それは、ガトー一派からすればあまりにも予期せぬ恐怖だったであろう。
今まで自分達が虐げてきた波の国の町民たち――力もない彼らは、島の英雄という希望を奪われ、活力と勇気を奪われた筈だ。
そんな者達が、今――
「な、何のつもりだお前らっ⁉」
「オ、オレ達に、ガトーに逆らうことがどういうことか分かってるのかっ!?」
まるで今までの恨みを返さんといわんばかりに、武器をもって自分達に襲い掛かってきているのだ。
次々と積みあがっていく仲間の屍。
――有り得ない、在り得ない、或り得ないっ!
ガトー一派の傭兵、ギャングなどのならず者達は頭の中でその言葉を何度も反復する。
「お、おい、聞いてるのかっ!? 死にたくねえんだったら止まれっ!」
『―――――』
しかし、一切表情を変えず、一切口を開かず、彼らは自分達の仲間の死体を跨ぎ、歩み寄ってくる。
――ジリ、ジリ。ジリ、ジリ。
その手に刀という凶器を携えながら、彼らは――波の国の町民たちは、次々と仲間を惨殺し、迫ってくる。
「ひ、ひぃっ!?」
笠を被った町民たちの目には、何も映ってはおらず、ただ自分達を殺すべき対象として認識しているだけのよう。
「わ、分かった……」
「お、おれ達が悪かったっ! もうガトーなんかに従わねえ、だから、だから……」
一部のガトー一派のならず者達が、自分から武器をおろす。
それは投降の意――もう自分達に戦う意志はないという意志の示しだった。
しかし、
「ぎゃあっ!?」
「な、なんで、ガ、ァっ……」
そんなもの、彼らには関係ない。
彼らが
彼らが懺悔すべき本物の町民などすでにここにはいない。
いるのは、町民に扮した殺し屋たちのみだ。その事実に気付かず、一部の者達が許しを請うが、それはまったくの無駄骨である。
A地区、B地区、C地区、D地区――その他の全ての地区に派遣されたガトー一派の部隊は、町民に扮して待ち伏せていた奈落の忍びたちの奇襲を受けることとなる。
数でいえばガトー一派に軍配が上がるものの、奇襲を受けた混乱に加えて、上記で語った心理的な動揺もあり、このままでは各地区に派遣されたガトー一派の全部隊壊滅も時間の問題であろう。
(おー、やってるやってる)
彼らに命を下した張本人である朧――の影分身――は波の国の中心にある高台に立ち、白眼で各地区の争乱を見守っていた。
五大国がこれだけ大仰に絡んでいれば、さしものガトーだって感づくに決まっている。ならばと思ってガトーの手を先読みし、手を打っていた朧であったが、ものの見事に予感は的中。
こうしてガトーは五大国への牽制として波の国中の人々を人質に取ろうとする強硬策に出ようとしている。
念のため町民たちを(無理矢理)避難させ、代わりに町民に扮した部下を潜り込ませておいて正解だった。
(それにしても、ここまで
自分達が虐げてきたものが武力を身に付けて反逆してくる……という図は、虐げてきた者からしてみれば恐怖の対象以外の何者でもない。前世の歴史でも学んだ“一揆”などの例からもそれは読み取れるが、最早ここまでとは朧も思いやしなかった。
(……というか、さすがにこわすぎね? 無人になった町に足を踏み入れたら、急に無口無表情の町民たちが現れて、一斉に刀とか抜いて無言で襲い掛かってくるとか……俺だったら絶対腰ぬかして逃げるわー)
おまけにその町の人々は今まで自分達が虐げてきた(と思っている)人々と来たものだ。なまじ自分が悪いことをしているという自覚がある分、余計に恐怖が水増しされるだろう。
原作ではイナリの声かけにより立ち上がった本物の町民たちの勢い(ナルトやカカシの影分身もあるが)にさえ後ずさって逃げていったチンピラどもが、こんな得体の知れない殺意をぶつけて来る町民の集団に耐えられる筈がない。
(抜け忍たちは、町民ではなく正体がどこかの忍びであることくらいは気付くだろうけど、それでもこの恐怖感は多分拭えないだろうなー)
