5月最初の投稿です。
天照院奈落。
火の国の大名や要人を護衛する任務を主とする者たちによって構成された
故に、殺しに長けた多くの忍びが在籍しており、その規模は同じく火の国が擁する木の葉隠れの里にも匹敵するという。
創設時に集めた抜け忍たち、その後に第三次忍界大戦後の軍縮により国から切り捨てられ存亡の危機にあった各小国の忍び里を買い取り、養成機関、および拠点として火の国領土内に移させることにより、規模は大幅に拡大し、瞬く間に五大国の擁する忍び里に匹敵する勢力にまで成長した。
そのため、当初は抜け忍か各小国から切り捨てられた隠れ里の忍びの元メンバーで構成されていたが、今では養成機関により輩出された構成員が殆どの割合を占めている。
暗殺という技能を前提とするため、火の寺より伝わる錫杖伝と、その仕込み刀や
養成カリキュラムには吸収した各国忍び里の暗部育成システムを総結集したため、以降養成機関から輩出された忍びたちは皆、暗部任務を想定された訓練を受けた者ばかりである。
とはいえ、国軍としての忍び組織と遊撃隊としての忍び組織を使い分け始めた火の国の体制に、各国の大名や要人は警戒すると同時に、羨望も向けるようにもなった。
とりわけ多くの問題ある忍びや抜け忍を輩出してきた霧隠れを擁する水の国の大名や要人たちは密かに奈落を擁する火の国を羨んだという。
第三次忍界大戦直後に結成され、(大名の目の届かない所で)火種を摘み取ってきた闇の組織として認知されている奈落であるが、終戦から時が経った今では各地に刺客を頻繁に送り込むことはなくなり、今の彼らの主任務はもっぱら要人の護衛などが殆どであった。
・・・・・・しかし、終戦直後から時を経て、再び大勢の奈落の
「あ、ぁ・・・・・・」
悲鳴が出そうになる口を手で必死に抑え、ツナミはガトー一派の抜け忍たちの屍を見ていた。
急所に矢を穿たれ、突き刺さった箇所を中心に広がる大きな焦げ跡を残して死んでいる者達は、先ほどまで自分と息子の命を奪おうとしていた者達だった。
あのガトーの手先がやられたのだ、本来ならば喜ぶべきことなのだろう。
しかし、ツナミは身体を震わせながら身動きを取れず、イナリもツナミの腕にしがみ付いたまま動けないでいた。
初めて、間近で見た忍同士の戦闘・・・・・・自分達の父――イナリにとっては祖父――タズナはこんな戦闘に巻き込まれるようなことを毎回体験しているのかと。
今回はガトー側の者達がやられたからよかった。
・・・・・・だがもし、あの錫杖を投擲してきた黒衣の集団がやられていれば、自分達はどうなっていただろうか?
・・・・・・もし結果が逆であれば、自分達は一体・・・・・・。
「か、母ちゃん」
「イナリ・・・・・・」
ツナミの腕にしがみ付き震えるイナリであったが、その目線は倒れているナルトへと向けられている。
それに釣られてツナミもまたナルトの方を見た。
抜け忍の死体の下から発見され、黒衣の集団が優しくナルトを抱きかかえる。
・・・・・・皮肉にも、ナルトを捕まえた抜け忍の男が倒れ、盾になったことによりナルトは火矢による被害を受けなかったといえる。無論、彼らはそれを折り込み済みで、最初に気絶したナルトを抱えた抜け忍に対して仕込み刀を投擲したわけなのだが、それを二人が知る由もなかった。
「・・・・・・この浅黒い肌、そしてあの雷遁――雲隠れの刺客と見て相違ない」
森の中から出てきた黒衣の集団が一人ずつ、抜け忍の死体の覆面を取り外し、その顔を確認する。・・・・・・もし息があればすかさず刀でトドメを刺すことも忘れずに。
彼らが仕留めた相手は、ガトーの雇った抜け忍に扮した雲隠れの忍たちだった。
数は十数――丁度黒衣の集団の人数と同じくらいの数の雲隠れがナルトを狙ったのだ。
「目的が達成できないと見るや、標的を変え、この騒ぎに乗じて人柱力の童を狙うとはな」
「となれば、うちはの童の方にも」
『―――――』
神妙になる黒衣の集団――奈落の忍たち。
彼らの会話の内容はイナリやツナミには理解できない。
ナルトを助けてくれたり、ここで倒れている忍者たちとは違って自分達に刃を向けてこないことから、かろうじて彼らが敵ではないということの判断がついた。
それでも、あまりにも効率よく、ただ淡々と害虫を駆除するかのようにガトーの雇った忍の集団を一掃した黒衣の集団に対する恐れは拭えなかった。
