――様といっしょ   作:御供のキツネ

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オリ主には何らかの秘密がある。


ミツヒデさまといっしょ

 ヨシテル様の執務室の前へと戻ると中から声が聞こえてきた。威嚇しているというか、警告をしているというか、とりあえずそれがミツヒデ様の声であることだけはわかった。

 聞こえてくる言葉の内容から察するに、カシン様が何かヨシテル様に失礼なことを言ったようだ。カシン様が言う言葉を一々気にしていたら身が持たないと思うのだが。

 それに、ミツヒデ様の言葉に対してくつくつと笑うカシン様の声が聞こえることから狙って言ったのだろうということが簡単に予想できる。

 あぁ、やはりこうなったか。と思いながら、放っておくわけにも行かないと考えて一声かけてから中に入る。向かい合うように座っているヨシテル様とカシン様、その二人の間に立ってヨシテル様を庇うようにしているミツヒデ様の姿が見えた。

 

「カシン様、ミツヒデ様で遊ぶのはその辺りで止めていただけますか。

 ミツヒデ様も、一旦落ち着きましょう。カシン様の思う壺ですからね」

 

「結城!だがカシンのあの言葉、撤回させないわけにはいかないのだ!!」

 

「ヨシテル様、何を言われたんですか」

 

 完全に頭に血が上っているミツヒデ様に聞いたところであまり意味がないと思いヨシテル様に聞く。カシン様に聞いた場合も適当にはぐらかされるに決まっている。

 

「天下人としての風格がない、と……」

 

「あ、はい。そうですね、それは俺も思ってました」

 

 天下人としての風格は本当にない。将軍としての風格ならば充分にあるのだが。

 というよりも、将軍としての印象があまりにも強いために天下人と言われてもピンと来ない。と言った方が正しい。それに天下人というのはきっと織田様のような風格のある方の方がお似合いなのではないだろうか。

 

「結城!?」

 

「私の言った通りでしょう?結城も同意する、と」

 

 事実は事実なのだから仕方ない。それにヨシテル様には天下人としての風格を得るよりも、ポンコツ化するのを何とかして欲しい。

 大体、民も天下人として振舞うよりも善政を敷く将軍としての姿を望んでいる。それにヨシテル様の意向によって尾張は織田様、駿河は今川様、と言ったようにそれぞれの乙女に統治を任せている。支配ではなく互いに協力しての天下泰平を目指したのである。どうにも天下を統一した天下人、というのには微妙に違う気がする。

 

「結城、何を言っているのだ。ヨシテル様ほど天下人に相応しい方は他にいないだろう?」

 

 少し落ち着いたようだが、それでもまだいくらか頭に血が上っているのだろうか。目つきがやたらと怖い。別に侮辱する意味を込めて言ったわけではないのだが、それがちゃんと伝わっていないようだ。

 

「民はヨシテル様には天下人としての風格よりも、将軍としての威厳や治世を望んでいます。そしてヨシテル様も天下人としてこの国を支配するのではなく、他の方と協力して天下泰平を成す。としていますのでそれでよろしいかと。

 それにヨシテル様も天下人ということに拘ってはいないでしょう?」

 

「そうですね……結城の言う通りに実はそう天下人というものには拘ってはいないのです。

 私は天下人になるためではなく、将軍として民の為にこの剣を振るい続けてきました。ですので、天下人としての風格と言うのはあまり必要だとは思っていないのです。

 それにしても、結城はその辺りのことをちゃんとわかっていてくれるようですね。なんというか、安心しました。理解してくれる方がいる、というのは心強いものですからね」

 

 そう言って嬉しそうに、少し照れたように表情を綻ばせるヨシテル様。

 

「ええ、ヨシテル様の忍として当然のことです。

 それに、傍で支えていくというのであればヨシテル様の想いを理解しておくのは必要なことですからね」

 

 応えるように少し笑んで返せばそれに嬉しそうに微笑み返してくれた。

 普段はヨシテル様をぞんざいに扱うのだが、こういう真面目な時はちゃんとしなければ。まぁ、あまりらしくはないのでそういう態度を取る事は基本的にない。

 こういうところは立花様と似たようなものだ。

 

「わ、私とてそのくらいわかっていた、ような、いなかったような……いや!だがヨシテル様を想う気持ちに偽りはない!!」

 

「それでも結城には劣っていたようですが。仕えている期間は結城の方が短いというのに……」

 

「うぐっ……だ、だが!」

 

「言い訳というのはあまり良くないのではありませんか?足利軍の参謀たる身でありながらそのようなことをするなど……」

 

「ぐぬぬ……!」

 

 ミツヒデ様を玩具にして遊んでいるカシン様は実に楽しそうだ。

 俺とヨシテル様が何処か和やかにしているのに対して、ミツヒデ様とカシン様がある意味で和やかにしている。それはカシン様だけというのがなんとも言えないが。

 

