イチャイチャ回。
諸国を巡ったり雑用をしたりと忙しかったがヨシテル様直々に休むように、ということで久々に非番となった。とはいえ足利忍軍頭領として緊急時に備えなければならないので二条御所を離れるわけには行かない。
「兄上、何をしているのですか?」
ということで縁側に座ってお茶を飲んでいると廊下の先から義昭様が現れてそう問いながら隣に腰掛けた。
「今日は非番になったのでこうしてのんびりとしていました。忍の頭領としては任務以外で二条御所を離れるのはあまりよろしくありませんので」
「なるほど。でもそうなると兄上は何処かに遊びに行く、とかしないのですか?」
「しませんね。俺はヨシテル様や義昭が出かける際に護衛として付いて行くか、任務で諸国を巡る以外では基本二条御所にて待機していますから」
「そう言われてみれば……確かに兄上は任務か待機のどちらしかしていませんね……」
基本的には任務で諸国を巡ったり、書状を運んだりしているので二条御所に居ることは少ない。そしてその少ない二条御所内での活動は護衛や警護、または緊急時に備えての待機なので俺個人が何処かに遊びに行く、ということはない。
それについて不満があるわけではないし、待機しなければならないなら忍具の手入れや忍術の研究もしているのでむしろ遊びに出るということに必要性を感じていないのが現状だ。それに下手に外を出歩いてついうっかり室生様に遭遇、なんてことになると笑えない。
流石に町中で斬撃を飛ばしては来ないだろうが、あの方に絡まれるというのは精神的に疲れるものがあるので絶対に遭遇したくない。
「俺としてはそれで構わないので気にしていませんが。それよりも義昭はどうしたんですか?今日はこの後勉学の予定が入っていたと思いましたが」
「その予定でしたけど、急に変更になりました」
「それはまた……では別の日に、ということですね」
「はい。また後日ということになりました。それで今日は予定が空いてしまって何をしようかな、と思っていたところに兄上が居たのでこうしています」
「そういうことでしたか。では義昭もお茶を飲みながらのんびりと過ごしましょうか」
言ってから忍術で追加の湯飲みを取り出してから茶を注ぎ、義昭様へと差し出す。熱過ぎないようにと気をつけているので口をつけた瞬間に落とす、ということはないだろうがそれでも警戒はしておく。
「ありがとうございます。……こうして温度に気を使っているのが兄上らしいですね」
ただ、そうした俺の考えなど見抜いているようで湯飲みを持ってから一口だけ飲むとそう言いながら微笑んだ義昭様は非常に可愛らしかった。俺の弟が最高に可愛い。
やはり子供はそうして笑んでいる方が良い。ただミツヒデ様がこうしている義昭様を見ると感涙に咽び泣くか忠誠心が暴走するか、碌なことにはあまりならないのでミツヒデ様にだけはあまり見せないようにしてもらいたい。とも思うのだが。
「でも兄上?流石に私がまだ子供だとはいえ、熱いから手を放して零してしまう。なんてことはしませんよ?」
「子供だから、というよりももしそんなことが起きて義昭が火傷なんてしてしまったら大変ですから。そういうことですので拗ねないでくださいね」
「拗ねてません。これくらいで拗ねる程幼くはありませんからね」
微笑んでいたかと思えばふと思い立ったように言って、拗ねてしまった。
拗ねていないと言っているがどう考えても義昭様は拗ねている。普段であればこんなことはないのだが、どういうことか今日の義昭様は非常に子供らしい。そういう姿はヨシテル様に見せてあげると大変喜ばれますよ、と言いたいとも思うがそれを言うと更に拗ねてしまうことが容易に想像できるので自重せねば。
それにしても本当にどうしたのだろうか。こうした姿を見せるのは信頼の証であるので嬉しいといえば嬉しいがいつもと違うというのは少しばかり不安になる。
原因は何か、と考えると……義昭様がこうなるのなら足利軍の誰かと何かあった、と考えるべきでありそう考えると一番可能性があるのはヨシテル様になる。
「それなら良いですけど……義昭、本当はヨシテル様と何かあったんじゃないですか?」
「…………兄上は察しが良過ぎます……」
少しばかり唇を尖らせて義昭様はそう言った。やはりヨシテル様と何かあったのか。
