plus ultraを胸に抱き   作:鎌太郎EX

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episode14 大人の素直になれないナニカ

 

 

 

 ――夢を見ている時に「これを夢だ」と認識出来る夢を「明晰夢」と言うらしい。

 俺はすぐにそれが夢だと分かった。

 そりゃあ当然だ。だって、絶対に現実では会えない人物がいれば、そう気付く事だって難しくはないはずだから。

 目の前には母――動島覚がいた。

 母さんの格好は、ヒーローとしてのコスチュームで、ヘルメットはつけていない。傷こそなかったが、最後に見た母さんの姿とそのままだ。

 古い記憶は美化されるか風化されるかの二択だと言うが、その母さんはあの時見たそのままのように思える。変に美化もしていないが、風化もしていない。あの日見た母さんだ。

 優しい笑顔。

 何か言っている。

 何度も同じ事を言っているが、最初はまるでテレビの砂嵐のような音がしてその音をかき消している。

 なに?

 何が言いたいの?

 俺に何を伝えたいの?

 

 

 

『――――――振武は、今、幸せ?』

 

 

 

 ………………なんだ、そんな事か。

 

 

 

「ああ、母さん。

 俺今、最高に幸せだよ」

 

 

 

 俺がそう言うと、母さんは満足そうに頷いて、そのまま煙のように消えてしまった。

 

 

 

 

 

 

 暗闇の裏側に光を感じて、振武はゆっくりと目を開ける。

 

「……知らない天井だ」

 

「何言ってんだ、当たり前だろうが、来た事ねぇ場所なんだから……おい、振武が起きたぞ」

 

「おお、動島くん!! 倒れた時はどうなるかと思ったぞ!!」

 

「うん、良かった〜」

 

 振武のネタに律儀にツッコミを入れた焦凍が声をかければ、近くのベットに寝ていた飯田と出久もこちらを覗き込んでくる。

 格好は患者がよく着る甚兵衛のようにも見える服……。

 

「そっか、ここは病院か……俺、倒れてどれくらい時間経った?」

 

「心配すんな、2時間も経ってねぇよ。

 重度の疲労だってな。何やらかしたら爆豪と同じタフネスのお前が、そうなるんだ?」

 

 焦凍の言葉に、振武は納得する。

 3日も極限状態で動き回って、ブレイカーと戦って、ステインとも戦って、さらにオートマーダーと名乗った女との戦闘。

 思い起こしてみれば、倒れない方が無理がある。

 

「まあ、色々あってな。お前らの処置は?」

 

 体を起こし、調子を確認する。2時間寝ていたせいか、それほど苦ではない。やはり睡眠というのは大事なようだ。

 ……何か夢を見たような気もするが、覚えていない。

 夢など覚えていないのが普通なのに、何故かそれが妙に寂しい。

 

「ああ、一応処置はもう終わってる」

 

 焦凍はそれほど大きい怪我ではないが、包帯と頬に処置がされた跡がある。

 出久はオートマーダーに折られた右腕を釣って、杖をついている。確か足をステインに傷つけられたのだ。

 1番重傷なのは飯田だろう。両手を包帯でガッチリ固定しているし、その他にも多い。

 

「うわぁ、みんなこうやって見ると、ボロボロだな」

 

「むしろお前がなんで怪我しないで済んでいるかが分からない。超人じゃないのか?」

 

「俺のは……運が良かっただけだ。もしオートマーダーの個性がお前らと同じくらい効果を表せば、俺もお前らと同じくらいには怪我をしていたさ」

 

 《自動殺戮(オートマーダー)》。

 見聞木操子。

 人の動きを止める個性を持つ、動島流習得者。

 

「あいつの個性はなんだったんだ……それに、あれ本当にお前の流派の人間で、しかもレベルが低いのか? 未熟って言ってたが」

 

「う〜ん、俺の場合祖父ちゃんを基準にしているところもあるからハッキリと断言は出来ないが……多分、鍛錬不足なんだと思う」

 

 刀に振り回されている部分があったあれは、まさに基礎的な筋力や敏捷力が伴っていない。型や技を放つ技術そのものに問題はないが、それに見合った体になっていない。

 まるで、実戦で鍛えられたような印象を受ける刀。

 戦闘に勝ち、殺す為に手に入れた技術のような。

 

