――様といっしょ   作:御供のキツネ

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オリ主は基本的にマイペースな人相手だと自分のペースを崩されやすい。


イエヤス/ヨシモトさまといっしょ

 徳川様に手を引かれながら町中を訝しむような視線、敵意や殺意の込められた視線を受けながら歩いている。以前は何故そのような視線を向けられるのかわからなかったが、理解した今となっては鬱陶しいことこの上ない。

 なので少し前に徳川様の意識が他のところに向いた瞬間に一度手を離したのだが、その後すぐにまた手を掴まれてしまった。手を離したのがダメだったようで、先ほどよりも強く掴まれているというか、握られているので手を離すことは難しそうだ。

 そうして、諦めて繋がれた手を離すことなく大人しく徳川様と歩いていると何故だか少しだけ心が軽くなるというか気が楽になったような気がしてくる。別に徳川様に特別何かの感情を抱いているわけでもないし、徳川様が何かをしているというわけでもないだろう。というか徳川様の使う魔法は攻撃と防御に使えるが回復、治癒には使えなかったはずだ。

 これは一体どうしたことだろうか、と思っていると徳川様が歩みを止めて振り返り俺を見た。

 

「……どうです、少しは楽になりましたか?」

 

「えっと……それはどういうことでしょうか?」

 

「何と言えば良いんでしょう……例えば心が軽くなる、とか……?」

 

「それは確かにありますが……徳川様、何かしました?」

 

 やはりこの変化は徳川様が何かしたのだろう。そうでなければあんなことは聞いてこないはずだ。

 ただ、本当に何をしたのか皆目検討が付かない。

 

「そうですか。それなら良かったです」

 

「いや、何をしたのか教えて欲しいんですけど……」

 

 確かに楽にはなった。と伝えると徳川様は納得したように頷いてまた前を見て歩き始めた。

 何をしたのかは教えてくれないらしい。なんでさ。

 

「あの、徳川様?」

 

「結城。無理をしてはいけません。だから今はこうしていましょう」

 

 どうしよう。徳川様と会話が成立しない。完全に徳川様は自分の中で話を完結させているようで俺の質問には答えてくれない。徳川様は天然ではあるが、ここまで会話が成立しないのは珍しい。

 普段であれば会話が飛ぶこともあるがちゃんと会話が成立する。それなのに今日はどうにも無理な気がしてしまう。いや、もしかしたらこの後に時間を取って欲しいということだったので、その時にまとめて答えてくれるのかもしれない。

 これがカシン様であれば確実にそうであると言い切れるのだが、やはりまだ徳川様を相手にするのは慣れない。むしろ天然の相手と言うのはどうにも分が悪いような気がする。

 もっとこう、色々考えている相手だったり理性的に話が出来る相手の方がやりやすい。感情的な相手も問題はないと思う。ただ、天然というのはどうにもこちらが思っていることの斜め上を平然と行くのでどうしようもない。

 

 とりあえずはその辺りのことも諦めて大人しく徳川様に手を引かれるままに歩いていると漸く今川様の屋敷が見えてきた。というか正門前まで辿り着くことが出来た。

 そして徳川様は俺の手を引きながら門番の兵士に二、三何かを言うと門番は頷いて門を開いてくれた。こうしてまともに正門から事情を説明した状態で入る。というのは珍しく、少しだけむず痒く感じてしまった。

 そんなことを俺が思っている間に徳川様は迷いの無い足取りで門の中へと入っていく。当然手を引かれている俺もそうなるのだが、徳川様の手を引く力が意外と強くて驚いてしまった。

 そうして俺が驚いていると屋敷の奥から徳川様を呼ぶ声が聞こえてきた。声の主は随分と慌てているようで、声に焦りの色が伺える。まぁ、声の主は今川様で、徳川様の姿が見えなかった為に酷く慌てているというところだろう。

 

「イエヤスさーん!何処にいらっしゃいますのー!?」

 

「あ、お姉様が呼んでいますね。

 お姉様ー!こちらでーす!」

 

「あぁ、いらっしゃいましたのね!姿が見えなくて心配しましたわ!」

 

 屋敷の中でお互いに大声で会話をしているような状況に内心で面食らってしまう。二条御所ではまずこのようなことはないからだ。というかお嬢様然とした今川様がそのようなことをしているというのに驚きである。

 

「見つけましたわイエヤスさんっ!って、結城さん!?どうしてここにいらっしゃるんですの!?」

 

「ヨシテル様の命により戦国乙女の方々がどのような様子なのか、確認して回っています。

 今川様はお変わりなく、ご健勝のようで何よりです」

 

「あぁ、そういうことでしたのね。

 ですが、本来なら先に連絡をしておくべきだと思いますわ。門番に訪問の旨を伝えて後日改める、というのも出来たはずですわ」

 