その時だった、忍たちの死体を観察していた黒衣の集団の内の何人かが、回収した錫杖を鳴らしながらイナリやツナミの方へ歩み寄ってきた。
「・・・・・・っ!?」
「か、母ちゃん?」
イナリを庇いながら、下がるツナミ。
本能の内から出た拒絶。決して意図的に退がったわけではない。
そんなツナミの拒絶を感じ取ったのか、二人の奈落の忍は錫杖を地面に置き、素手の状態でツナミに歩み寄る。
ツナミの両側にそれぞれしゃがみ込み、肩を優しく叩き、自分達に害意はないというサインを示す。
「あ――」
幾分か、ツナミの身体の震えが鳴りを潜める。
「・・・お怪我は」
決しては優しくはない声音。
しかし此方を気遣うような雰囲気も感じ取ったツナミはようやく身体の震えを止める。
「私は大丈夫です。それよりも、イナリを――」
「子供に怪我はない。それよりも
「了解」
イナリを診ていた奈落の忍がそう言うと、鉄と呼ばれた男は懐から包帯を取り出し、ツナミの足の擦り傷に消毒液を塗って包帯を巻く。
忍界では冷酷と恐れられる奈落であるが、彼らが創設された根本的な理由は忍が起こす火の粉から国を守る所にある。
基本的には火の国の要人や民を優先するが、頭である朧の命令次第ではこうして他国の民を守るケースもあった。
「あ、あの・・・・・・」
自分の足に淡々と包帯を巻く奈落の忍に、ツナミは声をかける。
聞きたいことは沢山ある。
貴方達は一体何者なのか。どうして自分達を助けてくれるのか。今町の方の人たちはどうなっているのか・・・・・・山ほど聞きたいことがあったが、今は一番の心配ごとに関して聞くことにした。
「タズナは・・・・・・父は、あんな戦いに、巻き込まれるようなことをしているのですか?」
ツナミが問うた疑問に、隣にいたイナリの表情も強張る。
一瞬で終わったとはいえ、ツナミとイナリは忍同士の戦いというものをこの目で見てしまった。
一瞬の油断が死を招き、互いに欺き、陥れ、一瞬の動きの最中でそれが行われる。
そんな濃密な死の籠もった戦場の空気を、一瞬でもツナミとイナリは吸ってしまったのだ。
「父は、あの子たちは・・・・・・大丈夫なのですか!?」
頭に浮かぶのは、橋の建設に携わっている父親と、その護衛に付いている木の葉の忍たち。自分たちを助けてくれたナルトですら、彼らには手も足も出なかった。
そんな集団を相手に、父は、あの子たちは戦っているとでもいうのか。
彼らが襲ってくる前のナルトの言葉を信じるのであれば、これらと同数か、もしくはそれ以上の数の勢力が建設中の橋の元へ送られているのは間違いない。
『・・・・・・』
必死に問うツナミに何も答えず、奈落の忍たちは互いに顔を見合わせる。三度笠の下の彼らの表情は窺い知れないが、どう答えていいのか孝巡しているのは見て取れた。
元々善意でツナミやイナリを助けているわけでもない。むしろ奈落は雲隠れやガトーを炙り出すためにタズナ達家族を利用している側だ。タズナ達家族や橋の建設に携わっていた大工たちを避難させていないのも、そういう打算的な思惑がある。
他国に人柱力が渡ることを危惧し、ナルトを助けるついでにこうして保護する形になっただけで、彼らからしてみればツナミの質問に答える義理はないのだ。
・・・・・・とはいえ、そこにいるイナリのおかげで容易に雲隠れの部隊の背後を突くことができたのも事実だ。
義理はなくとも、多少の恩義はある。
「・・・・・・今、我々の別働隊が
「直に片は付くだろう」
それきり、彼らは何も口にすることはなかった。
最低限の状況を説明しただけで、タズナや木の葉の第7班の安否に関することは口にすることはなかった。奈落にとってタズナの生命に対する優先順位はかなり低い。タズナの護衛に付いているのはあくまで木の葉であって、奈落ではない。
・・・・・・そんな彼らの思惑を知る由もなく、ツナミとイナリはほっと安心したように息を吐いた。
少なくとも、自分達を助けてくれた彼らが駆けつけるということは、タズナや木の葉の第7班も守ってくれると二人は解釈したようだった。
◇
場所は変わって建設中の橋の上。
霧が立ちこめる空間にてタズナと第7班のメンバーは再び再不斬率いる抜け忍部隊に囲まれていた。
しかし、そこへカカシ達の援軍として割って入ってきた追い忍の姿をした女性に再不斬は眉を潜めた。
