日が昇る前。久々に布団で眠っていたのだがどうにも違和感を覚えて目を覚ます。
すると目の前には穏やかな寝息を立てるヨシテル様が居て、違和感の正体はこれかと納得する。
ヨシテル様を起こさないようにと気をつけて布団から抜け出して着替える。今日は朝からヨシテル様の警護の命が下っているからだ。
まぁ、そのヨシテル様は俺の布団の中で眠っているので準備を済ませてから、眠るヨシテル様の傍に座って待機する。本来であれば準備が終わり次第ヨシテル様の寝所前で待機でもしておくのだが……まさか俺の部屋に来るとは思っていなかった。
とりあえずは今日はヨシテル様は珍しく執務などをお休みになるとのことなので、目を覚ますまでは放っておいても問題はない。なので俺はただ静かに見守るだけにしておこう。
「んみゅ……ゆーきー……」
そうして見守っているとそんな寝言を口にしながらヨシテル様が手を動かして何かを探しているような素振りを見せた。なんとなくその手を握るとと安心したように緩みきった笑顔になってまた穏やかに眠り始める姿を見て、これで正解だったか。と一人で納得する。
でもこれはどうしようか。特に予定は聞いていないので起きるまでもう少し放っておいても良いのだが、流石に朝食の時間までには起きてもらわなければならない。いや、それよりも自室に戻って着替えを済ませるくらいはしてもらわなければならないのか。
幸せそうな寝顔を見ていると起こすのが忍びない、とは思うが主を思えばこそ起こさなければならない。
「ヨシテル様。起きてください」
「ん~……」
「起きてください」
言いながらヨシテル様を揺さぶってみるが起きる気配が無い。
それどころかヨシテル様の手を握っていたのがいつの間にかヨシテル様にがっちりと掴まれており、これを振り払おうとすればヨシテル様はきっと目を覚ますだろう。
というわけで振り払わせてもらおう。だが結構強引に振り払おうとしているのに全然振り払えない。というよりも更にしっかりと掴まれてしまい、何故かと思ってヨシテル様を見る。
すると先ほど前で聞こえていた寝息とは違う呼吸音になっていることがわかった。もしかすると起きているのではないだろうか。
そう考えて一瞬力を抜いた瞬間、ヨシテル様に引っ張られてしまい布団へと倒れ込みそうになる。空いている手で身体を支えることが出来たのでそんなことにはならなかったが。
「……ヨシテル様、おはようございます」
完全に起きているので挨拶をしてみたがヨシテル様からは何の反応もない。
「ヨシテル様、起きてますよね」
反応はない。
「ヨシテル様、起きているのはわかってますから挨拶くらいしてください」
反応はない。
「…………ヨシテル、起きてください」
「はい、おはようございます、結城」
反応がないのでもしかしたらこれのせいだろうか。そう思って以前から言われている呼び捨てで名前を呼ぶと、ヨシテル様は目を開いてから俺を見て、挨拶を返してくれた。
「おはようございます。それで、いつまでこの体勢でいなければならないんですか」
「今日は予定もありませんから、もう少し一緒に休んでも良いと思いますよ?」
「一緒に休む、というのが隣で茶でも飲む。ということでしたら喜んで。
同じ布団に入って眠る。というのであれば時間を考えてください。朝ですよ」
「……その言い方だと、夜であれば問題ない。と言っているように聞こえますね……」
「ええ、夜であれば断る理由はありませんので。まぁ、休めるかどうかは知りませんが」
「え、あの……それって……」
何を想像したのか、顔を紅くするヨシテル様の手を解いてから立ち上がる。
朝からこんな悪戯を仕掛けてくるようなヨシテル様にちょっとした仕返しも出来たことだし、今はこれくらいにしておこう。
まだ朝食は出来ていないし、今からヨシテル様が自室に戻って準備をする時間は充分にある。
「ではヨシテル様。一度自室に戻って着替えをお願いします。今からであれば朝食までには充分間に合いますのでそう焦る必要はありませんから、いつも通りに準備してください」
「……様、はつけなくて良いと言いましたよね?」
「任務中ですので」
「むぅー……確かにそうですが……」
「任務に就いていないのであればちゃんと呼びますから、我慢してください」
「任務に就いてても義昭のことは義昭って呼んでるのに、不公平ですっ」
「はいはい。ほら、早く準備に戻りましょうね」
「なんでそこで流すんですか!」
戯言を言っているヨシテル様を適当に流してから自室に戻るように促す。
布団を片付けなければならないし、早く出てもらいたい。のだが、ヨシテル様は不貞腐れながら布団を被って出て来ようとしない。何をやっているんだろうかこの方は本当に。
「もう良いです!今日はお休みですから布団から出ません!」
「ダメです。ちゃんと朝食を取らないといけません」
「折角恋仲になったのに、私の扱いが相変わらず雑だったりする結城のせいですからね!」
「房事の際は優しく丁寧に致しましたが?」
「そ、そういうことを平然と口にしないでくださいっ!
