オリ主は心配性(ヨシテル様と義昭様限定)
コタロウ様と別れてヨシテル様の執務室へと向かう。まだ本来の休憩時間にはなっていないし昼食前ではあるがチョコレートが完成したことを伝えて、場合によってはカシン様にお引取りを願わなければならないからだ。
渡すものを渡して、カシン様が満足して返ってくれるのであれば良いのだが、場合によっては残ってヨシテル様やミツヒデ様で遊ぶ可能性がある。
個人的にはやりすぎない程度であれば気にならないのだが、あの二人にとっては気にならない、では済まないだろう。
そう考えながらヨシテル様の執務室の前に着いた。不思議なことに中から感じる気配の数は四人分。ヨシテル様とカシン様はわかるのだが……後は義昭様とミツヒデ様のものか。ミツヒデ様はまだ分かるのだが、義昭様はどういうことだろうか。
疑問に思いながらも一声かけてから執務室に入るとやはりそこには四人がいた。どうにも妙な雰囲気になっている。一体どうしたというのだろうか。
「チョコレートが完成したので、一旦持ってきたのですが……どうしてここに義昭様が……?」
「いえ、少し散歩をしていたら近くに来たので。結城が心配しているようなことはありませんでしたよ」
心配していたこと、と言うのはカシン様が何か義昭様に言うのではないか、ということだろうか。それとも妙な影響を受けてしまわないか、ということだろうか。
どちらにせよ、心配していることはなかったというので安心して良いのだろう。いや、既に影響を受けてしまった場合は安心出来ないか。
「そうですか……それなら良いのですが……」
「結城、義昭のことは大丈夫です。
それで、ちょこれーとですが……」
話を逸らされたような、ただ単純にチョコレートを催促されたような。違和感を覚えたが、それでもヨシテル様の意思に従って話に乗ることにした。
「わかりました。それではチョコレートですが、完成しました。
まだ休憩でもありませんし、昼食前ですが……とりあえず味見の意味も込めて少しだけどうぞ」
言ってから氷の箱に入っている状態のチョコレートをそれぞれに渡す。中に入っているのは三つほどであるが、昼食の前であればこれでも多いくらいだ。
そうして渡す際に、部屋の中にあった、というか四人にあった妙な雰囲気が消えていた。別に敵対するようなピリピリとした雰囲気というわけではなかった。戦前の作戦会議、その時のように真剣でそれでいて何らかの疑惑を抱えているような、それに対して毅然と立ち向かうような、なんとも形容し難い雰囲気だった。
しかし、今はそれがなくなった。本来なら探りを入れるなりしなければならないのだが、どうにもヨシテル様はそれを良しとしていないようだった。そうなれば、下手に探りを入れることは出来ない。
カシン様が関わっているのを理解出来るので、下手をすると厄介なことになる。それでも釈然としないまま今回は引き下がることにした。
もやもやとして気持ちのまま、それでもそれを悟らせないようにしている。が、此方を見るカシン様が随分と楽しそうにしているので、カシン様には悟られてしまっているようだ。
ここでカシン様の様子に苛々したところで無意味だと思ってため息をつきそうになるが、それを耐える。
とりあえずはチョコレートを食べているヨシテル様たちの反応を確かめることにした。
ヨシテル様はチョコレートを一つ口の中に入れて幸せそうに味わっている。
ミツヒデ様は表情に出さないように努めているが、それでも頬が緩んでいるのがわかる。
カシン様は一つを口の中に入れて味わっているようだった。そして納得したように頷いて二つ目を同じように食べようとしていた。
義昭様は以前と違い、甘さを控えめにしているのでどうなるか、とも思ったが気に入ってくれたようでヨシテル様と同じように幸せそうにしている。
それぞれの反応を見る限りは大成功、と言えるだろう。作った側としても満足の行く結果だ。
「なるほど、これがチョコレートですか。結城、約束通りに多めに貰いますがよろしいですね」
「ええ、それは大丈夫です。大友様から譲っていただいたしょくらあとがとても多かったので、チョコレートも沢山作っていますから。
どうしましょう、お帰りの際に渡そうかと思っているのですが」
今渡したとして全て食べてしまう。ということはないだろうが、この後は昼食の時間になる。食事の前にこういった物を食べるというのはあまりよろしくない。
「あぁ、それなら今受け取りましょう。結城にはこれから任務がある、とヨシテル様が仰っていましたからね」
「任務ですか……それならお渡ししましょう。それでヨシテル様。任務とは」
カシン様から任務について言われたことに疑問もあるが、ヨシテル様に詳細を聞くことにした。
流石にヨシテル様がいるというのに嘘を言う、とは考え難いがそれでもヨシテル様の口から聞きたい。
「そう、ですね……結城、暫し諸国を回って他の方々の様子を見てきてもらえませんか」
「はぁ……構いませんが、定期的に戻っての報告、ということでよろしいでしょうか」
「ええ、それで問題ありません。義昭の護衛はミツヒデに頼みますのでそこは安心してください」
どうにも本当に任務があってカシン様がそれを伝えた。というよりも、俺を二条御所から遠ざけるために任務を言い渡した。という風に受け取れる。
これはカシン様が何かを言った、ということで間違いないだろう。
「わかりました。それでは渡すべき物は渡しておきます。
それと部下には護衛や諜報の任務を伝えてから出立します」
「はい、よろしくお願いします」
護衛の隊長として竜胆を、諜報の隊長として鈴蘭を、そしてその他に必要であれば睡蓮を隊長とした別働隊に任せることにしよう。