ガトー一派の血で汚れていく波の国の地を見下ろしつつ、朧は内心でうんうんと頷く。
同じ忍びの業を扱う抜け忍たちからすれば、その正体が自分達と同じ忍であることに気付くことは容易であろう。
それでも一度抱いた心理的な恐怖は拭えるものではない。一度染みついた未知への恐怖というものは決して消えない。
(この騒ぎが続くと船での迂回ルートで橋に向かっているガトーにも気づかれるだろうし、アジトからの増援も時間の問題だろう。となれば、さっさと消えて本体へ情報を伝えて、と――)
その思考を最後に、朧の影分身はボンっと煙を立てて消えていく。
彼が見聞きした記憶はチャクラと共に朧本人へと還元されていくであろう。
◇
町中が混乱に陥っているころ、そんな騒ぎを知りもしないナルト達。もともと奈落はガトーから自分たちへの目を反らすため、タズナを含めた家族3人だけは避難をさせずにいた。
「あああぁあぁっ! 寝過ごしたァー!!」
修行の疲れにより遅くまで寝ていたナルトは目を覚まし、家中を探す。しかし、サスケやサクラ、カカシが見つからず、途方に暮れる。
「あのさ!あのさ!みんなは?」
居間で編み物をしているツナミとそれを手伝っているイナリの所を訪れ、ナルトは寝巻姿のままツナミに問う。
「あ!ナルト君、もう起きたの? 今日は先生がゆっくり休めって
「やっぱな!やっぱな!オレ置いて行きやがった!!」
ツナミが言い終わる前にナルトは居間を去り、慌てて自前の忍び装束に着替える。
「行ってきまーすっ!」
ドタドタと絶え間ない足音を響かせながら廊下を走り、唖然となるツナミを置いてきぼりにして、ナルトは出て行った。
(・・・・・・本当に、元気な子ね)
不思議な子だと思う。今まで感情を表にすることがなかったイナリをあそこまでムキにさせたことといい、あの子に何か不思議なものを感じる。
イナリも、おそらくナルトにある何か不思議なものに触れて、あそこまで感情を曝け出したに違いない。
(どうか、お父さん達をお願いね、ナルト君・・・・・・)
今は、あの少年とあの子達の先生に託すしかない。
こんな危険な所に、嘘をついて連れてきてしまった件については、ツナミも申し訳ないと思っている。
それでも、あの子たちはこの国を守ることを選んでくれた。
ツナミは既に、大切な人との別れを二度も経験している。
1人は自分との間にイナリを授かった夫、つまりはイナリの実父。
そしてもう1人は――自分の2人目の夫にして、この町の英雄だったカイザ。
ツナミは仲のいい夫との別れを、既に二回も体験しているのだ。
大切な人をもう二度と失いたくない。
できることなら自分やイナリのためにも、橋造りを続けたり、木の葉に依頼しに行ったりとガトーに目を付けられるようなことをしている父親にはこんなことはやめてほしかった。
それでも、カイザに代わりにこの国の希望を取り戻そうとしている父親を、ツナミは止めることができなかった。
今のツナミにできることは、そんな彼らにご馳走を振る舞うことくらいだ。
そして、ツナミは父親だけではなく、彼らにも死んで欲しくはなかった。
もし橋が完成し終わったら、その時はまた、こうして誰一人欠けることなく、7人で食卓を囲みたいと思っている。
(だから、みんな、生きて帰ってきて・・・・・・)
今は、こうして祈りを捧げることしか、ツナミにはできないでいた。
(母ちゃん・・・・・・)
憂うような表情で天井を見上げるツナミを、イナリは何も言わずに見つめ続けた。
母親のこう言った表情を、イナリは久しぶりに見る。
父親のカイザが死んで以来、ツナミもまた自分と同じように笑顔をなくしていた。
――対して、自分はどうだろうか?
――本当に、落ち込んで泣いてばかりで、本当にそれでいいのか?
