我らこそは天が遣い八咫烏(笑)   作:ナスの森

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邂逅

 ガトーのバックにいるであろう存在――骸と同じように、その存在は朧も感づいていた。

 ガトーカンパニーに技術を横流しし、兵器の開発に着手させた存在。

 これだけの技術力を持つ存在は雲隠れを擁する雷の国である可能性が濃厚である。

 ガトー本人に存在を悟られることなく、技術だけを横流しにして自分達は静観。そのあまりの手際のよさと卑劣さを感じさせる手口は間違いなく影で動く忍のものであると朧は確信した。雷の国の技術力を考えるとあながち不可能でもないであろう兵器群。

 まるで戦争屋と武器商人と忍びの卑劣さが合わさったかのような清々しいやり口である。

 どうしてこうなったし。

 朧は考える。

 

 雲隠れがガトーを利用して火の国と水の国を戦争させようとする理由――まず念頭に置いておくことは、このやり方は、雲隠れそして雷の国にとっても大きなリスクが伴っている。こんな禁術にも等しい技術を横流している時点で、向こうの必死さがかなり垣間見える。むしろ戦争を通じて火の国と水の国がこれらの技術を独自に解析し、モノにしてしまう可能性すらある。

 開発資金自体はガトーカンパニー側が請け負っているとはいえ、これはあまりにも大きなリスクだ。

 そんなリスクを冒してまで――こんな大仰なことをしでかす理由。

 戦争を起こす理由は、単純に火の国と水の国の兵力を削っておきたいから、というのはあるだろう。

 元々五大国の擁する隠れ里の中でも突出した戦力をもっているのは、雲隠れと木の葉隠れの里だ。しかし、そのトップ争いから木の葉が身を引いたことで、実質雲隠れが五大国中トップの力ある隠れ里として現在君臨している。

 そんな自分達の優位性を態々崩しかねないリスクを冒してまで、こんな大仰なことをやらかす理由が朧には思いつかない・・・・・・こともなかった。

 

 確かに、里という単位でみれば雲隠れは最強の隠れ里だ。

 もともと雲隠れとトップ争いを続けていた木の葉隠れは大戦の犠牲に加え、うちは一族を失い、千手一族の血もいまや伝説の三忍の一人である綱手姫を除いて断絶している状態だ。尾獣を制御しうる写輪眼の血継限界を保有するうちは一族と、木遁忍術を発現しうる千手一族を失った今となっては、尾獣を制御する術が、うずまき一族より伝わる封印術以外、表立って存在していないのだ(裏では柱間細胞に適合したヤマトや、ダンゾウが大量に回収した写輪眼もあるが、あくまで裏の話である)。

 いくら最強の尾獣を保有しているとはいえ、木の葉創設に関わった二大一族がほぼ断絶している今、その一方で二位ユギトやキラービーのように尾獣化まで使いこなす人柱力を保有する雲隠れは今や木の葉を退けて五大国トップの里として君臨している。

 隠れ里という単位で見れば雲隠れは間違いなく五大国の中でもトップの戦力を保有しているのだ。

 

 ――あくまで、「里」という単位で見れば・・・・・・。

 

 だが、「国」という単位で見れば話はまったく違ってくる。

 今まで、「国」の戦力というものは、どれだけ強力な忍び里を保有するかで決まっていた。故に里の戦力が国の戦力に相当していたのだ。

 戦争に参加するのは忍びだけではないとはいえ、主に活躍するのはやはり忍びだ。

 故に、最高の戦力をもつ里である雲隠れを保有する『雷の国』は、そのまま五大国トップの軍事力をもつ国として君臨できたのだ。

 

 だが、ある男の出現によってそれは覆された。

 「里」という単位で見れば未だ軍事力トップを保っているものの、「国」という単位では雷の国は2番手に落ちぶれてしまった。

 木の葉の里を擁する火の国が、里とは別に直下の忍び勢力をもつようになったのだ。

 その組織の名は、天照院奈落。

 最初は小規模だったその組織は、瞬く間に五大国の里に並ぶ勢力へと急成長し、火の国に仇なす不穏分子や火種をかき消すために各地で暗躍してきた組織だ。

 特に第三次忍界大戦終戦直後においては、終戦直後で各地に燻っていた火種をかき消すために奔走し、容赦なく粛正し根こそぎ刈り取ったとされる。

 

