――様といっしょ   作:御供のキツネ

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本編?も良いけどヨシテル様分不足だからね、仕方ないね。


番外編
番外の一 月見酒


 草木も眠る丑三つ時。今宵は満月。夜空には宝石を散りばめたような見事な星々。

 一人縁側に座って空を眺める。二条御所の警備は部下に任せているから大丈夫だ。

 

「あー……夜空が綺麗ですね……」

 

 仕事終わりにこうして夜空を見ると癒される。これが日中であれば義昭様と琥白号に癒されているのだが、こんな刻限では仕方が無い。明日にでも琥白号の世話をしよう。そして癒されよう。

 そう決意しながら持参した杯に酒を注ぎ、一口だけ含む。織田様から頂いた、というか男なら酒くらい飲むじゃろう。ということで押し付けられた物である。

 自信満々にこれは良い酒じゃぞ!と言っていたがなるほど、確かに織田様があそこまで自信を持って勧めてくるだけのことはある。喉にさわりはなく水のように飲める。酒好きならどんどん飲んでしまうのではないだろうか。

 ただ、俺はあまり酒は飲まない。幼い頃から毒に慣らした忍の体は基本的に酒に強い。だから酒を飲んだところで酔うことはほとんどないのだ。どうしようもなく疲労しているというのなら話は別なのだろうけれど。

 

「春は桜、夏には星、秋には満月、冬には雪。酒はそれだけで充分美味い。

 いつか出会った陶芸家の言葉はなかなかに的を射ていましたか……」

 

 そんなことを一人呟いてから杯を飲み干し、また空を見上げる。そうして少し時間が経つ頃に人が近づいてくる気配がした。

 この気配はヨシテル様の物だ。どうしたのだろう。

 疑問に思いながら目を向ければ、夜着を羽織ったヨシテル様が歩いてきていた。

 俺の顔を見ると一瞬驚いたような表情になり、そして酒を飲んでいることを理解して更に驚いていた。

 

「ヨシテル様。しっかり休まなければ執務に響きますよ」

 

「少し寝付けなくて……それよりも結城。お酒を飲んでいるなんて珍しいですね」

 

「織田様からの頂き物です。流石に飲まないまま置いておくわけにもいきませんので」

 

 事情を説明している間にヨシテル様は俺の傍に来ると隣に腰を降ろした。そして置いてある酒の銘を見て一瞬動きを止めて、恐る恐るというようにそれを手に取って俺を見た。

 

「あの、結城?これは幻とまで言われた名酒ということは知っていますか?」

 

 微妙に震えた声でヨシテル様がそう言ったのだが、俺としてはそうなのか。程度の認識しか持てない。

 そんな酒を渡すとは織田様は何を考えているのだろうか。自分で飲めば良いのに。

 

「その、もし良ければ私も頂いても良いですか?」

 

 俺としては酒自体ほぼ飲まないので別に構わない。というか処理に困るので実に助かる。

 それに良ければとは言っているがヨシテル様はどうしても飲みたいらしい。

 ふと以前にこの酒を飲んでみたいと言っていたのを思い出した。ただ幻の名に違わず、そう簡単には手に入らないし、醸造元も基本的には表に出さないとのことだ。

 

「ええ、構いませんよ。ただし、飲みすぎないようにしてくださいね」

 

 だからこそ飲みたいのだろうと思い、そして扱いにも困るのでそう返した。

 それから新しい杯でも持って来ようか、と思ったのだがヨシテル様は早く飲みたかったらしく俺の使っていた杯を手に取っていた。

 

「ヨシテル様。それ俺が使っていた杯ですよ。新しいのを用意するので待ってください」

 

 スパッと杯を強奪する。流石に一介の忍が主と杯の回し飲み染みたことをするなんてのは間違っているからだ。

 杯がなく、すぐに酒が飲めないとヨシテル様は少し不満そうだったが転移の術を使ってほぼ一瞬で取って戻って来たので別に良いではないか。と思う。

 むしろ強奪から転移の術で新しい杯を取ってくるまで一秒も掛かっていないのだから不満そうにする必要はない。まぁ、それだけ早く味わいたいということなら仕方ないのかもしれない。

 

「どうぞ。お猪口の方が良いというのであれば持って来ているのでお渡ししますが」

 

「あ、いえ。大丈夫です。この杯を使わせてもらいますね」

 

 そう言ってヨシテル様が杯を持ち、俺がそれに酒を注ぐ。

 

「では……」

 

