――様といっしょ   作:御供のキツネ

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オリ主はカシン様に少し弱い。


カシンさまといっしょ

 大友領の子供たちに忍術を見せ、しょくらあとと返事の書状を受け取って半日。日も暮れて月と星の光を頼りに移動をしている。本気を出せば夜中に二条御所に着くと思うが、そこまで急いで戻ることもないだろう。

 それにどうにも視線を感じるのだ。遠くから誰かに見られているような感覚。やるとしても一人しかいないが。

 とりあえず何がしたいのかわからないので、相手から接触して来るのを待つ。まぁ、放っておいてもただ見てくるだけのような気がして森の中、そして開けた場所に出る。そして、そこで少し待つと、暗闇の中から歩いてくる人影が一つ。

 

「これはこれは。わざわざこのような場所で待たずとも、二条御所へとお戻りになっても良かったのですよ」

 

 それは細川ユウサイ様だった。以前と変わらず、本心の読むことの出来ないような薄らと笑みを浮かべている。というかちょっと待ってもらおうか。

 

「カシン様カシン様。なんでその姿なんですか」

 

「……別に構わないでしょう?私がどのような姿であろうとも」

 

「まぁ……確かにそうですが……」

 

 ユウサイ様の姿だと何を考えているのか微妙にわからなくて困る。いや、最近はわかりやすくなっているか。しかしカシン様本来の姿であれば感情豊かなのでもっと分かりやすい。自分の思ったままに感情を剥き出しにする姿は子供のそれと同じように思えてしまい、微笑ましく見ているのはカシン様には内緒である。

 また本来の姿であれば辛辣な態度を取ることが多いが、ユウサイ様の姿であれば二条御所に居たときとそう変わらない態度で接してくれる。話しやすさという点では今の方が断然上だ。

 

「それで、一体どういった用件でしょうか。暇つぶしのつもりなら早く戻った方が良いですよ。主に紫苑と鬼灯のために」

 

 カシン様が暇つぶしと称してふらりと城から居なくなるとそれを探すのは紫苑と鬼灯の仕事だ。

 少し前になるが、カシン様がいなくなったと涙目の紫苑に縋り付かれたときは本当に驚いた。そして全力で探し出したのは記憶に新しい。

 憎悪はなくとも超一流の呪術師であり、戦国乙女としても最上位の存在だ。そんな人がいなくなってしまい、もし何かしでかしたら大変だ。いや、大変なんて程度ではないのだが。

 探し出して理由を聞けば、徳川様を挑発しながら、ついでに今川様を小馬鹿にて遊んでいたらしい。はた迷惑な話だ。そして、そうしたカシン様の話を聞いた各戦国乙女の反応を俺から聞いて実に楽しそうにしていた。

 

「あの二人は別に構わないでしょう。戻った際の反応も随分と良くて大変面白いものですよ」

 

 しかし、まぁ、その辺の感性はとても理解出来る。というか俺のヨシテル様に対して愉悦を感じるようになったのはこの人のせいだ。

 言うなれば戦国愉悦部部長である。そして俺が部員候補になる。そう、愉悦なんてものを教えたカシン様が全部悪い。俺は悪くない。

 

「あぁ、それはわかります。あの二人、特に紫苑が良い反応しますよね」

 

「ええ、やはり結城は話がわかりますね」

 

 まぁ、俺の愉悦の始まりはあの時の紫苑と鬼灯だ。それをカシン様が見抜いてあれこれと話をしたの結果がこれだ。存外楽しいので別に構わないが。ただ、本当に人が絶望する様に愉悦を感じることはない。それがあくまでも候補となる所以だろう。

 

「で、その話は置いておくとして……用件をどうぞ」

 

「……結城は大友領へと赴き、何を得ましたか」

 

「あ、良いです。察しました」

 

 そういえばカシン様は最近甘い物を好むようになっていた。それで大友領で得た物と言えばしょくらあとだ。それを使ったチョコレートを要求しに来たと考えるのが妥当だ。

 確かに以前、ヨシテル様とミツヒデ様に持って行かれたという話はしたが、その時にやけに食いついて来ていたのはそういうことか。となると……二条御所までついてくるのだろう。そしてカシン様が居ることを説明するのを俺に丸投げする気に違いない。

 

「で、ついでにヨシテル様でもからかうつもりですか」

 

「話が早くて助かります。やることもなく、退屈な私にとってかけがえのない娯楽ですので」

 