「あれでまだ動島流としては「弱い」ってのが信じられないね……さっきまで、3人で考察していたんだ。あの個性、いったいなんだったんだろうって。

 僕らの中では、おそらく精神操作系なんじゃないかなって」

 

 止まれという言葉で発動される身体・思考の停止。

 個人差がある効果。

 なるほど、そう言われればそうだ。洗脳系、精神操作系の個性を受けている出久からの意見だろう。

 

「間違ってないと思うが、だとしたら発動条件はえぇっと、心操? だっけ? あいつとはちょっと違うんだろうな」

 

 何せ振武達は、彼女の問いかけに答えていない。つまりそれが発動の条件ではないのだろう。そこだけ見れば心操より上位だが、特に何もしなくても解ける個性ならば下位とも言える。

 

「うん……でも、」

 

「ああ、多分そんな簡単にわかる話でもねぇのかもしれない」

 

 出久の言葉を、焦凍が引き継ぐ。

 発動条件もそうだが、命令の限定的な使い方もそう、少なくともあと数回は衝突して見ないと正確に断言出来ないのが現状だ。彼女の口から発せられたあの情報が正しいかどうかも分からない。

 だが、

 

「――少なくとも、同門が2人以上、敵連合に参加してんのは確かだ」

 

 あの少女と、あの少女の師匠。2人ともそうだろう。あの黒い靄のワープゲートを使っていたのだから、明確に仲間かどうかは分からないが協力関係にあるのは間違いない。

 敵の中に、同門がいる。

 そんな話は一度として振一郎から聞いた事はないし、そもそも同門の集まりや修行の中にオートマーダーを見かけた事はない。

 多分、正規の門下生ではない。

 ……色々、振一郎から聞き出さなければいけない。

 そう思っていると、病室の扉が勢い良く開く。

 

「ゼェ、ゼェ、良かった、振武くん、目を、覚まし、」

 

 そこには、肩を揺らして息を切らしているワープワーヴの姿があった。

 それは……何かあったのだろうか、ボロボロだ。いや、ボロボロと言うか、

 

「どうしたんですか、ワープワーヴさん……めっちゃ頬に殴られたあとついてますけど」

 

 両頬にクッキリと拳の跡がついている。大きさが違うので、多分別々の人間に殴られたんだろう。

 振武の近くで「あ、こんにちわ」と面識がある焦凍が挨拶していたり、「転移ヒーロー《ワープワーヴ》! 災害救助を中心に手広く活動している東京在住の人気ヒーロー、」と目を輝かせて解説しているが、ここでは無視する。

 

「これは、ちょっと問題が、あって、

 あ、そこの、焦凍くん、だっけ、エンデヴァーさんの、息子さんの、」

 

「はい、そうですけど……」

 

 訝しげに答える焦凍に、ワープワーヴは息を整えてから叫ぶ。

 

 

 

「2人とも一緒に来て――君達のお父さん達止めてくれよ!!」

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 炎司の拳は、昔よりずっと重く感じた。

 プロヒーローとしての鉄火場から離れてもう15年以上だ。力の差は歴然としているし、壊とは体格も全然違う。殴られれば、まるで星でも瞬いているように目がチカチカする。

 だが、それを堪えて、壊は炎司を殴る。

 

「グッ――ハッ、つい最近まで引きこもっていた男の拳とは思えんな!!」

 

 すでに口を何箇所も切っているのか、口の端から血を流しながら炎司は笑う。

 壊、鼻から垂れる手の甲で拭う。

 

「ハッ、お互い様だろう!! 45のおっさんにしては強いじゃないか!!

 でもさぁ、全然痛くないんだよ――女子供を殴った男の拳なんて」

 

 最初は殴られるだけのつもりでいた。

 壊には殴られるだけの理由があったし、炎司には殴るだけの理由があった。だが殴りながら説教する目の前の友人を見て、思ってしまったのだ。

 

 

 

 あれ? こいつ、僕に説教出来る立場だっけ? と。

 

 

 

 そう思ったら、自分でも止める暇もなく殴っていた。

 そこからはもはや説教などではない。

 喧嘩だ。

 

「そう言うお前はどうなんだ!? 息子の為を思い犯罪に手を染めた貴様と何が違う!!」

 

「僕のは愛前提だ!! お前みたいに自分のエゴを押し付けるだけ押し付けてはいない!!」

 

「ハッ、大して変わらんと何故分からん!! 俺が妻と子を愛していないとでも思っているのか!?」

 

