城下町の茶屋で豊臣様とお茶をしようとすると、茶屋の従業員から織田様の命によって豊臣様にはお昼前はお団子を一つしかお出しできません。ということを聞いた。元よりそのつもりであると伝えると少しだけ驚いたような顔をされた。
事情を聞くと、どうやら豊臣様は織田様に気づかれないようにこっそりと来ては団子を頼んでいたらしい。他にも金平糖だったり普通の料理だったりと、意外と食べているのだとか。
ただ、それは全て織田様に織田軍の忍経由で伝えられているらしく、その度に豊臣様は怒られているらしい。
それでもほぼ毎日昼前に来ていたという。これは俺が来るのを待って、帰りに寄っていたということなのだろう。豊臣様がそうした行動に出たのは俺のせいになるのだろうか。それとも単純に育ち盛りというかなんというか、現状の食事量などが豊臣様に足りていない可能性もある。
もしそうなら一度織田様に話をしてみる必要があるのかもしれない。子供の成長には適度な食事も必要だ。過度な食事になるようなら止めるのだが。
そんなことを頭の隅で考えながら豊臣様を見ると、団子を美味しそうに食べながら道行く人々を見ていた。歩いている人を見ているだけなのだが、その目にはどうにも楽しそうな色が浮かんでいた。
「……こうして皆を見てるとね、平和になったんだなぁ……って思うんだ。
前まで小さな戦や大きな戦がずっと続いてたからこんな風に平和じゃなかったんだよ。
…………本当ならお館様に天下統一してもらって、平和な世界に。って思ったけどこうして平和になってくれたんなら、ちょっと残念だけど良かったのかもしれないね」
少しだけ残念そうにしながらもその言葉に嘘はなかった。確かに豊臣様は織田様に天下統一を成してもらい、平和な世界にしてほしいと願っていた。だが天下統一はヨシテル様が成した。
織田様による天下統一という夢が絶たれた豊臣様の心中を察することは出来ないが、それでも平和な世界という夢は達成されている。
俺であれば悪いとは言わないが、なんとも言えない気分になっているだろう。
「あ、ごめんね。別に不満ってことじゃないんだ。
ただ、少しだけそんな風に思っただけ。だから結城は気にしないでよ」
そう言って笑う豊臣様は無理に笑ってはいない。それどころか、先ほどの言葉に含まれた残念そうな感情の色さえ伺えない。隠しているわけではないようで、本当に少しだけそんなことを思ったということがわかる。
妬むことも恨むこともなく、残念に思うこともあるが、平和になったことが本当に嬉しい。そんな考えが豊臣様の言動から伺える。俺ではきっとそうは思えなかっただろう。何かしらの後悔が残ったはずだ。
あの時ああしていれば、こうしていれば。そんな詮無いことを考えてしまったに違いない。それがないのはきっと豊臣様が真っ直ぐに育った純粋な方だからなのだろう。
「よし!私も結城ももう食べ終わったし、お城に戻ろう!
早く戻らないとお館様に怒られちゃうからね!」
言って立ち上がる豊臣様は笑顔を浮かべていて、それを見ると小難しく考えていたのがどうにも馬鹿らしくなった。豊臣様のこういった所はきっと他の誰にも真似することは出来ないだろう。
本人の意図したことではないとしても、多少とはいえ落ち込みそうだった気持ちを持ち直させてくれる。存外難しいことではあるが、こうも容易くやってのけるとは驚きだ。
まぁ、それ以上に近くに座っていた知り合いらしき女性から団子を分けてもらっている姿に驚きであるのだが。
「豊臣様。織田様にばれますよ」
「ふぇっ!?」
「というか、さも当然のように受け取って食べないでください」
もしよろしければどうぞ、と差し出されてありがとう。の一言で口に運んでいたが、一つで我慢しましょうという話だったはずなのだが。
そして急いで食べて串を隠すのはやめてください。ばればれです。
「これは織田様に報告するべきですね」
「だ、ダメ!お館様すっごく怒るから!すっごく怖いんだからね!?」
