plus ultraを胸に抱き   作:鎌太郎EX

87 / 140
青春日常編
episode1 芸術は弁当だ


 

 

 

 

 

 翌日から学校はいつも通りの授業風景を取り戻していた。

 勿論、振武達4人がヒーロー殺しと戦ったことは話題になったし、その事で百も魔女子も無事で良かったという話に落ち着いたし、その後の出久の急成長(あくまで私見だが、安定度と出力がほんの少し上がっている)など様々な事があった。

 あったよ?

 あったんだよ。

 あったんです。

 だがそれすらも霞む出来事が振武に降りかかっていた。

 

「はい、振武!! 久しぶりにお弁当作ったから気合入っちゃった! 残さず食べてね!!」

 

 そう言って気合満々の父を見て、ようやく日常が戻ってきたんだなと実感できる。

 父の料理は好きだ。美味しいというのもあるが、物理法則的ではない、心のこもった温かみを感じる。10年以上彼の食事を食べて過ごしてきたんだから、もう振武の中では「家族の味」と言えば父の料理だ。

 だから受け取った時は、むしろ嬉しくてありがとうなんて言ったものだ。

 のり弁で建仁寺法堂の天井画「双龍図」が完成されているのを見るまでは、楽しい気分なのに。

 久しぶりにクラスメイトに写真を撮られた。

 

「はい、振武!! 今日も頑張って作ったんだ!! 残さず食べてね!!!」

 

 次の日も、また弁当を渡された。

 それは別に良い。弁当の大きさが少し大きくなっているのも、もうしょうがないと言えるだろう ここ数日父は自分に弁当を作る事が出来なかった。

「振武の弁当を作るのが僕の生き甲斐」とまで豪語する壊の事だ、ここ何週間か忙しくて弁当を作れなかった事を嘆いていると同時に、今まで通り振武に弁当を渡せるという事に喜びを感じているのだろう。

 だから、この時も若干笑みを引きつりながらも受け取った。

 だがその笑みも、弁当に顕現した東海道五十三次の藤枝宿を見るまでは。

 芦戸がSNSに投稿した写真が2万アクセスを超えた。

 

「はい、振武!!! 今日は我ながら、凄い完成度だよ!! 残さず食べてね!!!」

 

 その次の日も、弁当を渡された。

 いや、これはもう既に弁当なのか? 単純な大きさも重箱サイズになり始めているんだが、それ以上に俺の抱えているこれはアートじゃないのか? 日本という独特の美的感覚を象徴するような芸術を抱えているんじゃないか?

 と思ったが、きっと壊も遊び心が暴れ川のように暴走しているだけできっと他意はないのだと信じてそのコメントを言うのをやめた。

 だが受け取った時に、もう笑みは浮かべられない。

 笑えるか、こんな弁当。

 そして、

 

「今日は風神雷神ですか……流石に金屏風の部分は再現されていませんが、見事ですねぇ」

 

「ご飯の盛り付けで立体感を出しているんですのね、本当に振武さんのお父様は凄いですわ」

 

「それもあるが、量的にも多いな。食えるのか、振武は。午後動けるか心配だ」

 

「3人とも言葉は気ぃ使ってる感あるけど、……とりあえず、写真撮ろうとすんのやめない?」

 

 スマホを構え、写真に残そうと言う3人を止める。

 さっき芦戸に「動島、なんか作り方教えてくださいみたいなコメめっちゃ来るんだけど、どうしたら良い?」と聞かれて憂鬱になったばかりだ。

 俺の方がどうしたら良い?

 そもそも他人が作る事が出来るんだろうか。

 これはキャラ弁と言えるのだろうか。

 

「現代アートへの強いアンチテーゼを感じますね。芸術はただ独創的であれば良いという訳ではないと考えさせられます」

 

「多分、そんなテーマで作ってないと思うぞ……悪い、皆、ちょっと分けるから一緒に食べてくれ。流石にこれは俺1人じゃ食い切れない」

 

 周りに話すと、普段から欠食児並みに食べる鋭児郎や、ちょっとお財布がひもじい麗日などが集まって、ちょっとしたホームパーティーになり始めている。

 皆購買でパンなどを購入しているものの、それだけで足りる程ヒーロー科の授業は生ぬるいものではないのだ。

 

「にしても、あれだね。ここまで凝って作ろうとすると食費とか大変なんじゃないかな?」

 