 そこで彼らの買った恨みは数知れず、雲隠れの里やそれを擁する雷の国もまた例外ではない。

 さて、そこで話を戻そう。

 ここで重要なのは、それほどの規模にまで暗躍できる忍び組織を、火の国がもう1つ保有してしまったということだ。

 里同士の戦、となれば雲隠れは間違いなく木の葉隠れに対して優位を取れるだろう。

 だが、戦争というものはそんな単純ではないのだ。奈落の活躍によって里同士の争いや火種が国の人々にまで飛び火してしまうということが逆説的により証明されてしまった今、もし雲隠れが木の葉隠れと戦争になった場合、奈落をも敵に回してしまうことになる。

 下手すれば、「前門の木の葉、後門の奈落」という最悪な図式まで生まれかねない。

 そうなれば五大国トップの里の優位性など瓦解したのも同然だ。そうならないために、雲隠れは何としても自らの優位性を確かなものとするため、少しでも奈落を、相手国の力を削ぎ落としたいのである。ついでに因縁の相手である霧隠れの里の戦力も削っておきたい。

 そのためにこの両者を激突させて自分達は静観――雲隠れの目論見は大体こんなところだろうか。

 

 つまり、波の国篇がここまでややこしくなったのは紛れもなく――

 

(どう考えても俺のせいですね、クォレハ・・・・・・)

 

 奈落を(誤って)設立したこのバカのせいである。

 

(ああくそ、勘弁してくれよ・・・・・・只でさえ朧さんの隈はすごいのに、これ以上ストレスマッハになったら余計隈が黒くなっちゃうよっ!?)

 

 しかも白眼だから隈の部分が余計目立つんだよ、と付け足す。

 

 現在、朧の背後には十数人の波の国の町民――に扮した奈落の忍びたちが片膝をついて指示を待っている。

 原作の奈落のモブみたく人間味のない機械じみた表情で一般人に扮するには違和感が残る彼らであるが、幸いにも活気の失っている波の国の地においてはむしろこれ以上にないくらい風貌や雰囲気が合致している。

 下手に変化の術を使用してチャクラを消費し続けるよりかは素の状態で扮してしまう方が効率がよいというもの。

 

「手筈は以上だ。期日はもって数日。奴らがカカシ班に手をこまねいている隙を狙う」

『・・・・・・』

 

 別にガトーを殺すだけならばこんな面倒くさいことはやる必要はない。

 この問題は、ガトーを殺すだけではこの件は終わらないこと。

 ガトーが抱え込み、この波の国に集中させている戦力――それは原作で雇っていたならず者たちの数の比ではない。

 多数のギャングに加えて多くの抜け忍まで雇っている。おそらく皆戦争を起こすための駒として集められたものだろうが、もしガトーだけを殺し終わろうものならば、金づるを失った連中がどのような行動を取るかは想像に難くない。

 原作ではまだならず者たちだけだったため、立ち上がった波の国の町民たちにより追い出すことができたが、その勢いも圧倒的戦力差の前には通用しない。無数のカイザの二の舞が起こるだけだ。

 そのため、ガトーの暗殺とガトー一派の殲滅は、ほぼ同タイミングで行わなければならない。

 波の国の町民を人質に取る暇さえ与えず、この島に運ばれているであろう兵器やその設計図などの資料も全て燃やし、その関係者や知っている者も全てここで殺す。

 それに、ガトー一派に扮して紛れ込んでいる勢力はおそらく奈落や霧隠れだけではない。そのガトーのバックにいるもの――おそらく雲隠れの刺客も紛れ込んでいる筈だ。

 霧隠れと奈落がガトーの狙いに気付いた時点で、雲隠れの思惑はとうに頓挫している。後は、殲滅までの間にできるだけどこかに潜んでいるであろう雲隠れの忍びをできるだけ炙り出し、用済みとなったら始末する。・・・・・・もし原作キャラが混じっていたら、できるだけ生かして返す。

 大まかな作戦はこんな所であろう。

 

「散れ」

『――――』

 