「ええ、確かにそうですね。ですが現状を見ていただければご理解頂けるかと」

 

 言って徳川様に引かれている状態の手を見せると今川様は酷く驚いた様子で口元に手を持っていき、息を飲んでいた。一体どうしてこんな反応をしているのだろう。

 

「い、イエヤスさんが……殿方と手を繋いでいるなんて……!?」

 

 驚いているのはそこなのか。というか手を繋いでいるというか手を掴まれているというか。

 

「あ、でも結城さんですし別に大丈夫ですわね。これが他の殿方、例えば非公式の、そう非公式の親衛隊やファンクラブであれば烈風真空波ですけれど」

 

「待ってください。それ死にますよね?」

 

「イエヤスさんに手を出すような方に容赦なんてしませんわ!」

 

 どうしてそこで得意気なのだろう。言っていることは物騒極まりないし、この国を治める領主として許されないことではないだろうか。いや、でも今川様の目は本気だ。

 もしかしたら既に犠牲者が出ている可能性がある。それも一人や二人ではなく複数名だ。非公式の親衛隊やファンクラブについて言及していることから、前例があると考えられるからだ。

 

「……今川様、それは既に何名か射っていたりしますか?」

 

「ええ、つい先日その数が三桁に届きましたわ。あ、命に別状は無いように手加減しているので心配いりませんわよ?」

 

 必殺技を手加減できるものなのだろうか。いや、でも今川様であればギャグ補正でなんとか出来る気がする。

 

「結城、お姉様はああ言っていますがその半分以上はお姉様の烈風真空波目当てですよ。

 なんでも、お姉様のファンの方が言うには、痛いけれど癖になる。とか……」

 

「徳川様、その方と接触、会話をするのは止めましょう。それと可能であれば特徴を教えていただければ俺が処理しておきますが」

 

「処理、ですか?普通の方でしたから、そういうのは必要ないかと思うんですけど……」

 

「変態死すべし。慈悲はない。と言いますから」

 

 どう考えても変態がいる。それも被虐趣味の持ち主だ。今川様は気づいていないし、徳川様は何のことかわからないようだ。これは二人がその人物の変態性に気づく前に処理しておくのが良いだろう。

 いや、処理とは言うが加虐趣味の斉藤様に押し付けるとかそんなことなのだが。流石に変態なので容赦なく始末する、という物騒なことはしたくない。ただしヨシテル様と義昭様に何かしようと言うのならば迷いなく始末する。

 

「あ、でも結城さん。あまりそうしてイエヤスさんと手を繋いだままにしていると偶然矢が飛んでくるかもしれませんわ。ですから手を離した方がよろしくてよ」

 

「待ってください今川様。これは俺の意思ではなく徳川様に手を掴まれているんです。ほら、このがっしり掴まれている感じを見てください」

 

「……セーフ!ですわ!」

 

 何が判断基準なのかわからないが今川様的には許される範囲だったらしい。

 釈然とはしないがこっそりと弓を持っていた今川様が何もなかったようにそれを隠したのでまぁ良しとしよう。

 

「あら、そういえば……イエヤスさん、その羽織っているのは結城さんの外套ではありませんか。一体どうして?」

 

「起きたら結城が掛けてくれていました。見た目よりもしっかりしていて暖かいんですよ」

 

 徳川様の言葉だけでは要領を得ないと思ったのか今川様が俺を見てきた。どういうことなのか説明して欲しい。と言いたげな顔をしていたので素直に答えることにした。

 

「徳川様が町の近くにある樹の下で眠っていたのですが、薄着でしたので風邪を引いてしまっては。と思ったので着ていた上着を掛けさせていただきました。

 …………それと、少々服を肌蹴ていたのでそのままにしておくのはどうかと思いまして」

 

 前半は徳川様にも聞こえるように。後半は今川様にだけ聞こえるように。本人に聞こえるように言うには内容があまり適していないように思えたからだ。

 普段から天然でふわふわした方ではあるが、直接聞いてあまり気分の良いものではないだろう。という気遣いとも言える。

 

「なるほど……なかなか気遣いも出来ますし、紳士的ですわね。流石ヨシテルさんの忍と言えば良いのか、流石結城さんと言えば良いのか……

 ですが、そうですわね。結城さんのそういうところはとても素敵だと思いますわ」

 

 そう言って微笑む今川様はお嬢様然とした態度と相まって、まるで織田様が自慢げに見せてくれた南蛮の絵画の一枚のようにも見えた。ただ、それを今川様に伝えるときっとアホの子状態になってしまうだろう。だからあえて言うことはしない。

 

「そう、具体的に言うならば50紳士ポイントくらい差し上げますわ!」

 

 それなのになんだこれは。どうして一瞬でアホの子になっているんだろうか。それに紳士ポイントとはなんだろう。

 いや、それよりもあんなに綺麗な微笑みからどうしてこんなアホの子マシマシのポンコツスマイルになっているんだ。俺の気遣いというか、心遣いを台無しにしないで欲しい。

 

「あ、この紳士ポイントは女性の場合は淑女ポイントになりますわ!