 娯楽としてからかわれるヨシテル様に同情を禁じえない。ただし、カシン様を止めるとは言っていない。むしろその様子を見たいのでどんどんやってください。酷いことにならない限りは、ではあるが。

 というかやることもなく、とか言っているがカシン様に何かやらせると面倒なことになるので仕方ない。

 

「程ほどにお願いしますよ。ミツヒデ様が面倒になるので」

 

「あれはあれで見ていて面白いのですが……チョコレート、とやらで手を打っても構いませんよ」

 

 手を打っても構いません。とか言っているが絶対にそれが目的だ。他の人にはわからないだろうが、瞳の奥が少しキラキラしているように見える。これがカシン様の姿であればもっとわかりやすいだろう。

 もしかするとチョコレートは戦国乙女に対して強力な切り札になるのかもしれない。今度適当な相手に試してみようか。例えば冷静沈着な上杉様や伊達様。どんな感じになるのか少し興味がある。

 そのためにはチョコレートを多めに作っておかなければならないのだが……まぁ、大友様から頂いたしょくらあとの量が異常な程だったので材料的には問題ないと思う。作るのが少し面倒ではある。

 

「わかりました。それなりの量を用意する予定なのでそれで構いません」

 

「それは良かった。もし断られたらどうしようかと思いましたからね」

 

 何を仕出かすつもりだったのだろうか。チョコレートのためだけに再度戦乱を、とかだったら笑えないのだが。

 しかし、本当にチョコレート目当てに来たのだろうか。最近のカシン様であれば充分に有り得るとは思うが……別の目的もあるのだろう。そんな気がしてしまう。

 

「あぁ、その猜疑の目。悪くありませんね……本当は気づいているのでしょう?」

 

「やはり、ですか。とはいえカシン様の期待するようなことはありませんよ」

 

「……どうやらそのようですね。いえ、それでこそ結城と言うべきでしょうか」

 

 言ってカシン様はくつくつと笑う。その様子についため息をついてしまう。この方はいつもそうだ。

 顔を合わせる度に俺の様子を見ては一人納得したようにしながら笑うのだ。それで良いと。そうでなければならないと。

 

「良いのです。ええ、それで良いのです。お前のそれがどうなるか、私は楽しみで楽しみで仕方が無いのですから」

 

「カシン様が楽しそうでなによりです……」

 

 カシン様は色々と自由な人になってしまった。自分が楽しむためならどこへでも行くし、なんでもするのではないだろうか。現に駿河まで行って徳川様、今川様で遊び、そしてこうして俺の前までチョコレート目当てで来ている。いや、何処かで暴れるというのよりは断然良いのだが。

 

「さて……行きましょう、結城。あまりゆっくりとしていてヨシテル様を待たせる訳にはいきませんからね」

 

「ええ、わかりました。ですが、折角の月夜です。もう少しくらいゆっくりとしても問題ないのでは?」

 

 月明かりの夜は好きだ。星明りの夜が好きだ。以前から好きではあったが、最近特にそう思うようになっている。徳川様とカシン様曰く、月は強大な魔力を放っているらしい。星もその月の影響によって魔力を帯び、星明りには微弱ながらそれが含まれるのだとか。

 そして俺にはそれらが必要なのだ、とはカシン様の言葉だったか。

 

「構いません。そう、構わないのですよ。人が自らに必要なモノを欲するのは至極当然のことなのですから」

 

 言って愉快そうにまたくつくつと笑う。その姿は月の光に照らされて幻想的で、人の心を不安定にするような不気味さを孕み、人の神経を逆撫でするような不快感を与える。

 ただ、それが普通の人であればの話だ。忍にとっては、または俺にとってはカシン様なら仕方ない、といった程度でしかない。人となりを知っていればそれが当然のように受け入れられるのだから。

 それが出来るかどうか、その違いでカシン様との人付き合いというのだろうか、それの難易度が大幅に変わってくる。

 そして、カシン様のことを良く思っていない方が多いため基本的に戦国乙女の全員がカシン様との関係はあまり良くない。むしろ悪いと言った方がいいのかもしれない。

 

「カシン様、そういうの控えないとこの先も皆さんと不仲なままですよ」

 

「別に構わないのですが。まったく、結城は余計なことを心配していますね。

 誰に嫌われようと、誰に憎まれようと、私は全てを受け入れます。

 そして私は全てを嫌い、全てを憎み、全てを怨み、全てを妬み、全てを嫉み、そうして生きているのですから」

 

 それはカシン様の本心からの言葉だった。人ならば誰もが思うような、誰かに認められたい、誰かに愛されたい、そんな願望は一切無い。

 以前までの全てを憎んで破壊しようとする状態よりはマシになっているが、それでもやはりカシン様は自らの根元を変える気はないらしい。

 