「再不斬さん、あの人はっ」
「追い忍、だな」
やや焦るように言う
対して再不斬は冷静だった。
白が焦っている理由――それは本物の追い忍がここまでやってきたという事実に他ならなかった。
元々自里の抜け忍殺しから逃れるためにガトーの庇護下に入ったというのに、ここで追い忍に発見されては2人にとっては本末転倒だからだ。
いくらガトーの庇護下にいる状態であろうとも、追い忍に見つかった状態では一カ所に留まりつつ捌くのは難しい。
ガトーの庇護下にいる意味もなくなる・・・・・・それはつまり、2人にとってこのガトーからの依頼をこなす理由もなくなってしまうからだ。
「再不斬さん。追い忍に見つかっては本末転倒です。ガトーに従う理由もない。ここは――」
「待てハク」
任務放棄を提案するハクを、再不斬は制した。
再不斬はカカシの横に立つ追い忍の姿を見つめる。
(・・・・・・妙だ。確かに
妙な違和感が再不斬には付き纏う。
間違いなく、カカシの横に立つあの女は霧隠れの出だ。殺しに慣れている感じが伝わってくる。
だが、だからといって追い忍と問われれば話は別だ。
(奴らなら態々こうして姿を現さず、オレ達が消耗した所を虎視眈々と狙う筈だ。こんな開戦前から堂々と姿を現すような下手は打たない。カカシの反応からして予め手を組んでいたようだが・・・・・・それにしても非効率すぎる)
再不斬は警戒の目線を、追い忍の女性から、カカシの方へ移す。
(おかしいといえば、カカシの方もそうだ。奴の場合はタズナの護衛という任務でここに来ている。オレを殺さずとも、タズナを守り切れさえすれば任務は達成される。・・・・・・だが、それにしても
少なくとも一週間前のカカシは完全に自分を殺す気でいた。だが、今回は違って見える。敵意はあるが、殺気は感じないのだ。
一見、前回と同じ多勢に無勢に思えて、その実再不斬からはまったく違う状況に見えそうでならなかった。
(それに、何人かの抜け忍たちの中から感じる、ハクとあの小僧への視線。・・・・・・ハクの言う通り、退くのが得策か?)
妙なのは、その視線がハクだけではなくカカシの部下であるあの黒髪の小僧にまで向けられていることだった。
そしてカカシの隣に立つ追い忍の女・・・・・・分からない所だらけだった。
(まあ、いざという時は全員ぶっ殺せばいいだけの話だ)
色々と疑問がある。
とりあえずハクの提案は頭の隅に留めて置くとして、問題はどうやって奴らを崩すか、だ。
向こうは足手まといが3人――いや、2人か。だがカカシとあの追い忍の姿をした女の実力はおそらくそれを補って余りある。
カカシの写輪眼の方は見切ったとして、あの女の実力は未知数。正体も不明ときた。
(こりゃあ、約束通り後でガトーから追加依頼料を貰わなきゃ、分に合わないかもしれねえな・・・・・・)
多勢に無勢とはいえ、
ガトーの勝手な判断で足手まとい共を付けられても困る故に、前回の教訓を生かし、自身の足手まといにならない忍たちを抜き取った。
そして、いくら霧の中が動くことができれど、
己の術中の中で、好きに駒を使い捨てにできるこの戦況は、再不斬にとっては理想ともいえる布陣だ。
だが――油断は禁物だ。
ガトーを殺るだけなら、態々自分が出る幕もない。
『やれ、てめえ等』
霧の中で彼らだけに分かるようにサインを出すと同時、大勢の抜け忍たちがタズナに向かって襲いかかる。
いくら雑魚とはいえあの数の忍を相手に時間稼ぎをしてみせたあの子供たちでも、再不斬が選りすぐったこの者達では止めることなどできまい。
「――っ」
「おっと、テメエの相手はオレだカカシ」
慌てて踵を返そうとするカカシに対し、再不斬は断刀・首斬り包丁で斬りかかった。
写輪眼を開く隙すら与えない、その隙だらけの背中を両断してやらんとし――不意に、それを狙っていたかのように、カカシは再び再不斬の方へ即座に向き直った。
「っ!?」
タズナたちに跳びかかる抜け忍たちに気を取られていた筈なのに、急に目もくれずに再不斬の方へ振り返り、逆に再不斬の方が不意を突かれる形となった。
だが、再不斬は止まらない。背を低くして此方へ突撃するカカシに対し、そのまえその首を刎ねてやろうと首斬り包丁の軌道を変えずにそのまま振るう。
しかし、カカシは顔を逸らし、首斬り包丁が刎ねたのはカカシの首ではなく――カカシの額当てだった。
(こいつっ!)
