plus ultraを胸に抱き   作:鎌太郎EX

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episode5 姦しく悶えつつ

 

 

「う〜ん」

 

 休みのファミレス。

 振武は、テーブルの上で1枚の便箋と睨めっこしていた。

 家でやりにくい作業とはあるものだ。特にこれは親に見られたくはない。しかも今日に限って父も休みで「なになに、何してるの振武」と好奇心旺盛に覗き込んできたり部屋に入って来ようとするのだから厄介だ。

 暇になると趣味の事か振武の事かの2択になるような人だから、これはいつも通りと言っても良いだろう。振武だって親に見られて嫌な事というのが殆どないので、普段であれば話に花を咲かせても良いかなと思う。

 しかし、こればっかりは見られたくないのだ。

 どうせ後で見せるから恥ずかしさは消え去らないが、今も見せて後でも聞かせるなんて堪ったものではない。

 だから、このファミレスに逃げてきたのだ。

 この前に来た時は焦凍たちと一緒にきたこのファミレス。しかも、その直後何を思ったのか話したファミレス店員が動島流に入門してから、それなりに利用する機会も増えた。

 今日も元気に挨拶された……キャラ、変わり過ぎだろ。

 それ故に、家でやるよりはここで作業した方がまだマシだ。

 こんな、感謝の手紙など。

 

 

 

 相澤に渡されたプリントは、授業参観のお知らせというものだった。

 ヒーロー科で授業参観なんてあって良いのだろうか、とチラリと考えるが、これでも一応学生だ。どこまで言ってもそういう事には付き纏われる。普段どのような授業を受けているのかというのは、親も気になる所だろう。

 問題は、その授業の内容。

『親に感謝の手紙を書いて、授業でそれを朗読』

 ……な?

 思春期真っ盛りの少年少女の本音羞恥プレイなど、何が楽しいのか。感謝の気持ちを述べる人間の気持ちを意識するという目的があったとしても恥ずかしい。

 振武も精神年齢的に少年ではないものの、もうこの体に生まれ『動島振武』となって10年以上になる。過去の事を忘れないと震撃習得の時に誓ったが、体に精神は引っ張られるし、動島振武としての自分を受け入れている自分は、どこか若かりし頃の気持ちを新たに獲得している。

 小難しい事を言ったが――ざっくり言えば、恥ずかしい。

 恥ずかしくて、何を書けば良いか分からない。

 

「感謝してないわけじゃ、ないんだけどな」

 

 家事全般を引き受け、おまけに振武を養う上で様々な仕事をしてくれていた。職業体験の時は色々間違ったが、それはもう許しているし関係も元に戻っている。

 構い過ぎで愛が重いが、優しい父親だと思っている。

 ……が、思っている事を言葉に出すというのは難しい。

 そう簡単に出来る事ではないのだ。

 

「あぁ〜、ちょっと休憩!!」

 

 鞄にレターセットを仕舞い込んで、ドリンクバーから取ってきたジュースに口をつける。考え込んでいた頭の中に糖分が補給されるような気がして、少し落ち着いてきた。

 

「あれ? 動島じゃーん!」

 

 そうしながらボケっと外を眺めていたら、いきなり声を掛けられた。

 ……いつも思うが、高確率で俺って気ぃ抜いてる時にいきなり話しかけられるよね。と思いながら声がした方に顔を向ける。

 紫っぽいピンク色の肌と髪、頭から生えている角。明るい笑み。

 

「……芦戸さん?」

 

 同じクラスの芦戸三奈で間違いなかった。

 そう答えると、嬉しそうにブンブンと手を振りながら走り寄ってくる。

 

「うわっ、超偶然!! 動島もファミレスなんて来るんだねぇ!! ちょっと意外!!」

 

「意外か? 俺だってファミレスくらい来るよ」

 

 苦笑しながら話をする。

 ――ハッキリ言おう、動島振武は芦戸三奈がちょっと苦手だ。

 別に嫌いなわけではない。嫌いと苦手は同じように見えて違う。

 なんと言えば良いのだろうか。芦戸三奈は良くも悪くも女の子らしい。

 百や魔女子がそうではないとは言わないが――あ、いや、魔女子はちょっと違うような気もするが――あの2人は今時の若い女の子という感じではない。ちょっと大人っぽい部分が入る女子だ。

 しかし芦戸三奈は、まさしく今時の女の子! と言った感じで元気で明るく、悪く言えば行動と言動がピンポン球のように軽い印象を受ける。

 そういう意味では、葉隠もちょっと苦手な部分があるのだが。

 