これが町にいる子供ならば遊びに行こうと誘ったが断られた、とかなのだが義昭様の場合はそういうことはない。そして義昭様の性格を考えるとヨシテル様の手伝いなどを買って出たが断られたとか、頼ってもらえなかったとか、多分その辺りではないだろうか。
「ヨシテル様の手伝い、断られたとかですかね」
なので口に出して確認すると義昭様がため息を零した。
「本当に、察しが良過ぎます。何も言っていないのに、どうしてわかるのですか?」
「ヨシテル様の性格だとか、義昭様の性格だとか、お二人の考え方だとか、色々と判断材料はありますからね」
「……なんだか、兄上はずるいです。そうやって何でもお見通しなんて、本当にずるいと思います」
「何でもはわかりませんよ。わかることだけです」
それにしてもやはり今日の義昭様はいつもよりも感情的というか、何と言えば良いのか。とりあえずこうして拗ねている子供の対処方法はどうするのが良いのだろうか、と考えてみるがそういうことは誰かに教わったことがないので分からない。
わからないのだが、こういう時は自分が子供の頃はどうだったのか。それを思い出して何らかの対処方法を考えれば良い。あまり思い出したくはないのだが俺も子供の頃は拗ねて師匠や奥方様に迷惑をかけた。そして宥められたものだ。
確かその宥められ方はこんな感じだったはず、という曖昧ではあるが記憶を頼りに実行することにした。
「義昭、こっちに来てください」
言いながら奥方様にこうされたという記憶を元に自分の膝をぽんぽんと叩く。
「えっと……兄上?」
「ほら、良いから此方に」
「あ、はい……えっと、それでは少し失礼します……」
戸惑いながらおずおずと俺の膝の上に座った義昭様を抱き締めるように腕を回して語りかける。
「良いですか、義昭。ヨシテル様が手伝いを断ったのは義昭が邪魔だから、ということではありません」
「……それは、わかってます」
「義昭は最近、剣術の鍛錬や勉学に忙しくこうしてゆっくりと過ごす時間もなかったでしょう?だからヨシテル様は折角出来た時間を大切に過ごして欲しいと考えているのだと思いますよ」
「確かに、最近は色々と忙しいですがそれは私が望んだことです。それにゆっくりと過ごす時間がないのは姉上も同じことですよ。姉上がそうして考えているように、私も姉上には執務ばかりではなくてちゃんと休めるような時間を持って欲しいのです」
「まったく、互いに同じことを考えていながら擦れ違うなんて笑い話にも出来ませんね。
そういう時は少しだけ譲歩するんですよ」
「譲歩、ですか?」
「交渉術の基本ではありますが、最初は義昭が出来る物を全て手伝うと言います」
「私が出来る物……一応教わっていますから三割くらいなら出来ると思いますが……」
三割も出来るのか。俺の予想では二割くらいだと思っていたのに。
「それなら大体四割くらい手伝うと言えば良いですね。当然ヨシテル様は断るので、それならばその半分だけでも手伝わせて欲しい。そう伝えればきっと上手く行くと思いますよ」
「何故ですか?最初に断られていますし、量は減っていますがそれでも手伝いは手伝いですよね?」
「お互いに主張がぶつかって、どちらもそれを曲げる気がない。ですが少しばかり譲歩することで相手にそれならば良いかな、と思わせることが出来るんですよ。
当然、全ての人に対して有効ではありませんが、義昭がヨシテル様に言うのであれば充分に通用するでしょうね」
「そういうものですか……」
「そういうものです。ミツヒデ様も義昭にやってますよ?」
「ミツヒデが私にですか?」
「ミツヒデ様が義昭の着替えや食事を全て手伝うと言い出したときに義昭は断りますよね。すると断られたミツヒデ様はならば休憩の際にお世話をさせて欲しい。と言って、義昭もそれくらいならば。と了承していると思います」
「…………確かに、そんなことがありましたね……」
「あれも本来の目的の前にまず断られるであろうことを提示し、断られた後で譲歩したように見せて本来の目的を達成しています」
ミツヒデ様の忠誠心が暴走した結果があれである。着替え、食事、湯浴みに就寝に至るまで全ての世話をしたいとか言っているのを聞いた時は何も言わずに睡眠薬で無理やり眠らせたが俺は悪くない。