「というか、俺が言わなくても報告されると思いますよ。
大人しく自首した方がまだマシかと」
「自首って、別に悪いことはしてない!ような、してるような……」
本人としても少しばつが悪いようで歯切れが良くない。悪いことではないのかもしれないが、約束を違えたのと、織田様に怒られることを考えるとどうにも断言は出来ないらしい。
やはり大人しく自首して慈悲を願うのが正しいのではないだろうか。
「うぅー……お館様、許してくれるかなぁ……」
「とりあえず、自分から白状して謝りましょう。昼食の前に団子二つ食べてごめんなさい。くらい言えばなんとかなるかも、ですね」
「そうだよね……お城に戻ったら自分で言うよ。そうすればお館様も許してくれる可能性があるもんね」
死地に赴く兵士のような表情でそう言う豊臣様はどこまでも本気のようだった。本人としては冗談では済まされないレベルで織田様に怒られるのが怖いのだろう。
確かに織田様が本気で怒った姿は怖いというか恐ろしいものがあった。その時は相手がカシン様であったために平然と怒りを受け止められ笑われていたが。その程度の怒りなど我には意味を成さん、もっと恨むが良い、憎むが良い。とかなんとか。
あの時のカシン様は全盛期というか、カシン様の持つ本来の力を十全に扱える状態であったからこそああいうことを平然としていたのかもしれない。いや、今のカシン様でも多分鼻で笑いそうではあるのだが。
「そう言う割には足が震えているように見えますが」
「これは、ほら、あれだよ?武者震いだよ?」
「無理があると思いますよ。怖いなら怖いで認めても良いかと。
というか、俺も織田様が怒った姿を想像すると怖いですからね」
事実として怖いのだからこれは言っても問題ない。とはいえ織田様が本気で怒るというのはそうそうないと思う。短気だとか荒くれ者だとか言われているが思慮深く頭の回転の速く、ただ感情に流される。ということはないのだから。
とはいえ、何度も何度も同じことを繰り返しているということであればその限りではないのかもしれない。
「とりあえず織田様に謝ることから始めましょうか。というか、このままだと豊臣様動きそうもないので強制連行しますね」
言ってから再度豊臣様を姫抱きにして飛ぶ。とはいえ城内にいきなり飛ぶわけには行かないので城門の前に、である。城門の前では門番となっている兵士が突然現れた俺に警戒したように構えたが、顔見知りとなっていたために納得したように頷いて構えを解いていた。
そんな兵士に豊臣様を降ろしてから会釈して、動こうとしない豊臣様の背中を押しながら城内へと入っていく。それを見送ってくれるその兵士には苦笑されてしまったが仕方ない。
「豊臣様、織田様は謁見室でしょうか。それとも執務室に?」
「え、あ、うん……多分まだ厨房だと思うけど……」
「……厨房?」
織田様が何故厨房にいるのだろうか。つまみ食い、というのは豊臣様に散々言っていることから有り得ないと思うんだが、どうしたのだろう。
「そうだよ。三ヶ月くらい前からお館様がご飯作ってくれるようになったんだ」
「え、嘘ですよね?あの織田様が料理とか、嘘ですよね?」
「あはは……確かに私も最初は信じられなかったけど、嘘じゃなくて現実なんだよね。
最近は料理担当の侍女の人よりも美味しく作れるようになってるからお館様って凄いと思わない?」
あの織田様が厨房に立って料理をしている。それがどれほどの衝撃を齎したか。
はっきり言って現実だと言われても信じられない。むしろ実物を見るまでは信じない。これがお嬢様気質全開の今川様であったとしてもまだなんとか納得も出来るが、織田様が料理と言われても全く想像が出来ないのだ。
割烹着でも着ているのだろうか。それとも普段の戦装束なのか、普段着と言うか、そういうもので作っているのだろうか。そのどれだとしても、頑張ってイメージを固めようとするがまったく想像が出来ない。
「こういうのはなんだっけ、百聞は一見にしかず。だよ!