「う〜ん、動島はなんだろうな……ファミレスより、バーとか似合いそう」

 

「いや未成年だし」

 

 この通り、あまり深くものを考えていない。

 同性ならばある程度考えがわかる部分もあるんだが、異性となると途端にややこしくなる。

 

「三奈ちゃんどうしたの急に……あれ?」

 

「あ、動島じゃん」

 

 そうして三奈と話していると、物陰2人現れる。

 服が勝手に浮いているように見える少女――葉隠透と、耳たぶからイヤホンジャックを伸ばしている黒髪の少女――耳郎響香だ。

 ……苦手なもう1人来てるし。

 

「えぇ〜、超奇遇じゃん!!」

 

 しかも芦戸と似たような事を言っている。

 

「あ、あぁ、どうも……3人こそ、こんな所でどうしたの?」

 

「宿題一緒にやろうと思って……あ、手紙の方じゃないからね?

 それと、まぁ3人でやって、後は駄弁ろって話になってさ」

 

 少し引きつった笑みを浮かべている振武に、はしゃぐ2人の代わりで耳郎が話し始める。

 ……思えば、この3人とはあまり話していなかったかもしれない。苦手意識がある2人もいるが、あまり話す機会そのものが少なかった。

 

「あ、ねぇねぇ! 動島って結構頭良かったよね!?」

 

 なんの脈絡もなく、芦戸がこちらの顔を覗き込んで来る。

 近い近い。

 

「言うほどじゃないけど、な」

 

「えぇ〜だって中間3位だったじゃん!!」

 

 ……その事に関しては少し微妙な所だ。

 ついつい忘れがちだが、振武は転生者だ。

 諦めというものを身につけていたものの、前世ではそれなりに勉強も出来ていた。原作知識などはないものの、それでも一度覚えたものを忘れないという特技を持っていたせいか、勉強に関してはこの世界でもさほど苦にはならない。

 ……こういうのも、ズルと言うのだろうか?

 

「まぁ、一応な」

 

「じゃあさじゃあさ!

 

 

 

 宿題教えてよ!!」

 

 

 

 ……はい?

 

 

 

 

 

「ねぇ、ここってどういう事?」

 

「あ? あぁ、これな、えっと……ほら、ここの公式使えば解ける」

 

「……その公式が意味わからないんだけど」

 

「いや、それを俺に言われても……」

 

「動島くん動島くん――空中浮遊!」

 

「葉隠さん、コップ置いて真面目に解いて。耳郎さん見習ってマジで」

 

「動島、私終わったから、2人に見せちゃおうか?」

 

「自分の為にならないからダメ。出来るだけ自力で考えて」

 

「「え〜」」

 

 何の因果か。

 物凄い押しの強さで同じ席に座って来た(幸い4人掛けに通されていた)3人の勉強を教える事になった。

 しかし思った以上に大変だ。

 耳郎はまだ良い。出来ないわけではなかったし、案外真面目な所があるのか、ちょっと解っていない所を教えればすぐに解いてくれた。

 問題なのは2人だ。

 葉隠は……驚くほど集中力がない。いきなり会話に小ネタを挟んで来たり、さっきのようにふざけ始めるので止めるのが厄介だ。

 芦戸は……もうそれ以前の問題だ。雄英高校の筆記試験はかなり難しい部類なはずで、このレベルの学力で良く入ってこれたなとちょっと驚く。

 というか、この芦戸より馬鹿な上鳴の頭はどうなっているんだマジで。

 まぁ出来ないと言っても、平均レベルが高いからこそで、普通の高校生で考えれば出来る部類……なのかもしれないが。

 

「ぶ〜、もっと優しく簡単に教えてくれる思ったのに、動島スパルタぁ」

 

「そうだそうだ〜厳しすぎるぞ筋肉ダルマ〜」

 

「誰がスパルタクスだ阿呆」

 

 というかどこからそんなネタ仕入れて来たんだ。

 

「俺がそんな簡単に1から10まで教えたら、お前らの為にならないだろう。期末もあるんだから、もうちょっと頑張ってくれ」

 

「「えぇ〜」」

 

 はいはい真面目に解いてくれよ。

 そう言いながら、振武はジュースを口にする。

 ちなみに彼女達がやっている宿題は、昨日のうちに済ませてある。むしろ振武からすれば手紙の方が難物だったから、考える時間が欲しかったのだ。

 

「にしてもさぁ、動島って結構凄いよね」

 

 問題の難しさになのか、悩ましそうに眉を潜めて問題集に取り組んでいる芦戸が言った。その言葉に、何故か葉隠や耳郎も頷く。

 

