『
どちらを選ぶにせよ、お前たち別働隊が波の国に乗り込むタイミングは私率いる先行部隊がガトーを始末したと同時という手筈になっている。
もしタズナを切るというのであれば、カカシ班が奴の護衛の任を解かれた後にしておくことだ』
「・・・・・・」
『天に背きし愚者――だが、あの男には『餌』としての価値もある。裁きを下す前にその御魂、天のために焦がしてからでも、遅くはなかろう』
「・・・・・・」
『お前が如何にしてはたけカカシに選択を委ねたのか、その意図は図りかねるが、決定権はすでにお前にある。ゆめゆめ、
「
伝書烏を通じて届いた頭からの文を、骸はぎゅっと握りしめた。
◇
夜。
カカシ、サクラ、タズナ、イナリの四人が食卓を囲んでいた中、遅くまで木登り修行をしていたサスケとナルトが戻ってきた。
両者ともにボロボロであり、特にナルトはろくに動けない状態にまで疲労しており、サスケに肩を借りた状態でなんとかここにたどり着いたようである。
達成感のある表情を見せる2人に、カカシは指示を出した。
「・・・・・・よし! ナルト、サスケ、明日からお前らもタズナさんの護衛につけ」
「
元気よく返事をするナルト。
サスケも息を上げながらも、言われるまでもないと言わんばかりに静かに頷く。
「ふぅー、ワシも今日は橋造りでドロドロのバテバテじゃ・・・・・・なんせもう少しで橋も完成じゃからな」
身体中の汗を拭いつつ、タズナは笑顔で言う。カカシとサクラが護衛についたことでガトーの襲撃を気にすることなく橋造りを続けることができるためだろうか。
今のタズナの目には、カイザを失ったばかりの頃とは違い、希望を見据えているようにも見えた。
「ナルト君もお父さんもあまり無茶しないでね!」
「うー」
「うむ」
ツナミがねぎらいの言葉をかけると、食卓についたタズナとナルトがそう返事した。
ナルトは疲れた様子で食卓に突っ伏すと、襲われる眠気に抵抗することなく、明日に備えて寝ようとしていた。
……そんなナルトの様子を、イナリはじっと見つめる。
――何も知らない癖に、なんでそんな顔ができるんだよ……。
――へらへら笑いながら、そんなボロボロになって必死にやって、一体なにになるんだよ……!
胸の内に溢れかえった思いに、イナリは耐えきれず涙を零す。
「なんで……なんで……」
「何だぁ?」
此方を見ながらと言葉を零し始めるイナリに、ナルトは顔を向けて反応する。
その能天気な顔が癪に障ったのか、イナリの怒りは決壊した。
「なんでそんなになるまで必死に頑張るんだよ!! 修行なんかしたってガトーの手下には敵いっこないんだよっ!! いくらカッコいいこと言って努力したって、本当に強いヤツの
ピクリと、ナルトの身体が震える。
「……本気で言ってんのかってば、それ?」
「……え?」
例えイナリが今自棄になっていることは理解しているナルトだが、それでも今の言葉は聞き逃せない。
遠回しに、英雄カイザは強くない、と言っているようなものだったのだから。
同じく頭の中に自身の英雄を抱えるナルトにとっては、聞き捨てならない言葉だった。そんな自分自身に嘘をつくような言葉は、ナルトにとっては臓腑にこれ以上にないくらい痛いのだ。
だから、ナルトは少し言い返す。
「オレは、そーやって自分に嘘ついてばっかいるお前とは違うんだってばよ」
「嘘なんかじゃねえよ!! この国のことを何も知らない癖に!! お前にボクの何が分かるんだ! つらいことなんか何も知らないで、いつも楽しそうにヘラヘラやっているお前とは違うんだよォ!」
「……だから……
「!!」
言い淀むイナリ。
イナリだって本当は分かっている筈なのだ。
泣いているばかりでは駄目だと。
「じゃあお前みたいなバカは
「……ッ……」
とうとう、ナルトの言葉に何も言い返せなくなったイナリは、これ以上ナルトに突っかかることはなくなり、ナルトの言葉通りにただ泣くことしかできなくなっていた。
