――様といっしょ   作:御供のキツネ

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オリ主は料理上手。


ヨシテルさまといっしょ そのに

 二条御所に戻り、義昭様のことを迎えに来ていた侍女に任せて琥白号を馬小屋へと連れて行き、少し世話をする。

 走って、戻って、はい終わり。とするよりも少しでも世話をしておくと琥白号が喜んでくれるのと、個人的な話だがその様子を見てとても癒されるのだ。琥白号可愛い。実は犬派だったが最近馬派になったのは内緒だ。

 そうして琥白号に癒されてから心を落ち着けてヨシテル様の執務室へと向かう。あの人には説教が必要だからだ。

 途中にミツヒデ様がなにやら感涙に咽び泣いていたが見なかったことにしよう。何があったのか予想はついているし、今は関わっている暇はない。というかあの状態のミツヒデ様には関わりたくない、というのが正しい。

 一瞬こっちに気づいた素振りを見せたので行儀良く歩くのをやめて、忍の必須技能である転移の術と呼ばれる忍術を行使する。消えるように見えるが実際にはとんでもない速さで移動しているだけである。忍術によって肉体を活性化する必要があるので、使えない忍もそれなりにいるらしい。必須技能とは一体。

 しかしこの転移の術、何故か障害物となるものを無視して移動できる。肉体の活性化だけでどうやってそんなことが出来ているのかイマイチわからない。もっとも使用頻度の高い術ではなるが意外と謎が多い術なのだ。口伝によればこの術よりも更に上位の術が存在するらしい。というか師がそれを使っているのを見たことがあるが、意味がわからなかったのを覚えている。なんだったんだあれは。

 そういえばミツヒデ様は転移の術は使えないが分身の術は使える。忍の流れを汲んでいるのだろうか。いや、でも本人が言うにはただの乙女武将であって忍とは一切関係がないらしい。武器がクナイの時点で本当かどうか怪しいものだが。

 

 閑話休題。

 転移の術で飛んだのはヨシテル様の執務室前。流石に部屋の中に直接飛ぶようなことはしない。

 そして一声かけてから部屋の中に入る。そこには執務を終えてのんびりとお茶を飲んでいるヨシテル様だった。流石ヨシテル様、朝見たときは結構な量の巻物が置いてあったがその全てが片付いている。

 

「おかえりなさい、結城。何か用ですか?」

 

「ヨシテル様。俺がヨシテル様の頭を撫でたこと、義昭様に言いましたね?」

 

「ええ。それがどうかしましたか?」

 

「今日、頭を撫でてください。って言われたんですけど」

 

 それを聞いて首を傾げるヨシテル様。それが何か問題でもあるのですか?とでも思っているのだろうか。大問題だ。いや、足利軍としては問題ではないのかもしれない。最近、正社員になってからの足利軍全体の態度がやけに友好的になっているのだ。

 足利忍軍頭領となり武将の方々に挨拶をした際にとてもとても歓迎された。まるでこれで足利軍も安泰だ、とでも言うような態度だったのが少し気になる。

 

「おや、そうですか。それで結城はどうしたのですか?」

 

「撫でましたよ。本当なら俺みたいな忍がするべきことではないと思いますが……」

 

「思いますが、どうしました?」

 

「あ、いえ……なんでもありません」

 

 義昭様は素直で優しい純粋な方だ。怖くない怖くない。

 

「ただ、ヨシテル様は何故義昭様にそのことを話したんですか。

 このことが他の方の耳に入って、何かの間違いでミツヒデ様にでも知られたらどうなると思うんですか」

 

 絶対に面倒なことになる。義昭様にお礼を言われただけで感涙に咽び泣くミツヒデ様だ。これで実は俺、ヨシテル様と義昭様の頭を撫でたんですよ。とか言ったらどうなるか……考えたくもない。

 以前まではそんなことはなかったのに、ヨシテル様が天下統一を成してから忠誠心というか忠義心というか……そういうものが暴走気味になっている。色々な緊張の糸が切れて可笑しな方向に振り切れた結果ということだろうか。

 

「あ、それは、その……

 幼少の頃以来、撫でられて褒められるということがなかったので……懐かしくて、少し嬉しかったんです。

 その様子を義昭が疑問に思ったらしく、ついつい本当のことを……」

 

「あぁ、何か考えてとかじゃなくて本当にただポンコツなだけだったと」

 

「ぽ、ポンコツ?」

 

 理由を聞く限りは仕方ないのかな、とも思うが……だからと言って話さないで欲しい。これが義昭様だったから良いがうっかりミツヒデ様だった場合はあの日の時点で襲撃されていただろう。

 やはりこれは説教だ。ポンコツなのは仕方ないが、それをもう少し隠してもらわなければ。

 

「さて、ヨシテル様。ちょっと説教しましょうか。そのポンコツっぷりを直しましょうそうしましょう」

 

 さぁ、これから説教だ。と言うところでヨシテル様から待ったがかかる。

 

「待ってください。ポンコツとはどういうことですか!