 麗日が弁当の一部を食しながらそう言う。

 振武も、長年の謎だ。

 動島家の家計は基本的に壊が管理している。

 振一郎はしっかりしているように見えて金には全く執着していないし、流石に子供に家計を任せる訳にはいかないからだが。

 良く居間で家計簿を付けている

 普通のキャラ弁がどれくらいの費用で作られているか分からないが、少なくともこんな日本美術全集みたいな弁当が極めて安上がりに出来ているとは、考えられない以前に考えたくない。

 だが振武に心配かけまいとしているのか、そもそも一般家庭より収入が多いからなのか、あまりそういう関係の弱音を父から聞いた事がない。

 

「まぁ、うちは道場としての収入だけじゃなくて、祖父ちゃんが警察に指導しに行く時貰う講師代やらあるし、親父もヒーローとして復帰する前からお料理番組やらファッション誌に出たりしているからなぁ。

 正直、収入がどれほどあるのか、ちょっと不透明だけど、少なくはないんじゃないかな?」

 

「ファッション誌!? 初耳ですわ!」

 

 百の言葉に、そう言えば話してなかったと思い出す。

 そもそも家族の話はあまりしないのだ。自慢したくないというのもあるが、単純に理屈で説明出来ない気恥ずかしさがあるからだ。

 

「父さんは服とかにも拘っているし、外見年齢が若いじゃん? だから、結構そういう話が持って来られるんだよ。

 料理どころか家事全般出来て、おまけにルックスが良くて優しいし……自分の親にこういう言い方はあれだが、女性人気は大きいんじゃないかな?」

 

 父はオシャレさん……というと、三流ドラマのタイトルっぽいが、壊が服装にかなりの拘りを持っているのは確かだ。

 毎日のように様々な服装を見ているが、どんなジャンルの服装も着こなせてしまう。ファッション誌では時々モデルをやって、基本はコーディネートの相談を受けているらしい。

 見た目も、実年齢45歳とは思えない。高く見積もっても三十代前半のようにも見える。どうやればあんなに若々しい姿を保っていられるのかは分からないが、女子力が高いのは確かだ。

 この前なんて風呂上がりにパックしてたし。

 ……時々父が本当に父なのか、実は母なのではないかと思うのは内緒だ。

 

「言い方はあれですが、手広くやってらっしゃいますね。

 あれ? の割に動島くんの私服って……ダサいですよね」

 

「おい今空気読んで言わないようにしようと言い淀んだのになんでそのまま言った?」

 

「いや事実ですし」

 

 魔女子や焦凍には、学校行事などの関係で何度か私服を見せた事があった。

 だが、ダサいとは失礼な。

 

「ぜ、ぜひ教えてもらいたいですわ! 普段どんなお姿をしているか気になりますわ私!!」

 

 何故か急に目を輝かせ始める百に、魔女子は小さく溜息を吐く。

 

「そうですね、動島くんの服装を一言で表現するならば……「黒い」、ですね」

 

「ああ、「黒い」な」

 

 魔女子と、ついでに何故か加わってきた焦凍は小さく頷く。

 

「黒い、とは、どのように、」

 

「文字通りです。黒いんです。

 上に来たパーカーも、チャックを下げられて覗くTシャツも、デニムも、ついでにその時デニムの裾をまくったら靴下まで黒かったんです。

 もう、顔を隠せばそのまま黒子でも出来るんじゃないかってくらい、黒いんです」

 

 ついでに言えば、靴も黒かったですという言葉に、その場で話を聞いていた全員がどこか気まずそうにする。

 皆の心は1つ。

 

((た、単色だけで選ぶのダセェ!!))

 

 喪服ではないのだから……いや喪服であったとしてもワイシャツが白い場合が普通なのだ。

 

「ハッ……そう言えば動島のパンツ、いつも黒い!!」

 

「切島、出来れば食事中で女の子いる場で、俺のパンツの色発表しないでくれない?」

 

 衝撃的事実発見と言わんばかりに言い始める鋭児郎を、振武は止める。殴ってでも止めなかっただけでもありがたいと思えという気持ちだ。

「パ、パンッ――」と顔を赤くして動揺している百をスルーしつつ、魔女子は話を続ける。

 

「何故あそこまで黒に対して拘りがあるのか分かりませんが、もう少し別の色にも興味を持ってくださいね」

 