 すべきことを頭の中で整理し終わった朧は、背後に膝をついている奈落の忍たちにそう指示する。

 前世で言うところの東南アジア・沖縄風の服を着た奈落の忍たちは朧の元から去り、再び町に戻って町民に紛れ込んでいった。

 それを見送った朧は、再び視線を空の方へ向け、再び思考に耽った。

 

(・・・・・・さてと、大まかな方針は決まったし、後はカカシさんの選択肢次第なんだけど・・・・・・)

 

 骸がカカシ達に提示した選択肢2つであり、大まかな選択肢はタズナたちを見捨て任務を終了させるか、それとも橋の完成までタズナたちを護衛し続けるかだ。

 だが、カカシたちはおそらく後者を選ぶだろうと朧は踏んでいる。

 ・・・・・・というよりも選ばざるを得ないだろう。

 

 実は、骸がカカシたちに提示した選択肢の他に、カカシ班にはまだもう1つの選択肢がある。それはおそらくカカシも考えつくだろう。

 ――それは、一時的にタズナたちを波の国から避難させ、自分達奈落がガトーを殺すまでどこか別の場所に潜伏させるという選択肢だ。

 これならばタズナの護衛という任務を継続させつつ、事の終止符を待つこともできよう。

 だが、おそらくこの手はもう使えない。

 海を牛耳ってしまっているガトーの目から逃れることは難しいのだ。原作でさえタズナがこっそり波の国を出て木の葉に依頼しに行ったということすら、実際はかなりの綱渡り行為であったことが分かる。鬼兄弟に襲われたときも、ナルトたちを連れて波の国へ帰る途中であったからよかったものの、もし木の葉にたどり着く前の段階で鬼兄弟に襲われていれば成す術もなかっただろう。

 そして、波の国へ木の葉の忍びを招くという失態を一度犯してしまった。自分達奈落が霧隠れのスパイたちの手引きがなければ、ここまでスムーズに潜入できなかったように、今じゃ波の国まわりの海域にはガトーの監視の目が敷かれてある。カカシ班だけならばまだしも、タズナたちを連れた状態じゃあ手に負えない。

 元より橋の完成をガトーが恐れていたのも、波の国での自分達の行いが世間に知れ渡ることを危惧してのものだ。にも拘わらず、タズナが波の国を出てしまい、木の葉の忍びを連れてきてしまった。

 この時点で、ガトーにとっては相当焦る案件である筈だ。

 原作で再不斬と白にタズナたちの抹殺を急いていたのも納得というものだろう。

 

(従業員に扮していた影分身からの情報もそうだけど、本当にエグかった。雲隠れめ、なんて大仰なことしてくれんの・・・・・・)

 

 そもそも原作じゃまだ里の名前しか出てきてない段階だろう。主人公たちの初の命に関わる任務にこんな大仰なこと仕掛けてくんなよおまえらの出る幕まだ先だろせめてビー(八尾の片足)がサスケに攫われるまでの間はおとなしくしていろよと朧は理不尽な呪詛を彼らにぶつける。・・・・・・すべてブーメランであることは自覚しているのだろうか。

 

(その点、水影さんマジ天使だわー)

 

 打算があったとはいえ、雲隠れとは違い陰湿なやり口(人のことは言えない)を仕掛けてくるのではなく、態々少ない部下を連れてほぼ単身で自分達の所に乗り込み、事情を説明してくれた上で協力をもちかけてきてくれた。

 おかげで強引な手に走ることなくスムーズに潜入できた。水影の頼みを引き受けてもお釣りが帰ってくるくらいだ。

 

 マジ天使。そしてエロい。結婚しよ・・・・・・っていうのはさすがに冗談で。

 

 頼みの件もあって水影たちが潜入させることのできる霧隠れの忍たちはごく少数。

 そのため水影は表立って動く大義名分のある自分達奈落に託したのだろう。

 

(まあ、それはさておき、後の懸念は・・・・・・)

 

 後の懸念はただ1つ――単純にガトー側の戦力が原作の比ではないこと。・・・・・・無論、そのために奈落の忍びを相当数動員するわけであるが、向こうの手数が増えているのは単純に厄介なのだ。

 下手したら――――ということになりかねない。

 

(まあ、その為にアイツらを町民に紛れ込ませたんだけど。指示は伝えたし、うまくやってくれよー、頼むから)

 

 ここまで来た以上、打てる手は全て打つ。

 