――そうだ、何もしなくていい。何もできねーんだったら、オレが見せてやるってばよ。
「ちょっとナルト! アンタすこし言い過ぎよ!」
「フン!」
好意を抱いているサクラの注意にすら意に介さず、ナルトはそのままイナリから背を向ける。
明日からナルトもタズナの護衛に加わるというのに、ナルトとイナリの仲は険悪だった。
いや、険悪というよりは、単にすれ違っているだけだろうとカカシは思う。
この波の国のために命を張ろうとするナルトの姿に、イナリは無意識にカイザを重ね、複雑な怒りと悲しみをぶつけてしまう。
ナルトは、泣いてばかりいるそんなイナリにかつての自分を重ね、苛立ってしまう。
本当ならば一番分かり合えてもおかしくない2人であるというのに、そんな2人がすれ違っている様を見たカカシは、一人の大人として少し悲しくなる。
(ナルトはタズナさんからイナリのことを聞いて、イナリのために頑張ろうとしている。なら――今、オレにしてやれることは)
背を向けて自分の方に見向きもしないナルトを見たイナリは、外に出て行ってしまった。
そんなイナリの背中を一瞥し、カカシは決心する。
(あの子に、ナルトのことを教えてあげること、かな)
ナルトが一方的にイナリのことを知っているだけでは、やはり不公平だ。
ナルトには申し訳ないが、公平性を取るために、あの子にナルトのことを知ってもらおう……そう意気込み、カカシはイナリの後を追った。
外に出て見れば夜の海風で涼んでいるイナリを後ろ姿があった。
「ちょっといいかな?」
「?」
その背中に、カカシはそっと声をかける。
振り向くイナリ。
「隣、座らせてもらうよ」
「……」
「さっきはウチのナルトがごめんね。あいつも、君のことを嫌いであんなことを言っているわけじゃないんだ」
「……でも……」
「あんなことは言ったけど、アイツは自分が傷つけた相手のことは、忘れられないヤツなんだ。きっと、心の中では君に謝りたいと思っている」
「……それは……」
俯くイナリ。
「ま! 今回はお互い様ってことだネ。それに、ナルトの奴も悪気があって言っているわけじゃないんだ……アイツは不器用だからなぁ……」
「……」
「お父さんの話はタズナさんから聞いたよ。ナルトもね、君と同じで子供の頃から父親がいない」
「……えっ?」
呆然となるイナリ。
それもそうだろう。ナルトの普段の底抜けの明るさからは、そんな背景など想像する事すら難しい。
「……というよりも、両親を知らないんだ。……それに、アイツには友達の一人すらいなかった。ホント言うと君よりツライ過去を持ってる……」
思えば、カカシの師であるミナト――つまりナルトの父親もまた里を救った英雄だった。
そういう意味でも、やはりナルトとこの子は似ていると、そう思いながらカカシはイナリにナルトのことについて説明し続ける。
つらい過去をもっているナルトであるが、決して挫けなかった。
誰かに認めてもらいたくて、唯一助けてくれた人に恩を返したくて、その“夢”のためだったらいつだって命がけだったのだと。
「あいつはもう、泣き飽きてるんだろうなぁ……」
「……」
カカシの話を聞いたイナリの頭の中に蘇るのは、やはり父親のカイザだった。
「だから、強いっていう事の本当の意味を知っている……君の父さんと同じようにね。
ナルトは、君の気持ちを一番分かってるのかもしれないな……」
「え?」
立ち上がりながら、優しく笑ってカカシはイナリに言う。
「アイツどうやら……君のことが放っておけないみたいだから」
「……」
立ち上がったカカシはイナリに背を向けて家の中へと入る。
あれであの子がナルトに対しての見方を変えるかは分からないが、あんな風に突っかかるのはナルトに何か感じ入るものがあるという証拠でもある。
カイザの死をきっかけにあんなに暗くなってしまったイナリが、出会ったばかりである筈のナルトに対してあんな風に思いの丈をぶつけたのは、何かしら特別なものをナルトに感じているからではないかとカカシは思っていた。