 私は結城にポンコツ扱いされるようなことを一切していませんよ!」

 

「ポンコツじゃないですか」

 

「どのようなところがポンコツだと?」

 

「蜘蛛に抜刀して震えながら対峙するところとか、夜中に甘味を食べようか悩んで羊羹の仕舞ってある棚の前で考え込んだり、犬派か猫派の話をしているところに「私は断然馬派です!」と言いながら入ったり、調合や調理をする前のしょくらあとを飲んで涙目で震えたり、他にも……」

 

 そこまで言ったところでヨシテル様を見ると全力で目を逸らしていた。自覚があるのは良いことだ。

 ジト目になりながら見ていると手をぱたぱたと振りながら言い訳を始めた。

 

「あ、あれは違うんですよ?蜘蛛に抜刀していたのはあくまでも襲い掛かって来た時のための備えで、羊羹の棚の前にいたのは食べようか悩んでいたわけではなく……というか、なんでそれを知っているんですか!」

 

 言い訳から一転、何故か問い詰められた。そんなもの、忍として警護していたからに決まっている。

 主君が安心して眠れるように周囲を警戒するのも忍の役目だ。決してヨシテル様が甘味を食べたいと言っていたから面白がって見ていたわけではない。そう、決して面白がってなどいないのだ。

 

「主君の警護は忍の役目。ヨシテル様と義昭様を思ってこそです。決してこれは面白いことが見れる。とか思ったわけじゃありませんよ?」

 

「どう考えても面白がってるではありませんか!

 結城が私に説教をすると言いましたが、どうやら逆のようですね。私が説教をします!

 良いですか、まず主君に対してポンコツなどと言うのはあってはなりません!そもそも結城は……」

 

 なにやらヨシテル様の説教が始まった。真摯に聞いているふりをしながら説教を全て左から右に聞き流していく。本当なら俺が説教をしようと思っていたのに……とりあえず、ヨシテル様の説教が終わるまで待とう。

 大人しく説教を受けているように見える俺を前に、徐々に気分良く説教をしていくヨシテル様。なんというか得意気な顔になっているのがポンコツと言う所以の一つになると気づいていないのだろうか。

 そんなことを思いながら見ていると分かったことが一つ。ヨシテル様の背後に先日の蜘蛛がいた。外に出しただけなので御所に戻ってきたということだろう。どう動くのか気になるのでヨシテル様を見るふりをしながら蜘蛛に注目する。

 少しずつ動いてヨシテル様に近寄っている。当然、ヨシテル様は気づいていない。どうしよう、俺の脳内でキュインと何かが光り始める。良いぞ、行け。愉悦が、愉悦がそこに待っている……!

 

「……結城?目がキラキラしていますが一体……?」

 

 疑問を持ったヨシテル様が聞いてくるがそんなものに反応をしている暇はない。そんなことよりも行け蜘蛛!お前の行動で俺の心の中で何かがキュインキュインとスピンしながらフラッシュする気がする。

 そうして遂に蜘蛛がヨシテル様の足元に到着した。

 

「ヨシテル様ヨシテル様」

 

「なんですか、結城」

 

「足元」

 

「足元にいったい、なに……が……」

 

 ヨシテル様が自身の足元を見るとそこには尚近づいてくる蜘蛛が一匹。そして固まるヨシテル様。

 

「ゆ、結城!?蜘蛛です!蜘蛛が出ました!!」

 

「はい!そうですね!」

 

「た、助けてください!この蜘蛛を早く外に!!」

 

 大慌てで逃げるヨシテル様の様子に心のスピフラが鳴り響く。

 

「ひぅっ!お、追ってきます!わ、私を狙うというのなら相手になりますよ!結城が!」

 

 そこで人任せにする時点でポンコツ感マシマシだと気づいていないのだろうか。まぁ、見たいものも見れたので蜘蛛を捕まえて外に逃がす。また来る可能性もあるがそれはそれで良しとしよう。

 逃がして手をパンパンとはたきながら振り返ると今までの様子を誤魔化すようにヨシテル様が、落ち着いた様子で座って湯飲みを持っていた。

 それを見て何してんだこの人。というような目を向けたのも仕方ないだろう。というか自分でも無理があると思っているのか微妙に顔が赤いですよヨシテル様。

 