とりあえず厨房に向かおうよ!」
「あー……まぁ、織田様に会うのは確定事項ですからね。わかりました、行きましょう」
イメージが固まらないとしても実物を見てしまえばそんなことを気にする必要もない。とりあえずは豊臣様の提案に乗って厨房へと向かおう。
ここまで来ると背中を押さなくても豊臣様が歩いてくれるので後ろを大人しく付いて行く。厨房の位置は覚えているが、意気揚々と歩いている豊臣様の邪魔をする訳には行かない。主に楽しそうな子供を邪魔してはいけない。という理由で。
少し歩いて厨房に着くと、確かに見覚えのある赤い髪を揺らしながら料理をしているであろう後姿が見えた。
鍛え上げられた忍の聴覚によって聞こえるのは楽しげな鼻歌であった。どうやら織田様はとても楽しそうに料理をしているらしい。
後姿だけしか見ていないというのに、酷く衝撃を受けてしまった。まさか本当にあの織田様が料理をしているなんて。俺は夢でも見ているのではないのか、と本気で思ってしまったのは仕方ないだろう。
「お館様ー!結城を連れてきましたよー!」
元気良くそう言った豊臣様は真っ直ぐに織田様へと近寄って行く。その声に反応して織田様が振り返ると後姿で分かっていたが、和服を着ており、その上からフリルの付いたエプロンを来ていた。
確かあれは今川様が以前に冗談混じりに「野蛮人には似合わないと思いますが着てみるとよろしいんじゃありませんの?」とか言って渡していた物だったはずだ。名前はなんと言ったか。明治浪漫エプロンとか言う物だとか。
なんでもファッションリーダーとしてこういう物を手に入れるのは当然であり、少し変わった物を売っている商人とも繋がりがあるのだとか。
しかし、明治浪漫とはなんだろうか。浪漫というのはなんとなくわかるのだが、明治というのがなんなのかイマイチわからない。
「ようやく来たようじゃな、結城。思ったよりも早く来たことは褒めてやらんこともないぞ。
ただサル、お前は後で説教じゃがな」
「うぇ!?ま、待ってくださいお館様!確かについついお団子二つ食べちゃいましたけどそれは素直に白状して謝ろうと……」
「ワシよりも先に謝らんお前が悪いわ。今謝ればもしかすると許すやもしれんがな」
「ごめんなさいお館様!言いつけ破ってまたお団子食べちゃいました!」
非常に楽しそうな織田様に遊ばれているとも気づかずに本気で必死に謝っている豊臣様を可哀想だと思いつつも、ついつい愉悦してしまうのはどうにかするべきかもしれない。いや、カシン様のせいでこうなっている以上はどうしようもないのかもしれないのだが。
それにしても織田様は服装などは変わってもやはり内面は変わっていないようで安心した。これでとても女性的な話し方などになっていたとしたら俺はきっと発狂していたに違いない。というかそのことを今川様に話したら俺以上に発狂するかもしれない。
とりあえず駿河に行った際には今回の織田様のことを話してみよう。面白いことになりそうな予感がする。まぁ、確実に嘘をついていると思われるだろうが。
「今回は特別に許してやっても良いが次はないと思えよ、サル」
「は、はい!わかりましたお館様!!」
許してもらえたことが嬉しいらしく満面の笑みを浮かべている豊臣様の頭をぐりぐりと強めに撫でている織田様の表情は優しく、この方も平和になってこういうところは少し変わったな。と思った。
以前から豊臣様に対して優しかったのは知っていたが、ここまで表情に出していたことはなかったはずだ。やはり乱世であったからこそ気を張り詰めていたのだろう。それがこうなっているというのはある意味では面白い変化なのかもしれない。
「結城、このワシの姿を見て何か言うことがあるじゃろ?」
そう何処か得意気に言ってくる織田様であるが、この表情はあれだ。今川様がファッションショーで「似合っているでしょう?褒めてもよろしくてよ」とか言う時の表情である。なんでこんなところが似ているんだろうか。
「そうですね……ギャップが激しくてどう反応を返したら良いのかわかりません」
「そういう言葉は期待しておらんわ。素直な気持ちを言えば良い」
「はぁ……そうですね、普段の姿から懸け離れているのでどう言うべきか悩みますが、悪くは無いかと。
馴染みがないからこそ悪くない、程度ですが見慣れれば織田様に似合っている。と言えるようになる可能性はあります」
「はっきりせん奴じゃな。が、今回はそれで許すとするか」
言って笑う織田様は随分と楽しそうに見えた。普段も自分が楽しめるように動いていることの多い方ではあるが、今回のように笑うというか、笑顔になっているのはあまり見ない。
うん、まぁ、そうだな。こうして笑顔であれば存外今の服装も違和感無く見れるのかもしれない。いや、似合っていると言っても良いのかも。
「んー?なんじゃその顔は。もしやあれか、実は似合っていると思っておるとかじゃな?」
「先ほどみたいな笑顔であれば、ですが。
まぁ、なんというか……戦国乙女の方々は見目麗しい方ばかりですしね」
事実であるからこそ変に取り繕ったり誤魔化したりせずに素直に言えばどうにも織田様にとって予想外だったようで、驚いた表情をされた。
「結城がそう言うとは珍しい……ところでそれはヨシテルには言ったか聞きたいものじゃな」
「え、言いませんけど。ヨシテル様には基本こういうの言いませんし」
「あぁ、そうじゃったな。まぁ良いわ。
結城も昼はまだじゃろう。ワシが手ずから作ったんじゃ、食っていけ」
織田様の手作り。というのは何と言うか不安にも思うが、豊臣様曰く美味しいとのことなので大丈夫なのだろう。とりあえず今はそれに期待して、その後にでも織田様と色々話をして、豊臣様とまた茶屋に行くとしよう。
思いのほかヒデヨシ様の出番ががががが……
そんなわけでタイトルがこんな形に。
戦国乙女のソシャゲ、まだまだ問題ばかりですね……
ヨシテル様出るまでリセマラしましたが、色々きついです。