それにそうした後に義昭様が非常に安堵していたので俺の行動は間違っていなかったに違いない。ついでにそれを聞いたヨシテル様が何とも言えない曖昧な表情を浮かべていたが、いくら忠臣と言えどああいった発言は控えて欲しいのだろう。というかむしろやめてもらいたいのだと思う。
「あぁ……あれが……それなら、まぁ……姉上にも通用しそうですね……」
「でしょう?ですので次はそうした手段を取るのも一つの手ですよ」
まぁ、義昭様に甘いヨシテル様のことだからそうして言われれば手伝いを許可するに違いない。そして口では休んでも良いとか、無理に手伝わなくても良いとか言いながら内心では喜ぶのだろうということも容易に想像が出来る。
ヨシテル様はもう少し自分の感情に素直になるべきだと思う。義昭様のことを思って手伝いを断るのもわかるが、義昭様は自分で手伝いたいと言っているのだし、その手伝いの間に一緒に居られるのだから色々と話が出来るだろう。また終わった後に一緒に休憩を取ることも出来る。その辺りのことをそれとなくヨシテル様に伝えてみようか。
「はぁ……そういうやり方もあるのですね……やはり兄上は何でも知ってますね」
「何でもは知りませんよ。知っていることだけです」
「それでも私の知らないことを色々と知っています。私ももっとそうして知識などを身に付けるべきでしょうか……」
「将来的には必要になるでしょうが、今はまだ無理に身に付ける必要はありませんよ。
それにいざとなればヨシテル様やミツヒデ様、それに俺も傍にいますから。というか普通に俺たちを頼ってもらいたいものですね。むしろ甘えて欲しいと思っています」
本当に甘えて欲しい。ヨシテル様も義昭様ももっと甘えて欲しい。こう、ダメ人間を作る勢いで甘やかすから甘えて欲しい。まぁ、お二人ともそう簡単に誰かに甘えるという性格をしていないので無理かもしれないが。
「これでも甘えてますよ?特に兄上には」
「まだ足りませんね。もっと甘えてくれても良いんですよ?」
「んー……ならもう少しだけ甘えさせてもらいますね」
言ってから義昭様は幾らか脱力して俺に体重を預けてきた。そのまま頭を俺の胸にぐりぐりと押し付けてなんとなくではあるが楽しそうな雰囲気だった。
拗ねていたはずなのだが、どれが功を奏したのかわからないながらも機嫌は治ったようで良かった。まぁ、やったこと全て奥方様にされたこととほとんど同じなので、どんなに大人のような面を持ち合わせていても子供は子供なのだと認識させられた。
それにしても今日の義昭様は非常に感情的と言うか、素直と言うか。普段からこれくらい甘えるのであればヨシテル様も安心するのに。
「ほら、兄上。弟が甘えているのですから頭を撫でても良いのですよ」
「ええ、良いですよ」
義昭様の少し変わったおねだりに応えて頭を撫でる。相変わらずふわふわさらさらとした手触りで実は撫でているのが結構楽しかったりする。それとぴょんと跳ねた癖毛も丁寧に直しておく。まぁ、直してもすぐに跳ねるのだが。
それと、こうして義昭様の癖毛を直したりしているとふと思うことはそういえばミツヒデ様も癖毛だったな。ということである。それも義昭様と同じような癖があるのでそのことはミツヒデ様は内心で相当喜んでいるのを知っている。というか自慢げに話された。
それを思い出して今日はいつもよりも丹念に義昭様の跳ねた髪を直しておくことにした。今日ミツヒデ様が義昭様を見かけた際に、お揃いではないということに心の中で膝を着いて項垂れるが良い。あの時のミツヒデ様は本当にしつこかったのでこれくらいの意趣返しはしておかなければならない。
「兄上兄上、もっと強くても私は構いませんよ」
「俺としてはこうして撫でているのも好きなんですけど、義昭はもう少し強めに撫でられたいですか?」
「そうですね……町で見た子供たちが、父親と思しき方に少し強めにぐりぐりと頭を撫でられているのを見て少し憧れてしまいまして……」
「なるほど、そういうことでしたか。ではそのように」
義昭様もやはり子供で、父親を恋しく思うこともあるようだ。確かにこの年齢で父親も母親も居ないというのは寂しいものがあるのだろう。俺もいなかったが、代わりに師匠や奥方様、それに兄弟子や姉弟子がいたので寂しいとは感じなかったのだが。
何にしろ義昭様が望むならそのように撫でてみよう。ただし力加減には気をつける。俺は特別力が強いというわけではないにしろ、やりすぎてしまっては事だ。