編み物の手伝いが終わり、トイレで手を洗っている最中にもイナリは迷い続ける。
そのときだった。
「キャアアアアァッ!」
「っ!!」
食卓の場所から、母のツナミの悲鳴が聞こえた。
イナリは即座に手洗いを中断。濡れた手をタオルで拭くこともなく、トイレのドアをあけて一直線に食卓のある部屋へと走り、引き戸越しに覗き込む。
そこには――
外から開けられた大穴から入ってきた二人の男。
いつも家族で囲んでいる食卓のテーブルがへし折れた状態で横たわり、その衝撃によって割れたであろう食器が散乱している。
そして、ツナミは台所の洗面所を背に尻餅をつきながら、怯えた表情でにじり寄ってくる二人の侍を見上げていた。
(あ、あいつらはっ!?)
その二人の侍の顔に、イナリは見覚えがあった。
忘れもしない。ガトーの命令のもと、イナリの父親であるカイザを直接処刑した張本人たち。
イナリにとってはガトーに並ぶ、にっくき怨敵たちだった。
「母ちゃん!!」
思わずイナリは叫ぶ。
あの二人の侍が母親の前に立っている意味――つまり、ついにガトーは父カイザを葬るだけでは飽き足らず母であるツナミも殺そうとしているのではないか――そんな焦燥に駆られたイナリは、そうはさせまいかと叫んだ。
「何だガキ!」
入れ墨を淹れた上半身を晒した眼帯の
「出てきちゃダメ! 早く逃げなさい!」
ツナミがイナリに逃げるように促すが、だからといってイナリは母親を見捨てることなんてできるわけがなかった。
「こいつも連れてくか?」
「勿論。ガトーからは町中一人残らず連れて行けって言われてるしな」
ワラジの疑問に、ニット帽を被ったもう一人の侍――ゾウリがそう答える。
「っ!?」
「な・・・・・・何ですってっ!?」
ゾウリの言葉に、イナリは顔を青ざめ、ツナミは顔を強張らせる。
「ククっ、ガトーの命令でなあ・・・・・・この国の奴ら全員人質に取れってよぉ」
「今頃町の方は騒がしくなってる頃だろうな」
愉快そうに言うワラジ。ゾウリも鏡合わせのように笑ってみせる。
・・・・・・尤も、今町の方はゾウリとワラジが言っているのとは逆の意味で騒がしくなっているのだが、町から離れた場所にいる二人の侍には知りようもないことだった。
悪趣味げに笑う二人に、怒りに身を震わせるツナミ。
「という訳だ。悪ぃなガキ、お前にも来て貰うぜ?」
「っ!!」
チャキ、と刀の刀身を見せつけ、イナリを脅すワラジ。
怯えたイナリはささっと身を引き戸へ隠し、縮こまる。
そんなイナリに容赦なく、ワラジは手をかけようとするが、そこに待ったの声が上がる。
「待ちなさい!! ・・・・・・その子に手を出したら、舌を噛み切って死にます」
一瞬、唖然となるゾウリとワラジ。
「・・・・・・人質が、欲しいのでしょう?」
切羽詰まった表情で、ツナミは二人を睨み付ける。
体の節々は震えていて、その表情は恐怖を隠し切れていない。
それでも、その目は覚悟を決めていた。
「おいおい奥さん? オレらは別にあんたらがいなくても人質なら他にもたくさん――」
「待てワラジ。・・・・・・母ちゃんに感謝するんだなボウズ」
しびれを切らしたワラジが刀に手をかけようとするが、ゾウリがその手を止め、イナリに振り返ってそう言う。
「いいじゃねえか、なんか切りてー気分なんだぉー」
「お前いい加減にしろ。さっき試し切りしたばかりだろうが。それに、放っておいたってこのボウズには
「っ!?」
ゾウリの言葉に、イナリがピクリと身を震わせる。
イナリは動けなかった。ゾウリの言う通り、泣きながら何もすることができない。さっきも、ワラジに刀の刀身を見せられただけで、身が竦んで動けなくなってしまった。
「ほら、さっさと歩け」
両手を後ろに回して縄で縛ったツナミを連れ、二人の侍は家から出て行く。
ツナミも抵抗する気はないのか、大人しく二人の言うことに従っていた。その目に怯えはあれど、後悔は一切ない。
そんなツナミの背中を見ても、イナリは蹲ってただ泣くことしかできなかった。
(母ちゃん、ごめん・・・・・・ごめんよ・・・・・・ボクはガキで弱いから母ちゃんは守れないよ。それに死にたくないんだ・・・・・・ボク怖いんだ・・・・・・)
思い出すのは、父親のカイザが処刑されたあの日。
本来ならば幼きころに味わうべきではない別れを、命の重みを、イナリは知ってしまった。だからこそ動けない。
こうして、ただ泣くことしかできない。
“泣き虫ヤローが!!”