 一言断ってからヨシテル様は杯を傾けて一口含む。それを味わってから飲み込み、再度杯を傾ける。

 感想なしで飲み続けるということは相当に気に入ったということだろう。すぐに空になった杯に注ぐようにとヨシテル様が促すので酒を注ぐ。

 それを大変美味しそうに飲んでいるのだが……いつもよりも飲むペースが速い。

 

「ヨシテル様。いつもよりも酒が進んでいますがもう少しゆっくりと飲んだ方が良いかと思います」

 

「いえ、大丈夫ですよ。これくらいで酔う私ではありませんからね」

 

 どこから出てくるのかわからない自信と共に酒を自分で注いでまた杯を傾ける。

 普段はこんなに酒を飲まないヨシテル様がこうなるということは、相当に美味しいのだろう。

 ただ、ヨシテル様はそこまで酒に強くない。これは絶対に酔ってしまうに違いない。この時間では侍女を呼ぶわけにはいかないので後始末をするのは俺になるのか。

 仕事が終わったと思ったら予想外の仕事が発生することになろうとは、誰が予想出来ようものか。

 ため息が零れないように耐えながら空を見ると、月も星も変わらずそこにあった。ただ、癒されない。

 

「……結城は飲まないのですか?」

 

 そうして何もせずにただただ空を眺めるだけだった俺にヨシテル様がふと気になった、とでも言うように聞いてきた。

 

「酒はあまり飲みませんし、基本的には酔わないですからね……

 今回は頂いた物だったので口にしましたが、そう飲みたいとは思いません」

 

「なるほど……少し勿体無いような気もしますが、そういう人に無理に勧めるわけにはいきませんね」

 

「そういうことです。ところでヨシテル様」

 

「はい、どうかしましたか?」

 

「以前名酒を飲んでも美味しくない。と言っていましたが、今はそういうことはありませんね」

 

 ヨシテル様は乱世の折り、酒を飲むことがあったが美味しくないと言っていた。いや、むしろ不味いとさえ言っていたのだ。

 ミツヒデ様は良い酒だ。美味しい。と言っていたから酒が悪いというわけではないはずだ。

 

「ええ。何故あの時は美味しくないと思ったのか私でもわかりません。

 あれも有名な名酒であったのですが……不思議なものですね……」

 

 酒に関しての陶芸家の言葉。あれには続きがある。

 春は桜、夏には星、秋には満月、冬には雪。酒はそれだけで充分美味い。それでも不味いなら自分自身の何かが病んでいる証だ。

 あの言葉はある意味で真理だったのだろう。確かにヨシテル様は心を病んでいたのだから。

 ただ、それでも今は酒を飲んで美味しいと言えるのなら大丈夫そうだ。

 もうあの頃とは違って心を病んではいないし、以前にはなかった自然な笑顔も浮かべてくれる。

 

 そんなことを思ってヨシテル様に気づかれないように一人小さく笑んで自分の杯に酒を注ぐ。

 ヨシテル様は少し意外そうな顔をしたが、少し飲みたい気分になったのだ。別に良いだろうに。

 まぁ、意外そうな顔はしたものの何を言うわけでもなくまた杯を傾け始めたので、俺も同じようにする。

 

「あぁ……美味しいですねぇ……」

 

 そう零した俺の様子を見て、小さく笑ったヨシテル様をちらりと見て同じように笑う。

 いつもこうだ。面倒だとか厄介だとか思っても結局ヨシテル様の隣でこれでも良いかな。なんて思ってしまう。

 我ながらその辺りはちょろいな、と思うが仕方ないだろう。好いた人が傍にいるのだから。

 例えばそこで話を終えればそれなりに綺麗な話で終わるのだが、現実はそうはいかないのが常である。

 まぁ、簡単に言えば俺の心配した通りにヨシテル様が酔ってしまったのだ。

 

「ゆーきー……」

 

 厄介で面倒なことにさっきから腰辺りに抱きつかれて頭を腹にぐりぐりと押し付けられているが、痛い。最強の戦国乙女の力でそんなことをされれば当然痛い。

 ただヨシテル様が技量振りのおかげで痛いというだけに留まっている。もしこれが筋力振りの方であればそれだけではすまなかっただろう。

 

「ふふ……ゆーきの匂い……」

 

 ぐりぐりしながら匂いを嗅ぐんじゃない!というか頬擦りしないでください!