「よ、よくやってくれました結城。やはり貴方は頼りになりますね」

 

「あ、はい。これくらい誰でも出来ますよ。義昭様も普通に出来ますし」

 

 義昭様と庭で遊んでいるときに蜘蛛が義昭様の服についていたが、別段慌てた様子もなく潰さないように掴んで逃がしていた。その際に「毒蜘蛛であれば結城に駆除を頼みますがそうでないのなら殺してしまうのは可哀想ですからね」と言っていたが、流石義昭様。落ち着いた対応で見ていて安心する。

 

「うぅ……義昭は平気でも、私にとって蜘蛛はどうしてもダメなんですよ……」

 

「まぁ、義昭様はとても強い方ですからね……勿論、力ではなく他の要素ですが」

 

「ええ、私の自慢の弟ですからね」

 

 そう言うヨシテル様の表情は誇らしげだ。義昭様もヨシテル様のことを話す際はどこか誇らしげな様子を見せる。互いが互いに誇りに思っているというのは良い姉弟の証とも言える。

 そして、そんな二人に仕えることが出来るというのが足利軍所属の全員の誇りだ。という話を聞いた。

 声高にそう主張したのはミツヒデ様で多くの武将や侍女、兵士がそれに賛同していた。忍衆に確認すると我らも同じ想いです。と返答された。

 俺としてはそこまで誇りには思っていないのだが……それに、仕えるのではなく支えていくと決めたのだ。他の方たちとは少し違うのも仕方ないだろう。

 

「そういえば結城。ソウリンの様子を見に行って欲しいのですが……」

 

 数日間休みとなっていたが遂に任務再開ということか。

 

「今から、でしょうか?」

 

「いえ、明日の早朝に出発で構いません。実は、その……しょくらあとを仕入れているということなので、それを受け取って来てもらおうかと……」

 

 しょくらあとを?あれの調合か調理は足利軍では俺しか出来ないはずだが……もしかしてヨシテル様自身が調理するつもりなのだろうか。というか俺が頼んでいたものがついに来たか。

 

「そして、ですね?出来れば結城に調理を頼もうかなぁ、なんて思っていまして……」

 

 やはりそう来るのか。別に構わないが……大友様の領内というのならついでにカステラでも買って戻ろうか。義昭様も喜ぶはず。

 

「構いませんが本来はあれ、忍者食のつもりで作ったので食べ過ぎると太る可能性が高いので気をつけてくださいよ」

 

「わかっています。それに普段から鍛錬を重ねている私が簡単に太るわけないではありませんか。それと、義昭も結城の作る、ちょこれーと?を気に入っていますからね」

 

 確かに以前作った際に義昭様は甘くて美味しい、と言ってとても気に入っている様子だった。それ以上にヨシテル様とミツヒデ様が気に入っており、作ったチョコレート全てを持っていかれたのは記憶に新しい。

 貴重なしょくらあとで作った忍者食だったのに……と思っていたが、代わりのしょくらあとを頼んでいたのがこれから手に入るということなので良かった。

 

「わかりました。では明日の早朝に出発します。戻ってくるまでの間は忍衆を警護に当たらせます」

 

「ええ、お願いします。

 ………………結城のちょこれーと、今から楽しみです……♪」

 

 どうにも作った物を全部持っていかれそうな気がするのはどうしてだろうか。

 まぁ、俺の忍者食と義昭様のチョコレートを確保して残りをヨシテル様とミツヒデ様に渡してもいいだろう。しょくらあと自体はいくらか残しておけばまた作れるのだから。

 

「あぁ、そうだ。ヨシテル様」

 

「え、はい。なんでしょうか?」

 

「俺、まだ説教してません」

 

「……え?」

 

 ポンコツを直すのには意味がある。それは将軍としての威厳を保つということに繋がるのだ。

 今は俺の前だけだが、あれを民衆に見せるわけには行かない。なので早速説教だ。

 

「俺はヨシテル様の説教を聞きました。なのでヨシテル様も俺の説教を聞いてください」

 

「あ、いえ!普通そういうのは私がするべきであって……」

 

「以前に俺の忍者食をミツヒデ様と掻っ攫っていったのも一緒に説教しますね」

 

 そう言うと慌てて弁明を始めるヨシテル様を尻目に決意を固める。さぁ、説教の時間だ。

 

 この後滅茶苦茶説教した。




ヨシテル様にチョコレートとか甘くて美味しいもの食べさせたい。
そして綻んだ顔を見たい。
見たくない?
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