だから、もしナルトと仲良くなれたのならば――
(その時は、どうかあいつの友達になってやってくれ……)
そんな願望をカカシはイナリに込めつつ、カカシは思考を切り替える。
(さて、と。あいつらが眠りについたら、あの男の所へ行くとするかな)
◇
「……で、そちらはどうなっている?」
「ナルトとサスケは木登りの修行を終え、明日からはタズナさんの護衛の任に付かせるつもりです」
「付け焼き刃程度では自身の身を守れんぞ?」
「アイツらも一端の忍びです。覚悟はできています」
「……だといいが」
カカシとコンタクトを取り合ってから数日、あれから朧とカカシは毎晩指定の場所に落ち合っては互いの情報を交換し合っていた(ちなみにカカシの敬語には慣れた)。
尤も、護衛任務についているカカシと、敵方に潜入している朧達奈落では得られる情報量に差があり、ほとんどカカシが一方的に情報を貰うような形になってしまっているが、朧にとってはあくまでナルトたちが原作と同じように木登り修行を完成させたかどうかを確認するだけでいいので、そこについては些細なモノだった。
「直に霧隠れの鬼人も再び現れよう。奴が息を吹き返せば、ガトー一派の士気も戻ってくる。奴らを相手に後手に回れば、今度はその身、チャクラ切れだけでは済まさんぞ?」
「そうならないために、こうして貴方と接触している」
真っ直ぐに朧を見据えながらそう言うカカシに対し、朧もまた内心で確かに、と頷いた。
確かに、こうしてカカシが接触してきてくれたことによって、幾分か気持ちが和らいだ感覚があるのは確かだ。
全てを自分一人でフォローする必要はなく、互いの事情を説明し合った上で協力し合うことができる。
元より影からカカシたちをサポートする腹づもりであったので、向こうから助けを請うてきたのはむしろ有り難い状況といえよう。おまけに此方からカカシに協力をさせる口実すらできるのだから。
「・・・・・・お前も分かっていようが、もし雲隠れの者らが童共を狙い動く瞬間があるとすれば――」
「間違いなく、再不斬を含めた抜け忍たちに混じって、我々との争いに乗じてやって来ると思われます。大本の目的が達成できなかったとしても、おそらく奴らは、転んでもただでは起きない。そういう奴らです」
「左様。日向の件でもそれは物語っている」
転んでもただでは起きない――そんなカカシの言葉に朧は静かに頷いて同意する。
例え原作を知っている身であったとしても、宗家の白眼狙いでまだ幼いヒナタを攫ったという報を聞いたとき、朧は内心でドン引きと嫌悪感を示したものだ(何度も言うがこいつも人の事は言えない)。
その件で報復としてヒナタの父親であるヒアシがヒナタを日向の屋敷から連れ出した忍び頭を殺したのをいいことに、雲隠れは自分達の行いを棚に上げて、木の葉に日向ヒアシの白眼を手に入れようと、彼の遺体を要求したのだ。任務に失敗し、仲間の忍び頭が殺されたら今度はその死を都合のいい口実といわんばかりに利用してきたその姿勢は、まさに転んでもただでは起きない、というのに相応しいだろう。
おまけに要求を飲まなければ、自分達が五大国で一番力のある里であることをいいことに、木の葉に戦争を仕掛けると脅してきたのだ。
当然、雲隠れとの戦争を望まず、だからといって白眼を渡すわけにもいかなかった日向一族と木の葉は、分家にして日向ヒアシの双子の弟であった日向ヒザシを影武者として、呪印で白眼を封印した状態でその遺体を差し出し、何とか自分達の里の秘密と平和の両方を守ることに成功したわけだ。
・・・・・・ちなみに、この一件で里どころか関係のない火の国の人々すら巻き込みかねないほどの戦争をおこしかけた雲隠れは、それを見咎めた奈落によって“ある報復”を受けることになるのだが、それについての詳細はここでは語らないでおこう。
とにかく、その“報復”のおかげで、もし木の葉に戦争を仕掛ければ奈落も相手取ってしまうということを悟り、自分達の五大国最強という立場が、実は見せかけだけの薄氷上のものでしかないということを、雲隠れ上層部は思い知らされてしまった。