「だよね〜、勉強出来て、おまけに強い」

 

「個性も優秀だしね……爆豪もそんな感じだけど、あいつ性格クソ下水煮込みだから。その点動島は性格の良さもあるし」

 

「爆豪くんはどうしようもないよねぇ」

 

 アハハ〜と朗らかに話しているが、爆豪への当たりが強い。

 

「そうか? 俺は普段通りいつも通りしているだけだぞ? 別にそこらへんの男と大差ないだろう。

 勉強だって1位じゃない。個性はまぁ応用範囲が広いだけで、爆豪や焦凍ほど派手なわけじゃない。強さに関しちゃ……そりゃああのクラスの中じゃ強い方だが、外に目を向け始めればきりがない」

 

 実際、前世で習ったジャンルの中に含まれないヒーロー情報学や、近代歴史は苦手な部分も多い。

 個性は確かに様々な事を出来るし威力が上がって便利だが、傍目から見るとそれだけで戦っていける程のものではない。振動だけの威力は見た事がないが、それほどではないだろう。

 強さも……一度皆にうちの道場を見て貰った方が良いかもしれない。あそこには振武より強い人間がかなりの数いる。

 そう考えた結果、振武は自分を「それなりの実力はあるがまだまだ」という認識しかない。

 平均点が歪んでいるというのには、気づいていないのだが。

 

「謙虚っていうか、自己採点厳しめだよねぇ」

 

「そう言えば、聞いた事なかったんだけどさ、」

 

 耳郎はストローから口を離すと、さも何でもないかのように話し始める。

 

 

 

「――動島って、女の子の好みとかあるの?

 なんか、あんまそういうイメージ湧かないっていうかさ」

 

 

 

 

 ◇

 

 

 ……耳郎響香は、八百万百、塚井魔女子と友達だ。つい最近そうなってまだぎこちなさはあるものの、3人でご飯を食べたり話をしたりしている。

 そんな中で話題に上がるのは、やはり2人の恋の相手の話。轟焦凍と、動島振武が多い。

 惚気から相談まで様々な話を聞いている耳郎。耳郎本人もそれほど経験豊富と言うわけではないが、しかし友達が悩んでいるならば相談に乗りたい。

 その話題の中の1つが「動島振武はそもそも、どんな女の子が好きなのだろうか」という点だ。

 様々な表情、姿を見せる動島振武だが、恋愛という事に関しては、とてつもなく情報がない。中学校時代からの友人である魔女子ですら「彼の好みは分からない」と明言するほどだ。

 女の子に面と向かってそういう話をしないというのは何と無く分かるが、それでも影すら見えないというのはどうなんだろう、と耳郎は考えている。

 だがら、今の状況は絶好のタイミングだ。

 動揺する百もいないし、一緒にいる芦戸と葉隠は押しが強い。答えさせるには絶好のタイミングだ。

 耳郎がそんな考えを持って聞いているとも知らず、振武は少し悩むようにしている。

 どんなに頭が良かろうが強かろうが、彼もまた思春期男子。

 恥ずかしさで言えない事はあっても、悩みはしないだろうと思っていたので少し意外だ。

 

「……考えたこともなかった、それ」

 

 答えも意外――というより予想外だった。

 

「えぇ〜、ないわけ無いじゃん!! 髪の長さとか、そういう細かいのでもあるでしょ〜」

 

 信じられないと言わんばかりに、芦戸が突っかかっていく。

 それでも振武は、微妙な反応しか返さない。

 

「つい最近まで修行やら、ヒーローになる為って考えてばっかだったからな。そういうのはあんまり、考える機会がなかった。

 俺、モテないしな」

 

 大嘘である。

 あの体育祭以降、学校内だけでも振武を気にしている女子は多い。

 もし百という存在がおらず、耳郎も遠くから見ているだけの立場であればアイドル感覚で気にするかもしれないと思う。

 顔だけで言っているのでは無い。熱い信念と、それを真っ直ぐに示す態度というのは、男女問わずカッコいいものだ。

 そんな男が、モテない。

 ……自覚してないだけ、だろうなぁ。

 

「じゃあ、今考えてみなよ!

 ほら、可愛い子とかいるでしょ!? 私とか!!――って私見えないやないかい!!」

 

「ごめん葉隠さん、そのノリは分かんない」

 

 葉隠のノリに苦笑しながらも、振武はもう一度考え始める。

 

「そうだな、強いて言えば、」

 

「「「強いて言えば?」」」

 

 思わず身を乗り出して3人で距離を詰める。

 

 

 

「――惚れた女が好み、かな」

 

 

 

 イケメンか!!!!

