる振武が怒ってもどうしようもないだろう?

 それに大丈夫。

 クラスメイトの1人が、救けてくれたんだ。

 強い炎の個性の持ち主でね。凄かったんだよ。僕を取り囲んでいた連中の前に立って、手を燃やしてさ。

 

『俺だって人を殺せる。お前らの中にだって、人を殺せる個性を持っている奴はいるだろう。それなのに、こいつだけ責めるなんて不公平で、卑怯だ。

 ――なんだったら、俺がこいつの代わりに燃やしてやろうか?』

 

 ……小学校二年生にしては、かなり過激なこと言ってるよね。

 というか、普通に脅迫だ

 安心して、そうはならなかったから。厳密に言うと、その炎で火災報知器が鳴っちゃってね。皆避難してそれどころじゃ無かったんだ。

 それ以来、その子と話すようになった。結局、中学校まで一緒だったなぁ。

 性格に難ありって感じだったし、お互い友人と呼べるのは、お互いだけだった。

 ……ちなみに、それが轟炎司。轟焦凍くんのお父さん、エンデヴァーね。

 あ〜うん、ビックリするよね。初めて話したからね。

 喧嘩は多かったけど、仲が良かったんだよ? お互いほら、かなり攻撃的な個性だから、中学校に上がった頃には人を殺さないようにする調整とかも練習してさ。

 ――その頃からだったかな。ヒーローになりたいって思い始めたのは。

 初めは炎司が言ったんだよ?

 

『壊、俺達の個性は強力だ! きっとオールマイトをも超えるトップヒーローになれるぞ!!』

 

 って鼻息荒くしてね。あの頃から炎司はオールマイトさんに憧れていたから。

 僕は……正直言えば、それほどではなかった。

 正義という信念を高々と掲げていた訳じゃない。

 誰かを超えたいと思ったこともない。

 日々の生活を安定して暮らして行ければ良い。特に僕には弟がいたからね。弟を守らなければいけないって気持ちの方が強かった。

 そういうのは弟の方が向いているように思ったのも、あったのかもしれない。

 だけどね、ふと思ったんだ。

 

『両親を襲ったような、唐突に振ってかかる不幸を、もし払いのける事が出来たら……弟が生きる世界を守る事が出来たら』

 

 ってね。

 これでも、勉強は得意だった。

 炎司と一緒に特訓して、個性も人一倍自由に操れてた。

 もっとも、雄英は受けなかったよ。炎司と競い合いたいとは思わなかったしね。結局、士傑高校に受験して、受かった。

 

 

 

 入ってからは……大変だったけど、楽しかったなぁ。

 お父さん、これでも優等生だったんだよ?

 いや、本当に。

 そこで疑わしいって顔しないでよ。

 勉強だって誰にも負けなかったし、僕の個性はそれなりに強かったんだ。

 その頃、担任に紹介してもらった動島流宗家……動島振一郎、うん、お義父さんだよ。お義父さんに、色々教わった。僕は、これでも柔術と隠密術の免許皆伝者なんだよ?

 ……え? 母さんにはそこで会ったのかって?

 いや、全然。

 関西だったからね。ちょっと遠いから放課後の短い時間と週末だけ特別授業として行っていたし、その時お母さんは8歳から12歳。

 遊び盛りの頃だし、土日は鍛錬場では練習してなかったみたいだった。

 まぁ、もしそうだったとしても、僕は活殺術を触り程度しか習っていないからね。会う機会はあまり無かっただろう。

 遠目で一度見た程度、だったかなぁ。

 今でも覚えているよ……綺麗な子だけど、お義父さんと同じ鋭い目でね。

 将来美人になるものの、あれはきっとキツい感じの美人になるぞって思ったもんだよ。

 3年間の短期的修行だったけど、お父さんは自慢じゃないが才能があった。柔術と隠密術は免許皆伝。

 ……どころか、隠密術だけだったらお義父さんにだって負けなかったんだよ?

 まぁ総合的な点で見れば、普通に負けてるんだけどね。

 

 

 

 そして僕は、正式なヒーローになった。

 と言っても、最初は当然サイドキックだったんだけど……最初に当たったヒーローが、酷い人だったんだ。

 外面は良いんだけどさ。内情は、本当に酷かった。

 敵役のチンピラを雇って適当に雇って暴れさせて、自分でそれを解決する。

 うん、ヤラセだよ、ヤラセ。

 それに、経費のちょろまかしとか、裏金作りとか、恐喝もやってたし、自分の名前を使って女の子に手酷い事もしてた。

 サイドキックは奴隷扱い。

 日常的な暴力だって珍しい事じゃなかった。

 ……1年は耐えた。

 誰かが救けてくれるんじゃないかって。

 でも、そのヒーローは隠す事だけは一人前でね。周りに露見する様子はまるでない。完全犯罪ってやつだった。

 ――だから、僕が告発した。

 証拠を全部揃えて、警察が来る前に逃げられないように、そのヒーローと幹部と戦って、取り押さえた。

 1人でね。

 他のサイドキック達は恐怖が染み付いてたから。足手纏いになるくらいだったら、僕が1人で片付けようと思ったのさ。

 結果は上手くいった。

 政府や警察から褒められたし、サイドキック達から感謝もされた。

 それが、今思えばダメだったのかなぁ。

 