「良いだろう好きなんだから……じゃなくて!! 今大事なのは父さんの弁当をどうするかなんだよ!!」

 

 振武の絶叫に、全員一様に首を傾げる。

 あぁ、理解されないって辛い。

 

「良いじゃないですか、毎日の楽しみですし。何でしたら中学校の時と同じように毎日やってくれると嬉しいんですけど」

 

「この前写真姉ちゃんに見せたら、すげぇテンション上がってたし、俺も同意見」

 

 魔女子・焦凍ペアが揃って口にする。仲良しかっ。

 

「そういう問題じゃないんだよ……明日のは、特にヤバそうなんだ」

 

「何かありましたの?」

 

 百の言葉に、振武は小さく頷く。

 

 

 

「『明日は最高傑作にして最大傑作を作るから、お友達5人くらいに声掛けておいてね。大丈夫、その人数でも食べ甲斐のあるもの作るから!!』ってさっきメールで……」

 

 

 

「5人ですか……それはまた、凄い」

 

 魔女子が珍しく言い辛そうに、そして微妙な顔をする。

 

「……重箱、5段とかになりそうだな」

 

 冷静に大きさを想定し始める焦凍はいつも通りクールだ。

 

「わ、私も一緒にお手伝いします!!(一緒のお弁当!! 楽しみですわ!!)」

 

 百の必死なフォローはこの場で一番嬉しい。でも何でちょっと嬉しそうなんだ?

 

「ハッ、つまり明日動島くんに付き合えば、一食分浮く……う、ウチも動島くんの為に是非」

「昼食代浮けばその分だけ遊べる……お、俺も動島の為に協力するぜ」

 

 言葉に欲望が混じっているが、麗日と鋭児郎助かる。

 

「ま、まぁ明日から仕事忙しくなるみたいだから、妙に気合が入った弁当は明日で打ち止めだと思うんだ」

 

 事務所間での調整なども終了すれば、晴れて正式に分壊ヒーロー《ブレイカー》はエンデヴァー事務所で働くことになる。

 気合を入れすぎた弁当も、明日で一応止まるのだ。

 勿論、週2回の弁当はこれからも継続していくと豪語しているが、職人技のようなものはもう作れないだろう。

 

「明日、明日さえ終われば……」

 

 弁当そのものは嬉しい。

 いつも美味しい食事をありがとうとは思う。そこを忘れるとか、どれだけ親不孝なんだというのも理解はしている。

 だが毎日のようにクラスメイト全員が「今日の動島の弁当はどんなのなんだろう」と覗き込んでくる生活はもう嫌だ。

 写真がSNSに投稿され社会にこんな芸術的な弁当を食っている男子高校生がいるんだというのは、死ぬほど恥ずかしいのだ。

 明日さえ、明日さえ終われば!!

 

 

 

 

 

 日付はあっさりと変わり、翌日の昼休み。

 弁当を広げる必要性があるので、今回は机を何個か借りて教室に広いスペースを確保した。幸い、振武も含めた6人以外は全員食堂に行っている。

 何人か興味津々で観察していたが、今日の弁当は他のものと恐らくレベルが違い過ぎる。安易に見せて写真を撮られSNSで拡散されて反響を呼べば、壊は絶対に調子に乗る。それだけは避けたかったので、今日ばかりは食堂に大人しく行ってもらった。

 

「ちょっとした厳戒態勢みたいですね」

 

「そこまでする必要性はないように思うがな」

 

「黙れそこの天然コンビが!!」

 

 魔女子と焦凍に悲痛な叫びを放ってから、振武は目の前に置かれている弁当を見る。

 三段の重箱。

 焦凍の予想よりも2段少ないが、その分サイズ感は十分。5、6人集めろと言った理由も分かる気がする。

 

「こういうのって、1段目が主食、2段3段でおかずやったっけ?」

 

「確かそうですわね。

 ……あの、振武さん。重箱を睨みつけても消失はしませんわ。お昼の時間もそう長くはありませんし」

 

 百の言葉に、振武は渋々、まずは1段目から開ける。

 

「あら」

「おぉ」

「凄いですわ!」

「可愛いなぁ!!」

「すげぇな、こういうのも作れるんだな!!」

 