表向きは亀裂が深い木の葉と奈落ではあるが、上層部は暗部同士ではちゃんと協力し合っている。
偏に、奈落の役割と、奈落と木の葉の関係を見誤った彼らの自業自得ともいえるわけなのだが。おまけにあくまで“木の葉の仕業”ではなく“奈落の仕業”であるため、日向の件とは違い、彼らは木の葉への報復の口実を無理矢理作ることすら叶わない。
だからといって奈落に報復しようとすれば、火の国そのものへの宣戦布告と看做され、奈落は勿論のこと、それと同時に木の葉も相手することになる。
国側と里側でそれぞれ強大な軍事力を持っていることの厄介さを、彼らは直に味わわされたといっても過言ではなかろう。
それでも、正直な所、朧はこの“報復”の部分に関してだけは、彼ら――否、
・・・・・・とはいえ、とはいえだ。
「浮雲の身に甘んじていればいいものを・・・・・・天に刃向かい、地に堕とされ、尚も懲りぬとはな」
咄嗟にそんな文句が出てしまう位には、呆れの感情もあった。
「朧様・・・・・・」
意味ありげな朧の発言に、カカシは一瞬言い淀む。
カカシも当時は暗部に所属していたため、奈落が起こした“報復”についても把握はしている。
いくら木の葉は裏切りを許さないということを知らしめるためとはいえ、それを奈落に、この男に背負わせた木の葉に対して思うことがあるのだろう。
尤も、奈落自体にもきちんと国を巻き込みかねない戦争を起こしかけた雲隠れに対しての“
(こいつの言う“天”には、国だけではなく里のことも、含まれているのか・・・・・・?)
現に、奈落と木の葉という二大忍組織の体制により、雲隠れは強く出ることができなかった。1つの牙ではなく、2分化した牙であるが故になせる究極の牽制がそこには存在している。
如何に奈落という組織が雲隠れにとって忌々しい存在であるかは、最早語るまでもない。
「ところで、朧様。奈落がこの国に来たもう一つの目的に、私が協力するという約束をしましたが、もう一人の方は・・・・・・」
初めてこの国で朧とコンタクトを取ったときの、朧の言葉をカカシは思い出す。
奈落がこの国に来たもう1つの目的――正確には水影が奈落をこの波の国へ手引きする条件として提示した頼み事についてだ。
その時、朧はある女に頼むつもりだったと言っていた。
「・・・・・・素性は明かせぬが、腕は保証しよう。あの鬼人の相手に相応しい者が一人いる」
「あの再不斬に、ですか?」
俄には信じがたいと、カカシは思う。
あの鬼人の相手に、相応しい女――その女は一体何者なのだろうかと。朧の口ぶりからして奈落の忍びであることには違いないのであろうが・・・・・・。
「お前たちの前に鬼人が再び現れ次第、すぐに向かわせよう。我らの存在を悟られぬよう霧隠れの追い忍に扮して向かわせる。フォーメーションはお前が
「・・・・・・分かりました。それと、このことはやはり・・・・・・」
「無論、あの小童共には委細伝えぬことだ。知るべきは私とお前、三代目のみだ」
まるで、暗部時代に奈落と共同任務をしていた頃に戻ったようだと、カカシは思った。
「分かりました」
「後のガトー一派については此方が委細請け負う。伝えることは以上だ」
「・・・・・・何から何まで、お力添えを頂き、感謝します」
「御託はいい。早く行け、時間はないぞ?」
「はい。――では」
朧に一度片膝を突いて頭を垂れたカカシは、瞬身の術で朧の前から姿を消し、タズナの家へと戻っていった。
その背中を見送った朧は、手に仕込み錫杖を持ったまま森の中を歩き始める。
被った編み笠を上にずらし、星空を見上げた。
(準備は、全て整った。
ぶっちゃけ自分が影分身して螺旋丸とか回天で全部吹っ飛ばして終わらせるのもありかな、とか、一瞬そんな危ない思考が過ったが、頭の中だけに留めておいた。
(後はガトーを殺るタイミングだけど……)