ふと、昨日の夜、ナルトから言われた言葉が
“悲劇の主人公気取ってピーピー泣きやがって。お前みたいなバカは何もしないでいい。ずっとそこで泣いて見ていろ!!”
昨日の夜、カカシのお兄さんから言われた言葉を思い出す。
“あいつはもう泣き飽きてるんだろうなあ・・・・・・だから、強いっていう事の本当の意味を知ってる・・・・・・君のお父さんと同じようにね”
「・・・・・・」
両手の掌を見る。
掌に垂れた涙の量が多すぎて、情けなくなってくる。
(ああ、くそぅ・・・・・・)
――みんな、すごいよなぁ・・・・・・。
偽の依頼を出されたにも関わらず、命がけで祖父を守ろうとする彼らを思い出す。
――みんな、カッコいいよなぁ……,
必死に希望という橋を建てようとする祖父と、身を張ってまで自分を守ろうとした母を思い出す。
――みんな、強いよなぁ・・・・・・。
ヘラヘラ笑いながらも、この国を守ろうとするナルトとカイザを思い出す。
力強く、握り拳を作る。
(・・・・・・ボクも・・・・・・ボクも強くなりたいよ、父ちゃん。あの人たちみたいに、じいちゃんみたいに、母ちゃんみたいに、父ちゃんみたいに・・・・・・!!)
両手で必死に涙を拭う。
もう顔がぐしょぐしょになるのはごめんだ。
自分はもう十分に泣いた。
泣いてばかりでは何もできないけれど、もう涙が涸れるくらいには、泣いた筈だ。
3年間、何もせずに泣き続けた。なら、もういいだろう――
もう、泣くのはごめんだ
意を決したイナリは、ようやく外へと足を踏み入れる。
彼らが空けていった大穴、そこから差す日の光は、皮肉にもイナリには啓示のようにも思えたのだ。
家を出たイナリは、ツナミを連れた彼らを探す。
彼らは既に、家まで架けてあった板橋を渡りきり、陸地の森の手前まで進んでいた。
その距離から、決心するまで時間がかかった己を頭の中で叱咤しつつ、イナリは全速力で彼らを追いかける。
徐々に、彼らの背中が大きくなったところで、イナリは大声をあげた。
「待てぇ!!」
その大声に、二人の侍と、両手を縛られているツナミが振り向く。
「イナリ!!」
来てはダメ、とツナミは叫ぶが、知ったことじゃない。
ボクはもう、泣いてばかりの子供じゃないんだ!!
「あん? 何ださっきのガキじゃねえか」
「母ちゃんの覚悟を無駄にするってのか、ボウズ?」
刀を見せつけて脅してくる侍たち。
そうだ、ボクはもう負けない。
父ちゃんを切ったおまえらの剣にも、ガトーにも、負けるもんかっ!