 反応する言葉そのものは様々だが、皆少し嬉しそうだ。そこには、全部で24個のお握りが敷き詰められていた。

 当然、ただのお握りではない。

 1年A組の生徒全員と、担任である相澤、そしてオールマイトを模したお握りだった。

 当然お握りでは完全な似顔絵が出来ないので多少デフォルトされているが、皆特徴を掴んでいるので、ちゃんとどれが誰か分かるようになっている。

 

「素晴らしいですね、私のは恐らく食用花を使ったんでしょうけど、うまい具合に再現出来ていますね」

 

 魔女子が自分を模したお握りを手に取り、嬉しそうだ。

 花びらがふんわりと髪の毛の役割をしている。青というよりも紫に近いから、多分スミレなどの食用花の中で花びらを選んだんだろう。

 

「ああ…だが、俺の髪はなんだろう、赤いとこ多分紅生姜だな」

 

 髪の毛のを紅生姜で再現されているのが少し複雑そうだが、顔の雰囲気もよく似たお握りを焦凍はじっくり見ている。

 

「凄いですわね……あ、海苔でちゃんとポニーテールまで再現されていますわ!! ぺったんこですけど!!」

 

 自分を模したお握りだったをひっくり返しながら、百もご満悦だ。

 

「うちの茶色い部分なんなんやろ、ハグッ……カレー味や!!」

 

「麗日、お前よく自分の顔してるの躊躇なく食えんな……俺のも流石に紅生姜だな。赤って難しいのかな、やっぱ」

 

 早速と言わんばかりに自分を模したお握りを頭から食べ始める麗日と、楽しそうにお握りを見ている鋭児郎。

 ……普通だ。

 予想以上に普通のお握りだ。

 いや掛かっている手間は凄いしとても完成度は高いと思う。オールマイトや青山を模したお握りなど、髪が錦糸卵だ。流石に葉隠は再現しきれなかったのか、海苔も何も巻いていない白お握りだが。恐らく体育祭の映像を観察していたんだろうが、それにしても相当の労力が要る事が分かる。

 しかし今までの弁当を比べるとあまりにも、普通に可愛いお弁当なのだ。これくらいだったら毎日平穏だろうと思うくらいに。

 何かテーマでも設けて要るのではないかというくらいのアート作品に仕上げてくる壊の事だ、これだけでは終わらないはずだ。

 

「問題は、2段目以降っ」

 

 そう言いながら、次の段を開ける。

 そこには、

 

 

 

 重箱いっぱいに広がる――宝船だった。

 

 

 

「「「「「「………………」」」」」」

 

 振武以外は圧巻といったような表情。

 振武はだけは苦々しく「やっぱりな」の顔をしている。

 米俵に千両箱、サンゴなどを模してあるその弁当箱は、もはやキャラ弁の域ではない。今までのだってそうだが、基本的に食べないと一体何で出来ているのか分からないレベル。

 父さんの個性って分解だったよね? 食材を変化させる個性ではなかったよね? とツッコミを入れられるレベルの技術を遺憾なく発揮されている弁当だ。

 これがまた綺麗なのだ。

 綺麗な事がまた腹立たしいのだ。

 

「……まぁ、昨日の風神雷神に比べるとややインパクトそのものは劣りますが、趣向を凝らす、技巧を凝らすという意味では、こちらの方が明らかに上ですね」

 

「そうですわね。あれは言わば表面に食材で絵を描くという、ある意味のり弁と同じだったのに対し、こちらは様々なおかずを使って再現されていますから」

 

 まるで司会と解説のように説明している魔女子と百は、どうやら凄いという感情よりも「どうやって出来ているのか」という知的好奇心が強く出ている。

 

「エンターテイメントしやがる」

 

「ぶふっ、ゴメン轟君今それ言わないで」

 

「やめろよ、グフッ、このタイミングでソレ言うなよっ」

 

 焦凍のコメントがツボだったのか(本人は、いたって真面目そうだ)、麗日と鋭児郎は吹き出しそうになるのを必死で堪えている。

 もう笑え。

 真面目に語られる方が恥ずかしいわ。

 

「うん、まぁ予想通りというか……父さんも凝るよなぁ」

 

「動島くん、お気持ちは……すいません分かりませんが、目が死んでるのはダメだと思います」

 

「そ、そうですわ! これは凄いことですのよ!!」

 

「ああ、うん、そうだね……」

 