結城は平気かもしれませんが、私は恥ずかしいんですよ!?」
がばっと布団から出てきてそう言ったヨシテル様の顔は先ほどと比べるまでもなく真っ赤になっており、良く見ると耳まで赤くなっている。
確かに房事の話を出されてはヨシテル様も恥ずかしいか。と反省すると共に、やはり弄り甲斐があって楽しいとも思ってしまう。
「うぅ~……もう知りません!今日の私は結城の布団を占領して不貞寝しますからね!」
完全に不貞腐れてしまったヨシテル様の姿にため息をついてからどうしたものかと考える。
このまま放っておくのはあまりよろしくないし、不貞腐れているを知っていて放っておくと後でヨシテル様に文句を言われてしまう。曰く、恋仲になったのだからもっと甘やかして欲しい。とのことだ。
当然そんなことを言われては全力で甘やかしてしまおうか。とも考えたのだがそれは義昭様によって阻止されてしまった。どうやら以前に炬燵に入っているヨシテル様を甘やかしてダメ人間にしようとしていたのを覚えているらしく、また同じようなことがあってはいけない。と思ったらしい。
俺としてはもっとダメにしてみたかったのdが、流石に義昭様にそれ以上はいけないと止められたのは今でも記憶に新しい。だから自重しているのだが、それがヨシテル様的には納得が出来なかったようだ。
「はぁ……仕方ありませんね……」
というわけで、もう少し甘やかしてみようと思う。義昭様に止められない程度に、且つヨシテル様がある程度納得してくれるように、という加減が少し難しいがきっとなんとかなるだろう。
「では侍女にはヨシテル様の朝食は少し遅らせるようにと伝えておきます」
言いながら離れるわけにはいかないので影分身を作り出して伝令として走らせる。伝えることを伝えたら消えるようにしてあるのでこれは放っておいても問題ない。
ということで今からヨシテル様をいくらか甘やかすのだが、どうやって甘やかそうか。
布団を占領して休むとか言われたがどうせ途中で俺の様子を窺おうとするのはわかっているのでその時に何かしなければならないような気もするが……まぁ、考えるのが面倒なので子供をあやすのと同じ要領で添い寝でもすれば良いか。
適当にそんなことを考えてからヨシテル様が被っている布団を剥ぎ取る。丁寧にゆっくりとやるだけ意味がないのでバッと一気にだ。
いきなりの出来事に何が起こったのか理解出来ていないヨシテル様に何を言うでもなくそのまま俺も布団の中に入ってヨシテル様に背を向けるようにして横になる。それから剥ぎ取った布団を上から被せて完成だ。
「え、あれ?ゆ、結城?」
「ヨシテル様が不貞寝をするらしいので、どうせなら俺も眠ってしまおうかと。ほら、寝るなら早く寝てください」
「いや、あの……こういう添い寝みたいにするときは普通私の方を向いて寝るとか……」
「かもしれませんが……不貞寝するとのことでしたので、余計なことをすべきではないかな、と思いまして。
まぁ、本来は俺の寝床なので余計なことはしない、でも眠る。となればこうするしかありませんね」
言ってから目を閉じて本当に眠る体勢に入る。とはいえ眠る気などないのであくまでふりでしかない。
情報収集のためや暗殺のために一般人や兵士に化けて、眠った振りをして皆が寝静まった後に行動する。ということもしていたので、微妙に混乱しているというか、戸惑っているヨシテル様には充分に通用するだろう。
「あ、結城?ちょっと起きてくださいってば」
何か言っているが気にしない。遅くならない程度には起きて、ヨシテル様にも準備してもらうがそれまでなら静かにしておけば良いだろう。
そう思って寝たふりを続けていると後ろで何やらもぞもぞと動く気配がした。何となくではあるが、ヨシテル様が此方へと身体を向けるために動いたような、そんな気がした。