「ふふ……その言葉、とても嬉しく思います。

 この先もどうか私の傍で、共にあってくださいね。私は貴方のことを何よりも信頼していますから」

 

「ヨシテル様は何よりも結城を信頼している、と。お前はどうも一番ではないようですが、そこはどう考えているのでしょうね」

 

「結城ぃ……!普段はヨシテル様に対して失礼な態度を取る事が多いというのに、どうしてこういう時だけ……!!」

 

 怨めしそうに睨んでくるミツヒデ様だがそれに気づかないようにヨシテル様を向いたままにしておく。

 折角ヨシテル様と和やかに、お互いに信頼の情を見せている。それを邪魔されたくは無い。ミツヒデ様には悪いとも少し思うが、こうして素直な気持ちでヨシテル様に接することも必要だ。

 ヨシテル様はあまり表に出さないがふと不安そうにすることがあるからだ。松永様の謀反、ユウサイ様の裏切りというかカシン様の謀略、次はもしかして俺が、とか悪い想像をしてしまうらしい。

 そこら辺のことが気になって聞いてみたらそういう答えが返ってきた。疑心暗鬼というか心配性というか、二度あることは三度ある。ということか。

 流石にただの忍である俺にはあの二人のようなことは出来ないし、する気もないのでその旨を伝えて安心してください。とは伝えてある。それでもこうして時折裏切ることはないと伝えないとヨシテル様が不安がるのだ。

 

「伝えるべきことは伝えているだけです。ですが、そろそろ俺は厨房へと移動しようかと思います。あまり作るのが遅くなるのも、どうかと思いますから。

 よろしいでしょうか、ヨシテル様」

 

「ええ、構いません。楽しみにしていますよ、結城」

 

 ある程度やるべきことはやったと思うのでチョコレート作りに向かわなければ。

 カシン様は遊んでいるだけのようで、心配する必要もなさそうだ。

 

「あぁ、ミツヒデも下がって良いですよ」

 

「しかしヨシテル様。カシンと二人というのは聊か危険かと」

 

「いえ、カシンとは少し話したいこともありますので」

 

 カシン様と話すこと、とはなんだろうか。以前であればユウサイ様として居たので話すこともある。というのはわかるのだが。

 なんとなく引っかかるものもあったが、二人きりで話したいということなので大人しく厨房へと移動しよう。ついでに食い下がろうとしているミツヒデ様も引っ張って行かなければならないかもしれない。

 

「いえ、ですが!何を仕出かすかわからないカシンと二人きりになるのは危険すぎます!」

 

「ヨシテル様が私と二人で話がしたいと言っているのですよ。主の言葉に逆らおうというのですか」

 

「お前は黙っていろ、カシン!」

 

 カシン様は一々言い方が相手を煽るようになっているせいかまたミツヒデ様の頭に血が上り始めている。普段はこんなに声を荒げる人ではないのだが、今回ばかりは我慢ならないらしい。

 ミツヒデ様がこうなるのも仕方ないことだとは思いながらも、ヨシテル様の意向に従うためにもミツヒデ様を下がらせなければならない。

 

「ミツヒデ様。ヨシテル様は二人で話がしたいとのことなので下がりましょう。二条御所内であれば何か妙な動きをすればすぐにでも対処出来ます。

 それに、ヨシテル様であればカシン様を相手取っても問題なく制することが出来るかと。ですのでここはヨシテル様のお言葉に従いましょう」

 

「結城……本当に大丈夫なのか?」

 

「はい。ですのでここは下がりましょう」

 

「……わかった。

 ヨシテル様、何かあればお呼びください。すぐに駆けつけますので」

 

 渋々といった様子ではあるが下がることを決めてくれたようだ。これで無理やり転移の術で下がらせる必要はなくなったので良かった。

 ミツヒデ様が下がるというので一緒に執務室を出て厨房へと移動する。思いのほか時間を取った、とは思うが今から調理に取りかかれば昼前か、遅くても昼過ぎには作り終わるだろう。忍術というのは実に便利である。俺の使うのが忍術なのか最近疑問に思うこともあるのだが。

 ミツヒデ様は下がるとは言ったものの、どうも執務室の付近、というか隣の部屋で待機するらしい。

 納得した体ではあったがそれはそれ、これはこれ。ということだろうか。

 

 そんなミツヒデ様と別れて厨房に向かえば、数人の侍女が朝食の後片付けと昼の仕込みをしていた。事前に知らされていたらしく、俺を見ると一礼して自分の仕事へと戻って行った。

 時折使わせてもらっている場所に行けば幾つか調理に用いる道具が用意されていた。ヨシテル様の指示だとすれば、どれだけ楽しみだったのだろうか。と少し思ってしまった。

 そんなことを頭の隅に追いやり、調理を開始していく。慣れたものでさっさと作っていくのだが、どうにも他の人には理解できないらしい。見ていても何をしているのかまったくわからない、もしくは忍術を使っているようなのだがその忍術が何なのかわからない。とのことだ。