(もう、原作なんてどうでもいいや。ナルトが火影への夢を持ち続けてれば、なんとかなるって、それ一番言われてるから・・・・・・)

 

 もうあまりの原作知識との剥離に、朧は既に諦めかけていた。内心超諦めモードだった。

 このとき、自分の顔が弟弟子たちに嫉妬したときの原作(銀魂)の朧の病み顔とそっくりであると、洛陽決戦篇を最後まで知らない朧(笑)には分かる由もなかった。

 

     ◇

 

 

 カカシは迷っていた。

 どのみちガトーの命はないだろう。それは波の国にとってはいいことなのかもしれない。

 後数日で、潜入班とは違い、あの奈落三羽が一、骸が奈落の軍隊を率いて波の国に駐屯するガトー一派を総攻撃するという。

 ――だが・・・・・・それでも、この選択肢は、どうなんだ・・・・・・?

 一度は奈落がガトーを仕留めるまでの間、タズナを国から連れ出して別の場所で潜伏させつつ護衛するという選択肢もあった。

 だが、カカシは改めて選択肢が骸が提示した2つしかないということを悟る。

 脱出路の確保のため、念のため桟橋付近の海域を泳ぎながら探っていたが、一度国から出ればそこはもうガトーの監視船で一杯だった。

 大きなサーチライトが取り付けられた蒸気船が、列をなして並んでいたのだ。

 あれでは、とてもではないがタズナたちを連れながらでは脱出などできない!

 だが、タズナを除いたカカシたちだけならば、何とか・・・・・・。幸いナルトやサスケたちのチャクラコントロール力は木登り修行によって一気に上達している。あの調子ならばもう水の上を歩くことだって造作もないだろう。

 サーチライトを避けながら船を奪って、緊急ボートに乗って帰ってしまえばそれで済む。

 だが、タズナたちを守りながら行くのは無理だ。

 そんな長時間海の上に立っていたらチャクラはあっというまに無くなってしまうし、タズナたちを移動させるにはどうしても船が必要になる。

 カカシがタズナをおぶりながらいくという手もなくはないが、その場合、重量がまして歩いたときの波紋の大きさで確実に感づかれる。

 なんせあの監視船の中には抜け忍たちも同乗している。下手な痕跡を残したらバレるに決まっている。

 なら、いっそのことタズナを見捨てて・・・・・・

 

(本当に、それでいいのか・・・・・・?)

 

 ただでさえ、ガトーの監視の目により橋の建設すらままならない状態だ。

 カカシが抜け忍たちを再不斬と共に一掃したことが抑止力となって奴らがうかつに来れない状態であるとはいえ――

 

(おそらく、再不斬が完治すれば、奴らはもう一度やってくる)

 

 奈落の(いばら)に言われた通り、それが実質の期限となるであろう。

 それまでに、カカシは判断を下さなければならない。

 タズナたちを見捨てて、部下を連れて逃げるか。

 部下と共に、最期までタズナたちを守り通すか。だが、そのためには少なくともカカシは再不斬に付きっきりにならなければならない。

 果たして、ナルトたちだけで、今度こそタズナを守り通すことができるのか・・・・・・?

 ガトー一派だけならば、修行で強くなったナルトやサスケでも何とか対処できるかもしれない。

 だが、霧隠れや奈落は一応は敵ではないとはいえ、彼らがタズナやこの国の人間について考えているかは甚だ怪しいところだ。

 何せ冷酷無比の暗殺集団である奈落と、任務遂行のためなら仲間の犠牲すら躊躇わない血霧の里だ。

 結局のところ、カカシ達だけでタズナたちを守らなければいけなくなる。

 ・・・・・・それらをクリアしたとしても最大の懸念、それは雲隠れが関与している疑いが残る。

 ガトーのバックにいるであろう存在――かつては木の葉と五大国のトップ争いを続け、最終的に木の葉が身を引いたことで、実質五大国トップの里となった雲隠れの里。

 彼らすらもが、関わっている可能性が高い。

 雲隠れは戦力増強のためならば他里の強力な一族を拉致する手段を選ばない面を持ち合わせている。日向宗家の娘の誘拐未遂事件がいい例だ。

 そうなった場合、狙われるのはうちは一族の生き残りであるサスケか、下手したら九尾の人柱力であるナルトすら狙われる可能性がある。

 