「愛している男が、子供と妻にトラウマ作って平然としている時点でおしまいなんだよ!!」

 

「貴様だってそうだろう!? 子に自分を超えさせたい、守るために強くさせたい、そう思うことの何が悪い!! あいつは俺の息子だ、オールマイトを超える義務がある!!」

 

「そんなものないだろう!! そんな義務はない、子供が親に課せられる義務なんて1つだってない!! 親が子供を守り慈しむ義務があるだけだ!!」

 

「なら貴様のした事は慈しみか? 人を殺す事を肯定させる無情な人間に仕立てるのが、お前の愛だと!? 笑わせるな!!」

 

「僕は、ただ、息子に生きて欲しかっただけだ!!!!」

 

「俺の罪と貴様の罪、何が違うと言うんだ!!!! この大馬鹿者が!!!!」

 

 殴り合いながら、一歩も引かず。

 言葉を掛け合いながら、一歩も馴れ合わない。

 正真正銘、意見と意見のぶつかり合い。

 ……似た者同士の諍い、目くそ鼻くそを笑うに似ている側面はあるものの、それはそういう喧嘩だった。

 

「ほら、もうめちゃくちゃだ!! ヒーローが公共の場で喧嘩なんて!!

 2人とも止めてよ!! 俺の言葉なんて聞きもしない!!」

 

 屋上に2人と連れて来たワープワーヴは悲鳴をあげる。お互い自分以外見えていないのか、止めようとしたワープワーヴまで巻き添えで殴られた。

 本人達は殴った事にすら気づいていないだろう。

 

「あぁ〜……どうする? 焦凍」

 

「……何もしないって選択肢は?」

 

「奇遇だな、俺も賛成だよ」

 

 目の前のこれに割って入るような度胸も体力も今の2人にはない。

 それを見て、絶望感が許容量を超えたのか、どこか呆然としているワープワーヴに、振武は苦笑する。

 

「大丈夫ですって、ワープワーヴさん。取り敢えず殴り合ってスッキリすりゃ話は上手く纏まると思うんで」

 

「そんな、無茶苦茶な、」

 

「そういうのが必要な事もあります……多分、分かってるんだと思います、2人とも」

 

 妻を息子を傷付ける程にまで追い込み、息子に憎悪を向けられる父親。

 妻を敵に殺され、息子を生かそうと殺人まで計画した父親。

 やった事は違うし結果も異なるが……どっちもどっち。そしてそれをお互い分かっているんだろう。振武は少なくともそう思う。

 じゃなきゃ、こういう事にはならない。

 殴りながらお互いの間違いを正そうとする事にはならない。本当に嫌いで嫌悪しているなら、問答無用で個性で殺し合いに発展する。

 個性をお互いわざと使っていない時点で、すでに内容はお察しだ。

 

「……俺は、俺の親父がそんな良い奴だと思わないがな」

 

 焦凍の複雑な言葉に、振武も頷く。

 

「うん、やっぱやった事は悪い事だと思う。

 でもやった事が悪いからって、やった本人が完全な悪人とは限らない」

 

 何かが違えば、違った未来があったかもしれない。

 もし、炎司と壊が決別していなければ。

 もし、焦凍の母が病む前に炎司を壊が殴っててでも止めたなら。

 もし、振武にあんな試練を与える前に壊を炎司が殴ってでも止めたなら。

 素直になれず、頼ろうと考えられなかった。

 罪悪感、後悔、憤り。お互いにそんな感情が暴走している結果が今だ。

 お互いに馬鹿の極致。

 お互いに出来なかった事の焼き回し。

 振武はそう捉えている。

 

「これ終わったら、お互いもうちょいマトモな親父に再会できる……かもしれんな」

 

「曖昧だな……」

 

「人の真意なんて分からないさ。俺らにだって、親父達が何を考えているか分からなかった……まぁ、だから許せとも思わないけど。

 それはお前とお前の親父との問題で、俺は口出しする気もないさ」

 

「……お前は、許したのか?」

 

「俺の場合は、許すもクソもない。俺が言える事は全部言ったし、父さんなりに変わっているんだって、思ってる。信じてるんだよ」

 

「……そういうもんか」

 

「そういうもんさ」

 