 私個人としてはこのポイントが一定数貯まった場合にはご褒美を差し上げるようにしていますの」

 

 人差し指を立てて、口元に持っていくと共にウインクを一つ決めて笑む今川様はその行動が様になっており随分と可愛らしく見えた。

 綺麗、ポンコツ、可愛い。という風に受ける印象がコロコロ変わるのはきっと今川様くらいだろう。だがある意味で今川様らしいのでそれはそれで良いのだろう。

 

「ついでに言えば私とイエヤスさんは天元突破していますわ。次点でヨシテルさんになりますが、ノブナガさんは現状0淑女ポイントですわね」

 

 言いながら納得したように頷いている今川様だが、そんな奇妙なポイントを考えている時点で淑女的ではないようにも思えてしまう。

 そしてそんなポイントを作るのなら俺としてはポンコツポイントとでも作れば良いと思う。はっきり言えばそれは多くの戦国乙女の方に該当するようなポイントになるだろう。

 とりあえずヨシテル様は今川様風に言うならば天元突破で良いだろう。次点は今川様で、その次は大友様になるのではないか、と思ってしまった俺は悪くない。

 

「お姉様。それよりも……」

 

「あぁ、そうですわね。とりあえず謁見の間……いえ、私たちと結城さんの仲ですし、そこまで畏まる必要はありませんわ。折角ですし、茶室でよろしいかしら?」

 

「茶室ですか……申し訳ありませんが、茶会に参加するような身分ではありませんし、作法などあまり知りませんよ?」

 

「問題ありませんわ。あまり知らないと言いますけど、最低限は知っているのでしょう?」

 

「ええ、まぁ……最低限、失礼にならない程度には……」

 

 事実最低限であれば知っている。松永様に雇われていた際に知っておけ。と言われて覚えたのだ。それを試す機会は訪れなかったのだが。

 そしてその後ヨシテル様に雇われてからも茶会に参加することはなかったので覚えるだけ無駄だったように感じていた。ただ、今回それを試す機会がやってきたのだ。

 ヨシテル様の忍として恥ずかしくないように、そして俺自身が恥をかかないようにしっかりとしなければ。

 

「では茶室にご案内しますわ。本当なら野点というのも考えたのですが……たまには茶室も使わなければ勿体無いですからね」

 

「そうですね、お姉様。それにもし結城に時間があるのであれば、その際に野点というのも良いと思います」

 

「あぁ、時間であれば充分にある。と言っても良いかと。

 今回は様子を見てすぐに戻るのではなく数日滞在してから戻ろうかと思っています」

 

「それなら野点も出来ますね。お姉様、明日は結城を交えて野点にしましょう?」

 

「わかりましたわ、イエヤスさん。結城さんも楽しみにしておいてくださいね」

 

 どうにも今日は茶室で、明日は野点。ということになったらしい。

 これを機にしっかりと覚えるのも良いかもしれない。ヨシテル様はあまり茶会を開いたり参加することはないが、松永様や宗易様の茶会に参加することもあるかもしれない。

 俺が何かを教えるということは必要ないと思うが、念のために覚えておけばいざという時に使えるだろう。

 

「はい、楽しみにしておきます」

 

 そう答えた俺に満足げな様子で頷いて徳川様の手を取り、今川様が歩き始めた。

 ただしここで忘れてはならないのは、未だに俺の手を徳川様が掴んでいるということだ。

 つまり、今川様に手を引かれる徳川様に手を引かれる俺。という奇妙な状態の完成である。それを見た屋敷の侍女の顔には困惑の感情が浮かんでいたのは仕方ないだろう。

 俺だって事情を知らなければそうしてしまうかもしれないからだ。

 

「ところで徳川様。いつまでこの状態なんですか」

 

「んー……もう少しです。大丈夫だとは思いますが、念の為に」

 

「はぁ……そうですか。わかりました」

 

 仕方ないので頷いておく。もう少ししたら放してくれるというので大人しくしておこう。

 ただ、本当に何故か心が軽く、気分が良くなっているのが不思議でならない。この辺りの事は後で聞こう。

 ……なんとなくだが、もしかしたらこれは徳川様に相当に感謝しなければならないような事態になっているのかもしれない。と漠然と思ってしまったのだが、それはきっと間違いではないのだろう。

 今の俺の状態を考えて、奇妙ではあるがそう確信のようなものを抱いた。




ヨシモト様はポンコツ可愛い。
ポンコツかわいいヨシーモト!

宗易=千利休のこと。
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