「か、母ちゃんから離れろおおおおぉっ!!」
怯える心に鞭を叩き、イナリは奮い立つように二人の侍たちへと突っ込んでいく。
自分のような子供が武器をもった大人達に勝てるなんて、イナリにも思っていない。
それでも、せめて母親だけでもあの二人から助け出そうと、イナリは走った。
「斬るぞ・・・・・・」
「ヤリィ」
相棒に指示するゾウリ。
相棒からの許可が出たワラジは口を歪めて微笑む。
二人は刀の柄に手を宛がえ、突っ込んでくるイナリを居合いで切り捨てようとする。
「イナリ!」
そんな二人の侍の動作を間近で見たツナミが切羽詰まった表情で叫ぶが、恐れを振り払うように目を瞑って突撃するイナリには届かない。
そして。
2つの、居合一閃。
「「!」」
しかし、その一閃が切り捨てたのは小さなイナリの身体ではなく、それと同サイズの丸太だった。
「変わり身の術か・・・・・・!?」
切り裂かれ、地面に転げ落ちた丸太を見た二人の表情は驚愕に歪む。
そして、二人の背後に、
「遅くなって悪かったな」
イナリとツナミを助け出した人影。
金髪に、オレンジ色の忍び装束と、忍者の癖して目立つ出で立ちの少年。
「ヒーローってのは遅れて登場するもんだからよ!」
「ナルト君・・・・・・?」
「ナルトの兄ちゃんっ!?」
唖然とするイナリとツナミ。
タズナの護衛に行っている最中である筈なのに、まさか戻って駆けつけてくるとは思いもしなかったであろう。
「イナリ、よくやったな!」
「お前が奴らをひきつけてくれたおかげで、母ちゃんを助けられたぞ」
「・・・・・・ボ、ボクが?」
「ああっ!! なあ、イナリの母ちゃん?」
「え、ええ・・・・・・」
恥ずかしそうに両手の人差し指を合わせて俯くイナリ。
呆然としながらも、起き上がるツナミ。
「何だ誰かと思ったら・・・・・・タズナが雇ったダメ忍者か・・・・・・」
ナルトを蔑む二人の侍は、邪魔をしてきたナルトを排除せんと、居合いの構えを取りながらダッと走り出す。
迷いなき二人の侍の疾走に対し、ナルトは腰の手裏剣を投擲して迎え撃つ。
「フン・・・・・・そんなものが効くか!」
忍びとの戦闘経験もあるのか、二人の侍は腰を低くしながら、刀の刀身を抜いて手裏剣を難なく弾く。
しかし。
「バーカ」
投擲された手裏剣はただの囮。
本命は、後ろから急襲する影分身。
二人の侍のそれぞれの背後に現れた影分身たちが、振り向く二人の顔面を思い切り蹴りつけた。
「兄ちゃん・・・・・・どうして
「んー?」
血を出して倒れる二人の侍を縄で縛り上げたナルト。
そんなナルトに、イナリは問う。
「森の中に刀で切られたイノシシがいたんだ。それ以外に刀傷がいっぱい木や何かにあって、それがイナリの家に向かって行ってたからな・・・・・・心配になってよ」
笑顔でナルトは説明する。
もし侍たちがそういった痕跡を残していなければ、ナルトはイナリたちの危機に気付くことすらなかっただろう。そういう意味ではこの侍たち(正確にはワラジの方だが)のミスがイナリたち親子を救ったとも言えた。
「そんなことより・・・・・・その、イナリ、悪かったな」
「えっ?」
「お前を泣き虫呼ばわりしちまってごめんな・・・・・・アレは無しだってばよ」
気まずそうに頭を搔きつつ、にしし、と笑いながら謝るナルト。
カカシの言っていた通りに、ナルトはあれからイナリを泣き虫呼ばわりしたことを気にしていたようだ。
「ボ、ボクも・・・・・・」
「ん?」
「ボクも、ナルトの兄ちゃんのこと、何も知らずに・・・・・・怒鳴って、ごめん」
「・・・・・・」
ナルトは、まさか自分が謝られるとは思ってなかったのか、困ったように黙り込んでしまった。
「「・・・・・・・」」
しばらく、お互い気まずそうに目を逸らしつつ、時々チラりとお互いを一瞥しては、また目を反らす。
「「う、うぅ・・・・・・」」
二人とも、何かを堪えるようにプルプルと顔を強張らせる。
そして、二人とも限界だったのか、やがて目から涙をこぼして鳴き始めた。
「イ゛ナ゛リ゛ィ~っ、ごめ゛んなー、本当にごめんってばよおおぉぉぉっ!!」
「ボグも゛、ボグも゛、ごめんよ、ナルトの兄ち゛ゃあ゛あああ゛ああんっ!!」
お互い、涙を拭いながら、泣き合って、謝りあった。
そんな二人の様子を見ていたツナミが、呆れたようにため息を吐きながらも、優しく微笑んで二人の頭を撫でた。
暫くして泣き止む二人。
ナルトは、イナリ、ツナミと向き合った。
「ここが襲われたって事は橋の方もやべーって事だ。オレはタズナのじーちゃんを助けてくっから。イナリはこっちをよろしくな」
「・・・・・・うん・・・・・・」
「ナルト君・・・・・・お父さんを、どうかよろしくお願いします」
「勿論だってばよっ!」
まだ涙が止まらないのか、必死に腕をゴシゴシこすって涙を拭うイナリ。相変わらず泣いてばかりであったが、そこにもう悲壮感はない。
「そんじゃ、今度こそ行ってくるっ!!」
二人の思いを受け取り、ナルトは今度こそ橋へと足を向ける。
希望を取り戻した笑顔で、ツナミとイナリはそんなナルトの背中を見送る。
もう恐くはない――あの人たちがいる限り、父(祖父)は大丈夫だと、安心したその時だった。
「どわっ!?」
ナルトの足下の地面から生えたナニカが、ナルトの両足を掴んだ。
前のめりに倒れるナルト。
そして――ナルトの周囲をガトーの雇った抜け忍たちが現れ、ナルトを囲んだ。
「ナルト君っ!?」
「ナルトの兄ちゃんっ!?」
その様子を目撃したツナミとイナリが叫ぶ。
いつの間にかナルトを囲むようにして現れた抜け忍たち。
それぞれ
やがて、地面からナルトを掴んでいた抜け忍も、ナルトの足を掴んだまま地面から姿を現した。
(こいつら、ガトーのっ!? くそ、こうなったら・・・・・・!?)