カカシの額当ての裏に隠れていたその左目の脅威を十二分に思い知っていた再不斬は目を見開く。
(逆にオレにフェイントをかけ、自らみせる手間もなく写輪眼を・・・・・・だがな――)
「ガキ共を迷わずほっといて不意打ちたぁ余裕だなぁ!」
即座にカカシの
右側に移動したのは、術を発動する瞬間をカカシの左目の写輪眼に目視されないように、カカシの右側に水分身を置いた再不斬本体はそのままカカシの背後に回り込み――その背中を斬ろうとするが――
雷遁・千鳥流し
カカシの足下の地面を起点に、周囲に電流が迸る。
その電流は再不斬の水分身ごと再不斬の動きを止めると思いきや――
「その術は既に見切ったぞ、カカシ」
カカシの右側から切りかかった再不斬の水分身と同様、背後から切りかかっていた再不斬もまた水分身。
既に一度は食らった術、二度も通じる程再不斬は甘くない。
再不斬本体は既に後ろに退き、カカシの雷遁の術の終わりを見計らって斬りかかる。
雷遁の術を食らった水分身たちが水となって消えると同時、再不斬は印を結んで術を発動させる。
印を見せぬよう写輪眼の死角で結び、その術を発動させた。
――水遁・水牙弾
再不斬の水分身を構成していた水が形状を変え、圧縮された水牙となってカカシに襲い掛かる。
水分身の水を再利用し、再び水遁の術に利用する手口は前回とまったく同じ。
――水遁・水陣壁
同じく、カカシも一週間前の初戦とまったく同じように自らの周囲に水の壁を形成し、水の牙を防がんとする。
ここまでも、前回とまったく同じ。
違うのはここからだった――印を結んだままの再不斬が地を蹴る。操る複数の水牙が狙うはただ一点。
水牙の矛先をカカシを覆う水の壁にただ一か所に集中させ、更に自らも首切り包丁を携え――水の壁のある一点を、水牙と首切り包丁が同時に当たる。
一点に集中した同時攻撃はカカシが張った水陣壁をいとも簡単に突き破り、その躍動する牙は止まることを知らずに奥にいるカカシさえも貫こうとする。
「くっ⁉」
身を引くカカシだが、遅い。
水牙がカカシの身を貫き、続いて首斬り包丁がその身を両断せんと迫る。
一瞬の隙の内に勝負は決した――と思われた。
ドゴォン、と橋のコンクリートの地面から鈍い音が聞こえたと同時、再不斬の足下の地面から現れたのは、もう
(影分身⁉ 本体は地面から現れた目の前――いや……!!)
一瞬の内に思考を巡らせる再不斬の隙を逃さんと、地面から現れたカカシが印を結ぶ。そして――
――水遁・水牙弾。
水牙に貫かれた方のカカシの身体が崩れ、やがて圧縮された水の牙へと姿を変えて再不斬に襲い掛かる。
(いや、本命はまた別!)