原作ではそのような描写はあまり感じられなかったが、ガトーだってバカじゃない。あの男はあのナリで、自分が何者かに踊らされていることに気付いている。
もしガトーが原作のようにナルトたちの前に姿を現すのならば、再不斬たちと第七班が疲弊し、かつその中に潜んでいる雲隠れの連中が尻尾を見せたときでだろう。
伊達に雲隠れに見出されて兵器開発に着手しただけのことはある。
――まあ、所詮は狸ジジイ。死肉を啄むのは本来、
(とはいえ、さすがにここまでの事件になるなんて・・・・・・いくら幼女誘拐許すまじの精神でやったとはいえ・・・・・・)
奈落が雲隠れに行った“報復”は、雲隠れの里そのものには何ら打撃を与えないものだった。それこそ大蛇丸の木の葉崩しに比べれば数千倍かわいいものだろう。五大国最強の里という地位が脅かされたワケでも無い。
それでも自らの行いのせいでまた失うことになってしまった“彼”は朧の言葉どおり雲から地に転げ落ち、娑婆にありながら灼熱地獄を味わっただろう。
それでも、この男は――
(まあ、奈落は五影会談には参加しないし、それに――原作には
楽観的思考と共に反省の色はまったくなしである。
このバカ、早く地獄に落ちた方がいいのではなかろうか。
◇
「じゃ! ナルトをよろしくお願いします! 限界まで体使っちゃってるから……今日はもう動けないと思いますんで……」
「分かりました、どうかお気をつけて……」
木登り修行による疲労でナルトが起きないため、ナルトを抜いた第七班のメンバーでタズナの護衛に出かけることになった。
動けないナルトやタズナやイナリに関しては、奈落の忍びが隠れて護衛しているので、カカシは彼らに任せることにした。
……気になるのは、再不斬が現れた時に共にフォーメーションを組むであろう女性の奈落であるが、それについては再不斬が目の前に現れなければ分からない。
できれば再不斬と相対する前に事前にフォーメーションを組んでおきたかったのが本音であるが、そこは高望みのしすぎか。
「じゃ! 超行ってくる」
「ハイ」
そして、建設工事中の橋の上にたどり着くと、そこには――
「な……なんだぁコレはァ!!!」
いつもならばタズナの指示で橋を建設する筈の大工たちが、血を出しながら倒れていた。
橋をかける予定である向こう側の陸地が見えている手前で、彼らは無惨に殺されていたのだ。
「どうした! いったい何があったんじゃ!?」
慌ててタズナが倒れている一人に駆け寄り、問い詰める。
「ば、化け物……」
不幸中の幸いにか、タズナが駆け寄った大工はまだ息があるようで、それだけ言って気を失った。
それを聞いたカカシは冷や汗を流し、身構える。
(化け物、ね。ということは――)
周囲に、霧が立ち込める。
「サスケ、サクラ。タズナさんを守れ! ……来るぞ!」
カカシ、サクラ、サスケの三人でタズナを囲い、周囲を警戒する。
同時に、複数の殺気が、四人に向けて一点に集まる。
そして、特に警戒の目線が集中しているのは――やはりカカシの方だった。
「やはり、大勢で来たね……。サスケとサクラは、タズナさんを護衛しつつ奴等を迎え撃て。オレは――」
「ああ。借りを返しに来たぜ――カカシ」
その中でも、特にカカシに格別な殺気を放つモノが一人――橋の真ん中に立っていた。
「再不斬、やはり生きていたか……!」
背中に断刀を背負う、霧隠れの額当てを付けた男。
隣には、再不斬を殺したと思われていたあの追い忍の子供の姿もあった。やはりカカシが予測した通りに、あの子供は追い忍ではなく、追い忍を装った再不斬の部下だったということだ。
「行くぞ、
「はい――再不斬さ……ッ!?」
その時だった。
霧の中から、再不斬に向かって手裏剣が飛んできた。
それに気付いた白が再不斬を庇うようにして飛び、迫りくる手裏剣を全て千本で投擲して弾く。
「こいつぁ……」
白に弾かれ、自身の足下に刺さった手裏剣を見やる。その手裏剣は、紛れもなく霧隠れのもの。
(来てくれたか……!)