 

 

 僕は、そういう悪徳ヒーロー専門のヒーロー……『査察官』になってしまった。

 そういう役職名があった訳じゃないよ? ある意味揶揄みたいなものだ。

 21歳で個人事務所を開いて、サイドキックも信用出来る人間を数人だけ雇ってさ。

 スパイ、内部の人間の懐柔、犯罪にならないけどグレーゾーンな事は何でもやった。拷問や脅迫、グレーゾーンどころか完全にブラックな事にも多少手を染めた。そうでもしないと、巧妙に隠している悪事は暴けなかったからね。

 悪徳ヒーローだけじゃない、敵堕ちしちゃったヒーローなんかも相手にしたし、善人面して違法な事をしている一般人も対象にした。

 ……それで下手こいて、自分が警察に目をつけられたりもしたっけ。

 個人事務所になってから炎司とも協力し合った。彼の戦闘能力と派手さは、僕が暗躍する上で重要だったから。勿論、本人に了承を得てだったけど。

 お互い、信頼し合っていたからね。

 ……でも、だんだん、無理が出てきた。

 僕のそれは後ろ暗いところがあるヒーローが嫌がるからね。

 匿名での脅迫も何度かあったし、そいつらが率先してたてた噂で、僕は業界内の嫌われ者になっていった。ハイエナとか、裏切り者と言われた。

 それでも続けられたのは、それで救われる人間が1人でもいたからだ。

 僕はヒーロー社会の自浄作用そのものだと自称していたし、自信もあった。

 そんな時だったかなぁ、覚ちゃんと初めて会ったのは。

 マスクもしてたし、まさか道場で見かけた子だとは思わなくてねぇ。結構きつい事を言ったような気がするなぁ。

 えっと、

 

『君は、随分つまらなそうに仕事をするんだね。

 そんな顔をするくらいだったら、辞めてしまった方が良いと思うよ』

 

 だっけか。

 そしたら当時の覚ちゃんにとっては図星だったのか、本気のグーパンが飛んできたんだよ。

 いやぁ、動島流習ってなかったら頭吹き飛んでそうな勢いだったなぁ。幸い、鼻折れた程度で済んだけど。

 その後、たまたま道場に行く用事があってね。

 行ったら出会い頭に腹パンされた。

 ……あの時は、暫くおかゆしか食べれなかったなぁ、うん。

 で、なんやかんやで一緒に事件を解決して、そこから交流するようになったのかな。

 え? その『なんやかんや』を語れ?

 時間かかるから省略、今度ゆっくり話すさ。

 弟はその当時、医者になっていた。ヒーローにもなれる位の個性だったんだけど、本人はそういうのに向かないって言って、個性使用の許諾申請だけしてね。

 付いたあだ名が「ゴットハンド」。まぁ触れれば怪我はなんでも治せるからね。勿論、体力やなんかは使うんだけど。

 その時には、弟には奧さんも、生まれたばっかりの赤ちゃんも居たんだよ。

 とっても可愛い女の子だった。

 ……悲劇が起こったのは、僕が29歳の時。

 

 

 

 弟家族が、殺された。

 

 

 

 犯人は、僕が最初に捕まえた悪徳ヒーローだった。

 復讐だった。

 弟も、

 奧さんも、

 赤ん坊でさえ、死んだ。

 ……犯人はそのまま逃走。しかも仲間を集めて、今も犯罪行為を続けていた。

 捕まったはずだったそいつは、お金と今までの権力をフル活用して、刑務所から出ていたんだ。

 ……泣いたさ。当然だろう?

 三日三晩なんて言葉があるけど、本当に、それくらい泣き続けたよ。

 僕は救おうとして、全然救えていなかった。

 1番大切な家族を失った。

 だけど、泣きながら思ったんだよ。

 ――詰めが甘かった。

 ――本当の悪人は捕まえようが何をしようが、改心も反省もしない。

 ――こちらがどれ程温情をかけても無下にし、さらに人を傷つける。

 ――馬鹿は死んでも治らない。本当の悪人だってそうだ

 ――ならもう、他人に迷惑を掛けないように。

 ――僕の家族のように誰かを死なせ、悲しませないように。

 

 

 

 ――そいつを、殺そう。

 

 

 

 そこから僕の行動は早かった。

 奴の居所を知っていそうな奴の元に行き、拷問し、必要な情報を貰う。それを何度か繰り返した。

 無駄に殺してしまえば途中で他の連中に勘付かれて止められるかもしれないから、取り敢えずその場でそいつらを殺すのはやめておいた。

 そうやって情報を集めて、徒党を組んでいる連中とある廃ビルに潜伏している事が分かった。

 1人で行こうとしたさ。

 でもそこで炎司に止められた。

 彼は俺のやっている事を知っていたんだ。だから、止めに来た。

 ……当時の僕には、それが裏切り行為に見えた。もう殺すことしか考えていなかったからね。取り敢えず個性で行動不能になるまで傷つけて、現場に向かった。

 そこで、何が起こってたと思う?