 こんな所でそんな模範解答は望んでいない!!

 

「お為ごかしだ〜」

 

「格好付けだ〜」

 

「いや、本気でこれしか言いようが無い。だいたい経験が全然ない人間に、何を求めてんだよお前ら」

 

 不満そうに文句を言う芦戸と葉隠に、振武は苦笑しながら落ち着かせる。

 ……本当にそういう事を考えて来なかったのだろう、その表情は誤魔化しているようには耳郎には見えない。

 だが、だからこそ余計に気になるのだ。

 

「う〜ん、じゃあ誰か候補とか上げてみるのはどう?――百とか」

 

 耳郎の突っ込んだ質問に、何と無く状況が読めてきた芦戸と葉隠は黙って頷いてくれる。

 

「百? 百って八百万百の事か?」

 

「それ以外誰がいるっていうのさ」

 

 耳郎の言葉に、それもそうだなと振武は納得してくれた。

 普段はそれなりに空気が読めたり、察しの良い所があるのに、これに関しては少しも勘ぐった様子がない。朴念仁というのは本当のことだったようだ。

 

「……あいつに言うなよ?」

 

 意を決したように話し出す振武に、3人とも何度も頷く。

 

「……まずハッキリ言っておくが、俺はあいつの事を良い女だと思ってる。

 頭は良いし、美人だ。それに、性格も良い……あんな女は何年探したって出て来ないと、断言出来る」

 

 言葉だけ聞けば良い事ばかり。

 だが、その目は真剣なそれだった。茶化すことも出来ないほど。

 

 

 

「――でも、俺には勿体無いよ。あんな良い女」

 

 

 

 それは、誤魔化しでも何でもない。

 社交辞令でも何でもない。

 本当に百を大切にしている、凄い存在だと思っている――だからこそ、自分には勿体無い。

 本気でそう思ってる目だ。

 

「あいつならきっと、俺より良い男と出会えるさ。

 ――って、何でこんな話になってんだよ!! お前ら勉強しろ勉強!! 俺ちょっとトイレ行ってくるから、戻ってくるまでに1問くらい解いてくれよ、マジで」

 

 そう言うと、振武はこちらが呼び止める暇もないくらい素早くトイレの方に向かって行った。

 

「「「………………」」」

 

 3人は、何も話す事が出来ずに沈黙する。

 相手の事を好きかそうではないか、そんな単純な問題ではなかった。

 そもそも彼の中では、八百万百という存在が大事なのだ。彼女のことを本気で考えて、「自分では相応しくない」と思い込んでいる。

 自分に厳しい所がある振武だ。

 もしかしたら、そこも関係してくるのかもしれない。

 だがそれ以上に、

 

「百に好かれているって言う可能性を一切考慮してない発言だったね」

 

「私達から見ても、八百万さん動島の事好きそうなのに……なんか、違う意味で眼中にないって言うか、考えもしてないっていうか」

 

「自分はまだまだ、って断言しちゃう奴だもん、自分よりもずっと良い男がいるって思っちゃうのかも」

 

 3人が真剣な顔でそう言う。

『惚れた相手が好み』と彼言ったが、それは百だってそうだろう。誰でもない、動島振武に八百万百が惚れているという事が大事で……というか、恋人としてありかどうか、という話とはある意味振武の回答は趣旨がずれている。

 

「……自覚してないんだろうなぁ」

 

 動島振武だって、八百万百に惚れているという事を。

 相手の事を思い、自分以上に幸せになってもらいたい。

 そう考えている時点で、すでに相手を世界一大切な存在だと認識しているに等しい。もう十分、彼は百に惚れているのだ。

 それに気づいていないのは経験故か、近くにいるからピントが合っていないのか。

 

「まずは動島くんにも自覚を持ってもらわないと進まなそうだねぇ」

 

 八百万さん大変そう……という葉隠に、芦戸は大きく頷く。

 

「うんうん、あの2人って、もう付き合ってるのかってレベルで仲良いと思ってたけど……内実結構大変そうだね」

 

 恋愛という人の心が関わる案件は難しい事が多いが、これはさらに難しそうだ。

 当事者でもない3人は、そう思って溜息を吐いた。

 このままでは、友人の恋はいつまでも進展しない、暖簾に腕押し状態が続きそうな予感がする。

 

「でもなんか、ちょっと羨ましいね!