その様子を見たカカシが奈落からの増援を確信したと同時――霧の中から、もう一人人影が現れ、カカシの横に立つ。
再不斬の隣にいる白と同じように、霧隠れの追い忍の恰好をした奈落。
「はたけカカシと見受ける、
「……あぁ、よろしく頼むよ!」
隣から聞こえる女性の声に、カカシもまた応じる。
顔を追い忍の面で隠し、黒い長髪を2本に分かれた三つ編みでまとめた女性――カカシから見てもそれはかなりの実力者であることが窺えた。
希望の架け橋の上にて、後のナルト大橋の戦いと呼ばれるようになる乱戦が、幕をあけた。
◇
――カカシたちが襲撃を受けるよりも少し前――。
波の国にあるガトーカンパニーのアジトにて、この国を大名に代わり牛耳るガトーが橋の下に待機させている再不斬に無線機で語り掛けてた。
「襲撃の用意はいいか! おいザブザ、聞いてんのかおい――って切りやがったアイツ!?」
ちくしょうコケにしやがって!、と癇癪を起こしながら、ガトーもまた無線機の通話ボタンを切る。
用意された赤いソファーに腰かけ、ガトーはまあいい、と笑う。
ガトーは今まで散々自分達をコケにした再不斬や白には元より、他の抜け忍たちにも報酬を払うつもりはなかった。
正規の忍びを雇うことはできず、だからこそ隠れ家の提供を条件に抜け忍たちを雇ってきたのだが、抜け忍すら雇うには相当金がかかる。
ただでさえ兵器開発に資金を溶かしたというのに、抜け忍たちの分の報酬まで払っていては商品が売れたとしても黒字になるかは果たして怪しい所だ。
再不斬や白とは違い、自分に逆らわず忠実に言うことをこなしてくれる抜け忍たちについては、さすがに報酬を払ってやらないでもないが。
「後は、私にあれらを横流しにしてきた連中についてだ……」
ガトーは薄々気付いていた。
自分が踊らされているのではないか、と。
気付いたのは極々最近であるが。
思えば、さすがに都合が良すぎたのだ。たまたま火の国と水の国の間に自分が乗っ取った小国が位置していたとはいえ、そこへ天啓のように流れてきた、兵器に関する資料や設計図。そして製造部品の原型の数々。
何が目的かは知らないが、あのオーパーツの塊ぶりからして、どう考えても五大国規模以外ではありえない。
となれば……。
「チッ、まあいい。他の抜け忍どもはともかく、再不斬とあのガキだけは邪魔だ。それに五大国どもめ、もし私を利用するっていうんなら……分かってるよなぁ……?」
サングラスをくいっと持ち上げ、ガトーはほくそ笑む。
「今まで大国どもが私に手出しできなかった理由、忘れたのか? 愚かな奴等め……私を利用して何をするつもりなのかは知らないけどねェ……こっちには、民衆といういう“人質”がいるんだ……!!」
既にギャング共や抜け忍たちを各地区に向かわせ、奴等への人質にする準備をしている。
誰も自分には手出しできないのだとガトーは笑う。
「ククク、今のところ奈落が動いたという情報はねえ……なら奴等が来る前に、先手を打たないとねェ……」
ほくそ笑むガトーであるが、彼は知らない。
◇
「こ、これは――どういう事だ!?」
それは、ありえない光景だった。
ガトーの指示通りに、町中の町民たちを人質に取るべく派遣された大勢のギャングや盗賊、抜け忍たちであるが、彼らはそこで信じられない光景を目にしていた。
町から――民衆たちが消えているのだ。
建物の中を捜索しても人の姿はなく、まるで町の住民全員が神隠しにあったかのように消えていた。
「くそ、アイツ等何処へ逃げやがった!?」
「川の方を探せ! 船で逃げたかもしれねえ」
焦った彼らは、町中捜索したが、町民の姿は何処にもない。
生活感だけを置き去りにして、本当に町の住民だけが綺麗さっぱりにいなくなっていた。
「くそ、何処にもいやがらねえ……」
「船が使われた形跡もない、一体どうなっていると――」
そのときだった。
ザッ、ザッ、ザッ。
当惑している彼らの周囲から、多くの足音が耳に入る。
いつの間にか、彼ら大勢を、数十人の町民たちが囲んでいた。
「お、お前らは……」
今まで気配もなく、音も見せなかった町民たちが、いつの間にか自分達を囲むようにして現れたことに、彼らは不気味さを僅かに感じた。