即座に首斬り包丁を前方へ蹴り飛ばす。
蹴り飛ばされた首斬り包丁は地面から飛び出てきたカカシに激突、さらにはその幅広い刀身により水牙から再不斬を守る。
その瞬間、再不斬に覆いかぶさる影。
再不斬が上を見上げたその瞬間――再不斬の目前に苦無の矛先が迫る。
顔を逸らして避けるが、僅かに掠ったのか、こめかみに出来た傷から少量の血が滴る。
いつの間にか再不斬が蹴り飛ばした首切り包丁の刀身の上に立ち、再不斬に苦無で切り付けたのはさらに現れた
今度こそ間違いなく、このカカシこそが本命と悟った再不斬は、身を乗り出した隙のできたカカシに、お返しにと苦無の牙で貫くが、触れた瞬間にそのカカシは煙となって消え失せた。
(こっちが影分身⁉ では本物は――)
本物はさっきからいた。
先程の地面の穴から現れ、再不斬の蹴り飛ばした首切り包丁に激突し、ノックダウンしたと思われた影分身こそが――カカシの本体だったのだ。
自身の身にかさ張る首切り包丁の柄を握り、その刀身に雷遁チャクラを流して再不斬に切り付ける。
「チィっ⁉」
己の不手際を悟った再不斬は身を屈めて、帯電した首切り包丁を避け、カカシの足下に蹴りを入れる。
咄嗟に出た威力のない牽制の蹴撃。
「っ⁉」
続けて更に回し蹴り、首切り包丁を持ったカカシの腕を蹴り付ける。
……首切り包丁が、カカシの手から離れる。
即座に首切り包丁を奪い返した再不斬は、すかさずカカシに斬りかかるが、カカシは苦無で防いだ。
「……影分身と水分身を併用するたぁ、テメェ……!!」
「お前の言う猿真似口も、捨てたもんじゃないでしょ?」
写輪眼の特徴的な能力の1つとして、相手の術を盗み、コピーしてしまうものがある。
その能力によりカカシは千の術をコピーしたコピー忍者として名が知られているが――ただコピーするだけでそう呼ばれるならば……それこそ写輪眼の本元であるうちは一族は今頃「コピー忍者」で溢れかえっている。
ならばカカシがコピー忍者と言われる由縁とはただ写輪眼でコピーするだけではない――コピーした術を相手と同等かそれ以上に使いこなし、さらにコピーしてきた術を状況に応じて使い分ける判断力を有していることこそが、真の由縁だ。
それは写輪眼の有無に関わらず、間違いなくカカシ自身に備わった天性なのだ。
「お前は一つ勘違いをしている、再不斬」
「あぁ?」
苦無と首切り包丁の鍔迫り合いにより、両者の間に火花が散る中、カカシは話す。
「お前は、写輪眼の術中に嵌まるまいと、オレの右側に回り込む戦術を取っていたが……オレは普段から写輪眼だけに負担をかけまいと、右眼の洞察眼も鍛え上げているんだよ」
でないと、すぐにチャクラ切れを起こしてしまうからな、とカカシは付け足す。
「右眼でお前の動きを把握し、それを写輪眼に追わせれば、術のコピーはできる」
「だから……オレの水牙弾も……!!」
コピー忍者とは、はたけカカシの写輪眼の由縁にあらず、はたけカカシだからこその由縁なのだと、再不斬は思い知る。
右側に回り込んだ再不斬の水分身は、写輪眼ではない右眼の方では確かに本体と水分身の判別は付かない。
だがそれ以前に印を結ぶ再不斬本体の動きを見切っていたのだ。右眼で再不斬本体の動きを把握し、すかさず左目の写輪眼でその動きを追い、分析する。右目で見た再不斬の位置を確認できれば、写輪眼はすかさずその動きを追う。写輪眼の死角に隠れるのは、到底至難の業なのだ。
だからといって右眼だけを開けた状態で、写輪眼の能力を使えるはずも無く、あくまで左の写輪眼と鍛えた右眼の視界が合わさってこそできる芸当なので、結局の所写輪眼を開けたままでないとコピーできないのは変わらないが。
「それに、オレには今心強い仲間もいてね……」
「っ⁉」
カカシの視線が背後に移り、再不斬も釣られて後ろを見る。
……タズナとサクラの方へ一斉に踊りかかっていた抜け忍たちが、一気に倒れる。
一斉に踊りかかった抜け忍たちを一掃し、三人を救ったのは、あの追い忍の姿をした抜け忍。
「此方は大丈夫ぞよ。其方は再不斬の方へ集中するといい」
周囲の抜け忍に身を構えつつ、再不斬と鍔迫り合うカカシに
そうさせてもらいます、と小さな声でカカシは答える。
「ちィっ!」
黒い鉄と、白い鉄が、火花を散らして、互いの反発で離れる。
互いに距離が空く両者。