「影分身の術!!」
足を封じられて動けない今、唯一自由の身である手の指で印を結び、術を発動させる。
チャクラを等分割して現れたのは大量の影分身。
それらが抜け忍たちの数を優に超える影分身が彼らへ向かっていくが――彼らには、そんなものは通用しなかった。
彼らが手にした直刀によって次々と消えていくナルトの影分身たち。
分散していたチャクラが自分の中に戻っていくことを感じたナルトはさらに印を結んで、影分身を出そうとするが、その前に――
「ガっ――」
ナルトの足を掴んでいた抜け忍から、今度は手を押さえつけられ、首を絞められる。
「アッ、ガッ・・・・・・」
たかが下忍一人が、中忍一人の腕力に耐えきれる筈もない。
ナルトは、力を失い、そのまま意識を失っていった。
中忍の男に首を絞められたまま、力なく手足をだらんと垂れ下げるナルト。
その様子を、ツナミとイナリは呆然とした様子で見つめていた。
(ナ、ナルトの兄ちゃんが、やられた・・・・・・?)
到底、信じられない光景だった。
自分の父親を殺した侍たちを、いとも簡単に撃退してみせた憧れのナルトが、こうも簡単にやられてしまったのだ。
「人柱力のガキを捕らえた」
「作戦は失敗したが、思わぬ拾い物をした。撤収するぞ」
ツナミやイナリに一瞥することもなく、彼らは二人に背を向ける。
気絶したナルトを持ち上げ、去って行く抜け忍たち。
その様子が、ガトー一派に連れ去れるカイザに重なったイナリは、大声で彼らに叫んだ。
「待てぇッ!!」
その声に、彼らは振り向く。
「兄ちゃんを・・・・・・ナルトの兄ちゃんを、返せぇッ!!」
「・・・・・・どうする?」
「始末する。目撃者は消すに越したことはない」
「どうせガトーの仕業にできることだしな」
暫し仲間内で相談し終えた彼らは、ツナミとイナリに、その刃を向ける。
「イナリッ!!」
イナリを庇うように抱きしめるツナミだが、イナリは彼らから目を反らさない。
ナルトは自分と母親を身を張って助けに来てくれた。
だから、今度は自分がナルトを助けようと、イナリは震える身体を押さえて彼らを睨み付ける。
果たして、その勇気は結ばれた。
一瞬でも、イナリ達に気を取られてしまった彼ら。
故に、彼らは後ろからの奇襲を許してしまった。
ズブリ、とナルトを持ち上げていた抜け忍の心臓から、ナニカが生える。
「――――え?」
口から血を零し、男は自分の心臓から生えたソレを見つめる。
後ろから男の心臓に突き刺さったソレは、長さが80センチ程の直刀だった。
柄の後ろに錫杖の
「オ・・・・・・オイ!!」
隣にいた仲間が呼びかけるが、彼は何も言わずに前のめりに倒れる。
続けて、背後から次々と聞こえる錫杖の鳴り音に、彼らは一斉に振り向く。
先ほどと同じ錫杖の仕込み刀、その雨が彼らに降り注いだ。
「避けろ!」
それに対する彼らの対応はそれぞれ――最初の男と同じように心臓に突き刺さる者、身を逸らして致命傷を回避する者、刀で弾く者、中には瞬身で離脱する者もいた。
仕込み刀の雨が飛んできた森林の暗闇の中から――その者達は現れた。
「な、奈落ッ!?」
「なぜ奴らがここに!?」
森林の中から飛びだし、片膝を突いて着地したその者達は、
スリットの入った黒い