果たしてその予想は正しかったようで背には温かく、そして柔らかな感触が伝わってきた。
どうたらヨシテル様が背にぴったりと寄り添っているらしい。
「……結城、起きていますよね?」
それに返事はしない。あくまでも俺は眠っていることになっているのだから当然だ。
「…………まぁ、良いですけど……」
そう呟いてからヨシテル様はそのまま動かず、かと言って眠るわけでもなくそのままの体勢を維持している。
何をしているのかと思ったがヨシテル様なりに納得しての行動であれば俺がとやかく言うことはないと寝たふりを続けておく。ただ一つ気になることがあるとすれば背中に当たっている物の感触だろうか。
以前までは他の戦国乙女の方々を見てもさして何も思わず、枯れているのではないか。とか考えたこともあったがそんなことはなかった。今でも背に当たるヨシテル様の双丘の感触が気になって仕方ない。
だが忍たるもの冷静さを失ってはならない。ということで意識しないように努める。
「むぅ…………こうすれば殿方なら反応がある、と睡蓮に聞いたのに……」
睡蓮は許さない。ヨシテル様に何を妙な入れ知恵をしているのだろうか。
「えっと、ダメならこう……」
そんな言葉が聞こえてもぞもぞと動いたかと思うと背に当たる双丘がより押し付けられるようになり、耳元にはヨシテル様の吐息が聞こえる。
なんだこれは。新手の拷問か何かだろうか。
「結城……」
耳元で名前を囁かないでもらえますか。いや、平常心だ。平常心であればきっとこれくらい耐えられる。
「………これもダメですか……だったら、えっと……」
「普通に寝てくれませんか?あと、睡蓮の言っていることを真に受けるのはやめてください。どうせ何処かで鈴蘭が様子を見ていて、良くわからない新聞とかの一面にしようとするので」
これ以上何かされるとあまりよろしくないのでやめてもらうことにした。それに言ったようにどうせ鈴蘭が見ているに決まっている。あいつの隠行術は自身の興味というか趣味のためならばずば抜けて上手くなるので見つけることは難しい。
ただ、ヨシテル様と恋仲になった際にもいつの間にかそれを全国の戦国乙女や里に新聞をばら撒いていたことを考えると今回も見られているだろう。と安易に想像が出来る。
事実として俺がそう口にした瞬間に、一瞬ではあるが鈴蘭の気配を察知した。とりあえず鈴蘭と睡蓮に関しては後で罰を与えなければならない。
「あ、やっぱり起きてたんですね。ちゃんと返事をしてくれないと困りますよ」
「変なことをし始めて、俺の方が困ってるんですけど。不貞寝するんじゃなかったんですか?」
「同じ布団の中に入ってきた、結城が悪いんです。もうちょっと、こう……甘い雰囲気になるかなぁ、とか思ったら背を向けるなんて、普通そういうことしませんよ?」
「しても良いですけど、時間が時間ですから。ちゃんと朝食を食べて、一息ついてからであれば相手をしてあげます。だから起きて準備しません?」
「完全に子供扱いされていますけど……相手をする。と言ったその言葉、信じますからね」
機嫌が幾らか直っているヨシテル様はそう言って布団亜から出たのを見てから俺も同じく布団から出て立ち上がる。夜着が少し乱れているのでそれを直して、微かにではあるが寝癖のせいで跳ねた髪を手串で整え、一歩離れて屋敷内を歩いても問題ない姿になっていることを確認する。
うん、夜着も寝癖も問題ない。後はやっていて恥ずかしかったのか、ヨシテル様の顔が未だに紅いのが少し気になるが、今の時間なら人と擦れ違うこともそうないだろう。だから辺に勘繰られることもないとは思う。
「はい、綺麗になりましたよ」
「……やっぱり子供扱いしてます……」
そんなことを呟くヨシテル様ではなる綺麗という言葉に反応したのか、少し嬉しそうにも見える。まぁ、事実ヨシテル様は綺麗で可愛らしい方なのでその言葉に反応するのは自意識過ということもないのだが……そういえば、恋仲になる前はこんなことはヨシテル様に対しては言った記憶はほとんどなかった。