 動島くん、なんか八百万さんを思いやってる感じがして!!」

 

 葉隠の言葉に、それはね、と芦戸も耳郎も相槌を打つ。

 他人にとはいえ、なかなか他の女の子を「良い女」と称し、相手を大事にしている様子だ。ああいう風に思われているのは、女の子としては嬉しいところだろう。

 身を引いている所を除けば。

 

「……まずは、あいつに自覚させなきゃね」

 

「あ、だったら八百万さんにデートに誘わせたら? ほら、2人っきりで遊べばもしかしたら、自分の気持ちに自分で気付いてくれるかもしれないよ!?」

 

「アリだね!! じゃあ作戦は、」

 

 3人が談笑を始める。

 八百万百と動島振武の恋。

 このような形で首を突っ込んでしまっては、黙って見ていることは女子としてもヒーローとしても出来ない。

 なにより、

 

 

 

『無自覚でいつまでもあんな感じでイチャイチャされちゃ堪ったもんじゃない。

 というかやきもきして見てらんない!!』

 

 

 

 そういう気持ちが、3人の中には芽生えていた。

 

 

 

 ◆

 

 

 

「ったく、何なんだあいつら……」

 

 洗面台で手を洗いながら、振武は小さく溜息を吐く。

 恋愛などという専門外な質問をされたせいか、頭の中は少しだけモヤモヤしている。

 まぁ、考えていなかった訳ではない。

 自分の周りはそういう話がどこかに必ずあったし、前世ではそういう相手だっていた。今は経験がないが、それでも普通の人間とは違う。分からないという事はないんだ。

 ――だが、今の自分にそれは、要らない。

 ヒーロー。

 動島流宗家。

 多くの友達。

 今の自分は十分に満たされている。やるべき事も多い。その上で恋人まで求めるのは、流石に欲が深すぎるし、そもそもちゃんと付き合っていけるかどうかも分からない。

 

「だいたい、百が仮に好みだとしても、なんだってんだ」

 

 小さく、自分に言い聞かせるように呟く。

 百が自分に向けてくれている好意は「尊敬」だ。幼い頃、振武が百の為にした行動から来る憧憬のようなもの。

 救けられた相手(振武は結局何も出来なかったが)に好意を持つというのは極めて自然な流れだ。特にあの状況だ、吊り橋効果的に好感度が上がるのは分かる。しかし、恋愛に発展するほどなのかどうか、振武には分からない。

 確かに、百は自分に良くしてくれる。振武が辛い時は背中を押したり慰めたりしてくれる。一緒に笑ってくれて傍にいてくれる。それはとても嬉しい事で、実際救われている面が多い。

 彼女が応援してくれているから、自分は強くあれるのだ。

 だがそれは尊敬してくれているというというのと、友人としての行為だと思えば全部説明がつくのだ。距離感が時々可笑しくなるのは、彼女が男性慣れしていない部分もあるだろう。

 そんな純粋ない気持ちを向けてもらえるだけでも自分には勿体無い、過分なくらいなのに、それ以上を求めるのは、

 

「って、なんで俺が好きって前提で話を進めてんだ!!」

 

 こんな事を考えるのは、百にも失礼だ。

 彼女もまたヒーロー志望。尊敬の念しか抱いていない相手にそんな風に見られていると考えれば、彼女の道を邪魔してしまう事にもなりかねない。

 最悪の場合幻滅されてしまうかも……そう考えると、とてもではないが恋愛をしようという事にならないのだ。

 なによりも、

 

 

 

 前世でも山ほど見てきた「勘違い男」にはなりたくない。

 絶対!!

 

 

 

 それで痛い目を見てきた男を多く見てきた――というか、時々自分でも実感してきた。

 OKを貰えるだろうと踏んで告白したら「友達としてしか見てなかったの」なんて言われるのは悲しく、しかももう元の関係性には絶対に戻れない。

 ハイリスク過ぎる。

 

「友達友達百は友達友達って言ったら友達!!」

 

 まるで呪文のように言い聞かせる。

 ……その呪文は十分ほどかけて行われた。

 振武が席に戻って来るまでガールズトークという名の作戦会議が開かれていたせいで、彼女達の宿題は全く進んでおらず、結局振武が怒りながらも教える事になる。

 しかもその所為で、感謝の手紙はこの日には完成しない訳だが……それはここでは語らない事としよう。

 

 

 

 

 

 




ここ最近おまけコーナーを書いていないのは、50万UA記念で書いている短編が忙しいからっす!!
本当は2、3話書いて終わりにしようかなぁと思ってたらついつい長くなっている……短編として別に出すかもしれません。長いので。
内容は……とある人の過去話とだけ言っておきます。
どうかお楽しみに。


次回!! 相澤先生がイライラするぞ!? カルシウムとって待て!!


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