「これじゃ偽の依頼を出したタズナさんのことを怒れないね・・・・・・先にこの国を巻き込んだのは、俺たち五大国だ・・・・・・」

 

 確かに、たとえこのような複雑な件になってなくとも、ガトーが波の国を支配した現状さえあればタズナは木の葉に嘘の依頼を出していただろう。

 けれど、丁度都合のいい所に拠点を構えたガトーを雲隠れが利用して、奈落も、木の葉隠れも、霧隠れも巻き込んで・・・・・・そんな五大国の身勝手な都合に、タズナたちは巻き込まれているのだ。

 まるで、五大国に挟まれた位置にあるが故に五大国間の凄まじい戦場になり、謂われもない被害を受け続けた雨隠れの里のように。

 今度は国境や海すらも越えてそれが再現されようとしている。

 

「どう・・・・・・すれば・・・・・・」

 

 カカシは上を見上げる。

 そこには相も変わらず木登り修行を続けているナルトがいる。

 この国のために、タズナのために、そしてイナリのため、ナルトは強くなろうと懸命になっている。

 そうだ、あいつはまだ先が長い。

 ナルトだけじゃない、サスケも、サクラも、まだまだこれからなのだ。

 今は戦争の時じゃない、オビトや、リンの時のように、お前達のような年の子供が、こんなところで死んでいい筈がないっ!

 

 だけど、だけど――

 

“へへッ、カカシ先生っ! オレ決めたってばよ!”

“この()()が・・・・・・この世に英雄(ヒーロー)がいるってことを、思い出させてやる!!”

 

 乗り越えたというのに、そんなアイツの、ミナト先生の子供の決心を、裏切るとでも?

 だが、オレはもう仲間を死なせるなんてゴメンだ。

 どっちを、どっちを選ぶのが正しいんだ!?

 

 カカシの心は路頭に迷っていた。

 結局、どちらを選択しても、自分はあいつらを裏切る結果になるのではないか?

 

“なーに迷ってんだよっ! バカカシっ!”

 

「っ!?」

 

 突如、カカシの頭の中に、よぎる、こえ。

 

「オ、オビ、ト・・・・・・?」

 

“何もテメーだけでどうこうする必要なんかねえじゃんっ! オレが上忍祝いにくれてやったその眼で、もっと見据えてみろってんだっ!”

 

「・・・・・・」

 

“オレもお前の眼になって、見てるからさ。てめーだけで、何もかもやろうとすんなよ?”

 

「――っ!?」

 

 それっきり、声は聞こえなくなった。

 ――もっと、見据える。

 額当てで隠れた左目の写輪眼に手を宛がえて、カカシはしばらくうつむく。

 ――そうだ、何を迷っているんだ、俺は・・・・・・。

 

「部下の夢も裏切らない、仲間も、絶対に、死なせない・・・・・・」

 

 何も、どちらかを選ぶ必要なんてないじゃないか。

 まだ、何か見落としている筈だ。

 2つの選択肢じゃない、第3の選択肢が必ずある筈なのだ。

 

「自分だけで、やろうとなんてするな。それで俺はリンも失った。今度は、今度こそは、絶対に・・・・・・考えろ、近くにいないのか、ナルトを、助けてくれそうな、ひと、が・・・・・・」

 

 助けてくれそうな、人間。

 過去に、ナルトを助けてくれた人間――いる。

 それも、今この波の国に、いるかもしれない人物が。

 

 ナルトがずっと憧れていた人物。国と里のバランサーとして国に自らを売り込んだ男が。その身は既に闇に染まっていようとも、ナルトにとって、そしてカカシにとっても、追いかけるべき背中として、在り続けた男が。

 里だけではなく、国という広い視野を持って行動してきたあの男ならば、この国から人柱力が失われるというリスクを説明すれば・・・・・・!