 凄いことは随分前から認めている。

 問題はその凄さをこんな所で感じたくなかっただけだ。

 そして、

 

「残り1段……何が入っていると思う?」

 

 最後の蓋をあけるのと躊躇しながら聞けば、鋭児郎が顎に手を添えて考え始める。

 

「ご飯、おかずと揃ったんだから、流石にもうおかずはねぇんじゃないか? デザートとか?」

 

「重箱いっぱいのケーキとか?」

 

 麗日の言葉に、焦凍が首を振る。

 

「ギッチギチになりそうだし、重箱にケーキって、斬新な和洋折衷過ぎるだろ」

 

「もう少し趣向を凝らしそうですわね、今までの流れで行くと……チョコだと夏が近づく今では溶けそうですし」

 

 百の言葉に頷きながら魔女子が続ける

 

「ゼリーなどのはあり得そうですね……いえ、これも一面に作られたら取り分けが難しそうですが」

 

 皆思い思いの予想を展開している。

 振武としてもデザートの可能性が高いと思っている。何せ壊は甘いものも好きなのだ。いつも弁当にはフルーツなどを添えてくるし、普通の食事を作るのも好きだが、最近は凝ったお菓子作りもしている。

 もし、パティシエの大会で出てくるような前衛アート系お菓子が登場したら……俺は、ちょっと父親との距離感を見直すべきかもしれない、とは思っている。

 しっかりと覚悟を決めて、

 

「いざ!!」

 

 開けた。

 そこには、小さなカップが6つ並んでいた。

 中には黒いゼリー状の何か……恐らくコーヒーゼリーか何かだろう。

 そして、そこの上に、ホワイトチョコで何か文字が書いてある。

「振」「武」「愛」「し」「て」「る」。

 

 

 

 それは壮絶に重い、愛のメッセージだった。

 

 

 

「「「「「「………………」」」」」」

 

 今度こそ全員が引いている。

 男親が弁当作ってそこに愛しているとか書いているのだから、引くだろう。愛情過多過ぎるだろう。というか出来としては低クオリティーな所がまたガチ感半端ない。

 しかも、これは友達に見せる事が前提で作られた弁当だ。

 つまり皆の前で息子への愛を伝える事は、壊の中では十分問題ないレベルとして認められているのだ。

 これは引く。

 引かざる終えない。

 

「え、えぇっと……」

 

 百が、必死に言葉を紡ごうとする。

 振武は、まるでその場で生気を吸い取る個性でも使われてたかのように痩せ細っている。何か恥ずかしいナニカを見られた時の絶望感がヒシヒシと伝わってくる。

 だから、何か彼を元気付けるフォロー力の高い台詞を言わなければ!! と百は今までに蓄えた知識をフル活用して、そのワードを引っ張り出した。

 

 

 

「――あ、愛されてるって素晴らしい事だと私思いますわ!!」

 

 

 

 その言葉を言われた瞬間、振武はその場に崩れ落ちた。

 全くフォローになってねぇ!!!!

 

 

 

 

 

 

「……ただいま」

「あ、おかえり振武! お弁当どうだった!?」

「ああ、うん、そうだね……スゴかったよ」

「でしょう? 友達に僕の作ったもの見せるんだから、気合入れたんだ」

「ヘエー」

「宝船とか大変だったんだからね!!」

「ソウダロウネ」

「いや〜、でも久しぶりにいい仕事したよ!! 後片付け大変だったけど!!」

「ウン、ソウダロウネ……なぁ、父さん」

「? どうしたの? 今から死刑宣告するような顔して、」

 

 

 

「今度あのデザートみたいな事したら、父さんの事しばらく「クソ親父」って呼ぶから」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その晩。

 近所の人の話では、動島宅から男のすすり泣く声が一晩中聞こえたとか聞こえなかったとか。

 

 

 

 

 

 




《動島壊のお料理♡コーナー》

壊『料理は愛情です。その人を想って料理を作れば、どんな料理でも、一流シェフの料理にも負けないものになります。そこが第一段階です』

振武「想い過ぎだろ重いわ!!」

振一郎「振武、頼むから静かに見ないか」



久しぶりに書いた+コメディーオンリーは初めてだったもので、なかなか難しいという事が分かりました。これからも精進していきます!


次回!! 百と魔女子がキャッキャするぞ!! 観察の準備をして待て!!


感想・評価心よりお待ちしております。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。