「そうした生き方が私なのです。私は変わらず、そう生き続けるでしょう。

 ただ……結城だけは違います。結城だけは、愛しましょう。慈しみましょう」

 

 脳を蕩けさせる様な声でそう言うカシン様。何も知らない人ならばきっとその声に従ってしまうだろう。

 だが、その瞳には愉快で愉快で仕方ないとでも言うような喜色が込められていた。

 

「さぁ、此方へ。結城には私の持てる全ての愛を捧げても良いと言っているのですよ?」

 

 これはきっと頷いてカシン様の傍へと行けば、本当にそうするのだろう。ただ、そうすることは有り得ない。この身は既にヨシテル様を支えるために使うと決めているのだから。

 

「申し訳ありませんが、その言葉に頷くことは出来ません。

 俺が心に決めているのは、ヨシテル様を支えていくということです。ここでカシン様の傍へと行くというのは、それを放棄することになりますからね」

 

 告げればカシン様はつまらなそうな表情へと変わり、何処か投げやりな態度へと変わっていた。

 

「あぁ、そうですか。それは残念です。ええ、本当に」

 

「カシン様、変わり身早すぎませんか。というかそれって、俺がヨシテル様から離れた場合に周りの反応が楽しみだ、とか思ってませんでしたか?」

 

「それもあります。ですが、結城がそうして確固とした意志でヨシテル様を支える。というのが残念なのです」

 

 どうしてだろう。ヨシテル様を裏切ることがない。ということだからだろうか。

 

「わからなければわからないで構いません。今は、ですが」

 

 カシン様の浮かべる感情としては、心から残念だ、と思っているように感じる。何がそれほどまでに残念なのか、イマイチわからなかった。

 そして、やれやれ、と言う風に頭を振って歩き始めるカシン様。

 その後を追うようにして歩けば、少し此方を見てため息をついた。

 

「お前は本当にそういうところが残念です。私の感情にさえ気づけるというのに」

 

 ため息だけではなく、更には少し睨みつけてきた。一体どうしてだろうか。本当に分からない。

 

「……わからないのならそれで構わないとは言いましたが、気が変わりました。許しません」

 

「それ理不尽ですよね」

 

「さて、なんのことやら。

 あぁ、ですが埋め合わせに何かあるのなら許して差し上げましょう」

 

「もう良いですそれで」

 

 むしろ此方が投げやりになるのは仕方ない。理不尽なことを言われて、更には謎の埋め合わせまで要求されたのだ。というか、その埋め合わせと言うのはチョコレートではダメなのだろうか。

 

「それってチョコレート多めに、とかでなんとかなりませんか?」

 

「なりません。多めには貰いますが、それ以外の埋め合わせをしてくれるのでしょう」

 

 確定事項ですか。自由な上にものすごく強引な方になってしまった。いや、元からなのだろうか。

 とりあえず、行き過ぎない程度であれば埋め合わせというに付き合うのも良いかもしれない。それでカシン様の気が済むのであれば。

 

「わかりました。ですが限度と言うものがありますからそれだけは心に留めておいてください」

 

「仕方ありませんね。それなりに妥協はしましょう。それなりに、ね」

 

 それなりというのが不安である。カシン様は他の方ならするであろう加減や遠慮というのはしないのだから。

 ただ、それがカシン様らしいと言えばらしい。

 

「もうそれで良いです。諦めますから……」

 

「分かればそれで良いのですよ。さぁ、そうと決まれば二条御所へと戻りましょう」

 

 そう言うカシン様は聊か機嫌が良くなったように思える。機嫌が悪いよりはずっと良い。というか戻りましょうではなく行きましょう、ではないのだろうか。

 そんなカシン様の後について歩きながら疲労感と同時に充足感を覚えた。

 

 カシン様の相手をするという疲労感、そしてカシン様が良い方向に少しずつ変わっているということに対する充足感。この先も時間を要するだろうが、カシン様は変わっていくだろう。それはきっと、いつか徳川様とさえ友人として接することが出来るようになる。そんな気がしてくる。

 そして、それほどの時間が経った時には多くの人々が笑っていられる平和な世界となっているのだろう。

 そんな世界を空想しながら、歩く俺を照らす月明かりは、何処か暖かで優しいように思えた。




カシン様に認められたい。
きっとカシン様は誰も認めないタイプの人だから。

1話毎の話の終わり方がいつも微妙。
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