 

 カカシは、腕を横向けに掲げ、小さな口笛をふく。

 ・・・・・・しばらくすると、何処かの木の上から、一匹のカラスが飛んでくる。

 カラスはそのまま、カカシの腕の上に止まった。

 カカシが答えを出した時のために、奈落(かれら)が置いていった伝書用のカラスだった。他の忍が口寄せしたものではなく、奈落の者らが野生の雛を一から育てたカラスである。

 カラスがカカシの眼をずっと見つめる――その眼は、答えは決まったのかと謂わんばかりの眼光を放っていた。

 

「急に、すまない。答えも決まった。だから、お前の主のところへ連れて行ってくれないか?」

『――?』

「この国にいるというのなら、そのお方のところまで、案内してほしい。頼む」

『・・・・・・アーっ!』

 

 カラスはカカシの腕から漆黒の羽を羽ばたかせながら、飛んだ。

 海とは、逆の方向を飛んでいく。

 はたして、カカシの思いは通じたのだろうか。

 いや、通じたと信じるしか、ない!

 

「頼むぞ?」

 

 自身に背を向けて飛び立つカラスに祈りを捧げつつ、カカシもまたそのカラスの後を追いかけていった。

 

 

     ◇

 

 

『アーっ!』

 

 骸が使っていたはずの伝書鳩が、何故か此方の方へ飛んでくることに違和感をもった朧であったが、その(からす)の後ろを猛スピードで付いてくる人影の存在があることに朧は気付く。

 白眼でその男を間近で確認して――

 

(・・・・・・はい?)

 

 内心で呆然となった。

 なんでこの人がここに来てるんだ? この時はまだタズナたちの護衛の真っ最中ではなかったのだろうか。

 ――いやいや勘弁してよ!? 只でさえ原作乖離で何が起こるか分からないっていうのに、貴方があの三人から離れたら誰がナルト達を守るっていうの!?

 そんな突っ込みを内心で行いつつ、着地して自分に片膝を突いてきたカカシに振り向かず、問うた。

 

「何用だ?」

「例の、文の件についてです」

「その件については骸に一任している筈だ。白牙の仔、何故私のところへ来る?」

「・・・・・・その文の件も含めて、貴方にお願いがあるのです。朧様」

 

 頭を下げて、カカシは言う。

 朧の眼からみても、カカシは目に見えて追い詰められているように見えた。切羽詰まっている、というのがひしひしと伝わってくる。

 

「申してみよ」

「どうか、ナルトを、我々第七班を、助けていただけないでしょうか?」

「・・・・・・」

「貴方には既に伝わっている筈です。我々第七班が、どのような状況にあるか。明らかに、下忍が受けるレベルの任務ではないことを。このままでは――」

「ならば(わっぱ)共を連れ引き下がるが懸命であろう。留まったとて、()()()()()()()()()()()()()?」

「っ!」

 

 朧の発言に、カカシの表情は悲痛に歪む。

 この手は、リンの血によって汚れた手だった。この手は、リンを殺すだけで、守ることなんてできやしなかった。

 それでも、だからこそ、カカシは頭を下げるのだ。

 

「確かに、俺一人では、ナルトたちを、タズナさんたちを守ることはできません。ですが、貴方なら・・・・・・」

「・・・・・・」

「虫のいいお願いであることは、重々承知しております。ですが、四代目の子供の、ナルトの決心を、踏みにじるわけにはいかないのです」

「ナルト・・・・・・あの童か」

「ナルトは、立派な忍に成長しようとしています。九尾を封じられていることを理由に、里の者達から迫害されていたあの子が、誰かを守ろうと、必死になっています」

「だからこそ、我らに助力を求めたと?」

「はい。再不斬や他の抜け忍たちもそうですが、特に雲隠れは、過去にうずまきクシナの中の九尾奪取を狙ったこともあります。故に、まだ年端もいかないナルトも狙われる確率が高いかと。そんな奴らに、ナルトの思いを踏みにじらせるわけには――!」

「それはどうであろうな?」

「・・・・・・?」

 

 口を挟んでくる朧。

 訝しげになるカカシに、朧はようやく振り向く。

 

「雲隠れは二位ユギト、キラービーら人柱力を保有している。奴らは自らで尾獣化できる程に尾獣チャクラを使いこなせるという」

「・・・・・・つまり?」

「奴らの努力はあずかり知らぬが、人柱力を受け入れ慣れているあの里にいた方が、存外、あの小僧にとっては僥倖なことかもしれんぞ?」

「っ、そんなことは、あっていいはず・・・・・・」

「お前も見ていたであろう? 童一人に当たり、己が仇から目を背けるあの者らを・・・・・・」

「それは・・・・・・貴方の主観です。雲隠れにいたとしても、ナルトが彼らと同じ扱いを受けられるとは限りません」

「であろうな。故に、貴様の主観を申しても、天には届かぬ」

 

 遠回しに、客観的に見るならばガキ共々即刻去るのが賢明だと朧は言う。

 

(いや、安心してカカシさん! ちゃんと影からサポートするから。というかガトーを狙う上でタズナさんやカカシさんはこれ以上にない囮だから。決してナルトたちを見捨てようなんて考えてないから。だから頑張ってくれ!)