 お互い馬鹿な父親を持つ同士、そう言って笑い合う。

 親との関係なんて、そんなの個人でどうにかしなければ問題なのだろう。

 だけど、親だからこそ、否定しあっても家族だからこそ、切れない縁というのはどこかで必ず存在する。

 親を否定し、仮に消したとしても。親という存在がいる事は、自分達が居続ける限り証明され続けるのだから。

 

「……にしても、これってどうなんだ? もうちょっとマシな喧嘩の仕方出来ねぇのかな?」

「……そこに関しては同感だ」

 

 いや、君らも似たような事衆人環視の前でやったじゃない、まだ1ヶ月も経ってないんですけど。

 とはワープワーヴは突っ込まない。

 ちゃんとした大人であるワープワーヴは、転々寺位助は空気が読めるのだ。

 

 

 

「お前は、いつもそうだ!! 小学校の頃からそうだった!!

 自分ばかりが背負い、自分ばかりがこの世の不幸を全て背負っているような顔をして!! それが、昔から、嫌いだった!!」

 

 殴られる。

 

「君だってそうだろう!! 小学校の頃から!!

 自分が正しいと信じて疑わないし、人の意見を聞こうともしない!! そういう独善的な所が、僕だって嫌いだったよ!!」

 

 殴る。

 

「っ、貴様は何故周りが見えない。いつもいつも、背負わなくても良いものまで背負い込み悩み抜き、道を外れる!! そうなる前に俺に話そうとは、思いもしないで!!」

 

 殴られる。

 腹に入ったからか、一瞬息が詰まる。

 

「――そういう君だってそうだ!! 言葉たらずなんだよ君は!! 奥さんも子供も愛してるなら、もっと優しくすれば良かった――愛していると一言でも言えば、あんな事にはならなかったかもしれない!!」

 

 殴る。

 脳が軽く揺れているのか、足がふらついている。

 

「貴、様こそ、何故悩んでいるならば相談しなかった!! この際俺でなくても良い、動島翁にだって頼れたはずだ!! それをしてこなかったのは――貴様の怠慢だ!!」

 

 殴られる。

 視界が霞む。気にせず構える。

 

「炎司には分からない!! 僕はずっと1人だったんだ、家族は次々と死んでいったんだ、頼れる人間だって1人もいなかったんだ!!」

 

 殴る。

 上体がブレるが、炎司も気にせず構えなおした。

 

「だから!! 俺がいるだろう!!」

 

 大人気なく涙を流している。

 馬鹿だな、こんな事で泣くなよ。

 そう思っていると、壊の視界も潤む。

 あぁ、まずい――僕も大人気ない。

 

「君だって!! そうだろう!!」

 

 

 

 

「「俺を」「僕を」!! 頼れ、馬鹿野郎!!!!」

 

 

 

 

 同時に放たれる言葉。

 同時に放たれる思い。

 同時に放たれる拳は、

 見事に両者の顔と心に、全く同時にヒットした。

 そのまま、ドサっという重苦しい音と共に倒れる。

 気絶はしていない。だが痛みと疲れでもうお互い殴る事も出来ない。

 ――いや、誤魔化すのは無理だった。

 2人とも分かっている事だ。お互いの言葉が真実で、それは振り返ってみれば自分自身にも降りかかるものだったから。

 2人が2人して、罪悪感と、後悔と、憤りを持っていた。

 2人が2人して、自分自身に、罰を求めた。

 だが自分で自分を物理的に殴ることが出来ないから。

 だからお互いを頼ったのだ。

「間違った「俺」「僕」を変えてくれ」という思いを、お互いの拳に託したのだ。

 

「ハッ……馬鹿だな」

 

「ああ……馬鹿だね」

 

 齢にして45歳。

 良い歳したおっさんが、言葉も思いも素直になれずにお互い殴り合ってようやく成立する。

 馬鹿という言葉以外に思い当たらない。

 

「……僕は、間違えた」

 

「……ああ、俺もだ。お互い随分間違いを犯してきた。

 歳をとってから間違いを認めるというのは、中々きついものがあるな」

 

「変えるのも、難しそうだよねぇ。ほら、僕らの歳になると、身体にも心にも柔軟性ってなくなっていくじゃない?