他の方に対しては見目麗しいだとか可愛らしいだとかは言っていたのだが……まぁ、これからちゃんと伝えていくので問題ないだろう。実はあれ、ヨシテル様がその話を聞いて少しばかり不機嫌になっていた。ということを竜胆から聞いている。
まぁ、そういうところも可愛いものだと思う辺り、変わったというか、惚れた弱みというか……いや、良いことではあるので気にしない方が良いのか。
「では自室に戻りますよ」
「ええ、わかりました。警護しなければなりませんのでお供しますね」
「はい。あ、手くらい繋いでも良いですよね?」
「今更な気もしますが……で、お手をどうぞ」
「確かに今更だと思うかもしれませんが、こういうのは恋仲だからこそ、ですよ」
言いながら俺の差し出した手を取ったヨシテル様と一緒に部屋を出る。
忍の俺が主と恋仲に、というのは秘密にした方が良いとも思っていたがどこぞの鈴蘭のせいで周知となってしまった。そのために秘密にする意味はなく、足利軍全体が何故かお祝いムードだったりしたので隠す必要はなくなっている。
なのでこの状態を見られても問題はないのだが……まぁ、人並みに恥ずかしいと思う感情を持ち合わせていたようで、非常に恥ずかしかったりする。いや、恥ずかしいというよりも照れくさい、の方が正しいのか。
「さて、食事の後はどうしましょうか。相手をすると言っていた以上はぞんざいな扱いは許しませんからね?」
「わかってますよ。適当にあしらいもしません。ただ……」
「ただ?」
「いえ、どうしたら良いのか、あまりわからないので師匠と奥方様を参考にするしかないな、と思いまして」
「私は結城の師匠とその奥方がどのようにしているのか知りませんが……参考までに聞いても?」
「俺は当時あまり気にしていませんでしたが、鈴蘭曰く砂糖吐きそう。とのことでした。
師匠が奥方様を後ろから抱き締めて、睦言を交わすようで見ている方が恥ずかしかった、とか。まぁ、俺は睦言を交わすように、とはいきませんが……たまにはそうして抱き締めるというのも悪くは無いと思いますので」
そんなことを言った後に鈴蘭は、よくそんな空間に一緒にいて平気でしたね。と俺に対して言っていたが、俺にとってはアレが普通のことだったので特に気にしていなかっただけだ。
ある意味で常識が欠けていてまともに判断出来ていなかっただけで、今になって思えばあれは恥ずかしい。一緒の部屋にいるのもきついだろう。今の俺ならそっと席を外す。というか誰でも席を外すに違いない。
「それは……そこまでやると確かに恥ずかしいというか、照れくさいというか……あの、後ろから、というのは良いのですが後は普通に話をするので良いと思いますよ。
睦言のように、というは、その……」
「いえ、わかりますよ。非常に恥ずかしいというのは俺もですから大丈夫です」
「良かった……でも、あれです。そうして仲睦まじくありたいものですね……」
「ええ……本当に」
師匠と奥方様のように人前でも平然とああしたことをするようにはならなくても、あの二人のようにヨシテル様と仲睦まじく、二人で何時までも一緒に居られれば良い。
そう思って俺はヨシテル様に返事をし、ヨシテル様と繋いでいる手を指を絡めるようにして繋ぎ直してヨシテル様の自室へと向かうのだった。
オリ主布団で就寝 → 気づいたらいつの間にかヨシテル様の侵入を許していた → たぶん寝顔はヨシテル様に観賞されてそう。
一人称視点でやるとどうしてもそのキャラの知っていること、思っていることしか書けないから実は描写不足になったり、思い込みのせいで本来の姿と違って映ったりするという欠点があるんだよなぁ。
と最近思うようになりました。ええ、最近です。
今更かよ。