 

 

 

 覚ちゃんが全員倒して、山にしてるところだった。

 

 

 

 気が抜けるよね、人が犯人どもを皆殺しにしようなんて考えている時に、あっさりと倒しちゃうんだもん。

 そのまま覚ちゃんと戦った。

 脈絡ないよね。ちなみに覚ちゃんから仕掛けてきたんだよ? 彼女は彼女なりに理由があって、僕と戦ったみたいなんだけどね……で、負けたよ。良いところまで行ったんだけどね、個性でもどうにもならないレベルで強かった。

 それでね、負けて倒れている僕の顔を覗き込んで彼女が言うんだ。

 

 

 

『ブレイカー、いえ、触合瀬壊さん――私と結婚しませんか? 条件は、貴方が泣いてヒーローをやらなくて良い世界にするために私は努力します。その間、貴方は休んでいてください』

 

 

 

 え? 恋人だったのかって?

 全然。

 どころか僕らは仲が悪いと思っていた。

 でも何もかもに疲れていた僕は、それも良いかな、なんて思ってしまったよ。僕の計画は失敗に終わったしね。

 僕のヒーローとしての資格は、無期限停止になった。

 剥奪にならなかったのは、やり方はさておき僕のやって来た事がある一定評価されたからだった。もっとも、実質的に剥奪と大して変わらなかった。いつ解除されるか分からなかったんだから。

 その流れでヒーローへの監視の目も強くなって、僕のようにそれを専門にするにんげんはいなくなった。

 それで覚ちゃんと結婚したよ。最初はぎこちなかったけど、お互い悪い気はしなかった。段々、本当に相手が愛しく思えて来た。

 というより、最初っから好きだったんだと思う。お互いそれが認められなくて、素直になれていなかっただけだった。

 そして……、

 

 

 

 振武、君が生まれた。

 

 

 

 子供が産まれる時、父親は親の実感が薄いなんて言うけどね。

 僕は違う。

 だって君が生まれた時、とても嬉しかった。覚ちゃんが家族を増やしてくれた。僕が失った絆を、取り戻してくれたんだ。

 これからは、出来るだけ君と覚ちゃんに、僕に与えられる精一杯の愛情を注いだ。上手く出来なかったかもしれない、不器用だったかもしれないけど。君らのことを、本当に心から愛した。

 でも、結局また失った。

 覚ちゃんは、君を守って死んだ。

 それに対して、僕は君を恨んだことは一度もない。

 本当だ。そんなことで嘘はつかない。

 ただ――あの時点で確信した。

 覚ちゃんは優し過ぎたんだ。だからこそ、彼女は死んでしまった。

 あの時、もし犯人を覚ちゃんが完膚なきまでに叩き潰せていれば。

 

 

 

 いや、足りない――殺していれば。

 

 

 

 そうすれば、死ぬことはなかったんじゃないかな。

 ……うん、愚かだね。

 これは人という理性ある生き物の考えとしては、下の下だよ。

 でも、その考えはゆっくりと僕の中に根を下ろしてしまったんだ。表に出る事はなかったけど、心の奥のさらに奥に、それは常にあった。

 ……5年前に、ライセンスの停止が解除された。

 お義父さんの計らいでもあったらしいってのは、後から聞いた話だよ。

 ……でも、結局今の今まで使う事はなかったんだけどね。

 僕には君がいたから。愛する大事な家族がいて、正直それ以外には目を向けられなかった。

 でも、中学校の時。

 そして、雄英襲撃の時。

 振武が傷つき、倒れたのを見て……僕の心にずっと眠っていた考えが芽を出した。

 振武は多分止められない。そういう頑固なところとか、真っ直ぐなところはお母さんに似てしまったから。だから、止められない代わりに選択肢を1つ作ろうと思ったんだ。

 

 

 

 自分が死ぬくらいならば、死なそうとしている原因を、要因を殺す選択肢を。

 

 

 

 だから今回の計画を立てたんだよ。

 

 

 

 

 

 




おまけコーナー「印象調査!?」その2

Q 動島振武はあなたにとってどんな人間ですか?

魔女子「え、ハッキリ言って良いんですか?……熱血バカ、でしょうか。
正直むちゃくちゃです。普段は理性的なのに、時々理屈が通じないほど真っすぐな時があって、たぶん私が一番動きを予想できない人です。
ああいうのは、味方にしても敵にしても厄介です。
……ですがまぁ、それがあったからこそ、私は今お友達なのですが。
あと、朴念仁なところはとっとと治していただければ」

A ちょっとした愚痴……なのかな?。




3話って言いましたが、実質4話でした。
これは第一章を書いている時にはすでに出来ていた話なので、ある意味ノーカンですが。
楽しんでいただけたならば、嬉しいのですが……ちょい不安です。


次回!! 壊さんが間抜け面をさらすよ!?  こうご期待!!



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