「な、何だ。ちゃんといるじゃねえか、脅かすなよ……」
「残りの奴等はどこに行ったぁッ!? ここにいるのはテメーらだけかぁ!?」
「ガトーからの命令だ。お前たちには今から人質になってもらうぞ!!」
「逃げたりすんじゃねえぞぉ? 逃げようとしたヤツから打ち首にしろって言われているからなぁッ!」
『ハハハハハハハハッ!!』
自分達を囲む町民たちを前にして、笑うならず者達。
しかし――その中に混じっていた抜け忍たちは、彼らの立ち振る舞いに違和感を感じていた。
これだけ大勢の成らず者たちや抜け忍たちが集まって脅しているというのに、彼らは表情一つ変えない。
いや――全員、無機質な表情なのだ。ガトーカンパニーの圧政に苦しめられて疲弊している者の顔ではなく――まるで自分達を人と認識していないような目。
そして、笑うならず者たちを尻目に、彼らは懐から一斉に得物を取り出した。
『なッ!?』
笑っていたならず者達は、一斉に笑いを止め、表情を驚愕のものへと変える。
町民たちが取り出したのは、腰に帯刀していた刀だった。
刃渡りは80センチ程で反りのある刀――侍が使う打刀に分類される刀剣を、どこで入手したのか町民達は一斉に抜き放った。
「な、なんだ貴様らッ!?」
「我々に逆らうとどうなるか、アっ――」
瞬間、一番先頭にいたならず者が切り伏せられて倒れる。
それを合図に町民たちはガトー一派の勢力へと一気に躍り出た。
次々と血を流して倒れていくならず者達――その中に混じっていた抜け忍たちはようやく違和感の正体に気付く。
「こいつら、ただの民衆じゃ……ぐあッ!?」
あっという間に切り伏せられていく。
気が付けば残っているのは抜け忍たちのみだった。
そして、一人の抜け忍が刀を逆手に持って斬りかかってきた町民と切り結ぶ最中、その抜け忍の目に、ある物が目に入った。
刀を持った手首に彫られた――八咫烏の入れ墨が。
「な、なら――く……あ」
その一言を最後に、その抜け忍も切られる。
本来ならば、町民たちを人質にする筈の任務が――いつの間にか抜け忍たちと、
一方、かつてカイザが救ったとされるD地区にも、ガトー一派の大部隊は派遣されていた。
しかし、同じくこの町の住民の姿はなく、建物も全てもぬけの殻であった。
「くそッ、アイツ等何処へ行きやがったッ!?」
「船は見当たるから、この国から出たってわけじゃ、アッ――」
ボチャン、と水しぶきの音が響く。
かつてカイザが救ったD地区の川を見下ろしていた一人のならず者が何かを言いかけたその時、彼の身体は前のめりに倒れ、川の塀を越えて水の中へ落下したのだ。
「おいどうした!?」
「ヘッ、魚にアレを食われでもしたかぁ?」
それに気付いた仲間達がそう減らず口を叩きつつ、川の中へ落ちた仲間を覗きこむ。
しかし――川の中へ落ちた彼は、既に屍となって浮かび上がり、その首から流れ出ていた鮮血が川の水に広がっていた。
『お・・・・・・おい!?』
彼らが動揺した、その瞬間。
ドボオォン!、と先とは比べものにならない巨大な水しぶきが舞う。
その水しぶきとともに川の水の中から飛び出してきたのは、彼らの探していた筈の
「なッ!?」
編み笠を被ったその者達の姿、服装は、紛れもなく彼らの探していた町民たちそのもの。
一つ違いがあるとすれば、その手に
その刀の切っ先は、紛れもなくガトー一派の部隊に向けられており――
「ガァっ!」
一番川の手前にいたならず者が、驚愕の表情のまま、身体を両断される。
川から飛び出してきた他の町民たちもそれに続き、臆する様子もなく、ただ無慈悲にガトー一派の者達を切り伏せていく。
かつてカイザが救ったこのD地区もまた、ガトー一派の者らの血に染まってゆくのであった。
町からいなくなった町民たち。
かわりにいたのは、町民たちに扮していた奈落の
波の国中の人々を人質に取るガトーの戦略は既に奈落に読まれていたのであった。
天照院奈落のどんなところが好き?
-
錫杖を使っているところ
-
弓を使っているところ
-
装束が好み
-
単純に朧が好きなだけ
-
全部