 

 手際良く作っていると厨房の中へと新しく誰かが入ってきた気配がした。

 誰か、としたがこの気配はミツヒデ様のものだ。執務室の隣室で待機すると言っていたが、ミツヒデ様は真っ直ぐと俺の方に歩いてくるようで、俺に用事があるようだ。どうしたのだろうか。

 

「どうかしましたか、ミツヒデ様」

 

 振り返らず、作業の手を休ませずに問いかけると背後で立ち止まる気配がする。

 

「待機していたが、ヨシテル様に下がるように、と。

 本来ならば離れるべきではないのだが……」

 

「ヨシテル様にそう命じられた、ということですね。主君の命であれば致し方なし、ですか」

 

「……私としては結城がそこまで落ち着いているのが疑問だ。あのカシンが居るというのに、何故だ?」

 

 言われてみれば確かに疑問に思われてもおかしくはないのか。まぁ、色々と事情があるのだ。

 カシン様は以前ほどの力はない。そして憎悪も同じくない。それを様子を見て、確認したということでヨシテル様には伝えていたが本当は違う。俺はそれを知っていたからそれを伝えただけなのだ。

 そうとは知らない他の方はそれを信じることが出来ないでいる。

 だからこそミツヒデ様はこんなにも警戒というか心配しているのだろう。

 

「問題がないからですよ。事実としてあの方は以前とは大きく違っていますから。

 まぁ、多少は心配になることもありますが……ヨシテル様とカシン様が戦うことになれば今の状態であればヨシテル様が勝つのは明白です。だからこそ俺はこうして落ち着いているんですよ」

 

「結城は私たちの知らないことを知っている。と、そういうことか……

 ……信じても良いのだな?」

 

「ええ、断言します。今のカシン様はヨシテル様にとっては問題なく対処することが出来ます」

 

 信じられないかもしれない。それでも事実である以上はそう言うよりない。

 

「はぁ……わかった。信じよう。結城は信用に値するというのは分かっているからな。

 だが、何かを隠しているのは気に入らない。いずれ話してもらうぞ」

 

「はい、今は話せませんが、いずれ」

 

 ミツヒデ様は頭の回転が早い。今回のこの話の間にも色々と考えていたのだろう。若干の不信感と、それ以上の信用。そんな感情を込めての言葉だった。

 それにいずれ話すと約束して、その後お互いに無言となった。

 いずれ、とは言ったもののやはり酷く気になるようで、色々と考え込んでしまっているようだ。原因が俺にあるということでこのまま放っておくのもどうかと思い声をかける。

 

「ミツヒデ様、折角ですしチョコレートの味見でもしてみますか。前回よりもいくらか甘さを控えめにしましたので感想を聞かせていただければと」

 

 皿の上に氷遁で固めたチョコレートを乗せて振り返り、爪楊枝と一緒に差し出す。完全に物で釣るということになるが、別にそれでも良いだろう。とりあえず空気を変えるというのが目的だからだ。

 

「……そうだな、頂こう」

 

 仕方が無いな、とでも言うように少しだけ笑って皿を受け取るとチョコレートを爪楊枝で刺し、口に含んだ。

 そして味を確かめるようにゆっくりと咀嚼して飲み込む。表情の変化を見るに口には合ったようだ。

 

「うん、美味しい……」

 

 思わず漏れた、という風なその言葉は普段俺に対して使う少し強い言葉とは違い、柔らかく優しい声色だった。具体的に言うのであれば義昭様と話をする際のそれだ。

 どうにも以前から俺に対して強い言葉を使うのだが、どうしてだろうか。微妙に信用されてない?忍ということで警戒している?まぁ、そのどちらかなのだろう。

 この先、信用を得ることが出来れば良いのだが。

 

「その様子を見るからに大丈夫そうですね。ではこのままの味で作りますので、また後ほどお持ちします」

 

「ん、あぁ、そうだな。昼を過ぎるだろうから午後の茶請けに出してくれ」

 

「わかりました。その時間までには間に合わせます」

 

 その返事に満足そうに頷いて踵を返し歩いていくミツヒデ様を見送って作業に戻る。

 この先まだ時間はあるのだ。出来ることならもう少しミツヒデ様との距離感を近づけることが出来れば良いな、と思いながら少しだけ作る速度を上げる。

 まだ時間はあるとはいえ、急いで作らなければ数が数だ。間に合わなくなってしまう。

 少しだけ甘さを控え目にしているがヨシテル様と義昭様の口に合えば良いのだが。




ミツヒデ様に強い言葉で接してもらいたい。
そして時折見せる優しく柔らかな言葉を聞いて、あぁやっぱり乙女なんだろうなぁ。とか思いたい。
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