 どうしよう、僕らのこれってダイヤモンド並みに硬いよ、多分」

 

「ダイヤモンドカッターがいるな。市販しているものか?」

 

「どうだろう……自作できるかな?」

 

「出来たら法律上問題が出そうだな」

 

 中学校時代。

 2人で個性の調整をしながらくだらない話をしていたあの頃のように、実にくだらない話だ。中身なんて欠片もない、思考能力が伴わないからこそ出される謎の会話。

 だが、それはお互いがあの頃にまで戻ったような、そんな感覚にさせる。

 

「――変われると思うか?」

 

 炎司の言葉に、壊は笑う。

 

「――出来るんじゃないかな? 分からないけど。

 君はまず、息子さんに許してもらえるように努力しないと。あと奥さんも」

 

「……骨が折れそうだ」

 

「一本どころか、全身バッキバキにされる覚悟で行かないとね」

 

「そうだな……頼む。手伝って、くれるか?」

 

 素直ではない炎司から、「頼む」という言葉を聞いて、思わず壊は飛び起きる。

 

「え、どうしたの、殴られ過ぎて頭逝った?」

 

「おいどういう意味だ!! 俺だってこのままで良いとは思っていない!!

 それに、タダでとは言っていないだろう!!」

 

「……お金くれるの?」

 

「軽蔑したような目で見るな」

 

 壊の反応に小さく溜息をつくと、炎司はコスチュームの裏から(どうやって入れているのかは分からないが)、何枚かの紙を出し、壊に投げつけた。

 開いた最初の紙には――契約書の文字。更にめくってみれば、所属事務所の変更手続き用の用紙だというのが分かる。

 

「これ、は?」

 

 壊が不思議そうに聞くと、炎司ではなく何故か近くに立っていたワープワーヴが答える。

 

「俺の事務所からエンデヴァーさんの事務所に移る為の、必要書類ですよ」

 

「移る……え!? 移る!? 僕、クビ!?」

 

 やった事は確かにクビ相当だが、一緒に背負いますよと言った妻の元部下の言葉に励まされたのに、あっさり裏切られたような気分だ。

 しかし、その言葉に、ワープワーヴは呆れ顔を浮かべる。

 

「んなわけないでしょうが。

 俺は最後までアンタの面倒見ようと思ってましたよ……でも、多分同じようなことがあった時に、俺じゃアンタを止められない」

 

 三つ子の魂百まで……とまでは行かなくとも、昔の関係を忘れていられるわけではない。嘗ては黒い噂があっても自分よりもずっと先輩のプロヒーローがサイドキックとして側にいるというのは、部下も自分も遠慮してしまう。

 そうなれば、罪を償うという事にはならない。

 対等かそれ以上の存在が、ブレイカーを監視しなければいけないのだ。

 自分にはそれでは力不足だ。

 

「オールマイトに頼むって話もありましたが、彼は今教師としての仕事をメインにしていますから無理ですし、他のトップヒーローだとアンタの内面をよく知らない。表面上だけの経歴で扱われてしまう可能性が高い。

 アンタをよく知っていて社会的地位も盤石なヒーロー……って考えれば、エンデヴァーさんぐらいしかいないでしょう。

 ――って言っても、俺の提案じゃないんですけどね」

 

 ワープワーヴの肩を竦めながらの説明に、信じられないと言わんばかりの顔で壊は炎司を見る。

 炎司はどこか気恥ずかしそうに身をよじらせた。

 

「……俺もお前もそうだが、距離を離しているから頼らないなどという選択をしてしまう。

 近くにいさえすれば、お互いがお互いの話を聞き、気を配る事も出来るだろう」

 

「でも、僕みたいな問題児を受け入れたら、君の経歴に傷が、」

 

「つかん!! というか、ついても気にせん、馬鹿者」

 

 書類を持っている壊の手を無理やり胸に押し込ませながら、炎司は言う。

 

「壊。もう一度最初からお互いやり直しだ。

 俺が今までの事をやり直すのも、お前が今までの罪を償うのも……俺達の友人関係も、最初からやり直しだ。これでお互い、否応なく頼り合える。

 同格が望ましいが、まずはお前を俺の部下にする……勿論、こき使ってやるからな! 今までの呑気な主夫ライフは送れないと思えよ!!」

 

 ――『お前は言い返せなさそうだから、俺のそばにいろ。俺達2人でいれば、ケンカしようとか、イジメようなんて奴、絶対いない。俺達そろえば、最強だしな!!』

 火災報知器が鳴って、おまけにスプリンクラーまで作動した。ずぶ濡れで怒られてもへこたれなかった少年が、今そっと手を差し伸べてくれる。

 もうお互い良い年齢のおっさんで、それなりに経験を積んでいるはずなのに、結局何も変わっていない。最初の頃に逆戻りだ。

 あぁ、でもそれは、

 