暫しの沈黙の内、再不斬はククっと笑い始めた。
「……何がおかしい?」
「いや、済まねえなカカシ。やはりビンゴブックは当てにならんな――猿真似もここまで来れば清々しいったらありゃあしねぇ……」
ククっと再不斬は不適な笑いを崩さず、だがな、と続ける。
「この前の闘い、オレもただ馬鹿みたいにお前にやられていたわけじゃない」
「……なんだと?」
「かたわらに潜む
「……」
「そしてオレ自身も今お前と戦って分かったことがある。例え写輪眼の方ではない右眼を鍛えていようが――結局の所、お前の強さの由縁は瞳力……ただの延長線に過ぎないってわけだ」
右眼の洞察眼を鍛えようと、所詮は写輪眼の能力を広げるだけの――延長に過ぎない。
“眼”に頼っているという重大な欠落だけは、決して覆らないのだ。
故に、見せてやろう。
この桃地再不斬の見出した、“写輪眼崩し”を!
――忍法・霧隠れの術。
そして、辺りは更なる濃霧に包まれた。
◇
「あ、貴方は……!?」
自身とタズナを助けてくれた影を見上げるサクラ。
長い黒髪を二つに分かれた三つ編みでまとめ、顔を追い忍の面で隠した女性。
この女性が自分とタズナさんを助けてくれた――その事実だけは、何とか飲み込むことができたサクラであったが……。
「っ」
キッと目を細め、無意識に身構えてしまうサクラ。
信用できなかった。
自分達は一度同じ格好をした子供に騙されている。
せっかく再不斬を仕留めてくれたと思ったら、実は再不斬の部下で、自分達の目を欺いて再不斬を救い出した子供。
その子供は現在、未だに自分達の行く手を阻む障害として今――想い人であるサスケの前に立ちはだかっている。
その子供と、同じ面をしたこの女性を、信用しろとでも?
実はこの女性も再不斬の配下で、再不斬がピンチになったら、死体を処理するという理由にかこつけて再不斬を救い出すのではないか?
一度再不斬を見逃してしまったがために、自分達はまた命の危機に晒されている……そんな状況の中で、このお面の女性を信用しろとでも言うのか?
「……案ずるな、其方らの敵ではない……と言っても、素直には頷けぬか」
サスケと対峙する
サクラが自分を信用できない理由を、女性は把握している。
奈落の存在をバラすのは早いがためであることと、ある目的のためにこの姿をしているが、第七班……特にカカシの部下からの信用は得ずらいだろうというリスクは承知の上だった。
「だが、煩悶を抱く余地は今はないぞよ、サクラとやら。――見ろ」
「ッ、これはッ⁉」
「……霧が、超濃くなっておる……」
ただでさえ濃かった霧が、更に濃くなってゆくのを見たサクラが狼狽える。
タズナは霧が出やすい波の国の地に長いこと住んでいたため、サクラほどの動揺はないが、それでも今まで見た事もない濃い霧に息を飲んだ。
「
「……、分かったわ」
ここに来て、屍を警戒する余裕はないと悟ったサクラは、ただタズナを守ることに尽力することを誓う。
そんなサクラとタズナを尻目に見ながらも、屍も苦無を構えた。
(……すまぬな、木の葉の衆。手を貸しているとはいえ、其方らを利用する形になってしもうた。だが、これも
右手に苦無を構え――そして、こっそり忍ばせていた左手の指から――
(姿を見せず任務を遂行するが傀儡師の本懐。再不斬よ、この濃霧に包まれた場所は、其方だけのホームではないぞよ。この
そう思いつつ、
なんか今までの後書き見返してみたら、ただの奈落モブの観察日記みたいになってる……それはさておき、”ももち”繋がりでこの人は連載初期から出す予定でいました。
天照院奈落のどんなところが好き?
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錫杖を使っているところ
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弓を使っているところ
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装束が好み
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単純に朧が好きなだけ
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全部