 もう本当に面倒だし引き剥がそうと思ってもヨシテル様の方が力が強いので引き剥がせない。それどころか抵抗するようにより強くなった。

 痛い痛いすごく痛い何これやばい。

 

「ヨ……シ、テル……様!ちょっと、離してください……!」

 

「いーやーでーすー!」

 

「これ痛いんですって……!」

 

「やーっ!」

 

 幼児退行しないでくださいヨシテル様!というか本当に離してください!!

 そう思いながら全力で引き剥がそうとして、ふと思いとどまる。引き剥がそうとしたせいでこうなったのであればアプローチを変えてみるしかないのではないだろうか。

 というわけで痛みに耐えながらヨシテル様の頭を撫でる。

 

「大丈夫ですよ、ヨシテル様。俺はここに居ますからそう全力で抱きつかなくても逃げません」

 

 子供に言い聞かせるように優しく言えば腕に込められていた力が少し弱まった。

 よし、これならいける!

 

「さぁ、力を抜いてください。良い子ですからね」

 

 引き剥がせないまでもとりあえずは力を抜かせて安全を確保しなければ。

 そうして声をかければ更に力が弱まった。これでなんとか痛くないという程度にはなったので良しとしよう。

 まぁ、引き剥がそうとするとまたやられそうなので寝静まってから剥がそう。

 

「んー……もっと、なでなで……」

 

 少しだけ見えたヨシテル様の表情はふにゃりと破顔しており、普段とは違い可愛らしさがある。いや、普段が可愛らしくないというのではなく、単純にヨシテル様は綺麗というのが相応しいからだ。

 そんなことを口に出すことはまずないので、俺がそう思っていることを知る人はいない、はず。ただ義昭様が時折温かく見守るような目で見てくるので気づかれていそうではある。

 

「ゆーきー……?」

 

 撫でる手を止めていたせいかヨシテル様が俺を見上げていた。その顔は酔いによって上気し、潤んだ瞳をしていた。自制心がない男なら据え膳がどうだのと言うのだろうか。と思いながら頭を撫でる。

 そうしていればどこか幸せそうな表情になり、俺の腰に回した腕の力を強くした。先ほどよりはマシだがちょっと痛い。

 とりあえずはこのまま撫で続けて、眠ってくれれば楽で良いな。と思いながら撫でているのだが、眠る気配が全く無い。むしろ撫でれば撫でるだけ嬉しそうにしている。

 

 仕方ないなぁ、なんて内心で呟きながらもどうしたものかと思案する。このまま撫で続けておけばヨシテル様は満足するのだろうが、俺の状況がよろしくない。具体的に言うと、寝たい。数刻で構わないので寝ないと任務に響く可能性があるからだ。

 仕方なしに撫でてはいるが……さて、どういった手段で処理しようか。なんて微妙に物騒な方面に考えが動き始めた頃。ヨシテル様が抱きつくのをやめてのろのろと離れて座りなおした。そして、俺をビシッと指差した。

 

「ゆーき!あなたにいいたいことがあります!」

 

 あ、起きたかと思ったけどダメだこれ。潤んだ瞳が妙に蕩けた瞳になっているし、上気していた頬は先ほどよりも赤い。これは更に酔いが回っているに違いない。それと抱きついて動いていたせいか夜着が微妙に肌蹴ている。とりあえずそっと夜着を直しておこう。

 

「ん、ありがとうございます……やはりゆーきはやさしいですね、えへへ……

 あ、いや、ちがいます!いいたいことがあるのです!!」

 

 やけに甘えてきたと思ったら今度は絡んでくる。ヨシテル様は甘え上戸なのか絡み上戸なのかイマイチわからない。いや、普段は酒癖が悪いということはないのだが、誰も居ないとやけに甘えてくるので二人の場合は甘え上戸なのか。まぁ、絡み上戸のようなこともたまにあるのだが。

 

「いいですか!ゆーきはわたしのしのびなのです!よしあきにやさしくするのはありがたいですが、もっとわたしにやさしく、そしてあまやかしてくれてもいいのではありませんか!?」

 

 何言ってんだこの人。義昭様はまだ子供なのだから優しく甘くというのも当然ではないか。というか義昭様は自分の地位というか、扱いはこうあるべきだ。という厳しめに律することがあるのであえて甘やかしているのだ。変に厳しくしても何処かで歪んで育ってしまう可能性があるのだから、当然だろう。

 それにヨシテル様には充分優しくしている。甘くはないけれど。

 

「そしてもっとわたしをなでなさい!よしあきばかりなでてもらって、ずるいではありませんか!