念のために義昭様だけではなくヨシテル様やミツヒデ様にも護衛に数人付け、周囲に可笑しな動きがないか諜報させよう。カシン様が関わったという時点で警戒しておくべきだ。
「結城、そう心配しなくても大丈夫ですよ。確かにカシンといくらか話をした結果としてこういった任務を任せることにしていますが、悪い話ではありません。
最近の姉上は少し結城に頼りすぎているということなので、それで今回の任務となったんです」
色々と考えている俺の内心を悟ってか、義昭様がそう言った。こうも簡単に悟られる程に考えて込んでいただろうか。いや、義昭様ならその辺りのことを悟ってもおかしくはないかもしれない。
以前はそうでもなかったが、最近の義昭様はヨシテル様以上に人の心の内を察することが出来る。
「あぁ、確かにそう言われればそうですね。ですが…いえ、わかりました、大人しく任務につきます」
「よろしくお願いしますね。
…………それと、ミツヒデが最近姉上に頼ってもらえない、と言っていたので、その辺りのこともあるんですよ」
後半は小声で、ミツヒデ様に聞こえないように言って、少し困ったように笑っていた。
それを言われると此方としてもどうしようもない。あのミツヒデ様がそうして悩んでいるというか、嘆いているのであれば譲るべきではある。変に暴走されるよりもそっちの方が断然良い。
「カシン様、今回は大人しく下がりますけど、あまりやりすぎると此方としても手を打たせていただきます。
それを覚えておいてください」
「ええ、覚えておきましょう。
代わりに諸国を回る際に一度私を尋ねてください。その時に少し話がしたいので」
少しばかり剣呑な雰囲気になったが、カシン様はそれを受け流して平然とそう言った。
それを見て毒気を抜かれるというか、どうしようもないと思って耐えていたため息をついた。
「わかりました、ええ、わかりましたとも。
すぐに任務につきますので、ミツヒデ様、お二人のことをよろしくお願いします」
「あぁ、任された。……すまない、結城」
小さな声で呟かれたそれには気づかないふりをして、渡すべきものをカシン様に渡し、残りは侍女に任せることにしよう。
まぁ、今回の任務は仕方ないことだとして、時間があれば里にも戻ろう。長期の任務になるのであればそれも許されるだろう。
「ではヨシテル様、任務につきます」
「はい、よろしくお願いします」
短く言葉を交わして執務室から出る。その時にカシン様が笑っているのが見えた。
やはり今回の件はカシン様が元凶として間違いないだろう。それでもヨシテル様たちを信じるのも、俺のすべきことなのかもしれない。
とりあえずは、尾張に向かうとしよう。織田様には以前時間があれば来るように、とも言われていたしそれとなくカシン様がヨシテル様に何かを言ったから俺はこうして諸国を回っているだと伝えれば良いだろう。
大胆不敵で面倒臭がり気分屋で気が短く荒くれ者。と言われるが頭の回転が速く切れ者でもある。普段の振る舞いからは想像も出来ないが、あの方に情報さえ流しておけば今回の一件についてもある程度核心に迫ることだろう。
織田様を利用する、となれば織田様の怒りを買うことになるかもしれないが、致し方なしだ。それでも、最悪の結果を避けられるのであればそれで良い。
尾張の次は駿河か、甲斐、越後のどれかだ。
今川様は普段はアホの子であるが領国経営のみならず、外征面でも才覚を発揮して今川家を守護大名から戦国大名へと転身させた、それがどれほどのことかこの時代を生きる者ならわかることだ。
そして海道一の弓取りの異名は伊達ではなく、今川様が本気を出せば射抜けぬモノはなし、とさえ謳われているという。
それとカシン様ともし戦うようなことになれば徳川様の力は必要不可欠だ。本人は気づいていないが卑弥呼様の力を受け継ぎ、時として卑弥呼様の力そのものを扱うことがある。どうして本人が気づいていないのかイマイチわからないが。
いや、力を扱うというか、徳川様の肉体を器に卑弥呼様が力を振るっているというのが正しいのかもしれない。徳川様を媒体としてこの世界に顕現するのだから。
武田様であれば個人の戦闘力も高く、かの軍神との軍略合戦までしてのける頭脳派である。いや、頭脳派(物理)である。どうしてか真っ向勝負の殴り合い、というのが似合いすぎて困る。
上杉様は軍神と謳われる軍略、戦闘力共に武田様と同様に高く、それでいて冷静に物事を考えられることから突然のトラブルにも対応出来る。とても頼りになる方だ。
そんな二人が組む、それだけでどれだけ安心感が得られる。得られるはずなのにどうしてか不安に思ってしまうのは何故だろうか。共闘はやらかす。とはなんだろうか。
とりあえず、本当は頼りになる。だから大丈夫のはず。
他にも土佐に行けば長宗我部様、安芸には運が良ければ毛利様、奥州には伊達様、大和には松永様、豊後には大友様と立花様、なんとも頼りに成る方々ばかりだ。
それに、里に戻れば師匠がいる。幼少期からずっと傍に居た方だからこそ誰よりも頼りに思ってしまう。事実師匠であれば直接出てくることはないが、力になってくれるはずだ。
ざっと考えをまとめて、竜胆、鈴蘭、睡蓮の三人を呼び出して指示を出す。
忍衆の中でも選りすぐりの三人で、里から俺の指揮する分隊をそのまま連れてきたのだ。その三人であれば信頼できる。
俺の尋常ではない様子に三人とも表情が硬いが、それに対しては簡単に説明しておく。それを聞いて神妙な顔つきで頷いてから三人は任務へと走った。
その三人を見送ってから自らも尾張へと出立するための準備をする。
杞憂ではあると思うが、何事もなければ良いのだが。
尾張→京都→駿河→京都、の流れだとヨシテルさまといっしょが増え続けるのでこういう形で自由に動かせるようにしました。
四人でどういう話をしたのか、などはいずれ。