 

 なお、奈落の首領として表立って協力するとはいえないだけで、影からサポートする気はまんまんな朧であった。

 しかし、そんな朧の内心は知らず、カカシはさらに口を開いた。

 

「それに、元はガトーがこの国を占拠したことが原因とはいえ、今では、波の国の人々は我々五大国の利己的な都合に巻き込まれようとしていますっ! そんな彼らを更に裏切っては、木の葉の、いや、火の国含めた五大国の信用にも関わることです! 国に仕える貴方ならば、分かる筈ですっ!」

「・・・・・・」

「対価をお望みでしたら、この身にできることは何だって致します。貴方が望むなら、この眼も――」

「既に足りている。ソレは取っておけ」

 

 左目に手を宛がおうとしたカカシを、朧は声で制止した。

 ――いやいや何友達から貰った眼差しだそうとしてんの!? そんなに必死!?

 内心はかなりビクビクしていたが。

 

「――1つ、条件がある」

「・・・・・・条件?」

「ここにはもう1つ目的があって来ている。ある女にそれを任せようと思っていたところだが、貴様にも一枚噛んでもらうぞ」

 

 その一言に、カカシは息を呑んだ。

 条件を提示された――ということは、ということはだ。

 

「元より他国に人柱力をくれてやるつもりなど毛頭ない。貴様の声が届かずとも、天は既に動き出しているということだ」

「っ!? ということは――」

「追って連絡する。それまでその羽根、休めているがいい」

「有り難う、ございますっ! 何とお礼を申しあげたら良いか――」

「礼を言われる筋合いはない。死を運ぶ烏が、羽根を落としたときにはもう――」

 

 ――飛び去っている。

 

 落ちたのは、烏の羽根。

 その羽音に顔を上げたカカシの前からは、既に彼の姿は消えていた。

 飛雷神といった時空間忍術も、瞬身も用いずに、写輪眼を持つカカシですら反応する間もなく、烏は消えていた。

 

 しばらく、呆然とするカカシ。

 そして、笑った。

 心から。

 

(――父さん)

 

 亡き父親にカカシは、語る。

 

(――オレ、やっぱり心のどこかで、あいつのことが認められなかったんだ。どうして、自分じゃないのかって、どうして、アイツが『白い牙の再来』と言われてるのか、納得いってなかった)

 

(けど、やっと認めることができたよ)

 

 性格も、思想も、彼は父親とは異なるであろう。

 

(父さんも、アイツも、オレにとって、『白い牙(英雄)』なんだ)

 

 それでも、ずっと引きずっていた心の靄が、晴れた気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(あっぶねー! オレに敬語で話してくるカカシさんとか違和感バリバリなんだけどっ!? 駄目だ、腹がよじれる。すごいむず痒いよこれぇっ!)

 

 まさかメインキャラの一人からあんな風に片膝ついて敬語を話されるとは思わず、朧は内心で悶えに悶えていた。

 朧が一瞬でカカシの前から消えて見せたのは、自分如き偽物の凡人が、あの幾度闇落ちしてもおかしくないのに最後までしなかったメンタルお化けのメインキャラに謙った口調で話されるという状況に、単にむず痒くなって耐えきれなくなっただけなのである。

 決して格好よく消えようとかそんな意図はなかったのであった。

 

 




銀ノ魂篇に登場した、包帯巻いた奈落モブ、すっごくいいと思うんですよね。
何らかの形でこっちにも登場させたいなぁ・・・・・・。

天照院奈落のどんなところが好き?

  • 錫杖を使っているところ
  • 弓を使っているところ
  • 装束が好み
  • 単純に朧が好きなだけ
  • 全部

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