 よしあきがべんがくをがんばったあとはよくがんばりましたね、となでるのに、わたしをなでないとはなにごとですか!」

 

 一人で盛り上がってるなぁ。そこまで撫でられたいのか。と思ってしまう。いや、流石に女性の頭を撫でるというのはそう軽々しくするべきではないだろうに。

 というか主の頭を撫でるなんてことは云々かんぬん。まぁ、それは今更な気もするが。

 

「ヨシテル様、撫でろとも撫でて良いとも言われていないのでそういうことは基本的にしませんよ。

 義昭様からはまた撫でるように、と言われましたのでそうしていますが」

 

「ならなでてください!」

 

 言いながら少しだけ頭を差し出すように傾ける。さっきまで撫でていたし、別に今撫でるのもそう変わらない。

 

「ん~……ふふふ……もっとなでるのですよ、ゆーき!」

 

 まるで子供のような笑顔で言ってヨシテル様は再度腰辺りに抱きついて幸せそうにしている。良かったですね、ヨシテル様。でも俺の中で今のヨシテル様は困った子供扱いですからね。

 そうした俺の考えなどまったく知らないヨシテル様は嬉しそうに、幸せそうにしていたが段々と眠くなって来たのか動きが鈍くなってきた。ようやく眠ってくれるのですね、ヨシテル様。さっさと眠ってください、ヨシテル様。

 

 ヨシテル様が大人しくなって、ようやく眠ってくれたか。と思って撫でる手を止める。そろそろ撫でるのをやめても問題ないはずだ。はずだったのだが。

 

「……もう少し、もう少しだけでいいので撫でてください……

 明日からは、ちゃんとしますから……」

 

 僅かに震えながら小さな声でヨシテル様が言った。本当に小さなその声は、きっと俺でなければ聞き逃してしまっただろう。

 ……本当に仕方の無い人だと思う。酔った勢いを利用しなければあの程度のことも言えないのか。

 こういう時は何も言わずに、言われた通りにすれば良い。下手に何か言うよりもそれで良いのだ。

 事実、それだけでヨシテル様の震えは止まり、どこか安堵したように小さく息を吐いていた。だからこれが正解。ゆっくりゆっくりと撫でていると段々ヨシテル様の体から力が抜け、穏やかな寝息が聞こえてきた。ようやく眠ったようだ。

 これからヨシテル様を寝所へと連れて行き、片付けをして俺自身も休まなければならない。二刻か三刻ほど眠れれば上出来だろう。

 

 ヨシテル様の腕を解き、起きないように気をつけながら姫抱きにして寝所まで運ぶ。途中で鈴蘭が何やらにやにやしながら俺を見ていたので特別に火遁で眼前に小さな爆発を起こしておいた。精々爆風に煽られる程度ではあるが脅しとしては充分だったようで瞬時に土下座に移行した。

 人の様子を見て笑うなんてのは失礼極まりないことだ。部下の躾も頭領の役目。きっちりとしなければ。

 というわけでずっと隠れて見ていた鈴蘭以外の全員には厳しめの鍛錬に挑んでもらおうそうしよう。

 なんて取り留めの無いことを思いながらヨシテル様の寝所に到着し、そっと降ろしてから夜着を脱がせる。そしてヨシテル様を布団の中へ寝かせてから夜着を上から掛けておく。

 まだ酔いのせいで顔は赤いが、穏やかな寝顔だ。これなら悪い夢を見て目が覚めるということもないだろう。

 

「おやすみなさいませ、ヨシテル様」

 

 一声かけてから寝所の外へ出て空を見れば月がだいぶ傾いていた。

 それでも見事な満月に、つい言葉が零れてしまう。

 

「本当に、今夜は月が綺麗ですね……」

 

 当然それに答える声はないけれど、それでも零れたその言葉は誰の耳に届くこともなく、ただ夜空へと消えていった。まぁ、夜なんて物はこれで良い。誰かに聞かれず、応えられず、それこそが忍の過ごす夜らしいのだから。




ヨシテル様!ヨシテル様!!ヨシテル様ぁぁぁ!!
とか、ミツヒデ様のナビボイスみたいな心境。

ヨシテル様メインで短編出すくらいにはヨシテル様好きだからね、仕方ないね。
というかもうすぐゲーム発売でヒデアキ様とかトシイエ様とかリキュウ様とか増えるんだね、キャラ掴まないと大変だね、頑張りたいね。
あと、色々細かいところの設定がわかってないところとかストーリー進めてる間にはっきりしたらその辺りもしっかりしたいね。
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