そう思いながら少しばかり力を込めて強めに義昭様の頭を撫でれば、その手を押し返すように頭を押し付け、楽しげに笑った。
「そうそう、こんな感じで撫でられて楽しそうでした。いつもみたいに優しく撫でられるのも好きですがこうして強めに撫でられる方が私は好きかもしれません」
「それならば次からはこれくらいで撫でますけど、頭を押し付けないでください。撫で難いです」
「こうしてる方が楽しいので撫で難くても頑張って撫でてくださいね。
それに兄上が甘えて欲しいって言ったのですから、これくらいはしてもらわないと」
「仕方がありませんね……そんなことを言う義昭にはこうしてあげましょう!」
もはや義昭様の考えは撫でられるのが気持ち良いというよりもこうしてじゃれるのが楽しいという様子だったので強めに撫でるとかではなく、わしゃわしゃと先ほど直した髪がまた跳ねるのを気にせずに撫でる。
こういう撫で方は幼い頃に師匠にされたことがあるが、意外と楽しかったのを思い出す。
「もうっ!そんなに強くすると兄上が折角直したのにまた髪が跳ねてしまいますよ!」
文句を言っているように思えるが実際はとても楽しそうにしているのでこれもまたじゃれているだけである。
なので力を弱めたりせずに撫で続けても問題はない。それに俺は俺でなんだか楽しくなって来たのでもう少し続けたいと思っている。元々は義昭様の機嫌を直すために始めたことではあったが、それはそれ、これはこれ、だ。
「手を止めないというのなら、こうです!」
撫でている俺の手を取って自身の胸の辺りで、両手を使ってしっかりと掴んで動かなくした。撫でることが出来なくなったが義昭様が楽しそうなので良しとしよう。それにしても義昭様がこうも歳相応に甘えてくれるようになるとは、感無量とでも言えば良いのだろうか。
とりあえずこれがミツヒデ様ならいつも通りに感涙に咽び泣いているだろう。というか何でミツヒデ様はことあるごとにあんな反応をしているのだろうか。侍女や兵士がその様子を見ても、またミツヒデ様か。の一言で済まさせれるくらいには慣れてしまっている。
「どうですか兄上!これならあんな風には撫でられないでしょう?」
「ええ、これでは撫でられませんね。なのでこのままのんびりと過ごしましょうか」
「わかりました。あ、でもまだ降りませんからね。もう少し……いえ、満足するまで降りません!良いですよね、兄上?」
「それくらいなら構いませんよ。なら俺も満足するまで放しませんけど宜しいですか?」
「仕方ありませんね、良いですよ。兄上の我侭に付き合ってあげますから」
満足するまで放さない。なんて言いながらも実際は義昭様が満足するまで、だ。それをわかっているであろう義昭様はまるで俺が我侭を言っているような流れにされてしまった。
これがヨシテル様であれば当然反論をするのだが、義昭様はこうしたやりとりも楽しんでいるようなのでそんなことはしない。というか子供は存外こうして我侭を言うっているのは自分ではなく相手の方で、自分はそれに合わせている。というようなことをするので、まぁ良いかと思ってしまった。
後はこうした子供らしい面をちゃんとヨシテル様に見せてくれれば俺としては大満足なのだが、もしかするとこうして接してくれる理由には同性であること、兄のように思われていることが要因なのかもしれない。そう思うとヨシテル様にも同じように接するということは難しいのかもしれない。
まぁ、とりあえずこうして義昭様とのんびり過ごすというのであればそれで良い。それにこうしているのはあくまでも俺が非番であるからであって、普段であればもう少し自重するし周りの目だって気にする。
ただ今回に限って言えば義昭様のことを思ってなので誰かに見られているのは分かっているがそれでも構わない。俺がどう思われるかなんてのは二の次で義昭様の機嫌が直り、そして楽しそうにしてくれるのであればそれで充分なのだから。
イチャイチャ回、但し相手がヨシテル様とは言っていない。
もう本当に義昭様には年相応に子供らしく振る舞って甘えてもらいたい。
LBの特典ドラマCDの義昭様可愛い。台の演出で出てくる義昭様基本的に暗めなのでもっと明るく楽しくして欲しい。
数話毎にヨシテル様か義昭様を出さないと気が済まないというか、出したくて出したくて仕方なくなるので俺はもうダメかもしれない……