得物である錫杖を投擲により失った彼らは、次なる得物である帯刀した刀に手を添え、臨戦態勢に入っていた。
驚く抜け忍たちであったが、それでも彼らは邪魔してきた怨敵を排除せんと即座に躍り出た。
――雷遁・
一斉に印を結び、手から電撃で構成されたエネルギー弾を彼らに放つ。
それに対する奈落の忍びたちの対応も早かった。
――風遁・
一斉に印を結ぶと同時、彼らの前に風でできた壁が現れ、迫り来る雷球の弾を防ぐ。
その衝撃により、イナリとツナミの身体は耐えきれず後方に吹き飛んだ。
そして、現在有利に立っていたのは抜け忍側の忍びたちだった。
奈落側の忍びは風遁・護風壁の術を発動したことにより動けない。
対して抜け忍側の忍びたちは術を発動していない何人かが、動ける状態でいたのだ。
これが彼らが咄嗟に立てた作戦。
数人が雷遁の術で足止めをし、残りの者達が雷遁による光に紛れ込み、風遁の術の終わりを見計らって刀で斬りかかる作戦だった。
(今だ!)
一人の抜け忍が指示を出すと同時、術を発動していない残りの抜け忍達が光に紛れ込み、刀をもって突撃する。
――所詮は寄せ集めの
そう思った、その時。
風遁の壁の奥から――火矢の雨が飛んできた。
「なッ――――」
一番先頭にいた抜け忍が目を見開く。
矢先に火を纏った矢は、消えかかる風遁の壁を貫くと同時、その風により火の勢いと速度を強められ、一斉に突撃する抜け忍たちに襲いかかった。
火遁は風遁により威力を強めることができる――その性質を利用され、速度と威力を強化された火矢が次々と抜け忍たちに突き刺さり、その箇所が燃え上がる。
「ガ、アアアッ!!」
「熱いッ、熱いいいぃぃッ!!」
やがて火矢の雨は術を発動していた抜け忍たちにも突き刺さっていく。
火矢の雨が晴れ、その中で一人生き残った抜け忍の男が唖然となりながらも、火矢が飛んできた森林の奥を見つめる。
そして――森林の暗闇の奥に、弓を構えた数人の奈落の部隊がいることに気付いた。
(風遁の壁を張る部隊を前方に配置し、後方に、弓を装備した部隊・・・・・・だとッ!?)
前衛部隊に風遁の壁を張り巡らせ、その部隊を囮に、後方に待機させていた弓部隊が風遁の壁を利用して威力を増大させた火矢を放つ。
道理で、最初に降ってきた仕込み刀の本数と、森林の中から出てきた忍びの数が合わない筈だ。
全ては、彼らの戦術の術中にあったのだと男は悟る。
「あッ――」
世界が、傾いていく。
いや、ズレていくのは世界ではなく、己の上半身だった。
先ほどまで風遁の術を張っていた前方の奈落の忍びが接近し、刀で男の身体を両断したのだ。
(木の葉と奈落――やはり貴様等、裏では結託し合っ・・・・・・て・・・・・・)
それが、抜け忍の男の最後の思考だった。
原作の銀ノ魂篇だと、銀時たちを囲んだ町民に扮した奈落たちの人数は28人だったのに、アニメだと(画面に映っている限りでも)43人にまで水増しされてて草生える作者であった。
それにしてもツナミさん、夫に二人も先立たれてる未亡人なんだよねぇ・・・・・・(ゴクリ)
天照院奈落のどんなところが好き?
-
錫杖を使っているところ
-
弓を使っているところ
-
装束が好み
-
単純に朧が好きなだけ
-
全部