 

 

「――よろしく、お願いしますっ」

 

 

 

 僕にはなんて身に余るやり直しなんだ。

 

 

 

 

 

「ところで、なんでワープワーヴくんは怪我してるの? さっき会った時してなくなかった?」

 

「そう言えば、綺麗に拳の跡が2つ……簡単に殴られるなど、ヒーロー失格だぞ」

 

「いや2人の所為!! 2人とも気づいていないだけで俺を殴ったんです!!」

 

「「……??」」

 

「同時に首傾げんな仲良しか!!!!」

 

 さっきの空気とは一変し、どこか気の抜けた炭酸のような雰囲気に様変わりする。

 炭酸が抜ければ、あんなのただの砂糖水だ。

 だが、良いんじゃないか。砂糖水みたいに甘い世界で、今くらいその空気を味わっても良いのではないか。

 動島壊は、それだけの苦労を背負ってきたのだから。

 

「ったく、おーい、父さん、もう良い加減俺ら部屋戻りたいんだけど! 喧嘩終わった!?」

 

「え、振武!! なんでここにいるんだ!!

 ――寝てなきゃダメだろう!! こんな所で風邪ひいたらどうするんだ!?」

 

「過保護かよ! 5月も終わろうとしてる時期に風邪なんかひかねぇよ!」

 

「季節の変わり目は危ないんだよ!!」

 

「し、焦凍……」

 

「…………(プイッ)」

 

「こっちを見ろ焦凍!!」

 

「炎司、ダメだよ、そんな風に子供に命令しちゃ! その癖も、僕と一緒に働くからには直すからね」

 

「あの〜、2人とも俺のことさらっと無視して子供と話さないでくださいね? まだ謝罪もらってないですからね!?」

 

 

 

 

 

 

 1つの悪意。

 1つの歪んだ愛。

 それが蠢き、終わりを迎えた激動の1日が、今ようやっと終わりを迎えた。

 

 

 

 

 

 




名前:動島 振一郎
所属:動島流宗家29代目当主
Birthday:11月11日
身長:173cm
血液型:AB型
出身地:静岡県あたり
好きなもの:庭いじり・鍛錬
戦闘スタイル:近接戦闘(と見せかけてオールラウンダー)
個性:振動
手に持ったものを振動させられる。
振動数は基本的に振武と同じ。
デメリットは熱。

性格
典型的武人。
礼を尊び、誰に対しても物腰や柔らかに接する。本人は自覚していないがジェントルマン。趣味らしい趣味は読書と庭いじりだが、基本的に鍛錬大好き強くなるの大好きなのは、昔も今も変わらずである。
若かりし時はもっと厳格で、自分に厳しく他人にも厳しいという典型的スパルタ精神。その所為で若い頃は弟子が付かなかった。ちゃらんぽらんな人間が死ぬほど嫌いだった。
だが現在ではその性格も丸くなったのだが、無茶振りは相も変わらず、むしろ笑顔で無茶振りするから余計タチが悪い。
怒ると死ぬほど恐い。
基本的に電気製品にはほとんど触らない。
和装メイン。洋服は偶に着るスーツくらい。


パワー➡︎➡︎➡➡︎B
スピード➡︎➡︎➡︎➡︎➡︎A
テクニック➡︎➡︎➡︎➡︎➡︎➡︎S
知力➡︎➡︎➡︎➡︎B
協調性➡︎➡︎➡︎C


裏話☆メモ

実は最初女性だった!!

「祖母が最強ってやばくね?」と思っておりましたが、3世代男性家族の生活というのも絵的に(文章ですが)良いなぁ思ったのと、単純に素直じゃないすれ違いという観点では男性の方が良いかもしれないと思い、変更しました。
割と歳をとった男性キャラが好きなのもありますが。
最初は優しい笑みを浮かべながら主人公を鍛錬中ボッコボコにする祖母ちゃんだったのですが……これはこれで凄いな。


ヒーロー殺し編は次がラストです。
どうかお楽しみに。

次回!! 振武くんが電話するぞ!! ゆっくり待っててね!!


感想・評価心よりお待ちしております。

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